漫画家「初めて顔出してサイン会をやるんだが、読者に容姿でガッカリされないか心配」 (20)

漫画家「サイン会?」

編集者「ええ。ちょうど今、先生は連載を終えて充電期間中ですし」

編集者「この機会にファンと交流し、ファンとの距離を縮めておくのも悪くないかと」

漫画家「サイン会か……うーん……」

編集者「なにか問題があるんですか?」

漫画家「サイン会ってことはもちろん、顔を出すんだよな?」

編集者「当然でしょうね」

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漫画家「それが心配なんだよなぁ……」

編集者「なにがです?」

漫画家「俺の容姿が、読者にガッカリされるんじゃないかって」

編集者「ああ、それなら大丈夫ですよ!」

編集者「先生は典型的なフツメンですし、ガッカリされるなんてことは……」

漫画家「いや、そうとも限らないぞ」

漫画家「俺が子供の頃、大ブームだった熱血ヒーロー漫画があって」

漫画家「なにかの記念で作者が顔出ししたんだが……」

漫画家「俺たち子供はみんな、描いてる漫画のような熱血漢を想像してたんだけど」

漫画家「実物の作者は痩せこけた、ひょろひょろのお兄さんだったんだよ」

漫画家「別に不細工だったわけじゃないけど、ひどくガッカリしたのをよく覚えてる」

漫画家「つまり、読者ってのはそれだけ作者に対して勝手にイメージを持っちゃうわけ」

漫画家「俺の読者にもああいう気分を味わわせちゃうんじゃってのが怖いんだよ」

編集者「そういうことでしたか……」

編集者「でしたら、やめますか?」

漫画家「うーん……俺も長く漫画家やってるし、一度ぐらいやってみたいな、サイン会」

漫画家「だけど、イメージ壊しちゃうのは避けたい……」

編集者「でしたら、こういうのはどうでしょう?」

編集者「読者が作品を通じて作者を勝手にイメージしてしまうのであれば――」

編集者「先生が“自分の容姿や性格を自分の作品に合わせる”んですよ」

漫画家「なるほど! 逆転の発想だな……やってみるか!」

編集者「先生が先日まで連載してたのは、時代劇漫画の≪武士に二言なし≫でした」

編集者「寡黙な武士が、江戸の悪をばっさばっさと斬る痛快時代劇です」

編集者「主人公は宿敵・闇の幕府を打ち倒し、みごと大団円を迎えました」

漫画家「つまり、これを読んで読者が俺に抱いたイメージに合わせて容姿や性格を変えればいいわけだ」

編集者「そうなりますね」

編集者「ちなみに、ファンレターには『きっと先生も主人公のように武士みたいな人なんでしょうね』」

編集者「などと書かれています」

漫画家「武士みたいな人、ねえ……」

漫画家「……どうでござる? 武士っぽく見えるでござるか?」

編集者「おおっ、和服! 喋り方もイカしてます、イカしてますよ!」

編集者「これなら読者のイメージを壊さないこと間違いなしです!」

漫画家「そういってもらえると、拙者も嬉しい」

漫画家「だが、一つ気になることがある……」

編集者「なんでしょう?」

漫画家「サイン会には、なにも≪武士に二言なし≫のファンだけが集まるわけじゃないでござろう」

編集者「た、たしかに!」

編集者「他の作品のファンが来ることも十分考えられます!」

漫画家「うむ……」

漫画家「ちなみに、拙者が≪武士に二言なし≫の前に連載していたのは?」

編集者「えぇと、ヤンキー漫画の≪ワルで上等≫です!」

編集者「リアルな不良描写の数々で、先生を元ヤンキーだと思ってるファンも多いみたいです」

漫画家「では、今の容姿にヤンキー要素を追加せねばならんでござるな」

漫画家「オラオラァッ! ガン飛ばしてんじゃねぇよ! どうでござるか!?」

編集者「いいですねえ……リーゼントがよくお似合いで!」

漫画家「へへ……拙者、照れるじゃねえか」

漫画家「これなら、≪武士に二言なし≫≪ワルで上等≫両方のファンをガッカリさせずに済むってわけだ」

編集者「ですが先生……」

編集者「先生は確か、美少女がいっぱい出る≪美少女☆水族館≫も連載してましたよね?」

漫画家「あっ……あのひたすら美少女たちが水族館でイチャイチャする漫画か!」

漫画家「ストーリーらしいストーリーは何もなかったけど、結構売れたんだよなぁ」

編集者「あれを読んだファンは、先生のことを典型的なキモオタと思ってるはず!」

漫画家「まずい……そいつらのニーズにも応えねば!」

漫画家「ぶひひひ……! オラオラァ! これでガッカリされることはないでござろう……!」

編集者「完璧です! いい感じに武士、ヤンキー、キモオタが融合してますよ!」

漫画家「しかし……思い出したことがある」

漫画家「拙者はギャグ漫画≪ウマシカ君≫を連載してたことがあった!」

編集者「あのハイテンションギャグ漫画ですね! 私も愛読者でした! 毎週笑ってました!」

編集者「となると、バカ要素も加えねばなりませんね!」

漫画家「わざとバカを演じるのは難しいと聞くが……ぶひひ、やりきってやるぜェござる!」

漫画家「ぱっぱらぴょーんっ! オラオラッ! 拙者は美少女フィギュアが大好きでござる!」

漫画家「よし、我ながらいいキャラ作りができた!」

漫画家「これで……これで全てのファンをガッカリさせずに済む」

編集者「……あ」

漫画家「どうしたァ!? ……ござる?」

編集者「先生の隠れた名作、恋愛漫画≪愛は哀より悲しく≫をすっかり忘れてました!」

漫画家「あったなぁ、そんなの!」

編集者「あれを読んだファンは、きっと先生を“繊細で薄幸な美青年漫画家”と思ってることでしょう!」

漫画家「くっ……巻数は多くないがコアなファンが多いと聞くからな。きっとサイン会にも来る」

漫画家「なんとか混ぜてみるか!」

漫画家「えぇーと、拙者は武士! 喧嘩上等! ぶひひひ……うっぴょーんっ! フッ……」

編集者「おおっ、『フッ……』だけで繊細っぽくなってますよ! なんとなく!」

漫画家「もうないよな!? 俺が連載してた作品、もうないよな!?」

編集者「……ありました」

漫画家「なんてやつ!?」

編集者「格闘漫画≪KO伝説≫です……!」

編集者「先生の迫力あるバトル描写は、この作品で培われたといっても過言ではないでしょう」

漫画家「格闘漫画の作者は強いって思ってる読者って多いからな……筋トレしなきゃ!」

漫画家「どうだ!?」ムキムキッ

編集者「ものすごい肉体美です! この短期間でよく頑張りましたね!」

漫画家「結果にコミットしたってやつさ」

漫画家「それに、漫画家になる前は、これでも結構スポーツやってて……」

編集者「へぇ~」

漫画家「あああああっ!!!」

編集者「どうしました?」

漫画家「俺……いや拙者のデビュー作、妖怪漫画≪南下妖怪≫を忘れてたァ!」

編集者「あんな名作を忘れるなんて、私もどうかしてました!」

漫画家「どうしよ、妖怪漫画の作者ってどういうイメージなんだろ」

編集者「妖怪っぽくなって下さい!」

漫画家「妖怪っぽくぅ!?」

漫画家「ぐへへへ……人間め、食っちまうぞぉ~……」ジュルリ…

漫画家「――って、もうわけ分かんねえよ! どうすりゃいいんだよ、もう!」

編集者「先生が多作なのが悪いんですよ! なんでこんなに描いちゃうんですか!」

編集者「代表作が一作か二作なら、ここまで苦労せずに済んだのに!」

漫画家「今さらそんなこといわれてもどうしようもねえよ!」

編集者「くっ、先生の才能が憎い……!」

漫画家「あああ……どうすれば読者のイメージを壊さずに済むんだ……」

漫画家「このままじゃ、ただの人格が不安定な人だ……」

編集者「――!」ハッ

編集者「先生……私はいい方法を思いつきましたよ!」

漫画家「へ……?」



………………

…………

……





ワイワイ… ガヤガヤ…


ファン「いやぁー、先生はまさにイメージ通りの人ですよ!」

漫画家「拙者は武士……美少女ゲームが大好きでござるぅぅぅぅ! オラオラァ! ナメてんじゃねえぞ!
    ぱっぱらぱーんっ! ぽんぽろぴーんっ! フッ、僕はこれでもデリケートなのさ……。
    絶対お前たちをKOしてやるぜ! ぐへへぇ、人間に襲いかかってやるぞぉぉぉぉぉ!
    さぁ、変幻自在のサインをしてやろう!!!」ムキムキッ

ファン「新作にして最大のヒット作≪変幻自在マン≫の主人公のように、捉えどころのない人だ!」



編集者(やった……! サイン会は大成功だ! 先生は自分の力で自分のイメージを守った!)










― 終わり ―

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