ファンとのふれあい! 片桐早苗編 (19)
・片桐さんとファンとのふれあいです
・みじかめです
・前回を読む必要はないです
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二宮飛鳥単独合同SS会場
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東京一の繁華街、神室町。
その大通りに面した、とある居酒屋で。
彼は長座のはしっこに座り、烏龍茶をちびちび飲んだ。
歳の頃は24、TV局のアシスタントディレクターに就いている。
彼は、バラエティ番組の打ち上げに参加し、
同じく参加者の片桐早苗に狙いをすませていた。
美城プロダクション所属。
誕生日は3月7日、28歳。
魚座。O型。右利き。
152cm、47kg。
スリーサイズは上から92/58/84という、
トランジスタグラマーな体型の持ち主。
小柄ながらも鷹揚で器が広く、多くの人に慕われる。
彼は、その“多くの人”のうちの一人だった。
片桐早苗の番組の担当になるために、仕事に真摯に取り組み、
上司に媚びへつらい、他のADを蹴落とし、時には神社に多額の課金をした。
片桐早苗は、“人生”というグラフィック以外は
クソったれのゲームに現れた、数少ない潤いだった。
努力が実ったのか、はたまた神の気紛れか。
彼は片桐早苗が出演するバラエティ番組の担当になった。
今日は彼女に接近するチャンスだ。
いろんなことを話したい。悩みを聞いてもらいたい。
慰めてもらいたい。褒めてもらいたい。
だが、彼は片桐早苗の近くに座れるような地位でもなく、
また勇気もなく、打ち上げが終わるまでは指をくわえるしかなかった。
「それじゃあそろそろお開きに……」
彼は酒好きである。
だが、周りには下戸だと伝えて、打ち上げでも飲んでいない。
つまりこの場の誰よりも冷静である。
そう、出演者を送る役目が担えるくらいに。
片桐早苗は酔っ払い、足取りも危うかった。
オレが片桐さんをおくっていきますよ。
彼はそう言った。
正直なところ、彼は本当に送らせてもらえるとは思っていなかった。
相手は美城のトップアイドル。
かたや自分はテレビ局のいちAD。
だが、彼の願いは聞き届けられた。
なぜか、他の誰も、片桐早苗を送っていこうとはしなかったのである。
彼は神に感謝した。
じゃあADくん、くれぐれも身の安全に気をつけて帰ってね。
出演者の一人がそう言ったが、彼の耳には届いていなかった。
「アハハハ、ADくんが三人いる〜♪」
片桐早苗は上機嫌だった。
だが酔いが相当に深いのか、
何を話しかけてもまともな返事が帰ってこなかった。
ひょっとしたら、少しぐらい身体にさわっても……。
悪魔が囁きかけた。
彼の視線は、さきほどから片桐早苗の胸に集中している。
ちょっとくらい…役得があったって……。
彼は、こっちの方が近道ですよ、と言って、
人通りの少ない路地に片桐早苗を誘導した。
そして隣を歩きながら、さりげなく胸に手を伸ばした。
夢にまで見た、片桐早苗の胸。
彼女の男性ファンなら、誰しもが普遍的に抱く欲望。
彼はそれを満たそうとした。
だが次の瞬間、彼の天地は逆さまになり、
背中からゴミ袋の山に落とされた。
「ふぃ〜〜」
片桐早苗は尻餅をついていた。
何が起きている!?
まさか自分は、烏龍茶で酔っ払う体質だったのか!?
彼はひどく動揺した。
だがすぐに立ち上がり、今度は露骨に腕を、
片桐早苗めがけて突き出した。
彼女は悠々とかわし、彼の襟口をと腕をつかんで、
身体の外側から軸足を崩した。
大外刈り。
彼は背中から地面に叩きつけられ、呼吸が一瞬止まった。
そして理解した。自分は柔道技をかけられている。
そうだ。元警官だった。
彼は立ち上がり、再び尻餅をついた片桐早苗から、距離を取った。
掴まれたら投げられる。
だが近づかなければ、この大志は遂げられない。
どうする?
彼は考えた。
柔道で掴まれるのは、身体ではない。
道着……すなわち服。
彼は名案を思いついた。
そうか…脱げばいいんだ。
トップスを瞬時に脱ぎ捨て、上半身裸になる。
大して鍛えてもいないので、ちょっと恥ずかしい。
だが背に腹は代えられない。
彼は再び、片桐早苗に近づいた。
彼女はすでに立ち上がっている。
「裸になっちゃってえー、なにするきぃ〜?」
呂律が回ってない、やたら間延びする口調。
目はとろん、と焦点が定まっていない。
次こそ!
彼は全速力で、ぶつかるように飛び出した。
狙うのは勿論たわわな胸だ。
しかし、片桐早苗はさっと身体を左に逸らし、
逆に、彼の胸部に掌底を放った。
痛みはない。
だが、肺の空気が1cc残らず絞り出されるような衝撃。
彼は仰向けに倒れ、必死に空気を身体に取り込もうとした。
ちくしょう、柔道には当て身があったんだ……。
次の策を思いつくより前に、
片桐早苗は彼に馬乗りになった。
胸に負けず劣らず立派なおしりが押し付けられる。
だが、彼はその感触を楽しむ余裕はなかった。
彼の両腕は彼女の両膝で抑えられ、
首に、交差された小さな両拳が当てられた。
「アイドルに手を出すような…わっるぅ〜いADくんは〜」
頚動脈がギリギリと絞られ、
塞き止められた血が首に溜まり、熱く、視界が滲む。
「シメる♪」
並十字絞り。
抵抗しようにも腕は抑えられ、足は片桐早苗に届かない。
血液がゴボゴボと泡立つような音がした。
視界は暗くなっていく。
彼は、片桐早苗の表情を想像した。
ほんのり上気した頬。
自分を見つめている、あの、とろんとした瞳。
しっとりと潤う、ちいさな唇。
耳が最後に、彼女の息遣いをとらえた。
彼にとって、それは幸福な瞬間だった。
翌朝。
川島瑞樹は、助手席の片桐早苗に言った。
「久しぶりの職場はどうだった?」
「えへへ……」
「えへへじゃないわよ」
あの後、巡回中の警察によって片桐早苗は発見され、
ADは間一髪で息を吹き返した。
「これで何度目よ一体……」
「やっだぁ〜、数えられるくらい冷静だったら
あんなことしないって」
「だまらっしゃい!!」
一喝され、片桐早苗はシュン…と小さい身体を、
さらにちぢこまらせた。
ADの男が上半身裸だったことと、
片桐早苗が泥酔していたことが幸いして、
この一件も単なる酔っ払い同士の喧嘩として処理された。
一方、病院。
「先生、首を絞められるのって癖になりますよね。
あと、もうしばらく服を脱いでいてもいいですか」
「早く病院に行きなさい」
おわり
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