魔法使い「誰がための剣」 (235)


・勇者魔王系SSです
・遅筆のため不定期投下となります
・地の文はありません

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「今日の依頼終わったよー」

「魔法使いさん、いつもお疲れ様です。はい、報酬の1500Gです」

「受付嬢さんもご苦労様。ギルドの仕事も大変だろう」

受付「いっ、いえいえ、とんでもありません! 僧侶様もいつもありがとうございます!///」

魔法使い「なにしてんの? 早く行こうよ」

僧侶「ああ、では、魔法使いが呼んでいるのでね。また今度」

受付「は、はい!」



受付「いつ見ても素敵なおじさまだなぁ……。魔法使いさんがうらやましいぃ……」


魔法使い「今日も楽勝な仕事だったねー」

僧侶「あまり調子に乗っていると怪我をするぞ。控えめにな」

魔法使い「わかってるって。僧侶はボクの体が心配なんだもんね」

僧侶「お前が傷を作るたびにはらはらさせられるんだ」

魔法使い「でも僧侶が治してくれるじゃん、ヘーキだよ」

僧侶「いくらお前が強いとはいえ、女性であることを忘れるな。顔に消えない傷でもできたらどうするつもりだね」

魔法使い「そしたら僧侶にもらってもらうからいいもんね」


僧侶「私は神に仕える身だ」

魔法使い「お堅いんだからなーもぅ」

僧侶「そもそも、私のような老人とお前じゃ釣りあわないだろう」

魔法使い「はいはい」

僧侶「分かってくれたならよしとしよう」

魔法使い「まったくもう人の気持ちも知らないで」

僧侶「早く貰い手を見つけるんだな」


魔法使い「わかりましたよってば」

僧侶(全く……)

魔法使い「そういえばさ、今日もらった1500Gでそろそろ貯金たまってきてるんじゃない?」

僧侶「ふむ、確かに。生活費を別にしても、充分な資金は貯まったと言っていいかもしれん」

魔法使い「じゃあさじゃあさ、早速見にいこーよ! 新しい装備!」

僧侶「ああ」


***

僧侶「これで大体の装備は新調し終わったな」

魔法使い「ピッカピカの装備で気持ちいー♪」

僧侶「以前変えてから大分経っていたからな。私も悪い気はしない」

魔法使い「外、けっこう暗くなっちゃったねー。また宿の女将さんに迷惑かけちゃう」

僧侶「そうだな、早く戻ったほうがいいだろう」

魔法使い「あーあ。結局いい武器見つかんなかったなー。欲しかったのも売れちゃってたし」


僧侶「あと少しで間に合ったらしいのだが。惜しかったな」

魔法使い「もぅ本当ーっ。どっかにいい武器屋さんないか、なー……、……」ピタッ

僧侶「どうした?」

魔法使い「あ、あああ、」

僧侶「……?」

魔法使い「あったーーーーーっ!!!」ダダダッ

バタン! ガランガラーン!


店主「うおっ!? なんだなんだ? お、おい、嬢ちゃん、今日はもう閉店……」

魔法使い「おじさん!!」

店主「な、なんだい?」

魔法使い「ショーウィンドーの端っこでホコリかぶってるやつ、いくらぐらいする!? あれ!!」

店主「4、いや、30000Gくらいだったと思うが……」

魔法使い「ええええっ!!」

店主「いきなり飛び込んできてどうしたってんだい、嬢ちゃんは……。あれでも結構妥当なお値段だと思うがね」


魔法使い「いやいやいやいや、今はそんなことどうでもいいから! ね、おじさん、他の人には売らないであれ取っといてくれない?」

店主「あ、ああ、べつに構わんが」

魔法使い「ほんと!? ありがとうおじさん!!」

店主「だ、だけども、嬢ちゃんが使うにはあの大剣はサイズも重量もなぁ」

魔法使い「え、じゃあ実際に持ってみてもいい?」

店主「しかしなあ」

僧侶「いったい何の話だ? 魔法使い」


店主「おお、旦那、この嬢ちゃんのお連れさんですかい。いやね、この子がウチに置いてある大剣を手にとってみたいって言うもんでね」

僧侶「ほう」

店主「あっしは無理だっつって止めたんですけどね、どうしてもって聞かないんですよ、もう」

僧侶「やらせてみてくれませんか」

店主「だからこう、旦那からも言ってくれませんかね……え?」

僧侶「この子ならおそらく、問題ないでしょうから」

店主「……分かりやしたよ。その代わり、旦那、」


僧侶「もちろん、壊したり歪ませてしまったりしたら弁償はさせて頂きますよ」

店主「話の分かるお方で助かりますよ。それでは出してまいりますので、少々お待ち下さいな」

魔法使い「やったぁ! ありがとう」

*

店主「まさか、本当に持ち上げちまうとはねえ……。しかも、あっしが両手でもきついのに、片手でこんな軽々と。なんかの魔法ですかい?」

魔法使い「うーん、慣れかな?」

店主「慣れねぇ、にわかには信じがたい光景ですわ。旦那もあれぐらい怪力なんですかい?」


僧侶「まさか。私はただの僧侶ですよ」

店主「まあ、高価いのはどこぞの貴族の紋章が入ってるからってだけで、あんなボロくて重たいモンでしたらいくらでも取って置きますよ」

僧侶「済まない」

店主「いいんですよ。あっしも珍しいもんが見れましたから」

魔法使い「あはは」

魔法使い(それにしても、この剣、すごい。30000Gじゃ安すぎる)

魔法使い(見た目はけっこうくすんでるけど、磨けば全然光りそうだし、見たこともない合金だし)


魔法使い(いや、それよりもなんだろ? この、オーラ、みたいなの)

魔法使い(魔翌力とか、なんかそういうのとも違うし、なんて言うのかな……カリスマ性?)

魔法使い(きっとこれを打った人も、使い手の人も超一流だったんだろうなぁ)

店主「しかし嬢ちゃんも変わり者だねえ、こんな無骨な得物が気に入るだなんて」

魔法使い「そうですか?」

店主「年頃の女の子っていうのはもっと、キラキラと華々しい物が好きそうなモンだからなあ」

魔法使い「あはは、冒険者なんてやってたらみんなこんな感じですよ」


店主「はっはっは、違いない。それでは、そちらのお品物はきちんとお取り置きさせていただきますんで」

僧侶「こんな時間まで申し訳ありません。ありがとうございます」

魔法使い「ありがとうございます!」

店主「いえいえこちらこそ。ではでは、またのご贔屓を」

***

魔法使い「店主さんいい人だったねー」

僧侶「そうだな。だが、次から勝手な行動は慎んでくれ。さっきの店主さんもそうだが、いろいろな人に迷惑をかけてしまうからな」


魔法使い「……ごめん」

僧侶「さあ、早く宿へ戻らねばな。女将さんに心配をかけたくないんだろう?」

魔法使い「! うん、はやく帰っておいしいご飯食べよ!」

僧侶「ああ、そうすることとしよう」

***

受付「――それで、この依頼をお受けしたいと」

僧侶「ええ、大金が必要なときは大口の依頼をこなすのが一番ですから」


受付「非常に危険な仕事になりますよ」

受付「ドラゴンといえば魔族の頂点、今までに何人もの冒険者がこの依頼を受けて帰ってこなかったんですから」

僧侶「承知の上です」

受付「確かにここは辺境のギルドで、大口の依頼は今これひとつしかありません」

受付「ですが、わざわざ危険を冒してまでこの依頼をこなす必要があるのでしょうか?」

受付「今すぐ必要だというわけではないのですから、小口の依頼をこなしていくことを奨めますが……」

僧侶「それも、承知の上です」


受付「では、なぜ」

僧侶「子供のようにはしゃぐ仲間を見て、すぐにでも手が届きそうなのに我慢させるなんて私にはできませんよ」

受付「……ですが、危険は危険です」

僧侶「それに、私もあの子もここのところ身体がナマっていましてね」

受付「えっ?」

僧侶「久々に力試しでもしてみたい気分なんですよ」

受付「……」


僧侶「どうです?」

受付「分かりました。――――はい、以上で手続きは完了です」

僧侶「ありがとう」

受付「僧侶様」

僧侶「なんだね?」

受付「仕事に私情を持ち込んではいけないと分かっていますが、これだけは言わせてください」

受付「死なないで、きっとまた依頼を受けに来てくださいっ!」


僧侶「ははは。そんなに危険な仕事なら初めから受けていませんよ」

受付「ええっ? じゃ、じゃあ、倒す……自信があると、そう仰るんですか」

僧侶「ええ。私ではなく、あの子が、ですがね」

***

魔法使い「ふうん、けっこう歩くんだね。もうずいぶん歩いたけど全然見えてこないよ」

僧侶「今はそれほどでもないらしいが、手がつけられないほどに暴れた時期があったらしくてね」

僧侶「近くの町は壊滅させられ、住民もみな避難したらしい」


魔法使い「まあドラゴンならそのくらいは簡単だよね」

僧侶「町は近くの鉱脈から鉄鉱石やらを掘り出してそれなりに大きく栄えていたらしいが、こうあっては形無しだな」

魔法使い「なんかめぼしいアイテムとか残ってないかなぁ。鍛治屋とか鍛治屋とか」

僧侶「あらかた持ち去られていると思うがね」

魔法使い「ちぇー」

僧侶「依頼の報酬で新しく大剣を買おうというのに。お前は欲張りだな」

魔法使い「いいじゃんいいじゃん。武器なんてあるにこしたことないんだし」


僧侶「武器など、そう何本も持つものじゃないだろう」

魔法使い「冒険者ギルドのパーティみたいに拠点作ればいくらでも保管できるよ?」

僧侶「……」

魔法使い「ごめんそんなことする気は全くない」

僧侶「でないと困る」

魔法使い「ところで、今回の依頼って赤龍だよね? 級(クラス)的にはわりと上っぽいけど」

僧侶「間違いない。先に鉱脈があるといったが、どうやら休火山が近くにあるらしくてね」


魔法使い「あー、だから赤龍か。熱いトコ好きだもんね」

僧侶「うむ。目撃情報も町が壊滅させられた時にかなり集まっている」

魔法使い「大きさはどれくらいなの?」

僧侶「普通のドラゴンより少し大きいくらいだそうだ。30フィートくらいとの情報もある」

魔法使い「30かぁ。倒したら結構高く売れるんじゃない? 素材」

僧侶「プラス、報酬だな」

魔法使い「がぜんやる気でてきたぞー」ブンブン


僧侶「例の大剣を買うのには充分すぎるな。しばらくランクの高い宿に泊まれそうだ」

魔法使い「ドラゴンの討伐依頼なんてあんまりないもんね」

僧侶「魔界にはわんさといるらしいがね」

魔法使い「ずいぶん前に勇者サマが乗り込んで、ほうほうのていで帰ってきたって話よね? あれ嘘くさいけどなー」

僧侶「その勇者はもう引退して若い勇者が旅立ったそうだから、私たちの時代に生きた話を聞けるかもしれんよ」

魔法使い「でも実際ボクたちぐらいのレベルの冒険者も結構そこらにいるでしょ? 勇者サマたち以外にも魔界で通用するパーティもさ」

僧侶「ああ、一旗あげようと魔界を冒険している者もまれにいるそうだ」


魔法使い「やっぱり」

僧侶「とはいえ、魔王に比肩する力を持ちえるのは勇者だけだ。魔王城にまでは乗り込むパーティはそういないんじゃないかね」

魔法使い「そこが納得いかないんだよねー。光の加護受けた人間もっと増やせば魔王なんてあっという間じゃない?」

僧侶「加護については神職のあいだでも意見が分かれているんだよ」

魔法使い「え、そうなの?」

僧侶「曰く、加護が分散するとそのぶん一つ一つの加護が弱くなるとか、そもそも加護は一人にしか授けられないとかね」

魔法使い「へー……だから勇者サマだけなのかな」


僧侶「実態はよく分からないが、そういうものなのだろう。理の一つなんだろうな」

魔法使い「じゃあ、こんど神さまに訊いてみたら?」

僧侶「教会へそんな進言をしたら、神への冒涜をしたと私の首が刎ねられてしまうよ」

魔法使い「ややこしいんだね」

僧侶「まったくな」

魔法使い「あ、僧侶。なんか建物が見える」

僧侶「ふむ、あれが壊滅させられたという町だろう。火山はもうすぐだ」


***

魔法使い「なーんか、めぼしい物なんにもないね」

僧侶「瓦礫の中に地下室を見つけられただけでも充分な収穫じゃないか」

魔法使い「もっとこう、鍛治屋の奥に秘密の扉があったりとか……」

僧侶「ないな」

魔法使い「封印された武器が……」

僧侶「ないだろうな」


魔法使い「夢がないなぁ」

僧侶「このベッドがあれば充分だ」

魔法使い「そういう意味じゃなーい!」

僧侶「今日はもう遅い。明日に備えて早く寝よう」

魔法使い「今日の御飯は?」

僧侶「これだ」

魔法使い「えー。また保存食?」


僧侶「仕方ない。途中で逃げた鹿の魔物が悪い」

魔法使い「それって仕留められなかったボクのせいってことだよね」

僧侶「そうとも言う」

魔法使い「鹿の逃げ足が速かったんだよ」

僧侶「それは補助魔法を掛けなかった私が悪いということか」

魔法使い「そうとも言う」

僧侶「……」


魔法使い「……」

僧侶「どちらにせよ今日の食事はこれだ」

魔法使い「これしょっぱすぎるんだよなぁ」

僧侶「仕方ない。魚とハーブの塩漬けだ」

魔法使い「野菜か果物が食べたい」

僧侶「アンズの蜂蜜漬けもある」

魔法使い「甘すぎて逆にしょっぱいんだよそれ」


僧侶「どうしろと言うんだ」

魔法使い「鹿肉が食べたかった」

僧侶「……」

魔法使い「……」

僧侶「食べなさい。魚を」

魔法使い「はい」

――

僧侶「朝だ」ユサユサ

魔法使い「ん……ぅぅうーん」

僧侶「起きなさい」

魔法使い「ふわぁぁ……まだひのれまえりゃん。ねていい?」

僧侶「鹿が食べたいんだろう?」

魔法使い「おっけー狩ってくる」バサッ

僧侶「よろしい」


魔法使い「――結論から言うと化けた鹿でした」

僧侶「解毒した」

魔法使い「早い!」

僧侶「この程度なら祈ればどうにでもなる」

魔法使い「聖職者なのにそんなのでいいの?」

僧侶「もちろん私の信仰心はそこらの生臭僧侶とは比べ物にならない」

魔法使い「偉い神官さんとかは僧侶よりもっとずっと尊敬してる風に見えるけど」


僧侶「神殿に引きこもって寄付金で豊かに暮らしてるデブどもよりも倹約しているぶん、私のほうが信仰心は上だ」

魔法使い「そんなものなのかな」

僧侶「そんなものだ」

魔法使い「あ、捌き終わったから火つけるよ。ちょっと離れて」

僧侶「うむ」

ボッ!

パチパチ…


魔法使い「……。ふぅ」

僧侶「……」

魔法使い「緊張するね」

僧侶「ああ」

魔法使い「ドラゴン討伐なんてひさびさだもん」

僧侶「そうだな」

魔法使い「うまくやれるかな」


僧侶「できるさ」

魔法使い「勇者サマとちがって蘇生できないもんね、ボクら一般人は」

僧侶「回復はできる」

魔法使い「……よろしくね」

僧侶「任せておきなさい」


*

魔法使い「だいぶ深くまで来たね」

僧侶「うむ。そろそろ光の魔法が必要だな」

魔法使い「ボクが灯りつけるとガスに引火するかもしれないからね。よろしくねー」

僧侶「まったく、火山洞窟の探索というのは骨が折れるものだな」

魔法使い「ホント、分岐は多いし地面は硬い溶岩だしで冒険者のやる気をガリガリ削ってくよね」

僧侶「む。だからこそ盗人や魔物がアイテムを隠しておくのにはちょうどいいんだろう、また一つ見つけたぞ」


魔法使い「なにこれ? 魔石のネックレス?」

僧侶「のようだが」

魔法使い「うーん」

僧侶「どうだい?」

魔法使い「込められてる魔法はちゃっちいね。スペアミントの香りがする魔法です」

僧侶「言われなくてもそれはわかるのだが」

魔法使い「魔力蓄積量もちゃっちいよ。街の装飾屋さんで売ってるレベル」


僧侶「不要だな。戻しておく」

魔法使い「ドラゴンの素材と比べちゃうとねー。安いよね」

僧侶「! 魔法使い、後ろ!」

魔法使い「わかってる……よっ!」

ザシュ!

「ピギィィィ……」バタリ

魔法使い「また火山イノシシかー。あんまり美味しくないんだよね」


僧侶「素材としては悪くはないんだがな。どうも臭みが」

魔法使い「なに食って生きてんだって感じだしねー。……」

僧侶「……」

ズズズズ…

魔法使い「聞こえた?」

僧侶「ああ。ただの地鳴りか、ドラゴンの機嫌が悪いだけなのか、それとも」

魔法使い「先客がいるのか、だね」


僧侶「急いだほうがいいだろう」

魔法使い「うん」

***

「――うおおああああ!!」バッ

ドゴォォン!

「大丈夫か、盗賊!」

盗賊「へ、平気だ!」


赤龍「グォァァァ…」

「こいつっ!」

ガキィン!

「くっそ、刃が通らないっ! 溶岩の鎧ってとこか!」

「ならこれでどうだ! 雷撃呪文ッ!!」

バシャァァァァン!!

「どうだっ!?」


赤龍「グォォォオォォォォオン!」

ドゴォ!

「ぐ、……っは」

赤龍「」スゥゥゥゥッ

盗賊「!! 勇者、避け――」

グワァァァァアアアア!!

勇者(やば、ブレス)


勇者(広、)

勇者(避け)

勇者(られ)

「防護呪文!」

ブアッ!

赤龍「オオァァアア…?」

勇者「なっ……!? なんだ!?」


魔法使い「大丈夫ですか!」

勇者「あっ、ああ!」

僧侶「回復呪文」パァァ

勇者「あ、ありがとう」

魔法使い「よし、おっけ!」

勇者「あなたたちは」

僧侶「詳しい話は後です」


盗賊「勇者! 平気か!?」

魔法使い「そっちの人、危ないから退いてて! やああっ!!」

赤龍「グォォォオッ」

ガキィン!

魔法使い「うわっ」

僧侶「魔法使い!」

魔法使い「と。硬くて斬れない!?」


盗賊「そいつの鱗は冷えた溶岩で強化されてます! 隙間を狙ってください!」

魔法使い「そっか、じゃあ……」キィィン

赤龍「グァァァァアァァァア!!」ブンッ!

魔法使い「足元固めてやる! ――凍土呪文!!」

ガキィィン!

赤龍「!? グ……ガッ」

魔法使い「こうすれば狙いやすいでしょ!」


盗賊(戦士なのに魔法!? しかもこんな高レベルの!)

勇者「よしっ、身動きが取れなくなった! 加勢します!」

魔法使い「まだ来ないで!」

勇者「!?」ピタッ

魔法使い「――喰らえ! 吹雪呪文っ!!」

ゴオオオォォォ!

赤龍「グ、アァ」


魔法使い「これでもう動けないでしょっ!」

盗賊「俺も加勢する!」ヒュッ

勇者「う、おおおおっ!」ダダダッ

ザシュッ! ザシュッ!

魔法使い「――っおりゃあああ!!」ドスッ

赤龍「…ァ、」

ポタ、ポタ


魔法使い「にひ、心臓取ったり。せえええいっ!!」

ズバァッ!!

赤龍「……」グラッ

ドォォォン…

盗賊「すっ、げえ……」

勇者「顎までまっぷたつ……」

魔法使い「へっへっへー。どんなもんよ」ガシャッ

途中でsaga指摘されちゃってすごく恥ずかしいです。
今日はここまでです。

なにこのこすごい

この大剣ってアレか?前世的な?

投下します


***

魔法使い「あーっ、今になって手が震えてきた」ブルブル

盗賊「いやでも、すごかったよ。俺たちの攻撃はほとんど通ってなかったのに、たった三発で倒しちゃうなんて」

魔法使い「そんなことないよ。弱ってなかったらもっと時間かかってたと思う」

盗賊「そうか?」

魔法使い「むしろおいしいところだけ持ってっちゃって、なんかごめんなさい」

盗賊「いやいいんだよ。二人が来てくれなかったらどのみち全滅してただろうから」


僧侶「しかし、よく二人だけで討伐しようと思ったね」

盗賊「ああ、まあ、コイツはさっきも話したように勇者だから死んでも生き返るし、俺は逃げ足にだけは自信あるからな」

勇者「それで挑んだ結果がこのザマだよ、はは……」

盗賊「むしろあんたたちもよく後衛職だけで倒しに来たもんだ」

盗賊「……魔法使いさんは後衛かどうか分からないけど」

僧侶「はは、全くだ」

盗賊「それにしても驚いたよ。まさか『勇者』以外にも剣術と魔法を両立できる人がいるなんて」


勇者「勇者形無しだよもう……」

魔法使い「うん、えっと、僧侶は神職だし二人パーティだから仕方なくって感じ? だけど」

勇者「仕方なくであんなに強いのは反則級だよ」

魔法使い「勇者さんの方が資質的には上なんじゃないかなあ」

僧侶「そうだな。過去の文献からも歴代勇者はそれこそ反則級に強かった、と読み取れるからね」

盗賊「でもどうして前衛職を雇わなかったんだ? あんたたちくらい強ければ金もあるだろうし、募集すればすぐ見つかるよな?」

勇者「そうだね。僕もそれ、気になるな」


魔法使い「…………、」

僧侶「…………」

盗賊「……いや悪い、そんなつもりじゃなかった」

僧侶「昔は、一人いたんだよ」

僧侶「もうとうに帰らぬ人となってしまったがね」

魔法使い「……」

僧侶「私たちは同郷の仲間と、三人でパーティを組んでいてね」


僧侶「戦士が剣術、魔法使いが魔法、私が回復と支援を担当していた」

僧侶「だが、ある日」

僧侶「私たちはそいつに出くわしたんだ。山を越えれば魔界という危ない地域だった」


――ひゃはははははは! こんーなところでなにしてんだあ? 人間!!

――貴様、なにものだっ!

――ひーっひ、親切な俺様は答えてやろう。通りすがりの魔族だぜぇ! なーんつってなあ!! ひゃははは!!

――この……っ! 馬鹿にしているのか!

――いーから聞いてくれよ。ひーまで暇でしょうがねえからよお、ちょっとそこらへんの村でも燃やそうと思ってたんだよなあ。

――なんだとっ?

――でもいいや。

――ちょおーどイイオモチャが見つかったからなあ! ひゃはははははははは!!


僧侶「やつの顔は……忘れもしない」

僧侶「文字通り真っ青な肌に、ひどい乱杭歯、暗闇そのもののような目……」

盗賊「……」

僧侶「突然、やつは手にぶらさげていたぼろきれのようなものを投げつけてきた」

僧侶「そして、私たちは『それ』と目を合わせてしまったんだ」

勇者「ま、さか」

僧侶「……人間だったよ。放り投げた魔族の目にも匹敵するほどに暗いその眼窩が、私たちを覗いてきたんだ」


僧侶「一瞬、怯んでしまった」

僧侶「はっと気が付いた次の瞬間には、私たちと同じように凍りついていた戦士の首が、宙を舞っていた」

魔法使い「……ボクはその瞬間、反射的に瞬間移動魔法を唱えていた」

魔法使い「知ってると思うけど、あの魔法は大魔導士クラス一人ぶんほどもの魔力を使う」

魔法使い「そしてそれと同じくらい、ごっそりと人間の"経験"を持っていくんだ」

魔法使い「その時はまだほとんど魔力を使っていなかったから、それほどでもなかったけど」

魔法使い「もとの強さに戻るまでだいぶかかったよ。そんな魔法をなんの考えもなく使ってしまうほど恐ろしかった」


僧侶「ともかく、奇跡的にやつから逃げられた私たちは、まともな意識を取り戻すまでに一週間はかかった」

僧侶「やつの放つ暗黒という感情と、飛んだ戦士の首が延々と頭の中を巡っているんだ」

僧侶「やっと別のことが考えられるようになったとき、私たちは言葉を交わすともなく誓っていた」

僧侶「神にじゃない。戦士にでもない」

僧侶「自分自身に、やつへの復讐を誓ったんだ」

盗賊「……壮絶だな」

勇者「……」


魔法使い「力が足りないことは嫌でも分かってた。だからボクたちは力と知識を蓄えることにしたんだ」

魔法使い「でも、いくら情報を集めてもあいつのだけは耳に入ってこなかった。かすりもしないんだ」

魔法使い「その過程で、気付いた」

魔法使い「あいつは魔界の奥深くに棲んでいるんじゃないかって」

勇者「魔界の……」

僧侶「やつは暇潰しと言っていた。それならと、魔界に近い地域の村や町をしらみ潰しに訪ねまわった」

僧侶「当たりだったよ」


僧侶「地図に載っているところもそうでないところも、幾つかは完全に消え去っていたよ」

僧侶「たまに、消し炭があるくらいだった」

僧侶「そしてある村で、たったひとつだけの証言を見つけたんだ」

魔法使い「彼は気が狂ってたよ」

魔法使い「うわごとのように繰り返すんだ」

魔法使い「笑い声が聞こえる、暗い、暗い、見るな、青い闇だ、青い闇だ、って」

盗勇「……!」


魔法使い「ボクたちは彼の気を落ち着けて話を聞こうとしたけど、ダメだった」

魔法使い「思い出してしまったのかもしれない」

魔法使い「次の日には……姿を消してたよ」

僧侶「私たちは確信に近い仮説を得ていた」

僧侶「やつは、魔界に棲んでいる」

僧侶「神託によれば、私たちの能力にはまだ伸びしろがある」

僧侶「しかし、こちらでこちらの魔物と闘ってももう、そう簡単には伸びてくれないようでね」


僧侶「そろそろ魔界に入ってもいい頃合だろうと踏んで、装備を整えたりと準備をしていたんだ」

盗賊「そうか……」

勇者「そういうことなら、僕たちにも手助けをさせてほしい」

魔法使い「えっ?」

勇者「僕たちの最終目的は魔王の討伐だ。魔界という目的地は一緒だし、戦力も、二人と比べるとずっと下だけど、足手まといにならないように鍛えるよ」

僧侶「申し出はありがたいが、辞退させてはくれないか」

勇者「だっ、だけど!」バッ


僧侶「勇者……。あなたは人々を守るために戦っているのだろう。だが私たちを衝き動かしているのは憎しみだ」

勇者「……っ!」グッ

僧侶「そう、憎悪という負の感情を糧にして生きる私たちの存在は、あなたの受けている光の加護とは相反してしまう。そこに悪影響があるのは明らかだ」

勇者「だからって見過ごせない!」

僧侶「冷静に考えてほしい。あなたの使命は魔王から人々を救うことだ」

勇者「それでも!」

僧侶「それに。これは、私たちの問題だ。勇者であるあなたを巻き込んでしまうわけにはいかないんだ」


勇者「そんな……!」

盗賊「……勇者。諦めろ」ポン

勇者「盗賊! 盗賊はそれでいいのか!?」

盗賊「よかないよ。落ち着け」

勇者「だったら……!」

盗賊「勇者。僧侶さんが言ってくれたように、お前にはお前の使命がある。そして、俺たちは二人の問題に首を突っ込むべきじゃないんだ」

勇者「く……っ」


盗賊「落ち着いたら座ってくれ。俺だって見過ごせない。だけど、しょうがないことなんだ」

勇者「ああ……。ごめん。僧侶さんと魔法使いさんも、すまなかった」トサッ

僧侶「いえ、私たちこそこんな話をしてしまって申しわけなかった。気を悪くしないでほしい」

魔法使い「そーだよ、重い話でごめん」

盗賊「こっちこそ悪かったよ」

僧侶「また魔界で会うこともあるかもしれない。その時はよろしく頼む」

勇者「そのときまでには赤龍くらい一発で沈められるようになるよう頑張るよ」


魔法使い「頑張ってね?」

盗賊「それができりゃ世話ないよ」ハァ

クックック、アハハハハ…

***

盗賊「行くのか?」

魔法使い「うん、装備も整えたしもうこの町に用はないから」

勇者「武器が新調できて嬉しいでしょ。すごい大剣だよね」


魔法使い「え、勇者わかるの?」

勇者「ううん。僕は武器の良し悪しはわからない」

勇者「でも魔法使いが持ってると、不思議とさまになって見えるんだ」

魔法使い「そう?」

盗賊「そうだな」

盗賊「なんていうか、魔法使いに合っている。そんな感じだな」

魔法使い「えへへ、ありがと。ボクも自信が出てきたよ」


勇者「二人の悲願が成就するよう祈ってるよ」

僧侶「ああ、ありがとう」

盗賊「また会えるといいな」

僧侶「お互い魔界で死体になってないといいがね」

魔法使い「そしたらボクが魔法で火葬してあげるよ」

勇者「勘弁してよ……」

魔法使い「あははは!」


盗賊「そうだ。俺、二人の安全祈願してお守り作ったんだよ。よかったら受け取ってくれ」

僧侶「奇遇だな。私たちも作ったんだ」

魔法使い「僧侶か賢者がいないと、道中厳しいだろうと思って。二人で一生懸命回復魔法込めたんだよ」

勇者「え、本当に?」

魔法使い「はいこれ、盗賊さんのはピアス」

盗賊「ありがとう。いいのか? これすごく珍しい魔石だろ」

魔法使い「いいのいいの、火山に落っこちてたんだから。こっちは勇者さんのね。指輪だよ」


勇者「あ、ありがとう!」

魔法使い「どっちも念じると発動するようになってるよ。親指で触って念じると効果倍増な造りになってるから忘れないで」

勇者「分かった」

僧侶「それと、できるだけ魔力蓄積量の多いものを選んだが、それでも使用回数にかぎりはあるから気をつけて欲しい」

盗賊「ありがとな。旅が楽になるよ」

勇者「うん、正直すごく助かる」

盗賊「俺が作ったのはなんの効果もないけど、いちおう願い事を叶えるまじないを掛けたよ。紐つきだから、どっかにくくるとかしてくれ」


魔法使い「ありがとう!」

僧侶「ありがとう。元気でな」

盗賊「そっちこそ」

勇者「次会うときは、魔界かな。それじゃ、またね」

魔法使い「ばいばーい!」

***

盗賊「行っちまったな」


勇者「うん」

盗賊「復讐……か」

勇者「今まで、なんとなく魔王を倒す旅だなって思ってたけど、新しい目標ができたよ」

盗賊「なんだ?」

勇者「よしんば魔王を倒せたとしても、世の中から魔物がいなくなるわけじゃない……。次の魔王も現れるかもしれない」

勇者「そして、あの二人みたいな思いをする人だって。きっといるんだ」

勇者「魔王を倒しても、僕は戦いつづけるよ。それが新しい目標かな」


盗賊「ははっ。それでこそ勇者だよな」

盗賊「俺も新しい目標ができたよ」

勇者「なに?」

盗賊「魔王を倒して、生きてあいつらに報告してやるよ。俺たち「は」成し遂げました、お前らはどうだ? ってな」

勇者「……あははっ。それいいね」

盗賊「さて、そうと決まりゃ戦力増強だ。新しい仲間でも探そうぜ、勇者」

勇者「もちろん!」


***

魔法使い「使命、かぁ……」

僧侶「どうした?」

魔法使い「なんでもない。他人のために生きられるってすごいなって思って。ボクたちにはきっと無理だろうから」

僧侶「いや。どうということはないさ」

魔法使い「? どうして?」

僧侶「さっさと戦士の仇を討って、彼らに合流して、一緒に魔王の首を獲ってしまえば」


僧侶「それだけで他人のために生きたことになる、そうは思わないか?」

魔法使い「……僧侶ってタマにバカなこと考えるよね」クスクス

魔法使い「でも、そういうとこが好きだよ、僧侶」

僧侶「老人をからかうんじゃないと言っているだろう」

魔法使い「老人って年でもないくせに」

僧侶「お前からすれば充分老人だよ」

魔法使い(…………バカ)


僧侶「ん? なにか言ったかな?」

魔法使い「確かに髪の色はジジイだよねって言ったんだよ」

僧侶「これは若白髪だ」

魔法使い「ジジイだよ」

僧侶「若白髪だ」

魔法使い「……」

僧侶「……」


魔法使い「……行こうか」

僧侶「……うむ」

***

魔法使い「――はー、やっと着いたー!」

僧侶「だいぶ遠回りしてしまったな」

魔法使い「今日からこの街がボクたちの拠点になるのかー。じっくり見回ってみないとね」

僧侶「まずは宿探しだな。ギルドの受付嬢さんが紹介状を書いてくれた以上、まさか反故にするわけにもいくまい」


魔法使い「安宿しか紹介できないからってすごく謝ってたよね」

僧侶「腐ってもギルドの紹介だ。そこらの宿屋よりはずっと暮らしやすいだろう」

魔法使い「一緒にもらった地図によると、けっこう真ん中のほうにあるみたいだね」ガサ

僧侶「城塞都市の体裁を保っているとはいえ、強力な魔物や飛行系の魔物が現れれば自然と防壁付近が危なくなる。少しでも安全な場所を確保できるというのは幸運だな」

魔法使い「それに、物も人も真ん中に集まるしね!」

僧侶「いや、物流や経済はもしかすると門付近のほうが盛んかもしれない」

魔法使い「どうして?」


僧侶「ここの水源は川ではなく泉や井戸のようだ。つまり移動手段が陸路に限られているんだよ。そうすれば、自然と街の入口にモノや人が集まるだろう?」

魔法使い「ふうん。じゃあ買い物の時は外郭を見に行ったほうがいいのか」

僧侶「逆に、何かを作るよう注文したい時は中心部がいいだろうな。ここから見てもあまり大きな城とはいえないが、領主が街の中心に住んでいる以上は、ということだ」

魔法使い「依頼を受けて作る職人さんが多いってことだね」

僧侶「うむ」

魔法使い「それにしてもさ」

僧侶「ああ」


魔法使い「街の中を歩いてる人たち、みんな結構手練だよね」

僧侶「自分の尻拭いすらできない程度の人間が来るような場所ではないからな、ここは」

魔法使い「しかも、ボクたちより強い冒険者もちらほらいるよね。ちょっとショック受けてるかも」

僧侶「魔界で戦っていれば至極当然なことではないか?」

魔法使い「それでもちょっとなー。自分より強い冒険者なんてほとんど見たことなかったし」

僧侶「確かにね。自分たちがいかに思い上がっていたか、思い知らされる気分だよ」

魔法使い「ま、これからだよね」


***

魔法使い「――綺麗な宿だねー。予想よりぜんぜん格上だった」

僧侶「なんにせよありがたいことだ。冒険者にとってはこれ以上ないくらいの設備が整っているとは」

魔法使い「じゃさっそく、散策でもしよっか」

僧侶「私は残って雑用しているよ」

魔法使い「えーっ! せっかくのデートチャンスなのにぃ!」

僧侶「毎日一緒にいて寝るときすら一緒なのにデートもヘチマもないのではないかね」


魔法使い「チッチッチ、甘いなぁ。デートっていう雰囲気が大事なんだよー?」

僧侶「ともかく、私としては今日中に済ませてしまいたい用事があるのだよ。分かってくれ」

魔法使い「くっくっく……分かったぞ、さては熟女との密会だな? 俺の目はごまかさせやせえへんで」

僧侶「文法がおかしいな」

魔法使い「はいはい。それじゃ、ボクは職人が多そうな通りでもぶらついてくるからね」

僧侶「私もできるだけ早く終わらせるよ」

魔法使い「そうしてくれると嬉しいな。またあとでねー」スタスタ


僧侶「さてと。私は私の仕事をするか」

***

魔法使い「ただいまー」

僧侶「おかえり。ひと通り済んでから、お茶にしようと思っていたところだ」

魔法使い「それならいい茶葉があるよーっ! ちょうど質のいいやつ見つけてきたんだ!」

僧侶「そうか、頂こう」


魔法使い「――よさそうなお店は全部回ってきたよ。さすが魔界にいちばん近い都市ってだけあるね」

僧侶「ふむ。上質な紅茶葉に蘇生の実、最高ランクの回復薬。それに転移魔法石か」

魔法使い「これだけこっちでは珍しいものをポンポン店頭で売ってるっていうんだから、魔界の素材が怖いよね」

僧侶「魔界の素材で造られているアイテムも売っているのか?」

魔法使い「うーん、そういうのはあんまり出回らないみたい。専業の鍛治屋さんとか加工屋さん、調合屋さんなんかがあって、みんな自分で手に入れて加工してもらったり、自分で使ったりしてるらしいよ」

僧侶「しかし、魔界は瘴気で満たされているだろう。回復系のアイテムなどは存在することすら難しいのではないか?」

魔法使い「うん、それはさすがにね。回復アイテムの素材になるのってほんとに一握りだけなんだって」


僧侶「興味が湧くな」

魔法使い「そーとー眼とカンが良くないと見つけられないと思うけどねー。それから、武具もすごかったよ」

魔法使い「そんじょそこらのお店じゃお目にかかれないようなシロモノばっかり売ってるの。あまりにすごすぎてビックリしちゃったけど、ほとんどはやっぱり怨念とか、負の力とかの呪いがかかってるみたいだねー」

僧侶「入手方法はお察しください、というわけだ」

魔法使い「誰にも知られずに朽ちてくよりは救われるよ」

僧侶「この辺りの瘴気や、私たちと魔物の彼我のレベルを考えると、そんなモノを一箇所に集めていられるのも賞賛に値するな」

魔法使い「すごいよねー。王都なんかは一本でも街中に持ち込んだら阿鼻叫喚だもん」


僧侶「いったいどうやって負の念を抑えているのだろうな」

魔法使い「あ、それなんだけど、ユニコーンの角とかペガサスの羽根とかをお守りにしてるみたい。……たぶん、ボクたちも一つ持っておいたほうがいいよね」

僧侶「そうだな。何の準備もなしに魔界へ入っていたら精神が汚染されていたかもしれない。お手柄だよ」

魔法使い「うん、えっと、それでねー……」ソワソワ

僧侶「どうした? なぜ目を逸らすんだ?」

魔法使い「実はもう、一つ買っちゃったんだよねー……」

僧侶「……」


魔法使い「……」

僧侶「……いくらしたんだ」

魔法使い「……13000」

僧侶「バカな……」

魔法使い「……バカです」

僧侶「魔法使いさんが今背負っているその由緒あるどこぞの貴族の紋章が刻まれている非常に貴重な大剣はいくらだったか覚えていらっしゃいますか」

魔法使い「はい、30000です」


僧侶「半分近いぞ」

魔法使い「……」

僧侶「……」

魔法使い「ごめんなさい」

僧侶「……」

魔法使い「……ごめんなさい」

僧侶「ふう。仕方あるまい、買ってしまったものは買ってしまったものだ。それで? どういった品なのかね?」


魔法使い「これです」

僧侶「これは君の魔法具かつ非常用武器である簡易魔導杖だね」

魔法使い「よく見て、ここ、ここです。ここに宿らせてもらいました」

ドライアド「コンニチハ」

僧侶「こんにちは」

魔法使い「……」

僧侶「……。役に立つのかね?」


魔法使い「……。力はあるみたいです」

僧侶「いいかね、魔法使いさん。君はだまされていはしないか。常識的に考えてみなさい、樹の妖精が買えるなんて話聞いたこともない」

魔法使い「はい」

僧侶「それにだ、万が一買える場所があったとしてもだ。12000というのは安すぎではないだろうか?」

僧侶「聖獣なんかの落とし物ならともかく、生きた精霊そのものだぞ。一つや二つ、三つ桁が違ってもおかしくない」

魔法使い「はい」

僧侶「となると、残りの可能性は、君がだまされているか、店主も偽物だと知らなかったかのどちらかだ。これらを踏まえると――」


魔法使い「あの、僧侶、ちょっと聞いて?」

僧侶「なんだね」

魔法使い「ドライアドさん、部屋の中をこれ以上ないくらい清浄にしてくれる?」

ドライアド「ワカッター」

サーッ…



キラキラキラ…


僧侶「これは」

魔法使い「ありがとね」

ドライアド「イツデモヨンデネ」

僧侶「一瞬にして、この浄化作用とは」

僧侶「魔法使い」

魔法使い「まさかこれで信じないなんてことはないよね、僧侶」

僧侶「……」


魔法使い「……」

僧侶「君は素晴らしい買い物をした」

魔法使い「だよね」

応援ありがとうございます!
今日はここまでです。

>>53
残念ながら前世は関係ございませんw

そう、クロビネガならね


前のSSと人物的な繋がりは全くありませんので、安心してお読みください!

投下します


***

僧侶「よし」

魔法使い「準備完了ー!」

僧侶「忘れ物はないな」

魔法使い「ないね」

僧侶「出発しよう」

魔法使い「女将さん、行ってきます」


女将「気をつけてね。行ってらっしゃいませ」

僧侶「魔法使い、今日は様子見だけだ」

魔法使い「うん」

僧侶「早まるな。命が第一だからな」

魔法使い「分かってる」

僧侶「情報を確認しようか」

僧侶「地図によると、この街は魔界と呼ばれる土地と、我々の居住区域の中間にあるようだ」


魔法使い「土地の質も少し魔界のが混じってるよね」

僧侶「そうだな。魔界との明確な境界線はなく、目の前に見える荒野を歩いていけば魔界にたどり着く」

魔法使い「たまに魔界の生き物がこっちに迷い込むんだっけ」

僧侶「その場合は環境に適応できずしばらくすると死んでしまうらしいが」

魔法使い「多分、瘴気がないと生きられないってことだよね」

僧侶「かもしれない」

僧侶「ともかく、魔界へ入るとすれば我々も同じ立場だ」


魔法使い「瘴気に冒されたらひとたまりもないもんね」

僧侶「そこで、冒険者は各種対策を講じるわけだが」

魔法使い「いくつかあるんだよね。代表的なのは魔法の障壁」

僧侶「いちばん一般的な方法だな」

魔法使い「でも、移動中ずっと障壁を張ってるから魔力の消費もすごいっていう」

僧侶「専門の術者を雇わないといけないのが難点だな」

魔法使い「人間関係とか、報酬とか、戦いのときの動きとか」


僧侶「少なからずパーティに影響は出るだろうな」

魔法使い「他にはこの前も言ったけど、浄化作用のあるアイテムかな」

僧侶「私たちの場合もこの手段に入るのだろうか」

魔法使い「かもね。買うどころか、手に入れるのも難しいらしいけど」

僧侶「……」

魔法使い「……」

ドライアド「ナアニ?」


魔法使い「やっぱり、いわくつきの妖精なのかな」

僧侶「本来だったら到底手の届かない代物のはずなのだが」

魔法使い「でも、この子に頼るしかないよね」

僧侶「仕方あるまい」

魔法使い「勇者みたいに加護があればいいのにな」

僧侶「サマ付けはしないのか?」

魔法使い「んー。偉そうな人だからなんとなく言ってたけど、実際に会ってみるとねー」


僧侶「様、と付けるような人物ではなかったな」

魔法使い「あははは」

僧侶「魔界についてはそんなところか」

魔法使い「あとはいくつか川とか森、山があるって話だね」

僧侶「つまり何も分かっていないと」

魔法使い「手練のパーティなら詳しそう」

僧侶「そうそう情報を教えてくれるとも思えないな」


魔法使い「だよね」

僧侶「自分達で歩いて情報や知識を手に入れるしかない、か」

魔法使い「アイツの情報も、手に入れられればいいけど」

僧侶「……本当にそう思っているのか?」

魔法使い「……」

魔法使い「……分かんない」

魔法使い「本当は、アイツと戦いたくなんてないのかも」


魔法使い「でも、ボクらがやらなかったら一体誰がやってくれるの?」

魔法使い「いつまでも後悔と罪悪感に駆られるのは誰なの?」

魔法使い「ボクは、戦士の仇を討ちたいよ」

僧侶「……そうだな。私もだ」

***

僧侶「ずいぶん来たが、いっこうに荒野以外のものが見えないな」

魔法使い「魔界って広いね」


僧侶「探索には時間が掛かりそうだな」

魔法使い「だからこそお宝狙いで一攫千金したいパーティが集まるのかもね」

僧侶「ああ」

魔法使い「――ねえ、僧侶」チラッ

僧侶「ああ」チラッ

冒険者風の男「すみません、冒険者の方ですよね?」

僧侶「とも言う」


男「よかった。あれ、あなたはもしかして僧侶の方ですか?」

僧侶「ああ」

男「ちょっと回復薬を切らしてしまって、もし良ければ回復呪文を掛けては頂け」スッ

魔法使い「そこまで」

男「え――」

ズバッ!!

男「な……なにを、するんです、か」ヨロッ


魔法使い「それはこっちのセリフだよ」ザンッ!

男「う、あ、ぎっ」

僧侶「魔物のくせに回復呪文を掛けてもらおうとするとは、いい度胸だな」

男「グ…」ドサッ

僧侶「死人の怨念を大量に撒き散らして近寄ってくるんだ、たとえ人間だとしても容赦はせん」

魔法使い「やっぱりそうだったか」

僧侶「神職をなめてもらっては困る」


魔法使い「なんとなく怪しいのは分かったよ?」

僧侶「こいつ、手負いだ。恐らく他の冒険者と戦ったんだろう」

魔法使い「仕留めきれなかったってコトか」

僧侶「こういった魔物がこれから増えるとなると。魔法使い」

魔法使い「前途多難、だね」

僧侶「見分けられるようになれと言っているのだが」

魔法使い「僧侶にまかせる」


僧侶「はぐれた時はどうするつもりだ」

魔法使い「はぐれないで」

僧侶「心もとないな」

魔法使い「大丈夫。僧侶ならいつでもそばにいてくれる」

僧侶「……。ハァ」

魔法使い「なんで溜め息つくの!」

僧侶「君は少々私に夢を見すぎているきらいがあるな」


魔法使い「……ちゃんと中身見てるもん」ボソッ

僧侶「ん?」

魔法使い「なんでもない。先に進も?」

僧侶「? ああ」

***

僧侶「今日はここで野営か」

魔法使い「ちょうど浅い洞窟があってよかったね」


僧侶「うむ」

魔法使い「それで、これはなに?」

僧侶「イノシシだ」

魔法使い「イノシシって、羽はえてたっけ」

僧侶「生えていないな」

魔法使い「じゃあ、これは?」

僧侶「イノシシに見えるが」


魔法使い「……」

僧侶「……」

魔法使い「……どうしよう?」

僧侶「……解毒はした」

魔法使い「焼く?」

僧侶「焼くか」

魔法使い「焼こう」


魔法使い「――なんか、火山イノシシに似た味がするね」モギュモギュ

僧侶「美味しくないということか」モギュモギュ

魔法使い「そういう見かたもできるかな」

僧侶「私としては、火山イノシシと同様の疑問が浮かぶが」

魔法使い「言ってみて。当ててみよっか?」

僧侶・魔法使い「なにを食べて生きているのだろう」

魔法使い「……」


僧侶「……」

魔法使い「調味料が必要だったね」

僧侶「まさしく」

魔法使い「次は蒸してみようか」

僧侶「調味料と一緒にか」

魔法使い「塩しかない」

僧侶「塩蒸し」


魔法使い「美味しいかも」

僧侶「アリだな」

魔法使い「これからそういう食生活になるよね。肉だけの」

僧侶「魔法で野菜を育てられないのか」

魔法使い「僧侶のほうができる可能性は高いんじゃない」

僧侶「なんでも神にすがろうというのは間違った信仰だ」

魔法使い「願いを叶えてくれるのが神様じゃないの?」


僧侶「他人の面倒まで見ているほど暇ではないらしい」

魔法使い「じゃあなんの面倒を見てるの?」

僧侶「人間の願い事だ」

魔法使い「……」

僧侶「……」

魔法使い「矛盾してない?」

僧侶「そうとも言う」


***

魔法使い「起きてる?」

僧侶「外は危険だ。悪いが隅のほうで済ませてくれ」

魔法使い「そうじゃなくて」

僧侶「ではなんだ」

魔法使い「"アイツ"について」

僧侶「……」


魔法使い「今まで避けてきた話題だけど。いつまでも目を逸らすのはもうやめよう」

僧侶「私もずっとヤツについて考えてきたよ」

僧侶「なんとなくだが。不可解な点が多いんだ」

僧侶「そう、なぜ戦士だけが殺され私たちは生きているのか」

僧侶「なぜあの場にヤツが居合わせたのか」

僧侶「なぜヤツの情報がなにも出てこないのか」

魔法使い「……、」


僧侶「ヤツの残虐性と攻撃速度を考えれば、戦士だけでなく今頃同じ場所に埋まっていても不思議ない」

魔法使い「ボクも慣れない転移魔法を発動するのに、いつもよりラグがあったし」

僧侶「そしてヤツと遭遇した場所はもともと山の麓で、森林地帯だ」

僧侶「街のある荒野側から魔界に入るならともかく、なぜ付近に村すらないあの地域で遭遇した?」

魔法使い「戦士が力だめしに行ってみようって言ったんだよね。確か」

僧侶「そう、まるで示し合わせたようにヤツが現れた」

僧侶「しかもぼろ布のようになった人間をわざわざぶら下げて」


魔法使い「……不自然だよね。冷静に考えると」

僧侶「隠れ里があったと考えればおかしくはないが」

魔法使い「近くで殺戮行為をしてて、たまたま出くわした……」

僧侶「うむ。生き残りの発狂した彼のように、逃げた人間を捕まえていた、という可能性もなくはない」

魔法使い「一人残らず殺してるなら情報が出てこないのも当たり前だもんね」

僧侶「だがそうすると、私たちが殺されていない理由が分からない」

魔法使い「うん」


僧侶「私は、街で魔界の情報を集めるうちに一つ気がついたことがあるんだ」

魔法使い「"瘴気から身を守るには、障壁を張るか、浄化アイテムを身につけるか"」

僧侶「ああ。そして残りの一つは、光の加護だ」

魔法使い「……うすうすそんな気はしてた」

僧侶「盗賊と一緒にいた勇者。彼は赤龍に苦戦していた」

魔法使い「もっと強くてもいいはずだもんね、本当なら」

僧侶「ということはだ。勇者は、まだ光の加護を受けて間もない」


魔法使い「いちどに加護を受けられるのは一人。それ以前に誰かが受けてたけど、外れたってことだよね」

魔法使い「そしてボクたちはあの時、魔界からすごく近くにいたのに、瘴気の影響を全然受けなかった」

僧侶「つまり」

魔法使い「戦士は、光の加護を受けてた――……」

僧侶「そう考えると辻褄が合う。なぜ力試しに魔界の近くを選んだのかも」

魔法使い「光の加護が本当に効果があるか試したかったんだよね、きっと」

僧侶「あとから私たちに言うつもりだったんだろうな」


魔法使い「そこを狙われたんだね……」

僧侶「ああ」

魔法使い「アイツが「あれ」を投げてきたのも」

僧侶「穢れた心を持つ人間が近くにいると、光の加護の効力を弱めてしまう。文献からも分かっていることだ」

魔法使い「分かってて、やったんだよ」

僧侶「普通なら蘇生できる」

魔法使い「だけど加護が弱まってたら、そうじゃないってことだよね」


僧侶「私たちがその事実を知らなかったということもある。結果として、戦士は死んだ」

僧侶「しかしなぜ、光の加護を受けた人間を殺す必要があったのか?」

魔法使い「なんでかって、決まってる」

僧侶「光の加護は魔王に仇なすものだからだ」

魔法使い「……」

魔法使い「やっぱり、僧侶も同じようなこと考えてたんだね」

僧侶「もう一つ」


魔法使い「?」

僧侶「恐らくだが、ヤツは加護を受けた人間を感知できる。しかし大まかにしか分からないのだろう」

魔法使い「どうして?」

僧侶「魔界付近の村や集落が幾つか全滅させられているからだ」

僧侶「加護の存在を感じ取り出向いたはいいものの、人数が多く判別が困難だった」

僧侶「手間を掛けずに目的を達成するためには、一度に全員を攻撃したほうが遥かに楽だ」

魔法使い「あ……」


僧侶「私たちが殺されずに済んだのもヤツが加護を感知できるゆえにだ」

僧侶「加護を弱めた時点で、目標は見分けられ」

僧侶「手間を省くために私たちは見逃された」

僧侶「そういうことだ」

魔法使い「それでさ」

僧侶「どうした」

魔法使い「ボク、考えたんだ。広い魔界で、どうやって居場所もわからないアイツを見つけるか」


僧侶「ふむ。恐らく私も同意見だ」

魔法使い「勇者」

魔法使い「彼が魔界に来たときが、アイツの命日だよ」

僧侶「光の加護については全て憶測に過ぎんが、試す価値は充分にあるな」

魔法使い「うん」

ちょっとくどめの文章ですみません。
今日はここまでです!

冒険の途中で戦士は光の加護を受けたけど仲間に話す前にやられたってこと?
魔法使いと僧侶の歳が離れてるから同郷なだけで寄せ集めのパーティだった?
同郷に勇者がいれば知ってるだろうから前者かな

>>149
そうですね、戦士は(後天的に)光の加護受けたっぽいことを察しましたが、確信を得るために瘴気のある地域へ向かい
言わずにやられてしまいました。
あとの部分はごめんなさい、質問の意図がさっぱり分かりません。そのうち説明されるかもです。

わかりづらい部分があれば、質問には答えます!

>>159
自演したいならせめて口調なり変えような

>>160
ごめん
もうROMるわ

とりあえず前作についてkwsk

>>163
オーク「人間の幼女拾った」
オーク「人間の幼女拾った」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380618204/)

少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」
少女「旅してます」 アルラウネ「ひゃっほう!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380722144/)

書き溜めしてますよ
今忙しいから投下できないけど
完結させるまでHTML化はしません


嘘を嘘と見抜けない人は(2chを使うのが)難しい

次回更新は2月15日以降になります
いまストックがあまりないので投下はできますが分量が超しょぼいのでガッカリのレス数です。5レスくらい?
本当は今すぐにでも書きたいのですが、しばらく立て込んでいるのでもうちょっとだけお待ちください!
焼き土下座。



おらっ つづき かけ! はやめたげてよぉ!

ロッテって33-4の試合のやつだっけ?

ちょっとだけ更新


***

魔法使い「――ありがと」

「おう、また防具が必要になったらうちの鍛冶屋へ来てくんな」

魔法使い「じゃあこれ、お代金ね」

「まいどありぃ!」

魔法使い「さようならー」

「またのお越し、お待ちしておりやぁす」


魔法使い「……ふぅ」

僧侶「どうだったかな?」

魔法使い「ぜーんぜんダメ。装飾ばっかりで重たいし、今相手してる森の魔物相手だとすぐ壊れちゃうかな」

僧侶「そうか」

魔法使い「はぁ。この辺の鍛冶屋、全滅かー」

僧侶「魔界に挑もう、という程度の冒険者の装備としては良いのだがね」

魔法使い「それじゃ街の外の荒野に棲んでる魔物といい勝負くらいじゃん」


僧侶「事実、私たちのレベルもその程度だっただろう?」

魔法使い「強いパーティはお抱えの鍛冶屋がいるし、街の鍛冶屋だと話にならない……」

魔法使い「中間はないの? もぅ」

僧侶「はっきりと分かれてしまっているんだろうな」

魔法使い「どういうこと?」

僧侶「下層から中堅層にたどり着くパーティが少ないんだ」

僧侶「興味半分で来たパーティはいられなくなるし、強いパーティは元から強い」


魔法使い「そっか、なるほど」

僧侶「魔界自体の危険さもある。私たちも何度か危ない目に遭ったろう?」

魔法使い「うん、強い魔物うじゃうじゃいるし、毒沼とか毒草も多いし」

僧侶「いわゆる中堅層は途中で折れてしまうか、あるいは」

魔法使い「……全滅?」

僧侶「の可能性もある。もしくは解散、やもしれん」

魔法使い「帰る選択肢もありだよね」


僧侶「そうだな。入り口とはいえ、普通の武具で魔界を歩けるなら一生仕事があるだろう」

魔法使い「うん。傭兵でも剣の師匠でもね」

僧侶「違いすぎるんだ、ここと私たちの世界は」

魔法使い「ボクたちも、そのくらいの力はあるってことだよね。なんだか怖いよ」

僧侶「帰りたいか?」

魔法使い「僧侶はどうなのさ」

僧侶「神に任せるよ」


魔法使い「また適当なこと言って」

僧侶「本心だ」

魔法使い「ボクの恋心も神さま任せなの?」

僧侶「私個人としてはいい相手を見つけてくれと思っているが」

魔法使い「目の前にいるんだけど」

僧侶「はは。老人をからかうなといつも言っているだろう」

魔法使い「はー。へぇ。ふぅん」


僧侶「なんだね、その笑顔は」

魔法使い「ま、老人には乙女心はわかんないかもねー」

僧侶「老人はもっと敬いなさい」

魔法使い「はいはいっと。……あ、このお店なんかいい感じ! 寄ってっていい?」

僧侶「私は先に帰っているよ」

魔法使い「えー?」

僧侶「子供じゃあるまいし、一人でも平気だろう?」


魔法使い「う、それはそうだけど」

僧侶「調べたいことがあってな」

魔法使い「それなら仕方ないかー。また後でね」

僧侶「うむ」

魔法使い「晩ごはんまでには戻るー」

僧侶「お先に失礼」

魔法使い「はーい」


***

魔法使い「ただいまー」

僧侶「おかえり」

魔法使い「やっぱりいい鍛冶屋さん見つからなかった」

僧侶「そうか」

魔法使い「やっぱり、一回魔界を出て……それなに?」

僧侶「装備してみてくれ」


魔法使い「え? ボクが?」

僧侶「ああ」

魔法使い「覗かないでよ」

僧侶「もちろん」



僧侶「どうかな」

魔法使い「すごいよ、これ」


魔法使い「ぴったりだし、全然重くないし」

魔法使い「強度も充分、装飾もボクの好みだもん」

魔法使い「……これ、どうしたの?」

僧侶「私が作った」

魔法使い「へ?」

僧侶「なにせ、材料になる出来そこない防具はたくさんあったからな。お前と回った鍛冶屋のいいとこ取りをした、というわけだ」

魔法使い「僧侶、錬金魔法使えたっけ……?」


僧侶「使えない」

魔法使い「じゃ、じゃあなんで」

僧侶「修復呪文というのを覚えてな。錬金魔法に近いんだが、それを利用すれば」

魔法使い「そうじゃなくて!! なんでボクの体型にピッタリなの!!?」

僧侶「私以外にお前のスリーサイズを知っている人間が他にいるとでも?」

魔法使い「………ぅ、うぅ……」カァァ

魔法使い「な……」


僧侶「な?」

魔法使い「なんで普段は触りもしてくれないくせに知ってるの! 変態!!」ガチャバタン!

僧侶「…………」

僧侶「ちょっとからかいが過ぎたかな。鍛冶屋の採寸を参考にしただけなのだが」


(ドアの裏)

魔法使い「……」

魔法使い「……」

魔法使い「……」

魔法使い「……」

カチャ

魔法使い「……僧侶」


僧侶「む?」

魔法使い「……」

魔法使い「……あのね」

魔法使い「ありがと」

僧侶「どういたしまして」

魔界の探索も少しずつ進んでいるようです。
今日はここまでです。


鯖ダウン長かったですね。
あんまり久しぶりなので、間違えてsage更新してしまいました。

生存報告です、もうちょっとお待ちください

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