※キャラ崩壊してます
氷川紗夜「相談に乗って欲しいのですが」今井リサ「うん?」と同じ世界の話です
一部に地の文があります
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――ファーストフード店――
大和麻弥「相談したいことがある、って言ったきり黙ったままですけど……」
白鷺千聖「……なんて言えばいいかちょっと迷ってしまって」
麻弥「気にせず仰ってみてくださいよ。ジブンと千聖さんの仲じゃないですか」
千聖「ありがとう、麻弥ちゃん。それじゃあ……最近、彩ちゃんと花音の距離が近いような気がしてて……」
麻弥「彩さんと松原さんが? そうですかね?」
千聖「ええ。近頃ね、どっちに電話をしても、彩ちゃんと花音の2人でいるって言われるの」
麻弥「あー……言われてみれば、彩さんに連絡すると『今、花音ちゃんといるんだ』ってよく言われるような気がしますね」
麻弥「でも、それで何か不都合なことがありますか?」
千聖「寂しいのよ」
麻弥「はい?」
千聖「あの2人が私を介さないで仲良くなってるっていうのが、寂しい」
麻弥「は、はぁ」
麻弥(……今日はダメな千聖さんの日かなぁ)
麻弥(彩さんか松原さんが絡むとたまーにとんでもなくおかしくなるんですよね、千聖さんて……)
千聖「麻弥ちゃん? 今なにか失礼なこと考えていないかしら?」
麻弥「い、いえいえ、滅相もありません!」
麻弥「それで、ええと、彩さんと松原さんが仲良くなるのがどうして寂しいんですか?」
千聖「……彩ちゃんって可愛いわよね」
麻弥「そりゃあアイドルですから」
千聖「いつでも一生懸命で、不器用なり頑張ってて、転んで怪我しないか不安になるけど、どんな時も挫けないでまっすぐ前に進み続ける姿」
千聖「感受性が豊かでよく笑ってよく泣いて、その表情1つ1つがとても輝いているわよね」
麻弥「え、ええ」
麻弥(ああ、確信しました……これはダメな日ですね)
麻弥(……今日はいつ解放されるかなぁ)
千聖「花音も可愛らしいわよね」
麻弥「そ、そうですね。すごく女の子らしい方ですよね」
千聖「ふわふわほわほわしていて、傍にいるだけで癒されて、道に迷って泣いてないか心配になるけど、どんな時にも自分の芯は持ち続ける姿」
千聖「はにかみ屋さんだからあんまりコロコロ表情は変わらないけど、あのほにゃっとした笑顔にはとても心が満たされるわよね」
麻弥「……そうですね」
千聖「2人ともね、心配なのよ。可愛いけど不器用だから、私がついてないと」
千聖「悪い虫がつこうものなら即殺菌消毒しなくちゃいけないし、都会には悪意を持った人間も多い」
千聖「純真無垢なあの子たちのことだもの。絶対すぐに騙されて悪い人について行ってしまうわ」
麻弥「流石にそれは大丈夫じゃないでしょうか……?」
千聖「いいえ。人を疑うことを知らない天使のような2人だもの。困ってる人がいて……なんて言われたら絶対に放っておけずについて行くわ」
千聖「なんならその方法で私が誘拐したいくらいだもの」
麻弥(……今の言葉は聞かなかったことにした方がいいんでしょうか……)
麻弥(ていうかもう帰りたい……ものすごく真剣な顔で「相談があるの、麻弥ちゃん」って言われた時に何も疑わなかったジブンが憎い……)
千聖「麻弥ちゃん、聞いてる?」
麻弥「は、はい、聞いてます聞いてます!」
麻弥「えぇっと、要はあれですかね、雛が巣立つのを見る親鳥の気持ち、みたいな感じですか?」
麻弥「可愛くて手のかかる雛が巣立ってしまって寂しい……というような」
千聖「……彩ちゃんと花音が私の雛鳥……楽園かしらね」
千聖「どこにも行かないでずっとその場所で暮らしていたいわ」
麻弥「あ、あの、千聖さん?」
千聖「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたわ」
麻弥「いえ……」
麻弥(思考がだだ漏れですって伝えた方がいいですかね……)
千聖「確かに麻弥ちゃんが言うような一面もあるわね」
千聖「でもね、もう一つ何か、私の心によく分からない感情があるの」
麻弥「よく分からない感情、ですか?」
千聖「そうなの。この前、花音が『彩ちゃんと一緒に水族館に行ったんだ』なんて言ってて……」
麻弥「ジブンも彩さんからそんな話を聞きましたね」
千聖「その時の花音がやたら乙女な表情をしていたわ」
麻弥(……どんな表情だろう)
千聖「そのあと彩ちゃんに聞いたの。『花音と水族館、楽しかった?』って」
千聖「そうしたらやっぱり彩ちゃんも乙女な顔をしたの」
麻弥(彩さんは楽しそうに話してくれてましたけど……あれが乙女な顔なんでしょうかね……)
麻弥「それに何か問題が?」
千聖「水族館。乙女な顔をする天使が2人。もうこれは友達同士の遊びじゃなくて、友達以上恋人未満のデートをしていたに違いないわ」
麻弥「デ、デートですか!?」
千聖「ええ、間違いないわ。そしてきっとこんなことがあったのよ……」
――――――――――――
冷房の音。ごうごうと冷たい空気を吐き出す音。
それが耳に付くようになったのは、もうこの水族館が閉館間際で、人がほとんどいなくなったからだろう。
青いLEDライトで照らされた目の前の水槽。その中でフワフワ漂うミズクラゲを眺めながらそんなことを考える。
関東某所の水族館のクラゲコーナーだった。
お昼すぎに到着してから、少し館内を回り、このコーナーに着いたのは、確か六時間ほど前。
それからずっと、私たちは水槽の前に設けられた椅子に座って、時には水槽を眺め、時には他愛のないおしゃべりをして、時には愚痴を吐き出し合ったりしていた。
端から見ればまるでおかしな二人だったと思う。
メインの大型水槽や、ペンギンさん、イルカさんのショーもあるのに、ただずっとクラゲの水槽を眺める女の子二人組。
よっぽどのクラゲ好きか、現代社会に忙殺されて疲れ切った人。そんな風に見られていたかもしれない。
だというのに、どうしてあなたはずっと笑顔でいてくれるんだろう。
クラゲの水槽から右隣の横顔に視線を動かし、しばらくぼんやり考えてみる。
「……うん? どうかしたの、花音ちゃん?」
その視線に気付き、彩ちゃんが私の方へ顔を巡らせて、小さく首を捻った。
「ううん、なんでもないよ」
私はそれに首を振って答える。
「そっか」
「うん」
クラゲの水槽に私は視線を戻す。彩ちゃんも同じように、目の前の水槽へと視線を動かした。
それからまた二人は無言になって、ただ水の中をたゆたうクラゲを見つめる。
ごうごう。冷房の音が聞こえた。
その音に誘われるように、私はさっき考えていたことをもう一度頭の中に思い起こす。
……彩ちゃんは、いつも私のワガママに付き合ってくれる。
先週はつぐみちゃんの喫茶店で、ハローハッピーワールドの活動の中で感じているストレスを受け止めてくれた。
アルバイト中もそうだ。アイドル活動だってきっと大変なのに、それでもいつも明るい笑顔でいる。その笑顔に何度も元気を貰った。
ミスしがちな私のこともフォローしてくれるし、私のため息交じりの愚痴だって心配そうな顔で聞いてくれて、それにだって何度も心が洗われるような気持ちになった。
今日だって、もしかしたらペンギンさんとイルカさんのショーを見たかったかもしれない。それなのに、私の「クラゲを見たい」というワガママに、日がな一日ずっと付き添ってくれていた。
それはどうしてなんだろう。
そう考える度に、私は松原花音という人間の性格を恨めしく思う。
自信がなくて、いつもオドオドしていて、引っ込み思案。色々あったけど、ハロハピのおかげでそれを少しは改善できたという思いはある。
それでも元から少ない勇気がちょっと増えただけ。
“どうして私に優しくしてくれるの?”
この言葉を彩ちゃんに伝えてしまったらなんて言葉が返ってくるんだろうか。それが怖い。
「可哀想で見てられなかったから」「大変そうだなって思って同情したから」「友達だから」
どの言葉が返ってきても、私は勝手に裏切られた気持ちになると思うから。
私は自分勝手な人間だ。
こんなにも優しくしてくれる人に、こんなにも明るくて朗らかな人に、それ以上を勝手に期待している。
……この前、アルバイト中にふと彩ちゃんの手が気になって、なんとなくそれに触れてみた。
彩ちゃんはちょっとびっくりした後に、はにかみながら私の手を握ってくれた。
あの時に感じた胸のこそばゆさ。それをまた私に与えてくれないかな、なんて勝手に期待しているんだ。
それに見合うものを私は彩ちゃんに返せているのか。
そう自問すれば、答えは否とすぐに返ってくる。
彩ちゃんにもらったものの半分だって私は返せていない。なのに、それ以上をもっと、なんて私は願ってしまう。
やっぱり私は自分勝手な人間だ。
「花音ちゃん、今日はありがとね」
「ふぇっ?」
暗い海の底へ沈みかけた思考を、彩ちゃんの優しい声が現実に引き上げる。私は跳ねるように返事をして、視線を右隣へ動かす。彩ちゃんは水槽を見つめたままだった。
「最近、私もけっこう忙しくてさ……こうやってのんびりする時間ってあんまりなかったんだよね」
「…………」
いつも笑顔で一生懸命な彩ちゃん。だけど、やっぱり彩ちゃんは彩ちゃんで大変なことがいっぱいあるんだ。
それなのに今日も私のワガママに付き合ってくれた。嬉しい反面、申し訳なさと罪悪感とが胸中で混ざり合い、返す言葉が見つからなくなってしまう。
「一日中、こうしてのんびりぼんやりとしてるとさ、明日からもしっかり頑張ろって気持ちになれるんだ」
「…………」
「でもきっと、私一人でこうしててもそうは思わないんだよね。だから、やっぱり花音ちゃんと一緒にいるのって、私好きだな」
その言葉に、ニコリと微笑んだ横顔に、私の胸はキュッと締め付けられた。
私も何かを彩ちゃんに返せているような気がして嬉しくなって、もう少し彩ちゃんの近くに踏み込みたくて、でもそれが出来なくて、切なくなる。
私は回らない頭を精一杯フル回転させて、返す言葉を考える。
「その、ごめんね?」
そして口から出たのは謝罪の言葉だった。それにまた居たたまれない気持ちになってしまう。
「どうして謝るの?」
「え、えっと……今日も私のワガママに付き合って貰っちゃったなって……」
言いつつ、どんどん顔が俯いていく。
「先週も私の愚痴ばっかり聞いてもらって、今日もずっとクラゲを一緒に見ててくれて……彩ちゃんは「ありがとう」って言ってくれるけど、ちょっと申し訳ないなって……」
ああ、私は嫌な人間だ。
これは遠回しに言ってるようなものだ。
“どうして私に優しくしてくれるの?”という言葉を、私自身がその答えに傷付かないで済むように、何重にもオブラートに包んで。
「もー、そんなの気にしないでよ。私と花音ちゃんの仲なんだから」
「……うん。ありがとう、彩ちゃん」
はぐらかされたような答えに返したお礼は本心からだった。でも、私が本当に聞きたいことはもっと別のことだ。
私と彩ちゃんの仲。それはどんな仲なんだろう。私といるのが好きって、どんな意味なんだろう。
「……花音ちゃん、私ね、花音ちゃんに謝らないといけないなって思ってたことがあるんだ」
「え……?」
そんなことを考えていると、彩ちゃんから予想外の言葉が出てきた。
私に謝りたいこと? と首を傾げる。私の方からなら謝りたいことはそれなりにあるけど、彩ちゃんにされて嫌だったことなんて何も思い付かない。
「最初ね、花音ちゃんにね……自分の姿を重ねてたんだ」
「それってどういう……?」
いまいちよく分からない言葉だった。私が聞き返すと、彩ちゃんは困ったように笑いながら頬を小さく掻いた。
「えっとね、花音ちゃんと私って、ちょっと似てるなって」
「似てる……かな?」
「正直、全然似てないと思う。でもね、私は昔、勝手にそう思ってたんだ」
「その、どうして?」
「あーなんていうんだろ。私ね? すっごく個性的なバンドメンバーに振り回されて……あ、パスパレはみんなすっごく良い人だし、大切な友達だし、すごい感謝してるんだよ?」
と、彩ちゃんは焦ったように言い訳みたいな言葉を挟む。
「それでさ、そういうのも楽しいんだけどさ? やっぱりたまにね、少し大変だなって思う時があったんだ」
「…………」
「それでその、そんな時にね、花音ちゃんの姿を見て……『ああ、きっとこの子も私みたいに振り回されてるんだな』ってね……勝手に同情してた」
「そう、だったんだ」
少し自嘲の色を含んだ言葉を、彩ちゃんはポツリと吐き出した。
私は『同情してた』という響きだけが心に深く突き刺さって、それにただ相づちを返すことしか出来なかった。分かっていたけど、少しだけ胸が痛くなった。
「……ごめんね? 怒っちゃった?」
「……ううん。こんなことで怒らないよ、彩ちゃん」
怒ったんじゃなくて、勝手に少し傷付いただけだから。続く言葉は何があっても、胸の中に留めなくちゃいけない。
私は曖昧な笑みを顔に張り付けて、彩ちゃんに何ともないように言葉を返した。
「そっか。よかった」
彩ちゃんは一度安心したみたいに息を吐く。それからまた言葉を続ける。
「でもね、今はやっぱり、全然似てないなって思うんだ」
「それは……どうして?」
「だって花音ちゃん、私よりもずっと強いもん」
「え、そ、そんなことないと思うけど……」
「そんなことあるよ。花音ちゃん、何があっても挫けないし、難しいことでもしっかり向き合おうとするし……すごい人なんだなぁって、千聖ちゃんが一目置くのも分かるなぁって思ったんだ」
「…………」
「それにさ、花音ちゃんってすっごく可愛いし。だから、可愛くて、しっかりしてる花音ちゃんは、私の身近な目標! みたいにね? そう……思うようになった」
彩ちゃんは水槽をまっすぐ見つめたまま、そんな言葉を紡ぎだす。私はそれを聞いて、なんとも落ち着かない気持ちになってしまう。
そうやって褒めてくれるけど、私はそんなに強い人間でも、可愛らしい人間でもない。現に、こうして彩ちゃんに認められていることが嬉しい反面、それを裏切ってしまいそうでビクビクと震えている自分がいるのが分かる。
「……私はそんなに強くなんかないよ」
だから私は自分で自分を否定してしまう。さっきみたいに、予防線を張ってしまうんだ。
……やっぱり私は全然強くなんてない。
「そんなに褒められるような人間じゃないよ」
「そうかな?」
「うん、そうだと思う。……先週は愚痴を聞いてくれて、今日は私のワガママに付き合ってくれて……私なんかよりも、彩ちゃんの方がずっと強くて優しいと思うな」
「……もしかして私、いま褒められた?」
「え? えっと……うん、褒めた……のかな?」
「えへへ、そっか。花音ちゃんに褒められて嬉しいな」
彩ちゃんは照れたように笑った。それにまた胸がキュッとする。
「花音ちゃんのそういうところ、すごくいいなって私は思うんだ」
「そ、そういうところって?」
「自分の弱いところを認めて、人を褒められるところ。そういうところがあるからさ、私、花音ちゃんといるとすごく落ち着くんだ」
「…………」
「それからね、私よりもずっと強くて眩しい人だなって、そう思うようになったんだ。花音ちゃん、本当にすごいなーって」
「そんなこと……」
「あるよ」
再びの否定の言葉は、彩ちゃんの優しい肯定の言葉に打ち消された。
それから水槽を眺めていた彩ちゃんが私に向き直る。ふと右手に温かい感触がして、そちらへ視線を落とすと、彩ちゃんの左手が私の右手を優しく握ってくれていた。
「ありがとう、花音ちゃん。私が色んなことに頑張れるのは、花音ちゃんのおかげだよ」
「あ……」
「優しくて、私を認めてくれて、こうやって元気をくれる。花音ちゃんはね、花音ちゃんが自分で言うほど、弱くなんてないよ」
ニコリ、と彩ちゃんが笑う。その優しい笑顔に、その言葉に、行動に、勇気が足りなくて胸の中に沈んだままだった言葉が一気に喉元までせり上がってくる。
「どう、して」
「え?」
「どうして、彩ちゃんはそんなに優しくしてくれるの……?」
ついに吐き出してしまった言葉。言えないまま、きっと泡沫のように消えていくんだろうと思っていた言葉。それを聞いた彩ちゃんは、少し瞬きをしてから、
「あなたのことが好きだから。大好きだよ、花音ちゃん」
ふにゃりとはにかんで答えた。
ごうごう。冷房の音がかぁっと熱くなった耳に入る。
さっきまで張り付けていた曖昧な笑顔はとうにどこかへ行ってしまった。
閉館間際の水族館。クラゲの水槽が置かれた室内には、私と彩ちゃん以外の人影がない。
彩ちゃんはアイドル。
私はしがない普通の高校生。
彩ちゃんの笑顔は、きっと色んなたくさんの人のものなんだろう。
満開のヒマワリのような、あたたかい陽だまりのような、眩いばかりの笑顔。それを独り占めすることなんて、神をも恐れない傲慢なことなんだろう。
だけど……今、ここには私と彩ちゃんしかいない。
その笑顔は、今だけは私一人のものなんだ。
だから私も、なけなしの勇気を振り絞って、この気持ちを言葉にするんだ。
「わ、私も……彩ちゃんのことが――」
続く言葉。紡ぎだす関係。その先のことは、私と彩ちゃんだけの秘密のお話。
――――――――――
―――――――
――――
……
麻弥「…………」
千聖「きっとそうやって、水族館で友人という一線を越えて新しい関係を築いていたに違いないわ」
麻弥「……えぇ?」
千聖「2人がそうなっていたらって考えるだけで……私の心はもう、嬉しいような寂しいようなもどかしいような、そんないくつもの感情がごちゃごちゃに混ざり合った色になるの」
麻弥「あ、あの、千聖さん……こう言ってはなんですけど、考えすぎではありませんか?」
千聖「そうかしら?」
麻弥「はい……なんていうか……もう妄想の域だと思います、今の話は」
麻弥「そんなに易々と友達の一線を越えたりはしないんじゃないですかね……?」
千聖「……まぁ、麻弥ちゃんはそう思うかもしれないわね。気付かないうちにイヴちゃんとそういう感じになってるし」
麻弥「えっ」
千聖「知ってるかしら? イヴちゃんがハグのついでに頬にキスするのは麻弥ちゃんだけなのよ」
麻弥「あれされてるのジブンだけなんですか!?」
千聖「私にはキスしないの? って聞いたら『あれはマヤさんだけの特別ですから……えへへ』と言っていたわ」
麻弥「そ、そうだったんだ……」
麻弥(『これくらい、外国じゃ当たり前です!』って言われてたから、てっきり皆さんにもやってるのかと思ってた……)
千聖「楽屋でも絶対に麻弥ちゃんの隣に座るし、何かと理由を探して麻弥ちゃんの近くにいようとしてるし……多分慣れちゃったのね、そういう距離感に」
千聖「だから私の話を聞いてもピンと来ないんでしょう」
千聖「ふふ、でも良かったわね、麻弥ちゃん。イヴちゃんに特別に好かれていて」
麻弥「そ、そうですね……フヘッ、フヘヘヘ……」
千聖「麻弥ちゃん、笑い方がちょっと」
麻弥「あ、す、すみません、嬉しくてつい……」
千聖「とにかくね? 彩ちゃんと花音がそんな関係になっているのかが気になって、私はもういてもたってもいられないのよ」
千聖「だから麻弥ちゃん。それとなく彩ちゃんに聞いてきてくれないかしら?」
千聖「私が行ったんじゃちょっとね……彩ちゃん、緊張して喋ってくれなさそうだから」
麻弥「あー……なるほどですね……」
千聖「ええ。だから、注文ついでに少し彩ちゃんにね?」
麻弥「……分かりました。イヴさんのことも教えてもらいましたし、出来る範囲で頑張ってきます」
千聖「ありがとう、麻弥ちゃん。やっぱりあなたは頼りになるわ」
―― レジカウンター ――
麻弥(とは言ったものの、どうしよう)
麻弥(『松原さんと付き合ってるんですか?』なんてまっすぐには聞けませんし……)
麻弥(……よし、ここは先ほどの千聖さんの話を振ってみよう)
丸山彩「あ、いらっしゃいませ、麻弥ちゃん!」
麻弥「どうも。お疲れ様です、彩さん」
彩「追加の注文?」
麻弥「はい。オレンジジュースと三角パイを1つずつお願いします」
彩「はーい! 花音ちゃーん♪」
松原花音「は、はい! 了解しましたー!」
麻弥「あっ、彩さん、ちょっと今……時間ありますか?」
彩「うん? お客さんも並んでないから平気だよ。どうかした?」
麻弥「あ、いえ、大した用じゃないんですけどね? この前、松原さんと水族館に行ったって話してたじゃないですか」
彩「うん」
麻弥「実は千聖さんが――」
―麻弥ちゃんお話中―
麻弥「――って感じだったんじゃないかって言ってまして……あはは、なかなかよく出来た作り話ですよね」
彩「…………」フイッ
麻弥「……え」
彩「…………」
麻弥「彩……さん?」
彩「……ソ、ソウダネー。オモシロイ話ダネー……」
麻弥(目を逸らしてあからさまな棒読み……)
麻弥(あっ、これアレなやつだ)
花音「お、お待たせしました、オレンジジュースと三角パイですっ」
花音「えへへ、彩ちゃんに言われたから頑張って早く持ってきたよ♪」ニコニコ
彩「……えへっ」
麻弥(確実にアレなやつだ!!)
――テーブル席――
千聖「おかえりなさい、麻弥ちゃん」
麻弥「……はい、ただいまです」
千聖「どうだったかしら?」
麻弥「黒です……もう真っ黒です……」
麻弥「明日からどんな顔して彩さんに会えばいいのか分かりません……」
千聖「そう、なのね。……でも、そっか……ふふふ」
麻弥「ち、千聖さん? どうしてそんなに笑顔なんですか……?」
麻弥(まさか怒りとかそういうのの臨界点を超えて……!?)
千聖「ああ、ごめんなさい。やっぱり嬉しくて」
麻弥「へっ?」
千聖「彩ちゃんと花音がもっと深い関係を築けたということがね、共通の友人としてとても嬉しいの」
千聖「そりゃあね、私の彩ちゃんと花音が……ってちょっとは妬いたりする気持ちもあるけど、それでも嬉しさの方がもっと大きいわ」
麻弥「千聖さん……」
麻弥(……千聖さんはすごいですね。思うところがあるだろうに、友達の幸せを一番に祝福してあげられるなんて)
麻弥(それなのに『ダメな日の千聖さん』なんて思ってしまって……失礼なことをしてしまいました)
千聖「それにね、思ったの」
麻弥「何をですか?」
千聖「彩ちゃんと花音。2人の天使が、ゆるゆるふわふわした空気でイチャイチャしている」
千聖「……素晴らしい光景じゃない」
麻弥「えっ」
千聖「ふふ、とても尊い光景だわ。私はそれを温かく見守り続ける守護聖人になるの」
千聖「陰ながらあの2人の幸せをずっと眺めるの」
千聖「そう思うだけで……薫のよく言う“儚い”、あれの意味が何となく分かるような気さえしてきたわ」
麻弥「……やっぱりダメな千聖さんだこれ」
千聖「さぁ麻弥ちゃんも席に座りなさい。彩ちゃんと花音のバイトが終わるまで、のんびり2人を眺めましょう」
麻弥「終わるまでって……えぇ!? あの2人って、確かあと4時間くらいバイトじゃありませんでしたっけ!?」
千聖「あら、それしかなかったかしら? じゃあしっかり目に焼き付けなくちゃね」
麻弥「いやいやっ、千聖さん、この後にお芝居の稽古があるって言ってたじゃないですか!?」
千聖「……それはキャンセルね。事務所に連絡するわ」
麻弥「千聖さん!? いつものストイックさはどこに行っちゃったんですか!?」
千聖「大丈夫、これは見学よ。見て学ぶことだから」
千聖「友愛と恋愛の狭間を揺れる乙女心の機微。それを見て学び、己の中に取り込んでこそ演技が映えるのよ」
麻弥「もっともらしいこと言ってごまかさないでくださいって! せ、せめてジブンは解放して欲しいです!」
千聖「あら……帰ってしまっていいの?」
麻弥「……え?」
千聖「麻弥ちゃんもそういうの、学んだ方がいいんじゃないかしら? イヴちゃんの為に」
麻弥「イヴさんの為に……?」
千聖「イヴちゃんがどこまで友情で接していて、どこから愛情で接しているのか」
千聖「それを知るためのいい勉強になるんじゃないかしら」
千聖「そういう機微を見て学べば、もっとイヴちゃんと仲良くなれるよ思うわよ」
千聖「だから……ね、麻弥ちゃん?」ニコリ
麻弥「…………」
麻弥「……確かに一理ありますね。分かりました、ジブンも千聖さんに付き合います!」
千聖「流石ね。それでこそパステルパレットよ」
麻弥「それは他のバンドのセリフのような……」
千聖「細かいことは気にしないの。ほら、彩ちゃんと花音のもどかしい距離感を見なさい。あの初々しさが――……」
麻弥「な、なるほど、勉強になりますね。あ、今、手を――……」
――別のテーブル席――
上原ひまり「…………」
宇田川巴「…………」
ひまり「パスパレも……やっぱりアレだったね……」
巴「だな……楽曲提供、しない方が良かったかもな……」
ひまり「……壁の高さなんて関係ないよ」
ひまり「乗り越えた事実(意味深)が大事さ……」
巴「やめろよ……一応蘭が作った曲なんだぞ……」
ひまり「……むしろ蘭が作ったからこそ……」
巴「…………」
巴「……それで納得しちまった自分を殴りたくなってきた……」
ひまり「はぁー……ホント、なんで私たちの周りってみんなアレなんだろ……」
巴「千聖さんはともかく……まさか麻弥先輩までアッチ側とはな……」
ひまり「ね……芸能界って怖い……」モグモグ
巴「ってか……ひまり、お前ポテト食いすぎだろ……」
ひまり「なんかもう……食べないとやってられないっていうか……」モグモグ
巴「……そんなに食ってたらどんなに動いたって太るぞ」
ひまり「……え? えーっ!? でもウォーキングすれば痩せるって言ったの巴でしょ!?」
巴「いやな、限度ってもんがあるんだよ。そんな食ってたら良くてプラスマイナスゼロだろ。ちゃんとカロリーが消費できないだろ」
ひまり「だ、だけどちゃんと夜中の間食は控えてるからっ! これくらいヘーキだもん!」
ひまり「もー! 巴が付き添ってくれるって言うから頑張ろうって思ったのに!」
ひまり「どうしてそんなやる気なくなること言うのっ!?」
巴「やる気も何も……歩き始めてたった30分で『休みたーい……』なんて言い出したのはひまりだろ……」
ひまり「休憩は大事なの~! もぉー、巴なんて知らないっ!」
巴「そんな拗ねんなよ……」
ひまり「ふーんだ。イジワルな巴が悪いんだからねー」
巴「あー分かった分かった、アタシが悪かったって……ほら、海行くまでに痩せるんだろ?」
巴「約束通りちゃんと夏休み中はダイエットに付き合ってやるから……な?」
ひまり「……まぁそこまで言うなら? しょーがないし許してあげよう」
巴「はぁーまったく……面倒なやつだよ……」
ひまり「何か言った?」
巴「いーや、なにも。ほら、それ食い終わったらさっさと行くぞ」
ひまり「はーい」モグモグモグモグ
巴「って、んな急いで食うなって。ゆっくりでいいって。しっかり噛まないと消化が悪くなって太る原因に――」
ひまり「あーまた太るって言ったー!!」
巴「ああもうめんどくせー……」
おわり
なんていうかホントごめんなさい。
HTML化依頼出してきます。
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