時は魔法の時代。
この世界は大きく二分化されていた。
ひとつは魔王率いる魔と闇の勢力。
そしてもうひとつが、聖王率いる聖と光の勢力。
長く続く魔と聖の戦いは、両者を衰弱させきった。
両国で世代交代があった後、彼らは暗黙のうちに表立った抗争を避けるようになり、
国力の回復を第一とした。――そして戦争は膠着状態のまま沈静化したのだ。
攻める事も攻められる事もない
愛する恋人や息子が、もう戦争に出たまま帰ってこない心労に見舞われることもない。
育むことにも作ることにも、もう二の足を踏むことはない。
そんな“平和”を皆が体感し、この安息の時を長く続けたいと願うようになっていた。
その一方で、確かに存在している“魔王”の重圧を感じないはずもないままに――
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聖王都のはずれ
ちいさな民家
魔法使い「……」ドキドキ
魔法使い「……」ドキドキ
祖母「魔法使い…勇者の事を待つのはわかるが…そう緊張していては」
魔法使い「だ、だって」
魔法使い(…勇者さま。
先月の聖王都での祝祭典で、聖王様から宝剣を授与されていたお姿はとても凛々しかった。
過去に「勇者」の冠号を授かった方は何名もいらっしゃったけど、今回の勇者様は特別。
だって、これまでは王騎士団の長の方…つまりその、筋骨隆々としたオッサンとかがその名誉を授かっていたのだけど…)
魔法使い「生い立ちの明かされていない、ポっと出の謎の青年…かぁ」
勇者「ポっと出で悪かったな、オイ」ボソ
魔法使い「きゃ!?」
祖母「なんじゃ、まだぼうっとしておったのか…。待ってた割に、出迎えにもでんでまったく…」
勇者「ああ、いえ。自分が少し時間に遅れたんで気にしないでください」
祖母「すまんね。孫の目が覚めるよう、少し茶でも入れてくるとするよ。勇者殿もそう急がないのだろう?」
勇者「はい。まぁ、日が真上に上がる前には出たいですけれど」
祖母「ほほ、それならば十分じゃ」
老婆は去っていた。
魔法使いは沈黙している。
魔法使い(さ、昨夜あんなにシミュレートした挨拶の言葉が、なにひとつ活かせない…っ)オロオロ
勇者「あんたが俺と組むっていう魔法使いだな?」
魔法使い「は、はい…!」
勇者「聖王からもらった資料を読ませてもらった。あんた、勇者がでるたびに毎回のように同行願いだしてるんだってな」
魔法使い「は、はい…」
勇者「ちなみに過去8回の勇者同伴審査は全落ち、最終候補どころか予選選考にも選ばれていない――-」
魔法使い「……は、はい…」
勇者「魔法、ちゃんと使えるんだろうな?」ジト
魔法使い「つ、使えますよ!魔法学校での成績なら上位30%にははいってます!」
勇者「30%ってまた微妙だな…優等生ではないけど普通よりちょっといいかな、くらい?」
魔法使い「は、はい」
勇者「まあいいや、聞くより見るほうが早い」
魔法使い「え? あ… 」
勇者「『スカウター:起動』」ブンッ…
魔法使い「やっ!!」ビクッ
勇者「『“ターゲット:前方” “対象視認:魔法使い” 確定』…ん?」
魔法使い「やぁー! 見ないでくださいーーっ」
勇者「スカウター使ったくらいでそんなに変態扱いしないでほしい…」
祖母「ほほ、気にせんでください、いつものことですじゃ。はい、お茶」コト
老婆が現れた!
勇者「あ、これは…すいません、いただきます」
祖母「その子はステータスを見られるのに臆病なだけ、旅の同行となれば知っておくことも必要じゃろうに何を恥ずかしがっているのやら…」
勇者「恥ずかしい?」
祖母「その子に聴けばわかりますよ。どれ、私は離れているとしよう。どうぞゆっくりなさるがよい」
勇者「あ、はぁ…。これはどうも…」
老婆は再び去って行った
魔法使い「う、うう…おばあちゃんに見捨てられた…」
勇者「人ぎぎの悪いこというなよ。…って、なんだ?お前のこのMP。 『1206/UNKNOWN』…?」
魔法使い「う、うう…。わ、私は魔法使いですが、異常能力者といわれる類の魔法使いなんです…」
勇者「異常能力…なるほど? それが選考漏れの理由だな?」
魔法使い「はい…」
勇者「おまえの異常能力ってどういうものか教えてよ」
魔法使い「…『不安定』、です」
勇者「は?」
魔法使い「司祭様に聞いたところ、私には『最大値』というものが存在しないらしくて…」
勇者「ほう」
魔法使い「魔法はふつう、大気中にある魔や聖のエネルギーを操作したり取り込むことで使うものなのです」
勇者「ふむ?」
魔法使い「ですが私の場合、魔法は魔力ではなく…その…」
勇者「尻から出る?」
魔法使い「何の話をしてるんですか?」キョトン
勇者「いや、いいわ、続けて」
魔法使い「…私の魔法は魔力をほとんど用いていないんです…。あくまで起動だったり意図を乗せるための指示器程度にしか」
勇者「じゃぁなんの力を使ってるんだ? まさか、魔族と同じように血の持つエネルギーだとか言わないだろうな?」
魔法使い「私は魔族ではありませんっっ」キッ
勇者「お、おう」
魔法使い「…あ…ごめんなさい…えと、そういうのじゃなくて…」
勇者「………?」
魔法使い「…その…私の使うエネルギーは…」モジモジ
勇者「…?」
魔法使い「……その、司祭様にきいたことなので、本当かどうか知る由はないのですが…」カァ
勇者「………早く言えよ」
魔法使い「………その、『快楽によって得られる精神エネルギー』…だそうです…」カァ・・・
勇者「FGO的な魔力供給キタコレ」
魔法使い「何の話をしてるんですか?」キョトン
勇者「いやほんとなんでもない」
魔法使い「…司祭様はこうもおっしゃられました…
『幸福に限りがないのと同じように、君の魔力値にも上限はない。
喜び、充足し、幸福を感じるほどに君は強く生きていける。
異常能力者とさげずまれることも今後はあるだろう、だが君はその能力を誇りに思いなさい。
なぜならそれは間違いなく、神様より与えられた祝福としかいいようがないものだから』 …と」
勇者「……祝福、ね。 で。それがなんで『不安定』なんて名の能力になるの?」
魔法使い「私の心の揺れ動きが…そのままステータスに反映されてしまうからです…」
勇者「ああ。そういうことなのか…どうりで」
魔法使い「え?」
勇者「さっきからあんたのステータス、ずっと落ち着かないんだよ。ばあちゃんに出された飲み物に毒でも入ってるのかと思ったわ、減り続けてたから」
魔法使い「や!? 見続けてたんですか!?」
勇者「いつから解除したとおもっていたのか」
魔法使い「うううう」
勇者「おお、減ってる減ってる…減って…」
魔法使い「………」ポロポロ
勇者「ちょ、おいまて、減りすぎだろ!? MP:441/UNKNOWNってさっきの1/3近く減少してんじゃねぇか! ってステータス見てる間になんか泣いてるし!?」
魔法使い「ヒック…ご、ごめんなさい…」
勇者「は…?」
魔法使い「私…この能力のせいで、嫌がられることとかも多くて…」
勇者「…? 戦闘なら困るかもだけど、私生活にステータス変化なんてそう影響ないだろ?」
魔法使い「スカウターって、勇者様みたいに魔法のタイプのだと、コアな能力な分、なかなか習得難易度も高いんで持ってる人いないんですけど…」
勇者「アニアックな魔法みたいだからコアっていうな…道具タイプのが主流だから習得するやつが少ないだけだろ」
魔法使い「それ…それです。道具のタイプのスカウター…。簡易のものだったら、子どものお小遣いでかえるような値段で売ってるじゃないですか」
勇者「あ? …買ったことないからわかんないけど、まぁよく売ってるな」
魔法使い「…魔法学校では、常用してる方も結構いて。それで…」
魔法使い「…たとえば誕生日のときとかにモノを贈ったとして…私がどれだけ喜ぶか、ステータスで見れてしまうとしたら…勇者さんならどうしますか?」
勇者「…なるほど?」
魔法使い「…『思ったより喜んでくれない』、とか。『喋ってる時にMPがあがらないのは、本当は楽しくないんでしょ』、とか…」
勇者「……」
魔法使い「そういうことが何度もあって…それから、スカウターってものがどうも怖く思えてしまって…」
勇者「……まぁ…」
魔法使い「ごめんなさい…」ポロポロ
勇者「――気にしちゃうのもヒトのサガだけど、それで期待通りの反応しないからって難癖つけられてもお前も困るよな。つらかったろ」ポン…ナデナデ
魔法使い「ゆう、しゃさま…」
勇者「……気にすんな、そんなこと。悪いけどお前を喜ばせたくて旅に出る気なんてないから、俺はお前にそんな妙な期待はしない。…だから心配する必要はない。そこは不運中の幸運だろ?」ニコ
魔法使い「勇者様…っ ありがとうございます…っ!」
勇者「あとむしろ、今こうしてるとステータス上がるの目に見えすぎて、めっちゃチョロインじゃんコイツってすでに思ってるから本気で気つかってやる必要もなさそうでよかった」
魔法使い「いやああああああああああああああああああああああばかあああああああああああああ」ドゴーーン!!
勇者「ぐは…っ お、怒ると…ステータス、あがるんだなぁ…」ゲフッ
魔法使いが仲間になった!
勇者と魔法使いの旅がはじまった!
少量投下・まったり進行予定です
メタなのは面白ければいいけど、正直つまらんからやめておいた方がいい
勇者「…言うても魔王討伐の旅、なんて仰々しいようなものじゃないからねぇ」ヘイワー
魔法使い「あくまで政治的交渉のための道中ですものねぇ…」ノンビリー
勇者「領地侵犯の魔族が居れば、追い払うなり討滅するなりして、都度報告…そして資料整理」
魔法使い「ヤンキーまがいの魔族さんに、勇者様が威圧しながら説教かまして、あとは私が結界張って近づきにくくしたりする程度…の、魔物討伐です」
勇者「お前が存外、いろんな魔法使えて助かったよ」
魔法使い「ふふ。学校でいっぱい勉強だけはがんばりました!」
勇者「えらいえらい」
魔法使い「えへへ…って、そういえば、この旅費ってどうなってるんですか?」
勇者「自前」
魔法使い「え」
勇者「ってのは半分ほんとで半分ウソ。成功報酬だから後払いになるわけさ」
魔法使い「じゃ、じゃぁ今現在は、勇者様の手持ちのお金で旅することになるんですか…?」
勇者「契約金として多少は貰ってるけどね。あと領地内の魔族なら討伐褒賞はその場で大抵もらえるし……」
魔法使い「さっきみたいなやつですね。村長さんがお礼にくれるやつ…」
勇者「野良魔物とかでも、装備はいだり皮売ったりして、金に換えられるのもあるけどな。って、ああ、そうか」
魔法使い「…?」
勇者「お前の装備も、本格的に魔族の領地に入る前に揃えないとな」
魔法使い「え…」
勇者「俺らは今後は、魔族領地へ交渉のためとはいえ不法侵入することになるんだ。戦闘頻度も増えるだろうし襲撃の可能性も高くなる」
魔法使い「いままでこうして平和なのは、聖王の領地を出ていないから、ですか…」
勇者「こっちの領地にいるうちに揃えないと、属性的に装備を揃えられなくなりそうだな…あまり田舎にいきすぎても、実践向けなのはあるだろうけど、物価あがるばっかだし。次の町で買い物していこうか」
魔法使い「あの…私、そんなにお金は持ってなくて…」
勇者「装備は俺が買ってやるからいいよ。俺の同行なんだし」
魔法使い「……はい、ありがとうございます」
勇者「……?」
――西の町
魔法使い「う、うわぁ…! 大きな町…!」
勇者「西の町は別名で商港の町ともいわれてる。港があるわけではないけど、ちょうど東西南北の商隊がここでかち合い、停泊する…寄せ返す波のように常に次々とモノが運ばれてくる町だな」
魔法使い「お詳しいのですねぇ…」
勇者「この町の出身なんだ」
魔法使い「まさかの故郷ですか!!」
勇者「いや、誰にだって故郷はあるだろうからマサカってことはないけども。王都にも近いし」
魔法使い「ふふ。私は聖王都の出身でも、なにしろあんなはずれの家に住んでいたので…。大きな町でうらやましいなぁ…」
勇者「案内でもしようか?」
魔法使い「え…いいんですか?!」
勇者「急がないし、どうせ装備もそろえるのに買い物する予定だったろ。泊りになるの確定だし」
魔法使い「わ、わぁ…!」
勇者「なんか見たいものあるの?」
魔法使い「ええと、じゃぁ…! あ、えと、うーんでも…あ、ええと…」
勇者「…………」
魔法使い「えと…じゃぁ、図書館…とか、あったりしますか?」
勇者「…あるよ。でも図書館行くなら夕方のがいいな」
魔法使い「夕方…ですか? 閉館時間とか…」
勇者「この町は商人以外にも賢者みたいな知識人もおおいんだ。だから閉館時間はだいぶおそいから安心しろ。お前が寝る時間になってもまだ図書館は開いてるさ」
魔法使い「す、すごいですねぇ…」
勇者「つーわけで、まずはこっち。お前の装備みにいくぞ」ヒョイ
魔法使い「あ、待ってくださ…きゃ」ドン
町人「……おっと失礼」ペコ
魔法使い「あ、いえこちらこそすみません!」ペコペコ
勇者「田舎モンかお前は…なんで前見ててぶつかるんだよ」
魔法使い「お恥ずかしいかぎりですー。こんなおしゃれな街ははじめてですもの」エヘヘ
勇者「……まぁ物流でいえば最先端には違いないけど、おしゃれっていうような町では…」
魔法使い「え、おしゃれですよー。みんなの着てる服とか、売ってるものとか、なんていうか売り方の展示の仕方?とか 全部おしゃれにみえますっ」
勇者「あー…建築技術とかもここは早いからな。金持ってるやつがよく集まるから高級感だそうとしてる…のかな? 言われてみれば」
魔法使い「洗練されてる感じがところどころにありますね!」
勇者「洗練、ねえ。じゃぁエスコートでもしようか?」
魔法使い「えっっ」
勇者「…冗談だ。置いてかれたくなければついてこい」
魔法使い「もう! からかわないでくださいっ」
勇者「歩幅くらいなら、合わせてやるよ」
魔法使い「……はいっ!」
勇者(……ふむ?)
その後――
店員「ありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいませ」ペコ…
魔法使い「…あのう、これほんとに私の装備にもらっていいんですか…?」
勇者「今更?」
魔法使い「私なんて、ローブで十分なのでは…魔法礼装のドレスだなんて…」
勇者「魔王城にこれからいこうってのに、その程度の装備ランクにビビられましても」
魔法使い「ですが…」
勇者「……気に入らなかった?」
魔法使い「え!? いえ、そんなことはないです!」
勇者「ですよねー。試着して鏡の前で『どうですか勇者様!?似合いますか!?』ってあんだけ満面の笑顔でくるくる回ってて気に入らないわけないよねー」
魔法使い「や、やめてくださいいいいいい」
勇者「んじゃ次行くか…」
魔法使い「あ、はい… あ、わぁ…」
勇者「ん?」
魔法使い「勇者様、見てくださいあれ!」
勇者「花屋?」
魔法使い「すごい種類…あのお店だけ、お花畑みたいですねぇ」
勇者「おまえの頭もお花畑みたいですねぇ」
魔法使い「もうっ! …少しだけ見ていってもいいですか?」
勇者「ん? いいよ」
魔法使い「やった♪」
勇者「花屋かぁ。なんつーかオンナの発想よなぁ」
魔法使い「ふふ。勇者様は女性に花束を贈ったりなさらないんです?」
勇者「したことないね」
魔法使い「あ、ほらこんなの! すごーい、お花屋さんなのにアクセサリーも取り扱ってる」
勇者「花をモチーフにしてりゃなんでもいいのか…?」
店員「いらっしゃいませ。そちらは花束を飾るためのオーナメントとして取り扱ってる商品でございますよー」
魔法使い「花束を?」
店員「ええ。ラッピングのリボンにそえたり、花束に絡ませたり…もちろんそれぞれアクセサリーとしてその後の活用が出来る商品でございます」
魔法使い「おしゃれだなぁ…そんな花束、きっとすごく素敵だろうなぁ…」
店員「はいー。婚約や記念日をお祝いの方に非常に人気の商品ですねー」
魔法使い「あ、やっぱりそういうかんじなんですねー♪」
勇者「気に入ったの? 欲しいなら買えば?」
魔法使い「……」
店員「……」
勇者「え、なに」
魔法使い「…」ハァ
店員「ま、またいらしてくださいね」ニコ
魔法使い「はい…」
勇者「え、なに? なんで買わないことが決定してるの?」
魔法使い「なんでもないです、さあ気を取り直して行きましょう」
勇者「欲しいなら買ってやってもいいぞ…?」
魔法使い「いやー…そういうのじゃないかなぁ…」
勇者「????」
キャーー!!
魔法使い「きゃ?!」ビクッ
勇者「…!」バッ
魔法使い「ゆ、勇者様。…なんか今、悲鳴が…?」
勇者「ああ、俺にも聞こえた。…ひったくりかな」
魔法使い「様子、見に行きますか?」
勇者「魔物だったらアレだしな。行くか」
魔法使い「はい!」
町の出口付近――
勇者「なにかあったんですか?」
町人「ああ…冒険者かい? ちなみにだが戦闘の心得は?」
勇者「はい、あります。魔物ですか?」
町人「いや、それがちょっとわからなくてな。子供が泣きながら町に入ってきたんだが、飼い犬かなんかが血まみれで。襲われたんじゃないかって話さ」
勇者「子供にけがは?」
町人「大泣きしてるってんで町医者もきたが、本人は擦り傷程度みたいだなぁ。今は犬を獣医師に見せにいってるんだが…」
勇者「子供の言うことで、経緯がわからないのですね」
町人「その通りさ。魔物だといけないから、念のために出入りを俺が見張ってるくらいだ…冒険者さん、戦闘もイケるんなら付近だけでもいいから見回ってきちゃくれねぇか?」
勇者「もちろんですよ。それと… 魔法使い、結界かけといて」
魔法使い「はい。 えと、『結界魔法・聖:起動』…それと『召喚護符:妖精』!」
町人「おお…お嬢ちゃんは魔法使いか」
魔法使い「簡易結界ですー。妖精さんを置いておくので、なにかあればこの子に伝えてくださいー」
町人「この妖精に言えばいいんだな?」
魔法使い「1時間くらいすると飽きて勝手にいなくなっちゃうんで、その間だけですけど。あ、イタズラしたりするとすぐ怒っていなくなっちゃうから気を付けてください」
町人「便利そうで微妙に不便…まぁいい、ありがとうな。気を付けていってきてくれ」
魔法使い「はいっ」
タタタタタ……
勇者「…お前さ、召喚護符なんてものも使えるんだな」タタタ…
魔法使い「はいっ…友好的で好意的な子が呼び出しに応じてくれる程度には、ですけどね」トトト…
勇者「ちなみにだけど攻撃系が無理とかいわんよな?」
魔法使い「一応、全科目まんべんなく平均点以上には習得してますー」
勇者「ちなみに最高科目と点は?」
魔法使い「えっ…なんだろ…どれも同じくらい…? 苦手だったのは闇魔法、かな…」
勇者「……よし、じゃぁこのあとの魔物討伐、おまえひとりでやってみて」
魔法使い「えええ!? ていうかやっぱり魔物なんですかね!?」
勇者「野良魔物だとおもう。子供の連れてる犬を襲ったって話だから、体の小さいタイプの野良魔物と、動物同士のケンカにでもなったんだろうさ」
魔法使い「なるほど…?」
勇者「大きい魔物や魔族だったら子供のほうが襲われてるはず」
魔法使い「それなら私でも追い払える・・・かな?」
勇者「念のため、なるべく遠距離でやれ。全科目いけるってことは遠距離攻撃もやれるんだろ?」
魔法使い「は、はい! ですが、子供も襲えない程度の魔物をどう探し出しましょう…出てくるかな」
勇者「ああ、なら おもしろいもの見せてやるよ」ピタ
魔法使い「?」ピタッ
勇者「『スカウター:起動! “ターゲット:全方位”“対象不視認:領地侵犯魔物”“測定者:魔法使い”』ブゥン…
魔法使い「スカウター…? え、今の条件…そんなの聞いたことが…」
勇者「スカウター酔いすんなよ? …『確定』!」バシュ!
魔法使い「っっ!! きゃ!?!」
魔法使いは魔法にかかった
魔法使いは魔物Aを補足した!
魔法使いは魔物Bを補足した!
魔法使いは魔物Cを補足した!
魔法使いは魔物Dを補足した!
魔法使いは魔物E…………………
魔法使いは計29894匹の魔物を補足した!
魔法使いは混乱している!
魔法使いに状態異常:スカウター酔い!
魔法使い「な…なにこれ… いつも通り見えるはずの世界に、無数のスカウターゲージが重なって…」クラッ
勇者「すまん、距離指定すんの忘れた」
魔法使い「…こ、こんなにたくさんの魔物が、聖王都の領地に…?」
勇者「いるよ。驚くのも無理はないけど、でもいまはこの近辺のゲージだけ見ろ」
魔法使い「で、ですが…こんなにたくさんの魔物に囲まれていたなんて思うと、私…!」ガクガク…
勇者「…いいから。この近辺の『攻撃的なやつ』の対処をしに来たんだってことを忘れんな。…ゲージが見えててもそばにいるわけじゃない。近いやつを放っておけば、次は子供が襲われてもおかしくないんだぞ」
魔法使い「っ…!」グッ
勇者「探せないならお前のスカウターを切って、やっぱり俺が…」
魔法使い「…南東方向に7、とても微弱な個体反応…群れと思われる表示があります!」
勇者「……」
魔法使い「距離は…えと、スカウターの見方がよくわかんない、どう見たらわかるのかしら…。ゲージが手前だからこれが近いはずなんだけど…」
勇者「いや、それくらいで充分だ。…おまえ、結構ガッツあるな」
魔法使い「え? う…情報が多すぎて脳がパンクしそう…」クラクラ
勇者「『スカウター:“測定者:魔法使い”解除』」ブンッ
魔法使い「…ぁっ」ヒュオン!
魔法使い「あ、は、ぁ…。わ、私はじめてスカウター画面というものを見ました…私の知ってる世界じゃないみたいだったです…」
勇者「道具タイプじゃないから画面とは言わないんだけどな。まぁいい、南東にむかっていくぞ。あやしい箇所をみつけたらまず攻撃魔法ぶっ放せ、逃げ出してくるだろう」
魔法使い「はい…! こっちです、たぶん、そんなに遠くない!」タッ…
勇者「がんばぇー がんばぇー^^」フリフリ
魔法使い「はっ!! そういえば私が倒すって話でした!!うわぁん!!」タタタタ…
ここまで
>>19 ぐう正
街道端にある、藪近く――
ザッ…
魔法使い「……あ、あのあたりかな… えと…! 『風魔法弱:起動』!」
ビュゥ………!
兎型魔物「ピキャー!! ピキャー!!」
魔法使い「茂みの中から鳴き声… 居た!見つけました、 ほんとに小さい野良魔物です…っ」
勇者「…待て」
魔法使い「ど、どうしました?」
勇者「こいつらじゃない」
魔法使い「え? でもこの周辺にはこの子たちくらいしかゲージは…」
勇者「いくらなんでもコイツらじゃ犬も襲えない…魔物といっても赤子だぞ。そもそもこいつらは草食魔物だ」
兎型魔物「ピキャー!! ピキャー!」
魔法使い「草食…? じゃぁ、犬を襲ったのは…?」
勇者「…スカウターに写らなかったってことは、いまは居ないんだろうな」
魔法使い「…えと?」
勇者「犬を襲ったのは、つまりこいつらの母親魔物だろう。…いや、たぶんこいつらが『襲われた』側だよ」
魔法使い「え…」
勇者「犬が魔物の匂いでも探し出し、ねぐらに近づいた。子供を守るために母魔物が囮になった。そこで犬と戦闘になり…犬は血まみれ、母魔物は死亡って流れだな…多分だけど 巣と逆のどこかそのあたりの街道側に…ああ、ほら」
勇者は魔物の死骸を見つけた!
魔法使い(中型犬よりは少し小さい程度の、角の生えたウサギ…。本当だ、噛み傷を身体中につけて…がんばって、戦ったのがわかる…)
勇者「子供を守るために躍り出たんだろうが、死んじまって子供が育てられなくなったんじゃ本末転倒だな」
魔法使い「……そんな」
勇者「犬に見つかるような場所で子育てしようとしたコイツがマヌケだから殺されるんだろ」
魔法使い「そんな言い方はやめてください! それじゃまるでこちらのが悪者のような…」
勇者「コチラ?」ギロ
魔法使い「っ」ビク
勇者「…こちら、ねぇ。お前さ、“本来なら魔物のほうが悪で、襲われた犬がかわいそうで、傷ついた子供を慰めてやりたい”とか思ってたんだろ」
魔法使い「わ、わたしはそんな…」
勇者「じゃぁなんでさっきみたいなセリフが出る?」
魔法使い「ぐっ…」
勇者「なんでもかんでも聖と魔のくくりで考えるな。こいつらと犬はそんなこと考えず、単に自然の中で弱肉強食の世界に居たにすぎない。先入観でお前好みのモノガタリを作るな」
魔法使い「……はい…気を付けます」ショボン…
勇者「じゃぁ、もういくぞ」クルッ
魔法使い「え、いくぞって…! そんな…あの赤ちゃんたちは…!?」
勇者「どうだろうな。赤子とはいえ魔物だから生きるかもしれんし、魔物とはいえ赤子だから死ぬかもしれん」
魔法使い「…」
勇者「だが言えるのはひとつ。俺らに手が出せるとしたら、あいつらを殺すことだけだ」
魔法使い「っ」
勇者「まぁ、犬を襲った犯人の特定はできたし、町を襲う犯人は他にいそうにもない。俺らにはあの赤子を殺す理由も特にない。つまり」
魔法使い「……見捨てるしかない、と」
勇者「放っておく、というべきだな」
魔法使い「…そう、ですね…でも… なら、せめて少しだけ…時間をください」テテテッ
勇者「? なにを…」
魔法使い「………」ソッ…ナデ
勇者「…魔物の死骸から毛皮でも剥ぐのか?」
魔法使い「馬鹿言わないでください」
魔法使い「……まだ、やわらかい。そっと撫でてると、寝てるみたい…」
魔法使い「もしかしたらしばらく生きていたのかな。ごめんね、あなたの大事な子供たちの事を驚かせちゃった…」
勇者「……」
魔法使い「勇者様が言うとおり…魔物も動物もあんまり変わりないんだね…ごめんね。私、魔物だからって悪い子だとおもってた」ナデ…
魔法使い「……」ギュ…
魔法使い「…………ごめんね…あなたの子供の前で、あなたの立派な戦いを、穢すところだった」ポロポロ
勇者「…………」ハァ
勇者「…弔うくらいなら許されるんじゃねーの」
魔法使い「…え…?」ポロポロ…
勇者「邪魔にならねえとこに移して、花でも供えてやったら、っつってんの」
魔法使い「…野生動物に…ですか? ふふ。でも私、そこまで感傷に酔っては…」
勇者「そうだなぁ草食動物だから…母親のそばにありゃぁ、手向けの花だなんて思わず、今日の分のエサ持ってきたんだとおもって食っちまうかもなぁ」
魔法使い「…!」
勇者「生かす手助けをするつもりなんてサラサラなくても、勝手に食っちゃうものはしゃーねーもんな? 俺らは死骸を見かけたから、魔物だけど聖王都の方法に乗っ取って弔ってやっただけ…そうだろ?」
魔法使い「わ、私 町に戻って花束を買ってきます!! 食べれそうなやつ!」
勇者「馬鹿。いかにも弔いに使いそうなやつだろう」
魔法使い「勇者様は、そこであの子たちがほかの動物に襲われないように見張っててください!!」
勇者「馬鹿。そういうことはできないって言ってんだよ、仮にも聖王派遣の勇者一行なんだぞ魔物をかばえるか」
魔法使い「ともかく待っててくださいーーー!!!」ダダダ……
勇者「………ったく。ほんとに馬鹿だなぁ」ハァ
勇者「……どいつもこいつも… ほんと、馬鹿だよな…」
勇者「 ――『………:……』…」
…… ザッ!!
勇者「……あんま簡単に、死んだりすんなよな」ボソ
タタタ…
西の町・入口――
魔法使い「…あれ?! 勇者様!?」
勇者「よう」
魔法使い「え、なんでここに…あの子たちは!?」
勇者「俺があんなところにつったってたら、むしろ目立って探られかねない」
魔法使い「じゃ、じゃぁ今度は私がそっといって…!」
勇者「ああ、待て待て。俺が行く。手向けてくればいいんだろ」
魔法使い「勇者様…?」
勇者「お前さ、気付いてる? 自分のカッコ」
魔法使い「え?」
勇者「ひざのところ、すげー血がついてる。あんなもの抱き上げるから」ハァ
魔法使い「う、うわわわ!? あ、さっきの…っ」
勇者「何も異変のなかった俺たちは、町の守護隊に報告をすませたら予定通り図書館へ行く。報告にいくのに魔物の血のついたローブなんて物騒なモノ着られてたら困るんだけどな」
魔法使い「ぐぅ」
勇者「花よこせ。んで、さっき買った服に着替えて、花屋の前でまっとけ」
魔法使い「…はい。あの…」ガサ…
勇者「ん?」
魔法使い「これ…お花。あの子たちのこt… あとのこと、よろしくお願いしますね…」ニコ
勇者「………」
勇者「…ああ」フイ
西の町・図書館――
魔法使い「ここが図書館…おっきいですねー…」
勇者「まあね」
魔法使い「まるで教会みたいですー」
勇者「教会でもあるからね」
魔法使い「えっ、そうなんですか!?」
勇者「そうなんですよ」
魔法使い「あの、勇者様…?」
勇者「ん?」
魔法使い「なんか…その、機嫌悪いですか…?」
勇者「…いや?」
魔法使い「もしお疲れとかなら…私、図書館は別の機会でも…」
勇者「………いいから行くよ」
魔法使い「は、はい…」
ギィ…
魔法使い「わぁ…中も、広い…!」
勇者「こっち」クイ
魔法使い「え? 勇者様?」
勇者「教会でもあるといったろ。お前も聖魔法を使うものなら、聖堂くらい寄っていけ」
魔法使い「あ、はい! そうですね、お祈りさせていただきますっ」
聖堂――
魔法使い「…………っ」
勇者「……」
魔法使い「すご、い」
勇者「商“港”の町といわれるもう一つの理由。この教会の青を基調としたステンドグラス越しに入る夕日は、海に沈む夕日の美しさにも勝ると言われている」
魔法使い「だから…夕方にしようと言ってくれたのですか? この風景を見せるために…?」
勇者「この町で、案内するなら俺はここが一番だと思ってるからなぁ」
魔法使い「勇者様…」
勇者「………なにさ」
魔法使い「…今日は…本当にいろいろ、ありがとうございました…」ニコ
勇者「お」
勇者「……おう」
魔法使い「きれーだなー…」ボンヤリー
勇者「…俺、向こう見てくるから。3時間くらいしたら迎えに来る、好きに本でも読んで過ごしてろ」
魔法使い「あ………、はい。」
勇者「……おまえ」
魔法使い「?」
勇者「いや…、なんでもないわ」クル
魔法使い「………???」
勇者「………ハァ」
――そして、夜――
魔法使い「夜ご飯もとてもおいしかったですー」ニコニコ
勇者「よかったな…」ゴクゴク
魔法使い「そういえば、夜は泊りとのことでしたが…もう宿泊先は決めてあるのですか?」
勇者「ああ、ここの3階に部屋借りられることになってるから」
魔法使い「えっ//」
勇者「……あのな、別に連れ込み酒屋とかじゃないから、ここ」
魔法使い「わ、わかりますよそんなのー!」
勇者「朝食までたのんであるから、ゆっくり過ごすといいよ」
魔法使い「え? 頼んであるって、勇者様は?」
勇者「え、俺? 家に帰るよ」
魔法使い「」
勇者「え、いやだって…自分の家あるし…俺が宿をとる必要はなくね…?」
魔法使い「あ…ご実家とか?」
勇者「実家っていうか、まあ一人暮らしだけど」
魔法使い「そ、それなら私も勇者様と一緒に…」
勇者「え?」
魔法使い「せっっ 節約というか!!!!」
勇者「お、おう…。いやでも…俺の家…ワンルームなんだが…」
魔法使い「」
勇者「………来たいの?」
魔法使い「…」
勇者「……べつに、来たいならどーぞ…」
魔法使い「せ…節約ですし…っ」
西の町・勇者の家――
魔法使い「ここが勇者様のおうち…!」
勇者「アパートです」
魔法使い「めっちゃ普通!!」
勇者「勇者っていっても、ちょっと前まで普通の生活してたヒトだから」
魔法使い「お、お邪魔じゃます!!」
勇者「おう、なんか俺のが不安になるから、落ち着いてくれるかな??」
――コト
勇者「よかった、家の中に異常はないみたいだ」
魔法使い「長いこと家を空けることになると、やっぱり心配ですか?」
勇者「まあね。俺は結界みたいなのは張れないし」
魔法使い「あ、今度家を出るとき、簡易的なのかけていきます…?」
勇者「いや、いいよ。貴重品も特にないし」
魔法使い「……一人暮らし、いいですねぇ」
勇者「そうかな」
魔法使い「ご両親とはご一緒じゃないんですね」
勇者「母親がちょっと大きなケガをしててね。父が療養看護のためにって田舎の方に連れて行ってそこで入院してる。ここには、俺だけが残ったって寸法」
魔法使い「そうだったのですか…」
勇者「魔法使いはおばあさんと二人暮らし?」
魔法使い「あ、はい。両親は健在ですが、昔からほとんど家にはいなくて。旅をしていると聞いています」
勇者「冒険家なんだ」
魔法使い「あんまりよくわからなくて…おばあちゃんも呆れてため息をつくばかりで、あんまり話したがらないし…ふふ」フフ
勇者「?」
魔法使い「あ、いえ。なんかこんな風に、お互いの事を話すのって出発の時以来かなって」
勇者「そうだなぁ」
魔法使い「そうだ、勇者様の事について教えてください!」
勇者「俺?」
魔法使い「なんでもいいですよー」ニコニコ
勇者「……じゃぁ…そうだな」
勇者「俺は… ポッと出の勇者です、よろしく」
魔法使い「ね、根にもってましたか?」
勇者「冗談だよ」
魔法使い「…あ、いえ、でももしほんとに気になさってたらごめんなさいですよ」
勇者「いや、気にしてないから」
魔法使い「勇者業…これまで騎士団の方とかばかりでしたし、一般の方からとなるともしや悪く言うような方もいたのでは…私、改めて考えてみるとそんなこと気にもしなくて…」
勇者「多少ウワサされた程度で他にはあんまそういうのなかったし、気にしてないってば」
魔法使い「いえ…独り言のつもりで、結果 勇者様の事を悪く言うようになってしまったのは本当ですし、ちゃんと謝っておきますね…。あのときはごめんなさ…
勇者「気にしてないっつってんのにお前が気にしすぎいいいいいい!!!!」
魔法使い「ひゃ…!?」ビクゥ
勇者「おまえなぁ。こっちの言うことを聴けよ、なんで勝手に悪いように考えて落ち込んでるの」
魔法使い「え、えと…いえ、私はただ非を謝ろうと…」
勇者「ステータス」
魔法使い「え?」
勇者「ステータス、そんなガンガン減らしながら謝られると、俺が悪者みたいな気分になるから。俺なら本当に気にしてないから、もう気にするな」
魔法使い「えっ、ちょ、え!? ステー… スカウターついてるのですか!?」
勇者「いつから解除したとおもっていたのか」
魔法使い「むしろ、いつ起動したのかもわかりませんよ!!」
勇者「え? 初対面の時、目の前でつけたじゃん」
魔法使い「え……」
勇者「俺がいつ解除したよ」
魔法使い「えっ、えっ…」
勇者「安心しろ、お前の『不安定』はずっと見えてる」
魔法使い「………っっっ// えっ、と…あの、本当に…本当に…?//」
勇者「嘘をいってどうする。旅に出て、ちょっと褒められただけで毎回ステータスあがるくらいめっちゃチョロインなのも知ってるし、寝れなかった日の朝はめっちゃダメージ受けてるのも知ってるし」
魔法使い「!」
勇者「なんか買ってやるっていうと萎縮して、選ぶときだけはめっちゃ浮かれてアゲまくって、でもまた買い物で支払段階になって萎縮してダメージ受けてたのも知ってるし」
魔法使い「!?」
勇者「張り切って魔物退治に向かったのも、結果があれで本気で落ち込んだのも知ってるし…」
魔法使い「…っ」
勇者「…さっき…なんか、あっさりした態度だったくせに、すごいステータスをグングン登らせてたのも見てた、し…」
魔法使い「え、さっきって、えと」
勇者「ステンドグラス?」
魔法使い「よかった、そっちかっ!」
勇者「……うちに来るって話の時なら、むしろバラバラに泊まることとかうちに来れないとかでめっちゃダメージ減らしてたじゃん…どこらへんに上がったと思う要素あったんだよ…」
魔法使い「いやああああああああああああああああああああああああああ」
勇者「……何が嫌なのかようわからんが…まぁ、知らない街で一人で泊まるのも不安か。悪かったな、察してやれなくて」ニコ
魔法使い「……」
勇者「ねえなんでいまステータスちょっとあがったの? やっぱ不安だった? 気付いてくれてうれしいとかそういうやつ? つか、そうなら口で言えよ? さては面倒な子だな?」
魔法使い「~~~私の事、スカウターで覗くのやめてくださいっっっ」
勇者「やだ」
ここまで
魔法使い「全部見られていたなんて~~! 恥ずかしくて死んでしまいますーー!!」ウワァァン
勇者「ステータスみるまでもなくテンションの上下はわかるけどな」
魔法使い「なら見なくていいじゃないですかぁぁぁ」
勇者「いや、でも自分の目で見える分、理由に推測つけられるし。演技とかじゃないって確信できるのは割と重要要素」
魔法使い「演技…?」キョトン
勇者「喜んだふり、平気なふり、つらいふり、悲しいふり」
魔法使い「はっ…そういうのがあった場合もばれるんですね! 私!」
勇者「ばれてるよ。さっき、俺に花を任せて笑ったのは演技だってこととかね」
魔法使い「…う…」
勇者「あと…今、急にステータス落としてることも」
魔法使い「っ」
勇者「……やっぱ不快だよな、こんな風に俺に見られてたなんてさ」
勇者「悪かったよ」
魔法使い「私は…」
勇者「こんなに俺が素直に謝ってもむしろ加速するステータス減。お前、さては鬼だな?」
魔法使い「も、もうステータスみるのやめてくださいいい」
勇者「赦してくれるなら、やめるよ」
魔法使い「許すとか、許さないじゃなくて…」
勇者「…なに?」
魔法使い「……感情を読み取られるのが嫌なわけじゃないんです…わたしはそもそも感情表現は素直な方だと自覚もあるし…」
魔法使い「ポーカーフェイスが得意なわけでもないので、気分を察されるなんてよくあることです…」
勇者「ほう」
魔法使い「でも…そうやって見られると…心配になるんです」
勇者「心配?」
魔法使い「私の気分の変動をしって、勇者様が不快な思いをしてたりしたんじゃないかって… 知らないところで、たくさん余計な気を使わせたのではないかって…」
勇者「謎に思うことは何度かあったけど、特に気遣ったりはしてない。あ、いや今日はさすがにちょっとだけ気にしてみたりもしたか」
魔法使い「今日のは…まぁ、気遣ってもらった自覚があるです。ありがとうございます」
勇者「言ったじゃん。おまえのステータスを勝手にみて、勝手に反応期待したりしないって。急な戦闘があった時、余力があると思ってたら実はほとんどなかった――なんてことになったりしたら危ないだろ。ステータス変動が激しすぎる以上、せめて監視程度には必要があると思っただけだよ」
魔法使い「は、はい…」
勇者「多分」
魔法使い「多分!? 多分ってなんですか!? ねぇ!?」ユッサユッサ
勇者「ステータス減らしながら動揺すんのやめて、大丈夫だから」ガックガック
勇者(……図書館で…あんだけステータスあげて、ありがとうなんて笑顔で返されたら…さすがの俺だってなんかすげー嬉しくなっちゃって動揺くらいするっつの…)
勇者(ましてやそのあと一人残されることを知って落ち込んで見せたりとか…)
勇者(なんなのこのステータス監視してるだけなのに勘違いさせられそうになる感覚…期待とかよりよっぽどタチわるいやつじゃん…)
勇者(こいつの『不安定』って能力名、ステータス見る人を不安定にさせるとかそういう意味なんじゃねーのか…?)
魔法使い「勇者様?」
勇者「ハイ」
魔法使い「きゅ、急に表情が消えましたが何か…? 揺さぶりすぎました…?」
勇者(……不安が目にもステータスにも見える…)
魔法使い「勇者様…?」
勇者(……ちょっと…可愛くみえてしまったり…思えなくもなかったり…)
魔法使い「勇者様………?」
勇者「はぁぁぁ~…」
魔法使い「」ビク
勇者「お前さ、自分にも結界ってかけられる? 魔力感知とかでもいいから」
魔法使い「え…? 魔力感知、はどうだろう。多分自分の魔力に反応しちゃうかな…」
勇者「じゃぁ対魔法防御とか」
魔法使い「あ、それはできますよ、防御魔法の基礎中の基礎です!」
勇者「じゃぁそれかけとけ」
魔法使い「?」
魔法使い「ああ、勇者様からのスカウター除けのためにですか?」
勇者「……」グサッ
魔法使い「え?」
勇者「~~なにその、俺が自制できないから自分で自分の身を守れ的な。言うわけねぇだろ!」
魔法使い「えええ」
勇者「俺じゃなくて他の奴にスカウターかけられないようにしろっつってんの! 道具で見られるのは防げないかもだけど!」
魔法使い「あ、なるほど? …でもえっと、そもそもスカウター魔法なんてそもそもコア…いえ、レアだとはおもうのですが、何のためにです?」
勇者「え」
魔法使い「・・・? やっぱり勇者様除けくらいしか意味ないのでは…?」
勇者「…ま」
魔法使い「ま?」
勇者「……ま、魔族に弱ってるところを悟られないためだよ」キリ
魔法使い「おお! それは必要ですね! はい、ちゃんとかけておきますね!!」
勇者(間男に入られないようにするためとか言いそうになった……)ガックリ
勇者(ただでさえちょろいのに、感情まで簡単に筒抜けになるとか…オトしやすくて勘違いさせやすいとか、こいつ女としては割と不憫なんじゃねえの…?)
魔法使い「…あ、でもえっと」
勇者「なんだよ?」
魔法使い「…勇者様も、私の事スカウターで見れなくなっちゃいますよね? いいのです? 監視…」
勇者「ああ、俺のスカウター魔法ならお前の結界くらいすり抜けるだろうからいいよ別に」
魔法使い「」
勇者「なんだよ」
魔法使い「あ、いえ。まあ私の結界は確かに軟弱ですけど、それにしてもすごい自信だなぁって…」ムゥ
勇者「言わなかったっけ。俺もお前と同じ、異常能力者だよ」
魔法使い「え… き、聞いてないです!」
勇者「そうだっけか」
魔法使い「勇者様はどんな能力なのです…?」
勇者「俺の異常能力は『サイド』って名前つけられた」
魔法使い「さいど?」
勇者「そう。能力が“両極端”でしか使えないんだ。常に端っこ、だからサイド」
魔法使い「ええと、つまり?」
勇者「極めるか、無能かのどっちかってことやね」
魔法使い「ええ…」
勇者「いくつかあるアビリティのうち、おもに戦闘関係のアビリティがほとんどなんだけど、極めるまで一切が無能なんだ。その代わり極めた瞬間に規定の“最大能力”でだけ使える。ちなみに習得速度は、普通より早い気がする」
魔法使い「ある日いきなり最大能力ぶっ放すとか、ただの危険人物じゃないですか」
勇者「言い方よ」
勇者「ともあれその一つがスカウター。ただし、最高「精度」でしか使えない。消費は結構する」
魔法使い「精度…?」
勇者「時計とかでさ、時間刻み、分刻み、秒刻みとかあるじゃん? あんな感じ。俺のは相手のステータスをコンマ以下の更新速度でコンマ以下のステータスまで読み取る。それ以下の精度では使えない。使用者や範囲の選択は出来るけど…。そこまでの必要はないんだけど、まあ仕方ないよね」
魔法使い「無駄・・・」
勇者「いやでも、常に最大範囲とかじゃなくてよかったよ…対象ちゃんと選べるし…」
魔法使い「最大範囲ってどれくらいなんですか?」
勇者「……ギリ、星までは届かないくらい」
魔法使い「……」
勇者「……」
魔法使い「寝ましょうか…」
勇者「現実から逃げたな…」
勇者「あ、そういや」
魔法使い「なんです?」キョトン
勇者「客用布団がないからさ」
魔法使い「・・・っ!!」
勇者「安心しろ、そんなジワジワとステータス下げなくても対策くらい考えてあるっつの」
魔法使い「え、いえそんな」
勇者「でもまあ俺の布団で勘弁な。旅に出る前に干してあるしシーツもちゃんと洗ってあるから」
魔法使い「…勇者様はどうなさるのです?」
勇者「冬用にしまってあるカーペットとこたつ布団を出して寝る」
魔法使い「あ、結構平気そうだしむしろ快適そうなやつだそれ」
勇者「冬とかだと普通にそれで寝ちゃうことあるよね」
―――就寝準備中
勇者「というわけで」
魔法使い・勇者「「おやすみなさい」」
―――就寝後
勇者(…泊りにきたいって言った(言ってない)くせに、布団ないって言ったあと、じわーってステータス下げられた…やっぱ男としてはすげえ警戒されてるのはしょうがないにしてもショック)ドンヨリー…
勇者(別にガチでそんな気はないけど、確かに、ステータス読んじゃって微妙に傷ついちゃう方の気持ちもすこしわかる…)ガックリー…
勇者(気にするな…そして動揺するな俺…カンチガイ馬鹿のひとりにはなるな俺…!)ウァァァァァァ
魔法使い(びっくりした…お布団ないっていわれて一緒に寝るのかと思った…)ドキドキ
魔法使い(お風呂かしてって言えなかったし…絶対汗臭いもん、私…)カァァ
魔法使い(ていうか、もし一緒に寝るってなったらむしろお風呂かしてって余計にいえない…! 意識しすぎって思われちゃう…!)ワタワタ
魔法使い(あ、明日はちゃんとこの借りたシーツ、綺麗にあらってから返そう…! 匂いとか残ってうっかりなんかのきっかけで嗅がれたら、死ぬほど恥ずかしい…!!)グッ
―――深夜
魔法使い「………zz」コロン
勇者「なんでこいつ、こたつ布団にはいってきてんの…? しかも爆睡で…?」
魔法使い「zzzzz」ゴロムギュー
勇者「湯たんぽ…湯たんぽだ、俺…! コイツの中で湯たんぽ程度にしか認識されてなかったやつだ…! 春とはいえ夜は肌寒いときあるもんね!!」
魔法使い「……♪」ムギュ スヤァ
勇者「………うっ」
勇者「…くっついてステータス上げんなよ、離れにくいだろうが馬鹿…」ハァ
勇者はスカウターを切った。
空になった自分の布団は、ほんのりと魔法使いの匂いがのこっている。
勇者は意外にも快眠した。
翌朝---
魔法使いは「いやああああああ」と叫んだ。
勇者は飛び起きた。
勇者は混乱している。
魔法使いは心にダメージを負った。
ここまで
翌日
勇者「昨日は朝からまさか魔法使いの残MPが108とかだったから出遅れたけど…いい天気だなぁ」
魔法使い「う、うう。もう言わないでください…」
勇者「寝て起きて、夜よりMP減ってたのほんと驚くからね」
魔法使い「び、びっくりしすぎて…心臓に悪かったのですよ」
勇者「いっとくけど俺がお前の寝てるとこに忍び込んだわけでは…」
魔法使い「それなら何回もききましたからもういいですってばぁぁ」
勇者「うーむ」
勇者「…なあ、ちょっと真面目な話していい?」
魔法使い「? なんですか?」
勇者「おまえさ、最大値わかんないってことは、使う予定をしてたMPが急にたりなくなることだってあるだろ、学校とかでもそういうことあっただろう」
魔法使い「あ、はい…実技の試験のときとかは、MPが一定値無い場合は出席不可ですし」
勇者「それでも戦闘なら使わなきゃならないこともあるかもしれない。…普通は使いきる前に調整するけど、お前の場合はその調整が効きにくいからあえて聞いておく」
魔法使い「え?」
勇者「お前さ。…MP尽きると、どうなる?」
魔法使い「っ」
勇者「…? 普通は過労状態で倒れたり、過剰に使いすぎると意識が戻らなくなったり…が相場だ。だけど異常能力者は“制約事項”にかかる部分では一般と異なる場合もおおい」
魔法使い「…………そうですね」
勇者「異常能力者にとって、この部分はデリケートな問題だから言いにくいのはわかる。一般人とは異なる、特殊な“強み”の一方で、特殊な“弱み”も持つのが異常能力だ」
勇者「……異常能力の冒険者の中には、他人に知られたら致命的になるような“弱み”を抱えるやつもいる」
魔法使い「……」
勇者「……お前、使いきったらさ。……死んだりすんの?」
魔法使い「っ…」
勇者「……真面目に聞いている。口外はしない、教えておいてほしい」
魔法使い「……」
勇者「……」
魔法使い「…それが、わからないんです」
勇者「わからないって…使いきったことないんだ?」
魔法使い「幼いころ…私はそういう異常能力のことをまだ理解しきれずに、自分のMPが増えたり減ったりするのをただ楽観視していたんです」
勇者「それで?」
魔法使い「まだ5歳くらいの頃、近くに住んでいた男の子と二人で魔法の練習をしていて…」
勇者「」
魔法使い「私たちは仲良しで。二人でたくさん練習をして、男の子のほうが先に小さな火の玉を出して。その子におそわりながら、わたしもようやく火の玉を出して。ふふ、初めて成功した魔法なんですけどね」クス
勇者「ふ、ふぅん。それで、その男の子とは…」
魔法使い「え? あ、ごめんなさい、少し脱線しちゃいましたね。魔法の方の話でした」
勇者(………くそ、若干気になってんじゃねぇよ俺!!!!)
魔法使い「えと、それで。今度はどっちが多く出せるかって競争になったんです」
勇者「子供らしいけど、危なっかしいあそびしてやがりますねマセガキが」
魔法使い「使いきると倒れる、なんてよくわかってなくて。すごーーく疲れる…くらいの認識でした」
魔法使い「実際、男の子の方は3発目で疲労のほうが強く、集中力がもたずにMPを尽きさせる前に打てなくなっちゃいまして」
勇者「へたれが」
魔法使い「ゆ、勇者様?」
勇者「気にするな。それで? お前は?」
魔法使い「私は…途中で、やめたんです」
勇者「やめた?」
魔法使い「はい。私の魔力と精神力は感情で上限するので…3発目を打つときにこれが打てたら引き分け!ってドキドキして、魔力が上昇して」
勇者「…」
魔法使い「4発目を打つときは、これがうてたらその子に勝てる!って喜びで魔力が上昇して」
勇者「お、おう」
魔法使い「5発目は、やったぁ勝てた!って喜びで。6発目はその子にすげえなお前!って褒められた嬉しさで。魔力は減るどころか増えていったんです…それで、やめて」
勇者「……」
魔法使い「それでも、気にならなかったわけじゃありません。自分の限界を知ってみたいと思ってはいたんです」
魔法使い「…そうしたらある日、今度は 無くなるまでやってみようぜって、その男の子に誘われて。でもその途中、だんだんと、彼の方が飽きてきていた、というか…」
勇者「…まぁ、自分は数発しか打てないのに、ズルみたいに魔力が増えてどんどん連射する友達なんかみてて、ひがまねぇやつはいないだろうな」
魔法使い「……」
勇者「…悪い」
魔法使い「いえ、本当の事だからいいんです。私が調子に乗るから魔力が増えたのも本当ですし…。でも私は感情のコントロールが下手で」
魔法使い「早く終わらせなきゃ、嫌われちゃうって気持ちで魔力はぐんと減ったんです。でも、やった、あともう一回くらい魔法使えばなくなる!って思った瞬間に、また少しだけMP増えて…」
勇者「羨ましいようなそうでもないような」
魔法使い「…私は、疲れちゃっておなかすいてもう打てない、というフリをして終わりにしました」
勇者「…なるほどね」
魔法使い「それは小さい頃の話なんですけど…そういうわけで、それ以来、使いきることも使いきろうとしたこともないんです」
勇者「…どうなるかわからないのはだいぶ怖いけどな…司祭とかに相談したり意見を貰ったことは? 司祭の能力でもそこは判定しきれないものだったのか?」
魔法使い「あ、えと その話を司祭様にしたら窘められました」
勇者「窘める?」
魔法使い「『人は確かに、幸福があると その幸福がどれだけあるのか試したくなる。なくなるはずがないとぞんざいに扱うこともある。だけれど幸福とは必ずあるものではないのだから、むやみに消費してはならないものなのだ』、と」
魔法使い「使いきることのないように大事にすればいいんだよ、とニッコリ笑われてらっしゃいました」
勇者「お前のところの司祭、真面目だよな」
魔法使い「はいっ、とても素敵な方なんです!」パァァッ
勇者「え」
魔法使い「町の方にもとても慕われていて、聖王様からの信頼も厚く、その立ち居振る舞いは大天使様のように神々しく、聖歌は天使の歌声とも言われていて…!」キラキラ
勇者「…へ~え? …その司祭のこと、好きなんだ?」
魔法使い「はいっ! 大好きなんです!!」
勇者「」
魔法使い「それで…!」
勇者「いやまあいいや、とりあえずお前はいいつけを守ってMPは尽きさせないようにしてたわけね、子供のころからずっと」
魔法使い「はいっ」
勇者「イイコだこと…」
魔法使い「はいっ! えへへ」ニコニコ
勇者(……地味にイラっとするなこれ。なんで続けざまにこいつの昔の男の話を…って)
勇者(落ち着け俺、男の子とやらも司祭もコイツの昔の男でも何でもないだろう!! 今の男にでもなったつもりか俺!!うがあああ!!)
魔法使い「勇者様?」
勇者「はっ」
勇者「……とりあえず行くぞ、遅れた分とりかえさなきゃならんからな」
魔法使い「あ、はいっ ごめんなさい、がんばります!」
勇者「がんばぇー」ボウヨミ
勇者(……言いつけを守って、MPを無くしたことはない、ねぇ…)
勇者(………)
草原――
魔法使い「広い野原ですねぇ…」
勇者「野原っていうか…昔の合戦場だよ。聖王軍対魔王軍の歴史でもっとも大きな戦が起きたのがココ」
魔法使い「ここで…戦争が?」
勇者「ああ。魔王軍10万、聖王軍7万。一騎当千ともいわれた英雄…初代勇者の時代のことだけどね」
魔法使い「へぇ~。きっとすごーく強かったんだろうなぁ…ふふっどんな人だったのかなぁ~」
勇者「イラ」
魔法使い「え?」
勇者「…い… イラナーイナニモーステテシマオウーキミヲサーガシッサマヨウッマイソー」
魔法使い「あ、わかりますー。こういう広いところって歌いたくなりますよね!」
勇者(いかん、なんか俺最近、めっちゃカルシウム足りてないかな。こいつがほかの男褒めるどころか考えてるだけでなんかイラっとする)
魔法使い「野原だけど結構あちこちに隆起があって、青い草も花もたーくさん茂ってて」
魔法使い「ふふー、おいかけっことかかくれんぼとか、子供の遊ぶのによさそうな場所ですね!」
勇者(スカウター見てると変なカンチガイさせられそうになるから、あの晩以来とりあえず切ったままでいるものの…むしろ余計に気になるようになった気すらする)
魔法使い「ねー、勇者様! やってみませんか、かくれんぼ!」
勇者「ああ…」ハァ
勇者(俺、いつからこんな女のことなんかに頭を悩ませるようなナンパな男になったのか…)
魔法使い「やったぁ! じゃぁ勇者様が鬼ですよー 10待っててくださいね!」タタタタ…
勇者「あ? 誰が鬼だコラ…って、あれ?」
勇者「…ま、魔法使い? どこにいった?」キョロキョロ
勇者「魔法使い? おーーい」タタ…
魔法使い「勇者様、まだ早… ………あっ」
勇者「!? 魔法つかい!?」ギクッ
勇者(あの馬鹿、元合戦場ってことは領地のハズレだってことに気付きやがれ! 一人でうろうろしてんじゃねぇ!)
勇者(っ、いた…って あいつの先にいるあれは…魔物か!?)
魔法使い「わぁ!」
魔法使い「おいでぇー こわくないですよーう」チチチ
勇者(ちっ。あの一角ウサギの事件以来、変に魔物に愛着わかせやがったな)
勇者「どけ」ダッ…ヒュンッ
魔法使い「え…って、や!」
勇者「――」ザッ!!!
魔法使い「あ、あわわわわわわわわ」
勇者「ん、斬り損ねたな。手ごたえがない…だがまぁ動かなくなったな」
勇者「お前に一回キチっと目の前で倒して捌いて毛皮を剥いで魔物の狩り方をおしえこんでやろう、まずはこうして軽い初手をあびせて動きを封じ……」
魔法使い「だめええええええええ」ドンッ
勇者「いてぇっ」
勇者「!? なにすん――」
魔法使い「だって、急になんか物騒なこといいながら現れたです! だめですよ勇者様!」
勇者「だめなもんか、こんなチビの野良魔………あれ?」
魔法使い「魔物じゃなくて、コレは普通のネコですっ!! 剣で転がしたりするからびっくりして気を失ってるじゃないですか!!!」
ネコ「ぐ、ぐるにゃぁ……」クラクラ
勇者「……ネコと魔物を見間違えるとか、俺 老眼かな」
魔法使い「もう…。しっかりしてください。魔王の領地に近いからって、気を張りすぎていたのですかね??」フフ
勇者(くっそコイツに言われるとすっげーーー腹立つ!!!)
魔法使い「子猫さん起きてくださーい、もう大丈夫ですよ。ふふ、勇者様にはあなたがこわーい魔物さんに見えたんですって」クスクス
勇者「ちげーよバカ、ああでも、よかったー」ハァ
魔法使い「? 勇者様?」
勇者「お前がいきなりいなくなったあげく、叫んで動物っぽいのと一緒にいたから襲われたのかと思ったんだ。そんで魔物だと判断しちまったんだよ」
魔法使い「…っ 勇者様…!」
勇者「ったく、変にビビらせんじゃねぇよ。目が曇るだろうが」
魔法使い「勇者様…そんなに心配してくれたのです?」
勇者「あ? …え、あれ?」
魔法使い「この子がもし魔物だったとしてもこんな小さい子なのに、本気でそんな私の事を…私…っ」
勇者「まって、なんかそんな変な感じにクローズアップするのやめて、別に俺はそんな…」
魔法使い「私…っ は…」
勇者「っ」ドキ
魔法使い「私、そんなに弱っちそうにみえてましたかね。大丈夫です、さすがにこのくらいの大きさの魔物でしたら、対処できるくらいのスキルあるですよ?」
勇者「・・・お前は腕よりアタマを磨け」
魔法使い「ひ、ひどいですー」
勇者「クソ! 知るか、もうしらん、本当にしらん、いくぞついてこい!!」
魔法使い「置いていかないのがいいところですね!」
勇者「うるさい!!ネコはテキトウな結界張っておいていけよ!!」スタタタ
魔法使い「あっ、はっ、はい!!」
魔法使い(…………)ドキドキ
魔法使い(………す…スカウター、切れててよかったぁぁぁぁぁ!! うまくごまかせたぁぁぁぁぁ)ドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
魔法使い(……勇者様…やっぱり本当は強いんだなぁ…っ// ほんとにびっくりしたけど…守って…貰っちゃった…//)
魔法使い(………かっこよかった……//)ドキドキ
魔法使い(あんなに心配してくれるなんて…嬉しい…)ハフ
魔王領地――
勇者「さて…魔王領地についにはいったな」
魔法使い「ちょ、ちょっと緊張しますね」
勇者「殴り込みに来たのとはワケが違う。いいか、俺らは聖王の遣いなんだ、やましいそぶりは絶対にみせるなよ」
魔法使い「はい…」
勇者「じゃぁそういうわけで町に行くぞ」
魔法使い「ええええ!? そんな堂々としていいんですか!?」
勇者「いいんだよ。魔族と人間の大きな違いはそこだ」
魔法使い「? どこですか?」
勇者「そもそもの個体自体が持つ能力値」
魔法使い「…? というと?」
勇者「人間より魔族のほうが、圧倒的に強い。相対的に言えば、だがな」
魔法使い「怖いですよっ」
勇者「強い人間と弱い魔族なら、強い人間のが強い」
勇者「でも普通の人間と普通の魔族なら普通の魔族のが強い」
勇者「だから、魔族は 人間が魔族を恐れるほどには人間を恐れていないのさ」
魔法使い「なるほど…?」
勇者「弱いそぶりを見せたなら、一瞬でカモにされる。だが、強すぎるそぶりをみせても狙われる」
勇者「ただ、堂々としていろ。得体のしれない人間に手を出してくるほど、魔族の知能はバカじゃない」
魔法使い「…むずかしいです」
勇者「普通にして俺のお供のフリでもしてろ」
魔法使い「本当にお供だし、それなら簡単ですねー」ニコ
勇者「おう、黙って俺についてこい」
魔法使い「はいっ、よろしくおねがいしますね、頼りにしてます、勇者様!」ニコニコ
勇者(やっべ、ちょっとなんか気分いい)
魔族の町――
魔族男A「おお、可愛い人間のムスメだな。寄って行かない? 俺の店の特製料理はウマイぜ」
魔法使い「わぁ、おいしそう…!」
勇者「………」
魔族男B「お、なんだなんだ、人間? 姉ちゃん、旅行かなんか?」
魔法使い「はいー! そんなところです!」
勇者「…………」イライラ
勇者(くそ、一体何なんだ、こいつのこの悪目立ちは!!)
勇者(そりゃまぁコイツの年齢にしてはだいぶ上等のドレスなんざきてやがるから? 馬子にも衣裳でそれなりの見てくれにはなってるかもしれねえけども!)
魔族男「よう、そこの嬢ちゃん! 今夜泊まるところは決まってる?」
勇者(くそ!! またか!! どいつもこいつもひっきりなしに声かけてきやがって…! それに、こいつもこいつだ!! 無視すりゃいいものを、いちいちいちいちこーやって…!)
魔法使い「え? いえ、まだついたばかりなので…決まってませんよ」
勇者(相手を! するな!! ただのナンパだろうこんなやつ!!)イライライライライラ
魔族男「やったぜ、ならさぁ、今夜はよかったら俺のところに………」
勇者「…あ?!」ギロ
魔族男「ア? やんのかコラクソガキ」
勇者「だれがクソガキだこのナンパヤロウ、上等じゃ――」イライライライラ
魔法使い「あ、あの!!! 私はその、ゆ…ゆう、えと、主人の共をしている身なので! お誘いは気持ちだけで…」ペコペコ
魔族男「なんでぇ、残念だな」
勇者「ふふん」ドヤ
魔族男「チッウゼエ」
勇者「あ゛?」
魔法使い「わわわ、ケンカはだめですよ! え、ええと!! それでは私たちはこれで!」
魔族男「主人とやらに愛想つかしたらいつでもおいでなー!」フリフリ
魔法使い「あ、あはは…」フリフリ
勇者「……」
魔法使い「……あ、あの? 勇者様…?」
勇者「――お前さ、一体な――…」
男の子魔族「わぁ! おねえちゃんすごい可愛いね!!」
魔法使い「え? え? わ、わたしですか?」
勇者「…―――だぁぁぁ!! ちょっと! こっち!こい!!」
男の子魔族「あっ」
魔法使い「え、ええ!? 勇者様、どこに… ご、ごめんねボク、またね!」
路地――
勇者「不愉快だ、町を出よう」キリッ
魔法使い「勇者様がすぐにガンつけてメンチきるから殺伐とするんですよう!!」
勇者「つかなんでおまえはそんなに魔族受けしてんだよ!!」
魔法使い「そ、そんなこといわれてもっ」
勇者「魔族の審美眼おっかしいんじゃねえの! どいつもこいつもアホかっ!!」
魔法使い「と、とにかく落ち着いてください…さっきからその、すごく不機嫌ですよ…?」
勇者「しらん!」プイ
魔法使い「勇者様…」
勇者「あーもう! ほんっと鬱陶しいなぁ、どいつもこいつも、おまえも!!」
魔法使い「」ビクッ
勇者「なにがいいんだ、こんなのの……」
魔法使い「っ」
勇者(魔族の審美眼ってまじわかんねえー こいつももっとハッキリとした態度をだな…)
魔法使い「勇者…様…?」
勇者「ん?」イライラ
魔法使い「……あの、その。私――」
<ギャハハ…お、なんかアッチの道、誰かいるぜ
<あ、あれさっきの子じゃね? ほら、ドレスの人間の…
<まじ? 俺カオ見てねぇけどなんか誰かふられてたやつだろ
<あ、俺もそれみてたわー…
<ぎゃはは、お前もふられてくればぁ?
<やめろよばーか!! ギャハハ……
魔法使い「……えと。…どうやら少し、目立ってしまっていたみたいですね…」ア、アハハ…
勇者「………」
勇者「もういい、帰る」クルッ
魔法使い「か、帰るってどこにですかぁ!」
勇者「お前のいないところ」
魔法使い「え」
勇者「…なんだよ」
魔法使い「………っ」ポロポロ
勇者「えっっっ」
魔法使い「勇者様の、馬鹿……」ポロポロ…
勇者「ちょ、なんで急に泣…」
魔法使い「堂々としてろって言ったのは勇者様なのに…」グス…
魔法使い「全然、私が笑われたりしてるのに困ってても助けてくれないし…それどころか騒ぎを大きくしようとするし…」グス…ポロポロ
勇者(笑われてるのとは違うと思うけど)
魔法使い「イライライライラしてばっかりで…すごく、態度も冷たいし…さっきからずっと早足だし…」
魔法使い「全然…こっち見てくれないし… 魔族の町、緊張して、私もどうしていいかわからないのに…」グスグス…
魔法使い「ついてこいっていってくれて…嬉しかったのに…っ」ボロボロボロ
勇者「魔――」
魔法使い「そんなにいなくなってほしいなら…そうします…っ」タタタタタタ
勇者「は? あ、ちょ…」
魔法使いはパーティから離れた!
魔法使いは去って行った!
勇者「………え」ポツーン
勇者「……マジかよ……?」
ここまで
大通りから離れた魔族の商店街――
魔法使い「……」トボトボ…
魔法使い「……魔族の町で…勇者様から離れちゃうなんて、無謀すぎた…」トボトボ
魔法使い「……でも、あんまりにもこんな気持ちじゃ帰れない…」トボトボ
魔法使い「……いま私があんまり不安にならないのは… すごく、ヤケになった気分だからなのかな…」トボトボ
魔法使い「……これから…どうしよう…………」グス…
??「……おや。これは…」
魔法使い「……え?」クル
??「なんとおもしろいものを、みつけたことだろう」クス
魔法使い「――――――!」
魔族の町・酒場――
魔族店主「…さぁ、知らないね。人間の娘なんて寄ってたらすぐわかるだろうから。うちには来てないよ」
勇者「そうですか、ありがとうございました」
魔族店主「ツレなのかい?」
勇者「ええ…まあ」
魔族店主「早めにみつけてあげなよ、あんま悪いことはいいたかないが、収集家なんていうのもいないわけじゃないからねぇ」
勇者「収集…?」
魔族店主「人間だとか妖精だとか、そういうのを物珍しがって集めては、首輪につなげたり檻に居れたりして飼っちまうヤツらさ」
勇者「な…」
魔族店主「人間にだっているだろう、魔物コレクターなんてものが」
勇者「…ああ、そういやいますね」
魔族店主「お互い様さ、あまり恨まないでやってくれよ」
勇者「ご忠告…ありがとうございます」
魔族店主「飲んでいくかい?」
勇者「あ、いえ。ツレを早く見つけたいので…」
魔族店主「そうかい」
勇者「…ツレが見つかったら、ツレと飲みに来ますね」
魔族店主「へぇ。じゃぁ見つかるよう祈っとくよ。いい客になってくれよな」ニカッ
勇者「ええ。ありがとう」
勇者(幸い、この町は魔族の町といっても聖王領地にも近いせいか、人間に対して友好的で治安もいい。そう悪いことにはなってないはずだ…)グッ
勇者(…………)
――首輪につなげたり檻に居れたりして飼っちまうヤツらさ
勇者「っ」ゾク
勇者「くそ。んなこと魔法使いにされてたまるか」タタッ
勇者(……『帰る!』 『どこにですかっ』 『おまえのいないところ』……)
勇者(……『勇者様の、馬鹿……』……)
勇者(………)ギリッ
勇者「……なんであんなことしか言えねえんだ、俺は……」
夜・大通りより少し離れた、宿場――
勇者「………結局、夜になっちまった」
勇者「あいつ…今夜どうすんだよ。まさか魔族の町で野宿するつもりじゃねぇだろうな…」ハァ
カツン、カツン、カツン…
勇者(…足音? 近づいてくる…)ピタ
カツン…カツン、カツッ
勇者「何者だ」ギロ
謎の男「ああ…そのいでたち。あなたが『勇者様』ですね?」
勇者「……誰だ、と聞いている」
謎の男「ふふ。可愛い人に、人探しを頼まれましてねぇ… 『勇者様をお願いします』、と」
勇者「っ」
謎の男「あなたが本当に彼女の探している『勇者様』ならば、彼女のことがわかるはず」
勇者「……魔法使いを、どうした」
謎の男「ふふ。正解です。魔法使いに頼まれましてね。安心してください、彼女は今も僕のうちに居ますよ」
勇者「てめぇ…」
謎の男「もちろんあなたもお連れしましょう。あなたが望むならば、ですが」ニコ
勇者「……ちっ」
勇者「いいだろう…。連れていけ」
―――謎の男の家
謎の男「どうぞ、おはいりください」ギイッ
勇者「……」
勇者(……古いが、大きな家だな。こいつ何者だ…? 服装や持ち物こそ魔族の匂いはするが、あまり魔族らしくはないな…)
勇者(中は民家…というより屋敷風。魔族の権力者か、あるいはそういったやつに“飼われている”のか…)
謎の男「ふふふ。そんな警戒なさらなくても、なんの仕掛けもないただの家ですよ。ほんの少し広いのとアンティークさが取り柄の、古い家です」
勇者「……それで。魔法使いは何処だ」
謎の男「だいぶ疲れているようだったので、寝室に寝かせているのですよ」
勇者(…寝室、だと?)
謎の男「しかしまあ夕食時には起きてくるでしょう…さぁ、勇者さんも、食事の用意が整うまで、どうぞ座っておくつろぎください」
勇者「………」
勇者(正体もわからない上、魔法使いの安否もうまく確認できていない。こいつの手中にもあるこの屋敷の中で下手な行動をとるわけにもいかない。だから大人しくしていてやるが…)
勇者(くつろげるわけ、ねぇだろが)チッ
夕食時――
カタン……
魔法使いが現れた!
勇者「! 魔法使い!」ガタッ
魔法使い「……っ」ビクッ
勇者「お前、無事で――」
謎の男「やあ、おはよう、魔法使い」ニッコリ
勇者「……」
魔法使い「ぁ… えと、おはよう…」
謎の男「夕食の用意ができているよ。魔法使いも座って…さぁ、そのランプは僕があずかろう」スッ
魔法使い「ありがと…」
勇者「魔法使い、おまえ一体…? 本当に無事だったというのか? …こいつとは知り合いなのか」
謎の男「知り合いっていうと少し違和感あるけれど。ああ、よく知った仲ではあるかなぁ」
魔法使い「変なこと言わないで」ムゥ
勇者「それはいったい…」
謎の男「さぁさぁ。……いいから、ごはん、食べようじゃないか。話をするのはみんなが落ち着いてからでいいだろう?」
魔法使い「……っ」
魔法使い「……うん」
勇者(…魔法使い? 明らかに態度が…)
謎の男「勇者さんも、席について。大丈夫だから、まずは本当にくつろいでくれたまえ」
勇者(ひとまず魔法使いはここにいる…仕方ない、ここは従おう)
魔法使い「……」モグモグ
謎の男「おいしいかい?」ニコ
魔法使い「うん。すごくおいしいよ」
謎の男「ふふ、よかった。魔法使いはいい子だね」
魔法使い「もう」
勇者(……魅了や催眠の魔法? いや、そんな感じでもない…何か弱みでも握られたか?)
勇者(この男、確かに敵意や殺気のようなものは放っていないが…)
勇者(ただの知り合い、ってわけでもなさそうだ。ま、こんな魔族の町でばったり会うんだから、そもそも普通の人間ってわけでもなさそうだけどな…)チッ
謎の男「勇者さん? どうかしたかい?」ニッコリ
魔法使い「………」モグモグ
勇者(…………クソ。魔法使いが目の前にいても状況がわからねぇ。こんなことなら、スカウターを堂々とかけておけばよか……)
勇者「あ」
謎の男「勇者さん?」
勇者「い、いや。なんでもない」
勇者(………魔法使いとはぐれたとき、スカウターで探せばよかったんじゃん。つかスカウターつけておけばコイツに魔法がかかってるのかどうかなんて見てわかるじゃん…俺、どんだけテンパってんだよ)ハァ
勇者(しかし本当に下手を打ったな。今となっちゃ、さすがに目の前でスカウター魔法を使うのはまずい)
勇者(夜になって一人になる機会があったら、すぐに魔法使いにスカウターをかけておこう…)ハァ
勇者(まぁ、そうとなりゃはぐれることもないし、状況も少しはわかるかもしれない…とりあえず安心か)
魔法使い「……勇者、さま?」
勇者(魔法使い…)グッ
勇者「なんでもないよ。……ところでこの夕食、本当に食べても平気なんだろうな?」
謎の男「勇者さんは警戒心が強いね、さすが勇者だなぁ」
魔法使い「……おいしいと、思う」
勇者「……なら、いただくとするよ」
謎の男「おかわりもあるからね、好きなだけ召し上がれ」ニコ
夕食後――
勇者「ごちそうさまでした…まさか本当に食べれるもの…つか、ほんとに美味い飯が出てくるとは」
謎の男「勇者さんはバケットが好きなのかい?」
勇者「え?」
謎の男「よく食べていたようだったからね。気に入った?」ニコニコ
勇者「いや、なんか…柔らかくてあったかくて、つけたりぬったりするソースもたくさんあったからつい」
勇者(魔法使いがあれこれとっては皿に載せてかじっていくから、ついツラれて俺まで普通に食っちまった…なんかアホみたいだな俺)
謎の男「ああ、そうか。旅の最中だと、なかなか食べるきっかけがないものなんだね」
勇者「パン自体はよく持ち歩くけど、やっぱりどうしても固くなるから。旅先で肉は焼けても、パンを焼くのは難しいだろうな」
謎の男「へえ。……魔法使いが夕食に焼き立てパンをリクエストしたのは、もしかして勇者さんのため…なのかな?」チラ
勇者「え」
魔法使い「……っ ……違うもん」
謎の男「そう」ニッコリ
勇者(……魔法使い? やはり何か弱みでも…。 ふむ。ここはいっそ親しくなったふりをして様子見るのが得策か?)
魔法使い「おいしかった。私も、もうごちそうさま」
謎の男「それはよかった。さあ、勇者さんの寝室を整えなくては。手伝ってくれるね、魔法使い」
魔法使い「…うん、もちろん」
勇者(………)
謎の男「じゃぁまずはシーツを運んで…。ああ、とりあえずついておいで」クルッ
魔法使い「はい」ガタ… テクテク…
勇者(……)
勇者「あの!」ガタ
謎の男「ん?」
勇者「……俺も手伝っていいですか」
謎の男「え?」
謎の男「…働き者だね、勇者さんは。もちろん、ありがたいよ。じゃぁふたりともついてきて」ニコ
―――2階の空き部屋
謎の男「ああ、部屋が少し暗いかな。しまった、さっき魔法使いに預かったランプをもってくるのを忘れちゃったよ。とってきてくれるかい? 魔法使い」
魔法使い「うん」
勇者「俺も行く」
謎の男「…ふふ。勇者さんは過保護なのかな?」クス
魔法使い「え」
勇者(チッ、怪しまれたか? それならいっそ堂々と--)
勇者「ダメですか?」
謎の男「…いや、いいよ。キッチンの横に置いてある。棚には大事なものもあるから、気を付けていってきてね」ニッコリ
魔法使い「はい」
勇者「…はい…」
勇者(…こいつ・・・何考えてるのかわからねえが、妙に親しげな態度の割に隙はねえし、それに・・・)
勇者(逆らわせない威圧感・・・? いや、そうじゃない。――認めたくはないが、逆らったらマズイような本能的感覚が、俺の方にあるのか…)
勇者(下手なことしたくない、気を逆なでるようなことをしちゃいけない…そんな感覚が俺の中にある…?)
魔法使い「勇者様…いかないの?」
謎の男「…いってきていいんだよ」ニコリ
勇者「……悪い。行こう、魔法使い。--取ってきます」ペコ
謎の男「うん、少し散らかってるから…暗いところは気を付けて」
勇者(なんの忠告だよ… まさか屋敷内に監視や他の人間がいる? …くそ、警戒されてる可能性があるとなると、この隙にスカウターを起動させるのは早計か?)
勇者(……なにより、俺の本能が躊躇してる。夜になるまでは、このまま様子を見よう)
魔法使い「……」
―――暗い厨房
ギィ…
魔法使い「キッチンの奥…あれ、ないかな。…もしかしてあっちの収納庫のとこかな」
勇者「――棚に大事なものがあると言っていたからそっちの奥の方の棚なんじゃないか? 魔法使いは棚を見てくれ、収納庫は暗そうだし、俺が見てくる」
魔法使い「……うん」
ギィ……
勇者(…狭いが収納庫というには広い。おそらくこの家が屋敷として使われていた頃、隠し部屋の類として用意された部屋か)
勇者(確かに食材も多いが…ところどころにあるのは無数のマジックアイテムに見える。 趣味なのか魔術用なのかわからない様々な瓶詰も多い…)
勇者(それに暗くてよく見えないが……部屋の奥にあるのは…)
勇者(捕縛・拘束用の器具…)ゾク
勇者(やはり、酒場の店主のいうような収集家の類なのか…?)ソッ…
勇者(まさか…俺も、飼われる・・・? そのために手なづけようとしている…?)
勇者(…いや、魔法使いの知り合いなら、さすがにそんな人種のわけは…)
勇者(……まてよ。昔からの知人と言っていた。子供の頃ならそんな嗜好をしらず、親しくしてくれるやつにほいほい懐きそうなのも魔法使い…)イラ
勇者(くそ、いっそ俺自身がこいつの子供のころの、例えば例の男の子みたいなやつだったら こいつにもっと危機管理というものを教え込んで・・・――)
ギイッ
勇者「っ!!」ビクッ
魔法使い「勇者様? ランプ、ありましたよ」ヒョイ
勇者「あ、ああ。よかった」ドキドキ…
勇者(こ、こんな時に俺は何を妄想じみたことを…)ハァ
魔法使い「じゃぁ、戻りましょう?」スタスタ…
勇者(………いっそ、このまま魔法使いを連れて逃げ去ったほうがいいのか…?)
魔法使い「勇者様?」
勇者「……今、いくよ」
勇者(……まだ魔法使いの“状態”を確認できたわけじゃない。こいつが精巧に偽装された催眠をかけられてる可能性もある。…俺自身の状態こそ怪しく思えてきたくらいだ。判断できない。スカウターをかけるまで、様子を見よう)
―――2階の空き部屋
謎の男「遅かったね、なにかあったかい?」
魔法使い「ランプがあったよ」
謎の男「ふふ、ミッションコンプリートだね。おめでとう」
魔法使い「あ、部屋…片づけ終わったの?」
謎の男「ミッション達成の特別な褒章はないけど、代わりに勇者さんがゆっくり眠れるようなベッドの用意ができたところだよ」
謎の男「魔法使い、今夜はそのランプ、勇者さんに貸してあげて」
魔法使い「うん」
謎の男「じゃぁ大事な仕上げ。そのランプを枕もとの棚へおいて、灯をつけて」
魔法使い「……大事な仕上げ?」
勇者(何かの罠でも作動するのか?)ゴク
魔法使い「……」コト、…ポッ
勇者(点火したが…異変は、無い?)
魔法使い「点いたよ…?」
謎の男「うん、じゃぁこれで完成! さぁ勇者さん、魔法使いが部屋の用意を仕上げてくれた。これで今夜は暗闇に困ることなくすごせるだろう」ニッコリ
勇者「え。……そ、それだけ?」
謎の男「? どうせならかわいい女の子が用意してくれた部屋と思った方が、気持ちよく過ごせるだろう?」
魔法使い「え」
勇者「可愛い…って」
勇者(こいつ、やはり魔法使いのことを色眼鏡で見ているのか… って、そうか)ハッ
勇者(そういえば、そもそもこいつは謎に魔族にモテるんだった。まさか普通に魔法使い狙い・・・? 俺への親切は好感度アップのため? あるいは俺へのあてつけや牽制?)チッ
勇者(い、いや待て。だとすれば俺がこいつに逆らえないと感じる理由は何だ? やはりこいつが何かしら俺よりずっと優位な何かをもってるからとしか――)
魔法使い「も、もう! 用意が出来たなら寝ましょう、勇者様もお疲れだろうし!」
謎の男「ああ、そうだったね。じゃぁ勇者さん、おやすみ」ニコ クルッ…
勇者「あ、ああ」
魔法使い「おやすみなさい、勇者様」ペコ。クル…
勇者「…おやすみ」
謎の男「僕たちも早めに寝ようか」テクテク
魔法使い「うん」テクテク
謎の男「魔法使いが、本当に寝れればだけど」クス
魔法使い「?」
ギィ…バタン
謎の男が去って行った
魔法使いが去って行った
勇者「……あ。 え?」ポツン
勇者「え、魔法使いはそっちいくの…? ま、まぁそうだよな…」
勇者(え、ていうか俺、何見送っちゃってんの…? あいつと魔法使いを二人にしていいの…?)
勇者(え、まじでなんか全然逆らえないっていうか、俺、言いなり・・・? 実際、なにを見たわけでも されたわけでもないのに、あいつにそれほどのなんの優位性が――って)ハッ
勇者「――――ぅ」
勇者(~~~~~俺より優位な何かって、男としてとか魔法使いからの好意とか人間性とかそういうのなんじゃないかって思えちゃったから、なんかもうだめだ俺!!!!)
勇者(あと二人で居なくなるのやめろ!!!! なんか気になるから!!! 俺どうしちゃったんだあああああああああ)ウワァァァァァ
ここまで
―――翌朝
魔法使い「……」モグモグ
謎の男「魔法使い、こぼしそうになってる。ほら、ちゃんと目を覚まして食べなくちゃ」
勇者「……」モグ…
謎の男「うーん、勇者パーティがまさか朝に弱いとは思わなかったけどね?」
勇者(……スカウターをかけて魔法使いを見てみたが、ステータス上では少なくとも催眠状態などの異常はなかった)
勇者(ただ、気になることがあるといえばあまりにMPが低すぎる、400/UNKNOWNを切ったような状態が続いている…)
勇者(やはり何かあったのか。それに昨夜、一度だけMPが急上昇した時があった)
勇者(結局そのあとは、元の数値より下がって今の低MP状態に落ち着いているが…一体何があったんだ。それに)
謎の男「勇者さん?」
勇者(この男、やはり魔法を使う。MPが2000近い数字をしてるとなると、それなりに強力な魔法を使ったとしてもおかしくない)
勇者(ステータス的には人間だったが…油断は出来そうにないな)
謎の男「勇者さん、眠れなかったのかい?」
勇者「……ええ、いえ、まぁ…寝るには寝ましたよ」
謎の男「そう? まぁ朝食はゆっくり食べていいからね」
勇者(………寝るには寝たが…いっそ現実のが、悪夢くさかったからな)
勇者(こいつら……一晩中同じ部屋にいたとしか思えない距離にいやがって…何してたんだか。クソ…)
魔法使い「…勇者様、聞いてますか?」
勇者「え? あ、ごめん、聞いてなかった…何か話しかけてた?」
魔法使い「……」
謎の男「話しかけてたというか、今後の予定をね」
勇者「予定?」
魔法使い「魔王都まで、連れて行ってくれるそうです」
勇者「なっ」ガタ
謎の男「用事があるからね。勇者さんと魔法使いは魔王城に向かう予定だったんだろう?」
勇者(魔法使い、そんなことまで喋ってるのか。…いやそりゃそうか、勇者の称号を晒してる時点で魔王の元へ向かうのは周知ともいえるか…)
謎の男「といっても、僕の用事のお供ってことで。少しばかり手伝いもしてもらうけれど」
魔法使い「勇者様、どうしますか」
勇者「手伝いって…?」
謎の男「基本的には―――…」
―――魔王都・王城下
勇者「なんで日用品の買い物なんだよ」ガックリ
魔法使い「まとめ買いに便利だそうで…全部買ってしまえば一気に荷物は送ってしまえばいいので楽だけど、買っている最中の荷物持ちに困ると言っていたじゃないですか」
勇者「魔王の城の目の前まで食料の買い出しに来た勇者とか初めて聞くわ…」
魔法使い「で、でも食料以外にも買ってますし」
勇者「俺の持ってるこの布団のこと? 布団を魔王のいる街まで買いにくる勇者とか余計に聞きなれないわ」ハァ
魔法使い「ごめんなさい…」
勇者「?」
勇者(なんで魔法使いが謝る? なぜゲージを減らす? クソ、やっぱりわからねえ)チッ
魔法使い「………」
謎の男「ごめーん、もうちょっとかかりそうなんだ、もう少しそのあたりで待ってて!!」
魔法使い「あ、はーい」
勇者「何の店みてるのかもよくわからんし、入るのも微妙に躊躇われるし、待ってるしかねえよ」
魔法使い「……」
勇者「布団、地面においてバッくれるのはなんとなく気も引けるし」
魔法使い「そう…ですね。汚れちゃったらせっかく買った新しいお布団が台無しです」
勇者(それにしても…アイツ、本当に何者なのか。この町に、すっかりなじんでいるようだが…)
謎の男「やぁ、おまたせー。ごめんね、すっかり選ぶのに時間がかかっ……」タタタ
「ヘイ、ファーザー!!」
魔族の町人が話しかけてきた!
謎の男「え? あ…やぁ! ひさしぶりじゃないか! 元気にしていた?」
魔族町人「元気なわけないだろう、顔をみせないから寂しく思っていたところさ」
謎の男「あはは、それはすまなかったね。少し忙しくしていたものだから」
魔族町人「まさか前に約束した話を忘れたか?」
謎の男「まいったな、忘れてたわけじゃないんだけど。そうだ、それなら週末にでも…」
ワイワイ
勇者(ファーザー…? 今、確かにあいつファーザーって呼ばれていたな、まさか…)
――回想――
勇者「…へ~え? …その司祭のこと、好きなんだ?」
魔法使い「はいっ! 大好きなんです!!」
――――――
勇者(まさかそんなわけないよな。聖王都の司祭が、こんな魔族の地になんて…)
勇者(…いや。でもあの屋敷を見たときに俺はどう思った? 権力者に飼われる犬ならあり得るかもと思ったじゃないか…)
勇者(力のある司祭ならばこそ、聖王に飼われて敵国の地に根付くなんてことも……ありえない話でもない、か?)
勇者(人間で、魔力を秘めていて、魔族の地に暮らしていて、魔王の城下に顔が効いて、さらに魔法使いとも親しい仲にある……)
勇者(……正体見たり、ってとこだな…)
勇者(なら、魔法使いの態度がおかしいのは…好きな男の前で、俺みたいな他の男とは仲良くしたくないってことか…な)
勇者(テンションが低い件についてはだいぶ謎だが…まぁ敬愛する聖王都の司祭がこんな魔族の町で怪しげな生活をしてると知れば不安にもなるか)
勇者(ほぼほぼ確定、かな)
謎の男「…そういえば…で、……だよね、それで…」ワイワイ
魔族町人「あははは」ワイワイ
勇者(……)コソ
勇者「(魔法使い…)」ヒソヒソ
魔法使い「きゃっ…」
勇者「(しっ)」
魔法使い「(な…なん、ですか? 勇者様)」
勇者「(もしかして、とおもって。確認したいことがあるんだ)」
魔法使い「…?」
勇者「(あの男のことだ。あいつ…、まさか前にお前が言っていた…)」
魔法使い「(………)」
魔法使い「(…………はい。そう、です…)」
勇者「………ぅ。当たっても嬉しくない…どうりで…」ガク
魔法使い「……?」
魔法使い「……いつまでおしゃべりしてるんだろ…」
勇者「あー…なんかすっかり話し込んでるし、俺らのこと忘れてたりしてな」
魔法使い「それはないと思うけど…」
勇者(それはない、ですか。そーですか!!)
魔法使い「声、かけてきますね」タタッ…
勇者(こんな魔族の町にまで来て、魔法使いが大好きだという男とのイチャラブ見せつけられるのか…)
勇者(魔法使いが無事だったのは…何かあったというわけではなさそうなのは、本当によかったけど…)ハァ
勇者(…なにやってんだ、俺)
勇者(こんな場所で、危険も多い場所で、一人ではぐれていった魔法使いが信頼を寄せる相手に出会えたのは幸運のハズ)
勇者(それなのに、何を俺は落ち込んでいるのか)
魔法使い「ね…まだかかるの…?」
謎の男「ああ、ごめんごめん」
魔族町人「なんだ、ツレがいたのか…って、え、あれ?このこ? あれ? え、嫁?」
謎の男「あはは、かわいいだろ」
魔法使い「もう…恥ずかしいこと言わないで」
謎の男「あはは、ごめんよ。じゃぁ僕たちはこれで」
魔族町人「ああ。飲みに行く約束、今度は忘れるなよ」
謎の男「だから忘れてなんかないってば」クスクス
勇者「………」
謎の男「いやぁ。ごめんね、すっかり待たせて」ポンポン
魔法使い「…ほんとにまったよ」
謎の男「ふふ。大人のレディならイイコに怒らないでいてくれるね?」ナデナデ
魔法使い「まったくもう…」
ワイワイ……
勇者(……)ズキン…
勇者(……なんで、だろう。 ああも親しげにしている二人を目の前で見ているのが…)ズキン…
勇者(………こんなにも、耐えられないなんて)ズキン。
そして―――
謎の男「やあ、勇者さんも、おまたせしてしまったね。用事は次で最後だ」
勇者「いや…もういい」
謎の男「え?」
勇者「魔法使いはあんたのそばでだいぶ落ち着いているように見える」
謎の男「? 何の話だい?」
勇者「不安定な能力を背負っている魔法使いにとって、魔王との交渉は荷も重いはずなんだ」
勇者「それを皆がわかっているからこそ、あいつはこれまでの勇者同行でずっと落とされてきた」
勇者「俺はずっと落とされつづけているっていうアイツを、好奇心と興味本位で選んじまった。あいつにとってどうかなんて考えたわけじゃない」
謎の男「………」
勇者「こっからあとは、一人で行ってくる……。だから」
勇者「……だから――」グッ
魔法使いのそばに、いてやってくれ――
勇者(クソっ……)
魔法使い「…………っ…」
謎の男「………」ハァ
謎の男「魔王への交渉のあてなら、もうつけてあるんだ」
勇者「…え」
謎の男「さぁ、最後の予定だ… 勇者さんも、そんなに拗ねていないで 一緒に行こう?」クルッ スタスタスタ…
勇者「だれが拗ねてなんか――」
魔法使い「……勇者、様…… あの」オズッ
勇者「う」
魔法使い「………っ…」ビクッ
勇者(……この眼はぜったい、(やっぱり私がいないほうがいいんだ)ってさげずんでる目だ…見るのがつらい)プイッ
魔法使い「っ」ビク
勇者(……クソ…)
魔法使い「…ぁ… その…」
魔法使い「……ごめん…なさい…」クル… タタタ…
勇者「…ぅ…」ポツン
勇者「…なんだってんだよ、クソ…!」
sageいれわすれてた ここまで
――レストラン
謎の男「実はここで、人と会う約束をしていてね。まぁ、魔王城へのパスポートをもってるような人物なのだけど。――きっと驚くよ」ニコ
勇者「……はぁ、そうでしたか」
魔法使い「……」
勇者(結局、ついてきてしまった。それにさっきから魔法使いはうつむいて黙ったまんまだし、なんだか居心地が悪すぎる…)ハァ
謎の男「それにしても、遅いね… 先に何か頼んでおこうか。おなかもすいただろう?」
勇者「待たなくていいんです? 魔王城へ通じる相手ということは、それなりに格の高い人なのでは」
謎の男「ふふ。いいや、そんなこともないよ。だけど僕にとっては高嶺の花でもあるし、尊敬すべき相手でもあるのは確かだけど…気を張るような人ではないよ」
勇者「…高嶺の花・・・相手は女性でしたか」
謎の男「ああ、でも勇者さんにとってはそうでもないのかな。彼女の気に障ることでもしてしまえば、一生後悔をするかもしれない…なんてね?」クス
勇者(なんだよ、それ… くそ、こいつの正体が司祭でそいつにとってもまだ高嶺の花って…どこかの貴族領主の娘とか、あるいは聖王都から逃げた女伯爵とかか?)
謎の男「魔法使い、元気ないね」
魔法使い「え…そう、かな」
勇者(まぁ、MP見る限り間違いなく元気はねえな。360・・・さらに落ち込んだか)
謎の男「何食べようか。ここはデザートの焼きりんごのパイがおいしいと評判なんだ。食欲はあるかい?」
魔法使い「…ううん、あんまり」
謎の男「ならやっぱり、まずは食事よりデザートから決めようか」ニコ
魔法使い「………うん」ニコ
勇者(………MPが少し上がった。くそ、こんなやつに励まされやがって…)
謎の男「焼きりんごにする? そうだ、山羊のミルクポタージュもあってね、マシュマロに…」
魔法使い「うん、どっちも食べる」ニコ
謎の男「あ、そうだ。限定メニューなんだけど、一つ目鳥の卵のアイスを使ったハニートーストとか、飲み物なら炭酸鉱のカップにはいった不思議なしゅわしゅわプリンとか、それから野草のサラダとか…」
魔法使い「そ、そんなには食べれないけど、がんばるよ」アハハ
勇者「……」
勇者(どんどん回復していってる。まだ食べたわけでもないのに、こいつと喋ってるだけで。くそ、こいつホントに誰にでもすぐ懐いたりしてほんとチョロすぎるのがムカツ――…)
勇者「―――」
勇者(…そうじゃない。こんなのはヒガミだ。俺は何も言えないし励ますことも出来ない、むしろ落ち込ませてばかりいる)
勇者(自分にできないから、こいつを妬ましく思うし、それに素直に反応をしめす魔法つかいにも逆恨みしようとしてごまかしてるだけだ…)
勇者「……なにが、勇者だ…」ボソ
謎の男「ん? 何か言ったかい、勇者さん」
魔法使い「…?」
勇者「いや。…なんでもない」
謎の男「勇者君も、遠慮せずにきちんとメインメニューを選んでいいんだからね」
勇者「……はい」
勇者(……飯なんて… むしろ、出来ることなら今すぐこの場から逃げ出してしまいたい気分なのに…)グッ・・・
魔法使い「……あの」オズ
勇者「…なんだよ」
魔法使い「さっき…言ってたことだけど、その。私――」
?「ごめんなさい、遅くなってしまったわ」
女が声をかけてきた!
謎の男は、立ち上がって出迎えに行った!
謎の男「やぁ。仕事中なのに抜け出してもらってるのはこちらだから。大丈夫だよ、そちらこそ無理をしていないかい?」
女「ふふ、無理してくるほど従順な女にみえるのかしら」クス
女が近づいてきた!
謎の男「紹介するよ、勇者さん。こちらが――」
勇者「あ… ええと」ガタ ペコリ
勇者「勇者…です。この度は取り計らいがあるとのことで、ええと…って、え?」
勇者「………魔法使い…?」
女「あら、そんな若く見えるかしら?」クス
魔法使い「なんとなくそんな気はしてたけど…やっぱりお母さんだったのね」
勇者「え゛」
謎の男「そう、彼女は魔法使いの母親だよ」
女「魔法使い! おっきくなっ…あら、あんまりかわらないわねぇ~」ムギュッ
魔法使い「おかあさん、くるしい…胸が」
勇者「おかあ…さん?」
女「あら? 勇者様ときいていたけれど、魔法使いとは 私をおかあさんだなんて呼ぶ間柄なのかしら?」
勇者「い、いえその! 思わず復唱してしまっただけで…!」
女「フフ、真面目なのねぇ。可愛らしいこと。呼びにくければ、ここでの通称である弓射手と呼んでいいわ」
魔法使い「おかあさん、それよりもう離して。恥ずかしいよ」
勇者「と、ところで さっき魔王城へのパスポートを持つような人物って…」
謎の男「彼女は実はとても薄いけれど魔族と人間の混血でね。彼女の祖祖父にあたる人物が魔族なんだ。まだ戦争の最中にあった時代の、異種族恋愛だったという」
弓射手「私も聞いたことしかないのだけど、戦争で翼を無くし、死にかけのまま捕虜にされたらしいわ。その世話役を押し付けられたのが祖祖母ね」
魔法使い「え…ちょ、ちょっと待って。私、そんなの初耳だよ」
弓射手「私も、魔族の血が混ざっているのを知ったのは10年ほど前の話だもの」
魔法使い「でも、お母さん 魔族とか嫌いなんだと思ってた…時々家に帰ってきたとき、魔族の話なんかになったりするとすごく悲しそうな顔をしたし…」
謎の男「魔法使い。それは深い理由があっての事なのだけど、ひとまずそれは後で話すことにしようか」
魔法使い「う、うん…?」
謎の男「少し話が長くなりそうだよね。とりあえず座って。僕、みんなの分の食事を適当に選んでおくから」
弓射手「うん、よろしく・・・じゃぁ、私たちは話を続けましょうか」
勇者「……それで、魔族の血が混ざっているのと、魔王城への案内ができるというのにはなんの関係が?」
弓射手「少し長くなるけどゆっくり聞いてね」
弓射手「幼かった彼女・・・祖祖母は、戦争の最中、魔族を憎み手当など誰も買って出ないところでも、無知がゆえに献身的な介護をした」
弓射手「その中で二人は恋におち、彼女は魔族の子を宿した。そして魔族は彼女の手によって、そっと魔王領へと逃げ延びさせてもらった…という話で」
弓射手「それが、魔王領の中では伝わっていてね。その時その魔族は自分に子供がいたことなんて知らなかったから何もずっと変わらなかったのだけれど…。私が魔族領地に来た時に、彼のひ孫にあたることが発覚したの」
勇者「え。…そんなもの、どうやって調べられたんですか」
弓射手「逃げ帰った魔族が、彼女の似顔絵を魔王城に献上していたからよ」
勇者「…人間の娘の絵を、献上?」
弓射手「正確にはきっと、書かされて取り上げられたのだとは思うわ。魔族に友好的な人間の少女。戦争の最中で魔族を手引きしてくれる可能性もある、小さなコマですもの」
勇者「……なるほど」
弓射手「でもそれは戦争が泥沼化していくにつれて、意味を変え始めていた。そして世代が変わり、今度の王は その肖像を“友好的にできる人間の証明”として、和平への取り組みの広告塔として大々的に国民にさらしたの」
勇者「な… 魔族はそこまで堂々と、和平を望む状況にあったのか?!」
弓射手「勇者さんならわかるかもしれないけど、魔族にとって人間はたいした脅威でもない。戦争はもはや、自分の利を失わせるだけで もはやたいしたメリットもなかったのよ…土地自体も、だいぶ貧弱化してしまっていたし」
弓射手「話がそれちゃったわね。そうして国民の大半が彼女の顔を知るようになって、そこに現れたのが、昔の私…“同じ顔をした女”だったってわけ」
勇者「同じ・・・カオ?」
弓射手「そう。私と魔法使いの顔をみたらわかるでしょうけど、おそらく魔族の血が混ざった影響なのかしら。我が家で生まれる女子は皆、“彼女と同じ顔”をして生まれてくるの」
魔法使い「え、そうだったの?」
弓射手「あなた、私が何のために家にいないと思ってたの」
魔法使い「旅が好きなんだと思ってた…」
弓射手「馬鹿ねぇ。確かにもともと、冒険家もどきの事はしていたけれど。あなたのお父さんと出会ったのも冒険先でのことだしね」
魔法使い「へぇ…」
弓射手「…私が子供の頃、私が成長するにつれて、あまりに母親と同じ顔すぎると気味悪がられた時期があったのよ。年頃だった私は悲しい思いもした」
弓射手「あなたが生まれたとき、やはり私と同じ顔をしているのがわかって。あなたに同じ思いをさせないようにと、私はあまり町の中に顔を出さないで居ようと思って…それが正式な冒険生活の始まりだったの」
魔法使い「おかあさん・・・」
勇者「でも、それならおばあさんも同じ顔なので 同じなのでは…?」
弓射手「年を取った母は、子供のその顔とはだいぶ印象が違うもの。気味悪いほど似ているだなんて思わないわ」
勇者「確かに…俺も別に、魔法使いのおばあさんを見ても、なんの違和感も覚えなかった」
弓射手「だけれど、さすがに私の顔を見ればあまりにも同じ顔をしていることにすぐ反応したでしょう?」
勇者「あ… はい。すみません…」
弓射手「いいの、それが普通の反応なのはよく知っているわ」
魔法使い「そ、それで…お母さんがその少女のひ孫だっていうことがわかって、それでどうしたの?」
弓射手「冒険家だったこともあって、将来的に和平への交渉役となってほしいと頼まれたのよ」
勇者「な…」
弓射手「でも人間側に、明確な和平への意思が読み取れるまでは、と役柄としての実務は保留状態だったの。正直言うと、私という人物を探るための期間だったりコマとして手元に管理しておくという意味もあったんじゃないかと思うけど」
勇者「なるほど… ともかく、それで、俺たちに魔王城への案内ができるってわけなんですね」
弓射手「そういうこと。もちろん、貴方たちの役割が“和平の使者”ならの話だけどね。ただ、現魔王は人間にとてもとても友好的な方だけど、正直言って 魔王城のお偉い方たちはそうでもないわ」
魔法使い「…そうなの? 王様が仲良くしたいって言ってるのに?」
弓射手「もちろん、表立って反対をしてるのは本当にごく少数。だけど半数以上が、腹の底では人間なんてさっさと打ち滅ぼして根こそぎにしてしまえばいいとおもっているやつらでもあるの」
弓射手「だから、案内は出来ても安全までは保障できない。それは、わかっていてね」
勇者「…その…おか、ええと、弓射手さんは大丈夫なのですか」
弓射手「私の存在は、王の掲げる“和平への広告塔”である少女と同じ意味合いを持っているの。だから私自身に危害を加えようとするバカはいないわ」
弓射手「同じように…魔法使いもきっと安全でしょうね。まあ、余計な“目の上のたんこぶ”が現れる前に消したかった奴は大勢いるでしょうけど…」
魔法使い「え…」
謎の男「でも、勇者さんと魔法使いがこの街に来た時、だいぶ目立っていたようだったのがよかったみたいでね」クスクス
謎の男「この街には弓射手の顔を知っている人も大勢いるし、その顔の意味を知る者もいる。そして魔法使いを見れば、察した者も多いだろうね」
勇者「ええと、つまり・・・?」
謎の男「僕は弓射手にそっくりな娘がいるという噂を聞いて、半信半疑ながらももしかしたら魔法使いかもと思って、保護のためにさがしていたんだ」
謎の男「まさか、本当に魔法使いで…それも一人きりで魔族の町を歩いてるなんて思わなかったから、驚くより先に 弓射手みたいな無鉄砲な子になったんだなと笑っちゃったけれど」
魔法使い「面白いものを見つけたって、そういう意味だったの…?」
謎の男「だって、あまりにも弓射手にそっくりだったんだよ。落ち込んだ時のしょぼくれ具合とかも、ね」クスクス
魔法使い「…むぅ」
勇者「それにしても、あの時の騒ぎってそんな噂になるほどだったか…? 確かに悪目立ちはすごくしたけど」
謎の男「僕や彼女に親しい人なら、すぐに娘であることに気付いたんじゃないかな。僕が話を聞いたのは宿屋の主人だけど、『見知らぬ男といたから怪訝におもって。からかい半分に保護しようとしたけれど失敗したよ』という話だったし」
勇者「あの時の宿屋のナンパ男か!!!」
謎の男「やだな、ナンパしてきたのかい?」クス
勇者「っつーか異様な数にナンパされまくってた!!」
謎の男「ああ、それはきっとみんな弓射手のことを知っているやつらだよ。弓射手に手を出せないからって そ知らぬふりしてその娘に手を出そうとするなんて、まったくもう」
弓射手「あら? 私、あなたの町ではそんなにモテてるの?」
謎の男「君がかわいいのももちろんだけど、魔王にも近しい権力者でもあって、さらに性格の良さもお墨付きだからね」
弓射手「性格って、私 あの街にはそんなに親しい人もいないけれど」
謎の男「君の素晴らしさは僕が毎日のように酒屋で話して聞かせているから」
弓射手「気持ち悪いからやめてちょうだい?」
謎の男「ええ…っ」
勇者(確かに気持ち悪いな)
魔法使い「お父さん、本当にお母さんの事ずっとだいすきだよね」
勇者「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
謎の男「僕は出会った瞬間から弓射手に夢中だよ。もちろん、彼女にそっくりな魔法使いの事も愛しているけれどね」
勇者「は? ・・・・・・・・・は?」
謎の男「ああ。僕は、魔法使いのおとうさんだよ。勇者さん」クスクス
勇者「なぁっ!?!?」
魔法使い「え。気付いていなかったんですか? っていうか私、さっきいったじゃないですか」
勇者「だっておまえ、確かにさっきーーー
魔法使い「依然お話しした… 遠くにいてなかなか帰ってこない両親です」
勇者「そっち!!??!!!??!!」
謎の男「いやぁ、わるかったね。少し楽しくなっちゃって、すっかりわざと隠してたよ! 若い子にライバルあつかいなんかされたもんでね!」
魔法使い「え? なんの話ですか?」
勇者「してねえし!!! 関係ねえし!!」
弓射手「魔法使い、向こうのショーケースでデザート選びに行きましょう」スッ
魔法使い「え? あ、うん…」ガタ
謎の男「まぁまぁ、ライバルみたいなものじゃないか? 最愛の娘を連れ去ろうというなら、まずは僕がひとつのハードルになるのだから」クスクス
勇者「連れ去らねえし!!!!!!」
謎の男「でも勇者さん、僕に対してすごく気を使ってたよね? やはり好きな女の子の父親には頭をあげておくわけにはいかないってやつなのかな」ニッコリ
勇者「!?!?!」
勇者(俺の本能がこいつに逆らいたくないと思うのって、血縁関係を本能が察知してたからなの!?!?)
謎の男「お、認めたね? まあ僕は君をまだ認めないけど」クスクス
勇者「うぜえええええええええええええええええええええええええ」
―――食後、帰路
勇者「で、これこれこういうわけだと」
魔法使い「勇者様。それじゃわからない」
勇者「つまり―― どういうことだってばよ」
謎の男「聖王都にまぎれこんだ希少魔物の保護活動をしていた僕が、弓射手にすっかり惚れ込んで結婚し、魔法使いが生まれ、彼女の意見を尊重して一緒に旅に出て、この魔族の町の入り口を拠点に今は仕事をしているってことからでいい?」
勇者「いやそんなのは聞いてない」
謎の男「じゃぁ、魔法使いが隔世遺伝を起こして魔族としての血が弓射手よりも強いってことからでいい?」
勇者「だからそんなことも聞いてな―― え?」
魔法使い「え?」
謎の男「話の最初のころに、魔法使いが気にしていたことを応えておこうと思ってね。弓射手が魔族を嫌っているように振る舞った理由を」
魔法使い「え、え?」
勇者「隔世遺伝・・・魔法使いが?」
弓射手「……魔族としての特性が強いのは本当よ。でも別に隔世遺伝というほどのことではないとおもうけれど」
勇者「どういうことだよ」
魔法使い「わ、私も知りたい!」
弓射手「魔法使い、あなたは自分の能力が普通ではないことは知っているわよね?」
魔法使い「魔力が上がり下がりする、異常能力の事…?」
弓射手「そうともいえるし、そうでないともいえるわ。あなたの異常能力は本当は“最大値が不明”という一点だけなの」
魔法使い「え、ええと?」
勇者「…じゃぁ、感情によって魔力量が変わる理由は?」
弓射手「魔族の血の特性が強く表れているからよ。単純に、精神力が増減している――というほうが正しいの」
勇者「……単純な精神力の増減が魔力量の増減にあたる・・・魔力をほとんど使わない魔法っていうのは、やっぱり魔族の“血の持つエネルギーを使う“のと同じ原理だった?」
謎の男「その通り。正直なところ、魔法使いの魔力の使い方だけを見れば、魔法使いが魔族なのではと疑ってみる者もいるだろうね」
勇者「あ……俺も、最初 冗談交じりだけどそんな話をしたな。でも魔法使いに強く否定されて・・・」
謎の男「そうだったのか。でもまぁ、それこそが弓射手の狙いでね」
謎の男「魔族のような能力をもって聖王都に住むと、魔族を嫌う人間ならばそれを疑い深く見たり、嫌悪することもあるだろう、と」
謎の男「疑いの目を向けたときに、魔法使いが魔族に対して友好的に考えていたら、あやうく魔族側の諜報かなにかと思われたりもするかもしれない」
弓射手「だからこの子には、あまり魔族というものに触れさせたくなかったし…むしろ嫌ってでも離れていてほしかった。ただ平和に生きていくためにね」
魔法使い「…そうだったの…」
弓射手「まぁ、魔法使いは別に魔族を嫌いになったりはしなかったようだけど」
魔法使い「…でも魔族と疑われるといつもすごく悲しい気持ちになったよ。おかあさんが魔族を嫌いだと思ってたから…私が魔族だと思われたら、お母さんはどうおもうだろうって」
勇者「まぁ、必死で否定したもんな」
弓射手「優しい子ね。まぁ、あなたも私も 実際には魔族まじりだったんだけどね?」
魔法使い「台無しにしないで私の母を思う気持ち」
勇者(つっこみにくい)
弓射手「コホン。とにかくせっかくだから話を戻すわ」
弓射手「未熟で、魔族よりもずっと精神力が低い魔法使いは、その制御が自分ではうまくできない。だから精神の不安定さが、直接魔力量に 増減ともに反映してしまうのよ」
勇者「異常能力ではなく、魔族としての特性と反動・・・」
弓射手「魔法使いは、既に身体的には完全に人間よ。私もそう。だから唐突に表れた魔族の血の特性に対処できないのは仕方ないこと」
魔法使い「私に、魔族の血・・・なんだかまだ実感できないけど…成長したら魔法が強くなったりする?」
弓射手「魔法を使うものにとってはきっと残念だけど、魔族の血といえるだけの血は流れてないわ。あくまで“特性”だけ返り咲いたという感じね」
弓射手「ううん、中途半端だからこそ制御できないのかもしれない。制御するだけに必要な“魔族の血”が足りていないんだから…」
弓射手「そもそも魔族であるならば、赤子でも自分のエネルギーを自分で管理できる。血が、そういう性質を持っているから。落ち込んで魔力を減らすようなことは自分ではそもそもできないものよ」
魔法使い「魔族としては赤ん坊以下で…」
勇者「人間としては、劣性呼ばわりされることもある異常能力者・・・」
弓射手「なんだか不憫な子ねぇ…」
勇者(言っちゃったよ)
ここまで
――弓射手の家の前
弓射手「さぁ、ついたわ。私の家へようこそ、可愛い子供たち」
魔法使い「おかあさんの、家…?」
勇者「二人は一緒には住んでいないのですか」
謎の男「うん、僕はあの街の入り口に家を借りているんだ。どうしても仕事柄、保護した魔族をすぐに手当てしたりする必要もあるから聖王の領地に近くないといけなくてね」
魔法使い「お父さん、おかあさんの事が大好きなのに寂しくないの?」
弓射手「…」
謎の男「ふふ。寂しくなんかない、むしろ弓射手にばかり寂しい思いをさせてるんじゃないかっていつも謝っているくらいだよ」
弓射手「別に、私は寂しくなんか・・・」
勇者「……不安になったりはしないんですか」
弓射手「え?」
勇者「あ、いえ…。なんでも、ありません」
弓射手「…? ともかく中に入って。久しぶりの大所帯ですもの、用意がまだ整いきっていないの。ごめんなさいね」
魔法使い「大丈夫だよ。私、冒険者だもん。外でだって眠れるよ」
謎の男「たくましくなったあぁ」ムギュ
魔法使い「もうお父さんにだっこされるのは、ちょっとヤダ…」モガモガ
謎の男「 」ガーン
――弓射手の家の中
弓射手「さて。魔法使いは一緒にお手伝いをして頂戴ね。縛人は勇者様と少し話や説明をまとめておいて頂戴」
勇者「縛人・・・?」
謎の男「僕のここでの名前だよ。僕の魔法は束縛や拘束が基本にあって、魔物や動物を捕まえて保護をする。それでこんな通称がね」
勇者(名前があったのか)
魔法使い「……あの」
勇者「…え?」
魔法使い「……い、いえ。なんでもありません。お母さんを手伝ってきます」
勇者「あ…うん」
魔法使いと弓射手が去って行った!
縛人「――さて。どこから話そうか」ニコ
勇者「…明日は魔王城へ?」
縛人「え、ああ。うんそうだね。でもそれはきっと彼女に任せておけば大丈夫だから」
勇者「え、でもそれ以外にあんたと話すことなんて俺…あ」
縛人「正直だね?」クス
勇者「…悪い」
縛人「構わないよ。うん。勇者さんが弓射手には敬語なのに僕にはタメとかだってこともね、うん、全然気にしないよ」ニコニコ
勇者「す、すいません」
縛人「ふふ。いや、皮肉じゃなくて本当に構わない。むしろ普通に話してくれた方がいいよ
」
勇者「……」
縛人「勇者さんに話すことが無くても、僕は勇者さんと話しておきたいことがあるんだけど、いいかな」
勇者「…?」
縛人「さっき…勇者さんが彼女に“不安にはならないんですか”ってたずねていただろう?」
勇者「ちっ。聞いてたのかよ…」
縛人「うん。…実はね、彼女はとても寂しがり屋ではあるけれど、僕の事で不安にはなって彼女自身が揺らぐようなことはないってことを僕は知っているんだ」
勇者「知ってるって…どうやって?」
縛人「僕は彼女との結婚にあたって、指輪じゃなくてひとつの魔法をプレゼントした」
勇者「魔法?」
縛人「僕は“縛る”ことを専門にする魔法職でね。その特異性から自分で魔法を作ったりもする」
縛人「その一つが彼女に送った魔法・・・“赤い糸“」
勇者「胡散臭い上にネーミングが痛い」
縛人「う、うるさいなぁ」
勇者「それで、その魔法はどんな効果があるんだよ」
縛人「この魔法の糸は、普段は指輪を装って僕たちの手に結婚指輪として収まっている…ほらね」
勇者「…指輪には気づいてたけど…そんな赤い指輪だから、何かの魔術アイテムだとおもっていたよ」
縛人「この指輪は、2つの条件のうちどちらかかでも反応すると、切れるようになっているんだ」
勇者「条件?」
縛人「“指輪の対の持ち主である相手を疑うこと”、それと“心が離れてしまうこと”さ」
勇者「……」
縛人「僕のこの指輪は、結婚のときに彼女と一緒につけてから一度だって切れたことがないんだ」
勇者「のろけかよ」
縛人「ふふ。のろけたいところだけど、そうじゃない」
縛人「……僕は、彼女の指輪をこれまでに3回も切ったことがあるんだよ」
勇者「え……」
縛人「彼女がとても寂しがり屋なのは、付き合っていた頃から知っていた。それでも僕とのこんな生活を続けて飄々としていられるのは、本当は別に男でもいるんじゃないかって勘ぐった時が1回目」
勇者「……」
縛人「僕はただ不安でそんな風に思ってしまっただけだった。だから僕はまさかそんなことで彼女の指輪が切れたことなんて気付かなくてね」
勇者「自分でかけた魔法なのに?」
縛人「切れても、きれたまま存在し続けるんだ。魔法が消えたわけではないからわからなかったんだよ」
勇者「…それで?」
縛人「彼女は自分の指輪が切れたのを見て、どうしたと思う?」
勇者「……殴り込みに来た、とか?」
縛人「いや。彼女は、その切れた指輪を小さな袋にいれて、ネックレスのように持ち歩いて
。普段通り、何の連絡もよこさないままだった」
勇者「………あんたに冷めたのか」
縛人「いっただろう。僕の指輪は切れたことがない…彼女は、僕が彼女を疑ったか心を離したかしたのを知っても、僕の事を思い続けて黙ることにしていたんだよ」
勇者「…………」
縛人「僕が、彼女の指輪が切れていたのを知ったのはその半月後だった」
縛人「僕は彼女が、切れた指輪を胸元に飾って、それでも僕の指輪を切らさないように想いつづけていてくれたことを知って、すごく泣いたよ」
勇者「泣いたのかよ…」
縛人「ヤバいくらい泣いて、そしたら指輪が彼女の手の中でまたつながった」
勇者「……」
縛人「…つながった指輪を見て、嬉しそうにその指輪をはめられた手を笑ってみていた彼女が何よりも愛しかった」
勇者「いや、そのノロケはいいから…」
縛人「2回目に僕が彼女の指輪を切ったのは、彼女が子供を宿した後の事。僕が父親になることがうれしくて精いっぱいがんばらなくてはと仕事に夢中になってね」
勇者「…」
縛人「……夢中に、なりすぎたんだろうね。彼女と子供のためにとがんばっていたはずだったのに、いつしか好きなだけやりたい好きな仕事をする言い訳になっていたんだろう」
縛人「一日中魔物をおいかけて、充実して家にかえって。疲れ切って、一日の仕事の話なんかをしてお酒を飲んで、眠って」
縛人「朝になって仕事にいって……彼女が指輪をはめていないことに気が付けたのは、一緒に住んでいたにも関わらず三日後の話さ」
縛人「彼女は身ごもった体で家にいて、僕の帰りを待ちながら過ごしていたはずで。指輪が切れているのだから、僕の心がすっかり仕事の方に向いてしまっているのも気づいていて」
縛人「……一体、どんな気持ちだったんだろうと、今でも想像することがあるよ」
勇者「…どうせまた泣いたんだろう」
縛人「うん、指輪が切れてることに気付いた時にすごく焦って、よくきいたらもう三日も前の話で、落ち込んで、言葉も出なくて、顔面蒼白にして謝って…」
縛人「それでも・・・・・・黙ったまま、僕のどうしようもない言い訳を、小さく微笑んだまま聞いていてくれる彼女の視線を感じながら、うつむいて弁解をしながらずっと泣いていたよ」
勇者「で、そのうちに気が付いたら指輪が彼女の指に嵌っていた?」
縛人「すごいね勇者さん。どうしてわかるの?」
勇者(展開が読めるっていうのはこういうことをいうんだな)
縛人「じゃぁ…3回目はどうして切れたと思う?」
勇者「え。…知らねえよ」
縛人「知ってたら怖いよ」
勇者「そういう意味じゃねえよ」
縛人「ふふ。じゃぁ3回目の理由は内緒にしておくよ」
勇者「うわ、モヤモヤするから言うならいえよな…」
縛人「だってもともとそんな話がしたかったわけじゃないから」
勇者「こんだけ好き勝手話しておいてそれかよ!!」
縛人「…魔法使いのことがいいたかったんだ」
勇者「……魔法使いの、こと?」
縛人「魔法使いは僕に似て、とても精神が未熟なところがある。悪いことを考えて勝手に落ち込んだり、嫌な妄想に囚われてしまったり」
勇者「……」
縛人「そして彼女にも似ていて、とても深い愛情を持っている。根の部分が揺らがない、強くて深い愛情のある子だよ」
勇者「……それがなんだってんだよ」
縛人「……深い愛情を持っているのに、とても傷つきやすいところがある。どうか…誤解のないように、大事にしてやってほしいんだ」
勇者「………」
縛人「勇者さんとあの街で別れて、魔法使いは深い不安に襲われながらも、ずっと勇者さんの事を考えていたよ」
勇者「……」
縛人「…今も、そうなんだ。勇者さんの事を思っているのに、不安に襲われてつらいのを耐えている」
勇者「は… 知らねえよ。そんなのはあんたの気のせいだろ」
縛人「……」
勇者「あいつは俺の事なんて、別に…」
勇者「…………別に…」
縛人「――弓射手と魔法使いは、もうひとつよく似ているところがあってね」
勇者「……」
縛人「本当はとても怖がりで。本当に否定されてしまうのが怖くて…大事な人の大事な気持ちを、うまく自分から聞けないんだ」
勇者「………」
縛人「どうか、勇者さんから声をかけてやってほしい。教えてあげてほしいんだ。――勇者さんの、本当に思っていることを」
勇者「………そんなことして、俺が本当にアイツを今度こそ傷つけるとんでもないことを言ったらどうするつもりなんだよ」
縛人「僕は“本当”を教えてやってほしいっていってるだけだよ」
勇者「だから! 俺が本当はやっぱりキツいことばっか考えてたらどうすんだって――!」
縛人「本当に魔法使いを大事にしていない人だったら、そんな風に僕には聞かないさ」クス
勇者「っ」
縛人「これでも、君よりはずっと年上でそれなりに人を見る目も養ってきたんだよ。それに元もと、喋らない動物を相手に仕事をしている分、気配や感情には敏感でね」
縛人「……勇者さんも魔法使いも、きっともっと本当のことを言えた方が…お互いにとても楽になれると思った。それだけさ」
勇者「………なんだよ、それ――」
縛人「ん?」ニコ
勇者「あんたなんかに、俺の何がわかるっていうんだ!」
カチャ…
勇者「俺がこの短期間の間に、あいつのことでどんだけ――……!!!!」ガタッ!!
魔法使い「きゃ、きゃっ!?」
勇者「ッッ!?!?」ビックーーー!!
魔法使いが現れた!
弓射手が現れた!
弓射手「ちょ、何? ドア開けた途端にそんな大声を急に・・・。び、びっくりするじゃないの。ケンカ?」
縛人「い、いや。こっちも正直、君たち以上に驚いたよ」ドキドキドキドキ
勇者「 」ドキドキドキドキドキドキドキ
弓射手「はぁ? …ケンカでもないっていうなら、何があったの?」
魔法使い「…ゆ、勇者…様…?」
勇者「……聞いてたのか?」
魔法使い「……えと…。いえ、勇者様の大きな声のところだけ、ですけど…」
勇者「……」
魔法使い「……アイツ、って… もしかして、私の事…ですか…?」
勇者「……」
魔法使い「……やはり・・・その…勇者様は、その…」
勇者「……」
魔法使い「…………っ…」
~~~
縛人『否定されてしまうのが怖くて、聞けないんだ』
縛人『勇者さんから、声をかけてやってほしい』
~~~
勇者(………魔法使いが…“俺に否定されるのが怖くて”聞けないことがある…?)
勇者(………なんだよ、それ…)
魔法使い「………」
勇者「………続き」
魔法使い「っ」ビク
勇者「……俺が… “やっぱり”、なんだって?」
魔法使い「――っ」
勇者「は。『やっぱり勇者さまは怖い』とかか?『ひどい』とか『つめたい』とかか?」
魔法使い「…ぇ?」
勇者「なんて言おうとしたんだよ。べつにそんなことくらい言ったって怒りはしねえ」
魔法使い「え、いえ、私はそんなことは別に…」
勇者「じゃぁなんて言おうとしたんだよ… 黙り込むほど言えないことなのか」
魔法使い「あの……」
魔法使い「………勇者様は、やはり・・・ 私に愛想をつかして、私と一緒に居たくないんじゃないかって…」…ポロ
勇者(…………? ………? )
勇者「………は? 悪い、ちょっとわかんなかった」
魔法使い「で、ですから。その…私が、頼りないしうるさいしで・・・面倒事ばかり起こすし…。それで、もう…」グス…ポロ
魔法使い「もう… 嫌になってしまって。だから、私のいないところに行く、とか ここからは一人で行くとか、そんな風におっしゃるんですね…って……」ポロポロ
勇者(………いや、なんか、ネガティブすぎるだろ…)
勇者「あ。もしかして、そんなことずっと考えてたのか…?」
魔法使い「…ご、ごめんなさい…っ」
勇者「俺は…お前こそ、俺に嫌気でもさしたか他の男の事でも考えてるのかと思ってたよ」
魔法使い「…え?」
勇者「誰かさんのせいだけど」ジロ
縛人「あ、あれ?」アハハー
魔法使い「? お父さん、なんで笑うの…。ひどいよ、嫌い・・・」
縛人「 」ガーン
弓射手(自業自得・・・)
魔法使い「……嫌気なんて…そんなの、私は全然・・・」
勇者「…じゃぁ魔法使いの表情が 縛人の家で再会してからずっと冷たい理由は? よそよそしく離れていく理由は?」
魔法使い「…どんな顔して勇者様のそばに居たらいいのか…わからなくなっただけです」
勇者「どんな顔しててもいいからそばにいりゃいいんだよ、クソ」
魔法使い「え」
勇者「面倒なこと考えて紛らわしいことしやがって…はぁ」
魔法使い「勇者様…いいんですか…?」
勇者「なにが」
魔法使い「私… 勇者様のそばにいても、いいのですか…?」
勇者「………今は俺の同行だろ…むしろ居なくちゃダメなんじゃねえの」
魔法使い「………――っ」パァ・・・
魔法使い「はいっ・・・はいっ! ――ずっと、そばにいさせてくださいっ」ニコッ
勇者「っ」ドキ
勇者に会心の一撃!
ここまで
翌日
勇者「おはようございます」
魔法使い「おはようございますっ! 勇者様!」
勇者「元気だな、魔法使い」
魔法使い「ぁっ、もう! 朝からスカウターで私のこと覗くのやめてください!」
勇者「スカウターなら切ってるよ」
魔法使い「え、え?」
勇者(昨夜、どうにも意識しすぎてスカウター見てばっかで寝れなくなってたとか言えない)
魔法使い「でもいま、私が元気だって…」
勇者「それくらいなら、普通に見てわかるだろ。声のトーンと表情とか」
魔法使い「……」カァ
勇者「?」
魔法使い「な…なんだか、スカウターで覗かれるよりアレかも…っ。私の事、見ないでくださいっ!」
勇者「えっ」ガーン
魔法使い「…//」テレテレ
弓射手「…朝からみんな元気なようで何よりだわ」
縛人「さぁ、ご飯も出来てるよ。みんな座って」ニコ
一同「「「「いただきまーす」」」」
縛人「昨夜はよく眠れたかい?」ニッコリ
魔法使い「うん!」モグモグ
弓射手「いつも通りね」パクパク
勇者「…俺は若干、寝付けなかったけど。でも布団は心地よかったし、ゆっくり休むことは出来ました」
弓射手「ふふ。ありがとう」
縛人「うんうん、まぁ今日は魔王のところに行くんだし、勇者さんみたいに寝付けないのはむしろ当然なのだとおもうよ。実は僕も少し緊張してねれなくて」
弓射手「あら・・・」
勇者(いや、俺は本当は、魔法使いにあんな風に言われちゃって、一つ屋根の下にいるんだよなとかドキドキして変な妄想までしたせいだとかいえない)
縛人「あは。実は久しぶりに弓射手と一つ屋根の下にいると思ったら、ドキドキしちゃって久しぶりにいちゃいちゃしたいなぁとか妄想しちゃったせいなんだけどね!」
弓射手「馬鹿じゃないの?」
縛人「うっ」ガーン
魔法使い「そういうちょっとエッチなところ、あんま好きじゃない」
勇者「 」ガーン
弓射手「? なんで勇者さんまでちょっとヘコんだの?」
魔法使い「?」
縛人「さ、さぁ! 気を取り直して! 今日は、魔王のもとへいくよ!」
勇者「行くよ、って言われても やっぱりあんまり実感がわかないんだけど」
縛人「実はね、昨夜のうちに、彼女が嘆願書をだしておいてくれてるんだ」
魔法使い「嘆願書? 魔王城までの案内ができるのは聞いていたけど…。そんなもので魔王とあえるの?」
縛人「彼女の嘆願書は少し特別さ。理由はまぁいろいろだけど」
勇者「昨日聞いた、“人間との綱渡し”の役目・・・?」
縛人「それもあるけど、そんなに簡単な話じゃないよ」
弓射手「私みたいに、何かしら人間との橋渡しの役目を負ってる職は他にもいるの。人間も、魔族もね」
弓射手「でも、普通に嘆願書を魔王城に送ったところで、魔王に届く前に“揉みつぶされる”事の方が多いんじゃないかしら」
勇者「…和平反対派、ですか」
弓射手「ふふ。これ以降、あまりむやみにそのことは口に出さないほうがいいわ。こう思っておくの。魔王宛の手紙は、“運の悪い配送事故”によくあうものだ、ってね」
魔法使い「…でも、ならどうしてお母さんが昨夜出した“嘆願書”は無事だってわかるの?」
勇者「あ、さては縛人。なにか手紙に細工の魔法でも?」
縛人「あはは。そんなことをしたら、まず間違いなくそんな怪しい手紙は真っ先に処分されると思うよ」
勇者「????」
魔法使い「じゃぁ、なんで・・・?」
弓射手「…さぁ。魔王のきまぐれじゃないかしら」
縛人「行けば、わかると思うよ」クスクス
勇者(……なんだか少し釈然としない物言いだな)
勇者(何か裏がある…? 例えば弓射手さんは実は諜報かスパイか…なにかそういう仕事を特別にこなしている、とか)
勇者(魔法使いがあまり両親について知らないまま育ったのも、すこし過剰すぎる気がするし…まだもう少し、聞いていない何かがあるのも確かだろう)
勇者(魔王、か。平和を望むというのは本当なのだろうか。魔法使いの両親だからと、話をうのみにしてもいいものなのか?)
勇者(第一、魔王自身のことについてあまりにも語られなさすぎる…)
勇者(終わらせることもなく、暗黙の了解の元で沈静化だけした戦争。水面下で人間とのアクセスを望む行動。それは本当に、ただ和平を望むだけの行動なのか)
勇者(…………いまだ多い反対派、か。それこそ…本当の魔王の真意に仕えている可能性があるのではないだろうか)
勇者(魔王城。こんなに簡単に乗り込めてしまうものなのか…? それに、もしそうなったら… って、あれ…? なんだか・・・)
勇者(……なん、だか………)ゾクッ
縛人「――だからまぁ少なくとも、“彼女は”魔王に会えるだろう。だからそれについて、いっしょに行っておいで。きっときみたちも会えるさ」
勇者「………っ」
弓射手「どうかしたの? 勇者さん」
縛人「っと、ごめん。少し話が長かったかな」
勇者「…い、いえ」
魔法使い「勇者さま、なんだか顔色が…?」
勇者「あの…」
縛人「?」
勇者「昨夜の和平の話などはもちろんちゃんと聞いていました。でも、反対派も多いというのも聞きました…」
弓射手「そうね」
勇者「…本当に、いいんですか? 魔王の意には沿ったとしても、反対派にとっては俺を連れていくことは何よりも目障りな行為のはず」
弓射手「……」
勇者「俺をここまであからさまに連れて行っては、弓射手さんが、生活しにくくなるような…いや、危険な目にあうようなこともあるのでは…」
弓射手「…優しい子なのね、勇者さんは」
勇者「魔王が和平に積極的とは聞いたけど…。そうではない魔族にとっては、これは魔王に勇者を仕向けるような行為です」
魔法使い「勇者様…」
勇者「それに・・・二人とも、この魔族の町にすっかりなじんで生活していて。あまつさえ弓射手さんは魔族の血も引いている」
弓射手「…それが?」
勇者「………魔族に好意的なお二人の前でこんなことを言うのも難ですが…」
勇者「俺が…魔族を嫌って、姿を見たとたんに 刺しに行かないとも限りませんよ」
弓射手「…………」
魔法使い「勇者、さま…?」
縛人「ふふ。魔王城に向かうには、いい気構えと雰囲気になったね」
魔法使い「お父さんっ」
縛人「なぁに、大丈夫さ」ナデナデ
魔法使い「わ」
縛人「…僕はね、娘のことを信じているよ。その娘の選んだ人も…そんなに軽率なだけの人間じゃないって、信じている」ニコリ
勇者「………」
魔法使い(……勇者、さま…?)
勇者「……すみません。魔王に、悪意を今のところ抱いているわけじゃないんです」
弓射手「…」ホッ
勇者「もともと、俺は戦闘狂でもない。魔王の元へも政治交渉がメインだと聞いてこのたびに出たくらいです」
弓射手「それなのに、どうしてそんなことを?」
勇者「・・・急にふと、とても嫌な予感がして」
弓射手「…」
勇者「何か…とても、自分の嫌悪する何かが待ち構えているような、そんな胸騒ぎがしたんです」
勇者「もし、そうなれば…と考えているうちに、いくつも懸念事項が思い浮かんで。それだけ、です」
縛人「……穏やかじゃないね」
魔法使い「…おとうさん、おかあさん・・・」ギュ
弓射手「どうしたの、魔法使い」
魔法使い「……大丈夫、だよね…?」
縛人「…」
弓射手「………」
縛人(…勇者の素質。それは戦闘スキルや頭脳もあるけれど、なによりも必要とされ、選考の基準とされるのは…)
弓射手(………天性の、カンの良さ。未来を選び取るだけの、予知にも近い“予感能力”・・・・・・)
縛人(経験や場の慣れによって、状況を見極める訓練に慣れた騎士団長などがこれまで勇者になってきた)
弓射手(でも、今回のこの勇者はそうじゃないのは明らか。どう見ても、戦闘や訓練によってそういうのを覚えたわけじゃない)
縛人(これまでの勇者は魔王の元へたどり着くことはなかった…それは、彼らが“真正”の勇者ではないのが明らかだったからだ)
弓射手(経験や戦術で未来を読むものは、小手先に騙される。それは安易に裏切る可能性を秘めている。だからこそ、“遠い本物の未来”を選び取れる勇者を待っていたはず…)
弓射手(………その“本物”が、ここにきて感じた嫌悪・・・)
縛人(……進むべき道を間違っているのは)
弓射手(手に取るべき相手を間違ったのは)
((――本当に、自分たちではないと、言いきれるだろうか?――))
魔法使い「……お・・・」
勇者「魔法使い」ポン
魔法使い「!」ビクッ
勇者「………怖がらせて、悪かったな」
魔法使い「勇者さま…?」
勇者「………せっかくついてきてくれるっていうのに、ビビらせたから。その…スマン」
魔法使い「……ううんっ!!」ブンブン
魔法使い「大丈夫です! 私…勇者様といれるなら、怖くないです!」ニコ
勇者「そうか」ニコ
魔法使い「…っ」カァ
弓射手「……」
縛人「……」
勇者「―――――行こう」
勇者「旅の終わりへ。――魔王城へ、行こう」
短いけど今日はここまで
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