鷺沢文香「特別な一日にこそ、何でもないひとときを」 (1)


東から射し込む陽の光。

携帯電話が鳴動する音。

それらによって、私は目が覚めました。

まだ完全に開き切らない瞼のまま、枕元を手当たり次第に探します。

やがて、こつんという感触に行き当たり、ようやく携帯電話は静かになりました。

画面に表示された時刻を見て、頭がゆったりと回転し始めます。

起きて、顔を洗い、身支度を整え、お化粧をして、余裕があれば朝食を。

そんな具合で、やるべきことに優先順位をつけてみるなどするほどに、思考は平常の回転数を取り戻していきます。

一方で体はと言えば、未だベッドの縁に腰掛けたままでした。

大変な難関が立ち塞がっているためです。

第一工程から第二工程までの“立ち上がる”という難関が。

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