照「京ちゃんなんて知らない」京太郎「2度も言った!」 (382)

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※前スレ
照「京ちゃんなんて知らない」京太郎「」
照「京ちゃんなんて知らない」京太郎「」 - SSまとめ速報
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※人物紹介
須賀京太郎
 おなじみ金髪の少年。幼馴染であり麻雀の師でもある照と、長野に残してきた咲の和解を目的として単身上京、白糸台高校に入学する。
 幼少期の照からの指導のおかげで雀力高め。「他人のオカルト発動を感知できる」。他にも何かあるようで…
 手作り菓子を何度か振る舞っている。加えて運動部経験者ということもあり率先して雑用に励むので部内での評価は概ね高い。
 基本的に照の言うことには逆えず甘やかす傾向がある。「照さん」という呼び方は昔の名残り。



宮永照
 白糸台の大エース。幼い京太郎の素質を照魔鏡で見抜き指導した。その後家庭環境の悪化と些細なすれ違いが原因で咲と訣別する。
 白糸台に来た京太郎を当初は拒絶するそぶりを見せるも、それは照なりに彼のことを思っての行動だった。
 紆余曲折ありながら遂に京太郎との関係を修復。その後は以前にも増して頼り気味。ただ昔からの知り合いであることは菫以外には隠している。「京ちゃん」という呼び名は昔の名残りで、咲の影響。
 甘いものと読書には一家言もっている。
 



弘世菫
 白糸台の部長。立場にふさわしい才覚とカリスマ性を併せ持ち、部内にファンクラブが存在する。
 京太郎と照の関係にいち早く気づき、双方に寄り添って仲を取り持とうと奔走した。イメージとは裏腹に恋バナが好き。照に便乗して京太郎に「菫先輩」と呼ばせている。


大星淡
 白糸台の期待の星。傲岸不遜な物言いをするがいったん心を許すと別人のような反応を示す。虎姫のマスコット的存在。案外敬語も使える。
 入学初日以来京太郎とは絡みがあり、すとーかー→かませ→ライバル→チームメイト→??? と評価を伸ばしている。


亦野誠子
 白糸台のフィッシャー。ノリの良い性格で、おそらく次期部長候補。麻雀の腕に自信はあるが同時に弱さも自覚している。
 なんだかんだ淡のことを気にかけている良き先輩。


渋谷尭深
 白糸台のお茶係。気がつけばお茶を淹れている。お菓子もわりと持ち合わせていてよく配っている。暑がり。
 京太郎と照の親しい仲には薄々感づいているが呼び方の変化には気づかなかった。鈍いのか鋭いのか。 




宮永咲
 京太郎の幼馴染。喧嘩別れした姉の照を案じており、京太郎が白糸台に進学する動機ともなった。
 京太郎に触発され自身も清澄高校麻雀部に入部し、インハイでの二人との再会を目指す。京太郎が上京すると決まってから「頼ってばかりではだめだ」という思いを強め、より社交的であろうと努めている。だが根は変わらず引っ込み思案。
 京太郎と連絡を定期的に取る約束をしており、月一度は長電話をしている。



 
竹井久・染井まこ・原村和・片岡優希
 清澄高校麻雀部のメンバー。


龍門渕透華・天江衣・国広一・井上純・沢村智紀
 龍門渕高校麻雀部のメンバー。ハギヨシの伝手で進学前の京太郎の麻雀特訓に付き合った。


ハギヨシ
 龍門渕家に仕える神出鬼没の執事。ネト麻で京太郎と知り合って以来親交を深めている。

 




※インハイ6日目、清澄の試合をモンブチメンバーと観戦したところから



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京太郎「…レポートそんな感じでよかったですか」

菫「ああ、十分だ。助かるよ。旧交を温めるせっかくの時間を邪魔して申し訳ない」ペラッ

京太郎「いえ、俺も勉強になりましたし、いろいろ話も聞けたので…良かったです」


淡「あっ、きょーたろーのサボり!」

京太郎「ちげーよコラ。…そうそう、淡にお土産」

淡「えっ!…ってなに、紙いらなーい」

京太郎「書いてあることが大事なんだよ。貴重な情報だぞ」

淡「えっーと……、『あちがのたいしょーにはきをつけろ』?」

菫「どこからの情報?」

京太郎「龍門渕がたまたま阿知賀の練習に付き合ったそうなんです。それで衣先輩が」



『一見分からぬかもしれぬ。それ程に小さな芽、然れど芽吹く双葉は石をもたげ堅固な地を割るものだ』



京太郎「…とまあ、隠れた実力を発揮するんじゃないかって」

菫「…だそうだ。留意するだけの価値はあると思う」

淡「はーい、気を付けまーす」

京太郎「軽っ!大丈夫かよほんと…」

淡「にひひ、だいじょぶだいじょぶー」



テクテク
尭深「部長…あっ、須賀くん戻ってきてたんだ」

京太郎「すみません、皆さん練習してたのに空けてて」

尭深「気にしないで、いつも頑張ってもらってるし」

菫「どうした尭深」

尭深「あの、茶葉が切れたんですけど見当たらなくて…」

菫「んー…まだあったはずだが」

京太郎「俺今朝見ましたよ、まだ開けてないやつ。探して持っていきましょうか」

尭深「…じゃあ、お願いしよっかな」ニコッ








尭深「…おいしいね、これ」ムグムグ

京太郎「それならよかった」ホッ

尭深「もらっちゃったけど全員分あるんだよね…出費になったんじゃない?」テキパキ

京太郎「いやまあ…別行動させてもらったしこれくらいはですね」

尭深「仕送りいっぱいあるんだ」

京太郎「…全国大会出るって言ったら色つけてくれてて。おすそ分けみたいなもんです」

尭深「納得…よし」
トクトクトク


コトン

尭深「これ宮永先輩の分。お土産と一緒に持っていってあげて?」


京太郎「了解です、すぐ戻ってきますね」

尭深「いいから、ゆっくり話しておいでよ」

京太郎「でも他の人の分が」

尭深「須賀くんの代わりはいるから、でも先輩にとってはきっとそうじゃないから…お茶とお菓子は他の人にお願いするから大丈夫だよ」ニコッ

京太郎「……分かりました、お願いします」ペコッ



尭深「…頑張れ」フフッ






照「……ロン。おしまいかな」

「「「ありがとうございました!」」」

照「うん。お疲れ」


京太郎「お疲れ様です、っと…」コトン

照「あっ京ちゃん。おかえり」

京太郎「ただいまです。…あっすいません、皆さんの分もすぐに来ます」

「あー、いいよいいよ、うちら自分で取りに行くし」

「ごゆっくりー。先輩、失礼しますっ」ペコッ

スタコラサッサ





京太郎「…なんなんですかね」

照「…さあ?」

京太郎「渋谷先輩もゆっくりしてこいって…代わりがどうとか言われたんですけどね。はい、こちらもどうぞ」

照「買ってきたんだ。これ美味しいよね」ジーッ

京太郎「よく分かりますね。好きなんですか?」

照「え?お菓子在庫の中になかったから」

京太郎「え?…全部把握してる?」

照「造作もない」フンス

京太郎「褒める気にはなれないですけど」

照(´・ω・`)

京太郎「そんな顔しないで、お茶冷めちゃいますしいただいちゃいましょう」

照「間違いない。美味しいうちに頂かないと失礼」

京太郎「切り替え早いっすね」

照「それは褒めてる?」

京太郎「褒めてます」



照「おいひい」ムグムグ

京太郎「包み紙ください、捨てときます」

照「ありがとう」

京太郎「…試合、見ました?」

照「…少し」

京太郎「…強かったですよ。ちょっと緊張してましたけど」

照「最初だけね」

京太郎「見てたんですね」

照「東二局三巡目まで」

京太郎「…なぜそこで切る」

照「和了れるって分かったから、十分かなって」

京太郎「気持ちいい和了りでしたよ、ほんと。俺も久しぶりに見ました、あの嶺上開花」

照「…そっか、そうだよね」

京太郎「…すみません」

照「いいの」



照「……ねえ京ちゃん、あとでL◯NEしていい?」

照「相談したいことがあるから」

京太郎「…ここじゃできない話なんですね?」ヒソヒソ

照「そう」

京太郎「…わかりました。待ってますね」

照「うん」

照「あとこれ」

京太郎「二つ目はないです」

照「…そう」

京太郎「と見せかけて実は取ってあったり」カサッ

照「京ちゃんっ…」パァッ

京太郎「…お菓子に釣られてさらわれたりしないですよね…俺心配になってきたんですけど」

照「…多分大丈夫」

京太郎「なんで目逸らすんですか!頼みますから安心させてくださいよ…」

照「…ガッカリした?」

京太郎「今更ですよ。俺も準備してる時点で同罪ですし」

照「……フフッ」

京太郎「…なにコソッと笑ってるんですか」

照「何でもない」


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淡「タカミーの後どっちがお風呂する?」

誠子「どっちでも…淡入っていいよ、私やることあるし」

淡「マジ?先輩やさしー!」キャッキャッ ゴロンゴロン

誠子「そりゃどうも。…また頭打つよ」チラッ

淡「この大星淡、同じ過ちは食らわぬっ!」デンッ!

誠子「…ビミョーに間違えてるんですけど」

淡「えっ、そうなの?」ヘケッ?




淡「で、亦野先輩は何してるんですかー?」

誠子「んー?明日の予定の確認とシミュレーション」クルクル

淡「はえー」

誠子「何だその反応」

淡「先輩マジメだなーって」

誠子「全っ然。このくらい普通っしょ…この大会終わったら一応三年生は引退だし、二年生が引っ張っていかなきゃいけないんだから」

淡「…そっか」

淡「…えっ、そんなことぜんっぜん考えてなかった!先輩すご!淡ちゃんがほめてつかわす!」パアッ

誠子「嬉しくないなそれ」ハァ

淡「えーめずらしいのに…よし!それではほうびとしてこのひぞうのフラ◯を一本さずけよう」

誠子「そりゃ確かに珍しい。もらうね」

淡「どぞー」ススッ

誠子「はぐっ…うんまいねこれ。久々食べたけど」

淡「でっしょー」



誠子「ところでさー」

淡「むぐむぐ…ふぁふぃ?」

誠子「須賀のこと、いつから好きなの?」

淡「ゲフッゴホッ、ゴホッ……ななな何言ってんですか」

誠子「慌てちゃって。図星なんでしょう?ねえ…隠したって無駄だぞ、うりうり」

淡「ち、違うもん」

誠子「じゃあ嫌いなんだ」

淡「きらいじゃない!」

誠子「好きなんでしょ」

淡「そ、そんなことないし!」

誠子「うっそだー」ケラケラ




淡「……わかんないよ」ポフン

誠子「何がわかんない?」

淡「好きって…だって人を好きになったことないもん。……わかんないよ」

誠子「そっかー。うーん、例えばね」

誠子「須賀が他の女子と付き合うってなったら…どう?」

淡「…え?きょーたろーがそんなモテるわけないじゃん」キョトン

誠子「例えばの話だよ」

淡「えー…淡ちゃんに麻雀勝ってからにしてもらう」フフン

誠子「なんだそれ…」

淡「だって最初にきょーたろーと話したの私なんだよ!この学校のだれよりも付き合い長いしそのくらいゆるされるはず」

誠子「そりゃ飽きるほど聞いたし知ってるけどさ…言って1日2日の差じゃん」ハハハ

淡「それでもいいの…その差にあとで泣かないように!」ズビシッ

誠子「私関係ないっての。あとツッコミ損ねたけどそんな横暴許されるかバカ。須賀の人権どこにやったよ」

淡「えー」



誠子「じゃあ聞き方変えよう。えっとね…そう…ハグとかキスとかしたい?」

淡「キッ…」カァァッ

誠子「おうおう、耳まで真っ赤にして」

淡「…先輩のへんたい!むっつり!みみどしま!」

誠子「はいはい、どうせ耳年増ですよーだ。こんな短髪釣りキチ雀廃に誰も興味ないんだから」シッシッ

淡「えっ…その…元気出して?」

誠子「ガチトーンやめろ。ガチトーンはやめろよマジで」



誠子「…まあいいよ。認めないならそれはそれでいいんだけどね。結局自分で決着つける話なんだし」

淡「…よくわかんないけど」

誠子「須賀は競争率高そうな気がするけどなあ」

淡「えーそーかなー」

誠子「背高いし、成績そこそこ良いでしょ?顔もまあ…割とイケてるんじゃ」

淡「えっ先輩まさか…」キッ

誠子「違う違う、私はそういう目で見てないから」




誠子「まあクラスの子は淡のほうが詳しいだろうけどさ…麻雀部にしたって須賀と仲良い人結構いるじゃない?例えばそうね…宮永先輩とか」

淡「…そうかも」

誠子「えっなに、思い当たる節あるの?」

淡「いやそういうわけじゃないけど…なんとなく?」

誠子「勘って案外当たるからねー。もしかするともしかするかもね」

淡「でもきょーたろーの最初の知り合いは私だし」

誠子「いや、その事実にそんなに自信を持てる理由がわからんわ」



ガタン
誠子「尭深が風呂上がったね」

淡「…ねえ、さっきの話、秘密にしていい?」

誠子「えー…どこからどこまで?」

淡「ぜんぶ」

誠子「うーん…まあいいけど。面白いのになあ」

淡「いーから!フ◯ンもう一本!」

誠子「結局買収かい」モラウケド



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今日はここまで


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照「…それじゃ」スクッ

淡「頑張れテルー!全部ぶっ飛ばせー!」

誠子「うんうん、そうすれば淡も打たずに済むしなぁ」

淡「えっ、それはヤダ…そこそこ、そこそこぶっ飛ばせー!」

誠子「何だそれ」ハァ

京太郎「相変わらずだなお前」

淡「ありがとー」ニコッ

京太郎「褒めてねーぞ」

淡「えっ、違うの?」キョトン



照「……」チラッ

京太郎「…いつも通り、打ってください」

照「…行ってきます」

ガチャン




淡「……」ワクワク

誠子「ちょっとは落ち着け」

コポコポ
尭深「お茶、いれました」コトン

菫「助かるよ。さて…勝ちにいこうか、準決勝」







京太郎「…照先輩、まさか迷ってたりしないですよね」

尭深「取材が長引いてるんだと思うよ。準決勝まで来るとね…多いみたい」


ガチャン
照「……」

京太郎「!」

淡「お帰りテルー!」

誠子「お疲れ様サマですっ」

照「…お菓子、買ってきた」

淡「やたっ!タカミー!」

尭深「うん…お茶、入れますね」ニコッ

照「ありがとう」

誠子「淡…お前が仕切ってどうすんだよ」ハァ




淡「今回ギギギーってやつ使わなかったね」ピョコピョコ

照「うん…タイミングが合わなかった。決勝にとっておけるからいいとは思うけど」チョコン

淡「隠し技!」

照「そうとも…言わなくもないような」

淡「なくも…ない?ってどっち?あれ?」ハテ?

>淡ちゃーん、お菓子選ぶの手伝ってー

淡「はーい!お菓子!」トコトコ

照「……」





照「……千里山の人、大丈夫かな」ボソッ チョコン

京太郎「大丈夫だと思いますよ、きっと」ヒョコッ

照「京ちゃん。…それならいいけど」

京太郎「大会の緊張とか体調とか、いろんなことが重なったんだと思います。必死だったんですよ」

照「…私は必死じゃない。残念だけど」

京太郎「それは…勝負のためなんじゃないですか。決勝に行くためにできることをできたならそれでいいと思います、俺は」

照「…試合、見てた?」

京太郎「…見ましたよ、最初から最後まで」

京太郎「その、ですね……正直、カッコ良かったです」ポリポリ

照「そっか。良かった」ニコッ


尭深(お茶持ってきたけど…いったん出直そうかな)ススッ











誠子「…部長の癖が読まれてる?」

照「たぶん。でないとあんな失点の仕方はしない」

京太郎「癖…気にしたこともなかった」

淡「探して分かったら休憩時間に教えられるねっ」

照「そうだね」スッ

京太郎「…すいません、いいですか」ハイ

尭深「もう分かったの?」

京太郎「そうじゃないんですけど…今まで読まれてなくて俺たちにも心当たりがないとなると、ほんとに分かりづらいクセだと思うんですよね」

照「…でも同時に見れば分かるものである、ということ」



京太郎「そこなんですよ。対戦したことない阿知賀ですから、映像だけで分かる範囲内だとは思うんです。…よほど研究熱心な人がいるんでしょう」

淡「ヒマジンかな?」




??「ぶへーっくしょん!…やー、ごめんね」

?「やだもー…外まで聞こえるわよ、やめてよ」

?「そんなだから彼氏ひとつもできな…」

??「ちょっと待って待ってなに言い出すの」





誠子「…見つからない可能性が高いってことかな?」

京太郎「…多分。この数十分で見つかれば苦労はないです。でも対策ならどうにか捻り出せるかもしれない」

尭深「…それはそうかも」

淡「えー、さがしたーい」

照「…まあ、探すだけ探そう。対応策も同時進行で考えることにして」






菫(…ラスト意地でツモって多少取り返せたが……それでもマイナス)ハァ

菫(このまま打つか?…しかし阿知賀に思うがままにやられるのはシャクだ)

菫(…阿知賀に気をつけないといけなかったのは私のほうじゃないか)フッ


「先輩ー!」

宥「えっと弘世、さん?…呼ばれてるみたい」

菫「…私が?」


誠子「先輩ー!」ブンブン

菫「…ありがとう、気がつかなかった。ちょっと失礼」ガタッ

宥「う、うん」




菫「…全く情けないな。叱咤激励の伝令か?」

誠子「いやいやいや!そんな恐れ多い」

菫「…それで、照はなんて?」ヒソヒソ

誠子「あー…あの、宮永先輩だけの意見じゃあないんですけど……」ヒソヒソ




菫「……分かった。やるだけやってみよう…いや、こなしてみせるよ。みんなによろしく」

誠子「了解ですっ」ビシッ






菫「……」トン
ピクッ

宥(…指、動いた。もうやめちゃったと思ってたのに…視線は?)

菫「……」

宥(…なんか見分けづらい?でも千里山かなぁ。飛ばすくらいのき)コトン

菫「ロン」

宥(え…)



宥(わわっ、赤土さんが言ってたのと違うよぉ…え、なんで?見間違えちゃったのかな)チラッ

菫「……」キッ ジロッ

宥(め、めめめ、目が合っちゃった…こ、怖いよぉ…でも)

宥(でも…気持ちで負けるわけにはいかない…だって私はおねーちゃんなんだから!)フンス


ピクッ

宥(また動いた。そして…)

菫「……」ジロッ

宥(…今こっち見たよね?こ、怖くてちゃんと見れないけど。それなら…)コトン

宥(最短和了りから遠回りするような打牌、それで避けていく。そして無理をしているところを逆に…)

コトン コトン コトン


宥(あれ?)



菫「テンパイ」

宥「…ノーテン、です」


宥(和了り牌が…違う)

宥(私は…狙われていなかった?逆に誘導された?)

宥(…もしかして、癖に気づいたのかな…?)





淡「でこいってなーに?」

誠子「囮、って言えば分かる?」

淡「とり、鳥?イーソー?」

誠子「お、と、り!」


京太郎「…厳密には違う気がしますけど」

尭深「…それ言っちゃダメだよ」メッ

照「デコイというよりはブラフ、かな」

誠子「……スマセン」




京太郎「結局分かんなかったですからね、部長のクセ」

誠子「『シャープシュートしない局もするつもりになって打つ』って、なかなか無茶なオーダーだと思ったんですけど…さすが部長」

照「無意識でやってることを再現するには、まず自分を『そうしている』と思い込ませないといけない。…菫ならやってくれると思ってた」

尭深「…これで阿知賀は混乱しますよね?」

照「…それもあるし、迂闊に動きづらくなる。逆に菫は選択肢を取り戻せた。ちょっと窮屈ではあるけど」

誠子「『狙いを分かりにくくするために視線を意識的に散らす』っていうのも…簡単に言うけど難しいですよ。集中力もたないです」ワタシハムリ

照「グッドアイディアだったよ、京ちゃん」

京太郎「あざっす」

淡(…みんな何話してんだろ。むずかしいことはわかんないや)ホヘー


来週は多分お休みです







誠子「……」トボトボ

淡「あっ、亦野せんぱーい!」

誠子「…淡か」

淡「私のためのハンデ付け、お疲れ様でーす」

誠子「…相変わらず容赦ないのな」

淡「でもびっくりした。あんなに削られたとこ始めて見ました」

誠子「うるせー、ガチでやられたんだよ…」


淡「……」


グニッ

誠子「…何すんだよ」

淡「先輩がそんな落ち込んでたら、ちょーし狂うよ」ホッペグニグニ

誠子「淡…」

プニッ
淡「私が先輩の分まで取り戻してやりますよ」

誠子「面目ないな…淡に慰められるとは」

淡「…なんかバカにした!私でもわかる!」ンガー

誠子「冗談だって…不甲斐ないのは事実だけど。頼むから負けないでくれよ」ムニムニ

淡「とーぜん。勝ちますよ。もとより負けはありえないです」キリッ

誠子「かっこつけやがってこのー」ウリウリ

淡「もう…さっさと帰ってスミレにおこられなさい!」
スタスタ

誠子「ひでぇ…」





スタスタ
淡(千…なんだっけ。三年のおっぱいでっかい人。まあまあ強い)

淡(しんどーじは…り、りざべーしょん?だっけ)

淡(…数えくらいくれてやるけど、ぜったい取り返す)

淡(で…気をつけないといけないあちがのたいしょー。見た目ちっこい。正直なんでもなさそう)

淡(でも…せっかくきょーたろーが聞いてきた話だし。油断なんてしないんだから)


淡「…よし」

ガチャ

>大将戦、いよいよ開局です!









ドタドタドタ
京太郎「…来たか」

ガチャ
淡「テルー!勝ったよー!」

照「頑張ったね、淡」

淡「ねえ!しんどーじ見た?すごいよねあの二人!びっくりしたー」


菫「…やれやれ」




誠子「淡…」

淡「へーい!」スッ

誠子「…なにその腕」

淡「えっ、ハイタッチじゃないの?」ヘーイ

誠子「…仕方ないな」スッ

>ヘーイ! パチンッ




京太郎「やったな、首位通過」

淡「…見てた!?カッコよかったでしょ?」

京太郎「…そりゃなんとも言えないけど。あーうん、かっこよかったかっこよかった」

淡「棒読み!でもゆるす。だって決勝いけるんだもん」ニコニコ

京太郎「おう」フッ




尭深「ありがとう、淡ちゃん」

淡「フフン、もっとほめてもいいんだぞー」

尭深「そうだね。えらいえらい」ヨシヨシ

淡「むふふふふー」



スッ
菫「一つ、いいかな。…ああ淡だけじゃない。全員にだ」

菫「…皆の手助けがあって、どうにか決勝に進めた。大きく失点してしまったものもいるが、反省して次に活かせればいい」

誠子「…はい」

菫「あとご機嫌モードに水を差すようで申し訳ないが、淡もマイナスはマイナスだからな」

淡「あっ、バレちゃった」テヘ

菫「…まあいい。ここからは私の話だ」




菫「……正直、あの場に亦野が来てくれるなんて思ってもみなかった。青天の霹靂とはこのことさ」

菫「そこで気がついたんだ。『虎姫はチームだ、仲間だ』とか言いながら、私にはその仲間に頼るという気概が足りなかったのではないかと」

菫「…みんなには本当に感謝している。ありがとう」フカブカ

照「菫…」

誠子「部長…頭上げてくださいよ。頭下げるなら私じゃないですか。土下座まで覚悟してたのに」

淡「別にしてもいいんじゃない?」

誠子「なっ…コラ!せっかくのいい雰囲気が!」

ギャー ワー

菫「…やれやれ」



照「……」チラッ

京太郎「……」コクン

菫「……そうだな」

菫「…あと一つ、今晩は虎姫だけでのミーティングの予定だ。8時にいつもの部屋集合、よろしく」

「「「「はーい」」」」


コンコンコン
>すみません、〇〇新聞の者ですが…


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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コンコンコン
菫「どうぞ」

ガチャン
淡「やっほー、来たよ」

誠子「失礼しまーす」

尭深「…お邪魔します」

照「…お疲れさま。入って」


京太郎「……」

淡「早いじゃんきょーたろー」ニヒヒ

京太郎「…ああ、軽食の準備してたしな」

淡「?…そう言われるといい匂いがするかも」スンスン

誠子「ハシタないぞ淡」コラッ

淡「へいへーい」



菫「…まあ出し惜しんでも仕方ないしな。京太郎君」

京太郎「うっす。…何作ったと思う?」

淡「えー…なんだろ。甘いようなスパイシーなような…油っぽい匂いもする」スンスン

照「…勘がいい。淡になら私の後継を任せられる」

淡「いやった!」

菫「何言ってんだお前らは…」ハァ


京太郎「…では、オープン」ファサッ

淡「…ドーナツ!…えっこれミ◯ドじゃないの?」

京太郎「ところがどっこい、ちゃんと手作りなんだなこれが」

誠子「へー、ドーナツって作れるんだすげー」ヒョコ

尭深「ホットケーキミックスの袋とかにも書いてるよ誠子ちゃん…あっ何淹れたらいいですか?紅茶にします?」

淡「なんか入ってないと無理!」ハイ

菫「尭深に任せるよ」

尭深「えっと…牛乳ってありますか?」

京太郎「ドーナツ作るのに仕入れたんで残りがまだありますよ、先輩」

尭深「良かった。じゃあ…」



尭深「…ロイヤルミルクティー淹れてみました。お好みでお砂糖もどうぞ」コトン

淡「スッゴ!」

誠子「わー、かたじけない!そして肩身が狭い!」

尭深「難しくないよ?牛乳あっためてティーパック入れるだけだから…お湯入れて微調整してるけど」

誠子「その『微調整』とかが難しいんじゃん…だいたい一手間加えようっていう発想がない。はー女子力の差。悲しくなる」ヤレヤレ

尭深「えっと…ど、どんまい?」

淡「砂糖一個ちょうだい!」

尭深「はいはーい」



誠子「…じゃ、始めますか?」

菫「ああ。…切り替え早いな」

誠子「…褒め言葉として受け止めまっす」

淡「わー亦野先輩に仕切られるー」

誠子「そこうるさいぞ!…ところで何するんでしたっけ。反省会ですか?」

菫「ん。……そうだな。反省もしないといけないが、その前に話がある。……照から」

「「「「…」」」」

照「……」スッ

誠子(…よく見たらまだドーナツにもミルクティーにも手をつけてない!あの照先輩が!)

照「…誠子、後で特打ち」

誠子「…すんません」


照「……今日集まってもらったのは、私がお願いしたから」

照「みんなに言わなきゃいけないことがある。私のこと、私の妹のこと。あと…京ちゃんのこと」

京太郎「……」

淡「きょーたろー…?」


==============================

(前日夜)





ザー カタン
ガチャ




京太郎「…ふぃーっ、さっぱりした」


フキフキ スッスッ
京太郎(連絡は…きてないな、よし)

シュルッ
京太郎(…喉渇いた)


テクテク バタン
京太郎(お茶とコーラね…あとで買い足そ)
ゴトッ バタン





ポフッ ゴロン
京太郎(そういや透華先輩からなんかきてたっけ)


スッ
京太郎(今日の写真か…よ、く、撮、れ、て、ま、す、ね、っと)ピコン

京太郎(…みんないい顔してる)



カシュ コクッ
京太郎「あー、茶が旨い」

京太郎(冷たいお茶が火照った体に染み渡るっ…これは犯罪的っ…)プハー




ピロリン
京太郎(返事速っ!…って違う、照さんだ)



『いまどこ』



京太郎(じ、ぶ、ん、の、へ、や、で、す)スッスッ ピコン


ピロリン

『いくから』


京太郎(……は?)

京太郎(どういうことですか!……っべ、返事がねえ)

京太郎(えっどうしよ……とりあえず片付けるか)ムクッ バッ







コンコンコン
京太郎(…マジで来ちゃったよ)

京太郎「はーい」


ガチャ
照「お疲れ様」

京太郎「…どうしたんですか急に」ヒソヒソ

照「入るよ」

京太郎「ちょちょちょ待って」ヒソヒソ

照「…だめ?」

京太郎「だめって…ああもういいです、入ってくださいっ」

照「お邪魔します。お菓子持ってきたから食べようね」トコトコ




キョロキョロ
京太郎「…大丈夫かな」
ガチャン


照「どうしたの?」

京太郎「…誰かに見られてないかなって、見た感じでは大丈夫そうですけど」

照「見られて困るの?」

京太郎「…部屋に2人だけはダメって言われたじゃないですか」

照「…そうだっけ。…そうだった」

京太郎「そんなところだろうと…菫先輩にはなんて言ってきたんですか」

照「…『ちょっと出るから』くらいしか言ってないよ。ちょうどお風呂入ろうとしてたから」

京太郎「……」

照「…何想像してるの」

京太郎「…何も?」

照「ふーん」




京太郎「…とりあえずそこの椅子にでも座ってください。菫先輩が心配しだす前に帰らないと」

照「京ちゃんは?」チョコン

京太郎「俺はベッドがありますから」ポフッ

照「そっか」

京太郎「L◯NEで、って話だったんで何の準備もないですけど」

照「うん…ごめんね。直接話したくなったから。人も多いから下は誰かいるかもしれないし」ガサガサ ビリッ

京太郎「ほかの先輩たちも今日は泊まってますからね、分かりますけど。…プチシューですか」

照「これおいしいよね。…飲み物準備してなかった」

京太郎「コーラでよかったらありますよ。俺お茶があるんで」

照「…もらおうかな。ありがとう京ちゃん」

カシュッ


京太郎「紅茶あたりがベストですかね」

照「そうだね。ストレートが良さそう。コーヒーでもいいけど」

京太郎「ブラックも飲んでましたね」

照「お菓子に合わせて、かな。好んで単品では飲まない」

京太郎「なるほど」

照「…さっきまで何してたの?」

京太郎「えっと…風呂入ってゆっくりしてました。透華先輩とちょっと連絡とったり…ついさっき写真が届いたんですが、見ます?」

照「うん」ヒョコッ





照「…いい写真だね」

京太郎「ハギヨシさんが撮りましたし。まあパーフェクトですよ」

照「この横の子は?」

京太郎「一先輩かな?国広一さん、龍門渕の中堅ですね。見たことないですか?」

照「なんとなく知ってるような。…近くない?距離」

京太郎「えっ?」

照「京ちゃんとの距離」

京太郎「あっそういう…いやこれは先輩から寄ってきたので」

照「満更でもなさそうな顔してるけど」

京太郎「そりゃあイヤな顔できないですよ…別に嫌いじゃないですし。ちょっと変な人だけど」

照「ふうん」

京太郎「まさか妬いてるんですかー?なんちゃって…」ハハハ

照「……」

京太郎「え、その…ジョークですよジョーク」

照「…写真撮って」

京太郎「え」

照「今すぐ。二人で」

京太郎「アッハイ」




京太郎「…近くないですか」

照「あの子はよくて私がダメないわれはない」

京太郎「ダメとは言いませんよそりゃあ…しかしですね」

京太郎(部屋に二人っきりでこの距離…!何も起こらないはずも…)

京太郎「…違う、違うんだ」ブンブン

京太郎(いや、何も起こさせないッ…!今までの信頼…!裏切れるはずもないッ…!)

男、京太郎 ここが正念場ッ…!


照「京ちゃん?」

京太郎「あ、撮りまーす」

パシャリ



シゲシゲ
照「…いい感じ。私のにも送ってね」

京太郎「いいですけど…他の人に迂闊に見せちゃダメなやつですよ」ヨクトレテルケド

照「どうして?」

京太郎「それは……いやダメでしょう普通に考えて。明らかプライベートでツーショットですよ」

照「私と京ちゃんの仲なら許される」

京太郎「…ダメです」

照「そうかな」

京太郎「…ホテルの一室で二人ってシチュエーションがアウトなんでその時点でダメです。大会中だし」

照「…それなら仕方ない」

京太郎「バレたり疑われたりしないようきっちり封印しといてください」

照「…消してとは言わないんだ」

京太郎「撮ったの俺ですし。…撮りたくなかったわけじゃないので」

照「撮りたかったんだ」

京太郎「そうとは言わないですけど」

照「ふうん」

京太郎「…はい!時間もないので本題に入りましょう!ね!」

照「ふふっ、そうだね。時間ないからしょうがないね」



照「……」コクコク フー

照「コーラおいしいよ、京ちゃん」

京太郎「それはよかった」

照「うん」

照「…あのね」

京太郎「はい」

照「咲のこと、虎姫のみんなに言ったほうがいいかなって」

京太郎「…それはまた…急ですね」

照「…うん」


京太郎「…何かきっかけでも?」

照「そういうわけじゃないんだけど。…なんだろう、不誠実だと思ったのかな」

照「みんなは勝ちたいと思って一生懸命にやってる。私ももちろんそう思ってるけど、動機の底には咲のことがあって」

京太郎「……」

照「…私や菫は最後の年だから有終の美を、ってきっと思ってくれてる。それなのに…何も知らない、知らされてないままなのはやっぱり違うと思う」

照「…どう、かな」

京太郎「…そう、ですね」

照「…急な話でごめんね」

京太郎「いえ…俺は全然考えてなかったんで、そんな」

京太郎「でも、照さんがそうしたいと思うなら、した方がいいと思います。…もう後悔してほしくないから」

照「……」

京太郎「部長や先輩たちや淡にしたって、俺より照さんのほうが付き合い長いですし。分かってくれる…と思いますよ」

照「…そうかな」

照「わかった。頑張るね」


京太郎「…それなら俺のことももう隠しておく必要ないですね」

照「そう、だね。…いいの?」

京太郎「どうせ出身地割れてますし、勘が良ければすぐ気付かれるでしょうから。…隠し事しないでいられるなら、その方がいいです」


照「…ごめんね」

京太郎「…すみません!そういう意味じゃなくて、ええと…」

照「いいの。京ちゃんを巻き込んだのは私。責任はとる」

京太郎「……どうなろうと俺は照さんの肩を持ちますから」

照「…京ちゃんは優しいね」

京太郎「…そんなことないです」プイッ

照「…照れてる」

京太郎「照れてないです」

照「本当かなあ」



京太郎「…そうと決まれば」スッ

照「どうするの?」

京太郎「部長に連絡入れます。一緒に相談しましょう?」

照「そっか。…そうだね」

京太郎「連絡入れれば照さん探されないで誤魔化せますし」

照「…賢い」

京太郎「でしょ?」フフン

照(かわいい)


ピロリン
京太郎「…もしもし部長ですか?…遅くにすみません須賀です。今から照さんと一緒にそっちの部屋に伺おうと。……何言ってるんですか。相談があるそうなんで。……了解です。よろしくお願いします」

中堅戦は何も浮かばなかったので割愛




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誠子「…じゃああの大将って、本当に先輩の妹さんだったのか」

淡「……」

誠子「ほら淡、昨日テレビで観てた!先輩と名字が同じだーって」

淡「…えっ、あっ…そうだっけ」

誠子「もう忘れたのか…」





照「……私からの話は、これでおしまい」

照「今まで隠してて、本当にごめんなさい」ペコリ

京太郎「俺からも、本当にすみませんでした」ペコリ

尭深「…それはでも…話しにくいことですし…」

誠子「…それなりの事情だし、な」

尭深「…部長だけは知ってたんですね」

菫「…ああ。京太郎君のことに関しては彼が入学してきてからだが」

淡「……」


淡「……きょーたろーは」

淡「きょーたろーはさ、いやじゃなかったの?」


誠子「淡!」

照「…いいの誠子。そう思っても全然おかしくない」

誠子「ですけど…」

京太郎「…確かに最初は面食らいましたけど。……あー、びっくりしたってことな?」

淡「うん」

京太郎「でも、先輩が…照さんが言うならそうしようって思ったし、それなりの事情があるわけで。しかも俺にも関わることなんだから、協力するのが筋だろ?」

淡「…めーれーされたんじゃないってこと?」

京太郎「そうだな」

菫「お前は照をなんだと思ってるんだ」ハァ

淡「…そのくらいのけんげんもってそうだし。違うんだったらぜんぜん、いいの」

照「……そう」



淡「…あーもうお腹すいちゃった!ドーナツ食べる!」

京太郎「おう、食え食え」

尭深「お代わりいる人いたら淹れますよー」スクッ

淡「いる!」

尭深「はいはーい」トポトポ



菫「…よかったな」ポンポン

照「…うん」

照「菫にもたくさん、迷惑かけたね」

菫「まあな」

照「…否定しないんだ」

菫「まだ肝心の和解を見届けるまではね、安心できない」

照「…確かに。まだお世話になります」ペコリ

菫「そうそれ。頼ってくれていいんだ、お互い様なんだから」

照「……ありがとう」






誠子「まあでも、いろいろ腑に落ちましたよ。須賀の持ってくる軽食がやたら照先輩の好みと合ってることとか、あと麻雀の強さとかね。納得」

京太郎「えっ…俺そんな意識して選んでないと思うんですけど」

誠子「えー、でも先輩いつも美味しそうに食べてますけど。ねえ先輩」

照「?京ちゃんのお菓子はいつも美味しいよ?…そう、ドーナツすごく美味しかったよ、ごちそうさま」

京太郎「それは良かった。…まだありますけど食べま」

照「食べる」

誠子「即答っ!」

照「緊張が解けたのかな、お腹空いちゃった」クゥ

京太郎「渋谷先輩に飲み物のお代わりももらってきますね。亦野先輩は?」

誠子「…あー、ドーナツはいいや。食べすぎになっちゃいそう。飲み物だけお願いしやす」

京太郎「了解っす」
スタスタ



誠子「…気が利くんだよなああいつ」

照「京ちゃん?」

誠子「あっはい。…ってかその呼び方も?」

照「そう、前から」

誠子「途中で呼び方変わりましたよね?割と最近」

照「…うん。わたしのわがままの結果だから。京ちゃんにはたくさん迷惑かけた」

誠子「あー……昔から仲良かったんですか?」

照「……もともと妹が仲良くしてて、そこから。…仲良かったんだと思う。弟みたいに可愛がってた」

誠子「なるほど。…今もそうですか?」

照「いま?……そうだね…」

照「京ちゃんがそう思ってくれてたら嬉しい、かな」

京太郎「何の話ですか?ドーナツとミルクティー二つ、お持ちしましたー」カチャン

照「…なんでもないよ。ありがとう京ちゃん」

誠子「サンキュー。そうそう、なんでもないからね?」

京太郎「えー」


短いですけど


トコトコ
淡「テルー…ゴメン!さっきはヘンなこと言っちゃった」

照「…大丈夫、気にしてないよ」

淡「ホント?ありがとテルー!」ヒシッ

京太郎「うおっ…あぶね、こぼすとこだったじゃねえかコラ」

淡「ふんだ。私とテルーの邪魔するからいけないんだ」

京太郎「理不尽な…」

照「淡、京ちゃんいじめたらダメ」メッ

淡「…そんなんじゃないもん」プイッ

京太郎「じゃあなんなんですかねお嬢様。…あっ、なるほど」ポン

京太郎「あれだろ、ドーナツ欲しいんだろ」

淡「ちっがーう!…でもほしい」

京太郎「もう素直じゃないんだから…ちょっと待ってろ」スタスタ

淡「ぐぬぬ…きょーたろーのバカ」ボソッ

照「……」






尭深「…あれ。また戻ってきたんだ」

京太郎「あっはい…淡がおかわりほしいそうなんで」カチャンカチャン

尭深「そうなんだ。…働き者だね、須賀くんは」

京太郎「…そうっすかね」テキパキ

尭深「そうだよ。淡ちゃんなんか同い年なんだから自分で取りに来させていいんだよ」

京太郎「…確かに。ってか案外毒舌ですね先輩」

尭深「知らなかった?」フフン

尭深「でも毒、って程でもないと思うけどな。正論だよ正論」

京太郎「まあそうなんすけどね。先輩のイメージと違ったんで」

尭深「どんなイメージ?」

京太郎「えっ…なんというか…ふわふわ、まったり?」

尭深「頼りなさそうだね」

京太郎「ちっ違います、そういうつもりじゃなくて」

尭深「冗談だよ」

京太郎「…やっぱり先輩に対するイメージを改める必要がありますね」

尭深「心外だなぁ」クスクス



菫「…というわけで」

淡「どういうわけ?」

菫「決勝は明後日だな」

誠子「準決勝はそれぞれ一日ずつなのに決勝は五決と同日ってなんか…モヤっとします」

京太郎「…確かに」

菫「一日でベスト8校全て観れるから客からすればいいサービスなんだろう。順位付けされる側としてはたまったものじゃないが」

照「…私は嫌いじゃない。時間をかけて準備していける」

淡「テルーは先鋒だしねー」

菫「…という意見もある。まあどういう日程だろうと、決められた通りにやるだけだ」

菫「明日の準決勝はこっちで全員で観戦する。臨海、姫松、有珠山、そして清澄…どこが来てもいいようにしっかり分析すること」

淡「…テルーの妹って、清澄だっけ」

照「…そう」

淡「そっか。勝つといいね」

照「うん。ありがとう」

京太郎「淡がそんなこと言うなんて…成長したな」

淡「…すみれせんぱーい、きょーたろーくんがきもちわるいでーす」

京太郎「何でだよ」

菫「そういうお年頃だからな、仕方ない」

京太郎「部長!?」



菫「まあ冗談はさておいて」

淡「さておくんだ」

京太郎「…安心しました」

菫「明日のタイムスケジュールを確認しておこうか。誠子」

誠子「はい」スッ

誠子「今回現地ではないので起床・朝食はいつもどおりです。ただ時間の都合上早めに制服に着替えておくこと」

淡「えー、私服で見ちゃダメ?」

誠子「…部の公式な活動の一環なのでダメです」

淡「ぶーぶー」

尭深「よしよし」ヨシヨシ





淡「えー、まだ話してたーい」

菫「明日も早いからな、このへんでお開きだ」

「「「「お疲れ様でした」」」」


照「…ありがとう、みんな」



菫「廊下は静かにな」

淡「わかってまーす。またあしたー」ヒソヒソ

尭深「おやすみなさーい」

ガチャン



淡「…あー、なんかいろいろあった感じ」コキコキ

誠子「ま、確かに情報量はあった」

尭深「びっくりしたね…ねー須賀くん」

京太郎「俺に振るのはちょっと意地が悪いですよ先輩」

尭深「ふふっ、ごめんね」

誠子「まあなー、旧友に会いに行ってるだけと思ったら幼馴染みの応援も兼ねてたなんて思わなかったからなー」

京太郎「…ぐうの音も出ねえ」

淡「やっぱりサボってたんだ…お土産もっとよこしなさい!」

京太郎「一応仕事もしてきたじゃん…あとたらふく食べましたよね淡さん?」

淡「別腹だし」
スタスタ





尭深「飲み物買ってこようと思うんだけど、いる人?」

淡「コーラ!あとできればアイス!」

誠子「ええ…まだ食うの…?私もポ◯リ欲しいけど、ついてこっか?」

尭深「大丈夫、須賀くん借りてくから」

京太郎「そこは確定なんすね…全然いいっすけど」

淡「よろしくねー」ノシ

誠子「あとで請求してね…あとアイスは無理しないでいいから」

淡「えー」

尭深「行ってきまーす」




ウイーン
チーン

尭深「折角だからコンビニまで出ようと思うけど、いい?」

京太郎「いいっすよ。女子だけで出るのは危ないし、俺でちょうど良かった」

尭深「須賀くんなら自分から名乗り出るまであると思ってたし」

京太郎「言いますね…気が利かなくてすみません」

尭深「冗談だって」フフフ

ウイーン







ラッシャッセー

尭深「お菓子買ってあげる。何がいいかな?」

京太郎「マジっすか。じゃあ…俺もアイスにしよっかな、折角だし」

尭深「じゃあ飲み物確保しておくから先に見てて。お茶はなんでもいい?」

京太郎「あー、できれば綾◯で」

尭深「了解」




尭深「…いいのあった?」ヒョコッ

京太郎「…今超絶迷ってます。ジャイアン◯コーンにするか、モ◯王にするか」

尭深「がっつりだね。さすが男の子」

京太郎「あ、なんかそれ久々聞きますね」

尭深「私も久々言った」フフッ

尭深「淡ちゃんは…ピ◯でいいかな。あと雪見だいふく買って誠子と分けちゃおう」

京太郎「…先輩も食べたくなったクチですか」

尭深「見ちゃうとね」

京太郎「確かに。…俺モナ◯にしよう」

尭深「はーい」



アジャジャシター

京太郎「買ったの持ちますね」

尭深「ありがとう」

スタスタスタ

京太郎「…あっつ。蒸しあっつー」

尭深「そうだねー。会場もホテルも快適だからよかった」パタパタ

京太郎「暑さ忘れられますもんね」

尭深「とても助かるな、個人的には」

京太郎「先輩暑がりですからねー」

尭深「そうそう」


京太郎「雪◯だいふく、好きなんですか?」

尭深「んー、好きと言えば好き?でもまあなんとなく、くらいかなぁ」

京太郎「安定して美味しいですよね」

尭深「須賀くんはチョコとバニラの組み合わせが好きなのかな?」

京太郎「…あー、確かにどっちもそうですね。どうなんだろ」

尭深「今日はたまたまそういう気分だったとか」

京太郎「いや、でも…わりと食べますね、そういう感じのやつ」

尭深「じゃあやっぱり好きなんだ」

京太郎「なるほど?あんまり考えたことなかったですけど…そうかも」

尭深「案外、そういうの言われないと気づかないこともあるよね」




京太郎「…アイスはアレなんですけど、俺、チョコレートの食べ方にはちょっとこだわりがあって」

尭深「うん」

京太郎「パリパリなのが好きなんですよ。溶けかけとか論外です。で、冷凍庫に入れて軽く固めてから食べますね」

尭深「それは…したことないなあ。溶けたチョコが美味しくないのはわかるけど」

京太郎「おすすめですよ。ひんやりしてチョコの風味が際立つと言うか、あとはやっぱり食感ですね」

尭深「そうなんだ。チョコのお菓子はなんでも?」

京太郎「なんでも?…チョコ単体のものならまあ。あとチョ◯パイなんかよくやります」

尭深「ルマ◯ドとかは?」

京太郎「やってないです。チョコよりも生地のサクサク感がメインっぽいじゃないですか」

尭深「…なるほど」


尭深「チョコ◯イは美味しいよね」

京太郎「ですねー。…ただ」

尭深「ただ?」

京太郎「前より小さくなったし、風味もちょっと……昔ほどはワクワクしなくなりました」

尭深「そうなんだ…ふふっ」

京太郎「…俺なんか面白いこと言いました?」

尭深「ううん、ごめんね。その…宮永先輩みたいなこと言うなあって」

京太郎「あー…でもあの人ほどじゃないでしょ」

尭深「似たり寄ったりだよ」

京太郎「そうっすか…要反省ですね」

尭深「別に良いと思うけどなあ」

京太郎「いやいや…俺までそうなっちゃうとね、収拾がつかなくなっちゃうんで」

尭深「仲が良くて結構」ニコッ

京太郎「…うっす」


京太郎「いや、そんなんじゃないですからね!?」

尭深「そんなんって何かなー。先輩分かんない」

京太郎「勘弁してくださいよっ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~




淡「あー」バタン

誠子「こらっ、ホコリ立つでしょうが」

淡「疲れたもーん」ゴロゴロ

誠子「ハァ…」

誠子「風呂どうする?尭深帰ってくる前にどっちかは入っとかないとさ」

淡「うー、せんぱい先でいいよ?」ポチポチ

誠子「そう?じゃあお言葉に甘えて」ガサガサ

淡「……」



誠子「…淡さ」

淡「んー?」

誠子「大丈夫?」

淡「大丈夫だよ」

誠子「いや……」

淡「なに?」

誠子「…何でもない。けど」

誠子「言ったほうが楽になることもあるからさ」

淡「何にも、ないよ」

誠子「…そっか」

淡「アイスー、アイスー」パタパタ

誠子(…考えすぎか)

誠子「じゃ、おっさきー」フリフリ

淡「んー」
バタバタ ガチャ


淡「……」ポチポチ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







京太郎『決勝進出おめでとう、咲』

咲『…ありがとう。見てた?』

京太郎『全部しっかりな。対策バッチリ』

咲『それは素直に喜べないなぁ』フフッ

京太郎『途中の嶺上連発も咲らしかったけどさ…最終局の和了りは本当に良かった。完全に臨海のペースだったし、なんなら三位転落もありえたところで一閃、だからな』

咲『一閃なんて大袈裟な…必死だっただけだよ』

京太郎『いや、俺はすげえと思ったら素直に褒めるからな、うん』

咲『どこから目線なの…?』



京太郎『まあ聞いて。俺個人としては、末原さんをしっかり振り切ったところを評価したい』

咲『京ちゃんああいう打ち方好みだもんね。確実に積み重ねていくタイプ』

京太郎『そうそう。…なんで知ってんの』

咲『それくらいわかるよ』

京太郎『そっすか』

咲『京ちゃん、私が何もわからないとか思ってるでしょ』

京太郎『…んなことねーし』

咲『本当かなー』

京太郎『ホントホント。キョータローハイイコ、ウソツカナイ』

咲『ふふっ、何それ』



咲『正直言うとね』

京太郎『おう』

咲『ちょっと悔しいかな。一位通過したかった』

京太郎『…珍しいな、咲がそんなこと言うなんて』

咲『だって白糸台も一位だったでしょ』

京太郎『そこ張り合うんかい』

咲『…気持ちとしてね?分かんないかもしれないけど』

京太郎『いや気持ちはわかるよ、なんとなく』

京太郎『まあ副将まででかなり点数差があったし、仕事は十分果たしたんじゃね?』

咲『結果としてはね。負けたらお姉ちゃんに合わせる顔がないし』

京太郎『個人戦も当たるかもしれないだろ?』

咲『まあね。でもそれはそれ』 

京太郎『…ふーん』

咲『なんか不服そう』

京太郎『いや、何も?』








咲『個人戦終わったあと、予定空けられたよ』

京太郎『良かった。すぐ帰るとかだったらどうしようかと』

咲『…その時はキャンセル代払ってでも別の電車にしてもらうつもりだったけどね』

京太郎『さっすが。須賀だけに』

咲『…寒くなってきたから部屋に戻るね』

京太郎『ちょっ、まっ』

咲『冗談だって。京ちゃんのあわてんぼう』クスッ

京太郎『お前なー…ってなに、部屋からかけてるんじゃないの?』

咲『みんな同じ部屋だからね…さすがに会話が筒抜けなのは恥ずかしいよ』

京太郎『なるほど』

咲『下のロビー?でソファに腰掛けてるから、どれだけしゃべっても大丈夫だよ』

京太郎『それはそれで困るわ』


京太郎『だいたい、ずっと帰ってこないと心配されるでしょうが、お前の場合』

咲『失礼な…って言いたいけどそれはそうなんだよね』

京太郎『謙虚じゃん』

咲『身の程わきまえてますから』

京太郎『かっけー』

咲『一応先輩に話は通してあるから…それにエレベーターが目に入る範囲にしか行かないから大丈夫』

京太郎『…そういうレベルか』

咲『むっ…今のは聞き捨てならないかも』

京太郎『おっと口が滑った』

咲『もう…京ちゃんなんて知らない』


京太郎『…それ。照さんにも同じこと言われた』

咲『いつのこと?』

京太郎『白糸台での初対面でね』

咲『あー…知らんぷりしようとしてできてなかった話』

京太郎『そうそう。…やっぱ姉妹って似るもんなんだな』ウンウン

咲『なに感心してるの…ちょっとした言葉狩りじゃない』

京太郎『でも嬉しいでしょ?』

咲『嫌じゃないけど…あっ、でもやっぱり嫌』

京太郎『なんでさ』

咲『だってお姉ちゃんは京ちゃんに面と向かって言えたわけで』

京太郎『なに?俺をいじめたいの?』

咲『…ふーんだ。そんなんじゃありませんー』

京太郎『じゃあ何さ』

咲『それくらい自分で考えてよ』

京太郎『けちー』



咲『はぁ、もう…京ちゃんと話すと落ち着くよ。全然変わんないし』

京太郎『なに突然』

咲『別に…常日頃思ってることを言っただけだよ』

京太郎『ビックリするわ、急にそんなこと言われたら』

咲『…京ちゃんは?』

京太郎『なに?』

咲『私と話すの退屈じゃない?』

京太郎『そんなこと聞くの…バカだなあ咲は』

咲『バ、バカって…そんな言い方しなくてもいいじゃない』

京太郎『いーやバカだね。胸を手に当ててちょっと考えてみろ、気のおけない仲と思ってる相手から「自分と話すの嫌?」って聞かれたときの気持ちを』

咲『…なんかごめん』



京太郎『…それとも、なんか退屈そうに聞こえた?だとしたらマジで謝る』

咲『いや、その…ね?言葉の綾でそう言っちゃっただけで深い意味はないの…』

京太郎『あっそう』

咲『ごめんね京ちゃん』

京太郎『んー、どっしようかなー、なにしてもらおっかなー』

咲『えっ…なんでも…できるわけじゃないけど』

京太郎『できないんかい!』

咲『…びっくりした。京ちゃんもしかして関西に行っちゃった?』

京太郎『なんでやねん』

咲『…今日ネイティブの関西弁聞いたばっかりだからはっきりわかるんだけど、全然だね』

京太郎『辛辣ー』


京太郎『…ふと思ったんだけど、言っていい?』

咲『…いいよ。なに?』

京太郎『なんか悩んでる?人間関係とかさ…』

咲『…誰が?私?』

京太郎『そう。…あれ?』

咲『…あぁそうか、私が話すと落ち着くとか言ったから…ごめんごめん、全然大丈夫だよ。先輩も優しいし、同級の子たちも仲良いし』

京太郎『なんだ、心配して損した』

咲『私は嬉しいよ。心配してくれて』

京太郎『…まあ咲だからな』

咲『…まあ京ちゃんだし』



咲『…悩みとは違うけど、かなり緊張はしてるよ。自分でストレスかけちゃってる』

京太郎『あー、わかる』

咲『お姉ちゃんとか三年間これをやってきたんだよね…緊張をほぐすコツとか聞けないかな』

京太郎『全部終わったあとだぞ、いいのか』

咲『あっ…次に生かせるから平気、へいき』

京太郎『えぇ…』

咲『忘れて?』

京太郎『おう…あでもやっぱ無理』

咲『なーんでー』

京太郎『いや、次もやる気あるんだなって』

咲『…そう、だね。うん…今回どういう結果だろうと、続けるよ、麻雀』




京太郎『そっか…うん、そうか』

咲『最近ね、…ほんと最近になってからだけど、麻雀って楽しいなって思えるようになったの』

京太郎『なんか衣先輩からそんなこと聞いた気がする』

咲『衣ちゃんが?…そっか。よかったのかな』

京太郎『俺が何か言う立場じゃないけど、嬉しそうだったよ。…これで麻雀界の未来も明るいな』

咲『だからその謎視点なに……っ、待っていつから見てたんですか部長!』

京太郎『なんだなんだ』

咲『あーもう…ごめんね京ちゃん、今日はこの辺で切り上げる』

京太郎『お、おう。大変そうだな』

咲『ほんとうだよ…じゃあね京ちゃん、明日はサポート頑張ってね』

京太郎『そっちこそ、応援はしてやれないけどさ…頑張れよ』

咲『ありがと。切るね』

京太郎『はーい』

咲『……もう部長!やっていいことと悪いことってあるでしょう!……やましいことなんてないですっ』

京太郎「切れてないじゃん…キレてるけど」
ピッ





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



菫「よく眠れたか」

淡「…とーぜん」

誠子「ほんとかー?欠伸してたけど」

淡「大丈夫だから」

誠子「そう?」

尭深「昨日は根詰めて練習してたもんね」

淡「こんつめてってなに?」

照「集中してとか,そういうこと」

淡「…たしかに集中してた。じゃないと勝てないもん」

菫「…いい心がけだ」


京太郎「皆さんいってらっしゃい。俺は控え室で待ってますから」

照「頑張ってくるから。見ててね」

京太郎「…ちゃんと見ます。いつも通り、照さんらしく打ってください」

照「うん」





淡「ねえ、…きょーたろーも来てよ」

京太郎「それは流石にダメだろ…選手じゃないんだからさ」

淡「きょーたろーだってうちのチームじゃん」

京太郎「それはそうだけど」

菫「…京太郎君をあまり困らせるんじゃないぞ、淡。もう時間も近い」

淡「…なんでダメなの、きょーたろーがうちにいるって…見せなきゃ。だって」

誠子「淡」

尭深「決まりは決まりだから、ね?…須賀君、お湯を沸かしててもらえるかな?」

京太郎「了解っす…な、淡…そういうことだし」

淡「……うん」






トタトタ バタン
京太郎「…どうしたんすかね」

菫「ナーバスになってるんじゃないかな」

京太郎「淡が?」

菫「そんなこともあるさ。全国の決勝なんて場、そうそう経験するものじゃないしな」

京太郎「まあ…」

菫「ともかく、留守番よろしく。すぐに戻るがな」

京太郎「任されました」

バタン

京太郎「さて、ポットは…っと」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







久「優希、準備はできた?調子は万全?」

優希「あとタコスの補給がまだだじぇ……」

まこ「タコス見つめてどうしたんじゃ、はよ食べんさい」

優希「…最後だから、よく味わっていただくじぇ」

久「なーに?もしかして緊張してる?」

優希「それもある。けど…」

まこ「けど?」


優希「…風越のおねーさんが毎試合わざわざ手作りして届けてくれるんだ。とてもありがたいけど…申し訳なさが先に立つんだじょ」

久「そーんな、考えすぎないでいいのに。美穂子も喜んで作ってくれてるんだし」

優希「…部長は昔から知り合いだから遠慮がないんだじぇ」

久「え…なに、私ディスられてる?」

まこ「もうちっと遠慮せいとはわしも思うが」

久「ひどい、泣いちゃう」オイオイ

まこ「嘘泣きはやめい、みっともない」

久「てへ」



優希「自分で作れるようになるか、身内に作ってもらうか…できればなんの気負いもなくかぶりつきたかった。それが今の優希ちゃんなんだじょ…おいひいじぇ」ムグムグ

久「あら、練習削ってタコス作りに回す時間あったかしら?」

優希「それは」

まこ「控えメンバーが一人でも居ればのう…学生議会のメンツに迷惑かけんで済んだかもしれんのに」

久「あんなの迷惑のうちに入らないわよ。議会長の手助けをするために人数揃えてるんだし」

まこ「いっそ清々しいのう」

久「私には褒め言葉よ、それ」

まこ「言うとれ。…久が部長じゃなきゃもっと苦労したろうし、これでも感謝はしとる。一応言うとくけど」

久「そこはお互い様よ」

まこ「はあ…食えんやつじゃ」

優希「…ごちそうさま。おいしかったじぇ、風越のおねーさん」ナムナム

久「マントも相まって修行僧みたいね」

まこ「どんな発想じゃあ…まったく」

久「優希、頑張れるかしら?」

優希「…やれることはやったんだじょ。この身燃やし尽くすじぇ」

久「熱いわねえ」




和「今日は珍しく早起きでしたね、咲さん」

咲「珍しく、ってひどいなあ」

和「冗談です。緊張してますか?」フフッ

咲「少し、かな。出番が近づくとまた違うかも。和ちゃんはいつも通りだね」

和「ここまで来たら誰と打とうと同じですから」

咲「和ちゃんらしいや」



和「ところで、昨日のお電話はどうでしたか?」

咲「…和ちゃんまでなに言い出すの?」

和「いや気になりますよ?部屋から出てまでお電話する相手なんてこう…ロマンチックな雰囲気が」

咲「今までもしてたじゃない…大した話じゃないよ。お互い頑張ろうねって」

和「ふーん、そうですか」

咲「…信じてない口ぶりだよねそれは」

和「いえいえそんな。疚しいことなんて何もないんですもんね」

咲「本当にないんだけどな…」

和「…どうですか?緊張は解れました?」

咲「…それなりにね。ありがとうって言いたくないけど」フフッ

和「いいんですよ」


>咲、和、行くわよ

「「はーい」」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



バターン
淡「帰ったよ!」

京太郎「うるさっ」

淡「ねえ見てた?会場ひっろいんだよ!」

京太郎「おう。…なに、情緒不安定なの?」

淡「じょーちょふあんてー?…なんかよくわかんないけどバカにしてるな!きょーたろーのバカ!」クワッ ガシッ

京太郎「あーうっさいうっさい」グワングワングワン

淡「かーまーえー」



尭深「湯飲みも出してくれたんだね、ありがとう」カチャカチャ コポコポ

京太郎「うっす。…ちょっとコイツ止めてほしいんですけど」グワングワングワン

尭深「淡ちゃん、めっ」

誠子「先鋒戦始まるぞー」


優希『ダブルリーチ!』


淡「あっずるい!私の!」

菫「違うだろ」


誠子「決勝もマントか…濃いな」

京太郎「帯刀してた人もいたし…今更ですよ」

誠子「…それもそうか」ウン

尭深「髪型変えたのかな」

京太郎「そういえば…どっかで見たような」




?「へくちっ」

??「…寒いと?エアコン切っか?」

?「いえ、大丈夫ですよ。それにしても優希、私は今とても感動していますよ…その姿勢、まさにすばら!」

??「出たねぇ花田のすばら」チュー

?「出たばい」

??「出たね」


菫「やはり聴牌速度は加速させてきたか…東一は動けないからな」

誠子「まっ、想定の範囲内ってことですね」

菫「そうだな。一番注意すべきなのは辻垣内だが」


>ツモ、一発!


京太郎「高ぁい!…やりますね」

淡「ぐぬぬ…ダブリー…」




優希『もういっちょ、リーチ!』チャラッ


淡「……」ギリギリギリギリ

京太郎「落ち着け」チョップ

淡「あたっ!…うぐー」


智葉『ポン』


菫「一発は消えた…が」


優希『ツモ!』パララララ


誠子「やりたい放題じゃないですか!」

菫「…いつまで続くか、だな」


恒子『片岡選手、二連続ダブリーから続けて鳴いて仕上げてきたー!これでなんと四連荘』

健夜『速度重視の手ですね。もう少し高くできたかもしれませんが』

恒子『おっとここですこやんからの厳しい一言だー!果たして彼女の耳には届いているのかー』

健夜『そんなつもりじゃないんだけど…届くわけないよね?なに言い出すの?』



淡「…安いなぁ」

京太郎「今ホッとしてるだろ」

淡「…しーらない」

尭深「どうどう」


誠子「…私が心配しすぎなんですかね。みんな余裕もって見てますけど」

菫「まだ東一だしな…直撃されたわけでもないし。どちらかと言えば自分の心配で手一杯だよ」

誠子「…すいません、一番心配しなきゃいけないのは自分でした」

菫「いや…何にしたって、照の真骨頂はここからさ」

淡「ギギギーってやつ、来る?」

菫「さあ…できるかな」



京太郎「…前から気になってたんですが、その『ギギギー』って?」

淡「えっ、知らないのー?きょーたろーのくせにー?」ウリウリ

京太郎「うざっ」

菫「意外だな。…まあ隠し球ってやつだ。去年の秋頃にようやく出してきたんだが」

京太郎「俺はあくまでも教わる側だったので。……全力の照さんのことは、ほとんど知らない」

誠子「なるほど?まあ私もたいして変わらないけどな。話に聞いているだけで詳しくは知らないよ」

淡「渋谷先輩は一緒に見たもんねー?」

尭深「…一度だけ、同卓の時に。伏せておいてって言われたから、何も言わなかったけど」

誠子「えぇー、いいなー」チェッ


玄『ツモっ』

>ドラ爆だー!






照『…ツモ』

誠子「…いつもの連荘ですねっ」

京太郎「いや…なんかおかしい」

誠子「マジ?」

京太郎「点数の上がり方が普段のと違うような…あとは雰囲気、ですけど」

菫「なかなか鋭いな。ま、そろそろ分かるんじゃないか」




優希『……』コトン

淡「それ!ロン!」ガバッ

誠子「うわぁっ…ビックリするなぁもう」

恒子『おっと王者宮永照、当たり牌を見逃しだーっ!何を考えているんだー!』

淡「…なんで?」

菫「お前…知ってるんじゃないのか」ハァ


照『…ツモ』

恒子『おおっと、同順で引いてきたーっ!チャンピオンの連続和了はまだ終わらない!』



淡「…どゆこと?」

京太郎「ツモ縛りなんですね。だから和了り方も不規則になる」

誠子「なるほど」

京太郎「でもそのメリットがわかんないな…」

淡「…そうだ、思い出した。灯りがつくんだよっ」

誠子「灯り?」

尭深「そう。一度和了るごとに扉が開いて、一つずつ灯っていく」

京太郎「いくつまでですか。八連荘?」

菫「…ある意味、そうだな」

京太郎「じゃあ…」







恒子『終局だー!やはり王者は宮永照!二位臨海に10万点近いリードをつけてみせたー!』

健夜『こーこちゃん飛ばし過ぎじゃない…?まだ先鋒だよ?』

恒子『小鍛治プロはついてこれなーい!これも年齢ゆえの衰えなのかーっ!』

健夜『アラサーだよ!?』

恒子『いつものをやったところで…やはりハイライトは宮永照の九連宝燈でしょうか?』

健夜『いつものって…そうですね。八連荘からの九連、誰も止めることが出来ませんでした。この最後の決勝のために取っておいたかのような、まさしく切り札ですね』

恒子『なるほどー。すこやんは九連宝燈和了ったことあるの?』

健夜『まあ…何度かはね。純正は流石に一回だけだけど』

恒子『えっ、なんで生きてるの?』

健夜『純正和了ったら死ぬってそれはただの迷信で…ってこのくだりさっきもやったよね?!』

恒子『すこやんが吠えたところでCM入りまーす!チャンネル変えちゃ嫌なんだからね!』キャピッ

健夜『さすがにそれはどうかと思うよ』

恒子『すこやん真顔!怖いからやめて!」



照「連荘は上手くいった。けど、他は予想以上に好きにされてしまったから決定的じゃない」モックモック

京太郎「心強い点数ですけどね」

誠子「…私みたいな大量失点があるから…ですよね…」

京太郎「あ…亦野先輩に深刻なダメージがっ!」

照「準決勝のことは気にしなくていい。ちゃんと反省も特訓もした。あとは本番頑張れば誰も何も言わない」

誠子「…頑張ります!」ビシッ



淡「菫先輩出てきたよー!」

誠子「はいはい…元気でいいよなぁ淡は」ヨッコラセ

京太郎「食べ終わったら向こう行きます?」

照「そうする。……ねえ京ちゃん」

京太郎「どうしました?」

照「…秘密にしてたの、ごめんね」

京太郎「いや…こればかりは仕方ないですよ。びっくりはしましたけど。そんなこともできるんだって」

照「…やるならここしかないって思ってた。一度知られると対策もしやすくなるだろうし、個人戦だと使い道がない」


京太郎「なるほど。…手強かったですか?」

照「…阿知賀の人。準決勝とは違う雰囲気だった。霧がかってたというか」

京太郎「霧?」

照「うん。智葉さんはいつものようにしぶとく追ってくるし」

京太郎「さとは…辻垣内さんですか、臨海の」

照「選抜チームで一緒だったから」

京太郎「へえ」



照「あと、清澄の子。東場だけだったら到底追いつけなかった」

京太郎「なんなんですかね、あれ」

照「特化してるんだね。まだ伸び代はありそうだったけど」

京太郎「マジすか」

照「うん。なんだろう…何かピースが足りてない感じ」

京太郎「ピースが埋まってたら?」

照「天和かな」

京太郎「…こっわ。鳥肌立ちましたよ」

照「私は純正九連和了ってるんだけど」

京太郎「照さんは別に怖くないじゃないですか」

照「……そっか」



>きょーたろー!テルー!


京太郎「よしっ、行きますか」スッ

照「…うん」

生存報告

空いてしまって申し訳ありません
某tuber団体の夏の企画が面白すぎるのがなんもかんも悪い()

書き溜めは進んでいるので
切りのいいところまで書けたら、できれば今週中に投稿したい






恒子『次鋒戦決着ゥー!清澄高校、緑一色ツモもあり3校との差を大きく詰めましたー!』

健夜『弘世さんは決して悪くはなかったんですが、トップ目ゆえに狙われ、その対応が後手後手になってしまいましたね。役満親被りが響く結果となりました』

恒子『臨海、阿知賀は比較的小さな点数推移となりましたね小鍛治プロ?』

健夜『…松実さんは準決勝でも打ち方に工夫が見られましたが、さらに変化を加えて洗練されたものになっていました。結果役満での失点を十分にカバーできましたね。ハオさんも独特な打ち筋で他家を翻弄していましたが…染谷さんとの相性でしょうか。対応される場面もあり点数を伸ばせませんでした』

恒子『準決勝の反省を踏まえて各校対策を敷いてきたということかーっ!このあとすぐ、中堅戦っ!』


ガチャ バタン
菫「…すまない」

照「…菫」

誠子「…役満はどうしようもなかったですよ」

京太郎「ツモでしたし」

菫「…役満は言葉に甘えて差し引くとしても、他の打ちまわしも良くなかった。…萎縮してしまった」




淡「もう…まだ勝ってるじゃん!ね?」

菫「淡…」

淡「ウルトラスーパーデラックスノヴァ淡ちゃんがぜんぶぶっ飛ばすんだから!そしたらぜんぶ打ち消し!」

菫「…帳消し、な」

淡「…もう!人がせっかく元気にしてあげようって思ったのに!」

菫「…わかってるよ。ありがとうな」ワッシワッシ

淡「わっ、わっ、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん!もー!」


誠子「…やれやれ」

京太郎「どうしたんすか、腕組みして」

誠子「やー…言いたいことは全部言われちゃったからね。まっ、私が言える立場かどうかは別にしてさ」



京太郎「…きっと上手くいきますよ」

誠子「そうかな…ってそれ全員に言ってない?」

京太郎「…特訓してたじゃないですか、他校対策も人一倍やって、何時間も根詰めて打ち続けて。きっとやれますよ」

誠子「…みんなそれなりにはやってくるだろうからね。できることやっただけ」

誠子「でもまあ……ありがとうね。やってみる」

京太郎「俺も応援頑張りますね」

誠子「ほどほどでいいよ、ほどほどで」ハハッ





憧(…白糸台対策は他校も把握しているみたいね、順調に場が流れていってる)コトン

明華「……ツモ」カチャ パタン

憧(困るのは打点が高いことね。さっすが風神、世界ランカーは伊達じゃないわね)

憧(『速さに打点を掛け合わせる』、付け焼き刃だけどあたしも準決よりは成長できてる。それでも…ついていくのがやっとだわ)


尭深「……ッ、ツモ!」パラララ

憧(あらら、連荘されちゃった。安いけど)

憧(でもね…)

憧「それロン!」

憧(二度目はない。そしてちゃんと点も稼ぐ…じゃないと勝てないんだから)







憧(…ここは鳴いて加速っ!)

憧「ポン!」カチャン コトン

久「それ、ロン」パラララ

憧(しまった、やっちゃった!)



憧(しかも高いし…最悪…何してんのよ新子憧)ハァ

憧(…しかしやってくれたわね、清澄の部長さん)チラッ

久「…?」チラッ





ニタッ


憧(なに今の邪悪な笑顔!こわっ)サァッ ヒキッ

憧(やだやだやだ、まだ半荘残ってるのに…ダメ。怖気付いちゃいけないのに…)ブルッ



久(…あー痛い。痛んできた。思わずしかめっ面しちゃうじゃない…最悪ね)

久(にしてもさっきの新子さん、悔しそうにこっち見てたから微笑んだのに、途端に目を逸らすなんて)

久(私に見惚れちゃった?……なんてね。上手くいってるからって調子乗りすぎよ私)イテテテ







誠子「尭深…」

京太郎「配牌運も悪いですね…字牌が揃わない」

菫「…私が言えたことじゃないが、お前の頑張りにかかっている…亦野」

誠子「…はい」

淡「わたしもいるからだいじょーぶ!」

誠子「…お前に迷惑かけたくないからな」ワシャワシャ

淡「んん…もう!ぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」ジタバタ

誠子「…うっし、いっちょやってきます!」スッ

照「…大丈夫?」

誠子「…やるしかないですから。先輩も特訓に付き合ってくださってありがとうございました。頑張ります」

照「うん…ファイト」

誠子「須賀もな…応援よろしく」

京太郎「もちろんっす」






尭深「……」チョコン

誠子「尭深?」

尭深「…誠子ちゃん。そっか、そうだよね」

誠子「…尭深は頑張ったよ。運が良くなかったのと、相手が手強かったから」

尭深「……もっと頑張ってればよかった」

誠子「…そう言われると何も言えない、けど」

尭深「ごめん」

誠子「いや…こっちこそ、ごめん」

尭深「……」

誠子「…じゃあ、いくわ」スタスタ

尭深「うん」

クルッ
誠子「…尭深の分まで頑張るよ」

尭深「え」

誠子「どんな顔してんの。そのままの意味」

尭深「……」

誠子「ね、任せといてよ」

スタスタ

尭深「…誠子ちゃん」




恒子『追い上げられた白糸台!もはや風前の灯かぁ!?副将戦から目が離せないぃぃぃっ!』

健夜『亦野さんが準決勝の雪辱を晴らせるか、注目したいところですね。臨海の…』



ダヴァン「ヨロシク」

誠子「うっす」

灼「……」キュッ

和「よろしくお願いします」ペコッ




誠子(メガン・ダヴァンは白水とは遜色ない…いや上かもしれない。鷺森は当然手強いし、清澄の一年……原村はなんだ、マシーンか?落ち着きが一年とは思えない)

カタン カタン


誠子(…私の実力がなんなら一番下、なのかもしれないけど)

誠子(それならそれなりの戦い方がある…そのために準備してきた)

誠子「ポン!」カチャッ

ダヴァン「……」コトン

誠子(メガン・ダヴァンは聴牌した時の和了率が異様に高い。言い換えると聴牌さえさせなければ、速度で勝てばやり合える。…照先輩の受け売りなんだけど)

灼「…チー」カチャッ

誠子(筒子が集まりやすい…得意な待ちはあるけど変えても和了できるのが厄介なんだよな…)

誠子(でも今日の私は彼女をみくびったりしてない。あの時とは違う)

和「……」コトン

誠子「それポン!」カチャッ

誠子(他家を意に介さず黙々と打っていくから強い…でもそれは弱さでもあるよ、私のドラ自風を簡単に鳴かせてもらえるなんてね)

誠子(そして鳴ければ…私だって強い!)

誠子「ポン!」

誠子(まずは…一発!)

誠子「…ツモ、6000オール!」







照「…臨海の人の能力と誠子の打ち方は相性がいい」

京太郎「自分と他家が聴牌してると直撃が取れる…みたいなのでしたっけ」

照「だいたいは。もう少し何かあるみたいだけど…発動は任意。何巡後かに当たり牌を掴ませるとか、その辺りだと思う」

菫「なるほど。亦野はまずリーチしないから掴まされても抱え込めるということか」

照「うん。…それに」

照「何より誠子は“フィッシャー”だからね」





ダヴァン(これでテンパイ、と…そして張ってマスね白糸台も)

ダヴァン(リーチすれば逆転も見える)

ダヴァン(なら…悪いデスけど追いつかせてもらいマス!決闘(デュエル)!)

ダヴァン「リーチ」チャラッ









誠子(…釣れた)

誠子(私だって鳴かなきゃ和了れないわけじゃないんだ。前は普通に打ってたんだし)

誠子(だから『三鳴きしないと和了できない』っていうミスリードが効くと思った。だけど清澄はそんなの気にしてないみたいだし、どうやらこのメガン・ダヴァンは私が聴牌してると気づいてる)

誠子(…まあ照先輩からそういうことは聞いてたから想定内なんだけど)



誠子(そしてダヴァンは私の撒き餌に引っかかってリーチ。そりゃあ点数上げたいから誰だってそうする。私はしないけど)

誠子(ここで私がするべきは…そう、その牌!)

誠子「チー!」カチャッ






恒子『おおっとぉぉ!亦野選手無駄鳴きで聴牌を外したぁぁ!何を考えているぅぅぅぅ!』


ダヴァン(ンナッ!)

ダヴァン(holy sh◯t!…って叫びかけマシタね。銃もWestern Americaも掻き消えて)

ダヴァン(ここは川…デスか)


誠子「ポン!」カチャッ

パシャ

ダヴァン(ナルホド、あのテンパイはdummyの餌だったわけデス)

ダヴァン(あのFisherが落とすはずだった私の和了り牌は他家に流れてしまいマシタ…ベタオリしているようデスし多分出てこナイ)

カチャッ

ダヴァン(…そして、こういう時に来る牌はたいてい“掴まされた”ヤツなんデスよ)

コトン

誠子「ロンッ!」
パシャン

ダヴァン(……ヤレヤレ、私もマダマダってところデスね、これはサトハから一喝もらっても仕方がナイ)







ガチャ
誠子「…ただいま戻りました」

京太郎「先輩!やりましたねっ!」ガタッ

照「…よかったよ。本当によかった」パチパチ

菫「ああ、今までで一番いい打ちっぷりだった。点数どうこうではなくてね」

誠子「そ、そうっすか?」



尭深「…誠子ちゃん」

誠子「任せろって言ったでしょ?」

尭深「……」グスン

誠子「尭深、泣くなって」ポンポン

尭深「そんなこと…言ったって」ヒッグヒッグ

誠子「あーよしよし」

堯深「重ね重ねご迷惑かけました」フカブカ

誠子「気にすんなって。落ち着いて良かった」

堯深「お茶、淹れるね」

誠子「ありがと。…淡はもう出たんですね」

菫「途中で会わなかったのか?」

照「お手洗い寄っていくって言ってたから」

誠子「ああ、それで…まあ淡は迷子にはならないでしょう」

菫「それはそう。淡はな」

照「……」


京太郎「それはともかく、淡は大丈夫ですかね」

菫「…というと?」

京太郎「朝も様子が少しおかしかったじゃないですか。帰ってきたら持ち直してましたけど」

誠子「あの…そのことなんですけど」

菫「なんだ?」

誠子「あいつに訊ねても『大丈夫』としか返ってこなかったんですが…どうも一昨日のことを引きずってるようで」

尭深「一昨日…?」

照「私が話したこと。だよね?」

誠子「…はい」

照「…そうだと思った」








淡「……」テクテク



淡「……」スタスタ

淡(…亦野先輩に会わなくてよかった)

淡(だって全然見てなかったし。…先輩が何点取られようが取ろうが関係ない。私が勝てばいいんだもん)

淡(そう…宮永咲に)







菫「どういうことだ?」

照「昨日淡の最終調整に付き合ったんだけど…とても気合いが入ってて」

尭深「それは確かに…すごく熱心そうでしたけど」

照「うん。何かに急かされているような、誰かより何がなんでも強くなりたいっていう貪欲さ」

照「私の前だから口に出しては言わないけど、その相手は咲だった」

京太郎「あの話を聞いて?…なんで咲なんか」










淡(…勝つ)

淡(私よりも先にきょーたろーと会ってて、きょーたろーのこと知ってて)

淡(そんなの許さない)

淡(きょーたろーは白糸台の子なんだから)

淡(だから…私の居場所を取らないで!)
カツカツカツ





誠子「…まあ、あいつ須賀に結構懐いてただろ?宮永先輩にもさ…妹分みたいな感じ」

京太郎「んまあ…そっすね」

誠子「だから自分の立ち位置が危ういと思ったんじゃないかな。ライバル視、っていうか。それにあいつ、気に食わなかったら麻雀でぶっ飛ばすって思考パターンじゃん?」

菫「それはそうだな」






淡(だからぜったいぶっ飛ばす。どうにもならなくなるまでぶっ潰す)





照「…対抗心を燃やすのは悪いことじゃない…勝負だから。強い気持ちに結果が伴うこともある」

照「でも麻雀って四人でするものだから。視野が狭くなってなければいいけど」





淡(そして優勝も私がもらう。私なら取れる!)
バァーン


ガチャ ギギギギギ



ネリー「遅かったね。待ちくたびれちゃった」

穏乃「ぃよぉーっし!打つぞー!」

咲「……よろしくお願いします」


淡「…よろしく」ギロッ

咲「……」

ネリー「怖い顔して。緊張してるのかな」

淡「違うっ」ガルルル

穏乃「まあまあ、とにかく打ちましょー?この四人で打つなんて二度とないかもしれないし。一期一会!」

淡「…そうだね。早く打と」ガタッ

ネリー「フフッ」

咲「……」




淡「…リーチ」チャラッ


恒子『まさしく電光石火、東一からダブルリーチだーっ!』


淡(まずは力を見せつける。…ゼツボウしちゃえ)

コトン コトン

淡「カンッ」カチャッ
コトン

恒子『おーっと、なんと槓ドラモロ乗りだー!』

健夜『準決勝では裏が乗ってましたが、もし乗るとすれば』





パシッ
淡「…ツ、モ」パララッ

恒子『その裏が…乗っているー!大星淡いきなり三倍満ツモ!大幅に突き放したーっ!』






ネリー(…やるね。予想以上)

ネリー(想定内ではあるけどね…今は我慢)



穏乃(…準決勝の時とも雰囲気が違う)

穏乃(星空?…ううん、これは宇宙そのもの)

穏乃(…もっと高く登らなきゃ、手が届かない!)



咲(……なるほど)


淡「……」コトン

恒子『おっとー?今度はダブリーせずに聴牌外し!』

健夜『なにかやろうとしてますね』


淡「ポン」カチャッ

ネリー(白ポン…丁度いい、捨てておこう)コトン

淡「カンッ」

ネリー「え」

淡「…ツモ」




恒子『これは驚いたー!決勝卓で嶺上開花を咲かせたのは、なんと大星淡!』

健夜『…なるほど』






誠子「淡…お前嶺上開花もできるのか」

照「……」

菫「目先を変えるのは悪くはないが…しかし」

尭深「意識し過ぎ、ですか」

菫「まあ…わざわざ見せつけたんだからな。それに安くなってちゃあまり効果的とは」

京太郎(たまたま出来たっていう可能性を考えないところ、信頼されてるというかなんというか)




穏乃(…すっご!宮永さんだけじゃなかったんだ)

穏乃(でもでも…私もこの場所でなら追いつける!そんな気がする)


ネリー(…やられた。さほど高くないから助かったけど)

ネリー(まったく、メグがもっとしっかりしてれば楽だったのにさ…追いかける方が楽しいけど)

ネリー(でもネリーだってできることとできないことがあるんだから、あんまり抵抗しないでほしいなぁ)

ネリー(…ここからはネリーのターンだからね)フフン



咲(……)

咲(…ふぅん)




淡(よし、これで私の親番!)

淡(…あれ、テンパイ…じゃない)




ネリー(今日の波はこの最序盤、そして第二波だってある)

ネリー(…あんまりしょっちゅうは出したくないけどね、この感じ)

ネリー(とにかくここで白糸台を削る。邪魔したりしないよね…ミヤナガサキ)

ネリー「ツモ」






淡(またテンパイじゃない…こっちのちっこいのが邪魔してるのか)

淡(困るんだよねそういうの。私は宮永咲を倒したいだけ)コトン



淡(これで…ポンしたらカン、リンシャンカイホー。これぞカンペキ、なんちゃって)テヘ

穏乃「……」コトン

淡「ポンッ」カチャッ コトン

ネリー「それ、ロンだよ。よそ見してた?」

淡「…は?」




恒子『ネリー選手、二局続けて三倍満ンンンン!ラスから一気に白糸台に肉薄してきたぁぁぁっ!』

健夜『肉薄は言い過ぎかな…跳満直撃で逆転ですね』

恒子『そんな小さいこと気にするからすこやんモテないんだ』

健夜『小さくないからね!?実況だよ実況!自覚してるの!?』




尭深「…止められませんね」

照「…淡は。他家はあえて止めなかったのかも」

京太郎「絶対安全圏も臨海の人には突破されてますしね。気づいてればいいんですけど」

菫「親被りも痛いがロンされたのがな…」

誠子「淡…」



照「でも、次は止まる。臨海を野放しにするわけにはいかないだろうから」

菫「だといいがな」

照「…止まるよ」

京太郎「…どういうこと、あっ…準決と同じですか」








咲「…ツモ、嶺上開花」


恒子『やはり花を咲かせた宮永咲、ここで親満ツモ!』

健夜『動じていませんね。この後も楽しみです』




咲(ふぅっ、ちょっと安心しちゃった)

ネリー「……」ジトー

咲(ごめんねネリーさん、大星さんを削ってくれたことは感謝するけど、これ以上稼がれてもこちらにメリットがないから)

淡「……」

咲(…私だって負けないよ、大星さん)






ガチャッ
誠子「戻りましたー」

京太郎「お疲れ様です」

尭深「淡ちゃん、どうだった?」

誠子「んんー…伝えることは伝えたよ。真面目な顔して聞いてはいたけど」

菫「けど?」

誠子「どこかこう、意識がどこか遠くにあるような…あいつが私相手に神妙な顔してる方がおかしいでしょう?」

尭深「確かに」

誠子「そこはフォローするとこでしょうが!」

尭深「ごめんなさい」

京太郎「落ち着いてください先輩」

誠子「いやそんなマジにならないで、わたしが悪かったから」


照「…最善は尽くした。あとは待つしかない」

菫「そうだな」

誠子「先輩方みたいにどっしり構えられればいいんですけど」

菫「お前たちがいるからこうしていられるんだよ。上がしっかりしていないとな」

誠子「…そういうのさらっと言えるのがすごいんですよ」


京太郎(そんな先輩たちに応えるのが後輩の役目じゃないか)

京太郎(頼むぞ…淡)






恒子『ここまで前半戦と似た展開になっています』

健夜『手が総じて安くなってますが…東一局、大星さんはダブリーしましたが跳満止まり。次いで連荘、その後ネリーさんが和了りましたがいずれも安手でした』

恒子『様子を伺っている感じ?』

健夜『いえ…やりたいことができていないというか、何かに縛られているというか』

恒子『?…ともかく大将戦も大詰めです!』

健夜『そこはもうちょっと突っ込んでくるとこだよこーこちゃん…』





ネリー(…まずい)

ネリー(見失ったよタカカモシズノ!)

ネリー(…見間違った?…違う)

ネリー(見損なった…じゃなくて、そう、見誤った!)

ネリー(……そんなこと言ってる場合じゃなくて)


ネリー(基本ネリーは鈍感というか気にしないほうなんだけど、今はっきり感じ取れる)

ネリー(このままじゃ最後に貯めた波でもろくに和了れない)

ネリー(……はあ。せめてもう一つくらい見せ場を作らなきゃか。スポンサーのご機嫌取りの足しくらいにはね)

ネリー(…メグには悪いけど、ネリーは十分追い上げたし)

ネリー(…ハァ)



ネリー「…リーチ」ゴッ

恒子『ネリー選手、早い巡目でのリーチ!しかも高いぞー!』




咲(…今までとはちょっと違うかな)コトン


穏乃(…すごい。すごいよネリーさん。構わず突っ込んでくるなんて)

穏乃(くぅー!ワクワクしちゃうな)コトン


淡「……」

淡(突破されてるって、そういえば亦野先輩が言ってたような。どうだっけ)

淡(…みんな私のジャマばっかりして!)コトン


コトン コトン

ネリー「…ツモ!」パララッ

カチャン

恒子『裏は…乗らない!倍満止まり!しかし逆転には十分だっ!ついに白糸台が首位を明け渡したぁぁぁっ!』

健夜『気迫で和了りきりましたね。ネリーさんにしては珍しい光景かもしれません』







ネリー(ハァ…ハァ……ちょっと無理しちゃった)

ネリー(…せめてもう一局)







淡(…させないよ)ゴゴゴ

淡(もうガマンできない。…始末する)ドドドドドド





恒子『すこやんすこやん、大星さんの手ヤバイよ、ダブル狙えるんじゃない?!』

健夜『ダブル役満は採用されてないから』

恒子『…そうだっけ?』

健夜『どちらにせよ普通は鳴いていくんですが…もしかすると珍しいものが見れるかもしれませんね』


穏乃(…うわうわうわ!大星さんの手が)コトン

咲(…奥の手かな。連発されなければいいけどな)コトン


ネリー(…どうにか繋がった。かき集めてたぐりよせて、仕上げきった)

ネリー(ここも…曲げる!)

ネリー「リーチ」カチャッ


淡「…ロン」

ネリー「えっ」

恒子『出てしまったー!しかしこれは読みようがない!』

健夜『暗刻になった字牌も捨てていましたから、カモフラージュになりましたね』



  ___________________________   __
 │  │  │  │  │  │  │  │  │  │  │  │  │  | |  |
 │東│東│南│南│西│西│北│北│  │  │發│發│中| |中|


恒子『字一色、いや大七星!白糸台再逆転!そして大きく突き放したぁぁぁっ!』

淡「……」ニヤッ





ネリー(…うかつな…でもここしかなかった。けど)

ネリー(……)

ネリー(そっか…負けたくなかったんだ、ネリー)









京太郎「よし!」ガッツポ

誠子「この和了りは大きいぞ!」パチパチ

菫「…やったな」

照「……」

尭深「…照先輩?」

照「…和了できたのは良かった。タイミングはもう少し後でも良かったけど」

照「ただ臨海から和了する必要はなかった。咲から直撃取るのがベスト、高鴨さんでもだいぶ楽になれたはず」

誠子「手厳しいですね」

照「淡はそれくらいできる子だから。それにここからが本当の勝負所」





淡(これで一人黙らせた。あとは…)

淡「……」カチッ

淡(テンパイじゃないのはまあゆるすとして…霧?阿知賀の?)

淡(…イヤなカンジ)


咲(…なんだろう、空気が薄い…山の中?)

咲(そっか、これが高鴨さんの…)


穏乃(…よし)

穏乃(あったまってきたよ)
ズモモモモ








穏乃「来た!ツモ!」パララッ


『止まりません!ここまでいいところがなかった阿知賀の快進撃!』

『前半ラス付近でそこそこの和了りはあったよこーこちゃん』

『…忘れてたぁ!とにかく快進撃です!』



菫「…高鴨には気を付けろと伝えたか」

誠子「はい、それはもう念入りに」

菫「そうか。…そうだよな」

京太郎「…多分淡なりに、なんとかしようとしてるはずなんです」

堯深「…うん」

照「……」





淡「……」カチャッ

淡(…よし、これでリンシャンカイホー)

淡「カンッ!」カチャッ
スッ

淡「ツ……」

淡(違う!?)コトン


穏乃「ロンッ!」

恒子『ただの喰いタンがカンのおかげで満貫直撃ィー!』

健夜『…不用意でしたね』



ネリー(…とか言ってるんだろうけど違うね。カンされたら乗ると知ってて手を作った)

ネリー(なんなら自分でカンすればいいんだから……嫌になっちゃうよね)

ネリー(ネリーがそんなこと言うかって感じだろうけど)

リーチ! チャラッ

ネリー「ポン」

ネリー(…一発消しくらいはさせてよ)




尭深「…さっきの役満の分の稼ぎがほぼ無くなりましたね」

京太郎「……もう一回、とはいかないですかね」

照「…0%じゃない、とは。もう狙ってはできないと思うけど」

誠子「そうっすか…」



菫「…あいつのふんばりに賭けるしかない。まだ辛うじてリードしてるわけだから」

京太郎「…そうっすよ、まだ負けてない」

誠子「…だな。がんばれ淡」

尭深「淡ちゃん…」


咲「カン」カチャッ
コトン

穏乃(リンシャン…じゃない、そうだよね。見えなくなってるはずなんだ)


淡(…なんだ、一緒じゃん)


ネリー(…何かある)




咲「ツモ」パララッ

淡「やっす」

穏乃(あ!思っても言わなかったことを!…連荘続かなかったか)


淡「すみません間違えました」

淡(思わず言っちゃったけどやっす!そんなんじゃ逆転は遠いよ?)フッ




咲(よし、調整完了)





恒子『泣いても笑ってもこのオーラス!一位の白糸台が親番、本当にこの局で優勝が決まります!』





穏乃(登る、登る、登るッ!)

穏乃(体が軽いし頭が冴えてる!今なら星だって掴める!もう目の前だ!)



淡(…なんでこんなにぐちゃぐちゃなの?)

淡(…わかんない)

淡(安い手で和了れば、…いやテンパイさえして流しちゃえばそれで解決なのに)

淡(…そのやりかたがわかんないよ)




ネリー(集中砲火にあって飛ばされないだけ有情だね。生温いとも言うけど)

ネリー(ネリーだって頑張って避けたからまあ…なんならむしろトップ目とは詰まってるくらいだし)

ネリー(…完全に無力化されてるみたいですごく腹立たしいけど)

ネリー(…あっ)

穏乃(これで引き込めばッ……)

穏乃(なに、これ……)

穏乃(いつの間に王牌が…)ゾワッ







咲「……」ゴゴゴゴゴゴ



咲「…カン」カチャッ

淡(やめて)

咲「カン」カチャッ

淡(やめてってば!)

咲「もう一個、カン!」カチャッ

淡(とまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)






咲「ツモ。嶺上開花、ホンイツトイトイ三暗刻三槓子ドラ4、数え役満」



※麻雀は雰囲気で書いてるのでミスは勘弁してください

今週中と言いながら週末2つ越えてんのどうかしてますね、見て気づいた

とりあえず生存報告
今月死ぬほど忙しいので投稿できません
来月はじめにはどうにか…どうだろ

読み返したら原作同様5決の直後に決勝設定なのに
>>135あたりで朝からやってるふうで書いてました、全然気が付かなかった

遅くなりましたが続き投下します





咲「ツモ。嶺上開花、ホンイツトイトイ三暗刻三槓子ドラ4、数え役満」









『き、決まったぁぁぁぁぁぁぁっ!目まぐるしい展開の大将戦、最後に勝負を決めたのはなんと嶺上開花での数え役満、勝ったのは初出場の長野、清澄!』


『二位は十年ぶりの復活、最後の怒涛の追い上げが印象的な奈良・阿知賀女子。三位に臨海、四位に白糸台と強豪の東京勢が後塵を拝する結果になりました』






照「……負けちゃった」

菫「……淡で負けるなら、仕方ない」

照「…そうだね」

京太郎「…俺、迎えに行ってきます!」

誠子「っ、わたしも行く!」
ドタドタ
バタン


尭深「……」

菫「…責任を感じるか?」

尭深「それは…」

菫「それでいい。そうやって強くなればいいんだ。な?」

尭深「でも!……先輩たちの、だって…さいごの…」

菫「泣くなよ。…私まで泣きたくなるだろ」

ポロッ ツー





照「……」

照(できることは、やった。でも及ばなかった)

照(…相手が咲だったから、負けたのか)

照(だとすれば……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

京太郎「…いますね」チラッ

誠子「終わってからずっとああなのかな…卓に突っ伏して」

京太郎「あわいー!戻るぞー!」

淡「……」モゾモゾ

誠子「呼んでこっち来たら苦労しないよ」

京太郎「すません」



誠子「ま、いつまでも会場に居座るわけにはいかないしな…」

京太郎「俺、入っても大丈夫ですかね」

誠子「うーん……」


誠子「…あのさ、売店かコンビニ行って淡の好きそうなの買っといてよ。それで先に戻ってて」

京太郎「いいんすか?淡に直接渡してもいいですけど」

誠子「…淡にもいろいろあるから」

京太郎「…先輩がそう言うなら」

誠子「あっ、みんなで食べれるようなものにしといてね。お金は部費からか、最悪私が後で出すから」

京太郎「了解っす。じゃ、淡をよろしくお願いします」ペコッ

誠子「おう」




誠子「さて……手がかかる後輩よ」フッ



スタスタ
誠子「淡」

淡「……」

誠子「須賀に泣き顔は見せたくないだろ」

淡「ないて…ひぐん、ないもん」

誠子「はいはい」クスッ




淡「…みんなおこってるでしょ」

誠子「さあね。…いや、怒ってはないんじゃないかな」

淡「どうして?私が悪いじゃん」

誠子「…それぞれ責任を感じてるからね」

淡「…先輩も?」

誠子「もちろん。もっと点取れるところあったなとか、お前への伝令でもっと良い言い方があったんじゃないかとか、…なんなら準決勝で善戦してたら違う展開もあったんじゃないかとかさ」

淡「…負けたの私のせいだよ?」

誠子「……チームで戦うって、こういうことなんだよ、淡」







コンコンコン
京太郎「はーい」

誠子「戻りましたー」
ガチャッ

誠子「どうも、お待たせしちゃって」

淡「……」


菫「おかえり、淡」

淡「ごめんなさい!」
ガタッ ペコッ

京太郎「淡……」


淡「ぜんぶ、ぜんぶ私が悪いの!だから、だから…」


照「……」スッ

照「…淡」

淡「テルー…わたしのせいで」

照「淡、それは傲慢だよ」

淡「…ごう、まん?」



照「…自分一人でぜんぶ背負えるほど私たちは強くない。だから仲間をつくる」

照「淡、淡は確かに強いよ。でもそれは淡だけの強さじゃないし、なにより限度がある。知ってた?」

淡「……」

照「…覚えておいて。そうすれば淡はもっと強くなれる」

淡「…うん」

照「淡はよく頑張ったよ、ありがとう」

淡「頑張った、がんばったけど…うう、うわーん!」ヒシッ

照「……」ナデナデ




尭深「落ち着いた?お茶どうぞ」スッ

淡「ありがとうタカミー。…すき」ヒッグ

尭深「どういたしまして」ニコッ



誠子「…私じゃ力不足でした」

菫「お前なりの気遣いは伝わってるさ、大丈夫」

誠子「…そうですかね」

菫「亦野が淡を迎えに行こうとすぐに動いてくれたこと、私は嬉しかったよ」

誠子「……!あれは須賀が…ありがとうございます」ペコッ





京太郎「美味いか?」

淡「…うん」

照「……」ハムハム

尭深「おかわりもありますよー」

菫「ありがとう。……そうそう、この後のことだが」

京太郎「パーティーだぞ、淡」

淡「…え?」

菫「…まあ、そんなところだ。残念パーティーとでも言おうか、部費からどうにか捻出してみんなで外食するんだが…淡、どこに食べに行きたい?」




淡「え?あ…うれしいけど、なんで私?」

京太郎「食べに行きたいって言ってたじゃん、お前」

尭深「須賀くんから聞いたから、じゃあみんなで行こうよってなったんだよ」

誠子(あっ…)

淡「……きょーたろーのばか」ボソボソ

菫「ん?」

淡「…ううん。お寿司!寿司食べたい!」

誠子「お、いいねえ寿司」

京太郎「贅沢だなあ」

淡「…食べたくないんだったら来なくていいよっ」

京太郎「ウソウソ、行くってー」

菫「…まあ、回転寿司ならなんとかなるか」

照「回転寿司……ケーキ回ってくる?」

尭深「店によってはあるかもです」フフッ

照「よし行こう」ガタッ

菫「こらこら」


明日もちょろっと投下予定






京太郎「サーモンうまっ」

淡「あっそれ私が取ってたやつ!」

京太郎「お前の皿そこにあるじゃん」

淡「え。…ほんとだ」

京太郎「食い意地張ってんな相変わらず」

淡「な、何をー!」


尭深「淡ちゃーん、私届かないからお茶入れてもらえるかな?」

誠子「私のもお願い!」

淡「えー…しかたないなー」

誠子「よっ、日本一!」

淡「それはちょっとよくわかんない」

誠子「あ、すいません」



照「ケーキ!……行っちゃった」

菫「いいから先に寿司食べろ寿司」

照「むー」









菫「…ここで先に言っておこうと思うんだが」

京太郎「…お会計のことですか?俺食べすぎたんじゃないかって」

菫「ぷっ……違う違う、…くくく」

照「…私も満足した」

誠子「照先輩だけデザートばかり食べてた印象なんですが」

照「3種のケーキと杏仁豆腐…美味しかったよ」キラッ

淡「ケーキおいしかったけど…テルーみたいにたくさん食べれないや」ケフッ

尭深「はしたないよ淡ちゃん」

淡「ごめんなさーい」

菫「…ああ、急に面白いこと言わないでくれ。不意を突かれた」

京太郎「そんなつもりじゃなかったんですけどね…」




菫「さて仕切り直して……次の部長なんだが、亦野に託そうと思っている」

誠子「…え」




京太郎「いいじゃないですか。よっ、部長!」

尭深「誠子ちゃんなら安心。頑張ろうね」


菫「え、ってなんだ亦野。気がついてなかったとか言わないだろうな」

誠子「いやいやいや、そりゃあわかってましたよ…段取りとか他校との交流とか、いろいろみっちりと学ばされたのでそういう流れとは。でもそうじゃなくて」

淡「自信、ないの?」

誠子「自信…まあそれもあるかな。みんながそんなに受け入れてくれるなんて思わなかったから…虎姫内だけだけどさ。私、お世辞にも強いとは言えないし」





照「……誠子は強いよ」

誠子「え?」

淡「そうだよ、亦野先輩強いじゃん」

照「大舞台でちゃんと仕事ができる人が弱いわけない。ただ点が取れるってだけじゃなくてね」

菫「そういうことだ。お前なら白糸台をまとめていける、これからも全国の舞台に皆を引っ張っていけると思ったんだ…尭深、淡、そして京太郎君はしっかり支えてやってほしい。一人でこなせるほど簡単な仕事じゃないからな」

誠子「先輩…」






淡「よし、カンパイしよっ」

誠子「…いやお前が仕切るんかいっ」

尭深「まあまあ。せっかくだし」

京太郎「じゃあ…音頭は部長に」

誠子「どっちだよっ」

照「…いいツッコミ」

菫「では僭越ながら…新しい部長と麻雀部の良き未来を願って!」

カンパーイ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二日後



京太郎「頑張れよ淡。団体戦のリベンジだ」ポンポン

淡「そんなの言われなくてもわかってるし」

京太郎「ならいいけど」

淡「……きょーたろーもさ。せいぜい頑張りなよ」

京太郎「おう。やるだけやってみる」ニカッ



誠子「私たちは応援するしかできないのが歯痒いんですが…」

照「…大丈夫。今まで十分助けてもらった。あとは私がやる番」

菫「少し緊張してるな、照」

照「…さすがにね」



尭深「ずっと一人だけど大丈夫かな?」

京太郎「淡じゃないんですから」

尭深「それもそうか」

淡「なんだとー!」

京太郎「まあまあ…早く戻ってこないように頑張ります」

尭深「頑張って」フフッ








久「…案外ヒマね、見てるだけって」

優希「後輩二人が頑張ってる時になんてことを」

まこ「まあ、何もしようがないという点では同意するがの。自分が出たかったか」

久「できればね。でも…身に余る経験できたし、それを言うのは贅沢ってものよ」

衣「そうだぞ!」ヒョコッ

まこ「…おうびっくりした。聞いておったんか」

透華「この距離にいて聞かないほうが難しいくらいですわ…身を入れて応援しませんこと?」

久「反省してまーす」

まこ「おい。というかあんたはヒマでええんじゃ。安静にせい…痛々しいわ」

久「なになに、心配してくれるの?」

まこ「当たり前じゃろうがアホ。一言も言わんとか本当もう…」



優希「池田!おねーさんの応援するじょ!」

華菜「こらチビ!…と言いたいがキャプテンのことなら話は別だし!一緒に見るか!」

優希「おう!」ニカッ


純「オレらは京太郎もだな」

一「もちろん。見逃してなんてやらないよ」ウズウズ

智紀「テンション高…私も応援するけど」

純「ぶっちゃけどこまでいけると思う?京太郎」

智紀「難しい質問。男子のレベル、よくわかんないし。一緒に打ったのもだいぶ前だし」

一「予選突破は堅いと思うなー」

智紀「そう?」

純「あ、智紀は知らないんだっけ。こいつずっとネト麻で繋がってたらしくてさ」

一「ちょっ、それここで言う必要ある?」

純「そりゃあ最新の雀力知ってる方が正確に言えるじゃねえか。別に後ろめたいことないだろ?」ニヤニヤ

一「無いよそりゃ!」

智紀「道理で仲良いわけ…謎は解けた」フンフン

純「ちな最後に一緒に打ったのいつ?」

一「…二週間前」

智紀「…大会直前か」

純「ガチじゃん」

一「ガチって何さ!」

続きは多分来月下旬です
皆様良いお年を






一「ほらね」フフン

純「割と余裕で突破してんじゃん。やったね」

一「まっ、これくらいはやってくれないと」ニコニコ

智紀(すごく嬉しそう…嬉しいのは私もそうだけど)


衣「よし!皆勝ち上がったな!」ピョンピョン

透華「やりましたわね」

衣「とーか、やるぞ!」フリフリ

透華「?…なるほど、いきますわよ」

ハイタッチ パチン
「「いぇーい!」」

透華「ですわ」フフッ



久「美穂子やるわねー、団体戦出場の有力選手に混じって上位で突破じゃない」

華菜「そうだろそうだろ、もっと褒めるがいいし!」ドヤァ

優希「もっと褒めるがいいじぇ!」フンス

まこ「なしておんしまで便乗しとるんじゃ…」


久「リーグ戦とかレート戦になると俄然強いのよね。安定して取りこぼさないから…いいところまで行くんじゃないかしら」

華菜「さっすが優勝校の部長、話がわかるし!…でもキャプテンは短期決戦でも十分強いぞ」

優希「このゆーきちゃんを手玉に取ったんだから間違いないじぇ…」

まこ「それはそうじゃ」


華菜「…だからキャプテンがいなくなる分、あたしが頑張るしかないんだ。次回は絶対勝ち抜く」

久「勇ましいわね」ケラケラ

まこ「久は気楽でよかろうが…うちは部員集めから始めなきゃならんと言うに」

久「どっちにしたって龍門渕に勝たなきゃいけないんだし、たいして変わらないんじゃない?」

華菜「そこなんだよなぁ…」



透華「…わたしたちがいること、忘れられていますの?」

衣「…そう易々とは負けぬ、龍門渕としても…衣個人としても」

透華「来年も必ず来ますわ、今度は選手として…約束よ、衣」

衣「うん!」






「今から休憩に入ります。出場選手の皆さんは、最初にお知らせした区域内からは出ないでください。午後三時より、順位決定戦、決勝の順に行われます……」


バタン
京太郎「……ふぅ」

京太郎(こっちのロビーには…誰も出てこない。案外穴場だったりして…っと、まずはトイレトイレ)






ジャー ゴシゴシ
京太郎(…今気づいたけど、手汗すっげえや)

チラッ
京太郎(…髪よし、顔色よし、…その他もろもろは及第点で)



テクテク
京太郎(さて…戻るかもう少し時間を潰すか)


バタン ススッ
京太郎(……あれ?)

京太郎「照さん?」





照「…奇遇」

京太郎「ほんとですよ。そちらも休憩時間ですか?」

照「…あと三半荘やったら決勝。フリーな時間だから一人で本読もうと思って」チョコン

京太郎「俺、邪魔になります?」

照「大丈夫だよ。…隣、どうぞ?」

京太郎「じゃあ、失礼して」ヨッコラセ

照「失礼された」

京太郎「…余裕そうですね」フフッ

照「ひとまず勝ち抜けたから。…ほっとはしてる」

京太郎「さすが。…淡は?」

照「…あと一歩だった。この後打つからそれは見届けるつもり」

京太郎「…そっすか。悔しがってるだろうなあ」

照「うん。…京ちゃんは?」






京太郎「…俺も負けちゃいました」

照「…そっか」

京太郎「でも入賞はワンチャン、あるのかな?この後頑張らないとダメですけど」

照「…悔しい?」

京太郎「うーん……満足感はあるんですよね。ここまで来れたこと、めちゃくちゃ強い人たちと打てたこと」

京太郎「でも…もっとやれたとも感じる」

照「全然届かない、って感じじゃなかったんだね」

京太郎「…そっすね、でも方法は見えてこない」

照「……」


バタン
バタバタバタ
??「おっ」

ザザーッ
??「こんなところで、チャンピオンやんけ」

照「…どうも」

京太郎「……あなたは」

??「やー、同じ赤髪でなんとなく親近感?みたいの抱いとったんやけどな、この夏の決勝で手合わせ願えるなんて感謝カンゲキ雨嵐や、うん」

照「…あ、はい」

??「絶対負けへんで!…って普段なら言うんやけどな、さすがのうちもそこまでうぬぼれちゃいないってとこで…精一杯打たせてもらうから覚悟しとき!ほな後でな!」
タタタタタ


照「…行っちゃった」

京太郎「…ですね。俺に気づきもしなかった」

照「…お手洗いに走っていったから、そういうことだと」



京太郎「初対面、ですか?」

照「顔も名前も一応知ってる、けど…話したことはあまりない」

京太郎「なるほど」


タタタタタ
京太郎「…戻ってきた」

チラッ
??「……」フリフリフリ

京太郎「こっちに手振ってますよ」

照「う、うん」

京太郎「ほら手でも挙げて反応してあげて」

照「こ、こう?」スッ

??「……」ニッ

バタン


照「…行っちゃった」

京太郎「喜んでそうだし、いいんじゃないっすか」

照「…うん」



京太郎「決勝のメンツはもう分かってるんですか?」

照「うん…さっきの人と、咲と、あともう一人長野の人と」

京太郎「咲?咲って言いました?」

照「?…咲だよ」

京太郎「何気なく言うじゃないですか!マジか…」

照「負けるほうが驚きだと思うけど…」

京太郎「そうか…まあそれはそうですけど」

照「うん」

京太郎「楽しみ…ですね」

照「そうだね」




照「…次、……」

京太郎「つぎ?」

照「……次の試合は、いつから?」

京太郎「俺ですか?…たしか三時から再開って言ってたので、まだ余裕ありますね。なんなら初戦じゃないし」

照「…そう」





?(ほほう)キュピーン



テクテク テクテク
?「これはこれは、珍しいこともあるもんだねぇ」



京太郎「えっ……えっ」

照「三尋木プロ、ご無沙汰してます」

京太郎「す、すいませんっ、俺だけ挨拶もせずに」ガタッ

咏「あー、いいのいいの、固っ苦しいのニガテだからさ?リラックスー」ザッ

京太郎「…わ、わかりました」チョコン

京太郎(…ガチで和服で扇子常備なのか…オーラすげえ)





咏「宮永はさすが、危なげない勝ち上がりだったね。団体戦は残念だったけどさ」

照「…ありがとうございます」

咏「去年も決勝前にここで本読んでたっしょ?思い出して来てみたらさ、あの宮永がなんか男と仲良く喋ってんし」

京太郎「あの、俺は」

咏「皆まで言うな。…よく見たらチームメイトだったから一安心ってとこだね、知らんけど」

京太郎「えっ…俺のこと、知ってもらえてるんですか」

咏「そりゃあ、天下の白糸台から男子が大会に出るってなれば知っとかないとね…解説としちゃあそのくらい」

京太郎「えっ…いや、マジか……」

照「…三尋木プロ、あんまり後輩をいじめないでください」

咏「うっひょー、いい先輩やってんねぇ」ケラケラ


咏「…須賀、だっけ。どうだった、初めての全国大会は?」

京太郎「そっすね…いいところまでは行けたかなって」

咏「いいとこ、で満足していいのかー日本男児!」バシバシバシ

京太郎「す、すいません!おっしゃる通りで」

咏「…まっ、男子のトップと打つ機会なんて今までなかっただろうし頑張ったほうじゃね?知らんけど」

照「…あの」

咏「うん?」

照「京…須賀君は私たちと一緒に卓を囲んで練習してきたんです」

咏「あー、知ってる知ってる。インタビューで部長さんが言ってたっしょ?」

照「そのやり方では駄目だったってことでしょうか?」

咏「うんにゃ?そうやっていい環境の中で揉まれて…もちろん当人の努力もあるだろうしさ、それでここまで勝ち上がってこれたんじゃね?」

照「じゃあ…」

咏「だからまあ、ここからさらに上を目指すにはって話よ」



咏「…いろいろあるけど、一番はやっぱ男子と女子だと麻雀が違うんだよね」

京太郎「…それはまあ、なんとなく」

咏「わかるっしょ? 対策もしてただろうし、予選から打っていく過程で調整していったとは思うけどー」

咏「直接やり合わないとわっかんねーことってあるじゃん? 知らんけど」

照「…男子と実戦で打つべきだった、と?」

咏「今後のことも考えると必須じゃね?と思うけどねぇ」



京太郎「…そうっすね…」

咏「どうすりゃいいんだ、ってとこだろ?知り合いがいるわけでもなし」

咏「…まっ、安心しな。私が話つけとくから」

京太郎「…へ?」

咏「んな素っ頓狂な声出さなくてもいいだろ…顧問とか部長とか経由で情報いくようにしとくから、交流試合も直に組めるさ」

京太郎「な、なんで俺なんかのために」

咏「いや…こんなんだけど一応プロだし?若手発掘は責務っしょ。須賀がプロ行こうか行くまいが、高校麻雀のレベルが上がるならそれに越したことないし」

咏「まあ正直男子の方まで面倒見る義理は無いっちゃ無いけどさぁ…男の同年代は頼りねーし?爺さんたちはフットワーク遅ぇし」

照「…三尋木プロ」

咏「ああやっちったねえ…今のはオフレコでな?な?」

京太郎「あっはい」



咏「んじゃそういうわけで…邪魔して悪かったねえ。二人ともがんばんなー」フリフリ







京太郎「き、緊張した…」ヘナヘナ

照(…かわいい)

照「…こういうこともある」

京太郎「いやあ…レアケースでしょう?」

照「そうかな…学校によっては知り合いのプロに直接コーチングしてもらったりとか」

京太郎「知り合いのプロ…だと…」

照(…情報量オーバーしてる)


照「…そろそろ、戻ろうか」

京太郎「そんな時間か…そうっすね…」

照「…手、出して」

京太郎「え?はい」スッ

照「……」ギュッ

京太郎「!」

照「…ベストを尽くせるように、おまじない」

京太郎「…照さんからのなら百人力ですね」ハハッ

照「…頑張って」スッ

京太郎「照さんも」

照「うん。…じゃあね」

テクテク バタン






京太郎(…手、)

京太郎(…小さかったな)


京太郎「…よし!」






えり「夏のインハイもいよいよ大詰め、女子個人決勝はオーラス一本場。親の福路選手、先程のツモ上がりでわずかな差ですが3位浮上です」

咏「手堅いし冷静だねぇ…えりちゃんもだけどさ」

えり「…何を言い出すんですか」

咏「ラスもラスなんだからテンション高めでお送りしてもいいんじゃね?知らんけど」

えり「…無責任な発言は控えてもらえると助かります。…っとここで愛宕選手早くも聴牌ですが、逆転には足りません。張り替えていきますね」

咏「トップに跳満直撃で逆転だけど…どうなるかねぃ」

えり「トップ目はディフェンディングチャンピオン宮永照、…今のツモで手が進みました、七対子イーシャンテン」

咏「手替り見ながらだろうねぇ…一番難しいところかも」

えり「三尋木プロならどうされますか?」

咏「んー…そもそも僅差の勝負にならないように序盤でぶっ飛ばすかな!」ケラケラ

えり「…ありがとうございました」イラッ

咏「いやえりちゃんキレてるけどね、これはマジ。こういう細かいこと考えるとあったま痛くなってほんっとに嫌だから、なるべくこういうシチュエーションにならないような打ち回しになるわけでさ…えりちゃん?」

えり「…ツモは七巡目に入りました」



咲「……」

咲(カンはできる…けど、有効牌が来ない)

咲(ここまで来たんだから…!)コトン

照「ポン」

咲「!」


咲(…ちょっと焦っちゃった。でも手が進んじゃったのは事実)

咲(急ぐしかない…)スッ

咲(この牌!ここでっ)

咲「カン!」カチャッ コトン
スッ

咲(これで一向聴、…行くしか)コトン

「ロン」

咲「!」



照「…2900」

こーこちゃんって基本叫ばせればいいから書くの楽なんだと実感
2月中に書き溜められればというところです

空いて申し訳ありません
書き溜めは少々ありますが多忙ゆえ投稿来週以降になります


えり『決まりました!最後は落ち着いた和了りでディフェンディングチャンピオン宮永照、貫禄の連覇達成です!』

咏『やるねー。えりちゃんもやればできるじゃん』パタパタ





洋榎「…あー、間に合わんやったか。カンのおかげで手牌キラッキラやったんに、残念やわ」

美穂子「お疲れ様でした。…牌が光るの…?どういうことかしら」

洋榎「自分、ネト麻とかせえへん?わかりやすいようにか知らんけど、たいていドラはキラキラ光って表示されてるんや」

美穂子「まあ!そうなの。わたし…機械の類とは本当に相性が悪くて」

洋榎「はーそらもったいないわ。多分ネト麻でもええ成績出せるで?きっとうちとも勝負になるわ」

美穂子「華菜に相談すればなんとかなるかしら…」




照「…ありがとうございました」ペコリ

洋榎「チャンピオン!…やっぱ強いな。この先考えると気が重いわ」

照「…愛宕さんも。逆転手作っていたから私も急ぐしかなかった」

洋榎「あちゃー、バレとったんか…うちもまだまだやな、うん」

洋榎「…っし、あんたのこと『チャンピオン』って呼ぶの辞めるわ。そんなんやからいつまでも勝てへん」

照「……?」

洋榎「なに怪訝そうな顔しとるんや、当然プロ行くんやろ?いつか追いついて、追い越したる。楽しみにしとき、宮永」フンス

照「……うん」



美穂子「宮永さんには県予選のリベンジ、決められちゃったわね」フフッ

咲「……あっ、私か。そんな、たまたまです」

美穂子「…そう!二人とも宮永さんなのね!今気がついたわ」パチン

洋榎「ほんま、珍しいこともあるもんやなー。1、2フィニッシュやし。うちらW宮永に負けてしもたんや」

咲「あ、あはは…」

照「……」


>これより閉会式ならびに表彰式が行われます。選手の皆さんは…



美穂子「名残惜しいけど、移動しなきゃね」

洋榎「くよくよせんで胸張っていくで!あっ、宮永はそら胸張れるわな…」

美穂子「変なこと言ったらダメよ」メッ

洋榎「堪忍な!ほな行くで」

テクテク

咲「……」

照「……行こうか」

咲「!」

照「…また、ね」
テクテク

咲(…はっ、置いてかれたらまた迷子になっちゃう!)ダッ




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


都内 某駅前



京太郎「…日陰でこの暑さなのはヤバいっすね」パタパタ

菫「…ああ。十日連続で真夏日だとかなんとか」

京太郎「温暖化の影響ですか」

菫「どうだろうな…ん?」ブー

菫「…亦野からだ、席が取れたらしい」

京太郎「こっちも…着いたみたいですよ」


?「京ちゃん!」

京太郎「走んなって咲…コケたらどうすんだ」

咲「ちょっと駆け寄っただけじゃない…なに、過保護?」

京太郎「危なっかしいじゃん」

咲「私だっていつまでも子供じゃないんだよーだ」

菫「…二人とも仲が良いようで結構」

咲「ご、ごめんなさい。……あの!」

菫「なんだ?」

咲「…姉が、お世話になってます」ペコリ

菫「いや…それはこちらこそだな」フッ


まこ「…話には聞いとったが、おんしが『京ちゃん』か、なるほどのう…」

京太郎「須賀京太郎です。染谷まこさんですよね?」ペコ

まこ「お、ご丁寧にお名前までどうも」ペコ

咲「…『なるほど』ってどういうことですか」

まこ「なるほどはなるほどじゃ、それ以上でも以下でもないわ。しかし…ふぅーん…」

京太郎「…俺の顔なにか付いてます?」

まこ「いーや。後でよーく報告するよう言われとるから」

咲「はあ…部長の差し金かぁ」

まこ「人聞きの悪い…一応心配はしとったぞ、半分は興味本位じゃろうけど」

咲「ほらやっぱり!」


京太郎「…それはともかく、清澄高校の優勝、おめでとうございます。あと咲の準優勝も」

咲「…ありがとう。京ちゃんも…7位だっけ。入賞おめでとう」

京太郎「よく覚えてんじゃん」

咲「帰ってから京ちゃんの試合の映像見返したんだから」

京太郎「…それはどうも」

咲「…照れてる?」

京太郎「…ミスもあったしなぁ。正直見返したくないとこも」

咲「頑張ってたと思うけどね」


菫「さて時間のこともあるし、そろそろ移動しようと思うんだが」

京太郎「そっすね、待たせてますし。早く涼みたいし」

咲「私は京ちゃんに着いて行けばいいのかな?」

京太郎「迷子になるなよ」

咲「さすがに誰かと一緒なら大丈夫だもん」プクー

まこ「…須賀君も苦労しとったんか」

京太郎「…心中お察しします」

咲「もう!」




まこ「で…わしはどうすれば?」

菫「染谷さんは私にご同行願おうか」

京太郎「…先輩、それじゃ容疑者引っ立てる刑事ですよ」

まこ「…お礼参りされるのか?もしかして最初から罠?」

京太郎「なーんも心配ありませんから!ね!じゃ行くぞ咲」

咲「…ご武運を」グッ

まこ「えっ…待って」

菫「ダ、メ」ムンズ

>イヤーッ! サキーッ!


スタスタ
京太郎「…冗談も度が過ぎるとまずいな」

咲「…私をからかった罰だよ」フフン

京太郎「知らんけどよ、世話になってる先輩だろ?」

咲「それはそれ、これはこれ。…で、どこに連れてってくれるの?」

京太郎「ん…雀荘」




「いらっしゃいませー」

京太郎「あの、須賀で部屋を予約してるんですが」

「確認しますね。……はい、三名様でご予約の須賀様ですね。お一人すでにお待ちですので、ご案内いたします」

スタスタ
京太郎「…緊張する?」

咲「…ちょっとね」

京太郎「そう…」

咲「…京ちゃんもでしょ?」

京太郎「…バレた?」

咲「まあね。なんで?」

京太郎「…なんでだろうな」ハハッ

咲「…ねえ京ちゃん」

京太郎「ん?」

咲「ありがとうね」

京太郎「…まだ早いって」

ガチャッ ギィッ





照「……お疲れ様」パタン

京太郎「お待たせ、しました」

咲「……」オズオズ

照「暑かった?…飲み物、来るから」

コンコン ガチャッ
>失礼します、オレンジジュース3つですねー


京太郎「ありがとうございまーす」

ガチャッ


京太郎「…咲も座ったら?」

咲「…うん」

京太郎「俺たちを待っててくれたんですね、先に飲んでてもよかったのに」コトン コトン

照「…一緒じゃないと意味がないから。それに」ガサッ

京太郎「ああ…その荷物、やっぱり食べ物だったんですね」

照「ケーキ。持ち込み可なのは確認済み」グッ

京太郎「さっすが」


照「……咲」

咲「!」ビクッ

照「来てくれて、ありがとう」

咲「…ううん、こちらこそ」

京太郎「…固いなー」

咲「し、仕方ないでしょ?」

照「仕方ない。私も緊張してる」

咲「…そう、なの?」

照「そう」

京太郎「いつも通りに見えますけど」

照「…そう、見えるだけ」


照「で……麻雀、しようか」

京太郎「…唐突っすね」

照「…京ちゃんは知ってるでしょ」

京太郎「いやあ…前置きかなにかあるのかと」

照「でも打ちたいでしょう?」

京太郎「まあそれは」

咲「だいたいここまで来て麻雀しないわけないもんね」

照「それはそう。…この三人で打つことが大事、だと思ったから」

京太郎「…ケーキはどうしますか」

照「……先に食べていい?」




照「おいひい」モックモック

京太郎「オレンジジュースの酸味とこのチョコレートがよくマッチしてますね。さすが照さん」

照「ぶい」

咲(…京ちゃんこんなんだったっけ?……おいし)モグモグ




咲「…ポン」カタン スッ
コトン

京太郎「ロン、3900」パタン

咲「はい。……上手くなったね、京ちゃん」

京太郎「…うっす」

咲「…京ちゃんが敬語っぽいの、なんかむず痒い」

京太郎「それはもうしゃーないのよ、照さんにタメ口で話すと示しつかなくなるだろ?」

照「…敬語でなく話す子もいるけど」

京太郎「ああ…俺はあそこまで振り切れないなあ。ほら、咲と決勝で相手した金髪の」

咲「ああ…」

照「…いい子だよ?」

京太郎「…悪い奴じゃないんだ、ちょっと調子乗りがちで向こうみずだけど」

咲「大丈夫、ちょっと怖かったけど」

京太郎「迷惑かけたな」

咲「…京ちゃんが言うのは、なんか嫌」プクー

京太郎「えぇ…」

照「……」



照「…ツモ」

京太郎「速いっすよ」チャラッ

照「和了れるときは、ちゃんと拾わないとね」

咲「……頑張ろう」チャラッ

京太郎「ほどほどに頼むわ」

咲「京ちゃんにダメージがないくらいね」

京太郎「こうやって打ってた頃はそんなこと考えもしなかったけどなあ」

照「…楽しく打ってたから。……楽しかった?」

京太郎「そりゃあもちろん。…未練が残るくらいには、ですね」

咲「……ポン」カチャッ

京太郎「おっ、特急券」

咲「とりあえずね」コトン

照「……」

京太郎「照さん?」

照「…だから、まず京ちゃんに謝りたかった」

咲「そう、だね」

京太郎「俺?」

照「うん。私たちのことに巻き込んだのはまだしも、京ちゃんは何も悪くないから」

照「それをまず伝えたかった」

京太郎「……」



咲「…改めて言うけど、ありがとう京ちゃん」

京太郎「な、なに咲まで」

咲「京ちゃんが諦めないでいてくれたから、またこうやって卓を囲めるんだよ」

照「本当に、そう」

京太郎「……」

照「ありがとう、京ちゃん」


京太郎「……」

咲「…泣くのはまだ早いよ、京ちゃん」

京太郎「バッ、泣いてねぇし!…ズズッ……あーもう…」

照「…京ちゃん」

京太郎「…あぁ、情けねーっすねホント。はー恥ずかし」

照「これでおあいこ」

京太郎「…そっすね」

咲「えっ?」

照「あっ。…秘密」

咲「……もう」







京太郎「ポン」カチャッ

咲「はやいなあ」

京太郎「つって咲の手も進んでんだろ?」

咲「さて、どうでしょう」コトン

照「……」コトン


京太郎「テンパイ」

咲「テンパイ」

照「テンパイ」

京太郎「あぁ…単騎待ちで握られたか」

照「うん。前打った時とおなじだよね」

京太郎「…あー、わかりますよね流石に」

咲「…二人でわかんない話するのやめてくださーい」

照「……ごめん」


京太郎「…そっか、咲には言ってなかったな。俺のこと」

咲「京ちゃんの? なんかしてるのが分かるってのじゃなくて?」

京太郎「そっちじゃなくて。…咲にも関係あるけどな」

咲「私?」

照「咲から学んだって言ってもいいんじゃないかな」

京太郎「そっすね。多分」

咲「多分?……何か教えたっけ」


照「…咲のところにはカン材が集まる。そして王牌が見える。これが咲の出来ること。そうだよね?」プラマイゼロモアルケド

咲「うん。あっ、カン」カチャッ

京太郎「…片手間でカンするのやめてくれる?」

咲「つい」テヘ


照「京ちゃんができるようになったことは、それと近い部分がある」スッ

照「咲みたいに牌を引き寄せるような運はない。…けど来るかどうかは分かる」カチャッ カチャッ

咲「…合ってるの、京ちゃん」

京太郎「そりゃあ照さんは『見てる』んだから」

照「直接尋ねてないから推測だけど、鳴きがない場合に将来何かしらのカンができる時にそれが『分かる』。いつその牌が来るかは分からない」コトン

京太郎「…百点です。ぐうの音も出ない」

咲「…あ、だから前より鳴きが増えたんだ」

京太郎「そう。咲みたく嶺上開花できるかって言えばそんなことないし、他家に鳴かれても来るような運もない。でも不完全ではあるけど牌は集めやすいわけだろ?」


照「あれは…そう、みんなで雀荘に行った時だよね」

京太郎「…よく覚えてますね」

照「何度か練習で同卓はするから、京ちゃんの新しい力に関しては把握できてた。菫には報告しそびれたけど」

京太郎「…さっきの部長のことな」

咲「あ、うん」

照「そう…あの時私から直撃を取ったんだよね、きちんと狙って」

京太郎「照さんからになったのは運もありましたけどね、一応」

咲「うん…話が見えるような、そうでもないような」

照「ちゃんと説明すればわかる。……あの時京ちゃんの手元に白が来て、それがカンできるって察知した。合ってる?」

京太郎「はい。対子にまでなって、そこで他家が鳴いてズラされました」

照「ズレると他の手も読めるから割と嬉しいんだと思うけどね」

咲「…あぁ!なるほど…自分の元に四枚来るはずだった牌が、誰の手元にあるかなんとなく読めるってこと?」

京太郎「何巡目に来るかは分からんから正確じゃないけどな。可能性が増える感じ」


照「三枚目の白が出て、鳴いたらテンパイだったんだけど京ちゃんはスルー。代わりに他を鳴いて白待ちにした。4枚目の白が私のところに来るように」ポン

京太郎「東一だったから出してくれないかなと祈りも込めてですね」カチャッ コトン

照「ロン」パラララ

京太郎「…あちゃー」



咲「…じゃあ、私と練習したのも無駄じゃなかったんだ」

京太郎「無駄なんてとんでもない。もちろん龍門淵でみっちりデジタル打ちを身につけられたのも良かったんだけど、そのハイブリッドでどうにかやってきたようなもんだし」

京太郎「まあ、勝ち負けだけの話じゃなくてさ…」

照「…私が、それを見たから」

咲「…えっ?」

照「京ちゃんの中に、咲を見つけたから」


照「わたしは怖がってばかりだったのに、京ちゃんも咲も行動していた。会いたい、って気持ちを強く感じた。それも…大きかったと思う」

咲「……」

京太郎「…咲?」

咲「…そんなの、ズルいよ…」グシグシ

咲「…わたし、何もできないって思ってた」

照「…ごめんね、咲」

咲「うん……うん」







咲「…ツモ」パララララ

京太郎「普通に和了るじゃん!あーやられた」

照「…強くなったね、咲」

咲「まだまだだよ」フフッ

京太郎「いやー敵いませんなあ」ハッハッハ

咲「……私も私なりに頑張ってここに来たから、ね」

京太郎「ん。そうだな」

咲「…そうやって普通に返すのは違うじゃん!」ポカポカ

京太郎「いたいいたい」

咲「うー…」

照「……」フッ

咲「お姉ちゃん!今笑ったでしょ!」

照「見間違えじゃないかな」スンッ


京太郎「…ははっ」

咲「…んもう。楽しくなってきちゃった」



照「久しぶり…だね」

咲「ほんと。もうこんな日は来ないって思ってた」

京太郎「でも、来た」

咲「うん。……ありがとう」

京太郎「…じゃ、もう一局行きますか」








咲「え、先輩帰っちゃったんですか!」

菫「なんか呼び出しがあったとかでね。ちゃんと送って行くから安心して」

咲「あー……部長なら仕方ないです」


京太郎「…実際のところは?」ヒソヒソ

誠子「咲さんに気を遣って、ね。送ってもらえるかな?」ヒソヒソ

京太郎「…了解っす」ヒソヒソ

誠子「電車賃は部費で賄うから、領収書をもらうかメモ書きにするのを忘れないように」

京太郎「あっはい」



照「私は」

菫「居残り組にお菓子買って帰るから一緒に選んでくれるか」

照「行こう」

京太郎(ちょろい)

咲(ちょろい…お姉ちゃん)



京太郎「じゃあ、任されましたので」

菫「うん。頼んだ」

照「…咲」

咲「お姉ちゃん。……この夏にとは言わないけど、休みにでも帰ってきてね。お父さんもきっと喜ぶから」

照「…そうだね」

京太郎「…俺が一緒の方がいいかも」

咲「…それは、そうかも」

照「!……反駁の余地がない。京ちゃん、後で予定を相談しようね」

菫「切り替えが早い」


咲「それでは、…みなさんたいへんお世話になりました。今後とも姉をよろしくお願いします」ペコリ

京太郎「…っす」ペコリ

誠子「なんでお前が頭下げてんだ須賀」

京太郎「つい」テヘ

照「よろしくねみんな」テルーン

菫「あ、ああ」









ガタンゴトン ガタンゴトン

咲「…人多いね、東京」

京太郎「まあなー、白糸台はもう少し田舎だけど。疲れた?」

咲「そうだね。あと暑い」

京太郎「それ。朝から暑いのよ……今思えば長野は涼しかったんだなって」ハッ

咲「そうかも」フフッ


咲「…京ちゃんは座んないの?」

京太郎「そんな長い時間でもないし、立ちっぱなしでもいけるっしょ」

咲「…そう?」

京太郎「座ったほうがいいか?」

咲「…イヤじゃなければだけど。隣りに知らない人が来ちゃうと…ちょっとこわい」

京太郎「それもそうか。なら…よっと、お邪魔します」ヨイショ

咲「ふふっ…お邪魔されました」

京太郎「なんだよそれ」

咲「なーんでも」


咲「そうだ、ガム食べる?」

京太郎「いいね。何味?」

咲「なんだっけ、ピンク色…ベリー系? はいどうぞ」

京太郎「はいどうも」

咲「…実は今日のために買ったんだよね」

京太郎「…なに、ガム?」

咲「うん。お姉ちゃんと会話が行き詰まったら渡そうかなぁって」

京太郎「…それはちょっとおもろいかも」

咲「お、おもろい…かぁ…」

京太郎「まぁ、渡す機会なくてよかったじゃん。点棒の代わりにするくらいでさ」

咲「…怒られちゃうよ」フフッ


京太郎「そういやさ」

咲「なぁに?」

京太郎「龍門淵の人と結構仲良いじゃん。思った以上」

咲「そうかな。普通じゃない?」

京太郎「いやまぁ…普通の人なら普通なんだけどさ。咲だし」

咲「えー……まあね。しょうがないと思うよ」

京太郎「素直じゃん」

咲「『己を知れば百戦危うからず』って言うじゃない?」

京太郎「…自己分析が大事ってことか?」

咲「そんなところ。京ちゃん良く勉強してるじゃん」

京太郎「漢文だろ?」

咲「そう。…なんか嬉しいね」

京太郎「なにが?」

咲「同じこと勉強してるでしょ…遠くにいても。クラスメートみたいに、話せる」

京太郎「なるほどね。確かに」


京太郎「ほら、自分のほうから話しかけて俺のこと言ってたって聞いたからさ」

咲「あー…そうだったかも」

京太郎「どういう風の吹き回しかって思ったわ。でもさ」

咲「うん」

京太郎「なんなら自分から麻雀部に入るって言いだしたときから、か……なんていうの、しっかりしたなぁって」

咲「私?そう?」

京太郎「おう。…おどおどしなくなったっていうかさ」

咲「うーん…慣れるのって大事だなぁって気づいたかも。思い切ってやってみたら案外怖くなかった、的な?」

京太郎「……」スッ ナデナデ

咲「ふみゅっ」

京太郎「頑張ったな」

咲「……うん」プイッ



咲「…もう!そうやって女の子たちを誑かしてるんでしょ!」

京太郎「誑かすって……いや、よっぽど親しくないとさすがに」

咲「……お姉ちゃんは?」

京太郎「…えっと」

咲「…わかったから。さっきも出た言えない件」

京太郎「いやまあ…言えないようなことはしてないけど…多分」

咲「多分、ね……」

京太郎「いや、してない!点棒に誓って」

咲「なにそれ…」







咲「…まあ、仕方ないか」

咲「京ちゃん、昔からお姉ちゃんのこと好きだし」












京太郎「……えっ?」




咲「…『えっ』じゃないよ。なに、自分の気持ちにすら鈍感だってこと?」

京太郎「えっ、いや、……いやそんな」

咲「じゃあ訊くけど、胸に手を当てて考えて。最近だって、お姉ちゃんのこと可愛いって思ったことあるでしょ」

京太郎「……」

咲「一回だけじゃないよね」

京太郎「……」

咲「昔から可愛いって思ってたでしょ」

京太郎「…俺、責められてんの?」

咲「違うけど……ある意味では」

京太郎「え?」

咲「…それは置いといて、何なら自分よりお姉ちゃんの方が大切だと思ってる」

京太郎「……それは」コクン

咲「何でもしたいと思ってる。……そのくらい大切で、可愛くてしょうがない人、普通は『好き』って言うと思うよ」



京太郎「可愛くてって…」

咲「かわいいでしょ、お姉ちゃん」

京太郎「……まあ」

咲「『まあ』じゃないよ、ほんとに…」

京太郎「…咲から見ても、そう見える?」

咲「好きで追いかけて行ったってこと?…まあ、そう見られてもおかしくないよね、とは」

京太郎「そう、か…」

咲「今までも言われたんだ」

京太郎「事情知ってる人から、何度かね」

咲「事情知ってるって、龍門渕のみんなとそっちの部長さんくらいじゃないの」

京太郎「そうだな。…そうだわ」

咲「それで?」

京太郎「…そんなんじゃないって、その度説明してきた」



京太郎「え、なんつーか……俺って最低じゃね?」

咲「…どうして?」

京太郎「上手く言えないけどさ……結局俺自身のために行動してただけじゃないかって」

咲「…そんなことないよ、って言うのは簡単だけど」

咲「そうやって自分を責めて欲しいわけじゃないのは分かってくれると思うけど、……何より京ちゃんは私たちのために動いてたよ」

咲「京ちゃんがいなかったら、こうやって仲直りできてないんだから。自信持っていいんだよ」

京太郎「…はあ、咲から慰められるとか世も末よ」

咲「…無理しなくていいから」

京太郎「…ありがとな」

咲「どういたしまして」



咲「で、なんですけど」

京太郎「あっはい」

咲「実際どうなの?」

京太郎「……だいたい照さんが」

咲「お姉ちゃんがどう思ってるかは一回置いとこう」

京太郎「……なんか納得した、っていうか」

咲「…納得?」

京太郎「自分の行動とか感情とか振り返ってみて…そういう気持ちがあってのことだとしてもおかしくない、もっと言えばそれで説明できるってことね。そう気付かされた」

咲「…なんか理屈っぽい。男子ってそうなの?」

京太郎「どうだろ。俺が頭でっかちなだけかも知れん」


咲「そういう話、友達としないの?」

京太郎「咲から友達という発想が出るとは」

咲「怒りますよ?」

京太郎「…わりーわりー」

咲「もう…」

京太郎「無くは無かったけど…なんだっけ、『今は部活が大事』とかなんとかはぐらかした気がする」

京太郎「いや…実際そうだったんだよね、全国決まったすぐ後くらいでさ。自分のこともそうだし、チームのためにできることはやろうって…」

咲「頑張ったんだ」

京太郎「自分なりにね。出来たかどうか知らんが」



咲「お姉ちゃんのために?」

京太郎「…まあ、それはそうなんすよね。約束しただろ?」

咲「うん。…やっぱり京ちゃんはすごいや」

京太郎「どうした急に」

咲「…改めてそう思っただけ。だから…」

京太郎「だから?」

咲「…ううん、なんでもない」

>キンコーン 次は〜

咲「あっ、降りなきゃ」スッ

京太郎「…次の駅だぞ」

咲「えっ」

京太郎「咲さんさぁ…」

咲「…えへへ」テヘペロッ


京太郎「ほんと、俺無しでよくやってるよ」

咲「……そうだよ。頑張ってるんだから。京ちゃんのおかげで」

京太郎「…俺のおかげ?どういうこと?」

咲「…ヒミツ。それは自分で考えてよニブチンさん」

京太郎「なんだよそれ…」

京太郎「…ああ、照さんのことは持ち帰って考えてみるよ。なんていうか、引っ掛かるものは今までもあったからさ」

咲「そう…わかった」

京太郎「あっでも、まだなにも確定じゃないからな。お願いだから先走って照さんに話したりするのはマジで勘弁。普通に死ねる」

咲「…どうしよっかなー」

京太郎「お願いです神様咲様仏様ー!」

咲「…そんなことするわけないじゃない。心配しないで」ニコッ

京太郎「さ、咲様ぁ…」

咲「はいはい、ウザイから辞めてね」

京太郎「ウザい!?咲がそんな言葉を…」

咲「…親じゃないんだから」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









一「…ご所望のミルクティーをお淹れしました」

透華「ありがとう。…ねえ、少しおしゃべりしていきませんこと?」

一「透華様のお望みとあらば。…エプロンくらい外しても?」

透華「もちろん。自分の飲み物も用意していいですわ」

一「ではお言葉に甘えて」

透華「こちらが冷めないうちに、ね?」

一「…もう、最初からそのつもりだったんじゃん」
カチャン コトン
トプトプトプ




透華「一は、この夏を楽しめました?」

一「…そりゃ楽しかったよ。大会出れなかったのは本当に残念だけど、…なんていうの、外から見れたのはいい経験になったと思うな。あらよっと」スッ


一「お待たせ、しました」カチャ カチャ チョコン

透華「良い茶葉でしょう?」

一「そうだね…屋敷で淹れるのには及ばないけど」

透華「ふふっ…これは一本、取られましたわ」



透華「…衣も楽しんでくれていたようで、何よりですわ」

一「そのためにこれまでやってきたからね…あそこのファミレスね」

透華「微笑ましかったですわ。エビフライを頬張る衣」

一「目線が保護者じゃん…ああ、落ち着く香り」

透華「夜分は温かい飲み物がやはりベスト。心地よい眠りには欠かせないですわ」

一「普通は冷たい麦茶でも飲んじゃうところだなあ」

透華「…そうなんですの?」

一「少なくとも昔のボクはそうだったね。住んでる環境から全然違うし比べようがないけど」

透華「でも悪くないでしょう?」

一「それはもちろん」カチャン


一「衣は…打ちたかっただろうな、とは思う」

透華「そう、ですわね…」

一「でもさ、あの決勝は……あれで良かったと思うんだよね。こんな言い方していいかわかんないけど」

透華「構いませんわ。続きを」

一「去年は…確かに手のつけようがないくらい強かったし、それでいいところまで勝ち上がれて、ボクたちも連れて行ってもらった」

一「けど…怖かった。最初に打った時のを引きずってるって言われればそうかもしれないけど…」

一「でも今は違う」

透華「…今の衣は、麻雀を打っていますわ」

一「そうだね。今は楽しんでると、思う」

透華「…宮永さんには感謝しなければいけませんわ。次は負けませんけど」

一「強気だね。…ボクも同意見だけど」

透華「それでこそ龍門渕四天王、ですわ」

一「…久々聞いたなぁそれ。正直誰も覚えてなさそうだけど」

透華「私たちの実力は一過性の流行り言葉で語れるものではないのですわ」

一「まあね」



透華「ところで……」

一「…ところで?」

透華「…一、ここでやり残したことはないんですの?」

一「……なんのことかな」

透華「一が一番分かっていると思いますが」

一「……はあ。……まあ透華だし、いいか。別に隠してたつもりじゃないし、言わなかっただけで」

透華「そうなんですの?」

一「まあね。…まずね、やり残したことはなんにも無いんだよ」

透華「えっ。…でも京太郎さんと次いつ会えるかなんて分かりませんわよ」

一「ああもう、伏せてたのに言っちゃった。もう!」

透華「ご、ごめんなさい…?」


一「まあいいんだよ。いつか透華にはちゃんと言うつもりだったから。……だから他の人には秘密。約束して?」

透華「…指切り、しましょうか?」スッ

一「…なんか透華が言うと冗談に聞こえないな。じゃあ…」スッ

一「指切りげーんまん、嘘ついたーら、…針千本は現実的じゃないよなぁ」

透華「なんでも仰いなさい」フンス

一「…嘘ついたーら、ええと、透華にボクの私服着てもーらう!」

透華「…断じて誰にも明かしませんわ」

一「そんな嫌がらなくていいじゃん…自分で言ったことだけどさあ」


透華「…とにかく、どう思っていらっしゃるのかしら?京太郎さんのこと」

一「…なんか修羅場めいた台詞だね」

透華「そ、そう?……確かにそうかもしれませんわね…」

一「お嬢様学校で高飛車な同級生に呼び出されて…みたいなね」

透華「…こんなときどう切り込んでいけば分かりませんの。なかなかこんな話をする機会もございませんし…」モジモジ

一「それもそうか」











一「うん、……好きだよ。彼のこと」





透華「おお…!」パアァァ

一「…なにその反応」

透華「初めて見ましたわ…他人への好意を告白するさまを」

一「そりゃそうでしょうよ。見せ物じゃないんだから」

透華「ね、どこが好きなんですの!?」

一「元気だなあ…さて、どこから話そうかな」


まあボクたちの環境下で、同世代の男子と接する機会なんてないわけでさ。警戒しちゃうのは仕方ないよね。

でもハギヨシさんが連れてくるっていうんだから、最低限の信頼は置いてたんだよね。見た目ちょっと…軽そうだなって思ったけど。

…思ったより話しやすかったのはそう。礼儀正しかったし、でもいつまでも他人行儀ってわけじゃなくて。

あと印象としては、麻雀にすごく真剣だなぁって。
一局ごとにいろいろ訊ねてきてさ…あんまり必死そうだからボクも真面目に答えるしかできなかったんだけど。


何日か経って突然聞いてきたんだよね。真面目な顔してさ、
『その鎖…重くないすか?』って。

…なんか可笑しくってさ、吹き出しちゃって。
『笑うなんてひどいじゃないすか、ずっと気になってたんすよ』とかなんとか言ってて、
あ、この子面白いなって。



…ボクの私服を初めて見たときの顔はホント傑作だったよ。目を白黒させてさ……
いやいや、見せるつもりは毛頭なかったんだよ?なんかタイミングが合っちゃっただけで。
その辺りから扱いが今みたいになっちゃったんだけどさ。

でもそういう…丁々発止? そんなやり取りができるのが楽しかったんだよね。


仲良くなるにつれて…まあこれはボクに限らず龍門渕の他の子もそうだけど、彼の事情もだんだん教えてくれるようになって。
チャンピオンが幼馴染で、追いかけて東京に行くんだって聞いて、
……まあ本人が言ってたのとニュアンスは違うけどさ。
でもそういうことじゃない? ボクはそういうことだとしか受け取れなかった。


そりゃ頑張らないと、とか言いながらすっごいモヤモヤが胸の奥に湧いてきて、

…ああ、これが嫉妬なんだ。
ボク、ついこの前の夏、東京で遠目に見たチャンピオンに妬いてるんだって。


その意味も…すぐに気づくわけで。


だからって彼を止めたりできない。そんなのただのエゴだし…
だいたい会ってたった数ヶ月、歳が一つ上なだけでたいした人生経験もないボクに、彼の人生に口出しする権利なんてないし、彼のためになるとも思えない。
いくらそれなりに慕ってくれてるとはいえ、さ。



…彼がいよいよ東京行きの準備が忙しくなってこっちに顔を出さなくなってからも、どうにか振り向いてくれないかな、ってボクなりにいろいろ頑張ってはみたんだよね。
こまめに連絡とってさ、ネット麻雀も定期的に打つ約束して、出来るだけ話聞いたりして。
必死?…まあそうかもしれない。なんせ初めてのことだったからね、何もかも。

でもそうやって話を聞けば聞くほど、彼について知れば知るほど、彼の中にいるチャンピオンと、
その妹の……みんなは知らなかったわけだけど、宮永さんの存在の大きさに気づいちゃったんだよね。



ああ、ボクは二番目にすらなれないんだって。





だから…今のままがいいやって。
三枚目のポジション、誰にも埋められない位置でいようって。
もう…決心してたから。


透華「一…あなた」

一「頑張らなかったら、もっと楽でいられたのかも。知らなければ……」

一「でもね、後悔はしてないよ。やれることは十分やった。…そうそう」
スタッ テクテク
ガサゴソ

一「ほらこれ」スッ

透華「…京太郎さんとお二人で…いつ撮ったんですの?」

一「みんなで写真撮ったちょっと後にね。思い出くらい貰っても罰は当たらないでしょ」

透華「……いい写真」

一「そう!…なのにさ、あいつ『写真ください』の一言もないんだよ?だから…だから送ってやんない」

透華「……一」


一「はい!ボクの話はもうおしまい!」パンパン

透華「…私、なんて言えば……そう、感動いたしましたわ!」

一「えぇ…」

透華「一が人知れずそんなに心を痛めていたなんて…人を愛して…こういった話をするのが夢だったとか宣おうとしてた私が恥ずかしいですわ」

一「大袈裟だよ…言っちゃってるしさ」


一「…なら、次は透華が話す番だよね?」

透華「…えっ」

一「なに意外そうな顔してんのさ。恋バナってそういうもんでしょ?お互い持ち寄ってさ」

透華「そ、そうなんですの…?でも私…」


一「うーん、好きなタイプとかでもいいよ?…好き、とまではいかなくても、格好いいと思うくらいはあるでしょ?」

透華「……難しいですわね」

一「たとえば萩原さん…ハギヨシさんは?」

透華「…身近にいる以上、彼が基準になるといえばそうかもしれませんわね。…執事として95点」

一「満点じゃないんだ」

透華「ハギヨシが満足していないのにこちらで合格点を出すのは失礼でしょう?」

一「…ツッコミたいところはいろいろあるけど、ハギヨシさんのことよくわかってるのはわかった」


透華「…言い訳でしかありませんが、受けてきた教育の影響は大きいと思いますわ」

一「まあわかんなくはないけど」

透華「それに…龍門渕家を背負って行く以上、自由恋愛が許されるとは到底思えませんの」

一「…それは透華が決めるべきことなんじゃないの、次期当主様?」

透華「…一も言うようになりましたわね……成程」

一「なにが成程なのさ、一人で納得しないでよっ」

透華「いえ……あなたみたいに、いつか私も誰かを愛する時が来るのかしらと」ニコッ

一「……来るといいね」




一「…透華はミーハーで面食いだと思ってたんだけどなあ」

透華「ミーハー…?よく分かりませんが、まずハギヨシ以上に見目麗しくなくてはダメですわ」フンス

一「あっ、そこはそうなんだ…」


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や っ と 夏 が 終 わ っ た

3年以上かかってるの笑うしかない
次の投稿はおそらく来月です

生存報告
1月中に上げたかったんですが今ひとつまとまらず
諸々忙しい時期ですが早めに来れるように頑張ります
ちなみに里帰り編の予定

(書いてます、どうかお待ちを)

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 17:09:37   ID: S:b2f1QL

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

2 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 20:17:13   ID: S:8RQHyv

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3 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 21:33:00   ID: S:s1iq-d

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4 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 23:48:28   ID: S:0slsrR

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5 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 21:47:41   ID: S:KnRnJi

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6 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 05:18:58   ID: S:21RC9u

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