提督「涼月を拷問する」 (15)
提督「ええい、涼月の奴め。何という事をしてくれたのだ!ふざけおって!」
大淀「そ、そんなに荒れて如何なさったのですか?」
提督「涼月がよりにもよって隠し畑を作っていたのだ」
大淀「隠し畑……ですか?」
提督「そうだ!そこで最高級の和野菜、日本で品種改良され特別高級になった作物の数々を育てていたのだ」
大淀「そんな……」
提督「しかもそれを独り占めしようとしていたのだ。絶対に許さんぞ!」
大淀「で、ですが素人の作る野菜です。お目こぼしなど……」
提督「馬鹿者!涼月はいくつもの野菜を育て上げてきたプロだ!しかも野菜によっては指導者が居て、ネットや電話で指導してくれるのだぞ。他にも誰でも美味いものができるように設備とセットになって販売している物もある。知った風な口を利くな!」
大淀「も、申し訳ありません」
提督「分かったらいいのだ……怒鳴ってすまなかったな」
大淀「い、いえ……」
提督「……リシュリューを呼べ」
大淀「ま、まさかまた!?」
提督「分かっているのなら私に命令を繰り返させるな。早くしろ」
大淀「…………」
提督「早くしろ!」
大淀「は、はいっ!」
提督「涼月も指導室に運んでおけっ。これほどまでの重罪、ただではおかんぞ……」
大淀「…………」カタカタ
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提督「入るぞ」キィ
涼月「…………」
提督「涼月、貴様を指導する前に、何が悪かったのか自分で言ってみろ」
涼月「…………」
提督「どうした、黙っていては分からんぞ」
涼月「……わ、私は何も……」
提督「ほぉ……証拠品の数々を前にしてまだしらを切るか」
涼月「証拠品も何も……私は別に……」
提督「私が分からないとでも思っているのかっ!」ダンッ
涼月「ひぅっ」
提督「これらは最高級品の野菜たちだ」
提督「この間貴様からもらったカボチャとは比べ物にならんほどのな」
涼月「そ、それは……私が作った物ではない……からです。私の畑の収穫物は提督もご存じのはずではありませんか……」
提督「ああ、だからこれらは発見された隠し畑から収穫された物だ」
涼月「…………」ビクッ
提督「誰かがこの野菜を皆に隠れて栽培していたのだ。そしてその人物とは、お前ではないのか、涼月」
涼月「……わ、私では……」
提督「そうか、ならならこれらは私が美味しく頂こう。持ち主が分かれば返してやろうとも思ったが……」
涼月「私です!」
提督「ではあの隠し畑の持ち主が貴様であると認めるのだな?」
涼月「……はい……」
提督「ふむ。では、貴様の罪も理解しているな?」
涼月「…………はい」
提督「それはどのような罪だ?」
涼月「わ、私は……美味しい野菜たちを、独り占めしようと、しました……」
提督「……よろしい。では貴様は後程教育的指導だ。覚悟しておけ」
涼月「あっ、あのっ!」
提督「なんだ?」
涼月「野菜は本当に返してもらえるんでしょうか?」
提督「もちろんだ。私は嘘などつかん。何なら今すぐにでも返してやろう」
涼月「ありがとう……ございます……」
提督「入って来い」パンパン
リシュリュー「はい、準備は出来ているわ」
涼月「リシュリューさん!?その恰好は!?どういうことですか、提督!?」
提督「騒ぐな。返してやると言っただろう…………料理してからな」
涼月「そっ、そんな……」
提督「くっくっくっ……。これらの野菜の共通点は分かるか?」
涼月「…………」
提督「その表情だと分かっているようだな。そう、これらの野菜は全て、日本人の舌に合わせて調整されている」
提督「だから、日本料理にこそよく合う味にされている」
涼月「止めて下さい、お願いします!そんな……ひどい事……」
提督「指導だと言っただろう!さあリシュリュー始めろ!これらの野菜をフランス料理にしてしまえ!」
涼月「いやぁぁぁぁっ!」
リシュリュー「では、まずはこのカボチャを……」
涼月「ダメェェェッ!それは煮っころがしにしようと思っていたの!お醤油との甘じょっぱさが最高なんです!なのに、なのにぃぃ!」
提督「まずそのカボチャに目を付けるとは、さすがだな」
リシュリュー「メルシー(ありがとう)」
提督「そのカボチャは栗マロンと言ってな。特段甘くなるよう品種改良された物だ」
提督「だがその栽培方法は特段難しく、更に収穫量は他の半分だ」
リシュリュー「カボチャは比較的育てやすい作物なのに、それが育てにくいのね」
提督「ああ、育て方を間違えるとすぐ味のないカボチャになってしまう。だから研究会がわざわざ指導しているようだな」
提督「それだけの甲斐あって甘く出来た栗マロンの糖度は15~20と、かの有名な宮崎マンゴー太陽のたまごに匹敵する」
リシュリュー「そんなにも……」
提督「くっくっくっ……さすがは涼月だ。コイツの糖度は16か。ここまで甘くさせるとはな……」
涼月「お願いします!そこまで分かっているのだったら……それだけは……それだけは……」
提督「構うな、やれっ!」
リシュリュー「は、はいっ」
涼月「あああぁぁぁぁぁっ!!」
リシュリュー「このカボチャの甘みを生かすにはデザートが良いかとも思ったのですが、やはり始めは飲む方が受け付けやすいと思いまして……」
涼月「そ、そんな……こんなにも、こんなにも……」
リシュリュー「スープにしてみました。熱い日が続くので、牛乳で溶いて冷製スープにしてありますから、いくらでも飲めると思います」
提督「なるほど、いい心遣いだ。さあ涼月、お前の望み通りにカボチャを返してやろう」コト
涼月「う……」
提督「どうした?そら、お前の、カボチャだ。少し形が変わってしまったかもしれんがなぁ」
涼月「うわぁぁぁっ」ごくごくごく
提督「そうそう、カボチャは足が早いから早く飲んでしまわないとなぁ。そら、おかわりだ」
涼月「ああぁぁ……コリアンダーの柔らかい香りが、ほのかな苦味が……こんなにもカボチャの味を引き立てるなんてぇぇぇ!」ごくごくごく
リシュリュー「日本人はスパイスが苦手な人も多いから心配してたけれど、口に合って良かったわ」
涼月「手が、喉がぁ……と、止まらないですぅ。わた、しは……ああ、私はぁ……」
提督「さあ、次はどうしてくれようか。なあ、リシュリュー?」
リシュリュー「そうね、次はやはりフランス料理の定番、フォアグラを使うわ」
提督「フォアグラといえば、カブか?」
リシュリュー「そうね、カブとフォアグラは最高の出会いよ。でも今日はそんなありきたりのものじゃなくって少し冒険してみたの。……これを使ったわ」
涼月「そっそれは辛味大根!」
提督「辛味大根か。京野菜のひとつで名前の通り、他の大根に比べて非常に辛味が強いのが特徴だが……」
リシュリュー「ええ、意外と合うと思ったのよ。ステーキにもわさびが合うでしょう?」
涼月「それは擦り下ろすことでより辛味が増すので、それをお蕎麦の薬味に使ったり、お魚の脂ぎった口をさっぱりさせるために……」
リシュリュー「でしょう?だから、よく脂ののったフォアグラと合うと思ったのよ」
涼月「いやぁぁぁっ!」
リシュリュー「フォアグラと辛味大根のソテーよ。上にはトリュフソースをかけてみたわ」
涼月「そんな……そんな……。京野菜は和食にこそ……」
提督「それは間違いだ。ヌーベル・キュイジーヌを知っているか?」
涼月「な、なんですか……?」
リシュリュー「日本語では新しい料理、という意味よ。この間お亡くなりになったクリスチャン・ミヨーという人が提唱した新しいフランス料理」
提督「この料理法に最も影響を与えたのが和食と言われている。まあ、色々な他国の料理を参考にしているが、根本的という意味では和食が一番だろうな」
リシュリュー「うま味という味覚が2000年に科学的に立証される前から、日本の出汁、つまりうま味という概念をフランス料理に取り込んだのよ」
提督「そうだ。当時日本人以外誰も信用しなかった旨味を感覚的に理解していた偉大な人と言える」
提督「話が逸れたか……。とにかく、彼は他にも和食から色々と吸収していった。だから、フランス料理には和食の下地が入り込んでいるのだよ。京野菜が和食としか合わないという考えは捨てるべきだ。いや、捨てさせてやろう」
リシュリュー「はい、召し上がれ」コト
涼月「そんな……私の辛味大根が……ああ、こんなに脂まみれに……」
提督「さあ、早く食うがいい!」
涼月「いや、いやぁぁぁっ!」
提督「くくくっ、いつまでそうやって耐えられるかな?うまそうな匂いが呼吸と共に貴様の肺腑に満たされて行くのが分かるだろう?」
涼月「ああ……駄目……手が……手が勝手にぃ……」ブルブル
提督「さぁ、さぁ!喰らえ!」
涼月「ああぁぁぁぁっ!!」がぶっ
提督「どうだ?」
涼月「おいちいれふ!フォアグラの脂の旨さと、大根の辛味が混ざり合って……甘いカブだと蕩ける様な味わいがずっと口に残る様な感じで幸福感を与えてくれるのに!」
涼月「これはっ、スキっとした感じで口当たりをさっぱりさせてくれて、むしろ口に含めば含むほど次が欲しくなって来ます……」
涼月「フォアグラなのにこんな……いくらでも食べられて……」ハグハグ
涼月「うそっ……だめぇ……」むしゃむしゃ
提督「……トドメをさせ、リシュリュー」
リシュリュー「……はい」
涼月「りゃめれふ……これいりょうされたら、わたひ……わたひぃ……常識が狂っちゃいましゅぅぅ!」
提督「くははははっ!狂え、涼月ぃ!」
リシュリュー「最後は……サツマイモ、灯籠蜜芋(とろみついも)を使わさせてもらったわ」
涼月「そりぇはぁ……そのまま焼き芋れぇ……」
提督「ああ、灯籠蜜芋は特に甘い品種だな。あまりに美味しいため、お隣の中国では大人気だそうだな。芋のつるを密輸しようとして捕まった者もでたくらいだ」
提督「だが、そのまま食べさせるわけないだろう?分かれよ、涼月」
涼月「そんにゃぁぁ……」
リシュリュー「残念ながら、サツマイモを使ったお菓子はフランス料理には無いわ。というかサツマイモをここまで甘くした国が日本しかないのよ」
提督「くくく……それはまた日本らしい」
リシュリュー「だから、モンブランにしてみたわ。クリームとラムレーズンがたっぷりでね」
涼月「ああぁぁぁ!いやぁぁぁぁぁっ!!ほっぺがほっぺがぁぁぁぁ!」
提督「……落ちたか……」
涼月「んぐっはぐっむぐっんまんま……」
提督「どうだ?フランス料理も美味いだろう?」
涼月「はいっ、お寿司お刺身もお味噌もお蕎麦もフランス料理になればいいと思います!」
提督「……もうなってるのがフランス料理の恐ろしい所だよなぁ……ソースに味噌を使い、刺身はキューブ上にしてサラダにドレッシングとして使ったりなぁ……」
リシュリュー「ふふっ、フランス人も日本人に負けてないでしょ?」
涼月「食べたいです、食べさせてください、なんでもあげますから。この賀茂なすも、独活も、じねんじょもぉぉぉ。だから、だからぁぁぁ!」
提督「…………これでもう野菜を独占する事もない、か……。てこずらせおって」
涼月「食べしゃせてくりゃさいぃぃ!」
以上、50本目の艦これSS終了でございます。最後まで読んで下さりありがとうございます
50本目はやはりこのシリーズかな、と
今までのはいつも通り渋に置いてあります
それでは皆様良い駆逐ライフを~
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