【モバマス】綾瀬穂乃香「雨音のワルツにのせて」 (22)



モバマスの綾瀬穂乃香ちゃんのSSです。
のんびりしたお話です。

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ふわっとつながってる前作

喜多見柚「グリルドスクエア」
【モバマス】喜多見柚「グリルドスクエア」 - SSまとめ速報
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ガチャ

穂乃香「Pさん、お疲れ様です」

P「おっ」

P「穂乃香か、レッスンお疲れ様」

穂乃香「はい……ありがとうございます」

P「雨、大丈夫だった?」

穂乃香「大丈夫ですよ……梅雨ですから」

P「それなら良かった」

穂乃香「ふふっ」

P「?」

穂乃香「Pさんはそんなところも心配してくださるんだな、と」

P「……なんか恥ずかしくなってきた」

穂乃香「とても嬉しかったですよ」



ザァァァァ…


P「全然止みそうにないなぁ」

穂乃香「今日は諦めた方が良さそうです」

P「……」

穂乃香「……」

P「……つい外をぼーっと眺めちゃうな」

穂乃香「ふふ、どうしてでしょうね」

P「前までは外を見てても憂鬱だーって思ってたんだけどさ」

穂乃香「……?」

P「今はキレイだなって思うようになったよ」

P「ほら、たくさんの傘がくるくる回って、雨の日ってこんなにカラフルだったんだなって」

穂乃香「わぁっ、ほんとだ……素敵ですね」

P「……うん」

穂乃香「……」

P「忍と柚がさ、教えてくれたんだ。雨の日だってそんなに悪くないって」

穂乃香「私も聞きました。ふたりともPさんと過ごせてすごく嬉しそうでしたよ」

P「……あんまり言いふらされると困るんだけどな」

穂乃香「なかよしカルテット……ですから♪」

P「だからって情報が早すぎるよ……このままだと全員となにかありそうで怖い」



穂乃香「……そう、ですね」

P「その点、穂乃香は無茶言わないから安心する」

穂乃香「……」

穂乃香「……」ムー

穂乃香「……」ムーン

P(真面目に考え込んでしまった……やらかしたかな?)

P「……ちょっとくらいならいいぞ?」

穂乃香「は、はい……あ、あのっ」

P「どうした?」

穂乃香「Pさんのお仕事が一段落したら、駅まで送ってもらえませんか?」

P「いいよ、もうちょっと待っててくれる?」

穂乃香「はい」

P「えっーと、この仕事は明日に回して……」

穂乃香「……やったっ」

P「……穂乃香?」

穂乃香「な、なんでもないですっ」



ポスン


穂乃香「……」

穂乃香「……」


ザー…ザー…


穂乃香「静か……ですね」

穂乃香「……」

P「……」カタカタ

穂乃香(Pさんのお邪魔をするわけにもいきませんし)

穂乃香(こういう時、今時の女子高生はどうやって待っているのでしょう?)

穂乃香(……変わったと思っても、まだ分からないことだらけです)

P「……」ウーン

穂乃香(あっ、Pさんの顔が険しくなってる。ふふっ)

穂乃香(って、私は何をじっと見つめてるんでしょうか)

穂乃香(……もうちょっとだけ、わがままを言っても怒られない……かな?)



P「穂乃香ー、とりあえず仕事片付けたぞー」

穂乃香「え、っと……その」

P「?」

穂乃香「す……少し、お、お話していきませんか?」

P「ふふっ」

穂乃香「も、もうっ、笑わないでください!」

P「そんなに緊張してるなんて、珍しいなと思ってさ」

穂乃香「やっぱり……慣れないことをするときは緊張します」

P「うーん、雨が強くなる前に帰ったほうが……」

穂乃香「……」

P「……」

穂乃香「忍ちゃんと柚ちゃん」

P「ぐぬぬ」

穂乃香「そ、そんな脅したりしたいわけじゃないんですけどっ」

穂乃香「でも……その……」

穂乃香「私も、Pさんと雨の日を楽しんでみたいなって」

P「……」

穂乃香「……」ドキドキ

P「そうだな、ちょっとのんびりしていこうか」

穂乃香「あ、ありがとうございます……♪」



P「と、言ってもどうしよう?」

穂乃香「コーヒーでも片手にお話するのはいかがですか?」

P「冷房でちょっと身体冷えてきたしな、さっと淹れてくるよ」

穂乃香「あっ、待ってください! 私が、その、Pさんに淹れてあげたいんです」

P「おぉー」

穂乃香「感心されるほどでは……ちょっと練習してるんですよ」

P「いつもインスタントだからすごい楽しみ。横で見ててもいい?」

穂乃香「どうぞ、誰かのためにやるのは初めてなのでお手柔らかにお願いしますね」






穂乃香「まずこのミルで豆を挽きます」

P「こんなの事務所にあったのか」

穂乃香「コーヒーが好きな方もたくさんいらっしゃいますからね」

P「確かに」


ガガ、ガガガガガガガッ……


穂乃香「こうして豆から粉にすると、ほらっ」

P「コーヒーのいい香りがする」

穂乃香「ふふ、私もこの香り、好きですよ」

P「そうしたらお湯でぐるぐるってするんだっけ?」

穂乃香「そうですね、その前にコップを沸いたお湯でさっと温めておきましょう」

P「ふむふむ」

穂乃香「そうしたらドリッパーにフィルターをのせて、コーヒーの粉を入れます」

P「どりっぱー、ふぃるたー」

穂乃香「それからちょっとだけお湯を注いで、蒸らすのが大事なんだそうです」

P「むらむ……むらす?」

穂乃香「Pさん?」

P「ちょっとついていけなくなってた、一杯のコーヒーも手間かかってるんだなぁ」

穂乃香「美味しさのひと手間ですから……なんだか私が先生みたいです」

P「よろしくお願いします、穂乃香先生」

穂乃香「も、もう……」



P「ぽこぽこしてきたな」

穂乃香「豆が新鮮だとぽこぽこするみたいですね」

P「……もう一回、ぽこぽこって言ってくれる?」

穂乃香「え……ぽこぽこ?」

P「かわいい」

穂乃香「ま、真面目にやりますよ」

P「穂乃香はこれ全部覚えたのか?」

穂乃香「はい、料理の練習のついでにちょっと挑戦してみたくって」

P「すごい、いろいろ挑戦できるのが穂乃香のいいところだな」

穂乃香「ありがとうございます、大事なことをたくさん学んでいる途中ですから」

穂乃香「……飲んでくれる人のことを想って、一生懸命に優しさを込めること、とか」

P「……?」

穂乃香「フリルドスクエアではみんなあんまりコーヒーを飲まないんですよ……Pさん♪」



穂乃香「さて、蒸らしたらお湯をそっと注いでいきます」

穂乃香「真ん中で『の』の字を書くようにするのがコツなんだそうです」

P「ほー」

穂乃香「こう、やって。ぐるぐるっと」

P(穂乃香までちょっと回転してる)

穂乃香「……Pさん?」

P「いや、一緒に身体まで動いちゃってるのかわいいなって」

穂乃香「!? わわっ」

P「大洪水」

穂乃香「ぴ、Pさん! 不意打ちはやめてください!」

P「……不意打ちじゃなかったらいい?」

穂乃香「そ、それは……黙秘します」

P「かわいいって言うぞーって声かければいいんだな」

穂乃香「そ、そういう問題でもないと思います!」



穂乃香「あとはコップにふたり分注いで……」

P「できたー」

穂乃香「ふふっ、じゃあ向こう持っていきましょうか」

P「もう香りがいつもと全然違う……楽しみだなぁ」

穂乃香「あ、あんまり期待されると恥ずかしい気持ちですね」

P「穂乃香が入れてくれたんだから美味しいに違いないよ、ありがとな」

穂乃香「はい!」


ゴクッ


穂乃香「ど、どうですか?」

P「おいしい、とっても」

穂乃香「よ、よかったぁ」

P「よい、よい……あー、おいしいなぁ」

穂乃香「果敢に挑んだかいがありました、ふふ」



ザー…ザー…


P「ふー、そういえばあれ穂乃香が作ったのか?」

穂乃香「?……どれですか?」

P「ほら、窓枠に吊るしてある、てるてる坊主」

穂乃香「はい、そうですね」

穂乃香「最初は私だけだったんですけど、あとからフリルドスクエアのみんなも作ってくれて」

P「柚は逆さまに作ったって言ってたぞ」

穂乃香「ふふっ、ちゃんと後で戻しに来てました。きっと楽しい雨の日があったんですね」

P「……そのへんで追求は勘弁しといてくれ」

穂乃香「あずきちゃんが一番たくさん作ってると思いますよ、ほら」

P「……?」

穂乃香「反物の余り布を飾りに使ってるんです、和風で素敵ですよね」

P「ほんとだ、あずきらしいセンスだなぁ」

穂乃香「ちなみに私は……」

P「緑のぶさかわ、だな」

穂乃香「ぴにゃこら太です!!」

P「よく作ったもんだ。それっぽい、それっぽい」

穂乃香「ぴにゃこら太を再現するにあたって、たくさんこだわりました!」

P(どや顔かわいい)

P「あれ? 逆さまのぴにゃ坊主も何体かいるけど……」

穂乃香「それは、その……」

P「?」

穂乃香「な、内緒です!」



ザァー…ザァー…


P「雨、早く上がるといいな」

穂乃香「はい、梅雨が明ければ夏ですね」

P「……」

穂乃香「……」

P「なんか、穂乃香といるとほっとするよ」

穂乃香「いつもはみんなが賑やかだから、ですか?」

P「それそれ」

穂乃香「私もこうやって静かにPさんとお話したの久しぶりです」

P「……」

穂乃香「……」

P「……雨の音がよく聞こえるな」

穂乃香「……小さな音楽みたいですね」


ティン、トン、タン


P「ワルツ」

穂乃香「ワルツでしたね」

P「雨に踊ってみる?」

穂乃香「ふふっ、それも良いかもしれませんね」

穂乃香「つい、ステップを踏みたくなります。抜けたと思ってもバレリーナの頃の癖は癖のままみたいです」

P「ワルツステップ、だっけ?」

穂乃香「そうですね、一緒に練習してみますか!?」

P「覚えても使いみちがないよ」

穂乃香「それもそうでした……」シュン

P(穂乃香もいろんな表情をするようになったなぁ)



P「穂乃香はもうちょっと気を抜いてもいいんじゃないか?」

穂乃香「……これでもだいぶリラックスしていますよ?」

P「それにしては姿勢が良すぎるよ……」

穂乃香「これは長年のバレエで培った物ですから」

P「なんというか、こう、たまにはソファーにぐだーってしてみるのも悪くないぞ?」

穂乃香「柚もあずきもよくそのへんに転がってるし、さ」

穂乃香「……う、うまく身体が動かないというか、どうしたらいいのか分からないというか……」

P「ソファーを大きいぴにゃこら太だと思ってさ」

穂乃香「えっと……うーんと……。えいっ」


ボスン


P「そうそう」

穂乃香「な、なんか慣れないですね」

P「たまには身体の力も抜いておかないと、いざという時に柔軟性が発揮できないぞ」

穂乃香「そ、そうだったんですか。それはちゃんと練習しておかないといけません!」

P「ごめん、適当に言った」

穂乃香「も、もうっ、Pさん!」

P「……」

穂乃香「……」

穂乃香「ふふふ、いろんなものが緩んでしまいそうです」

P「そんな穂乃香も見れて嬉しいよ」



穂乃香「そういえばPさんはあまり姿勢が良くありませんね」

P「ぎくっ」

穂乃香「姿勢は集中力や疲れなどにも影響するんですよ」

P「分かっているだけど……どうしてもな」

P「んーーっと、ほら、体中がぼきぼきって言ってる」

穂乃香「……」

P「……穂乃香?」

穂乃香「マッサージとストレッチをしましょう!」

P「え?」

穂乃香「マッサージとストレッチをします!!」

P「いや、別に今じゃなくても……」

穂乃香「マッサージとストレッチをするんです!!!」

P「ハイ」



穂乃香「肩だけでもすごい凝ってますね」

P「なんかやらせてるみたいでゴメンな」

穂乃香「いえ、私が好きでやってるんですよ」

P「あー、効く、効く」

穂乃香「ふふっ。……いつも本当にありがとうございます、Pさん」

P「……」

穂乃香「いつだって側にいて励ましてくれる人、そんなPさんのためにできることがあるならしたいんです」

P「……その気持ちだけでお腹一杯だよ」

穂乃香「支え合えるのも、歓びですから」

穂乃香「さぁ、次はストレッチですよ!!」

P「しまった、穂乃香スイッチが入ってしまった」

P「ほどほどで、よろしく頼むよ……」






ザァァァァ…


P「散々な目に合った」

穂乃香「ご、ごめんなさいっ。お嫌……でしたか?」

P「そんなまさか……でもちょっと新鮮だったな」

穂乃香「……?」

P「穂乃香とこうやってぐだーっとするなんてあんまりなかったからさ」

穂乃香「それは……きっと心を許しているから、ですよ」

P「……」

穂乃香「それから、こんな雨の日だからかもしれませんね♪」

P「雨の日も悪くないだろ?」

穂乃香「はい、素敵な一日になりました」



P「じゃあ、そろそろ送っていくよ」

穂乃香「はい」

穂乃香「あっ、少しだけ待っていただけますか」

P「おう……?」

穂乃香「よいしょっと」

P「逆さまのぴにゃ坊主、元の向きに戻しちゃうのか」

穂乃香「ええ、だって待っていた雨の日は来てくれましたから」

P「……」

穂乃香「ふふっ、あとは晴れて夏が来るのを待つだけですね」

P「だ、だな」

穂乃香「次はあずきちゃんの日かもしれませんけど」

P「だよなー、あずきも雨の日が良いって言われそう」



穂乃香「あ、あの……」

P「またこんな静かな午後を過ごせたらいいな」

穂乃香「は、はいっ。……Pさんにはなんでもお見通しですね」

P「俺にとっても良い一日だったから、かな」

穂乃香「そう言っていただけると嬉しい、です」




穂乃香「またこんな静かなワルツのような一日をぜひ♪」



おしまい。
穂乃香ちゃんと並んで雨音に聞き入りたい。
ぜったいに心が豊かになりそう。

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