池袋晶葉「逆火の倣」 (13)
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~晶葉のラボ~
池袋晶葉「そう、つまりSF作家アイザック・アシモフが著書の中で提唱したロボット三原則とは現代でも通用する優れた理念なのだ」
晶葉「いや、違うな。優れた理念だったからこそ現代の人間が現実のロボット工学に取り入れた、と言った方が正確だな」
鷺沢文香「なるほど・・・フィクションと言えども突き詰めていけば現実味を帯びる、ということなのでしょうか?」
晶葉「うむ、アシモフの先見性の高さは目を見張るものがあるな」
晶葉「サイエンス・フィクションという分野は創造性が重要だが、それに任せすぎると荒唐無稽にもなりかねない」
晶葉「そういう意味では、小説ではないが士郎正宗の攻殻機動隊などの作品群は極めて・・・」
文香「あの、待ってください」
文香「もしかすると、『突き詰める』という言葉の認識に齟齬があるかもしれません」
晶葉「ん?私は物語を作る上で必要となる土台、すなわち科学的考証あるいは歴史的・政治的な背景の考証、という意味合いで捉えたのだが」
文香「私は、その・・・著者がどうしても伝えたかった言葉や思想・・・そういったモノを物語として昇華する」
文香「・・・という意味合いで捉えています」
晶葉「なるほど、そういうことか。ならばアシモフの創作に対する姿勢から見直さなければならないな」
文香「はい、著者がなぜそれを作るに至ったのか?という点も含めると、読書はもっと趣深いものになるのではないかと」
ダッダッダッダッ
晶葉「ふむ、思い返してみればその点を追及した経験は少ないな」
ダッダッダッダッ!
晶葉「今度から・・・ん?なんの音だ?」
文香(・・・この足音は・・・)
バンッッッ!!!
日野茜「おはようございます!!晶葉さん!!!!」
晶葉「ああ、おはよう。珍しいお客さんだな」キーン
文香「おはようございます、茜さん」キーン
晶葉(凄まじい勢いで扉が開いたな・・・後で蝶番の調子を確認しておくか)
文香(ラボの扉は防音や耐衝撃のためにかなり重いのですが・・・意に介していませんね)
茜「文香さんもおはようございます!!!」
茜「突然なんですが、私に直し方を教えて欲しいんです!!」
晶葉「・・・?」
文香「・・・?」
晶葉「何をなお・・・」
茜「不器用なので上手く出来るかわかりませんが是非!!!」
晶葉「いやだから何を・・・」
文香「茜さん、まずはお茶を一杯どうぞ。落ち着いてから、お話しましょう」
茜「ありがとうございます!!いただきます!!!」
茜「・・・ッ!!」グビッ!グビッ!
茜「ぷはぁーっ!落ち着きました!!」
晶葉(ダメだ全然落ち着いたように見えない。まともな説明は期待できるのかコレ?)
文香「では、何があったのか、何を直したいのかを教えていただけますか?
茜「はい!昨日、学校のラグビー部に顔を出して来たんです!」
茜「そしたら丁度タックルの練習中でして!」
茜「全力でぶつかりに行く熱い光景を目の前にすると私もいてもたってもいられなくなってしまい!」
茜「思わず私も皆さんに混じって全力でトライしてしまいました!!!」
文香「え・・・なおす、ということは・・・もしかして、部員の方に怪我をさせてしまったのですか?」
晶葉「さすがに怪我人の治療は専門外だぞ?サイボーグ化を希望しているのならまだしも・・・」
茜「いいえ!そうではなくてですね!」
茜「タックルを受け止めるトレーニング器具を壊してしまったんです!!」
茜「晶葉さんは工作が得意と聞いていたので修理のアドバイスを頂こうと思って来ました!!」
文香「そういうことでしたか・・・失礼しました」
晶葉「そのトレーニング器具というのは・・・察するに、サンドバッグやミットを固定しておく台のようなものか?」
茜「はい!まさにそれです!!」
晶葉(・・・ん?その手の器具は相当な強度で作られているはずだが・・・)
晶葉(ラボの扉、本格的に点検するべきかもしれんな・・・)
晶葉「ふむ、直し方を教えるのはやぶさかではないが、まず現物がどんなものなのかがわからないとな」
晶葉「どんな形なのか、絵に描いて具体的に教えてくれないか?」
茜「ありがとうございます!えっと、ここがこうなってて、こんな感じです!」
茜「それで、ここが折れてしまったんです!」
晶葉「なるほど、となると・・・ここに補強を入れたいな・・・材料はあの廃材が使えそうだな」
茜「なんとかなりそうでしょうか!?」
晶葉「ああ、この程度なら問題ない。いくつかの部品を作って交換すればすぐだ」
晶葉「ただ部品を作るにあたって正確な寸法を知りたい。こことこの部分の長さを測りたいところだな」
茜「わかりました!!今から行ってきます!!走って行ってきます!!」
晶葉「今からか!?」
茜「はい!私のせいでラグビー部の練習が滞っているんです!立ち止まってなんていられません!!」
茜「うぅぅ~~!!ボンバーーーー!!!!」
バンッッッ!!!
ダッダッダッダッ!
晶葉「あ、そうだ!大雑把な長さではダメだぞ!ミリ単位で頼む!!」
ワカリマシター!
文香「車に気を付けてくださいね!」
ハーイ!
文香「もうあんな遠くに・・・」
晶葉「フフッ、まるで嵐だな。彼女は核融合炉でも搭載しているんだろうか」
文香「ええ、本当に元気ですね」
晶葉「ところで、文香はなんだか茜の扱いに慣れているように感じたが」
晶葉「お茶を勧めて落ち着かせたり、順序よく話を聞き出したりな」
文香「いえ、慣れている・・・というわけでは・・・」
文香「茜さんは、説明が下手なのではなくて、前へ前へという意識が強すぎて、言葉足らずになってしまいがち・・・」
文香「ただ、それだけなのだと思います」
文香「素直な方ですので、こちらから聞いてあげれば、論理的に話すこともできる」
晶葉「ほほう、彼女のことをよく見ているんだな」
文香「はい、私とは正反対な熱い生き方は・・・正直、憧れてしまうこともあるので」
文香「それに今回の出来事も、とても茜さんらしいと思います」
晶葉「フフッ、確かにトレーニング器具を壊してしまうほどに全身全霊で打ち込むのは、実に彼女らしいな」
文香「その点も・・・茜さんらしいのですが・・・」
文香「私は『直し方を教えて欲しい』という言葉のほうが、茜さんらしいと感じました」
晶葉「ふむ、どういうことかな?」
文香「茜さんは、自分で不器用だと言ったように、自身に壊したものを直す技術がないことは自覚しているのでしょう」
文香「でも、だからといって・・・決して」
文香「『直してください』とは、言わないのです」
文香「『直し方を教えて欲しい』という言葉の根底には」
文香「あくまで成し遂げるのは自分である。出来ないことは出来るようになれば良い」
文香「そんな極めて前向きな姿勢があるのではないかと、私は感じました」
晶葉「なるほどな、さすがは文香だ。そんな何気ない一言から人間性を見抜くとは」
文香「いえ、そんな大袈裟なことでは・・・」
晶葉「彼女の底無しのポジティブさは、見習うべきかもしれないな」
晶葉「そうだな、たまには茜の真似でもしてみるか?」
文香「茜さんの真似・・・ですか?」
晶葉「うむ」
文香「・・・」
晶葉「・・・」
文香「・・・!!」グッ!
文香「ぼ、ぼんばぁ!!」
文香「えっと・・・こんな感じでしょうか・・・?」
晶葉「・・・」
文香「・・・」
晶葉「その・・・文香・・・?」
晶葉「茜の真似というのはだな、たまには自主的にランニングやトレーニングに励もう」
晶葉「という意味だったのだが・・・」
文香「・・・」
文香「///」ボンッ!
晶葉「はっはっはっ!ここで運動しようという結論に至らないあたりは実に文香らしいな」
文香「か、顔から火が出そうです・・・////////」プシュー
晶葉「いやもう火を通り越して爆発しそうだぞ!!?」
文香「うぅぅ~~~///」
文香「ぼんばぁぁーー!!!」ダッシュ!
晶葉「ははっ!早速走り込みか!」
晶葉「よし!私も付き合うとしよう!」
晶葉「トラーーーーイ!!!」ダッシュ!
おわり
以上。
筆者は根暗のひねくれものなので茜ちんの生き方には憧れるものがありますね。
でもなりたいのは文香です、はい。
ともあれ、池袋晶葉はやぶさかではない可愛い、日野茜は素直ヒート可愛い、鷺沢文香は茜ちんを語りたい可愛い。
それだけ伝われば十分だ。
過去作宣伝
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