【デレマス】一ノ瀬志希「プルースト効果」 (36)
デレマスSS
一ノ瀬志希の話です。
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◇
窓の向こうを眺めている。
列車の車窓から外を眺めている。
見渡す限りの闇というキャンバスに散りばめられた星々の輝き。
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窓の向こうを眺めている。
列車の車窓から外を眺めている。
見渡す限りの闇というキャンバスに散りばめられた星々の輝き。
── ここはどこだろう?
そんなことを考えていたら車窓の景色が変わった。
一瞬のうちに星空から何処か屋内と思われる場所に切り替わった。
一人の少女がいた。何やら思案顔の様子。作業に没頭しているようだ。
見覚えのある顔立ちに違和感を覚える。
その引っ掛かりに呼応して記憶の海に埋没した頭脳は、体感にして数秒ほどで答えを取り出した。
── ラボに籠っていたころの自分?
その現実離れした解答を咀嚼した結果、一ノ瀬志希は自分が夢を見ていることに気付いた。
車窓の向こう側にいるのは過去の自分だった。今よりもほんの少し子供寄りの未発達な自分。
焦りが混じったその顔を見るに、夢の演目はなにか良くないことが起きた時の記憶のようだ。
── この時は何があったんだっけ?
頭に浮かんだ疑問を解消すべく、向こう側の風景をよく見るために窓を開いた。
予想外に重かった窓を開放した瞬間、声にならない思いが外から流れ込んできた。
── ……っ
うねりに翻弄されて何もかもが流れさっていく。
窓も、外の風景も、内の風景も、自分の体も、心も根こそぎ流れていく。
◇
気が付くと大人の体に近づいていたはずの体の時計が巻き戻っていた。
視界からの情報をみるに、自分は閉じられたラボの中で実験を続けていると思われる。
どうやら夢の第2幕は没入感溢れるものになるようだ。
【最初は小さな違和感だった】
自分ではないはずの誰か、されど拒絶反応の出ない思案が流れ込む。
その正体は過去の自分だということに気付く。
心を侵す囁きに導かれて記憶が再活性化をはじめる。
【その違和感がなんだったのか。今はもう思い出せない】
かつての自分の体から観たラボ。その中から浮かび上がる違和感。
稼働を待つ実験機器。乱雑に開かれた書き殴りの寄せ集め。
化学のニオイが消えてしまった部屋。
違和感を覚えるたびに火が消えていく感覚。
【違和感は肥大化して疑問となった】
頭が警告を鳴らし始める。何故?
【自分の熱意はこんなものだったのだろうか?】
【生きる意味と決めたものに投入できる熱はたったこれだけだったのか?】
流れてくる想いのなかに何かが欠けている。
【あらゆるものを切り離して冷たく、ただただ冷たくなった頭脳にアドレナリンを加える】
【それによって脳髄は、この心は激しく燃え上がって莫大な熱が生成されるはずだった】
── さむい
漠然とした思考が本能に則って声を上げた。
【熱の生成には冷たい脳みそとアドレナリン以外のナニカが必要だったようだ】
【それに気付いたのは総てが冷たくなって火種が喪われた後】
高まり続ける寒気と不安の中であることに気付いた。
── この部屋で実験が行われたのは少なくとも1週間は前のことだった。
ニオイが消えていても仕方がないほどに長い時間が過ぎていたことに気付いた。
◇
曖昧になっていく。今の自分とかつての自分が混ざっていく。
【自分の熱意に疑問を持った。答えは見つからずに熱が消えた】
── なんでこんなに必死になっているのだろう?
【なぜ熱意を持っていたのかと不思議になった。キッカケを見失ってしまった】
疑問が頭をよぎる度に想いが壊れていく。
【キッカケに至る過程を探した。今の自分では何も見出せなかった】
思いが壊れてメッキが剥がれていく。
【過程の原点にある出発点に助けを求めたかった。その道を閉ざしたのは自分だった】
自分という箱に詰まっていたはずの熱は天に還ってしまったらしい。
【ならば自分のなすべきことは?】
冷たく頭を研ぎ澄ませて、今の自分を顧みるための熱すらなくなってしまった。
── なんで手に銃があるのだろう?
── なんで撃鉄を起こしたところで指は動かなくなってしまったのだろう?
── なんで息苦しいのだろう?
気が付いたら小さくなっていた体は元に戻っていた。
しかし夢は止まらない。
体の震えが止まらない。
頬を伝う滴は一向に途切れる気配がない。
── ああ、そうか。あたしは飽きて……
◇
また場面が変わった。見慣れない部屋の天井が目に映る。
天井を初めて見たのは昨夜だったのを思い出し、志希は夢から醒めたことを悟った。
ここはかつて自分がいた国のホテルの一室。
若き天才科学者Shiki Ichinoseを、ケミカルアイドル一ノ瀬志希で塗り潰す。
そのためこの国にやってきた。
今日からロケの本番が始まる。しかし、そんな気分になれなかった。
日本から持ちこんだはずの決意や熱意は、重過ぎる記憶の豪雨に水没してしまった。
余りにも多くもことを思い出してしまった。
そう、一ノ瀬志希は思い出した。
自分はどうしようもなくジョバンニで、カムパネルラになることはできなかったこと。
希求という名の枷をはめられて、この世を彷徨いつづけることを強いられていることを。
途切れたと思っていた絆がかつての自分を守ってくれたことを思い出した。
希望を志すようにと与えられた名前が最後の一線で踏みとどまるための祝福となった。
なにもかも放り出して生まれ変わることを許さない呪いとなった。
すべてを思い出した彼女は、無性に雨に濡れたくなった。
◇
ホテルの外は明るい灰色に染まっていた。
予報外れの雨に濡れた街は、重く苦しいアスファルトの匂いで満たされている。
終
以上です、ありがとうございました。
フェス限の志希が湿っぽい背景とかを考えていたら、こんなこともあった気がしたので書き起こしてみました。
前のお話
一ノ瀬志希「アイロニカル エトランゼ」
一ノ瀬志希「アイロニカル エトランゼ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1528589152/)
参考
・[ガンスリンガー]一ノ瀬志希
・デレステ;N一ノ瀬志希特訓エピソード
・[アイロニカル・エトランゼ]一ノ瀬志希:特訓エピソード
・一ノ瀬志希2ndソロ曲「PROUST EFFECT」
・その他志希に関わる諸々
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