【ガルパン】オレンジペコ「極楽も地獄も先は有明の月の心に懸かる雲なし」 (31)

審判『フラッグ車走行不能!聖グロリアーナ女学院の勝利です!』

何度もやった大洗と聖グロリアーナのエキシビションマッチ、しかし大洗はいまだに勝利することができずにいた。

みほ「みなさん、お疲れさまでした。」

梓「お疲れさまでした!」

大洗の隊長、西住みほが副隊長の澤梓と共に試合後の挨拶をすると、聖グロリアーナの隊長であるダージリンと副隊長のオレンジペコが挨拶を返す。

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ダージリン「あらみほさん、澤さん、ごきげんよう。」

オレンジペコ「本日はありがとうございました。」

ダージリン「いい試合だったわ。副隊長が違うとやはり戦い方も変わるわね。」

みほ「そうですね、負けちゃいましたけど、動きは良かったかなと思いました。」

ダージリン「そうね、以前はみほさんと武部さんが頑張って連携を取っていたみたいだけど、もう1人指示を出せる澤さんが入ったことで大分楽になったんじゃないかしら?」

みほ「はい、細かいフォローや作戦の提案をしてくれて、本当に助かりました。」

梓「あ、ありがとうございます!」

みほ「オレンジペコさんも副隊長、お疲れさまでした。マチルダの車長もして大変だったんじゃないですか?」

オレンジペコ「はい、普段の練習とはまた違って……凄く疲れました。」

ダージリン「このくらいでヘトヘトになっていては隊長は務まらなくてよ、オレンジペコ。」

みほ「でも、凄かったですよ!市街地戦でⅢ突とポルシェティーガーを足止めされてしまったときはどうしようかと思いました。」

梓「すみません、私がちゃんと指揮できていれば突破できたのに……。」

オレンジペコ「私もあの場面は詰めが甘かったです。澤さんたちのM3を倒せていればあそこまで追い詰められることはなかったのに……。」

ダージリン「2人ともまだまだ練習し足りないようね。それなら次は隊長をやってみたらどうかしら?1年生の隊長同士で練習試合をするの。」

オレンジペコ「えぇ!?いきなりすぎませんか?」

みほ「流石に難しいんじゃないですか?もう少し段階を踏んでからでも……。」

ダージリン「そんなことは言っていられないわ。私がここにいられるのも今年まで、それまでにこの子に私の全てを叩き込まなくてはならないのだから。」

みほ「確かに実戦形式の練習なら経験は積めると思いますが……。」

ダージリン「あなたも来年は3年生、そして新入生も入ってくるでしょう?余力のある今のうちにその子を育てたいのではなくて?」

みほ「うーん、そうですね……。その方がいいかもしれません。」

梓「えぇ!?大丈夫かなぁ……。」

ダージリン「こんな格言を知ってる?為せば成る、為さねば成らぬ成る業を、成らぬと捨つる人のはかなき。やればできることをやらずに諦めてしまう人は取るに足らない、という意味よ。」

オレンジペコ「武田信玄ですね。私もやってみたいです。ダージリン様がやればできるとおっしゃってくれていますので。」

梓「……わかりました。そこまで言われたら私も覚悟を決めます!」

ダージリン「決まりね。1ヶ月後、今度は神奈川でやりましょう。」

こうして梓とオレンジペコ、1年生隊長同士の戦いが決まった。

1ヶ月後、神奈川県某所で大洗と聖グロリアーナの合同練習と称したエキシビションマッチが行われた。
梓は最前線で戦いながら指示しているのに対し、オレンジペコは後方で指示に徹しており、どこか余裕があるように見える。
各車輌レベルで練度の差もあったが、何よりもオレンジペコが梓の作戦を読み切ったことで、結果として聖グロリアーナが勝利した。

梓はこの結果よりも過程に落ち込んだ。途中途中で実質的に隊長がみほに代わっていたのも気づいていたし、そうなっても仕方ないと思うほど上手く指示ができていなかったと反省した。
試合が終わった後、当然周りからのフォローもあったが、それすらも辛く感じたほどだ。
後日、大洗にティーセットが届くことになるが、梓はこれも自分に対してのものではない、社交辞令かあえて誰にと言うならば西住隊長にだろうと判断した。

その次の日、オレンジペコから梓に封筒が届く。
中に入っていた手紙には「隊長同士で当日できなかった感想戦を行いたい。」といったことが書かれており、招待状が同封されていた。
梓は当初行くつもりがなかったが、同じ戦車に乗る仲間やみほの勧めもあり、聖グロリアーナの学園艦に赴くことにしたのだった。

オレンジペコ「ごきげんよう、澤さん。今日は来ていただいてありがとうございます。」

梓「こんにちは、この前は挨拶もそこそこに帰ってしまってごめんなさい。」

オレンジペコ「いえ、気持ちはわかりますから……。さぁどうぞ、座ってください。紅茶を用意しますね。」

梓「あ、はい。お構い無く……。」

オレンジペコが紅茶を淹れると程なくして感想戦が始まった。
見事だ。梓はそう言うほかなかった。
当然紅茶のことではない。オレンジペコの指示はどれも的確に梓の作戦を潰すものだったのだ。
あそこをああすればとかそういうレベルでなく、まるで心を見透かされているような、そんな感覚を梓は味わった。

梓「やっぱりオレンジペコさんは凄いな……。やっぱり私に隊長なんて早かったかも。」

オレンジペコ「そんなことありませんよ。実力は私と変わらないくらいだと思います。戦車道を始めて1年足らずでここまでできる人なんてなかなかいませんよ。」

梓「そんなお世辞を言われても、むなしくなるだけですよ。あのティーセットだって、気を使って送ってくれたんですよね?」

オレンジペコ「そんなわけないじゃないですか!我が校の伝統をそんなふうに使いませんよ。」

梓「じゃあ西住隊長にですか?」

オレンジペコ「……この1ヶ月間、私がなにを考えていたかわかりますか?」

梓「え?やっぱり戦術のこととか、地形のこととか?」

オレンジペコ「ちょっと待っててくださいね。」

そう言ってオレンジペコが席を立つ。
しばらく待っていると、彼女はなにやら小包のようなものを持って戻ってきた。

オレンジペコ「これをどうぞ、澤さん。」

梓「これは……ティーセット?」

オレンジペコ「はい、もう勘違いしないようにこの場であなたに贈ります。」

梓「それって……。」

オレンジペコ「さっきの答え合わせですが、ハズレです。……あなたのことですよ。ずっとあなたのことを考えていました。あなたならどういう作戦を立てるか、どう反応するか、夢に出てくるほど考えました。」

オレンジペコは向き直り、梓の前で宣言する。

オレンジペコ「澤さん、いえ、梓さん、あなたが私のライバルです。西住さんや他の誰かではなく、あなたです。」

梓「そうだったんだ……。なんだか、嬉しい。それだけ私のことを評価してくれてたってことですよね。なのに私……。」

オレンジペコ「あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ち上がることに関心があるのだ。」

梓「え?」

オレンジペコ「エイブラハム・リンカーンの言葉です。次は自分たちのことだけじゃなく、私のことも見てくれますよね?」

梓「……うん!ありがとう!私、オレンジペコさんのライバルとして恥ずかしくない隊長になります!彼を知り己を知れば百戦殆からずってね!」

オレンジペコ「ふふ、孫子ですね。大変なこともあるでしょうけど、お互いに頑張りましょうね!」

ダージリン「敵に塩を贈ったのね、オレンジペコ。」

梓と別れた後、1人部屋に残ったオレンジペコにダージリンが話しかける。
その言葉にオレンジペコは振り返らずに応じた。

オレンジペコ「さながら私は上杉謙信ですね。」

ダージリン「あら、では今は川中島の戦いをしているのかしら?」

オレンジペコ「戦いかどうかはわからないですけど、そうであったら嬉しいです。」

オレンジペコは梓がいるであろう、水平線のその先をずっと見ていた。

以上です。

澤ペコはエリみほのような愛憎入り混ざった関係でもなく、たかひなのような甘い関係でもなく、助け合えるライバルという関係が合っているように思い書きました。
みほとダージリンの関係を深くしたものって言うのかな……まぁそんな感じです。

本編としてはこれで終わりですが、おまけとしてみほとダージリンのその後のやり取りを書きました。
良かったら読んでください。

~その後~

梓が聖グロリアーナから戻ってきて数日後、みほのケータイに着信が入る。
画面には「ダージリン」の文字、みほは何事かと思い電話に出る。

みほ「もしもし、ダージリンさん?」

ダージリン「ごきげんよう、みほさん。その後どうしているかと思って連絡したのだけれど。」

みほ「その後?あぁ、澤さんのことですか?」

ダージリン「ええ、オレンジペコなんて張り切ってしまってね。澤さんに感謝しなくてはいけないわね。」

みほ「こちらも同じですよ。澤さんも毎日頑張って勉強しています。ダージリンさんの作戦通りですね。」

ダージリン「流石はみほさん、お見通しね。」

みほ「ダージリンさんのやることですので、何かあるだろうって思っただけですよ。」

ダージリン「成長にはね、競いあう仲間が必要なの。利用するようで気は引けるけれど、オレンジペコの相手には彼女が適任ですから。」

みほ「澤さんも成長してますから、心配しないでくださいね。私はダージリンさんに敵いませんでしたけど、澤さんはそうはいきませんよ。」

ダージリン「あら、私たちから続く伝統にしようかと思っていましたのに、残念ですわ。」

みほ「それはちょっと勘弁してほしいです……。」

ダージリン「まぁ冗談は置いておいて、話が聞けて良かったわ。では、今後ともよろしく。」

みほ「はい、また。」

みほが通話を終えるとベッドに横になり思考を巡らす。
明日は何を教えよう。何を聞いてくるだろう。みほはその日、そればかりを考えて眠りにつくのだった。

以上です。

みほとダージリンを同格にしたかったのですが、なりませんでした。
私の中のダージリンは思ったよりも掴み所のない強キャラだったようです。

次回は唐突に思いついたネタを書き上げて投稿したいのですが、思ったより長くなりそうでどうしようか迷ってます。
では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

乙ありです!
ちょっと今回あっさりさせすぎちゃった感があるから次書くことがあれば甘めのにしたいなぁ

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