765楽園sideL最終話ルート桃子 (67)
注意
765楽園sideL、sideL2話、sideL3話から読んだ方がいいかも
当シリーズは 765学園物語シリーズ 様の三次創作、つまりファン作品
作者も当然違う
スレタイを被せずオリジナルの設定でやることも考えたが、どうしてもPが学生、兄妹がこのみと桃子という設定が外せなくなったので、そこまで同じなら堂々とファン作品として打ち出した
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桃子「桃子、女優になりたい」
このみ姉さん、俺、そして桃子で構成された家族会議で桃子は言った。
ちなみに星梨花は前回の件が落ち着いたので、住み込みは終わり、彼女のお家で家族と再び過ごすようになったのでこの場にはいない。
もちろんよく遊ぶ仲にはなっているのだが。
いろいろ問題が解決したので、あとは平穏に過ごすだけだって思ってたら、家族会議が開かれ、桃子嬢がこの発言。
俺が落ち着ける日々はいつ来るのか。
P「女優ねえ……」
このみ姉さんの顔をうかがうも特に考えは読み取れない。
P「ふつうに考えて、なかなかなれるものじゃないだろう。そもそもなぜ女優なんかに」
桃子「誰かを演じることで人を感動させられたらいいなって」
なんかとってつけたような理由だなと思った。
最近、面白い映画でもみたのだろうか。
P「このみ姉さんはどう思う」
このみ「私は別にいいんじゃないかしらって」
P「え、ほんと?」
このみ「何か目標があって、それを目指せる人生ってステキじゃない?」
P「ステキか? 女優なんて一握り中の一握りだろ。テレビで見るような人らの足元には女優になれなかった人たちが何人いるかって話だ。それに万が一、そういう話が来たとして変なグラビアとかきわどい写真とか撮られたらどうするんだ」
このみ「Pは深く考えすぎよ。心配してるのね」
P「心配というか、なんというか。それに目標が欲しいなら習い事でもやればいいじゃないか」
このみ「習い事?」
P「スイミングとかピアノとかさ」
このみ「スイミングを習う子が全員、水泳選手になるわけないわ。ピアノだってそう。全員がピアノ演奏者として大成するの?」
このみ姉さんの言い方が悪かったか、桃子が反応する。
桃子「ちょっとお姉ちゃん。桃子はホンキで……」
このみ「分かってるわ。でもここはPを納得させることが必要なの。分かってくれるかしら?」
このみ姉さんが今話題にしてるのは桃子が女優として成功するかうんぬんより、俺を納得させるための論理であると説明した。
この人の口喧嘩には敵うまい。
P「このみ姉さんの説明は分かった。でもどうやって女優になんの? 俺がイメージするのはモデルが俳優としても活動し始めるパターンだが」
このみ「それをよく見るけど、まぁ難しいわね。だからこれ見て」
このみ姉さんはビラを取り出す。やたら準備がいいのは、この家族会議は俺を納得させるものであることを改めて認識させられた。
P「765劇団?」
このみ「ええ、知り合いの親戚が運営してる劇団よ」
P「劇団員から女優になるってことか。劇団員ってバイトで食いつないでやっと、というイメージがあるが」
このみ「だからそれは桃子ちゃんが大人になってから、という話でしょ」
P「うーん」
このみ「それに友だちだってできるかもしれないし、その友だちと何かを目指せるなんて良いと思わない?」
P「……分かったよ。じゃあ最初は俺も桃子とそこに同伴するよ。それで怪しくなかったら、やってみればいい」
桃子「お兄ちゃん、ホント?」
P「ああ。さっきからマイナスなことばっか言って悪かったな」
桃子「ううん、ありがとう」
そう言って桃子は笑顔をつくる。
俺はなぜそこまで反対するのかは、自分自身でも分からなかった。
たぶん、桃子が遠くに行ってしまう気がして。
なんというのは考えすぎだろうか。
劇場
P「ここが劇団が活動している劇場か、なんだかボロいなあ。ここに人がいるのか」
社長「ボロいとはとんだ挨拶だね。キミィ」
P「わっ失礼しました」
桃子「もう、これからお世話になるかもしれないのに、桃子の立場を悪くしないでよね」
P「で、貴方は?」
社長「私はこの劇団と劇場を運営する高木という者だ。よろしく頼むよ」
P「はい、僕はPといいます。この子のまぁ保護者です。この子は桃子といって入団志望のため来ました」
社長「入団志望かね? 悪いがただここの劇団は人不足で私以外メンバーがおらず、劇場も取り壊しが決まってるんだよ」
P「」
社長「つい、このみ君には見栄をはってしまってね」
P「だってさ。なあ桃子、ここはやめて他を探そう」
桃子「桃子、ここでやってみたい」
P「え?」
桃子「ここはもう取り壊し予定なんでしょ? だったら、最後の最後にどーんとお芝居をやろうよ。変な話、先輩もいないから妙なしがらみもないしね」
P「言っちゃ悪いが、こんなボロ劇場で何ができるんだ?」
桃子「できるよ」
P「だから無理だって」
桃子「無理じゃないよ。しょうがないなあ、じゃあ見てて、桃子がここを一面中お花畑に変えてあげるから」
P「何を言ってるんだ?」
桃子は舞台に上がる。
桃子「ほらお兄ちゃん、いい匂いがするよ。それに向こうまでずっとお花畑が広がってる。遠くにあるのは菜の花かなあ」
P「……うん」
桃子「あっ足元にもお花が咲いてる」
桃子はそれを摘む仕草をする。
桃子「ちょっと子どもっぽいかもだけど、作ってあげるね。お兄ちゃんにお花でできたネックレス!」
桃子はボロ舞台で演技をしているだけだ。
なのに、この圧倒的な説得力。
まるで本当に花畑が眼前に広がってるような錯覚におちいった。
桃子「なんてね」
桃子が素に戻り、そう言うと花畑はボロ舞台に戻った。
P「……すげえよ! 桃子! お前、こんな才能があったんだな」
社長「うむ、私もここまで演技に説得力を持つ人間を見たことがない」
桃子「桃子ならこのくらいトーゼンだよ」
桃子の女優志望にはどちらかというも反対だったが、ここまで圧倒的な才能を見せられると意見を翻さざるを得ない。
社長「よし、キミにはこの劇場の未来を託そう。ここの劇場を貸し出すから、ぜひ舞台をやってほしい」
P「だってさ、どうだ?」
桃子「うん、桃子もここでやってみたい」
社長「ぜひとも頼むよ。それと桃子君のお兄さんだったかな。キミも俳優志望かい?」
P「いや俺はちがくて」
社長「でもキミはあの子の兄だろう? きっと才能があるに違いない。さあどうだろう」
桃子「その人に俳優は無理だって思うよ」
P「桃子! 助かるよ」
桃子「だってお兄ちゃんはプロの脚本家を目指してるんだから」
P「は?」
社長「そうだったのか。プロ顔負けの俳優と兄の脚本家志望……なんという才能に溢れた兄妹だ」
P「おい桃子、どういうことだ」コソコソ
桃子「だってせっかくやるなら、既成脚本より創作脚本の方が面白そうだから」
P「規制脚本ってえっちなやつ?」
桃子「もうバカ、何言ってるの! 既成脚本はすでにある演劇をやるの。例えばロミオとジュリエットぐらい知ってるでしょ」
P「どうしてアナタはロミオなの!?」
桃子「そうそれ。逆に言うとそこ以外知らなそうだけど」
P「ギクリ」
桃子「創作脚本はお兄ちゃんのオリジナル脚本だよ」
P「オ、オリジナル?」
桃子「そう。桃子の演技力は保証するから、お兄ちゃんに脚本をやってほしいの」
P「逆にいうと、桃子が好きなセリフを言ってくれるってことか」
桃子「も、桃子に何を言わせるつもり?」
P「う○ち」
桃子「発想が小学生以下」
P「冗談は置いといて、俺の負担がすごそう」
桃子「お兄ちゃんはこういうの得意なイメージあるけど。それに桃子はお兄ちゃんの脚本で演技をやりたい」
P「桃子がそう言うなら……やってみるよ」
桃子「ほんと? じゃあ決まり!」
社長「相談は済んだかね」
P「ええ、まあ。やりますよ、脚本」
社長「それは心強い。なら照明だとか演出は主に私がやるから、キミらは好きにやってくれ。頼んだよ」
帰り道
P「やっぱ創作脚本なんて、何も思いつかないぞ」
石を無意味に蹴りながら言う。
桃子「まぁ桃子が役者やったらある程度映えるから気軽にいきなよ」
P「そんなこと言える桃子がうらやましいよ」
桃子「そう? やっぱりお兄ちゃんは不安?」
P「そりゃあね。ただ、やると言ったからにはやるよ」
桃子「さすが桃子のお兄ちゃん」
P「そりゃどーも。それで脚本についてスマホで調べてるんだが、起承転結とか三幕構成とかピンとこなくて」
桃子「じゃあ桃子からお兄ちゃんに1つアドバイス。物語のコツは問題解決だよ」
P「問題解決?」
桃子「そう。もちろん何も起きない日常を描く作品もあるけど、あれはあれで日常を面白おかしく描くには才能がいるからね。例えば桃太郎」
桃子だから桃太郎?
桃子「桃が流れてきて桃太郎が生まれるのが導入。鬼の存在が問題提起、最後に鬼を倒して問題解決」
P「まあ言いたいことは分かる」
桃子「水戸黄門様一行の旅とその出会いが導入、苦しめられる悪人が問題提起、最後に成敗して解決。探偵物でも同じことがいえるかも」
P「まぁそれこそ長期シリーズだし、それに乗っ取れば無限に話が作れるってことか」
桃子「そういうこと。もちろんたくさん例外もあるけど、今のお兄ちゃんにアレコレ言っても混乱させるだけだしね」
P「アドバイスありがとう。それを参考してみるよ」
自宅
自室に寝転がり、脚本を考える。
プロットっていうのか? 文字に起こした方が良いだろうと思って机に向かったけど、無いも浮かばないからやめた。
寝転がったけど、歩いた方が案外、自由に考えが浮かぶ。
桃子が言ってたのは問題解決。じゃあ問題ってなんだ。
今回の特異な点は桃子がそれをやってくれるということ。
だったら、桃子自身の問題に向き合った方が、あの子もやりやすいんじゃないか?
役をつくる手間が省けるだろうし。
それなら、桃子ともっと向き合う必要があるな。
よし、それならと俺は部屋を出て、桃子の前に立った。
桃子「どうしたの?」
P「よしっ俺とデートしろ桃子」
桃子「は?」
そんなこんなで一緒に出掛けることになった。
某所
P「なあデートと言ったハズだが」
桃子「うん。桃子、お兄ちゃんと一緒にお出掛けできてうれしいよ」
P「スーパーで荷物持ちさせてるからなあ!」
桃子「だって液体洗剤とかちょうど切れてたしね。ああいうの重くて」
買い物はもっぱら俺か桃子が当番である。
このみ姉さんは酒ばっか買ってくるから。
P「デートにスーパーは入りません」
桃子「でも新婚っぽいと思えば」
P「やっぱりスーパー最高」
桃子「扱いやすくて助かるよ。それでポイント溜まったからガラガラ回してきて。桃子はあんまり人ごみに行きたくない」
たしかに、あちらを見ると福引か何かやっていた。
P「どうせティッシュとかだろうけど」
桃子「別にそれでも助かるからいいよ」
P「さいで」
福引コーナー
店員「へいらっしゃい。こうやってガラガラ回してね」
チラと後ろをみると、特等は旅行、一等や二等には食料品だった。
米とか当てれば桃子は喜んでくれるかな。
いや持って帰るのが重いか……なんて捕らぬ狸、ってやつだな。
ガラガラと福引を回す。
出てきたのは黄金色の玉。
やけに派手なのが出てきたな。
店員「大当たりー!」
P「……え?」
店員が大きな音でベルを鳴らす。
慌てて桃子が寄ってくる。
桃子「ちょっとお兄ちゃん! なにやらかしたの? 不正?」
P「不正なんてやってねーよ。なんかいいやつが当たったみたいだ」
店員「特賞のペア1泊2日の旅行券です」
P・桃子「ええええええ!?」
自宅
このみ「で、旅行券が当たったと。桃子ちゃん単独はまだ早いし、Pが行ってきたら?」
P「といっても、ペア旅行券だぞ? 誰と行くんだよ」
このみ「お友だちと行けばいいじゃない」
P「オデ、トモダチ、イク、セリカ、タマキ、シカイナイ」
このみ「急に口下手だけど心優しいモンスターになってもごまかせないわ」
P「小中学生の女の子しか友だちがいない事実に悲しくなってつい」
このみ「P、あなた本当に高校生なの?」
P「そういえば学園での記憶がねえな」
このみ「まぁいいけど。それで私も用事があっていけないのよね」
P「ようじなら俺にもあるよ」
このみ「貴方の場合、用事じゃなくて幼児」
P「よく考えたらそうだったわ」
このみ「こうなったら桃子ちゃんと2人で行ってきたら?」
P「いまさら妹と2人っきりで旅行なんてなあ」
でもよく考えたら、脚本の取材になるかもしれないし、いいかもしれない。
新幹線内
桃子「で、なんで桃子はお兄ちゃんと旅行に来てるの」
P「今更そんなこと言うなよ」
桃子「まぁ……いいけど」
口でいうほど不機嫌そうには感じなかった。
駅
P「やっと駅についたな。ここから少し歩くけど大丈夫か?」
俺は手を伸ばした。
桃子「その手はなに?」
P「いや、迷子になったら困るから」
桃子「……」
桃子は悩んでる様子だ。
P「ちょっとはレディー扱いさせてくれよ。ここは県外だから、知り合いに見つかって、からかわれることもないしな」
桃子「お兄ちゃんがそこまで言うなら」
そうやって手をつないだ。
小さな手。
守ってやらなきゃなと改めて思わされた。
旅館
P「きれいなとこだなー」
桃子「たしかにそうかも」
女将「ご来店、ありがとうございます」
P「予約のPです」
女将「あーペアで予約の。かわいい彼女さんですね」
桃子「べっ別に桃子は彼女じゃなくて」
女将「ふふっ。お部屋ご案内しますね」
部屋
ペアチケットなので、もちろん桃子とは同室だ。
まあ今更意識するものでもないか。
桃子「なんか、改めて2人って思うと変なかんじだね」
桃子は苦笑いする。
P「まあそうかもな」
桃子「桃子は移動で疲れたからちょっと休むね」
P「お茶でもいれようか?」
桃子「ううん、大丈夫。寝室の方にいるから、なんかあったら声かけてね」
数時間後
P「そろそろこんな時間だし、風呂はいるかー」
桃子「あっお兄ちゃん! えっと、あの、」
P「まさか一緒に入りたいって? なんて」
桃子「……」コク
P「えっ」
桃子「ここ、貸し切りもあるみたいだし」
P「おお!」
桃子「あと水着も持ってきたよ」
P「……おお」
そんなこんなで風呂に入ることになった。
風呂
P「水着とはいえ緊張するなあ」
桃子「もう、意識しすぎ。小さいころはよく一緒に入ってたでしょ」
P「まあそうなんだけど」
桃子「だからといってジロジロ見すぎるのもやめてよね」
P「へいへい」
俺が湯舟に入ると、桃子も俺に背中を預けるようにして湯舟に入った。
後頭部が目の前に来る。
改めてくせっ毛だなって思った。
わしゃわしゃとなでてやる。
桃子「もう、髪が乱れるでしょ」
P「どうせ風呂だからいいだろ」
桃子「乙女の髪は繊細なんだから」
P「えっ乙女ってどこ?」
桃子「ここにいるでしょ!」
そんな冗談に飛ばしつつはしゃぐ。
なんだか子どものころみたいに戻ったみたいうれしかった。
お風呂にあがり食事に向かい部屋に帰ってくると、すでに布団が敷かれていた。
布団がぴったりとくっついていて一瞬ドキリとしたけど意識しすぎたと反省した。
桃子「つかれたかも……」
P「そうだな。寝るか」
歯磨きをする。
桃子「ちょっと歯ブラシくわえながら、寝転がらないで」
P「はいはい」
しっかりしている。
布団に入る。
P「眠れない……」
桃子「うるさいなあ。眠れなくてもいいけど、しゃべらないで」
P「辛らつ」
桃子「そうでもないよ」
P「しりとりでもしよ」
桃子「子どもっぽいからヤダ」
P「大丈夫。縛りを設けるから」
桃子「誰を縛って儲けるの?」
P「人身売買的な話をしてねえ! 動物限定しりとりだ。どうだ?」
桃子「いぬ」
P「ぬ? しりとりにおいて強いぬで動物だと?」
桃子「早く言って」
P「ヌードの犬」
桃子「なにそれ。なら……ヌーベルトリコロールの犬」
P「濡れ場の犬」
桃子「さっきからなんで全体的にえっちなの? このヘンタイ!」
俺は黙るしかなかった。
なんとなく沈黙のあと、桃子がこっちを向かないまま聞いてきた。
桃子「で、脚本は決まった?」
P「うーん……現実の桃子っぽい話がいいかなとはおぼろげながら考えてる」
桃子「当て書きね」
P「なにそれ」
桃子「役に寄った設定にすること」
P「そういや穴を掘る人の演劇もそうだったらしいな」
桃子「そうそうそんな感じ」
P「桃子に将来どうなってほしいかって考えたんだけど」
桃子「……うん」
P「ふつうの女の子になってほしいんだ」
桃子「どういうこと? 桃子はふつうの女の子だよ」
P「いやそうなんだけど、なんというか。普通の人生を歩んでほしいんだよ。ふつうに学校行って、悩みがあったとしても友だちのこととかありふれた悩みで、ふつうに中学高校いって、まあ行きたいなら大学行って就職して、ちょっと寂しいけど結婚して。なんて」
桃子「ふふっなにそれ」
P「割とホンキなんだけどな」
桃子「まあいいよ。お兄ちゃんの気持ちは分かったよ。それも聞けたしもう寝るね」
P「なんか恥ずかしくなってきた」
桃子「はいはい。じゃあおやすみ」
P「……おやすみ」
次の朝
P「そろそろ朝か」
桃子「おはよ。思ってたより早く起きたね」
P「まあ旅館で熟睡はできんわな。桃子はまた風呂いったのか」
桃子「うん、朝風呂。お兄ちゃんも行ったら?」
P「なんか朝に風呂入るとだるいからいいや」
桃子「そう?」
P「と言っても朝食バイキングまで時間があるな」
桃子「そうだね」
P「ちょっと散歩いってくるわ」
桃子「桃子もいく」
P「はいよ」
散歩道
P「朝の散歩もいいものだ。この冷たい空気と人のいない静けさ」
桃子は風呂上がりなので浴衣とサンダルだ。
桃子「お兄ちゃんも風情を感じるんだね」
P「そりゃたまにはな。まあ旅行券があたってよかったよ。昨日も桃子としっかりお話できたし」
桃子「そう?」
P「近すぎて遠い存在っていうのかな。桃子と向き合う機会が作れてなかったと気がついたよ。これからもぼちぼち遊びにいこうぜ」
桃子「ほんと? 楽しみにしてるね」
P「さすがにこんな遠いところは、来られないけどな」
桃子「だったら、このまま桃子と逃避行してみる?」
P「なにがだったら、だよ。でも楽しそうだなそれ」
桃子「お金はお兄ちゃんが稼ぐんだよ」
P「えー俺? 桃子も協力してくれよ」
桃子「ちょっとだけね。歌を歌ったりお芝居したりしてお金を儲けるの」
P「はは、桃子だったらできそうだなそれ」
学校も仕事も体裁も全部投げ捨てて桃子と逃避行。
楽しそうだ。
P「それで見つけた小さな旅館で泊まってまた次の朝、旅にでて」
桃子「そうそう」
P「でもそのうち、捕まるわな。俺たち未成年だから」
桃子「……そうだね。じゃあ誰にも見つからない逃避行ならやってみたい?」
桃子はイタズラっぽい顔で言う。
どこまで本気なんだか。
P「いや、やめとくよ。現実はそんなにうまくいかない」
桃子「ふふ、だよね」
そんなこんなでうろうろしてたら、いい時間になったので飯を食ってチェックアウトして帰り路につく。
桃子はなんとなく上機嫌に感じた。
後日 劇場
社長「どうやら台本が完成したらしいね」
P「まあなんとか」
社長「見せてくれるかい?」
P「……はい」
他人に自分の創作物をみせるのははじめてだ。
どうしても緊張する。
社長「どんなストーリーなのかね」
社長はパラパラと流し見しながら尋ねた。
P「この話はいわゆる当て書きです。主人公はほぼ等身大の未来の桃子です」
社長「ほう」
P「主人公桃子は知らない人はいないほどの大女優です。だけれども彼女は引き換えにしてました。普通の学校生活を。だからこそ、桃子は妖精に頼み、1日だけ小学生に戻り、普通の小学生をやるんです」
社長「なるほどね。どうしてそのようなストーリーになったんだい」
P「ただの俺の願いです。それを強調するなら最初から女優という設定がいいと思いまして」
社長「ティンときた! よしその設定でいこう」
P「ありがとうございます」
社長「ただこの台本だともう少し人数が必要そうだね」
P「そこは問題ありません。俺にはアテがあるので」
胸を張っていうが、浮かんだのは小中学生の女の子である。
社長「ほう。ぜひ頼むよ」
後日
自宅
P「そういうわけで、みんなに演劇を頼みたいんだ。どうかな?」
環「くふふ、面白そうなことは好きだぞ」
育「わたしもやってみたい!」
星梨花「わたしもです!」
P「あと年長役が必要なんだけど、このみ姉さん頼めるか?」
このみ「ええ、セクシーな演技で観客をメロメロにしちゃってもいいならね」
P「いや、セクシーなシーンは全くないんだけど」
桃子「そうと決まればみんな練習だよ。桃子の指導は厳しいんだからちゃんとついてきてね」
みんな「はーい」
そのまた後日
育「あっまたセリフつまっちゃったかも」
桃子「でもすっごく気持ちは伝わってきたよ」
育「ほんと? 学校でも先生に音読をほめられたんだ」
星梨花「セリフを覚えるって難しいんですね」
P「セリカのセリフ。逆から読んでもセリフのセリカ」
桃子「この人のことはほっといて練習しよ。星梨花は度胸が据わってていいね」
星梨花「ありがとうございます!」
環「たまきは難しいのは苦手だぞ~」
桃子「環は強烈な個性があるから、何をやらしても環になるタイプだね。キムタクやエビスさんのような」
環「それっていいこと?」
桃子「もちろん。だからそれを磨いてこ」
環「わかった!」
このみ「お姉さんの演技はどうかしら?」
桃子「お姉ちゃんはなんでもそつなくこなすよね」
このみ「ふふ、私に任せなさい」
P「この感じなら俺がいなくても大丈夫だな。ちょっと出かけてくるわ」
駅前
P「今度、劇場で演劇をやりまーす。よろしくお願いします。お兄さん、ビラです。受け取ってください」
サラリーマン「急いでるんで」
P「あはは、また今度お願いします。まぁみんながみんな受け取ってくれないわな」
幼女「ママーこれなあに」
ママ「劇をやるみたいね」
幼女「わたし見てみたい」
ママ「ふふっそうね。いってみようかしら」
P「ぜひお願いします」
婆さん「育ちゃんもでるのかい?」
P「育を知ってるんですか?」
婆さん「そりゃあね。いろいろ助けてもらってますから」
P「なるほど。ぜひ劇をみにきてください」
……
…
P「なんとかビラを配り終えたぞ」
本番当日
育「わっお客さんがいっぱい。Pさんの宣伝ってすごいね」
P「育が人助けをがんばってるから、来てくれた人も多いよ」
育「そうなの? がんばっててよかった」
星梨花「ちょっと緊張しちゃいますね」
桃子「大丈夫だよ。こんなにお客さんがきてくれるなんて、逆にワクワクしなきゃ」
星梨花「えへへ、そうですね」
環「たまき、がんばるぞー!」
桃子「そうそうその意気だよ。このみお姉ちゃんも頼りにしているからね」
このみ「任せなさい」
社長「諸君そろそろ時間だ」
P「みんな、ちゃんと見守っているからな」
それぞれ元気よく返事をした。
劇中
桃子「今日もまたサインを求められちゃったなー。まぁ今の日本に私を知らない人はいないよね。ちょっとテレビをつけるだけでもCMやドラマで私が映るほどの大女優だもの」
桃子「でも有名になることの引き換えに、青春時代は置いてきた。せめて1日だけでも子どもになれたらなあ」
社長の声「力が……欲しいかね……?」
桃子「だっだれ?」
桃子「ってここは小学校? それにランドセルに黄色い帽子。なにより体が縮んじゃってる」
環「ももこが変なことを言ってるー」
育「桃子ちゃん、そろそろ授業始まるよ」
星梨花「早く席についちゃいましょう」
このみ「授業を始めるわよーってこのみちゃん先生って呼ぶのはやめなさい」
桃子「小学生のころの親友たち! 桃子、小学生に戻れたんだ!」
学校 日中
桃子は貴重なありふれた時間を過ごす。
桃子「はい! 答えは○○です。どうですか?」
桃子「ちょっと男子、ちゃんと掃除してよね」
桃子「育、給食おいしいね」
桃子「このみ先生……おこったら怖いかも」
放課後
育「桃子ちゃん、今日もスポ小のバスケ参加できる? 今日は練習試合らしいから、桃子ちゃんは絶対きてほしいな」
桃子「もちろん行くよ」
育「やったあ」
練習試合
環「たまきのスーパードリブル!」
星梨花「わっすごいです。でも囲まれちゃいました」
環「むう……このままじゃ取られちゃうぞ」
桃子「環! こっちこっち!」
環「ももこ! いいところに! パース!」
桃子「えいっシュート!」
育「やったあ、ゴール! これで逆転だよ! 桃子ちゃんすごいよ!」
桃子「ふふん、桃子ならトーゼンでしょ……って言いたいけど今日だけは褒めてもらおうかな」
環「すごいぞ桃子!」
桃子「環ったら背中叩かないでよもう」
星梨花「桃子ちゃんの活躍で勝利を収めました」
放課後、帰り道
桃子「育と2人っきりで帰るなんて久しぶりだね」
育「そう? 昨日も一緒に帰ったような」
桃子「あっそうだったね」
育「桃子ちゃん変なこと聞いてもいい?」
桃子「うん? どうしたの?」
育「今日の桃子ちゃん、実はタイムスリップしてきた大人だったりしない?」
桃子「え……!? どうして、分かったの?」
育「ふんいきかな?」
桃子「やっぱり育にはかなわないや」
育「今日はどうだった?」
桃子「すっごく楽しかったよ。ありがとう」
育「もしよかったらね。この世界にずっと居続けない?」
幕が下りても会場は大盛り上がりだった。
俺は胸を撫でおろす。
社長「お疲れ様。舞台は大成功だね」
P「桃子たちのおかげですよ」
社長「キミの台本あってこそ、とは思うよ。そしてこの劇場も最高の最後を迎えることができた」
人が集まったからこそ、取り壊しがキャンセルになる、というのはまぁ……無理だったか。
社長「それで桃子君に渡してほしいモノがあるんだけどね」
P「なんでしょう」
社長「私がツテのある事務所への紹介状だ。桃子君の才能を小さな劇場で終わらせるのはもったいない。この紹介状で桃子君の俳優としての道が開かれるだろう」
P「こ、これって超有名な事務所じゃないですか!?」
社長「今は一線を退いた身ではあるが、そこで社長業をやっていたんだよ。今は従弟の順二朗に任せてるがね」
P「す、すごい」
社長「この紹介状で桃子君の環境は大きく変わる。皮肉なことだが、今日の舞台で演じた普通の小学生にはもうなれないかもしれない。だからこれを桃子君に渡すか否かはキミに任せるよ」
P「わ、分かりました」
桃子「……ううん、桃子は元の世界でがんばらないといけないから」
育「……桃子ちゃんならそう言うと思ってたよ」
桃子「もうっ育ってば桃子を試したの?」
育「えへへ、じゃあわたしはこっちの道だから、そろそろお別れだね」
桃子「……うん」
育「未来の世界でもわたしと仲良くしてね」
桃子「もちろん」
育「じゃあまたね!」
そこで桃子は元の世界に戻る。
あの頃の写真をみて、しんみりとした笑顔を浮かべ、明日からのより一層の努力を誓うのだった。
End
帰り道
桃子「今日はさすがに疲れたよ」
P「……おつかれさま」
桃子「なんだかお兄ちゃん元気ないね」
P「そ、そうかな?」
桃子「お兄ちゃんの脚本は悪くなかったと思うよ」
P「……ああ、そりゃどーも」
桃子「やっぱりおかしい。お兄ちゃん……桃子に何か隠してるでしょ」
バレた。
俺は紹介状が入ってるバッグをチラリとみた。
これを渡せば桃子の夢は大きく前進する。
だけど桃子とありふれた日々を過ごすことはできなくなる。
一瞬、こっそり捨てるなんてことも頭をよぎった。
すべてをなかったことにして。
でもそんなことできないよな。
P「これ、あの真っ黒な社長からもらった紹介状。これで桃子はデビューできるみたい」
桃子「……」
P「桃子?」
桃子「やったあ! お兄ちゃん、桃子とってもうれしいよ!」
P「……そっか」
なら渡して正解だったな。
桃子の夢が叶う瞬間だ。今は細かいことを気にするより、盛大に祝うべきかもしれない。
P「だよな! 桃子、おめでとう! 今日は打ち上げも兼ねたパーティにしよう!」
桃子は元気よくうなずいた。
数日後
桃子はこのみ姉さんと話し合い、俳優への道をスタートすることにした。
もちろんこんな片田舎から通うことは不可能なので、わけあって東京で仕事をしている両親の家に住むらしい。
俺はここに残るので、桃子とはもう少しでお別れすることになる。
次に会うのはテレビの中かもしれない。
それと、俺にはある考えが浮かんでいた。
このみ「はいこれで履歴書も完成。あとはポストに投函するだけね」
桃子「うん」
このみ「桃子ちゃん、向こうでもがんばるのよ」
桃子「うん」
このみ「どうしたの、元気ない?」
桃子「そんなことないよ」
桃子「あっそうだ。お兄ちゃん、ポストまで少し距離あるからついてきてもらってもいい?」
P「分かったよ。支度する」
桃子「今じゃなくていい。もう少し暗くなってから」
P「? わかった」
夜
桃子「お兄ちゃん、そろそろ行こ」
P「わかった」
桃子は少し大きなバッグを持って、そう言った。
ポストへの道中はお互いだんまりだった。
どちらかが何か言っても、会話が「うん」とか「そうだね」で終わるから。
少し歩くとポストまでたどり着いた。
周囲には誰もいない。
当然かもしれない。もうこんな遅い時間だから。
ポストは妙な存在感があった。
桃子「はい、お兄ちゃんが投函して」
桃子から封筒を手渡される。
それとポストを見比べる。
桃子「なにしてるの? 早く投函しなよ」
P「……ああ」
これを投函すると運命が変わる。
今からでもこれで破いてしまってもいい。
そうしたら桃子と一緒にいられる。
そんな未来を少し想像した。
どこかの世界でそういうルートもあったかもしれない。
俺はポストの前に立ち……
→投函する
目の前でそれを破く。
なんてゲームのような選択肢を両方選ばなかった!
投函するフリをして振り返り、殴りかかってくる桃子の腕を受け止めたのだった。
桃子「……え?」
桃子は目を見開く。
P「ようやく捕まえたよ。時間旅行者さん」
桃子の腕には広辞苑が握られていた。
P「それで殴るのがトリガーだったか。そういやこの世界での1話もそれで始まった気がするな」
桃子「何言っているのお兄ちゃん」
一瞬、動揺したもののすぐに、桃子は平静を取り戻していた。
いや、それすらも演技かもしれないな。
P「ポストへの投函を遅い時間に指定したのは、俺の視線をポストの投函口に集中させるためだったんだな。暗かったら、そこに集中せざるを得ないから。そしてそのバッグには広辞苑が入っていた」
桃子「だからさっきから何言ってるの」
桃子は心底困ったように言う。
その反応をみると、俺が的外れなことを指摘している気すらした。
大丈夫だ。考えはすでにまとめたハズだ。
相手の作戦に乗ってはいけない。
P「なあ桃子、これまでこの世界で起きたことを推理してみせる。だからさ、もし正解したら本当のことを話してくれないか?」
桃子「まぁ一回だけなら聞いてあげる」
P「充分だ。まず違和感があったのは、俺がいくつか名を出した作品だ。俺妹、ハルヒ、それと満月大根斬りはドラベース、あとはリトルバスターズなんてのも言ったか」
桃子「はあ」
P「俺は765楽園に通う高校生という設定だ。なら普通に考えて15~18歳。さっき出した作品はいずれも10年以上前だ。なぜ俺はそれらを知っている」
桃子「お兄ちゃんがアニメオタクだからでしょ。育もそういうの詳しいし」
P「じゃあ俺が星梨花と野球をしたとき、ツーストライク、ノーボールとカウントしたのはどう説明する? 今はノーボールツーストライクとカウントするハズだ」
桃子「さあ」
P「そして俺は学園に通った記憶がほぼないんだ。これらを統合するとある真実に辿り着く」
P「俺は本当はもっと年上で、この設定を作り替えた犯人は高校を知らない、通ったことがない人物……つまり小中学生だ」
桃子「突飛なことを言うね。まさか犯人が小中学生だから桃子をそのまま結びつけたの? この世界に小中学生は何人いるの。それに中学を出て働く人もいるよ」
P「もちろんそう考えのは、理由がある。犯人は設定を改変しつつ、時間旅行ができるという前提で聞いてくれ。今思えば世界線旅行の方が表現は正しいかもしれない」
桃子「漫画やアニメの見すぎだよ」
P「生憎、魔法少女とアンドロイドに出会ってしまったものでね」
桃子「だったらその魔法少女さんとやらが犯人なんじゃない?」
P「この世界でおかしな行動をとっていた人物がいるんだよ」
桃子「桃子がそうって言いたいの?」
P「いや桃子は変なところがなかった。だからこそ、おかしな歪みが現れた」
桃子「?」
P「魔法少女さん……もう育って言うよ。どうせ知ってるだろうし。育はあるおかしな行動をとった」
桃子「おかしな行動?」
P「俺にある魔法をかけたんだ。小さな女の子が好きになる魔法」
桃子「ふふっなにそれ」
P「育はよほどのことがない限り、人の気持ちを変える魔法を自発的にかけない。だとしたら、頼まれたんだよ。魔法をかけるようにと、大親友にね。では、育と仲が良くて、さらに俺が育と出会うように仕向けたのは」
桃子「桃子ってこと? じゃあ桃子はお兄ちゃんが小さな子が好きになってハーレムを作らせたかったって言いたいの?」
P「それについては星梨花を思い出せばいい」
桃子「星梨花?」
P「星梨花が人間に戻りたかったのは、その、俺と同じ立場で向き合いたかったから。星梨花が考えていたことをそのまま使うなら、アンドロイドでは恋愛ができない。ロリハーレムとアンドロイド化は矛盾する」
桃子「へえ」
P「だったら桃子に願いを依頼された育が魔法をゆがめたんだよ。伝言ゲームが失敗するように。例えば……桃子は俺が桃子を好きになる魔法をかけるように依頼したけど、育はその対象が自分自身にもなるように、かつ桃子の願いも叶えるような両立する魔法をかけた。その結果が小さな女の子が好きになる魔法」
桃子「たいした自惚れだね」
P「なあに、今に始まったことじゃない。それで桃子は俺を揺さぶるために俳優になりたいと言った。俺が桃子と離れるような選択をとったら、広辞苑で殴って世界線旅行。俺が桃子をとったら、それで桃子にとってハッピーエンド。さてどうだろう」
桃子「ふうん分かったよ。ご褒美に教えてあげる。お兄ちゃん大正解。ぜんぶ合ってるよ」
桃子「それにしても桃子の気持ちに応えるより先に世界の仕組みに気が付くとは驚いたよ」
P「そっか」
桃子「もちろん全然ほめてないよ。むしろあきれてる」
P「そりゃ残念。というか桃子自身が魔法少女になった方が早かったのでは?」
桃子「桃子は大きく設定を変えて時間旅行することはできないの。育はトゥインクルリズムがあったし、星梨花にはEscapeがあったから、その因子を利用して設定を塗り替えただけ。設定を変えて時間旅行はJelly PoP Beansのおかげかな」
P「……?」
桃子「まぁいいよ。説明がめんどくさいし、ここまでバレちゃったから、記憶を全部戻してあげる。ちょっと身体に負担がいくだろうけど、耐えられるよね。桃子のお兄ちゃんなんだから」
桃子が俺の額を軽くこずく。
その瞬間、すべての記憶が濁流のように流れてきた。
P「ぐううう。こ、これは……?」
桃子「そう。桃子は元子役でアイドル、お兄ちゃんは桃子のプロデューサーさんだよ」
P「頭が……頭が痛い」
桃子「ひどいよね。桃子がお兄ちゃんへの気持ちを伝えたのに、お兄ちゃんはこう言ったの『桃子は寂しいから、身近な大人に恋してるように感じるだけ。それに担当アイドルと恋愛することはできない』って」
頭痛のせいで身を崩し、地面にへばりついてる中で思い出した。
たしかに俺はそう考える。育のルートでも同じことを言った。
桃子「桃子とお兄ちゃんがアイドルとそのプロデューサーという関係じゃなかったらいいの? 桃子のお家が円満だったらよかったの? これが運命なのって思った。気が付いたら桃子は世界を塗り替える力を手に入れていたんだ」
桃子「だからこそ桃子はこの世界をつくったの。765プロダクションでもない、765学園でもない。お兄ちゃんと結ばれて幸せになる桃子にとっての楽園、765楽園を」
P「桃子……お前は、間違っている」
桃子「お兄ちゃんと結ばれるために、何度も何度も世界を塗りなおしたよ。運命がお呼びじゃなくても、運命に蹴飛ばされても。運命自体を変えるためにね」
桃子「何度やってもお兄ちゃんは桃子のことを振り向いてくれないから、本当に困ったよ。でもお兄ちゃんに脚本を書かせることで分かった。桃子に普通の女の子で居てほしいだよね。だったら、次は桃子のクラスメイトなんてどう? 小学生に戻ったら世界の仕組みなんて気が付かないよね」
桃子は俺の頭めがけて広辞苑を振りかぶる。
P「桃子! いい加減にしろ!」
俺の渾身の思いを込めた大声に桃子がひるむ。
頭痛がひどいがなんとか立ち上がって言う。
P「世界なんてな。なんて理不尽なモノなんだろうな。だからこそみんなは一生懸命生きてるんだよ! 育だって星梨花だってこの狂った世界の中でも、もがきながら進んだんだよ。もし育が魔法で危ない目にあったら、星梨花があのまま目覚めなかったら、どうするつもりだったんだよ!」
桃子「もう1回やりなおすだけだよ」
P「ああ。そんなチートで巨大な力を持ったらおかしくなるよな。だけれども! 人生はやり直しが効かない、たった一度だけのモノだ! 失敗したらやり直すだけ? そんなヤワな考えの奴になんて絶対惚れない! 何度世界をやり直してもな! 1回キリの人生を楽しめよ!」
桃子「そんな、桃子だって……!」
P「周防桃子はそんな人じゃなかった。過酷な運命の中でも諦めずに何度も立ち上がった! 子役として行き詰っても、アイドルとして再起した。こんな尊いことがあるか!」
桃子「……!」
P「もちろん俺の告白の返事も悪かった。だけど、俺は桃子の生い立ちを利用して、恋愛に、もつれ込むようようなことはできなかった。騙すようなことはできなかった。俺は桃子を大事に思ってるんだよ。プロデューサーをやりながらでも、桃子にふつうの女の子としても青春を過ごしてほしいという矛盾した考えを持ちながらずっとずっとプロデュースし続けてるんだ」
桃子「お兄ちゃん……」
P「もう一回言う。元の世界に帰ろうぜ。さっき言ったとおり、やり直せる世界では俺は桃子に惚れない。でも元の世界ではもっともっと真剣に向き合ってやる。約束だ。」
倒れそうになりながらも、桃子の手を握る。
桃子の頬には涙がつたっていた。
桃子「そっか。やっと気が付いた。桃子、叱ってほしかったんだ」
P「?」
桃子「自分でも間違っていると思ってても、止められなくなっていた。だからこそ、お兄ちゃんに大人として叱ってほしかったんだよ」
P「ああ。元の世界に帰ろう」
そこで意識は途切れた。
次に気が付くと、俺は俺自身の部屋のベッドの上だった。
元の世界に戻れたのか?
スマホを覗くと現代の日付だ。
記憶だってちゃんとある。
俺はアイドルのプロデューサーだ。
ふと鏡をみると10歳くらい老けていた。
……やっぱり向こうの世界の方がよかったかな?
そこでもう1つの寝息が隣からすることに気が付く。
布団をめくると桃子が眠っていた。
とんだイタズラ少女だな。
P「おい桃子。そろそろ起きろ」
桃子「……うーん。ってなんで桃子、お兄ちゃんの布団で寝てるの? まさか……このヘンタイ!」
なんかあらぬ疑いをかけられている。
P「たぶん桃子がここにきたんだろ? 記憶ないのか?」
桃子の顔がぷしゅーっと赤くなる。
桃子「記憶……ないかも」
P「うそつけ!」
桃子「もう! 桃子がないって言ったらないの! お兄ちゃんってほんとに生意気。桃子の方が先輩なんだから!」
久しぶりの桃子節が愛おしく感じる。
桃子「やっぱり桃子、お兄ちゃんのことなんか……」
P「嫌い?」
桃子「す、好きだけど……」
目をそらしながら、ぼそっと言う。
P「ちょっとは素直になったかな」
桃子「言ったんだからね! ちゃんと桃子の気持ちに応えてよね!」
P「おう。トップアイドルになったらな」
桃子「そうやってすぐ、はぐらかす」
P「桃子さんはプロなんだろ? だったら仕事に私情を交えちゃダメだよな」
桃子「そう言われたら……そう、だけど」
P「その意気だ」
そう言って頭を撫でる。
桃子「もう子ども扱いしないで! 桃子がトップアイドルになる前に他の女の子になびいたりしたら、またあの世界に連れて行くからね!」
口ではそう言いつつも、そんな気はないくせに。
P「ああ、ちゃんと待ってるよ」
桃子「もう!」
P「さてそろそろ支度しないとなー」
ピンポーン
P「チャイムか……こんな朝っぱらから誰だよ」
P「はーい」
育「おはよう。プロデューサーさん!」
P「おー育か」
育「魔法は使えなくなっちゃったけど、ちゃんとわたしのこと見ててよね! なんといってもプロデューサーさんはわたしの未来の旦那さんなんだから」
P「お前、記憶あんのか。困ったなー。って星梨花もいるのか」
星梨花「はい、わたしはセリカ型……じゃなくて箱崎星梨花っていいます! 妹兼メイドとしてやってきました!」
P「名前はもう知ってるし、無駄にあの世界の設定を踏襲しなくていいよ! 星梨花は星梨花だろ」
星梨花「えへへ」
桃子「ちょっとお兄ちゃん! ちゃんと桃子のこと待ってくれるって約束したよね? なんでさっそく、他の女の子といちゃいちゃしてるの!」
P「いやこれは不可抗力で。ってまた来客!?」
このみ「なんでお姉さんはサポートに徹してばかりなの? ちゃんとファンディスクでこのみルートを実装しなさい!」
P「またあの世界行くつもりなのか?」
環「たまき、おやぶんのことを考えると今夜も眠れないや……」
P「TInt Meのセリフ部分をとるんじゃない!」
このみ「環ちゃんルートも番外編で実装ね!」
P「乗っ取れTInt Me!?ああ! もうごちゃちゃだ!」
桃子「お 兄 ちゃ ん ?」
P「ひっ……!」
桃子「ちゃんと桃子のこと見ててねって言ったよね!!!」
桃子の声は辺り一面に響き渡る。俺は情けなく返事するしかなかった。
おわり
>>2
周防桃子(11)
http://i.imgur.com/TcDHeAk.jpg
http://i.imgur.com/PEjYBPq.jpg
http://i.imgur.com/3Gw96ND.jpg
>>3
馬場このみ(24)
http://i.imgur.com/FKjgCr1.png
http://i.imgur.com/C1tMNRZ.png
>>32
中谷育(10)
http://i.imgur.com/fQlgAYK.png
http://i.imgur.com/p64webr.png
箱崎星梨花(13)
http://i.imgur.com/8rCAWmV.jpg
http://i.imgur.com/kVtDItT.jpg
大神環(12)
http://i.imgur.com/tbXPtna.jpg
http://i.imgur.com/vXM3MSZ.png
タイトルそういうことだったか
あと設定を変えて時間旅行のとこでJelly PoP Bean由来は意外だったな
http://i.imgur.com/iqKF6eU.jpg
乙です
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