モバP「やってしまった…」 (14)

モバP「やってしまった…」

彼はそう呟いた。

老舗の芸能事務所のプロデューサーとしてアイドルのプロデュースをやっている彼は、ついに限界を超えた。

「ウッ…グッ…エッ、」

目の前で鳩尾を抑え蹲って苦しんでいるのは、夢見りあむというアイドルだ。




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この女はSNSで人の逆鱗に緻密かつ正確に触れまくり、大炎上させる。しかも何度も、である。そしてその消化活動やら謝罪や後始末やらを彼がやってきたのである。

彼は彼女が炎上するたびに説教をしていた。しかし、この体液がガソリンで出来ているかのようなこの女の学習能力はサルにすら劣るようで、何度言っても無駄であった。

ずっと我慢していた、我慢していたのである。これがプロデューサーの務めだと思っていた。

しかし私の心は、怒りと言う本能は蓄積されていた。ずっと心が殴りたがっていたんだ。

そしてこの鳩尾の一撃である。気づいたときにはもう遅い。すでに彼女の鳩尾をクリーンヒットさせていたのだ。

「やってしまった」と思ったあとこう思った。

鳩尾でよかった、と。

よくボディーで我慢できたな偉い

ええぞもっとやれ
期待

彼女を見ると、その口からはかなりの量の吐瀉物が吐き出されていた。昨日食べた物の溶け残った物もちらほらみえる。

しかしまだ彼女は地獄に堕ちたかのような苦しい表情をしている。あっ、若干泡吹いてる。

もしこれが心臓とかだったら金剛やハートブレイクショットに勝るとも劣らない威力だったかもしれない。いや下手をすればグッバイ、エイジ・ダテではすまない気がする。そんな、自分の鉄拳に対する自画自賛のようなことを考えていたそのとき。

ガチャ…

ドアを開いて現れたのは、千川ちひろであった。

ちひろ「な、なにをしたんですか…」

ちひろは一瞬で異変に気づく。

苦しみながら横たわるくそおん…りあむ。

そして、自らの行いを自覚し、立ち尽くすモバP。

モバP「ごめんなさい、ちひろさん…限界だったんです。」

彼は、そう答えた。それを見たちひろは全てを察した。

そして、彼女にある感情がわきあがった。

ーかわいそうー
(プロデューサーが)

彼女は見てきたのだ。彼がこの、炎上ばかりしでかすこの小娘の尻拭いをしてきたのを。このピンク頭の為に下げなくてもいい頭を下げてきたのを。

だから、彼が悪いことをしたとか、最低なやつだとは思わなかった。彼女は散々鬼やら悪魔やら言われてきたが、実際には情のある普通の人間なのだ。 

その人間が、優しさを込めて言った。

「いいんですよ、あなたは頑張ってきたんです。」

その言葉がモバPには、貴方は悪くない、というようにも聞こえた。


ちひろさんにも一発入れとくか

>実際には情のある普通の人間なのだ。
嘘だッ!!!

涙が出そうだった。

よく炎上させるとはいえ、女であり、アイドルである人間の鳩尾に怒りの鉄拳をかましてしまった私に、彼女は優しい言葉をかけてくれたのだ。こんな人間にも優しさを与えてくれる人がいる。人生、まだ捨てたものではなかった。

目の前のりあむは少し痛みが収まったのか、二人に呟く。

「な、殴らなくてもいいじゃん…」

その発言に二人はイラっとする。

兎にも角にも、このガキンチョに己の罪を自覚させねばならない。

「ピンクヘッドクソデカおっぱいさん、貴方何回炎上させれば気が済むんですか?」

「いや、バズらせようと思って…」

何度も聞いた言葉だ。だがこの頭ピンクがバズった試しはない、こいつに現実は見えてないのだろうか。

「貴方にそんなことは無理なんです。無理、できない、これは必然。」

「そ、そんなこと言われたって…」

ピンクが食い下がる、いや、何回も炎上してるくせによくそんなこと言えるな。いくら頑張ったって無理無理カタツムリ。そう思っていた時に、ちひろさんは援護射撃を開始する。

「あのね、りあむちゃん、貴方は上野動物園のサル山から来たからわかんないんでしょうけど、あなたはもう簡単に炎上するの、ゲームでいうボーダーブレイク勢なの。」

「ガンダム勢ではなく!?」

プロデューサーは、ちひろさんはやはりすごいなぁと思った。あのりあむをファ○ク盗む[ピーーー]しか通じないようなスラム街のギャングのようなボダ勢に例えるとは思わなかったからだ。しかし、ちひろさんはまだ止まらない。

「りあむちゃんはもう、どこその県知事をキレさすようなアホと同じです」

「そ、そんな…」

えげつない、その一言である。みるみるうちにりあむは絶望していった。



言い過ぎやぞりあむ以外に

すごい。さすがちひろさん。

言葉の一撃が違う、彼女の発言を見るたびに、自分の甘さを思い知らされる。ワンパンで自画自賛していた自分が恥ずかしくなる。

「聞いてるんですか?チンパンジーだって聞きますよ!?」

「うう…」

りあむが憔悴しきっている。でも、全く可哀想とは思わない。むしろちひろさんに申し訳なさすら感じるし、応援したくなった。

頑張れ、ちひろさん。

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