勇者「僕らは童貞」 (42)
――砂漠の街 宿屋の一室――
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
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勇者「……それじゃあ、第二回の会議を始めようか」
戦士「うむ……」
魔法使い「ああ……」
勇者「前は……どこまで話したっけ」
戦士「アレだ。賢者の、その……スカートの丈について……」
魔法使い「……アレは、やばいな」
勇者「……うん、やばい」
戦士「……刺激が強い、な」
魔法使い「なんでさ、賢者の国のお姫様がさ、あんな短くて薄いスカート履いてんの……?」
勇者「僕が聞きたいよ、そんなこと……」
戦士「彼女は……国の伝統ある正装だとは言っていたが……」
魔法使い「国ぐるみでお姫様に膝上15センチの丈ってどういうことだよオイ……」
戦士「……待とう、話がズレそうだ。この会議の目的は忘れていないだろう?」
魔法使い「……そうだな」
勇者「……うん」
勇者(この会議の目的は……)
魔法使い(賢者のスカート丈も関係してっけど……)
戦士(戦闘中でも気を抜くとあの姿に目が行ってしまう……)
3人(……この童貞反応を解消することだ)
勇者「……実際、どうすればいいんだろうね」
戦士「俺たちは昔からそういうのに疎かったからな……」
勇者「うん……『世界に平和をもたらせ』って神託を受けてから、ずっと3人で修行に明け暮れてたもんね……」
魔法使い「……オレは一応、好きなやついたけどな」
勇者「え!? そうなの!?」
戦士「初耳だ」
魔法使い「そりゃあお前、オレらももう17歳だぜ? 好きな女の1人や2人、いて当たり前だろ?」
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「まぁ、うん、そうだよな。お前らは根っからの真面目だったもんな。そういう気配が微塵もなかったわ」
戦士「……すまん」
魔法使い「責めてるとかじゃねぇって。そもそも、好きな女がいたのにオレも同じような状態な訳だし?」
勇者「……ねぇ? 誰が好きだったのか聞いてもいい?」
魔法使い「えぇ~? ここで聞いちゃう~? ここで聞いちゃう系なの~?」
勇者「幼馴染なんだしそれくらいいいでしょ? あれかな、やっぱりキミの隣の家の?」
魔法使い「やっぱりってなんだよやっぱりって! ……まぁ、ご明察なんだけどさ」
勇者「わぁ、やっぱり! そうだよねぇ、あの子がいる時はすごく張り切ってたもんね~! キミも隅に置けないなぁ、このこの!」ツンツン
魔法使い「ちょ、やーめーろーよ~!」
勇者「あはは、照れてるんだ!」
魔法使い「ふっ、ふふ……まぁ、そりゃあな? んふふふ……」
戦士「……盛り上がってるところ申し訳ないが……」
勇者「あ、っと……そうだったね……」
魔法使い「すまんかった……」
戦士「いや、いいんだ」
勇者「それで……どうすればいいと思う……?」
戦士「いっそ、賢者に正面から言うか……」
魔法使い「……なんて?」
戦士「気が散るから服装を変えてくれないか、と」
勇者「うぅん、やっぱりそれがいいのかな」
魔法使い「……オレは反対だな」
勇者「え、どうして?」
魔法使い「考えてみろよ、賢者ちゃんの性格を」
勇者「……すごく純粋、だね」
戦士「まさに深窓のお姫様、だな」
魔法使い「だろ? そんな賢者ちゃんにさ、服装を変えてくれって言っても……」
賢者「はい? 気が散る、ですか?」
賢者「えぇっと……ごめんなさい、何かおかしなところがあったでしょうか?」
賢者「これは祖国から賜った大切な品なので……直せるところは直しますから、言って頂けませんか……?」
勇者「あ、無理だ」
戦士「……うむ」
魔法使い「だろ? スカートが短い、だなんて言えないだろ?」
勇者「うん……それに、顔を曇らせて申し訳なさそうに俯く姿が……」
戦士「罪悪感を煽る、な……。この案はやめよう」
勇者「うぅーん、それじゃあどうしよう……」
魔法使い「外套を買って羽織らせ――あー、今は無理かぁ」
戦士「無理だな」
勇者「砂漠なだけあってこの辺はすごく暑いもんね」
魔法使い「雪山とかならいいかもしんねーな。一応覚えとこう」
勇者「……個人的には、こんなことを雪山にたどり着くくらいまで長く悩みたくないなぁ」
魔法使い「……まぁ、な」
戦士「もう誘惑魔法で全滅しかけるのは嫌だな……」
魔法使い「本当にな……あん時は賢者ちゃんもまだいなかったし、マジで死にかけたわ……」
勇者「僕たちってああいう誘惑で混乱を誘う呪文に耐性ないもんね……魔法使いが正気に戻らなかったら、普通にあそこで死んでたよ……」
戦士「あの時は助かった」
勇者「やっぱり魔法関係だと頼りになるね。ありがとう」
魔法使い「ん、まぁ……持ちつ持たれつだろ、気にすんな」
魔法使い(隣の家のあの子をやけに色黒で軽薄な男に取られる、なんて誘惑じゃなきゃオレも正気に戻れなかったし)
魔法使い「……なんでオレにかかった誘惑、あんなだったんだろ……」
戦士「どうかしたのか?」
魔法使い「いや、なんでも」
勇者「戦闘といえば……やっぱり賢者さんがいると楽だよね」
戦士「ああ。勇者がいつも一緒に前線にいてくれると、俺も楽ができる」
魔法使い「前まで前衛の戦士が敵を食い止めてオレが魔法、勇者は回復したり前衛に回ったり魔法を撃ったりって結構大変だったもんな」
勇者「うん。今はもう回復とか補助は彼女に任せられるから、僕は剣を振るうだけで済むし、いざという時はみんなのサポートにも回れるし」
魔法使い「やっぱ賢者ちゃんってすげーわ。めっちゃいろんな魔法使えるし」
戦士「詠唱も恐ろしく早いな。俺には何を言ってるのかもうわからないくらいだ」
勇者「伊達に賢者の国のお姫様じゃないよね。体術も得意みたいだし」
魔法使い「……まぁ、その身軽さのせいで、たびたび敵に切り込んでいって……」
勇者「その度にやけにキレ良く動くから……」
戦士「……俺たちはこんな情けない会議を開く羽目になるんだが、な」
魔法使い「……マジでどうすっか」
戦士「うぅむ……」
勇者「うぅん……」
魔法使い「うーん……あっ」
戦士「どうした? 何か思いついたのか?」
魔法使い「あ、ああ……まぁー……そのぉー……」
勇者「なになに? 聞かせてよ」
魔法使い「いや、うーん……」
戦士「そんなに難しいことなのか?」
魔法使い「……ある意味、そうかなぁ?」
勇者「それでもみんなのためなら、なんにでも挑戦するよ」
戦士「うむ。勇者の言う通りだ」
魔法使い「じゃあ……言うけどさ?」
勇者「うん」
戦士「うむ」
魔法使い「……この砂漠の街って、どういう経緯でできたか知ってるか?」
勇者「え? えーっと……確か、三つの国のちょうど真ん中に砂漠があって、そこに街があると便利だから……だったっけ?」
戦士「あとは、量は少ないがこの近くでそれなりに良質な石炭が採れたはずだ。それを採取するための拠点でもある」
魔法使い「うん、大体そんな感じ」
勇者「それがどうしたの?」
魔法使い「三つの国のど真ん中にあるからさ、この街には独自の法ができてるんだ。ここでのことはそれぞれの国は容易に干渉ができない」
勇者「へぇ……」
魔法使い「んで、石炭。地中深くまで掘り進んで、それを運ぶのはかなりの肉体労働だろ?」
戦士「うむ。いいトレーニングになるだろうな」
魔法使い「その2つを繋げると、ここは独自の法で治められている肉体労働者の多い街……ということになる。で、そういう風に働く人が好むものってなにかわかるか?」
勇者「……お肉?」
戦士「あとは、酒か?」
魔法使い「……うん、お前たちならそういう発想になると思ったよ。いや間違っちゃいねーんだけどさ、それ以外にも、ほら、あるだろ?」
勇者「……?」
戦士「……トレーニング施設とかか?」
魔法使い「ちげーよ、ちげー……ほら、仕事で疲れ切ったらさ、こう……可愛い女の子に癒してもらいたいなーとか、そういうの……わかるだろ?」
勇者「ま、まぁ……」
戦士「……う、うむ」
魔法使い「だからさ、この街には昔から……そういう、女の子と……こう、なんてーか、色々と遊べる……って感じの施設が多くあるんだよ……!」
戦士「女の子と遊べる……」
勇者「そ、それって……!?」
魔法使い「だーかーらー! オレたちもそーいうちょっといかがわしいお店で女の子に慣れちまえば賢者ちゃんの格好も気になんねーんじゃねーかなぁーって思ったんだよぉ!」
勇者「でっ、ででででもでもあのさっ、そういうお店って僕たち入っていいの!?」
魔法使い「言っただろぉここは独自の法で統治されてるってぇ! 金さえ払って暴れなきゃ色々と見逃す文化ができてんだよぉ!」
戦士「た、たし、確かに、それは効果がありそうだが、しかし、そういうのは、金がたくさん必要になるんじゃない、か……?」
魔法使い「見た感じアレだったっ! 裏路地の方への案内看板にはおひとり様鋼鉄の剣3本分くらいで~って書いてあったっ!」
戦士「俺の剣3本分……!?」
勇者「え、高っ!? そんなにするの!?」
魔法使い「払えない金じゃないだろぉオレたちこれまでめっちゃ節約して旅してたしぃ!」
勇者「け、けどそれはいざっていう時のための貯蓄……」
魔法使い「今が“いざ”って時なんだよぉきっとぉ!! 誘惑魔法で全滅する勇者一行なんて嫌だろぉぉ!?」
戦士「う、うぅむ……確かに……」
勇者「ま、まぁ、また誘惑の魔法で全滅するよりは……」
魔法使い「賢者ちゃんだってこんな童貞拗らせた野郎3人と一緒に旅なんてきっと嫌だろうししょうがねーんだよぉぉぉ!!」
ドア<コンコン、ガチャ
賢者「あの、呼びましたか?」
勇者「う、うううううん!! 呼んでないよ!!」
戦士「だい、だ、大丈夫だ、気にしないでくれ」
魔法使い「旅は慣れてないし疲れてるだろそっちの1人部屋でゆっくり休んでていいからねあと騒がしくてごめんな?」
賢者「お気遣い頂いてありがとうございます。みなさんの賑やかな声は明るい気持ちになりますから、気にしないでください」ニッコリ
勇者「そ、そう言ってくれると僕たちも助かるよ」
戦士「う、うむ、そうだな」
魔法使い「あそうだオレたちちょっと夜出かけるけど気にしないでねちょっと男同士で語りたいことがあるからさちょっとほらアレだし」
勇者「ちょっ!?」
戦士「お、お前……」
賢者「わかりました。けれど、あんまり遅くまで遊ぶのはいけませんよ?」
魔法使い「ははは大丈夫大丈夫なぁお前ら」
勇者「え、あ、え……っと、う、うん……」
戦士「……うむ」
魔法使い「そういうわけで賢者ちゃんもオレたちに気にせずのんびり好きなように過ごしてくれな? 用がある時はまた声かけるからさ」
賢者「はい。お言葉に甘えますね」
ドア<パタン
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
戦士「……ど、どうするんだ……?」
魔法使い「もう退路は断っちまった……これも賢者ちゃんのためだ。腹をくくれ、お前らも……」
勇者「う、うん……」
戦士「賢者のため、なら……仕方ない、か……」
……………………
――夜 砂漠の繁華街――
魔法使い「なぁ、知ってるか? この街で採れる石炭には微量ながら魔力を蓄える性質があるんだ。その性質のおかげでここの石炭は汎用性が高い。例えば火炎系の魔法を込めればよりエネルギーのある石炭になるし、真空系の魔法を込めれば燃えやすい石炭になるんだ。それの応用でさ、それぞれの魔法を微量に石炭に詰めると、石炭が燃えた時に放つ光の色を変えることができるんだ。火炎系だとより明るく、氷結系だと青く、真空系だと白くって。なんとなくイメージつくだろ? だからここの特産品の石炭はそういう夜の装飾にぴったりで、石炭に魔法を込める職人なんてのもこの街にはいるんだってさ。ほらそこの店に桃色っぽい光が灯ったランタンあるだろ? それも職人が長年の加工で身につけた配分量で魔法を詰め込んでそういう色に光るようにしてるんだってさ。すごいよなぁオレにはそんな微調整できそうにないわ。ただ単にぶっ放すだけなら簡単なんだけどなぁ。お前らはどう思うよ?」
戦士「……うむ、そう、だな……」
勇者「……うん、それ、さっきも聞いたね。キミって緊張すると、すごい早口で知識を喋る癖がある、よね……」
魔法使い「……ああ、自覚はちょっとある」
戦士「……うむ、そう、だな……」
魔法使い「戦士は逆に、固まって同じ言葉しか話さなくなるよな……」
勇者「うん……」
戦士「……うむ、そう、だな……」
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
勇者「い、今さら、だけど……変装というか、ローブとか纏ってきた方がよかったんじゃないの……?」
魔法使い「い、いや、こういうところはありのままの普段着でサッと来た方がカッコがつくんだ……」
勇者「それ、どこ情報なの……?」
魔法使い「……草原の国の酒場で、そんなことを話してる人らがいた」
勇者「……本当なのかな、それって……」
戦士「…………」
魔法使い「と、とにかくだ! 昼間のうちに責任を持って情報収集はしてきた! だからオレを信じてくれ!」
勇者「う、うん……僕と戦士じゃこういうのは全然わからないから、キミを信頼するよ」
戦士「……う、うむ」
魔法使い「大丈夫だ、後悔はさせない……たぶん」
勇者(やっぱりちょっと不安……)
戦士(……俺の剣、3本分……)
魔法使い「っと、この路地を折れて……ここだ」
勇者「ここが……その、そういう……?」
戦士「……う、うむ、らしいな……」
勇者「け、けっこう、普通の見た目、なんだね?」
魔法使い「すごいところはさっき説明した石炭盛り盛りで目立つようにしてんだけどな、ここはそういう案内所のお兄さんに教えてもらったんだ。……いわゆる穴場の優良店、らしい」
戦士「……だ、大丈夫なのか、それを信じて?」
魔法使い「だ、大丈夫だ! お兄さんめっちゃ親切だったから! 『任せろよ兄弟、サバクデビューの後悔はさせないぜ』ってすげー親身に話聞いてくれたから!」
勇者「ま、まぁ、詳しい人が教えてくれたなら……」
戦士「し、信じるしかない、か……俺たちが考えるよりはずっと信憑性のある情報、だろう……」
魔法使い「だろ!? 金も教えてもらった総額より一応多めに用意したし……お兄さんに夜に3人入るってお店側にも伝えておいてもらったし……そ、それじゃあ……!」
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
勇者「……い、行かないの?」
魔法使い「こ、こういう冒険の時はいつも勇者か戦士が先頭だから……!」
戦士「いや、そ、それはそうだが、この場ではお前が一番頼りになるんだから……」
勇者「そ、そうだよ。僕たちはキミに頼るしかないんだ」
魔法使い「ぐ、ぬ……わ、わかったよ。オレが先頭になってやる。入ってからの流れはちゃんと覚えてる、よな……?」
勇者「受付とか、控室とか、だよね? だ、大丈夫、なんとか」
戦士「それで、一通り、その、終わったら、表通りの酒場に集合……だったな」
魔法使い「よ、よし、事前準備はこれで完璧、のはず……。それじゃあ、行くぞ……っ!」
勇者「う、うん……!」
戦士「お、おう……!」
―― 一方そのころ ――
賢者「……勇者さんたちは、もうお出かけされたようですね」
賢者(好きなことをしていていいとみなさんは仰っていたし……私は、祖国への手紙を書こう)
賢者「拝啓、親愛なるお父さま、お母さまへ……」サラサラ
賢者(祖国を発ってから、はやひと月が経ちました。私たちは森を抜けて、草原の国を通り、砂漠の街へたどり着きました)
賢者(伝え聞いた通り、砂漠という場所はとても暑い場所です。母なる太陽の輝きも砂漠においては一段と煌めきに愛情を増し、その情の強さに身を焼かれる思いです)
賢者(しかし、お父さまとお母さまが私にかけてくれる愛情はきっとこれよりも強いのだろうと、故郷を離れて改めて実感しました。民草に深く敬愛されるおふたりに心を配られることは、何ものにも代えられない素晴らしきことでしょう)
賢者(賢者の国の名に恥じないよう、そして、お父さまとお母さまが心配しないよう、私はより一層の強い自覚をもって、勇者さまの旅を助ける使命を果たそうと強く思います)
賢者(勇者さまといえば、彼らは神さまから世界を平和にするための神託を受けた者……と聞いていました。ですが、実際に出会って旅をしてみると……)
賢者「……ふふ。勇者さんも戦士さんも魔法使いさんも、歳相応の男の子でした」サラサラ
賢者(賢者の国の姫だから、というより、私のことをひとりの女の子として気遣っていただける……こう言っては失礼かもしれませんが、少し不器用な優しさにこそばゆい思いがします)
賢者(まるで歳の近い弟ができたみたいで、彼らが仲良くお話をしていたり、少年らしい笑顔を浮かべているところを見ると、心が温まります)
賢者(それと同時に、彼らのような優しい人たちが戦うことなどない世界が一刻も早く訪れて欲しい……という願いが殊更に強くなりました)
賢者(私たちの旅は今のところ順調そのものです。人類を脅かす『魔王』と呼ばれる存在と相対し、それを打ち下し、世界に平和が訪れるのもきっとそう遠くない未来の話だと思えます)
賢者(ですから、どうか、私のことを心配し過ぎないでくださいね)
賢者(私が勇者さまについて旅立つ時のように、普段は威厳のあるお父さまが狼狽える姿には、娘である私はとても親しみを覚えますが……民草にとっては驚天動地の姿でしょう)
賢者(お母さまもどうか御身体にお気をつけください。自ら進んで家事を行うことはとても素晴らしく、多くの人に愛される姿だと思いますが……あまり重たいものを運ばれたり、屈んで掃除をしていると、また腰を痛めてしまいます)
賢者(おふたりとも、どうかご自愛くださいね)
賢者(勇者さまはとても優しく、腕も立ち、純粋な人柄をしています。全幅の信頼を寄せられる方です)
賢者(戦士さまは寡黙ですが、戦いになれば常に先頭に立ってくれるとても頼もしい方です)
賢者(魔法使いさまは聡明で、冷静に知識や魔法を用いて、いつでも私たちを助けてくれます)
賢者(みなさん、私が知らないことをたくさん知っていて、私が経験していないこともたくさん経験している方たちです)
賢者(私が彼らを助けることもありますが、彼らが私を助けてくれることの方が多くある、とても頼りになる方たちです)
賢者(こんなにも素晴らしい方々と轡を並べ、助け合い、多くを学べるこの旅路は、きっと神さまの祝福を受けた輝かしい道程になりますから……)
賢者「……ふぅ、こんなところでしょうか」
賢者(あとは明日、私の祖国へ向かう行商人を探して、手紙を託しましょう)
賢者「それにしても……静かですね」
賢者(最近はずっと賑やかな声が近くにあったから、どうしても夜のしじまが生々しく感じられます……)
賢者(勇者さんたちは今ごろ、何をしているのかしら)
賢者(男同士で語りたいこと……ふふ、あの方たちが仰ると、なんだかとても可愛らしい響きになりますね)
……………………
――酒場――
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
勇者「……うん」
戦士「……うむ」
魔法使い「……おう」
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
勇者「……僕ね、世界は一刻も早く平和になるべきだと思った」
戦士「……俺もだ。恵まれない子供たちのために何かをしてやりたくなった」
魔法使い「……そっか」
勇者「…………」
戦士「…………」
魔法使い「…………」
戦士「鋼鉄の剣、3本分……か」
勇者「やめて、具体的なお金言わないで……」
魔法使い「……つか、ぶっちゃけ……どうだったんだよ?」
勇者「……まぁ」
戦士「……うむ」
魔法使い「……おう」
勇者「……そりゃあ、気持ちいいは、気持ちいい、けど……冷静になるとやっぱり高いなぁって……」
戦士「……こうしてお前たちと顔を突き合わせると……俺たちの使命を思い出して、申し訳なくなった、な……。誰に対してかはわからないが……」
魔法使い「……そっか」
勇者「……うん」
戦士「……うむ」
魔法使い「……なんか、ごめん」
勇者「謝んないでよ」
戦士「そうだぞ。捉え方によっては……いい経験ができた」
勇者「うん。とりあえず、もう……賢者さんの服装には惑わされなさそうだし……」
戦士「……だな」
魔法使い「……大人になったんだな、オレたち」
勇者「……大人になるって、かなしいことなんだね……」
戦士「うむ……」
魔法使い「……とことん飲もうぜ、今日は。明日、賢者ちゃんに怒られるかもしんないけどさ」
勇者「……そうだね」
戦士「……そうしよう」
◇
夜更けの酒場に、コチン、とグラスのぶつかり合う音が響く。それに一抹の侘しさを感じたのは、少年期に別れを告げたせいか、空虚さの輪郭を知ったせいか……。
どちらにせよ、こうして勇者たちは大人への階段をひとつ上った。
成長してより強く世界平和を願った彼らはこの旅の行く末に何を思うのか……そして、次回の戦闘で翻る賢者のスカートに何を思うのか――
一晩でやけに大人びた勇者たちを見た賢者は何を思うのか――
それはまた別のお話。神のみぞ知ることである。
おわり
こんな話を最後まで読んでくれてありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
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