千明「・・・と、しまりんにすすめてみたものの、結局ローメンってどんな料理なんだろうな」
なでしこ「確かラーメンタイプと焼きそばタイプが有るんだよね?」
あおい「ローメン・・・まさかここでその名を聞くことになるとは思わんかったわ・・・」
千明「知ってるのかイヌ子ォ!?」
ローメン―――羊肉を使った長野県伊那市の郷土料理だが、そのルーツは古代中国の戦闘遊牧民族『狼面(ロウメン)』に遡る。
大地を駆け、その牙で獲物を屠る狼達を崇めた彼らは、狼の様に四肢を使って地を駆け、素手で羊を倒し、その肉に食らい付いて狼になりきる事で、狼の力を得ようとしたという。
血にまみれたその顔面は、まさに狼そのものであったと伝えられる。
民明書房刊『匈奴と郷土料理』
なでしこ「そ、そんな由来があったなんて・・・」
あおい「嘘やで~」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526557005
あおい「ホンマは炒肉麺(チャーローメン)を略してローメンになったんや」
千明「へぇー、っていうかなんでそんな事知ってるんだ?」
あおい「このSSの作者が地元民だからやで」
千明「で、結局ローメンってどんな料理なんだ?」
あおい「簡単に言うと炒めた野菜と羊肉を、専用の麺と合わせた料理やね」
なでしこ「専用の麺って?」
あおい「せやな、そこから説明してこか」
あおい「ローメンには専用の蒸し麺を使うんや」
なでしこ「蒸し麺って焼きそばみたいなの?」
あおい「焼きそばの麺より固い中太麺で、濃い茶色をしとるで」
千明「麺から違うのか・・・でもなんでそんな麺を使うんだ?」
あおい「それは戦後すぐの話なんやけど、伊那に有る中華料理店『萬里』の店主が、ある悩みを抱えとった事から始まるんや」
なでしこ「悩みって?」
あおい「仕入れた生麺がすぐに悪なってまうという事や。当時はまだ冷蔵庫が普及してへんかったから、翌日にはもう使えんくなってまったんやな」
あおい「そこで製麺所の人と協力して日持ちのする麺を開発する事にしたんや」
千明「で、開発されたのがその麺なのか」
あおい「せやで、あらかじめ麺を蒸す事によって火を通してまえば、日持ちする様になるんや」
あおい「さらに麺を練る際に加える水を減らし、太麺にする事で表面積を減らしてより保存が利くようにしたんやね」
千明「なるほど、それで固い中太麺なのか」
あおい「ところがこの麺には致命的な問題があったんや」
なでしこ「問題?」
あおい「日持ちする様に色々手を加えた結果、ラーメンの麺とは別物になってまったんや」
千明「本末転倒じゃねーか」
あおい「せやけどここで萬里の店主は諦めんかったんや。ラーメンにこの麺が合わんのなら、この麺に合う料理を作ってまえば良い、そう考えたんやな」
千明「おぉ、なんか盛り上がってきたな」
あおい「試行錯誤の結果、羊毛を採るため地元で多く飼育されとったお陰で安く手に入った羊肉と、これも地元で栽培されとったキャベツを炒め、醤油風味のスープと合わせた麺料理が完成したんや、これがローメンや」
千明「仕入れが楽な物をぶちこみましたみたいに聞こえたんだが・・・」
なでしこ「ジンギスカンでもキャベツって定番だし、普通に合うんじゃないかな」
千明「醤油味のスープって事はこれがラーメンタイプのローメンなのか?」
あおい「せやで、焼きそばタイプはまたちょっと違う経緯があるんや」
あおい「同じく伊那にある『うしお』いう店で、戦時中に中国で食べた料理の味を再現しようとして出来たんが焼きそばタイプの汁無しローメンなんや」
なでしこ「出来た経緯は違うのに同じローメンなの?」
あおい「どっちが先に出来たんかはよう分からんけど、『萬里』の店主はご当地料理として広める為に『ローメン』の名称を自由に使ってええ事にしたんや。」
あおい「羊肉、キャベツ、蒸し麺と同じ材料を作ってたからどっちも『ローメン』として定着したんやな。今はどちらかというと焼きそばタイプの方が主流やね」
あおい「ローメンの特徴はもうひとつ、“テーブル調理”があるんや」
なでしこ「テーブル調理って?」
あおい「ローメンを扱っとる店のテーブルには醤油、酢、ウスターソース、胡麻油、ラー油、八幡屋磯五郎などの調味料が置いてあるんや」
千明「八幡屋磯五郎?」
あおい「長野県で七味唐辛子言うたら八幡屋磯五郎と決まっとるんや」
千明「・・・今更だが、関西弁の山梨県民が長野県の事について説明してるこの状況は何なんだ」
あおい「その辺はツッコんだら敗けやで」
あおい「で、これらの調味料を使って自分好みの味に変えて食べるのが、テーブル調理なんや」
千明「出てきた料理に勝手に味付けすんのか!?」
あおい「せやで、むしろ味付けするんが前提で、元々の味は薄めになっとる事が多いんや」
なでしこ「へぇ~、なんか変わってるねぇ」
あおい「常連なら自分なりの味付けが決まっとるから出てきた瞬間に調味料に手が伸びたり、中にはマヨネーズやカレー粉なんかで味付けする人もおるで」
千明「なんでもアリだな」
あおい「自分にとってベストな味付けを探すんもローメンの楽しみ方やで」
千明「で、どんな味なんだ?」
あおい「・・・」
千明「なぜ黙る」
なでしこ「え、美味しいん・・・だよね?」
あおい「・・・」スッ
千明「おい、目をそらすな」
あおい「・・・地元では愛されとるし、好きな人も多いんやけど・・・」
あおい「観光客受けは悪いというか、『これが名物てww』とか、『観光客を馬鹿にした味』とか、『三回食べれば慣れる』とか・・・」
千明「なんか一気に雲行きが怪しくなって来たぞおいィ!」
あおい「り、理由はいくつかあるんやが・・・」
千明「不味いと言われる理由が、いくつかあんのか!(戦慄)」
なでしこ「な、なんかこれ以上聞くの怖くなってきたよぅ」
あおい「まず一つめは麺の食感や」
千明「さっき言ってた専用の麺か」
あおい「固い蒸し麺やから、ラーメンなんかのイメージで食べるとかなりの違和感があると思うで」
なでしこ「どんな感じなの?」
あおい「ごわごわした感じというか、ちょっと他の麺にはない食感やね」
なでしこ「ラーメンや焼きそばとは別物と思って食べた方が良いって事だね」
あおい「香川県民が伊勢うどんやひもかわうどん食べた時よりは違和感無いやろうと思うんやけどなぁ」
千明「分かりやすいようで分かりにくい例えだなそれ・・・」
※伊勢うどん・・・コシという概念の無い、太くて柔らかいうどん界のハート様。伊勢名物。
※ひもかわうどん・・・麺という概念を超えた、幅広過ぎるうどん界の一反木綿。桐生名物。
あおい「二つめは羊肉のクセの強さやな」
なでしこ「あー、ラム肉とか結構クセ有るもんね」
あおい「ローメンはラム肉よりもクセの強いマトンを使う事が多いんや」
千明「確かに人を選びそうだな」
あおい「ジンギスカンとかダメな人はあかんと思うで」
千明「ほかには?」
あおい「三つめはテーブル調理や」
千明「自分で味付けするってやつだろ、なにが問題なんだ?」
あおい「自分で味付ける前提で薄味になっとるから、知らん人が出てきたんをそのまま食べたら『なにこれ、味薄っ!』ってなってまうんや」
あおい「結果、ローメンの事を何も知らんで食べた人には、固い麺にクセの強い肉で味も薄い料理と思われてしまうんやな」
千明「それだけ聞くと確かに不味そうだな・・・」
あおい「でも、羊肉が苦手な人の為に、豚肉を使ったマイルド系のローメンを出すお店もあるで」
千明「豚肉とキャベツだとモロに焼きそばだな」
あおい「味付けも麺もちゃうからまんま焼きそばって感じでも無いかな」
なでしこ「自分で味付けするってのもなんか楽しそうだね、食べながらちょっとずつ味を変えたり」
あおい「ソース→酢→胡麻油っていうんがよく言われる味付けやけど、その辺は自分好みにアレンジや。“推奨”されとる食べ方やから、自由に変えてええよ」
千明「同じ店の同じ料理なのに食べる人によって味が違う訳か」
あおい「あと麺に関してなんやけど、ローメンを作る際には、具と一緒に麺をスープで煮込む様にして作るんやけど、肉やキャベツの旨味を吸って麺にもしっかり味が付くんや」
千明「焼きそばタイプでもか?」
あおい「店によるやろうけど、炒め煮にする感じやな。麺が固くてしっかりしとる分スープを吸わせても伸びにくいから、旨味の沁みた麺を味わって食べる、と」
千明「なんか旨そうな気がしてきた」
あおい「まぁほかには無い独特な麺料理やから、怖いもの見たさででも試してみるとええと思うわ」
千明「なるほど、伊那市のおすすめご当地グルメって訳だな!」
あおい「・・・おすすめで言うたら高遠そばの方が・・・」
千明「そこはローメンじゃ無いのかよ!」
――end――
以上になります
長々と書きましたが、ぶっちゃけ民明書房がやりたかっただけです(笑)
両方知ってる人に問いたい。麺は富士宮やきそばみたいな麺?
>>16
ローメンの麺は本当に『ごわごわ』という表現がしっくり来る歯ごたえの強い麺で、蒸した後乾燥させる際に表面が茶色くなって独特の風味がついているので、焼きそばの麺とは本当に別物って感じですね
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