放火魔「今夜はベッドで燃え上がろうぜぇぇぇ!!!」嫁「……暑苦しい」 (93)

< 公園 >

男(この公園で、その放火魔はいつもたき火をしてるという……)

男(あ、あれか!)



放火魔「…………」メラメラ… パチパチ…



男(あれが裏社会で“放火魔”と恐れられてる男なのか?)

男(なんてことない普通そうな兄ちゃんじゃないか……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1524484067

子供「お兄さーん!」

放火魔「おう、なんだ?」

子供「お芋ちょうだい!」

放火魔「はいよ」サッ

子供「わーいっ、ありがとーっ!」



男(子供に焼き芋なんか振る舞ってるし……とても放火をするような人間には見えない)

男(まぁいいや、情報屋に言われた通りに話しかけてみよう)

男「……焼けてますか?」

放火魔「ああ、焼けてるよ! 一つ、どうだい?」

男「いただきます」ハフハフ…

男「うん、よく焼けてますね!」

放火魔「…………」

放火魔「……で、何を焼いて欲しいんだ?」ギロッ

男「!」

男(目つきが変わった! ――“放火魔”の目になった!)

男「焼いて欲しいのは……産業スパイに盗まれた重要書類です」

男「ライバル社のビルに忍び込んで、書類を燃やして下さい」

放火魔「ってことは、泥棒みたいな真似をしなきゃならねえのか」

男「無理ですか?」

放火魔「いいや、できるぜ。多少料金に上乗せするがな」

放火魔「しかし、なぜ燃やすんだ? 取り返すんじゃダメなのか?」

男「控えはありますし、相手に“警告”を与えたいんです」

男「書類を処分すると同時に、『こちらはこういう手段を持っている』という警告をね」

男「そうなると、あなたに依頼するのが一番という結論に至りまして……」

放火魔「なるほど……そういうことか。分かった、燃やしてやるぜェ! 燃えてきたぜェ!」メラメラ…

男(おおっ、目の中に炎が灯った!)

その夜――

< ライバル社 >

放火魔(ここがライバル社だな……)

放火魔(愛用のマッチでピッキングしてっと……)カリカリ…

カチッ

放火魔(よし開いた!)

放火魔(声は出せねえが、心の中で叫ぶぜ! いざ侵入ゥ!!!)コソコソ…

放火魔(こいつが重要書類だな。盗んだばかりで管理がおざなりでラッキーだ)

放火魔(さぁって、燃やすぜェ!)シュボッ…



メラメラ…



放火魔(これでよし、と)

放火魔(焼けた書類はわざと残して……さ、帰るとするか!)

放火魔(愛する嫁さんのもとに!)

< 放火魔の家 >

放火魔「ただいまァ!!!」

嫁「お帰りなさい」

嫁「お風呂とご飯、どっちにする?」

放火魔「風呂だァァァ!!!」

嫁「うるさい……もっと小さな声で喋ってよ」

放火魔「そりゃ無理ってもんだ! 仕事が終わったばかりで燃え上がってるからなァ!」

嫁「……もう」

放火魔「さぁって」ザブッ

放火魔「!?」

放火魔「なんだこりゃあ!? ――つめたっ! ほとんど水じゃねェか!」

嫁「ごめんなさい、さっきまで私が入ってたから」

放火魔「んもう……俺はグツグツに煮えたぎってる風呂が好きなのに……!」

嫁「すぐ沸かすわ」

放火魔「沸くまで時間かかるよな……仕方ねえ、先にメシにするかァ!!!」

放火魔「炊きたてのご飯ッ! 熱々の味噌汁ッ! 野菜炒めッ! よく焼けたステーキッ!」

嫁「私は冷えたご飯、冷めた味噌汁、冷しゃぶサラダを食べるわ」

放火魔「いただきます!!!」

嫁「いただきます」

モグモグ… パクパク…

放火魔「うんまァい!!!」

嫁「おいしいわ」

放火魔「寝るかァ!!!」

嫁「おやすみなさい」

放火魔「……なぁ」

嫁「なに?」

放火魔「今日はひと仕事終えて、俺の体は燃え上がってるんだ!」

放火魔「今夜はベッドで燃え上がろうぜぇぇぇ!!!」

嫁「……暑苦しい」

嫁「悪いけど、一人で燃え上がってて」

放火魔「ちぇっ、お前を燃え上がらせるのは、俺でもなかなかできねえや!」

数日後――

< 公園 >

放火魔「!」

黒服「よう」ザッ…

放火魔「あんたか。数ヶ月ぶりだな」

黒服「ちょいと頼みが――」

放火魔「おっと、一応いつものをやってくれ。ルールなんでな」

黒服「ったく急いでんのに……分かったよ! 焼けてるか?」

放火魔「ああ、焼けてるよ! 一つ、どうだい?」

黒服「いただきます」ハフハフ…

黒服「うん、よく焼けてやがる! こりゃうめえ! 甘くてうめえ!」

放火魔「……で、何を燃やして欲しいんだ?」

黒服「ちょっと待って。落ち着いてこれを食べさせて」ハフハフ…

放火魔「急いでるんじゃないのかよ」

黒服「ある山小屋を燃やして欲しい」

放火魔「山小屋?」

黒服「ああ……うちの組織のバカが、“クスリ”をしこたま貯め込んでたのが分かってな」

放火魔「クスリ? ヤクか。あんたンとこの組織は――」

黒服「ああ、あんなもん、ご法度だ」

黒服「そいつにはきっちり“落とし前”をつけさせたんだが、その山小屋はまだ健在でよ」

黒服「サツも動き出してやがる」

黒服「もしうちの組織の奴が、ヤクを扱ってたなんて分かったら」

黒服「俺たちの組織の誇りは地に落ちることになる……!」

放火魔「だから全部燃やしてくれってことだな?」

黒服「そうだ。悪党にゃ悪党なりのプライドってもんがあるんでな」

放火魔「分かった、アンタの組織にゃ世話になったこともある。引き受けてやるよ」

黒服「ありがてえ……!」

放火魔(山小屋への放火は、山火事になる危険がある。あいつの協力が必要だな)

< 山小屋 >

放火魔「さぁって、派手に燃やすぜェ!」

放火魔「灯油まいて!」ジャボッ

放火魔「愛用マッチで……燃え上がれェ!!!」シュボッ



ゴォォォォォッ!!!



ボォォォォォ……!

メラメラメラメラ… パチパチパチパチ…

放火魔「……よし、ほとんど燃え尽きたな。警察が来てもなんにも分かりゃしねえ」

放火魔「後始末は任せたぜェ!!!」

嫁「分かったわ」

嫁「私特製の消火剤で……」スッ



ザバァァァァァッ……

シュゥゥゥゥゥゥ…

プスプスプスプスプス…



放火魔「これでよし! いつもながら鮮やかな消火だぜェ!」

嫁「山火事になる可能性はゼロ、よ」

放火魔「さっすが俺の嫁!」

嫁「…………」

放火魔「……なぁ」

嫁「なに?」

放火魔「久しぶりの共同作業だし、今夜はベッドで燃え――」

嫁「……暑苦しい」

……

……

刑事「くそっ! ――燃やされてしまったか!」

刑事「貯め込んでいたであろう薬物が、跡形もなく燃え尽きてしまった……」

刑事「まさか、こんなに早く手を打つとは……」

消防士「しかし……見事な腕ですね。この小屋を燃やした犯人は」

消防士「この乾いた天候の中、一切延焼させることなく、この山小屋だけを正確に燃やしている」

消防士「よほど炎に精通した者の仕業のようですねえ……」

刑事「感心してる場合か!」

消防士「これは失礼」

消防士「いずれにせよ、犯人が只者ではないことは間違いありません」

消防士「この犯人……もしや、今巷を騒がしている連続放火殺人となにか関連があるのでは?」

刑事「うむ……」

消防士「我々としては、刑事さんのご活躍を期待していますよ」

消防士「このところ、我々の出動回数が多すぎて困っているのですよ。このままでは過労死です」

刑事「……分かっている!」

刑事「…………」

< 公園 >

黒服「焼けてるか?」

放火魔「……あんたか」

放火魔「またなにか依頼か?」

黒服「いんや、今日はこないだの礼に来ただけさ」

黒服「あんたのおかげで、うちの組織の看板は汚れずに済んだ……ありがとう」

放火魔「俺は自分の仕事をしただけのことだ」

黒服「とりあえず、これ……熱々の焼き鳥だ」ホカホカ…

放火魔「お、ありがてェ! 熱燗も欲しいところだな」

黒服「おっと、俺としたことが忘れちまった」

放火魔「うまいな、これ」ハグハグ…

黒服「だろ? なかなか昔堅気の屋台でよ……」ハグハグ…

黒服「そういや一度、聞きたかったんだが――」

放火魔「なんだ?」

黒服「なぜ、あんたはどこにも所属しない“放火魔”になったんだ?」

黒服「しかも『絶対に人が死ぬ放火はしない』なんて美学まで持って……」

黒服「俺たちの業界じゃ、他人の過去には触れないって暗黙のルールがあるが」

黒服「どうしても気になっちまってね」

放火魔「……俺らしくもねえ、シケた話だ」

黒服「ぜひ聞かせてもらいたいね」

放火魔「俺はな……ガキの頃、俺は親に捨てられたんだ」

黒服「!」

放火魔「それも、ゴミ捨て場によ……」

放火魔「あのままだったら俺はくたばって、ゴミ収集車に回収されてもおかしくなかった――」

~ 回想 ~

少年「うう……寒い、寒い……」ガチガチ

少年(寒くて体が動かない……声もでない……。ぼく、このまま死ぬのかな……)

少年(誰か……助けて……)

浮浪者「お?」

浮浪者「こんなところにガキが捨てられてやがる。ヒャッハッハ、傑作だ!」

少年「おじさん、誰……?」

浮浪者「お前と同じ。世の中から捨てられたモンよ」

少年「捨てられた……」

浮浪者「寒いだろ? よっしゃ、一緒にあったまるか!」

浮浪者「どうせヤケクソに、どこかに火をつけちまおうと思ってたんだ」

ボォォォォ……! 



浮浪者「おおぉ~、よく燃えてやがる。きっと分別されてねえスプレー缶でも入ってたんだな」

少年(ゴミを燃やして……)

浮浪者「どうだボウズ、あったけえだろ!」

少年「うん! あったか~い! 生き返ったみたいだ!」

浮浪者「あったまったら、交番行け! きっとおまわりさんが何とかしてくれる!」

少年「ありがとう……おじさん!」

浮浪者「俺こそシャバにいい思い出ができたってもんよ」

……

…………

放火魔「――ってな具合だ」

黒服「……シケてるなんてとんでもねえ。打ち上げ花火みてえにブッ飛んでるぜ」

放火魔「あの一件で、俺は放火ってやつにすっかり憧れちまってな」

放火魔「将来は、放火で人助けをするような仕事をしたいって思ったんだ」

放火魔「ま、さすがにおおっぴらにやるのは無理だから、こうして裏社会でやらせてもらってるが」

黒服「ハハハ、そりゃそうだ! 『放火でお悩み解決します』なんて看板出したら、即お縄だ!」

黒服「ちなみに、その命の恩人は?」

放火魔「とっくに捕まったよ。今も刑務所にいるんじゃねえかな……」

黒服「じゃ、聞くついでにもう一つ」

放火魔「ん?」

黒服「奥さんとの出会いはどんな感じだったんだ?」ニヤニヤ

放火魔「そんなこと聞くもんじゃねえ。ヤケドしちまうぜ……」

黒服「おっと……おっかねえ。じゃあやめとくか」

放火魔「でも、聞きたいんだろ?」

黒服「ん?」

放火魔「そんなに聞きたいならしょうがねぇ……話してやっかァ!!!」

黒服(話したかったんだな……)

放火魔「あいつとの出会いは、こんな感じだった――」

~ 回想 ~

シュボッ…

放火魔「ふぅぅ……こうして一人、マッチの火を見てると落ち着くぜ……」ユラユラ…

ザバッ!

放火魔「ぶっ!?」

放火魔(いきなり水をぶっかけられて、火が消えた……)ビショビショ…

放火魔「だ、誰だ!?」

女「やったのは私よ」

放火魔「いい度胸してんじゃねえか……なんでこんなことしやがった!?」

女「私、火が嫌いだから」

放火魔「…………!」

放火魔「そ、そうか……火が嫌いなのか」

女「ええ、嫌いなの。熱いのも嫌いだし、赤いのも苦手ね。一番嫌いな季節は夏よ」

放火魔「ふぅ~ん……」

放火魔「あ、あのさ……」

女「なに?」

放火魔「俺、あんたに惚れちまった! 火がついちまったァァァ!!!」

放火魔「よかったら……俺と付き合ってくれねえか!」

女「いいけど」

放火魔「俺は火が大好きだけど、よろしく!」

女「うん」

……

…………

放火魔「――ってな具合さ」

黒服「えええ……!?」

放火魔「あいつにかけられた水で、俺のハートはキャンプファイヤーみてえに燃え上がったのさ!」

放火魔「分かるだろ!?」

放火魔「この燃え上がる気持ち、分かるだろォ!?」

黒服「ああ、分かる分かる」

黒服(わけ分からん……)

黒服(最初の浮浪者に助けられたエピソードのが、まだ理解できたぞ……)

黒服「だけどまあ……燃え上がる炎のようなあんたと、水や氷みたいな奥さん……お似合いだぜ」

放火魔「よせよ、さらに燃えちまう!」

黒服「もしも、火に心ってもんがあったらよ……」

黒服「あんたみたいな熱くまっすぐな奴に使ってもらうのが、一番嬉しいだろうぜ」

放火魔「放火魔がまっすぐってことはねえだろうが、そう願いたいもんだな!」

黒服「さて、そろそろ行かなきゃな。敵対組織との抗争が待ってる」

放火魔「俺はそういうのに加勢はしねェが、燃え上がって行けよ!」

黒服「ああ……あんたと話してよかった。燃えてきたぜ!」

< 放火魔の家 >

嫁「今日のお仕事は?」

放火魔「すまねえ、今日は世間話したぐらいだった。しばらく大きな仕事はなさそうだ」

嫁「気にしないで、私もそうだから。世間話してただけ」

放火魔「お前が世間話? どこの誰と?」

嫁「近所の奥さんたちよ」

嫁「今日はある高級マンションに住み始めた奥さんの愚痴を延々と聞かされてたわ」

放火魔「ご近所付き合いも大変だねえ」

嫁「楽なものよ。冷めた顔して聞いてればいいんだもの」

嫁「あなたはどんな話をしてたの?」

放火魔「ああ……知り合いに、俺とお前の出会いなんかを話したりしたよ」

嫁「え……話したの?」

放火魔「ダメだったか?」

嫁「別に……」プイッ

放火魔(お? ちょいと顔を赤らめたか? 珍しい……)

嫁「今晩、あなたの夕ご飯、十分冷ましておくから」

放火魔(ちょっと怒ってる! これも珍しい!)

……

……

刑事「またしても、やられたか……!」

消防士「木造アパートが全焼……住民もみな逃げ遅れたようですね。残念なことです」

消防士「警察署も消防署も葬儀屋も忙しくなりますねえ」

刑事「おのれ……放火犯め! これ以上好き勝手されてたまるか!」

消防士「ところで私、こんな噂を聞いたことがあるのです」

消防士「裏社会には、頼まれればどんなものでも燃やす“放火魔”という仕事人がいると」

刑事「その噂は俺も聞いたことがある……」

消防士「私の読みでは、この連続放火事件、その人間が絡んでいます」

刑事「……裏社会の人間、か」

刑事(探ってみる価値はありそうだな……)

今回はここまでです
よろしくお願いします

さて、別の日――

< 公園 >

子供「お兄さーん!」

放火魔「ん? いつものボウズじゃねえか」

放火魔「焼き芋か? すまねえ、さっき焼き始めたばかりでまだ焼けてねえんだ」

子供「ううん……実は今日は、頼みがあるんだ」

放火魔「なんだ?」

子供「ええと、実は……」

子供「これ!」ピラッ

放火魔「75点のテスト……これがどうした? もしかして、あぶり出しにでもなってるのか?」

子供「ううん、違うの!」

子供「お願い! これを燃やして!」

放火魔「へ? なんで?」

子供「だってこんな点数じゃ、お母さんに叱られるから……」

放火魔「なにいってんだ。七割正解してるんだから、上等だろ」

子供「ううん、最低でも90点以上じゃなきゃダメなんだ。もっと勉強しろって叱られちゃう」

子供「だから……燃やして! なかったことにしちゃって!」

放火魔「……まぁ、いいけどよ」

放火魔「ボウズ……燃やす前に一つだけ聞いておく」

子供「?」

放火魔「このテストはふざけて受けたのか? 真面目に受けなかったのか?」

子供「そんなことないよ! 一生懸命やったよ! ちゃんと解いたよ!」

放火魔「だろ?」

放火魔「だったら、燃やさない方がいい」

子供「……どうして?」

放火魔「だって、目標より悪い点数だったとしても、お前は本気でやったんだろ?」

子供「……うん」

放火魔「だったら胸を張って、その結果を受け入れないと次につながらない」

放火魔「たとえ、この答案を燃やして証拠隠滅したって、またテストはあるんだからさ」

放火魔「本気で頑張ったその証を燃やしたら、絶対後悔する!」

放火魔「『自分は悪い点をなかったことにした』って負い目が下手すりゃ一生残る!」

放火魔「いいか、忘れるな!」

放火魔「鼻ほじりながら取った100点より、一生懸命やった70点のが……俺はすごいと思う!」

子供「75点ね」

放火魔「こ、細かいな!」

子供「だけど……ありがとう」

子供「ぼく、叱られてもいい! このテストはきちんと持ち帰るよ!」

放火魔「おう、その意気だ!」

放火魔「なぁに、叱られたって気にすんな! 母ちゃんの期待のあらわれなんだから!」

放火魔「どんなに叱られてもそれを乗り越えれば……」

放火魔「次は絶対もっといい点取ってやるって気持ちになる!」

子供「うん! ありがとう、お兄さん!」

子供「じゃあねー!」

放火魔「またな!」

放火魔(今時の子供も大変だな……)

黒服「クックック……」

放火魔「うおっ!? またお前か! タイミングがよすぎる……さてはさっきからいただろ!」

黒服「まぁな。一対一の会話に割り込むほど、野暮じゃねえつもりだ」

黒服「あのガキも、今日テストを燃やさなかったことで、より強く成長できるだろうさ」

黒服「今のあんたは……なかなかかっこよかったぜ」

放火魔「……うるせえ」

黒服「いやいや、お世辞じゃなく、今のあんたはあんたが理想とした“放火魔”になれてる気がするぜ」

黒服「親に捨てられたあんたを助けた時の浮浪者のようにな」

放火魔「ふん、そりゃどうも……」

黒服「……だが、世の中にはあんたと真逆の放火魔ってのもいるもんさ」

放火魔「!」

黒服「今、巷で連続放火事件が起こってるのを知ってるか?」

放火魔「ああ、知ってる。こないだもアパートが全焼したとか」

黒服「そうだ。しかも死人も出まくってる。やってる奴は只者じゃねえ」

黒服「念のため聞いとくが、あれの犯人ってあんたか?」

放火魔「おい……」ギロッ

放火魔「俺が人死にの関わらない放火しかしないって知ってるだろ」

黒服「すまなかった、冗談だ冗談」

黒服「とはいえ、俺みたいな親しい人間じゃなきゃ、あんたの本質は分からねえ」

黒服「噂だけ聞いたんじゃ、あんたを殺し屋の類だと思う奴も多いだろ」

放火魔「何がいいたいんだ?」

黒服「今ある刑事が、あんたの周辺を嗅ぎまわってる」

放火魔「! 刑事が……」

黒服「おそらくあんたを犯人だと思ってるんだろう」

黒服「警察が、検挙率アップのためなら、どんなことでもしてくるってのは俺もよぉく知ってる」

黒服「あんたが冤罪逮捕を喰らうのは見たくねえ……だから、気をつけてくれ」

黒服「俺にできることはこれぐらいしかねえからよ」クルッ

放火魔「おう! ありがとよ!」

放火魔「…………」

< 放火魔の家 >

放火魔「……ってわけだ」

放火魔「もしかしたら、この家にも刑事がやってくるかもしれない」

放火魔「くれぐれも用心してくれ」

嫁「うん、分かった」

放火魔「んじゃ、今夜は燃え上が――」

嫁「お断り」

テレビ『……続いてのニュースです』

テレビ『本日、またもや放火事件が発生しました』

テレビ『防火設備の整ってない老人ホームが狙われ、死傷者はお年寄りや職員など、十数名……』

テレビ『警察では同一犯の仕業と見て捜査を……』



放火魔「噂をすれば、だな」

嫁「あなた……」

放火魔「心配すんな……俺はやっちゃいねえんだからよ」

放火魔「だが、俺の裏社会での通り名は“放火魔”……れっきとした犯罪者だ」

放火魔「“連続放火事件”と“放火魔”……刑事が俺を第一容疑者にするのも無理はねえ」

放火魔「だが、やってもねえことで捕まる気はねえ!!!」

数日後――

< 公園 >

放火魔「…………」

パチパチ… メラメラ…

刑事「今時たき火とは珍しいな」

放火魔「なんだ?」

刑事「私はこういう者だ。貴様と話がしたい」サッ

放火魔「!」

放火魔(警察手帳……いよいよ来たか……。一人で来るってのはちょいと意外だが)

刑事「用というのは他でもない」

放火魔「それより焼き芋でも食わないか? ちょうどよく焼けてきたとこだ」

刑事「食わん」

放火魔「だろうな……で、俺になんの用だ?」

刑事「貴様に……依頼したいことがある!」

放火魔「!?」

放火魔「俺に……依頼?」

刑事「そうだ」

刑事「貴様に連続放火犯を退治してもらいたい!」

放火魔「!!!」

放火魔「どういうことだ。俺を逮捕しに来たんじゃないのか」

刑事「貴様のことは調べた……」

刑事「裏社会で“放火魔”と恐れられる凄腕だが」

刑事「人を死なせるような放火は絶対しない、ということはよく分かったつもりだ」

刑事「そして今、実際に貴様を見て、同じ印象を抱いた」

刑事「貴様は、人を死なせるようなことをする人間ではない、と」

放火魔「そりゃ光栄だな。でも、なんだって俺に放火犯退治をさせる?」

放火魔「そんなことは警察の仕事だろうが」

刑事「俺たちの力では……ヤツを逮捕することはできん!」

刑事「だが、貴様なら……貴様なら、ヤツの犯行を未然に防ぎ、捕まえることができる」

刑事「……そう考えたんだ」

刑事「それが……ここ数日間悩んで得た結論だ」

放火魔「毒をもって毒を……ならぬ、火をもって火を……ってやつかい」

放火魔「……仕事なら依頼料をもらうぜ」

刑事「それはできん。刑事として、犯罪者に金を払うことなどできん」

刑事「なにより……俺に貴様への仕事料を払う経済力はない」

放火魔「おいおい、俺をナメてるのか?」

刑事「だが、代わりの見返りを用意した」

放火魔「見返り?」

刑事「今後、俺は……貴様に干渉することはしない!」

刑事「たとえ、貴様の放火の証拠をつかんでも……逮捕しない! 絶対に!」

放火魔「……ほう」

放火魔「人を死なせてないだけで、俺だってれっきとした犯罪者なのに、見逃すってことか」

放火魔「あんたは刑事失格だな」

刑事「……そうだ。俺は刑事失格だ」

放火魔「ふっ、ハハハハハッ! アハハハハハッ! おもしれえ!!!」

刑事「!」

放火魔「あんた、気に入ったぜェ! 燃えてきた! 燃え上がってきたァ!」

放火魔「刑事さん……あんたの心意気に免じて“俺を見逃す”って話は聞かなかったことにしてやろう」

刑事「なんだと?」

放火魔「俺も“放火魔”として、ヤロウは許せなかったからなァ!」

放火魔「この仕事は見返しなし! タダで引き受けてやる!」

放火魔「こんなに燃える仕事は……久しぶりだァ!!!」メラメラ…

刑事「…………!」

刑事(この男……犯罪者ではあるのだが、やはり普通の犯罪者とは違う)

刑事(何らかの信念を持って、裏社会に身を置いているという顔だ……)

刑事(この男ならあるいは――……!)

< 放火魔の家 >

放火魔「これが刑事さんから借りた、捜査資料だ」バサッ

嫁「こんなの外に出しちゃって、大丈夫なの?」

放火魔「もちろん大丈夫じゃねえ。クビ覚悟だってよ。だからこそ、報いてやりてぇ」

嫁「……そうね」

放火魔「この地図には、連続放火犯の今までの犯行現場が記してある。手口の詳細もな」

嫁「……見事に防火設備が整ってない場所が狙われてるわ。それも人の多い」

放火魔「ああ、古いアパートだったり、商店だったり……」

放火魔「しかも、逃げ場をなくすように放火してやがる……まったく鬼畜の所業だ」

放火魔「俺は炎で商売してる人間として、こいつを許せねえ! 次の犯行は絶対食い止めてみせる!」

嫁「近辺の、防火設備の整ってない施設をリストアップするしかないわね」

放火魔「さっそく地図に印をつけていこう!」

放火魔「……こんなとこか」

放火魔「あとは、この中のどこを狙うかを推理できれば……」

嫁「だけど、このぐらいのことは警察もやってるはずよ。こんなことで捕まえられるとは思えない」

放火魔「うーん……だろうな」

放火魔「当然、そういう場所は警察も警戒を強めてる。そうそう放火できるわけがねえ」

嫁「犯人が狙うなら、もっと穴場のはず」

放火魔「穴場……」

放火魔「穴場といっても、どこを……?」

嫁「……高級マンション」

放火魔「ん?」

嫁「この間、近所の奥さんから聞いた愚痴に気になる内容があったの」

嫁「見た目は立派だけど、スクリンプラーが誤作動したり、防火扉の前に荷物が置かれてたりで」

嫁「防火設備はお粗末だって……。これが写真」

放火魔「こんな要塞みたいな立派なマンションがねぇ……」

放火魔「だけど、もしここが狙われたら、今までにない大惨事になるな」

嫁「ええ、死者は軽く数十人は出るわ」

放火魔「ようし……ここにヤマを張るか!」

嫁「刑事さんには?」

放火魔「内緒だ。こういうことはお互い別々にやった方がいい」

嫁「そうね」

放火魔「決まりだな! よっしゃ、燃えてきたァ!!!」

嫁「今だけは、暑苦しいとはいわないわ」

次の日――

< 街中 >

ワイワイ… ガヤガヤ…

刑事「A地点、そっちはどうだ?」

『異常ありません!』

刑事「B地点、不審人物の情報は?」

『異常なしです!』

刑事「今までの法則からして、今日あたり放火が行われることは間違いないんだ!」

刑事「絶対食い止めろッ!」

……

…………

?「クックック、バカな警察どもは今頃、古い住宅地や施設をマークしていることだろう」

?「だが逆だよ、逆」

?「今日はこの真新しい高級マンションを……派手に火葬してやるとしよう……」

?「このライターで……」シュボッ…





「ちょっと待ったァ!!!」

グサササッ!

?「ちっ、ライターにマッチが刺さって……!」

?「……何者です?」





放火魔「俺か? 俺は……“放火魔”だよ!」

?「…………!」

?「ほう……もしかして、先日山小屋を延焼させずに燃やしたのはあなたですか?」

放火魔「! ……なんで、あの事件を知ってるんだ?」

?「私もあの事件の検証には立ち会いましたからね」

?「いやぁ、実に見事な手際でした。ぜひ一度あなたにはお会いしたかったんです」

放火魔「そのわりに、刑事っぽくねえな……さてはお前、消防士か?」

消防士「正解です!」

消防士「私、消防士にして放火魔でもあるんですよ! アッハッハ、面白いでしょう?」

放火魔「消防士が放火とか……笑えねえよ。まったくの正反対じゃねえか」

消防士「そうでしょうか?」

消防士「優秀な医者は凶悪な殺人鬼になりえる、優秀なプログラマーは狡猾なハッカーになりえる」

消防士「同じように優秀な消防士は……世にも恐ろしい放火魔になりえるのですよ」

放火魔「…………」

消防士「あの愚直な刑事を焚きつけて、あなたを逮捕させ、罪をかぶってもらうよう仕向けたのですが」

消防士「それは失敗に終わったようですね……」

放火魔「あの刑事さんは、お前が思うほどバカじゃなかったってことだ」

消防士「そのようです。彼もまた優秀だったということでしょう」

消防士「しかし、これは困りましたね……」

消防士「そうだ! あなたも同じく放火を生業とする身、ここは見逃して下さいませんか?」

消防士「いえ、いっそ手を組んで、二人で新しい放火を――」

放火魔「ふざけんなッ!」

放火魔「俺は人が死ぬような放火はやらねえ……そう決めてんだよ」

放火魔「どっちかが燃え尽きるしかねえんだ……今、ここでな」

消防士「なるほど、仕方ありませんね……」

消防士「私とあなたは、炎を交えるしかなさそうです!!!」

ブンッ!

ギュオオオオオッ!

放火魔(火炎瓶ッ!)

放火魔「ふん、こんなもんにビビってたら、放火魔は務まらねえ!」パシッ

消防士(ほう、あっさりキャッチとは!)

放火魔「今度はこっちからいくぜっ! マッチ投げ!」シュバババッ

グサササッ!

消防士「ぐあっ……!」

放火魔「これくらいも避けられねえのか。消防士のわりに運動神経は鈍いんだな」

消防士「ぐっ、さすがですね……」

消防士「ならば……私も本気でいくとしましょう」バサァッ

放火魔(一瞬にして、消防服に着替えやがった!)

消防士「これが私の……最終兵器です」ニィィ… ガチャッ

放火魔「!?」

放火魔(な、なんだありゃ……。あんなのアリかよ……!)

放火魔(火炎放射器じゃねえかッ!!!)

消防士「ファイヤーッ!!!」





ゴォワァァァァァッ!!!

放火魔「マジかよ……! どうやってそんなもん……!」

消防士「闇ルートで入手したんですが、まさか使うことになるとは思いませんでした」

消防士「どうです? すごいでしょう? この火力!」

ゴォワァァァァァッ!!!

消防士「ご存じかもしれませんが、火炎放射器による炎は、単なる炎ではありません」

消防士「いわば、炎を宿した液体をぶちまけるようなもの! 浴びれば一巻の終わり!」

消防士「いくら放火を極めたあなたでも、どうしようもないでしょう!」

ゴワァッ!!!

放火魔「……ちっ!」

放火魔「そんなもん振り回してたら、すぐ誰かが飛んでくるぞ!」

消防士「ご心配なく! このマンションの防音設備は完璧で、一度入ればこのくらいの音は漏れません!」

消防士「音が漏れる時、イコール、このマンションが燃え尽きた時、というわけです!」

消防士「その時には、あなたも丸焦げになってるというわけですねぇ!」

ゴワッ!!!

放火魔「あっぶね……」

消防士「まだまだァ!」

ゴワァァッ!!!

放火魔「くっ……!」

消防士「トドメですッ!」





ゴォワァァァァァァァァッ!!!

ジュワァァァァァ…

消防士「火炎が……消えた!?」

放火魔「……助かったぜ! ナイス消火!」

消防士「何者だ!?」バッ

嫁「放火魔の嫁よ」

嫁「夫が放火魔なら、私はいわば消火魔。私特製の消火剤に、消せない火はないの」

消防士「なんだとォ……!? 消火魔……?」

放火魔「自慢の嫁だよ」

消防士「貴様、放火魔でありながら、消火を得意とする女なんかと結婚したのか!」

消防士「失望させてくれる! この放火界の……恥さらしがァ!!!」

放火魔「放火界ってなんだよ……」

消防士「優秀な放火魔である貴様に敬意を表して、死体ぐらいは残してやろうと思ったが、やめだ!」

消防士「こうなれば……バカな嫁ともども焼き尽くしてやる! ――骨までな!」

消防士「最大火力……ファイヤーッ!!!」カチッ



グオアァァァァァッ!!!



放火魔「危ねえッ!」バッ

ドザッ!

嫁「ありがと、あなた」

放火魔「あの火力は……さすがにお前でも消しきれねえな」

嫁「……そんなことない」

放火魔「強がるなって。今はかわすことだけ考えろ!」

消防士「燃え尽きろォッ!!!」



グオアァァァァァッ!!!



放火魔「こっちだ!」バッ

嫁「うん」バッ



消防士「ふん! 避けるだけか! 逃げるだけかァ! 腰抜け夫婦がァ!」



放火魔「こりゃあ、正面からまともに戦うのは無理だ……!」

嫁「……どうする?」

放火魔「大丈夫、俺たち夫婦が力を合わせりゃ、どんな炎だって突破できる!」

放火魔「ましてや、あんなゲス野郎の炎になんか負けるわけねえ!」

放火魔「いくぞ!」ダッ

嫁「ええ」ダッ

消防士「バカめ、わざわざ燃やされに来るとは……ファイヤーッ!!!」



グォアァァァァァッ!!!



放火魔「大盛りマッチ投げ!」シュバババババッ

消防士「マヌケが! んなもん、こっちに届く前に燃え尽きちまうよォ!」ゴォッ

消防士「――――!?」

ボボボッ

消防士(いや!? 何本かのマッチが、燃え尽きずに炎を突き破ってきた――!)

消防士「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」

グササッ!

消防士「ぐああっ……! あああっ……!」



放火魔「作戦成功!」

嫁「この人のマッチに……私の消火剤をミックスさせたのよ」

放火魔「マッチを大量に投げりゃ、何本かは届いてくれると信じてたぜ!」

放火魔「その腕じゃ、もう火炎放射器は使えねえ……観念しやがれ!」ブオンッ

バキィッ!

消防士「ぐほあぁっ!」ドザッ…

消防士「あぐ、ぐぐぅ……!」

放火魔「さてここで、お前に俺の考える“炎を扱う資格”ってやつを教えてやろう」

放火魔「俺が考える炎を扱う資格は三つ」

放火魔「一つは火を愛してること、二つ目は火を恐れてること……」

放火魔「そして、三つ目は……火はちゃんと後始末すること」

放火魔「お前はどれも満たしてねえ……」

放火魔「ただ放火と人命を奪うことを楽しんでるだけの、正真正銘のクズだ」

放火魔「お前には、マッチの火すら扱う資格がねえッ!」

消防士「ぐうっ……!」

消防士(クソが……せいぜい勝ち誇って、脳みそまで燃え上がってやがれ!)

消防士(こっちには最後の切り札が残ってるんだ!)

消防士(あと一歩、あと一歩近づいてきたら……この小型の火炎放射器で――)

放火魔「……残念だったな」

消防士「!?」

放火魔「近づかねえよ」

消防士「な、なんで……!? なんでこっちの狙いが……!?」

放火魔「いつも燃えてる俺だが、たまには冷える時もあるんだよ」

消防士「冷える時……!?」

放火魔「それはな――」

放火魔「俺の嫁をバカにされた時だ」ヒュバババッ


グサササッ!


消防士「ぎぃやぁぁぁっ!!!」

放火魔「人の嫁を“バカ”呼ばわりしやがって……おかげですっかり冷静になっちまった」

消防士「あぐぅぅぅ……痛い……あうぅぅぅ……!」

放火魔「今度こそ終わりだな……あとは残り火を始末して、刑事さん呼べば――」

嫁「ちょっと待って」

放火魔「ん?」

嫁「私……この人を許せない」

嫁「あなたを焼き殺そうとした、この人を……絶対許せないわ」メラメラ…

放火魔「!?」

放火魔(ま、まずい……俺に冷える時があるのと同様、妻にも“燃える時”があるんだった!)

嫁「この人、許せない、許せない、許せない」

嫁「許せない、許せない、許せない、許さない。絶対、許さない」

嫁「逮捕して裁判にかけるなんて生ぬるいわ。税金の無駄遣いよ」

嫁「私、この人の命を消火しちゃいたい。していいわよね? しちゃいましょう」

消防士「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」

放火魔「ちょっ、待て待て待てっ!!!」

放火魔「あまり燃えるな……」ギュッ…

嫁「!」

放火魔「燃えるのは俺の役目、だろ。お前はいつも冷えててくれ……」

嫁「あなた……」

放火魔「だって、俺はこうして元気なんだから、な?」

嫁「……うん」



消防士「あう、あう、あうぅ……」ガタガタ…

消防士「なんなんだ、この夫婦はぁ……」

< 公園 >

ウー… ウー…

刑事「まさか……消防士が犯人だったとは……」

放火魔「…………」

刑事「少し屈折したところがあったとはいえ、優秀な消防士だと思っていたから……残念だ」

刑事「そして……放火を未然に防いでくれてありがとう」

刑事「俺がお偉いさんだったら、貴様に警視総監賞をくれてやりたいよ」

放火魔「ハッハッハ、んなもん辞退するよ! のこのこ受け取りに行ったら逮捕されちまう!」

刑事「ふふっ、この手には乗らんか」

刑事「いずれまた……。刑事と犯罪者は引かれ合う宿命だからな」

放火魔「やめてくれ! もう二度とあんたのような優秀な刑事とは関わりたくねえ!」

刑事「俺も同じ気持ちだよ」

黒服「……お疲れさん」ザッ

放火魔「あんたがなぜここに?」

黒服「例の放火犯を退治したって聞いて飛んできたんだよ。さすがだな」

放火魔「俺一人の力じゃない……嫁の消火があってのことだ」

黒服「へっ、あんたらは……砂漠よりも暑くて南極よりも寒い世界一の夫婦だよ!」

黒服「また燃やしたいものができたら、頼むぜ!」

放火魔「おう! その時はちゃーんと手順踏んでくれよ!」

子供「お兄さーん!」タタタッ

放火魔「ん?」

子供「ぼく、やったよ! 100点取ったよ!」ピラッ

放火魔「やったじゃねえか!」

子供「あのテストを捨てなかったから、次のテストこそ頑張るぞってなって取れたんだ!」

子供「これもお兄さんのおかげだよ!」

放火魔「よせやい」

放火魔「これからも勉強頑張って、世の中に明るい火をともしてくれよ!」

子供「うん!」

< 放火魔の家 >

放火魔(放火犯を退治できたし、今日は最高の一日だった……)

放火魔(今夜はあいつとベッドで燃え上がりたいけど……)チラッ

放火魔(いっても断られるだけだろうな……やめとくか)

嫁「ねえ、今夜はベッドの上で燃え上がらない?」

放火魔「えっ、いいの!?」

放火魔「お前から言い出すなんて、珍しいこともあるもんだ! 雪でも降るかな?」

嫁「たまには……ね。私も火がついちゃったから」

放火魔「そうかそうか! じゃあ気が変わらないうちに! すぐ支度しまぁっす!」

……

…………

嫁「ねえ、もっと……もっとお願い」モゾ…

放火魔「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」

放火魔「もう疲れちゃって……。休もう、少し……」

嫁「まだまだ……寝かさないんだから」

放火魔(俺としたことが忘れてた……!)

放火魔(一度燃え上がった俺の嫁を冷やすのは、並大抵の大変さじゃないってことを……!)

放火魔(今晩、俺は燃え尽きちまうかも……)







― おわり ―

以上で完結となります
どうもありがとうございました!

※気づいたので一ヶ所訂正させて頂きます
>>54『×スクリンプラー → ○スプリンクラー』です
大変失礼いたしました…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom