琉姫(昔から、可愛いものが好きだった)
琉姫(デフォルメされた動物がいっぱい出てくる絵本とか、ふりふりの洋服とか、キャラクターがプリントされた文房具とか。そういう、可愛いものが大好きだった)
琉姫(けれど困ったことに、私自身は可愛くなかった。カッコいい、大人っぽいとはよく言われていたけれど、可愛いと言われた経験は殆どない)
琉姫(そんな外見のせいか、私に可愛いものは似合わなかった)
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琉姫『可愛い人が可愛いものを好むのはいい。だけど、可愛くない人が可愛いものを好むのはおかしい。だって似合っていないじゃないか』
琉姫(もちろん、これは私の主張ではない。むしろ幼稚な考えだと思っているし、高校に入学してからはこんな考えを抱く人には出会っていない)
琉姫(しかし小学生の頃だとそうもいかない。こういう考えが男女問わず大なり小なり蔓延していたように思うし、私自身影響されていた)
琉姫(あるとき、どうぶつのお絵描き会に誘われたことがあった。が、私が何か言う前に「るきちゃんは大人っぽいからこういうの好きじゃないよね」と取り下げられてしまった)
琉姫(それで一人でこっそりとお絵描きしていたら、男子に見つかって晒されそうになった。「色川こんなの書いてるんだぜ、似合わねー」と言われた)
琉姫(外見と趣味がつりあっていないからと言って、それを中傷していい道理なんてない筈なのに)
琉姫(だけどそれを理解するには当時の私達は幼すぎた。私は反論することもできず、涙を浮かべることしか出来なかった)
琉姫(はっきりと分かっていたのは、恐らくつーちゃんだけだった)
琉姫(当時のつーちゃんは髪を伸ばしていて、お嬢様らしくふりふりの格好をしていて可愛かった。にも関わらず少年漫画が大好きで、クラス内の誰よりも男らしかった)
琉姫(服が汚れるのも厭わずに動き回るし、好きな漫画のキャラクターの物真似を行って憚らず、よく男子と喧嘩をしていた。端的に言って、わんぱく小僧だった)
琉姫(そんなつーちゃんが羨ましかった。お人形みたいに可愛いのに、男勝りで少年漫画が大好きで――外見に見合わない趣味を平然と公言できるつーちゃんが。可愛らしい外見のつーちゃんが、凄く羨ましかった)
琉姫(それ以来、つーちゃんは私の憧れだった。つーちゃんに近づくようになり、友達になり、家に遊びに行った)
琉姫(つーちゃんが漫画を描き始めたから私も描き始めたからだ。プロデビューも寮入りも、つーちゃんが望んだから)
琉姫(つーちゃんは私の憧れ『だった』)
琉姫(勿論、今でもつーちゃんは大事な友人だ。つーちゃんと一緒にいることが、TL漫画家を続ける理由の一つであるくらいには)
琉姫(でも、もう私は綺麗な瞳でつーちゃんに憧れているとは言えない)
琉姫(だってつーちゃんは髪を切った。長かった髪の毛を、漫画を描くのに邪魔だからって切ってしまった)
琉姫(あんなに似合っていたふりふりのドレスも動きづらいと言って着なくなった)
琉姫(今のつーちゃんは男っぽくてカッコいい。ショートカットで、スポーティな格好をよく好んでいる。可愛らしいつーちゃんはもういない)
琉姫(つーちゃんは可愛らしい自分を捨てたのだ)
琉姫(長い髪の毛、ツインテール、ふりふりのドレス)
琉姫(あんなに可愛かったのに。あんなに似合っていたのに)
琉姫(可愛いが、あんなに似合っていたのに。私が喉から手が出るほど欲しかったものを持っていたのに)
琉姫(つーちゃんはそれをかなぐり捨てた)
琉姫(それが、私は不満だった)
琉姫(許せなかった、まではいかない。それがつーちゃんの選択だというなら私は受け止める。ただ、選択した時点で憧れじゃなくなっただけ)
琉姫(私はつーちゃんに失望したのだ)
琉姫(カップいっぱいの甘くて真っ白なミルクに、苦くて真っ黒なコーヒーをスポイトで数滴垂らしたみたいだった)
琉姫(比率で言うと九対一でミルクの方が多い。だけど間違いなく黒い汁は混じっている。そういう感情を、私はつーちゃんに向けるようになったのだ)
○
琉姫(原稿作業をしていたら、真横から凄い視線を感じた)
琉姫(見てみると、かおすちゃんがふやけた笑顔で私を凝視している)
琉姫(何か顔に変なものでも付いているのだろうか)
琉姫「どうしたのかおすちゃん?」
琉姫(思い切って尋ねてみると、彼女は驚いて勢いよく飛び上がった)
琉姫(あばばばした後、勢いよく土下座する)
かおす「すみません拝観料払います!」
琉姫「え、拝観料?」
琉姫(涙目のかおすちゃんは小動物みたいでとても可愛いのだが、言ってることはまるで分からない。私は首を傾げた)
かおす「えっと、あの、その……琉姫さんの横顔が余りにも神々しいもので、つい……」
琉姫「こ、神々しい?」
琉姫(やっぱり言っていることがよく分からないが、多分褒めてくれてるんだろう)
琉姫(横顔が神々しい、というのは神様みたいに綺麗で美しいってことなのだろうか)
琉姫(嬉しいことには嬉しいけど、表現がオーバーすぎて素直に受け止めることが出来ない)
琉姫(それに、仮にそうだとしても可愛いというニュアンスは含まれていなさそうだ。いや、繰り返すが嬉しくないわけじゃないんだけど)
琉姫(私は改めてかおすちゃんの顔を見た)
琉姫(小動物みたいで可愛い。童顔で、ちっちゃくて、髪が長くて可愛い。髪留めを上手につけれず、片側が交差しているのが可愛い)
琉姫(羨ましい)
琉姫「……ねえかおすちゃん。抱きしめてもいい?」
琉姫(私が言うと、かおすちゃんは大げさに慌てた)
かおす「ひゃばばばばっ!? な、なんでいきなりっ、どうしてですか!?」
琉姫「んー。そうしたくなったから、じゃ駄目?」
かおす「とんでもない!! こちらこそよろしくお願いします、不束者ですがっ!」
琉姫(やっぱりオーバーな反応に苦笑すると、ゆっくりと手を広げ、私はかおすちゃんを包み込んだ)
琉姫(かおすちゃんの体温が直で伝わり、私の冷えた体を温めていく。やはり子供の体は温かい)
琉姫(……いや、かおすちゃんは同い年なんだった。ごめんね、と心の中で謝りつつ、私は呟いた)
琉姫「かおすちゃんの体、あったかいね」
かおす「あばばばばばばばばばばばばばっっっ、光栄でございます」
琉姫(かおすちゃんは酷く緊張している。さっきから聞こえてくる鼓動のペースはやたらと速いし、いつもより遥かにあばばばしている)
琉姫(それがまた可愛らしい)
琉姫(ああ、本当。かおすちゃんは可愛いなあ)
琉姫(私は目を閉じて囁いた)
琉姫「かおすちゃんは、ずっと可愛いままでいてね」
かおす「ふぇ?」
琉姫(かおすちゃんは素っ頓狂な声を上げた)
琉姫(その体温がじんわりと染み込んで、私の体はじわじわと温かくなっていく)
琉姫(……けれど、私の心は寒いままだった)
これで終わりです。
なんかゆるキャン△の恵那リンなでしこ三角関係みたいな感じでかおるきつーを妄想しだした輩を発見したので、るきつーには恋愛感情なんてないって証明するために書きました。こみっくがーるずを変な概念で汚染してはいけない
読んでくれてありがとうございました!
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