本作は自衛艦の艦娘化物です。一応シリーズの体を取っていますが、前作までとのつながりは一切合切ございません。
7月30日に進水する新型イージス艦を巡って、重巡や高速戦艦やDDHがわちゃわちゃするお話です。
話の性質上オリキャラが複数登場します。ご注意ください。
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長い暗闇を超えると、そこは居酒屋だった。
何を言っているのかわからない? すまない、私もだ。
「いらっしゃ、あら! お久しぶりですね!」
カウンターの奥から、和装の女性が顔を出した。私は戸惑いながらも挨拶をする。
「いえいえ、ご丁寧に。おかえりなさい。長い間、お勤めご苦労様でした」
ど、どうも……。初めて会う方に労われるというのもおかしな気持ちだ。すると、女性は私の困惑を察したようだった。
「ああ。もしかして、まだ記憶が戻られていないんですね?」
記憶喪失、なのだろうか、私は。
「仕方がありませんよ。戻ってこられた艦娘はいつもあなたのようになりますし。改めまして、私は鳳翔です。今はこのお店を間宮さんと一緒に取り仕切っていますが、70年ぐらい前までは、現役の空母をやっていました」
そうだ思い出した。旧帝国海軍初の航空母艦、鳳翔。彼女がその鳳翔なのだ。なぜそんな方がここに……?
鳳翔「ここはですね、引退した艦娘が集う世界、なんですよ」
……あの世?
鳳翔「俗な言い方をしてしまえば」
え、嘘。
衝撃の事実が明かされ、頭が真っ白になる。すると、そんな脳味噌をゆすぶるような大声が轟いた。
「うわぁぁぁああああん!!」
見ると小柄で長い髪の少女が、苺ミルクのジョッキ片手に喚いていた。
暁「あっちの人はレディーな暁の魅力をわかってないんだわ!! 響も雷を電も頑張ってるって言うのにどーして私だけまだ呼ばれてないのー!!!」
陽炎「わかるよ~暁~。不知火ったら姉の私を差し置いて行っちゃうなんてさ。黒潮ももう長いこと行きっぱなしだし。そーいや吹雪も初雪と白雪が行った時だいぶ拗ねてたけど、今はなんとなくわかるわー」
暁「そもそも朝日さんが出しゃばるのが悪いのよ!! あの人元々戦艦じゃない!」
陽炎「そーだそーだ!!」
な、なんだか大変なことになっているらしい。すると鳳翔さんが耳打ちをしてくれた。
鳳翔「彼女たち、この間進水した新型艦のオーディションに落ちてしまって……」
オーデション?
鳳翔「それも思い出せていないんですね……。そうだ! あちらの方にあなたのお知り合いの方もいらっしゃるはずですよ。今は少しピリピリされているかもしれませんが」
鳳翔さんに促されて、私は奥の個室が並ぶ廊下に向かった。そして一番手前の戸を開く。そこには、『30FFM睦月型決起集会』と書かれた横断幕と、白鉢巻を絞めた決戦modeのちびっこたちがいた。
睦月「今こそ! 睦月型の完全復活を目指すにゃしぃ!!」
如月「22隻も作るなら~、きっと私たちにも声がかかるはずねぇ」
弥生「楽しみ……」
卯月「なんだかんだ片隅に置きやられた睦月型を復権させるぴょん!!」
きくづき「そうだな」
もちづき「ええ~、もうよくない~?」
ながつき「再びみんなと肩を並べる、夢のようだ」
たかつき「楽しみだねぇ~」
卯月「こいつ誰だぴょん」
うーん。彼女のようなちびっこに知り合いはいない。いや、見たことある奴もいたような……。
次の扉を開く。
ゆきかぜ「次のオーディション、みんなで頑張りましょう! ゆきかぜがいれば大丈夫です!」
浜風「はたかぜちゃん達が引退したら、私たち、かぜ型がいなくなってしまいますし……」
松風「そろそろ僕たちの番が来てもいいと思うんだよね?」
磯風「睦月型に後れはとらんぞ」
時津風「第17駆逐隊復活させたいね~」
あさかぜ「私たち神風型も……ってあれ、かみ姉さんはどこ?」
ここも違う。少し見覚えのあるやつもいたが、違う。
次だ。
那珂「どーして那珂ちゃんはなかなか御呼ばれしないのー!!」
球磨「全部表記が悪いクマ。ひらがなだとわけわかんなくなるクマ」
多摩「まあ、ここでのんびり過ごすのも悪くないにゃ~」
阿賀野「みんな! 次の30FFMで最新鋭の阿賀野型を復活させるよ!!」
酒匂「えいえいおー!!」
ここに関してはまるで心当たりがない・・・・・・。まったく私の知り合いというのはいったいどこに……。
すると、向かいの部屋から腕が伸びて来て、私を強引に引き入れた。
そしてあっという間になんだか影をしょったお姉さま方に囲まれる。
長門「現世でのお勤め、ご苦労だったな」
武蔵「まあ、飲め」
大和「そして向こうのお話を聞かせて下さいませんか……?」
神風「私たちにはもう、縁がないから……」
暗っ! 雰囲気暗っ!
長門「もうDDHが出そろってしまったからな……。ひゅうがたちが引退するまで待つしかあるまい」
大和「大和は……、大和はどーして選ばれないんでしょうか……。もう一度、というか今後こそ活躍したいです!!」
武蔵「いいじゃないか、大和は。宇宙戦艦やってるだろう」
大和「ですけど~」
長門「いいところまで行けるのに、なぜいつもいつも……」
ズーン、とか、ドーン、とかいう言葉がぴったりな空気である。
部屋の反対側には、もうひとグループ出来ていた。
占守「く、クナが行けたんっすから、占守にもチャンスはあるっす……」
択捉「そうよ、海自は無理でも海保があるわ!」
扶桑「伊勢と日向に先を越されるなんて……」
山城「扶桑姉さま、姉さまがネームシップでないという実に遺憾な事態ではありますが、あきつしま型2,3,4番艦の建造が予定されているとか! 姉さまならば必ず選ばれるはずです! あ、なんなら新型PLHも!」
扶桑「ありがとう山城。ふふふ、二人でもう一度頑張りましょう」
あ、こっちはちょっと明るい。いや、真っ暗か豆電球ぐらいの差ではあるけども。
私は何となく面倒なことになる気がして、差し出されたコップを何とか固辞する。そして探し人をしている旨を尋ねると、すぐに教えてくれた。
長門「ああ、お前の姉だな。今、一番奥の部屋にいる。顔を出してやれば喜ぶんじゃないか?」
礼を言ってから、私は部屋を出た。そうだ、確か、姉はもうこっちにいた。従妹のように慕っていたあの二人もたしか。
あきつ丸「どうも暁部隊が復活するらしいであります! まるゆ! ここは陸軍艦娘としての意地の見せどころでありますよ!」
まるゆ「時代って変わりませんね……」
龍驤「DDVや! DDVはいつになったら出来んねん!」
瑞鳳「私たち、もしかしたら今度は潜水艦かもしれませんね」
祥鳳「蒼龍さんと雲龍さんが行っちゃったときは空母みんな驚きましたしねぇ」
瑞鶴「翔鶴姉、この多目的運用母艦とかいうわけわかんない奴、固定翼機積むかもしれないんだって! 加賀さんの遅れを取っちゃったけど、今度こそ私たちの番かもよ!」
翔鶴「ふふふ、楽しみね、瑞鶴」
そんな声をしり目に一番奥の戸を開けた。
「しらね姉さん!!」
しらね「あ! くらまじゃない! お疲れさま!」
そう、私は、私の名はくらま。しらね型ヘリコプター搭載型護衛艦2番艦の、くらまだ。
しらね「これで私たちしらね型も完全引退ねー。いずも、元気でやってた?」
くらま「ああ。立派な自衛隊の顔になってるよ」
しらね「そう、ならよかった。あ、くらまも一杯やりなさい。はいどーぞ」
しらね姉さんから酒の注がれたコップを受け取る。
ここでふと、何者かからの強烈な視線を感じ顔を上げた。見ると摩耶がものすごい顔でこちらを睨んでいた。
摩耶「ライバルがまた増えやがった……」
くらま「はぁ? 酒飲み大会でもやっているのか?」
羽黒「あ、今、今度進水する新型DDGのオーディションの結果発表待ちで……」
くらま「オーディション……。鳳翔さんが言っていたやつか」
那智「そうだ。だから重巡と高速戦艦がこうして集っているというわけだ」
ひえい「もう一回こんごうお姉さまと一緒に戦列に並びたいのになぁ~。金剛型再再結集なのに~」
はるな「私たちは退役したばかりですから、すこし難しいかも……」
しらね「願わくば、今度ははるなさんと姉妹になりたい……」
話を聞くと、あたごさん、あしがらさん以来の新型イージス艦の建造と、量産型の護衛艦、3900トン型FFMの建造が決定。そんなわけでこの世界は今少しざわついているのだという。
摩耶「絶対あたしだ! もうあたし以外にありえない! 防空巡洋艦だったんだし!」
羽黒「二隻しか作りませんしね、新型イージス……」
那智「私と羽黒が行けば、妙高姉さんと足柄と合わせて妙高型が再結集だな」
高雄「いえ! 私と摩耶で、向こうにいる愛宕と鳥海も合わせて、高雄型再結集よ! 頑張りましょう、摩耶!」
摩耶「いや、ねーちゃんなんか台湾の地名と勘違いされてるっぽいし、厳しいんじゃねえの?」
高雄「ええぇ!?」
羽黒「那智姉さんも……、海外の方からすると、ナチスと紛らわしいんじゃないかって言われてましたよ……?」
那智「そんな……」
青葉「それより青葉型の時代ですよ! ちょうど二人でキリがいいですよ!」
衣笠「そーそー。金剛型と妙高型と高雄型ばっかだったし、そろそろ新しい風吹かせてもいいんじゃないかなー」
あまつかぜ「いい風吹かすの!?」
青葉「吹かせません」
古鷹「いえ、ここは、ここは私と加古を! すべての重巡の始まりですし!」
摩耶「加古のやつ、軽巡の部屋で寝てたぞ」
古鷹「ええ~!?」
その時、ガラガラと戸が開いた。凄まじいオーラだ。私は思わず後ろに飛びのく。
「いずもといい、あさひといい、明治に活躍した艦が一番艦を務めるのが最近の流行りだと思いませんこと?」
ひえい「げ、あ、貴方は……」
三笠「今度こそ私の出番ですわよっ!!」
那智「い、いや貴女は無理だろう! ネームバリュー的に!」
摩耶「大和部屋行きじゃないのかよ!」
古鷹「っていうか貴女は現存してるじゃないですか!」
羽黒「で、でも確かにそれもあり得るような……」
高雄「そんなこと言いだしたら『富士』さんとか『伊吹』さんとかも!」
青葉「いや伊吹さんは空母として大活躍されてますし……」
衣笠「まあ、日本って山いっぱいあるしなー。葛城も天城も行けるし」
摩耶「ううっ、ライバルが思いのほか多い……」
しらね「はるな型イージスの二番艦しらね、結構いい感じじゃないですか!」
はるな「えっと、さすがにそれは厳しい気が」
しらね「私、空気を読まないことには定評があります!」
ひえい「だ、ダメです!! はるなは渡しませんよ!」
摩耶「だぁあああ!! お前らはちょっとうるさい!!」
私は喧騒から少し離れる。
この中からおそらく二人、我が祖国を守るために、再び出撃する者がいる。
彼女たちの行く末が明るいものであることを、かつてのように、戦の果てに深い水底に沈むなどと言う結末を辿らぬよう願って、私は杯を傾けた。
☆元ネタ☆
『暁「あっちの人はレディーな暁の魅力をわかってないんだわ!! 響も雷を電も頑張ってるって言うのにどーして私だけまだ呼ばれてないのー!!!」
陽炎「わかるよ~暁~。不知火ったら姉の私を差し置いて行っちゃうなんてさ。黒潮ももう長いこと行きっぱなしだし。そーいや吹雪も初雪と白雪が行った時だいぶ拗ねてたけど、今はなんとなくわかるわー」」』
雷と電はむらさめ型護衛艦で現在主力として活躍中。
黒潮はおやしお型潜水艦で現役。
ちなみに三人とも海自創成期から脈々と艦名が受け継がれているが、陽炎と暁が自衛艦になったことはまだない。
初雪ははつゆき型護衛艦のネームシップとして、しらゆきはその2番艦として海自を支えた。吹雪も同名の自衛艦はいない。
30FFM 旧式化したあぶくま型、はつゆき型、あさぎり型を更新し、かつ護衛艦隊定数の増加に対応するために『安い』『多機能』『作りやすい』『少人数』をコンセプトにした新型多機能護衛艦。計画では22隻作るらしいが、とりあえ2隻の建造が決定している。
『占守「く、クナが行けたんっすから、占守にもチャンスはあるっす……」
択捉「そうよ、海自は無理でも海保があるわ!」』
――海上保安庁の巡視船には『くなしり』が現在絶賛大活躍中。ちなみに北方領土を主管する根室海上保安部所属。
山城「扶桑姉さま、姉さまがネームシップでないという実に遺憾な事態ではありますが、あきつしま型2,3,4番艦の建造が予定されているとか! 姉さまならば必ず選ばれるはずです! あ、なんなら新型PLHも!」
あきつしま(しきしま)型は海上保安庁最大の巡視船。いろいろあって隣国に対抗すべく最近になってバンバン建造されている。準姉妹艦にしきしま。同系統艦にみずほ、やしまがいる。PLHはヘリコプター付大型巡視船という意味。
あきつ丸「どうも暁部隊が復活するらしいであります! まるゆ! ここは陸軍艦娘としての意地の見せどころでありますよ!」
報道より。陸自で独自の海上輸送部隊創設を検討中とのこと。
瑞鶴「翔鶴姉、この多目的運用母艦とかいうわけわかんない奴、固定翼機積むかもしれないんだって! 加賀さんの遅れを取っちゃったけど、今度こそ私たちの番かもよ!」
自民党の国防部会で提案された空母っぽい艦の概念。有事の前線指揮機能と、いざという時の固定翼機運用機能、揚陸、輸送機能を持たせた艦らしい。本当に作るかどうかは今度の防衛大綱と中期防しだい?
しらね「はるな型イージスの二番艦しらね、結構いい感じじゃないですか!」
しらねは艦の頭脳ともいうべきCIC(戦闘指揮所)を火災で全損。廃艦の危機に陥ったが、退役直前だったはるなのCICを移植してもらい生き延びたことがある。そのためはるな大好きっ子キャラに。
以上です。とうとう新型イージス艦のお披露目と会って興奮が抑えきれず書きました。どんな名前になるのか、とても楽しみです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
乙
11年ぶりか……菊○氏は「まや」と予想されてたな
由愛で
つうわけで、「まや」に決定しました
おめーとー
おまけ
摩耶「っしゃあああああああ!!!!! あたしの時代だぁああああああああっ!!」
那智「むう。今回もお預けか。まあいい。摩耶、しばらくの間、頼んだぞ。私もすぐ行く」
高雄「いい!? 高雄型再結集の約束、忘れちゃだめだからね!」
ひえい「残念ですが、まあ仕方がないですね」
はるな「摩耶さん。日本の事、よろしくお願いします」
摩耶「おうよ! まかしときな! もう一回、摩耶様が守ってやんよ!」
くらま「頼んだ、摩耶」
しらね「向こうの子たちによろしく言っといてねー。まあここでのことは覚えてないんだろうけど」
摩耶「え、ああ。それって……」
「行ってらっしゃい、摩耶」
「新しい方が参りました。司令? 良かった、ですね」
「ああ、よろしく。……君の名前は?」
「よ! アタシ、まやって言うんだ、よろしくな!」
2018年7月30日。
まや型ミサイル護衛艦「まや」進水!!
このSSまとめへのコメント
太平洋戦争で『轟沈』した艦の名前は縁起が悪いから復活させるべきではない。
まとめも作者様もお疲れ様です
自衛艦これ現代もの好きなのでとても好きです楽しませてもらました
ありがとうございます