千歌「GANTZ?」穂乃果「もうひとつの物語」 (93)

ラブライブ!×GANTZパロです。

前作
千歌「カタストロフィ…か」
ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497714031/

までの設定を引き継いでいます。
原作は未読でも楽しめますが、過去作品を読んでいた方がより楽しめる内容となっております。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1523371368

「―――ナノマシンが開発されたのは今から数百年前のことだ」


「これはウイルスに似た働きがあり、これが体内に入った生物は数週間かけて全ての細胞が入れ替わる」


「見た目はそのままだが、皮膚は頑丈になり、筋力も飛躍的に上昇する。手の一部を変形させて銃器や日本刀を生成することも出来る」


「主食は人間の血液とする所から、我々は吸血鬼(ヴァンパイア)のモデルとなったと推察されている」


「……俺たちには敵がいる。十字架でも銀製の弾丸でもなければ神父でもない」


「この写真を見てくれ。この黒い機械の服を着た連中が敵だ」


「人間でないことに誇りを持て」

「人間を捕食し、唯一の天敵である奴らを根絶やしにする―――!!」






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~音ノ木坂学院 一学年教室~



こころ「千歌ちゃん千歌ちゃん! 今日は一緒に帰りましょう!」

千歌「あれ、練習はいいの?」

こころ「残念ながら今日はお休みの日でして……がっかりです」

千歌「入部してから初めての休みだよね。大変じゃない?」

こころ「まさか!」

こころ「お姉さま達μ’sや雪穂さんと亜里沙さんが所属していた、憧れのアイドル研究部に入部したんです! 大変だと感じたことは一度もありません!!」

千歌「そ、そっか」

こころ「μ’sとA-RISEが火付け役となったスクールアイドルの規模は今や凄まじいのです! 最近はスクールアイドルを題材としたアニメも作成されているんです!!」

千歌「あー、知ってる知ってる。街の看板とか駅のホームとかラッピング電車とかやってるあれでしょ? えっと……確か、アク……アク……アクオスだっけ??」

こころ「Aqoure(アクア)です!! 8人組のユニットで、アニメキャラだけでなく中の声優さんが実際にライブパフォーマンスをしたりしている大人気グループなんですよ!!」

千歌「へ、へぇ……そうだったんだ」

こころ「今度Aqoureのライブブルーレイが発売されるから、買ったら一緒に見ましょう!」

千歌「う、うん……そうだね」タジタジ




こころ「―――それで、千歌ちゃんは結局部活には入らなかったんですね」

千歌「うん」

こころ「勿体無い……運動神経抜群だから、運動部に入れば絶対に活躍できるはずなのにできるはずなのに」

千歌「放課後は色々と忙しいからさ。毎日練習に参加できないんだよね」

こころ「もしかして、中学生の頃からずっと海未さん達とやってるあれ?」

千歌「そうだよ」

こころ「まだ続けていたんだね……前に見かけたことあるけど、そっちの方が大変なんじゃないの?」

千歌「んー、別に大変じゃないと思うな」

こころ「ちなみに……どんな練習メニューなの?」

千歌「昨日はランニング30kmの後に腕立て腹筋を30セット、後は竹刀の素振りを……」

こころ「も、もういいよ。千歌ちゃんが何を目指しているのか全く分からない……」

千歌「?」



こころ「あ、そう言えばさ」

千歌「ん?」

こころ「最近、都内で若い女性の行方不明事件が増えているって知ってる?」

千歌「そうなの? ニュースでやってたかな……」

こころ「お姉さまから聞いたんですよ」

千歌「にこさんが?」

こころ「お姉さまが聞いた噂によれば、同じ頃から増えた黒いスーツを着たホスト風の男性が怪しいらしいけど……実際どうなんだろうね」

千歌「ホスト風ねぇ……」

こころ「千歌ちゃんも一応気を付けてね」

千歌「うん、分かったよ」



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~高坂家 居間~



千歌「ただいまー」

穂乃果「お、千歌ちゃんお帰りなさい♪」

海未「お帰りなさい」

千歌「海未さん、いらしていたのですね」

海未「お邪魔しています」ペコリ


穂乃果「お菓子あるから着替えてきな~」

千歌「はーい」









千歌「海未さんはどうしてここに?」

海未「穂乃果の様子を見に来たんですよ。ちゃーんとトレーニングをしているか確認する為にね」ジトッ

穂乃果「あ、あははは……まさか抜き打ちで来るとは思わなくってさ。最近はサボり気味だったから海未ちゃんに怒られちゃった」

千歌「最近お店が忙しかったですもんね」

海未「それだっていうのに、今回も剣の勝負で私と互角でやり合うんですよ? 流石に悔しいです……」

穂乃果「ふふ~ん、これが才能の差だよ。天才でごめんねぇ♪」

海未「……ほぅ」ピキピキ



青筋を立て、目の下をピクピクと震わせる海未
心なしか、襖や窓ガラスがカタカタと揺れ始めているように感じる。

穂乃果の顔色が一瞬で真っ青になった。



穂乃果「じょ、冗談だよ……そんなに気を荒立てないで、ね?」ダラダラ

海未「全く……せめて筋トレくらいは欠かさずやって下さいね?」

穂乃果「ほーい」パクパク



軽く聞き流す穂乃果。
テーブルの上のおせんべいをボリボリと食べる。



千歌「それじゃ説得力が無いんじゃ……」

海未「はぁ…」




千歌「―――あ、今日こころちゃんから聞いた話なんですけど」

穂乃果「こころちゃんから?」

千歌「最近、都内で行方不明者が増えているって話です」



千歌が話を切り出すと、穏やかだった穂乃果と海未の雰囲気が一変
重苦しいものとなった。



穂乃果「……そっか、千歌ちゃんも聞いたんだね」

海未「丁度私達もその話をしていたところでした」

千歌「何か知っているんですか?」

穂乃果「まあね」



穂乃果「恐らく、その集団は吸血鬼だよ」

千歌「吸血鬼!? ……星人ってことですか?」

穂乃果「多分……正直私にもよく分からないんだ。人から聞いただけだしさ」

海未「彼らは私達のようにガンツスーツを所持している人間を皆殺しにするのが目的のようです。ミッション外で襲われることが過去に発生しています」

千歌「敵対グループなんですね……ミッション以外でも襲われる危険があるなんて」

穂乃果「東京にいた吸血鬼は先代のガンツチームが壊滅まで追い込んだって話だったけれど……まだ生き残りがいたってことだね」

千歌「でも…どうして吸血鬼だって分かるんですか? 本当はただのホストなのかもしれないじゃないですか」

穂乃果「まあそうなんだけど、この情報をくれた人がねぇ……」

千歌「ん? どういう事です?」

海未「その人、恐ろしいほどに勘が当たる方なのですよ。あれはもう未来予知に近いものがありますね」

千歌「な、なるほど。占い師か何かですか?」

海未「いえ、その人の職業は執事ですよ」

千歌「執事??」


穂乃果「とにかく、物騒なのは違いないから、千歌ちゃんも街を歩くときは気を付けるんだよ。知らない人について行ったりしちゃダメなんだからね!」



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~同刻 上野 カフェテラス~



真姫「――それで、最近の調子はどうなの? あ、そこの微分方程式の解が違う」


凛「……」カキカキ


花陽「どうって言われても……毎日変わらない生活だよ? 凛ちゃん、そこは一旦式を展開しなきゃダメ」


凛「………」カキカキ


真姫「私が言うのもあれだけど……花陽は彼氏とかは作らないわけ?」

凛「かよちんに彼氏!? そんなの凛が許さ―――」ガタッ!!

真姫「うるさい。あんたはさっさと問題を解く」

凛「………」ストンッ

花陽「彼氏かぁ……確かに、大学生活ももうすぐ終わりだっていうのに色恋沙汰が全くないっていうのも悲しいもんねぇ」ウーン

凛「かよちんには凛がいるから! そんなの必要な―――」

花陽「あ、また間違えてる。ここはこの公式を使って計算するってさっき教えたよね?」

凛「……にゃぁ」シュン

真姫「そんな調子で大丈夫なの? 試験日近いんでしょ?」

凛「これ以外にも単位が危ない必修科目が三つほどあるにゃ……」

花陽「このままだと凛ちゃんまた留年しちゃうよ? だから頑張ろう!」

真姫「凛がこの大学に入学できたのが本当に不思議よね」




花陽「それで何の話をしていたっけ?」

真姫「彼氏よ。どうなの?」

花陽「正直興味ないかな。声を掛けられる機会はそこそこあったけれど……海未ちゃん達との事もあるし、それどころじゃないからね」

花陽「それに、私には凛ちゃんがいるから♪」ナデナデ

凛「か、かよちん///」テレッ

真姫「……質問した私がバカだったわ」ハァ

凛「そーゆー真姫ちゃんはどうなのさ?」

真姫「愚問ね。この真姫ちゃんよ? 入学当初から大人気だったわよ」

凛「ヘー、ソウダッタンダ」ジトッ

真姫「な、何よ……」

凛「別にー」

花陽「全部お断りしてるの?」

凛「『オコトワリシマス!』ってww」

真姫「ふッ!!!」ゴチンッ

凛「」ズキンッズキンッ


真姫「そうよ。まあ、跡継ぎの件とかがあるから両親には色々と言われるけどね」

花陽「結局、真姫ちゃんはお医者さんになるの?」

真姫「……どうなのかしらね、正直分からないわ。医大に進もうと決心したのも、あの部屋での戦いで役に立つ術を身につけられるかもって理由だし」

花陽「他にやりたい事があるんだね」

真姫「……ええ」





凛「―――にゃ?」ガタッ

真姫「……っ」ギロ

花陽「凛ちゃん、真姫ちゃん? いきなり立ち上がってどうしたの?」



立ち上がった二人は険しい表情で辺りを見渡す。
その表情で事態を察した花陽はカバンの中に手を突っ込み、Xガンの引き金に指をかける。



凛「……」キョロキョロ

真姫「誰かに見られていた」

凛「うん……一瞬だったけど嫌な感じがしたにゃ」

花陽「まさか……星人?」

真姫「多分違う。こんな人通りの多い所で現れるとは考えにくいし」

凛「でもここ数日、誰かに見られている感覚は頻繁にあったよ」

真姫「何か嫌な予感がするわね……」



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~数日後 夜 上野~



高海美渡は出張で静岡から東京の街に来ていた。
数日間の出張も今日で終わり、明日の電車で帰る予定だ。

折角東京に訪れたのだ、最後の夜くらいは羽目を外そうと思い、お洒落なバーを訪れた美渡だったが……



バーテンダー「お客様……流石に飲みすぎでは?」

美渡「うるしゃいわね! じぇんじぇん平気よぉ!!」

バーテンダー「は、はぁ……左様ですか」

美渡「おかわりよ! さっきのカクテルをお願い」

バーテンダー「“みかんカクテル”でよろしいですか?」

美渡「そうよ!」



バーテンダー「―――どうぞ」コトッ



美渡は出されたカクテルを一気に半分以上飲み干す。
アルコール度数はそれ程高くはないが、もう何杯飲んだのか自身も覚えていない。



バーテンダー「来店してからずっと同じカクテルをお飲みですね。みかんがお好きなんですか?」

美渡「……別に、私はそこまで好きじゃない」

バーテンダー「?」

美渡「妹が……好きだったのよ。みかん」

バーテンダー「妹さんが好きなのですか。おいくつ何ですか?」

美渡「そうだな……丁度二十歳になる頃かな」

バーテンダー「随分と他人事のように言いますが……妹さんなんですよね?」

美渡「もう何年も会ってないんだよ……ある日突然居なくなりやがったんだ、アイツ」

バーテンダー「!」

美渡「様子が変なのは気が付いていたんだ……何か重大な秘密を抱えている、そんな感じだったんだよ」

美渡「こっちからさりげなく聞いてみても『何でもない』の一点張りでさぁ……だから深く追及しなかったんだ」

美渡「その結果がこれだよ……クソッ…」ポロポロ

バーテンダー「……」

美渡「バカ千歌ぁ……なんで居なくなったんだよぉ……なんで……なんで……うぅ」

美渡「……ひぐっ、うぅ、うあああああああああああああ」






~~~~~~~~~~~~~



美渡「……すぅ、すぅ」

バーテンダー「……眠ったか。いいぞ、入れ」



スタッフルームかぞろぞろと出てきたのは黒いスーツを着た数人の男。
眠っている美渡を二人がかりで抱え上げる。



「いっそ、この場で解体してもいいんじゃねぇか?」

バーテンダー「止めてくれ。ここに妙な痕跡を残したくない」

「へいへい」

「アジトのクラブまで連れて行けばいいのか?」

「いや、あっちでも解体しているから、いつもの路地裏でいいだろう」

美渡「う、うぅ……」

「おい、慎重に運べよ。起きたら面倒だ」

「はいよ」




~~~~~~~~~~~~~


美渡(う、気持ち悪い……流石に飲み過ぎた)

美渡(あれ、ここは? さっきまでバーで飲んでたよな……なんで外にいるんだ?)


「お目覚めか」


美渡「あ? お前達なんだよ!? 腕放せよ!!」

???「威勢がいいねぇ。お前みたいな女は嫌いじゃねぇ」



美渡に近寄る一人の男。
最初は暗くてよく見えなかったが、非常口の光が当たる所まで来ると、その服は真っ赤な血に染められた服と日本刀が握られていたのだ。



美渡「ひ、ひぃぃ!!?」

「斎藤さん……もう一人解体しちゃったんですか?」

斎藤「まあな。のこのことここに迷い込んだ哀れな人間がいたもんでね」

美渡「ひ、人……首が………!!!?」

斎藤「お前さんも運が悪いな。あの店を選んだ自分を恨むことだ」



背後から麻袋を被せられる。
いきなり視界が真っ暗になったこと、首無しの死体を目撃したこととで大パニックに陥った美渡は声すら出ない。



美渡(嘘……嘘嘘嘘嘘ウソウソウソ!!!? 何、死ぬ? 殺される、殺されるの!?)

斎藤「大丈夫大丈夫。痛いのは一瞬だ」

美渡「いや、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああああああああ!!!!!」



必死に抵抗するもビクともしない。
腕と頭を固定され、脱出は不可能だった。



美渡(助けて……誰か―――)

斎藤「そーらよっと」ブン

斎藤は美渡の首へ日本刀を振り下ろし―――



――バキッ!!!!



斎藤「ごはあぁ!!?」

「斎藤さんがいきなり吹き飛んだ!?」

「バカ!! コンタクトつけろ!!!」



――ドゴ!! バキッ!!!



「ぐふぁ!!?」

「こいつ! 意外と強いぞ!?」


美渡(何……何が起きているの?)



麻袋を被せられた美渡は状況を全く把握できない。
拘束が解除され、その場に倒れ込んでいた美渡
そんな彼女は突如、何者かに抱きかかえられた。



美渡(ちょ、へ? 何何何!!?)



「―――美渡姉!!! 跳ぶよ!!!!」キュイィィィン!!

美渡「……えっ」



次の瞬間、美渡の意識はここで途絶えた。




――

――――

――――――



~数分前~



千歌「あ、もしもし穂乃果さ―――」

『コラァ!!! バカチカ!!! 今何時だと思ってるのさ!!?』

千歌「あ、あれぇ? 穂乃果さんに掛けたはずなのに、何で雪姉が!?」

雪穂『お姉ちゃんは今お風呂に入ってるの。だから私が出た』

千歌「雪姉……穂乃果さんから何も聞いてない?」

雪穂『何を?』

千歌「今日はクラスの子と遊びに行くから帰りが遅くなるって」

雪穂『……聞いてない。事前に知らせていたの?』

千歌「うん。それも結構前に」

雪穂『あ、ああ、そうなの……いやーゴメンゴメン、いきなり怒鳴ったりして悪かったね』

千歌「い、いえ……怒られても仕方ない時間帯ですし」

雪穂『そ、そうだよ! そんな時間にウロウロしていたら補導されかねないんだから!! 早く帰って来なさい』

千歌「はーい」

雪穂『じゃあ切るね―――』ピッ


千歌(うぅ……耳がキンキンする…。穂乃果さん、ちゃんと伝えて下さいよ)ハァ

千歌(さて、早く帰らないと………ん?)





千歌の目に二人の男に肩を担がれた一人の女性が留まった。
その光景自体が少々異常ではあったが、一番目を惹かれたのはその女性だった。



千歌「あれは…美渡……姉……?」



千歌(何で美渡姉がここに!? ……いや、そんな事はどうでもいい)

千歌(あの男達、黒いスーツ姿だ。顔立ちもホスト風……と言えばホスト風だけど)



こころ『お姉さまが聞いた噂によれば、同じ頃から増えた黒いスーツを着たホスト風の男性が怪しいらしいけど―――』


穂乃果『―――恐らく、その集団は吸血鬼だよ』



千歌(いやいや、それは考えすぎかな? 早く帰らないと雪姉に心配かけちゃうし……)

千歌(………)



千歌は周囲を確認した後、ステルスモードをオンにした。
背景に溶け込み、完全に千歌の姿は視認不可となった。



千歌(一応、美渡姉がホテルに着くまでは見届けよう……雪姉には後で謝ればいいや)








千歌(妙だな……裏路地に入って行ったぞ?)



少し離れた位置から尾行していた千歌。
美渡を連れた男達が裏路地の入口には見張り役と思われる男が二人立っている。



千歌(これはダメだね。早く連れ戻さなきゃ!)



美渡の身の危険を察知した千歌は路地裏に向かおうとするが―――




「おい、ここは立ち入り禁止だ。帰れ」


千歌(んな!?)ビクッ


「はあ? お前、誰に向かって話してるんだよ?」

「っっ!! お前、コンタクトはしてねぇのか!?」

「あ、ああ!!」

千歌(ステルスモードの私が見えているってことは、こいつただの人間じゃない!!)


「ヤバイ、“ハンター”だ!! 今すぐ知らせ―――」


千歌「ふッッ!!!!」



―――バキッ、バキッ!!!



千歌は見張りの男達の顎を素早いパンチで撃ちぬき、意識を奪う。



千歌(美渡姉が危ない!!!!)



猛スピードで路地裏を駆け抜ける。
現場に到着した千歌の目に飛び込んできたのは、麻袋を被せられた女性と
その首を落とそうとする男の姿だった。



千歌「―――美渡姉えええええええええ!!!!!!」



―――バキッ!!!



一気に距離を詰め、渾身の飛び蹴りを顔面にヒットさせる。



斎藤「ごはあぁ!!?」

「斎藤さんがいきなり吹き飛んだ!?」

「バカ!! コンタクトつけろ!!!」



即座に美渡を押さえつけている男達を殴り飛ばし、美渡の体を抱きかかえる。
同時にスーツの力を脚部に集中させた。



「―――美渡姉!!! 跳ぶよ!!!!」キュイィィィン!!

美渡「……えっ」



――ダンッ!!!!!



最大限まで溜めた力を一気に解放して跳び上がった。
向かい合うビルの壁を交互に蹴り飛ばし、屋上まで登る。

屋上まで登りあがった千歌は、美渡に付けられた麻袋を取り外した。



千歌「美渡姉!! しっかりして美渡姉!!!」

美渡「………ぅ」

千歌「気絶しているだけ……か」



斎藤「―――よお、痛てぇじゃねぇか」コキコキ

千歌「ウソ!? もう屋上まで追いついたの!?」

斎藤「まさかハンターに遭遇するとはな……好都合だぜ、全く」ニヤッ

「ええ、全くですよ」

「あーあ、歯が欠けちまったぜ……」


千歌(さっき殴り飛ばした男達がもう追いついてきている……こいつら、やっぱり人間じゃない!!!)

斎藤「予定変更だ、お前ら……この女を捕らえろ!!!」


千歌(このまま戦うと美渡姉が危ない! ここは……逃げる!!!)ダッ!!


斎藤「逃がすな、追え!!!!」



美渡を抱きかかえ逃げる千歌。

屋根から屋根へ、屋上から屋上へ
スーツの脚力を最大限発揮して夜の上野を駆け抜ける。
背後を確認すると、追手はいつの間にか6人から9人、更に増えている。

このままではマズイ。
助けを呼ぶため、千歌は手首に装備しているミッション用の通信機を起動した。



千歌「お願い早く……早く誰か出て……」ピピピッ、ピピピッ








―――ピコン








穂乃果『―――千歌ちゃん、状況を教えて』




千歌「穂乃果さん!! 今、例の吸血鬼に追われています!!」

穂乃果『追われている? ……撃退は出来ないの?』

千歌「襲われていた美渡ね……一般人を抱えてるので厳しいです!! 追手は数を増やしながら―――」



「オラァ!! ハチの巣にしてやる!!!」ズダダダダダ!!!



距離を詰めてきた吸血鬼がサブマシンガンを連射する。
丁度隣のビルへ飛び移っている最中だった千歌は咄嗟に美渡を抱きかかえ、美渡への被弾を防ぐ。



―――ドスドスドスッ!!!!



背中に数発の弾丸を浴びた千歌は着地に失敗し、背中から隣のビルの屋上に叩きつけられた。



千歌「くぅ!!!」

穂乃果『千歌ちゃん!? 大丈夫!!?』

千歌「へ、平気です。奴ら、銃を使ってきました……!」

穂乃果『周りに通行人は?』

千歌「建物の屋上を飛び移りながら逃げています……下に降りて街の人に紛れた方がいいですか?」

穂乃果『いや……奴らなら無差別に乱射しかねない。下手に犠牲者を増やさない為にも、そのまま屋上を使って逃げ続けて』

穂乃果『私も直ぐに向かう。ただ、近くにいたメンバーが向かってるみたい。後はそのメンバーの指示に従って!!』

千歌「了解…!!」




~~~~~~~~~~~~~



~雑居ビル 屋上~



千歌「……はぁ、はぁ、はぁ」ギリッ


斎藤「ったく、逃げ足の速い女だぜ……」

「でも追い詰めましたね。逃げ場もう塞ぎました」

「もうじき、あと数十人到着する予定です」


千歌「ま、まだ増える……の」ゾッ


斎藤「そのまま動くなよ? 動けばその女を撃つ」

千歌「っ!!?」

斎藤「貴様が素直に俺達と一緒に来れば、そいつだけは見逃してやってもいい」

千歌「へぇ……随分と良心的じゃない?」

斎藤「どうする? 三秒以内に答えてもらおうか」



千歌「………いや、必要ないかな」

斎藤「は?」


千歌「別に私は追い詰められてここに来たわけじゃない。ここに来るように指示されただけだよ」ニヤッ



「ぐへっ!?」ブシュ

「ゴッ!!!?」ブシュゥゥゥ

「ブフゥ!!?」ゴトッ



千歌に銃口を向けていた吸血鬼の首が次々と切り落とされる。
斎藤のみが、辛うじて銃身で攻撃を防ぎ、難を逃れた。



斎藤「クソッ!! 増援か!!?」




絵里「は~い、待たせたわね♪」

千歌「全く……遅いですよ!」

絵里「あらら、意外と多いわね。どいつもこいつも銃やら日本刀やら携えているみたいだけど……日本の警察は何をしているのかしら?」

千歌「こいつら吸血鬼は自分の肉体の一部を変形させて武器を生成するらしいです!」

絵里「便利な能力なこと」


斎藤「てめぇ……よくも!!!」

絵里「あなた達だって私の仲間を殺そうとしたじゃない」

絵里「殺そうとするってことは、殺される覚悟があるってことでしょう。違う?」

斎藤「……言ってくれるじゃねぇか」ピキピキ


絵里「千歌、その人を連れてここから逃げなさい。ここの敵は私が何とかする」

千歌「何とかって……今だけでも10人以上はいますよ!?」

絵里「大丈夫よ。こっちに向かっているメンバーがいるの。合流するまでの時間稼ぎくらいは出来るわ」

千歌「ですが……」

絵里「あら? 私のことが信用できないの? 言っておきますけど、千歌ちゃんより私の方がまだ実力は上なんだからね」

千歌「でも……」

絵里「それに、私の得意な状況を知っているでしょ? この場は誰よりも私が適任よ」

千歌「……分かりました。お願いします!!」ダッ



「あの女!! 逃げやがった!!」

「追うぞ!!」



千歌を追いかけようとした吸血鬼達に割って入るようにガンツソードを掲げる。
人差し指をリズミカルに左右に振りながら挑発する絵里。



絵里「ダメダメ。あなた達の相手はこの私よ?」チッチッ

「この人数を相手に一人でやるってか?」

「あんまり俺たちを舐めるなよ」ギロッ

絵里「御託は結構、さっさとかかって来なさい。それとも、私から行った方がいいかしらん?」



絵里の挑発に激怒した一人が凄まじい咆哮をしながら斬りかかる。
それを合図に他の吸血鬼も日本刀や拳銃を片手に襲い掛かってきた。



絵里「ふっっっ!!!!」シュッ!!!



―――ズバッ!!! ズバッ!!!



大振りで斬りかかってきた二人を瞬時に切り伏せる。

刀と刀をぶつけ合わせることは決してしない。
フェイントで攻撃を誘発させ、そこで生じた隙を突いて一撃で落とす。

死角からの銃弾もまるで見えているかのように躱す。



「何なんだよコイツ!!? 後ろに目でも付いてるのか!!?」

「弾が当たらねぇ!!?」ズダダダダダ!!!



μ’sメンバーで穂乃果、海未の実力は頭一つ抜けた存在である。
だが、これは強力な星人との戦闘においての話だ。

敵が人型で且つ一対多数の戦闘になれば、絵里の方が多くの敵を倒せる。


右手にガンツソードを逆手に持ち、左手にはXガンを構える。
混戦状態において近くの敵を切り伏せ、中距離の敵をXガンで撃ちぬくスタイルだ。

海未曰く、『そんな滅茶苦茶な持ち方で戦えるのは意味が分からない。他のメンバーは絶対に真似するべきでは無いです』

視野に映る周囲の敵一人一人の動き全てを注視
そこから注視した対象それぞれの動きを予測する。



―――ギョーン!! ギョーン!! ババンッ!!!!



一体、また一体と倒されていく吸血鬼。
屋上には絵里によって殺された吸血鬼の屍が積み重なる。

20人近くいた彼らも、片手で数えられる程に減っていた。



「ぜぇ……ぜぇ、ぜぇ」

「く、くそっ……化け物がぁ」

絵里「あらら、こっちの増援が来る前に決着がつきそうね」

斎藤「……っ」ギリッ

「情報と違うじゃねぇか……ホノカとウミって女に気を付ければいいんじゃないのかよ!?」

絵里「何ですって?」

斎藤「……お前には関係ない。アヤセ エリ」

絵里「っ!? どうして名前を―――」



―――バンッ!!!!



絵里「ッッッ!!!?」グラッ



こめかみに強い衝撃が走る。
絵里の感知範囲外からの狙撃。
スーツの効果で頭部が弾け飛ぶことは無かったが
当たった場所から少量の血が流れ出る。



幹部A「あ? 対物ライフルの弾丸だぞ……これ防ぐのか」

幹部B「遠くからちまちま撃つより、首元のレンズを壊した方が早いだろ」

幹部C「そんなことより、随分と殺されちゃってるじゃん。ウチら弱くない?」

幹部A「だってあれアヤセだろ? 要注意人物のリストに入って……無いな」

幹部B「ほら言ったじゃねぇか。アヤセもヤバイってよ」

ボス「……斎藤、待たせたな」

斎藤「ぼ、ボス……!!!」


絵里(また増援か……ちょっとヤバイかな?)


ボス「お前は下がってろ。後は俺たちに任せろ」

幹部C「速攻で片付けてやんよ」カチャ

絵里「いいわよ。かかって来なさい」


ボス「―――ふっ!!!!!」ビュン!!!!

絵里「―――ッッ!!!!!」



―――ガキンッ!! ガキンッ!! ガキンッ!!



幹部B「はは!! 結構耐えるじゃねぇか!!!」

ボス「黙って攻撃しろ!!!」

絵里「こ、このっ!!!」

幹部A「隙だらけだぜ」バンッ!!

絵里「くっ!!!!」ドッ




三体の吸血鬼による連携攻撃。
それだけでも厄介極まりないのにも関わらず、その隙間を縫うように弾丸を撃ち込まれる。

絵里のスーツの耐久値はみるみる削られてゆく。



絵里(こいつら、全員が滅茶苦茶な強さじゃない!? 流石に私一人じゃ無理よ!!)

ボス「―――もらった!!!!」ドゴッ!!!

絵里「んな!?」キュウゥゥゥン……



レンズからゲル状の液体が流れ出る。
スーツの機能が停止、パワーアシストも防御力も無くなってしまった。

ただの人となった絵里に畳みかけるように斬りかかる。



幹部C「オラあああ!!!」ズバッ

幹部B「はっ!!!」ドスッ

幹部A「……」バンッ!!!



―――ブシュッウウゥゥゥ!!!



絵里「か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!?」



左肩から肘にかけての筋肉と右肘から下を斬り落とされ
わき腹をライフルの弾丸が抉る。



絵里「ぐっ、痛~~~~~っっっ!!!!!」ズキンッズキンッ



屋上の端まで追い込まれた絵里
余りの激痛に膝から崩れ落ちる。

そんな絵里の首元に吸血鬼のボスは日本刀の刃を当てる。



ボス「……終わりだな」

絵里「お、終わり? まだ……私は死んでない…けど?」

ボス「強がるな。その怪我なら放っておいても死ぬだろうが、楽に殺してやるよ」

絵里「へぇ……意外と優しいのね」

ボス「最期に一つ、質問だ」

絵里「……?」

ボス「貴様の名前は『絢瀬 絵里』で間違いないな?」



絵里「………さぁ? どうかしらね!!!」ダッ

幹部C「はあ!? こいつ飛び降りやがったぞ!?」

ボス「……」



ビルの屋上から真っ逆さまに落下する絵里。
スーツが無力化された今、この高さから落ちれば即死は免れない。

仮に地面に緩衝材があれば話は別だが、この真下にそのような類の物がないのは確認済みだった。だが……



幹部C「ボス…なんか妙じゃないか?」

ボス「ああ……落下したのに全く音がしない」

幹部B「っ!? ボス、下に奴の死体がありません!!」

ボス「……なるほど、仲間が来たってことか」





~~~~~~~~~~~~~



ことり「絵里ちゃん!!! しっかりして絵里ちゃん!!!」

絵里「こ、こと……り……ナイス…キャッチ……ね」

ことり「急いで病院に連れて行くから頑張って!!」

希「えりち……どうして一人で無茶したん!?」

絵里「希……」

希「ミッション外だから怪我は直ぐに治らないんだよ!? それなのに……バカ!!」グスッ

絵里「ごめんなさい……」

にこ「こんなところでうっかり死ぬんじゃないわよ? もし死んだら私がぶっ殺す」

絵里「えー、それは勘弁して欲しいかな……」

にこ「なんなら今すぐ戻って奴らを―――」

絵里「それはダメ。私達じゃあの四人を同時に相手は出来ない……このまま逃げた方がいいわ」

にこ「……ちっ」


絵里「……あっ」

ことり「どうしたの?」



絵里「あの場に私の右腕忘れて来ちゃった……にこ、悪いんだけど取りに行ってもらえる?」

ことり「……」

希「えりち……」ハァ

にこ「……アンタ、頭おかしいんじゃないの?」



~~~~~~~~~~~~~



~早朝 穂むら~



美渡「……う、うぅ~ん……あれ、ここは……」

穂乃果「あ、目が覚めましたか? ここはウチのお店ですよ」

美渡「え? あなたは……?」

穂乃果「お客さん、昨夜は酷く酔っていらっしゃったみたいで……そこの電柱に抱き着きながら寝ていたんですよ?」

美渡「そ、そうなんですか!? ぜ、全然覚えてない……」

穂乃果「お酒には気を付けて下さいよ? 世の中いい人ばかりではないんですから」

美渡「す、すみません」

穂乃果「一人で帰れますか?」

美渡「大丈夫です……ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

穂乃果「気を付けて帰って下さいね」ニコッ

美渡(昨日の記憶が全くない……何か恐ろしいというか懐かしいというか、そんな事があったような……)



――ガラガラ



穂乃果「………」

千歌「ほ、穂乃果さん……?」ソロ~ッ

穂乃果「うん、もう出てきて大丈夫だよ」

千歌「美渡姉は昨日の事は……?」

穂乃果「多分覚えて無いと思う。ショックで短期間の記憶を失っているのかも」

千歌「そうですか」ホッ

穂乃果「このまま記憶が戻らないといいんだけど……」

千歌「美渡姉……」


穂乃果「千歌ちゃん、絵里ちゃんについて連絡は来た?」

千歌「あ、来ました! ことりさんから、ついさっき目を覚ましたって連絡が。他のみんなもいるそうです」

穂乃果「なら今すぐ向かおう。準備して」

千歌「はい!」


~~~~~~~~~~~~~


~病室~



千歌「絵里さん!! 大丈夫ですか!?」ガラガラ


絵里「あ、千歌ちゃん。いらっしゃ~い」ニヘラッ


千歌「あ、あれ……? 重症だって聞いたんですけど…意外と元気??」

凛「それは凛も思った」

花陽「どうなの真姫ちゃん?」

真姫「勿論重症よ。肩の筋肉のほぼ全てがバッサリ斬り落とされている。切断された腕は一応くっつけたけど、間違いなく元通りに動かす事は無理。残念ながら両腕とも使い物にならなくなったわね」

千歌「思いっきり重症じゃないですか……」

絵里「いやー、死ななかっただけラッキーだったわよ」

にこ「能天気なこと……」

ことり「私は滅茶苦茶心配してたのに…」

希「えりちらしいと言えばらしいけど」

絵里「ねぇ穂乃果、この怪我も次のミッションの転送時に治るんでしょうね?」

穂乃果「ど、どうだろう……多分大丈夫なんじゃないかな?」

絵里「た、多分って……不安になるようなこと言わないでよね!?」

花陽「凛ちゃんがミッション外で骨折した時も治ったからきっと……恐らくは……うん、治るといいね?」

絵里「そこは自信をもって言いなさいよ!!!」

穂乃果「あ、あははは……」





海未「ゴホン……さて、本題に移りましょう」

海未「千歌の実の姉を襲った吸血鬼。絵里の話だと彼らは私と穂乃果の名前を知っていたらしいです」

穂乃果「私の名前を?」

絵里「リストがどうとか言っていたから、他のメンバーも名前と顔がバレている可能性が高いわね」

凛「最近、誰かに見られている感覚があったのはそれが原因…?」

真姫「でしょうね」

ことり「じゃあ、私達はいつ襲われてもおかしくないってことなの……?」

花陽「うぅ、ミッション以外でも戦わなくちゃいけないなんて……」

希「安心して暮らすには早めに決着をつけなくちゃアカンってことやね」

海未「絵里がかなり派手にやったので、近い内に報復が来るとみて間違いないでしょう」

絵里「ちょっ……私はどうすればいいのよ!?」

にこ「ここの警備に任せるのは?」

真姫「相手は銃火器を使うんでしょう? そんな相手に対抗できるわけないわ」

にこ「それもそっか……でも、敵がいつ来るか分からないのに私達の誰かが付きっきりで警護するのは厳しいわよ?」

海未「任せてください。夕方から早朝ならば私が傍に居ましょう」

希「ウチも!」

凛「仕方ない、ここはリリホワ組で絵里ちゃんを守ってあげるにゃ」ウンウン

絵里「うぅ……感謝するわ」ボロボロ

ことり「なら、昼間はどうするの?」

穂乃果「その辺は大丈夫。知り合いにお願いしたからさ」

花陽「知り合い?」

穂乃果「そろそろ来ると思うんだけどなぁ……」



―――ガラガラ



「失礼しまーす……あ、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「来てくれましたか!」

にこ「この人は?」

穂乃果「この人は伊波さん。私と海未ちゃんが移籍したガンツチームの先輩だよ」

にこ「ああ、あんた達ちょっと前に引き抜かれてたわね」

伊波「こんにちは♪ みんなの事は穂乃果ちゃんと海未ちゃんから聞いてるよ」

海未「この為にわざわざ遠方から来てくださったのですか!?」

伊波「違う違う。丁度、ご主人様から長期休暇を頂いていてね。特にやる事も無くてフラフラしていたら穂乃果ちゃんから連絡が来たんだよ」

千歌(ご主人様?)

伊波「よろしくね、千歌ちゃん」ニコッ

千歌「は、はい」ペコリ


真姫「それで、この人に任せて本当に大丈夫なの? よく知らない人間に大切な仲間の命を預けるのは賛成しかねるわ」ジトッ

伊波「ご、ごもっともな指摘だね……」

穂乃果「ふっふっふ……心配ないよ。伊波さんの実力は私が保証する!!」

真姫「お、おう…」

海未「そもそも伊波さんが負けるような敵が来たら、ここにいるメンバーじゃ誰も勝てませんし」

伊波「絵里ちゃん、大船に乗ったつもりでいてよ!!」ドンッ

絵里「え、ええ。とても頼もしいです!」

凛(ねえ希ちゃん、この人がいるなら凛達は要らないんじゃ……)ヒソヒソ

希(凛ちゃん、それを言っちゃアカンで)ヒソヒソ


~~~~~~~~~~~~~



~数日後 東京某所~


幹部B「―――先日の戦闘で戦力の一割を失った」

幹部A「一割か……たった一人に少々削られ過ぎたな」

幹部C「まあ、今後の作戦に支障はないっしょ。あれから戦闘員も失った以上に補強できたし」

幹部B「犠牲はあったがこちらもハンターの主力一人を無力化出来た。スーツを失ったハンターを殺すのは容易い」

幹部C「でもよ……本当にこの作戦で行くのかい、ボス?」

ボス「……何か不服でも?」

幹部C「確かにこれなら一夜でハンターを全滅に追い込める。だが、下手をすればこっちも全滅するリスクがあるぜ?」

幹部B「随分と弱気じゃねぇか。ビビってるのか?」

幹部C「そうじゃねぇさ。ただ、時間はかかっても確実に一人ずつ殺せる方法を取るのもアリじゃねぇかって話だ」

ボス「下手に時間をかけて対策を取られる前に一気に終わらせたい。文句あるか?」

幹部C「いーや、文句は無い。確認したかっただけさ」




バタンと扉が勢いよく開く。
するとそこから、斎藤が若い女性の髪の毛をグイグイと引っ張りながら入ってきた。

美渡の時と同様に、街で捕まえた人間を捕獲して来たのだ。
前回のような失敗をしない為に今度はアジトまでしっかりと連れてきた。



斎藤「オラァ!!! 歩けって言ってるんだよ!!!!」グイグイ

「嫌だぁ!!! 引っ張らないで!!!!」

斎藤「たらい用意しろ!! 直ぐに解体するぞ!!!」

幹部C「お、いいねぇ、今日の獲物は若い女か♪」

幹部A「決戦前に鮮度の高い血が飲めるのはいい」

ボス「……」スクッ

幹部B「ボス?」




斎藤「しっかり押さえておけよ」カチャ

吸血鬼「ええ、任せてください」

「嘘……ウソ!? 止めて止めてやめてやめてやめてやめてええええええ!!!!」



日本刀を女性の首の付け根目がけて振り下ろす。



ボス「―――待て」ガシッ

斎藤「ぼ、ボス?」

ボス「俺がやる。お前は下がってろ」

斎藤「そ、そうですか……お願いします」


ボス「女、最期に一つだけ質問がある」

「うっっ……ひっく………へ?」

ボス「君の名前は何だ?」

「な、なま、なま……え……?」

ボス「頼む、教えてくれ」

「……ひぐっ……うぅあぁ………み、みや、みやした、ミヤシタ アイ………」

ボス「ミヤシタ アイ……だな。覚えたぞ」

ボス「………っ」シュッ

「―――きゅっ……」



―――ゴトッ……



部屋中に響き渡っていた叫び声が一瞬で消え、代わりに蛇口から水を勢いよく出すような音が響く。
その音も数秒で収まり、たらいの中には生首と鮮血が並々と溜まっていた。




ボス「……」

幹部A「おぉ……ボスは相変わらず綺麗に首を落としますな。斎藤も見習えよ?」

斎藤「は、はい!」

幹部C「ボス、質問いいですか?」

ボス「何だ?」

幹部C「ずっと気になってたんですが、ボスはどうして殺す前に獲物の名前を聞くんです?」

幹部B「確かに。何か意図でも?」

ボス「……いいや、別に大した意味はねぇさ」




ボス「すぅ……いいかてめぇらぁ!!!!」

一同「「「っっ!!!!」」」

ボス「いよいよ明日はハンターとの決着の日だ!! 今まで奴らに殺されてきた仲間達の無念を晴らす。先代から続いてきた因縁に終止符を打つぞ!!!!」

吸血鬼「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」

吸血鬼「ハンター共を殺せ!!!」

吸血鬼「皆殺しだああああ!!!!」



ボス「………」

斎藤「やってやりましょう、ボス!」

ボス「……ああ、そうだな」



~~~~~~~~~~~~~


~翌日 夕方~



こころ「ね、ねえ千歌ちゃん」

千歌「……」

こころ「千歌ちゃん」

千歌「………」

こころ「千歌ちゃんってば!!!」

千歌「うぉ!? こころちゃん、何?」

こころ「もう! さっきから声かけてるのに無視しないでよね!」

千歌「ご、ごめんね」

こころ「最近ずっと怖い顔してる……千歌ちゃんもお姉様も」

千歌「!」

こころ「何かあったの?」

千歌「……何もないよ。心配かけてごめんね」


こころ「……嘘つき」ボソッ

千歌「へ?」

こころ「何でもないですー! 今日は家族全員が揃う日なのですぐに帰っちゃいますからね!」

千歌「そ、そうなんだ。分かったよ」

こころ「もし……もしどうしても相談したくなったら、いつでも聞いてあげます」

千歌「……えっ」

こころ「だから一人で抱え込まないでください」

千歌「こころちゃん……うん、分かった。その時は相談するよ」ニコッ

こころ「約束ですよ! それじゃあ、また明日です!」

千歌「うん、ばいば~い」フリフリ





千歌「……ふぅ」


穂乃果「―――いい子だよね。こころちゃん」

千歌「穂乃果さん……どうしてここに?」

穂乃果「ちょっと雪穂に買い物を頼まれたんだ。そうしたら二人を見かけたの」


千歌「……大丈夫かな」

穂乃果「何が?」

千歌「私達の身近な人が吸血鬼に襲われないか……心配なんです」

千歌「あの時だってそうです……もしあの時、あの場所で美渡姉に気が付かなかったらって思うと怖くて怖くて堪らないんです」

穂乃果「……そうだね」

千歌「私達が吸血鬼に何をしたっていうのさ……確かに美渡姉を助ける為にブッ飛ばしたけど」

穂乃果「争い始めた原因は不明だけれど、吸血鬼との抗争が最も激しかったのは私達μ’sが部屋に来る前の事だって聞いたよ。先代メンバーのイズミって人が中心となって吸血鬼を壊滅させた」

千歌「でも生き残りがいた……」

穂乃果「吸血鬼にとってあの部屋の住人は全員仇なんだよ。私が逆の立場でも復讐の対象になるだろうね……」

千歌「和解の道は無いんでしょうか?」

穂乃果「無理だろうね。どちらかが全滅するまで殺し合いは終わらない」

千歌「そうですか……」

穂乃果「あっちが何もしてこなければそれでいいんだけどね」

千歌「……」




穂乃果「お、話しているうちに家に着いたね。これから晩御飯作るから手伝ってもらえる?」

千歌「はーい」



―――ガラガラ



穂乃果「ゆきほー、ただい……ま……」

千歌「穂乃果さん? 立ち止まってどうし―――」



家の中を確認した千歌は目を疑った。

ドアや襖は壊され滅茶苦茶にされている。
廊下の床や壁にはおびただしい量の血痕と弾痕。

何が起こったのかは一目で分かってしまった。



千歌「こ、これって……まさか」

穂乃果「………ッ」



―――プルルルルル



穂乃果のスマートフォンから呼び出し音が鳴り響く



千歌「ッ!!? 穂乃果さん!!」

穂乃果「……もしもし」


『―――家の様子は見たか?』


穂乃果「うん、丁度今見てる」

『なら話は早い。お前の妹は預かった』

穂乃果「預かった? “殺した”の間違いじゃないの?」

『……ふっ、生きているかどうかは来れば分かるさ』

穂乃果「それで、私はどうすればいいの?」

『ここの場所をメールで送った。誰と来ても構わないが……恐らく誰も来てはくれないだろうがな』

穂乃果「どういう意味?」

『今に分かる。無事にたどり着けることを祈っているぞ―――』ブツンッ



穂乃果「……切れちゃった」

千歌「穂乃果さん! 雪姉は……雪穂さんは!!?」

穂乃果「………」

千歌「穂乃果さ―――」



――メキメキメキッ!!!!



耳元に当てていたスマホが粉々に潰れる。
憤怒の形相で壁の一点を見つめ続ける穂乃果。

こんな穂乃果を今まで見た事が無かった千歌は動揺の色を隠せない。



千歌「ほ、穂乃果さん……」

穂乃果「大丈夫……私は冷静だよ」

千歌「で、でもそんな風には―――」

穂乃果「うるさい私は冷静だよ!!!!!!」

千歌「ッッ!!?」ビクッ

穂乃果「……はは、全然冷静じゃないね……ごめん」

千歌「い、いえ……そ、その、大丈夫です。それよりも、電話の相手は何と言っていたんですか?」

穂乃果「メールで送られた場所に来いって言ってた。だから急いでそこに行こう」

千歌「メール……ですか?」

穂乃果「どうしたの?」

千歌「そのメールは誰のスマホに送られたんですか?」

穂乃果「そりゃ勿論、私のスマホ……あっ」

千歌「ですよねー……」





吸血鬼「おお、まだ家の中にいるじゃん」

吸血鬼「こいつら、別に俺らでやってもいいんですよね?」

吸血鬼「ああ、ボスから許可は貰ってる」

吸血鬼「さっさと殺して別のハンターの所に行こうぜ」



千歌「こ、こいつら……いつの間に集まって来たんだ!?」

穂乃果「……丁度いいや。誰か一人くらいアイツの居場所を知ってる奴がいるよね。そいつから聞き出そう」

穂乃果「千歌ちゃん、武器を構えて。雪穂を助けに行くよ!!」カチャッ

千歌「はい!!!」



~~~~~~~~~~~~~


~同刻 新宿 カフェテラス~



ことり「……むむむぅ」カキカキ

花陽「……ゴクリ」

ことり「出来た……出来たよ。完成だよ!!」

花陽「おお!! やったねことりちゃん!」

ことり「ありがとう! おかげで凄くいい衣装案が提出できるよ」

花陽「役に立てて良かったです♪」

ことり「ささ、好きなメニューを何でも注文してね。お礼にご馳走するよ」

花陽「いいんですか!? な、なら前から気になっていた新作のモンブランケーキを……」



「あぁ、居ました居ました。写真の女です」


ことり「ん?」

花陽「ことりちゃん、知り合い?」

ことり「違うけど……」


幹部B「なんだよ……この二人か。こんなに連れてくる必要無かったな」

吸血鬼「まあそう言わずに。サクッと終わらせましょうよ」

幹部B「だな」

部下の吸血鬼の一人が懐から取り出した拳銃をことりの額に当てる。
その様子を目撃した他の客は悲鳴を上げながらその場から逃げ出す。

ことりは顔色一つ変えず、銃口を突き付けてきた吸血鬼の目を見つめる。



ことり「………」

吸血鬼「ああ? 何見てるんだよ」

吸血鬼「怖くて声も出ないんですよ、こいつ」

花陽「こ、ことりちゃん……!」



ことり「……はぁ。心外だなぁ」

幹部B「心外?」

ことり「だって、私達を見てがっかりしたんでしょ?」

吸血鬼「当然だ。コウサカとソノダ以外は雑魚だと聞かされているからな」

ことり「へぇ……」ニコッ

幹部B「っ!! おい、早く撃―――」



―――バンッ!!!



銃口を向けていた吸血鬼の腹部が爆発四散した。
周囲のテーブルやその上にあったスケッチブック、地面に吸血鬼の“中身”と血が飛散する。
返り血で真っ赤に染まった ことり の手にはXガンが握られていた。



ことり「うぅ、この距離で銃は失敗だったなぁ。全部浴びちゃった」ベットリ

幹部B「やりやがったな……貴様」ギロッ

ことり「……あーーーーっ!!! 提出用の衣装案が!!? 折角完成したのにぃ!!」ガーンッ

花陽「あーあ……新作のモンブランケーキはお預けですか。残念です……」シュン

吸血鬼「この状況で嘘だろ……」

吸血鬼「こ、こいつら狂ってやがる!?」

幹部B「クハハハハハッ!! 見た目に寄らず頭のネジがぶっ飛んでやがる。ちょっと安心したぞ」ニヤッ



ことり「花陽ちゃん、やっちゃおうか?」カチャッ

花陽「うん……そうだね」ブウゥゥン





Xガンを構えることり
ガンツソードを展開する花陽

ステルスモードを起動し、二人は吸血鬼の集団の中へ突撃するのだった―――




~~~~~~~~~~~~~



~同刻 病室~



伊波「………」ペラッ

希「~~~~♪」シャカシャカ

海未「………」

凛「………」カキカキ

絵里「……ねえ」


伊波「………」ペラッ

希「~~♪~~~♪」シャカシャカ

海未「………zzz」

凛「………」カキカキ

絵里「……ねえってば!!」

伊波「うぉっ!?」ビクッ!!!

希「ん? えりちどうかした?」

海未「……何ですか? 私は今、瞑想中なのですが」

絵里「いや、折角こんなに集まってるのに誰一人喋らないって寂しくない!?」

凛「うるさいなぁ……勉強中なんだから静かにして欲しいにゃ!」

海未「私達は絵里の護衛に来ているのです。お喋りに来ているのではありません」

絵里「で、でも……私両手が使えないから何も出来ないのよ! お喋りくらい付き合ってくれてもいいじゃない」グスッ

希「日中に伊波さんとお話しているんやないの?」

伊波「まあ……世間話くらいは」

海未「ならいいじゃないですか。別に私達と話す事なんてないでしょう?」

絵里「なんか冷たくない!?」

海未「ふふ、冗談ですよ。ただ、気を張り詰めていないと敵襲に一早く気付けないと思いましたので」

凛「今は海未ちゃんが見張りの時間だからね」

絵里「だったら凛や希は私の相手をしてくれてもいいじゃない」

凛「凛はテストが近いから無理にゃ」

希「ウチは凛ちゃんの勉強をみてるから」

絵里「思いっきり音楽聴いていたじゃない……」




海未「伊波さんは帰らなくていいのですか? 朝からずっとここに居るのですから、お疲れでは?」

伊波「大丈夫だよ。ホテルに戻っても暇なだけだしさ」ペラッ

凛「伊波さんが読んでるそれは何て雑誌なの?」

伊波「この雑誌ですか? そうだなぁ……見た方が早いかな。どうぞ」

凛「ありがとう! ふむふむ、これは声優の雑誌かにゃ……?」

伊波「そうだよ。この雑誌には旬の声優さん達が特集されているの」

凛「へー、最近の声優さんは可愛い人が多いんだね」ペラッ

希「どれどれ、お、本当だ。べっぴんさんばかりやん」

凛「今はあく……“あきゅおす”ってグループが人気なんだね」

絵里「アクアね」

海未「凛……相変わらず英語は苦手なのですね」ハァ

絵里「昼間はずっとその話をしているの。おかげで私もこの界隈に詳しくなったわ」

伊波「あはは……つい夢中になって話しちゃうんだよね」


海未「ふむ、詳細なプロフィールまで記載されているのですか。皆さん多彩な趣味や特技をお持ちのようですね」

凛「この写真見て! この人が作ったハンバーグ凄いよ! 凛がいつもスーパーで買ってるハンバーグとそっくりにゃ!」

希「売り物と同じクオリティの料理が作れるんか……何と言う女子力や」

伊波「……くっww」プルプル

凛「にゃ?」キョトン

希「何か変なこと言いましたか??」

伊波「い、いや……凛ちゃんって意外と鋭いんだな、って思ってさ……ww」

凛「ん?? まあいいや。はい、返すにゃ」

伊波「ありがとう」



伊波「ふふっ♪」ペラッ

海未「本当に好きなのですね。アイドル雑誌を読んでいる時の花陽にそっくりです」

凛「確かに! かよちんにそっくりにゃ♪」







伊波「………」パタンッ



伊波はおもむろに雑誌を閉じた。
先ほどまでの穏やかな表情から一変、鋭い目つきで窓の外を眺める。

海未も伊波が雑誌を閉じるのとほぼ同じタイミングで立ち上がった。



海未「―――凛、希」

凛「分かってるにゃ」

希「いよいよ出番やね」

伊波「流石は穂乃果ちゃんと海未ちゃんのチームだね。感覚が鋭い」

海未「伊波さんはここで待っていて下さい」

伊波「いいの? 多い方が楽じゃない?」

希「これくらいウチらだけで十分です。伊波さんはえりちの近くにいて下さい」

伊波「そっか……分かった」ニコッ


絵里「……三人とも気を付けて」

海未「分かってますよ。さあ、行きますよ……凛、希」

凛「合点にゃ!!!」パシンッ

希「すぐ戻ってくるから待っててな~」フリフリ



―――ガラガラッ



絵里「……」

伊波「心配?」

絵里「多少はね……」

絵里「海未が一緒なのが安心でもあり不安でもあるのよね……あの子、意外と負ける事多いから」

伊波「あー……ちょっと分かるかも」アハハ…






凛「どんな作戦で行くの?」

希「特に作戦は必要無いやない? 各自好きなように暴れようや」

海未「いや、希は凛のサポートをお願いします」

凛「え?」

希「凛ちゃんのサポート?」

海未「凛のスタイルは乱戦に向きません。技を仕掛けてる隙を突かれてしまってはお終いです」

希「なるほどね。了解や!」

凛「なんか不本意にゃ……」ムスッ




―――カツッ、カツッ、カツッ




吸血鬼’s「………」ゾロゾロ

凛「うそ!? もう病院の中に入って来てるよ!?」

希「前だけやない、後ろからも大勢来てる!!」

海未「予想以上に接近されていましたね……厄介な!」ギリッ

凛「ちょっと待って、後ろからも来たってことは……絵里ちゃんは!?」

希「威勢のいい事言ったクセに早速このザマやん!! 急いで戻らんと―――」

海未「凛、希!!!!」


凛・希「「!!!」」ビクッ!



海未「……ここで戦うわけにはいきません。奴らを引き付け、移動します」

希「り、了解や」

凛「え、絵里ちゃんは……絵里ちゃんはどうするのさ!?」

海未「不本意ですが仕方ありません……“彼女”の力を借りましょう」

凛「彼女って伊波さんの事? 本当に大丈夫なんだよね!?」

海未「目の前の敵に集中しなさい。足元をすくわれますよ」





絵里「ちょっと何よ!? 早速突破されちゃってるじゃない!!?」

伊波「うーん……コイツらの気配は私も感じ取れなかった。これは仕方ないね」ウンウン


吸血鬼「兄貴、ターゲットの他に妙な女がいますぜ」

幹部B「ああ? 構わねぇ、まとめて始末しろ」

吸血鬼「へい」カチャ


絵里「ひぃ!!?」ビクッ

伊波「ハンドガンか……物騒なもの持ってるね」


幹部B「運の無い女だ……この場に居なければ早死にすることもな……か、った……っっ!!?」ゾワッ

伊波「?」

吸血鬼「兄貴? 急に顔色を変えてどうしたんです?」

幹部B「……なんで、なんでお前がここにいる!!? おい、すぐに銃を下せ!!!」

吸血鬼「は?」


伊波「……へぇ、私の事も知っているんだね」ニッ

幹部B「あ、ああ……知って、いる」

伊波「なら話は早いや、今すぐここから立ち去って」

幹部B「立ち去る……? 俺たちを見逃す、のか?」

吸血鬼「あ、兄貴?」

伊波「私は絵里ちゃんを守るように頼まれただけだからさ。この子に危害を加えないなら別に私は何もしない」




伊波「――ただ、それでもやるって言うなら、話は変わってくるけどねぇ……」ギロッ

吸血鬼「ッ!!?」ゾクッ

幹部B「……戻るぞ」

吸血鬼「!? い、いいんですか!?」

幹部B「命令を聞け!!! ……行くぞ!!」

吸血鬼「は、はい……」



―――ガラガラ…



伊波「ありゃ、帰っちゃった」

絵里「た、助かった……の?」

伊波「話が分かる吸血鬼で助かったよ。下手にここを汚さずに済んで良かった良かった♪」

絵里「は、はぁ……」

伊波「でも、ちょっとガッカリだな……」ボソッ

絵里「はい? 何か言いましたか??」

伊波「何も言ってないよー」

絵里「???」キョトン





吸血鬼「あ、兄貴!! どうして殺さなかったんですか!? 奴らは丸腰だったでしょ!!」

吸血鬼「そうですよ! 兄貴とこの人数なら―――」

幹部B「病室にあの女居た……あの女だけはダメだ」

吸血鬼「アイツが何だって言うんです!?」

幹部B「あの女の実力は身をもって知ってる。正直、奴に挑んだ俺がどうして今日まで生きているのか不思議なくらいだ……。ボスや他の幹部、その他の全戦闘員で挑んで勝てるか分からない」

吸血鬼「そんなバカな……たかがスーツを着た人間でしょう?」

幹部B「黙ってろ。とにかく、絢瀬 絵里は後回しだ。先にあの三人を片付けるぞ」


~~~~~~~~~~~~~



~同刻 矢澤家~



にこ「晩御飯出来たわよ。準備手伝って~」

こころ「はーい、今行きますね!」

ここあ「もうお腹ペコペコだよぉ」グウゥゥ

矢澤母「はいはい、分かったから準備手伝いなさい」

ここあ「分かってるよ」

こころ「こうやって家族みんなでご飯を食べるのも久しぶりですね!」

矢澤母「そうね、いつも私か にこ が居ないことが多かったから」

にこ「未来のスーパーアイドルは忙しいのよ」

こころ「流石はお姉様です!」

ここあ「でも、本当にスーパーアイドルになったら今以上に揃う機会が減っちゃうんだよね……それは寂しいな」シュン

こころ「あ、そっか……」

にこ「何言ってるのよ。そんな事にはならないから安心しなさい」

ここあ「お姉ちゃん……本当?」

にこ「私が今まで嘘ついた事ある?」

こころ「ええっと、過去に何回か」

にこ「あ、あれ、そうだっけ?」アセアセ

矢澤母「あはは……」

にこ「と、とにかく! この約束だけは必ず守る。だから安心しなさい」ニコッ

ここあ「お姉ちゃん……!」

矢澤母「ま、そのことはスーパーアイドルってのになってから考えましょうねー」

にこ「ま、ママ!!」

こころ「ふふ、じゃあ、そろそろ食べましょう!」



―――プルルルルル…



にこ「あ、真姫ちゃんから電話だ。ちょっと待っててね」



にこ「もしもし、どうしたの?」

にこ「……うん、うん。……なんですって!?」ゾッ



ここあ「どうしたんだろう……お姉ちゃん、凄く怖い顔してる」

こころ「お姉様……」

矢澤母「……」



にこ「……うん、分かった。すぐに出るわ。ありがとう」ピッ

矢澤母「出掛けるの?」

にこ「うん。ちょっと急用」

ここあ「えぇっ!!? 今から出掛けちゃうの!?」

にこ「ごめんね……出来るだけ早く帰るつもりだけど、御飯は一緒に食べられそうにないわ」

こころ「そ、そんなぁ」ガッカリ

にこ「あと、三人とも私が帰って来るまで家から絶対に出ないでね! 窓やベランダにも近づかないで。いい?」

ここあ「どうして?」

にこ「どうしてもよ」

矢澤母「分かったわ。言いつけは守るから安心して。だから、あなたはちゃーんとこの家に帰って来なさい」

矢澤母「約束出来るわね?」

にこ「ママ……うん、分かってる」



にこ「じゃあ、行ってきます」ニコッ








斎藤「あ? こいつ、のこのこ出てきやがったぞ」

にこ「うげぇ……こんなに沢山居るじゃない。これ一人でやらなきゃいけないの……」ハァ

斎藤「何言ってるんだコイツ。俺らに勝てると思ってるの?」

にこ「あーはいはい、そういう三下みたいなセリフはいいから」

吸血鬼「はあ?」イラッ

にこ「こっちは折角の家族団らんの機会を台無しにされて虫の居所が悪いのよ。さっさとかかって来なさい」

吸血鬼「……っ!!!」カチャッ



~~~~~~~~~~~~~



~矢澤家から北北西500m 雑居ビル屋上~



彼のライフルのスコープには にこ の頭部が映し出されている。
先ほどまでは家の窓に付近に彼女が姿を現すのをずっと狙っていたのだが、部下からの連絡を受け予定を変更。
自宅での暗殺から部下の戦闘補助に徹することにした。

前回は対物ライフルを使用していたが、暗殺を意識していた為、今回使用しているのは対人ライフルであった。
ナイトビジョンやサーマルビジョン、サプレッサー等が装着できる彼が愛用している狙撃銃である。

ボルトを引き、初弾を装填。
後は落ち着いて狙いを定め、引き金を引くだけ。

寸前のところで背後に気配を感じ取った。



幹部A「……驚いたな。どうしてここが分かった?」



ほふく状態から立ち上がり、屋上の入口の方へ体を向ける
そこにはガンツソードを携えた真姫の姿があった。



真姫「敵に狙撃手がいるって聞いていたからね。メンバーの家を狙える狙撃ポイントすべてに動体検知機を設置しておいたのよ」

幹部A「そんな物が……気が付かなかったよ」

真姫「おかげで預金はすっからかん……もう最悪よ」



幹部A「だが、君も狙撃手なのだろ? わざわざ姿を現すのはいかがなものだ?」

真姫「そんな事分かってるわよ。でも、肝心なこの場所を狙える所が無いんじゃ仕方ないじゃない。あなたもそれが分かっていたからここにしたんでしょ?」

幹部A「まあな」ニヤッ



真姫(気づかれないように注意していたのに……大急ぎで駆け付けて大きい方のXガンを忘れたのは致命的だったかしら)

真姫(この距離はXガンの射程範囲外。奴もそれは分かっているハズ……なら、一気に接近して斬り伏せる!!!)



真姫は力強く一歩目を踏み出す。
同時に吸血鬼はライフルの銃口を真姫に向け、発砲。

撃ち出される弾丸は真姫のガンツソードの柄の部分を正確に捉えた。
武器を弾き飛ばされたが、真姫はそのまま吸血鬼への接近を止めない。



真姫(この距離なら腰だめでも正確に当ててくるか! でも、あのライフルはボルトアクション方式。装填よりこっちの攻撃の方が早く―――)

幹部A「―――甘いぜ、嬢ちゃん!!」バンバンッ!!



吸血鬼はライフルを発砲後、すぐさま銃を破棄。
素早く腰のホルスターからハンドガンを取り出し、真姫の左右の太ももの側面を撃つ。



真姫「コイツ、ホルスターのXガンを破壊しに来た!?」

幹部A「装備の無力化は基本だろう? あとはスーツだけだ!!!」



刀を生成した吸血鬼が真姫に襲い掛かる。
ギリギリで避け続ける真姫だが、徐々に不利な状況に追い込まれていく。



真姫「くっ、やばッ!!!」

幹部A「鈍いな! やはり接近戦は不得手か!!!」

真姫「う、るさい……!!」

幹部A「ほら、避けなきゃ死ぬぜ!」



真姫の首筋へ刀を振り抜く。
スーツの防御機能により宣言通りに死ぬことは無かったが、真姫の精神力を削るには充分の手応えを感じた。

ダメ押しにハンドガンの残弾を真姫の体に全て撃ち込む。



幹部A「ハチの巣にしてやるよ!!!」バンバンバンッ!!

真姫「ぐ、ぐあぁ!?」グラッ



体勢を大きく崩し、背中を向ける。
スーツを一瞬で無力化できる顎と耳下にある四つのレンズを壊すには絶好の機会。



幹部A「あばよ!!!!」

真姫「………ッ」



―――バンッ!!!



銃声が鳴り響く。
吸血鬼の左胸には真っ赤な小さな穴が空く。

急所を撃ち抜かれ、崩れるように倒れた。
振り返った真姫の手にはハンドガンが握られていた。



幹部A「んな……に…?」ガクンッ

真姫「――上着で射線を隠す作戦は成功だったわね」

幹部A「何故、何故お前が……銃を持って、いる!?」

真姫「ああ、これのこと? ここに来る前にあなたの部下と遭遇してね。そいつから拝借したってわけ」

幹部A「Xガン以外の武器は……想定外だった、な……」

真姫「見ないで狙ったけど、まさか急所に当たるとはね。流石は私って感じね」

幹部A「スーツさえ……スーツさえ壊せればッッ!!」

真姫「吸血鬼も頭を撃ち抜けば大丈夫よね」カチャッ

幹部A「クソッ、があぁ!!」




―――バンッ!!!




幹部A「」ドサッ

真姫「……ッあ、ふぅ……危なかった。あれ以上攻撃を受ければ壊れていたわね」

真姫「さてと、このライフル貰っていくわ」

真姫「この真姫ちゃんが援護してあげるわ、にこちゃん」カチャッ


~~~~~~~~~~~~~



穂むらを襲撃しに来た吸血鬼を殲滅
部下の一人からメールで読み損ねた雪穂の居場所を聞き出した穂乃果と千歌は予め部屋から持ち出していたガンツバイクを走らせていた。
このバイクなら、コントローラーのステルス機能が適応される。

向かうは押上。
運転を任された千歌はアクセル全開で道路を走る。

後方からは同様にバイクで追ってくる吸血鬼の集団。
徐々に距離を詰められる。



穂乃果「……全く、面倒だな」

千歌「穂乃果さん! これ以上はスピードが出ません、追いつかれちゃいます!!」

穂乃果「分かってる、ここで片付けるよ」カチャッ


吸血鬼「待てオラァ!!!」

吸血鬼「撃て撃て撃て撃て!!!!」ズダダダダダダ!!!

穂乃果「ッ!! 無差別に乱射してくるか!!?」

千歌「穂乃果さん早く何とかしないと!!」

穂乃果「分かってるよ!!!」ギョーン!ギョーン!


吸血鬼「はっ!!! どこ狙ってんだよ!!!!」


穂乃果「もう! 千歌ちゃん真っすぐ走ってよ、上手く狙えないからさ!!」ギョーン!

千歌「無茶言わないで下さいよ!?」

穂乃果「くッッ!!!」カチャッ




穂乃果はXショットガンで敵のバイクの前輪を狙い撃つ。
態勢を崩したバイクは次々と転倒
他の車両を巻き込み連鎖爆破を起こす。



千歌「うおぉ!? 爆発した!?」

穂乃果「ヤバッ、撃ち漏らした!!」



撃ち漏らしたバイクが一台
千歌の運転するバイクの側面まで接近された。
マシンガンの銃口を向けられる。



千歌「うッ!!!?」ゾッ

吸血鬼「死ねや!!!」

穂乃果「あなたがね!」ザクッ!!!



ガンツソードを伸ばし、吸血鬼を串刺しにする。



穂乃果「これで全部。千歌ちゃん大丈夫?」

千歌「は、はいお陰様で」



そのままバイクを走らせる。
穂乃果達の目の前には日本一高い電波塔の姿が見えた。



穂乃果「見えてきたね、目的地が」

千歌「そうですね……初めて来る場所ですが、まさかこんな形で来る羽目になるとは思いませんでした」

穂乃果「バイクを隠したらすぐに展望台に登ろう」



~~~~~~~~~~~~~



カフェテラスの周囲は花陽と ことり によって倒された吸血鬼の屍で埋め尽くされていた。
その中には駆け付けた警察官や機動隊もある。
その場にいた吸血鬼の幹部が二人の相手をしながら邪魔ものである第三勢力を排除したのだ。

現在、この場に立っているのは幹部と花陽と ことり の三人。



幹部B「ほう、少々貴様の評価が甘かったのは確かだったようだな」

ことり「ふぅ、ふぅ……痛ッ」ドクドクッ

花陽「この敵……強い……!!」

幹部B「この刀は特注品でな、貴様らのスーツを紙みたいに切れる」

ことり「だろうね。おかげでスーツがボロボロだよ」


花陽(マズいです……絵里ちゃんの言う通りこの吸血鬼の剣の腕は海未ちゃんレベル。私達二人で勝てるかどうか……)

花陽「ことりちゃ―――」

ことり「大丈夫だよ。花陽ちゃんは下がってて」

花陽「えっ、ひ、一人でやるつもり!?」

ことり「私達の相性は悪くは無いけれど、下手に連携するより一対一で戦った方がやりやすいと思うの」

花陽「うっ、確かに一理ありますけど……」

ことり「っという事で、私が相手だよ~」

幹部B「おいおい、正気か? 力の差は見せつけたつもりだが?」

ことり「……力の差だって? うふふ、面白いこと言うんだね」

幹部B「は?」

ことり「ふふ、うふふふふ」

花陽(こ、ことりちゃん……?)

ことり「うふふふ……試してみれば分かるよ」

幹部B「自棄になったか……まあいい」



先に仕掛けたのは ことり だった。
吸血鬼の喉元目がけガンツソードで鋭く突く。

ことりの習得している流派は一つもない。戦い方は全て我流である。
そんな彼女では、基礎からみっちりと鍛え上げてきた剣士相手に同じ武器で勝てるわけが無かった。
初撃を軽々と躱され、脇腹を浅く斬り裂かれる。

痛みに顔を歪ませながらも二撃、三撃と斬りかかるが、全ていなされ体中を切り刻まれる。
辛うじて急所や筋は外しているが、彼女を襲う痛みは想像に難くない。




幹部B「粋がっていたクセにその程度か!」ズバッ!!

ことり「……ぅぅ!!!!」ブシュゥッ!!!

花陽「ことりちゃん!! これ以上斬られると危ない!!!」

ことり「うわああああああ!!!!!」ブンッ!!!



ことりは刀をでたらめに振り下ろす。
そんな攻撃に呆れた吸血鬼は力任せに刀をぶつけ、ことりの手からガンツソードを弾き飛ばした。



ことり「あっ」

幹部B「胴体ががら空きだぜ」ビュン!!!!

花陽「ことりちゃん!!!!!」







―――ガキンッ!!






幹部B「はあぁ!!!?」

花陽「う、うそ!?」

ことり「……ふふ」ニタッ




腰のあたりを狙った吸血鬼の斬撃。
これを ことり は白刃取りと同じ要領で肘と膝で刀を挟み込んで防いだのだ。
一瞬でもタイミングを外せば真っ二つになる状況で予想外の防御策を取られた事実に動揺を隠せなかった。



幹部B(馬鹿な!? そんな防ぎ方があってたまるかよ!!?)



そのまま刃をへし折り、吸血鬼の胸倉を掴む。



ことり「そーーーれっ!!!!」ブンッ!!

花陽「な、投げ飛ばした!?」

幹部B「うおおお!!?」



空高く投げ飛ばされる吸血鬼。
ことりはホルスターからXガンを取り出し、落下してくる彼に銃口を向けた。



ことり「バイバイ、私の勝ちだね♪」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

幹部B「う、くそがアアアアアアアアアア!!!!!!!!」



―――バババンッッ!!!



爆発四散する。
吸血鬼の幹部の一人の撃退に成功したのだ。

戦いを終え、安堵した ことり はその場に座り込んだ。



ことり「ふぅー、勝った勝ったー」

花陽「ひ、冷や冷やさせないでよぉ。もうダメかと……」アセアセ

ことり「えぇー、花陽ちゃんは私が勝つって信じてくれなかったの?」

花陽「……ちょっぴり」

ことり「ひどい! ことりは大変怒っています!!」プンプン

花陽「うぅ、ごめんなさい」シュン

ことり「まあ、“能ある鷹は爪を隠す”って事だよ。それに……」

花陽「?」

ことり「大切な幼馴染みと一緒に戦うって決めたから。もしもの時は二人を守る。それだけの力はつけないとね」ニコッ

花陽「!! ……うん、そうだね!」



ことり「それと大変申し訳ないのですが……花陽ちゃん、私を病院まで連れて行ってくれませんか?」

花陽「あ、うん、そうだよね。応急手当したらすぐに連れて行くね」アセアセ

ことり「この切り傷……ちゃんと消えるかなぁ」


吸血鬼「おい、居たぞ!!!」

吸血鬼「既にボロボロだ、仕留めるぞ!!」


ことり「全く……面倒だなぁ」

ことり「よっこいしょ……痛ッッたああい!!? 体中痛いよぉ……」

花陽「ことりちゃん、ちょっと待っていてね。すぐに終わらせて来るからさ」

ことり「うん……お願いしていい?」

花陽「当然です。ドーンと任せてください!!」


~~~~~~~~~~~~~



~スカイツリー 第二展望台~



ボス「――やっとお出ましか。随分と遅かったな」

千歌(この人が吸血鬼集団のボス……他の吸血鬼もそうだけど、見た目は完全に人間だよね)

穂乃果「……雪穂はどこだ」

ボス「まあ、慌てるな」

穂乃果「雪穂はどこだって聞いてるんだ答えろよ!!!!!!!」

千歌「ッ!!?」ビクッ!

ボス「……この裏で寝てるさ。連れて行くときに少々負傷したが、簡単に手当はした。だが、早く治療しないと危ないかもな」

穂乃果「~~ッ!! ~~~ッッ!!」ギリギリッ

千歌「ほ、穂乃果さん、落ち着いて下さい」

ボス「ん? おい、そこのお前」

千歌「え、私?」

ボス「天狗、天狗だよな? 何でお前がそこにいる?」

千歌「は? 天狗??」

穂乃果「知り合いなの?」

千歌「まさか」

ボス「他人の空似か……別にいい」




千歌「あなたに聞きたい事がある」

ボス「何だ?」

千歌「ここに来るまでに多くの吸血鬼に襲われた。奴らは私達を殺す為なら周囲の人々を巻き込むことに躊躇しなかった……」

千歌「―――そして、無関係の人が何人も、何人も死んだんだ!!!」

ボス「……」

千歌「あなた達は……あんた達はこれまで何人の命を奪って来たんだ!!?」




ボス「……32人だ」

千歌「は?」

ボス「いや、昨日で33人だったな」

ボス「……ミヤシタ アイ、ミヤシタ ココ、クロバネ サクヤ、イトウ マコト、オサカ シズク、俺が直接殺した人間は顔も名前も全て覚えているさ。今も鮮明にな」

穂乃果「……」

ボス「吸血鬼は全員元人間だ。俺はある日突然、吸血鬼になったんだ」

千歌「元……人間」

ボス「俺だって人を殺したくは無い……だが、生きる為には仕方なかったんだ! 生きる為には人の血肉がどうしても必要だった。喰わなきゃ死ぬならやるしかないだろ?」

ボス「俺はこの手で殺した人は全て覚えている」



ボス「これが人の命を奪う側の、俺の覚悟だ―――!!!」

千歌「……ッ!」


ボス「では逆に聞くぞ、貴様らはここに来るまでに殺した俺の仲間の人数を憶えているか? 名前は分かるか!? 答えてみろよ!!!」

千歌「そ、それは……」





穂乃果「知った事じゃないね」

千歌「えっ」

ボス「……なんだと?」

穂乃果「知ったこっちゃないって言ったんだよ。あなたの価値観を私達に押し付けるな」

ボス「……ッ」

穂乃果「あなたが生きる為に人を殺したように、私達は私達の日常を守る為に戦っている。それを脅かすものを排除しているだけだよ」

ボス「その為なら、ただ殺しても構わないってか?」

穂乃果「襲ってくる連中をいちいち数えたり、名前を聞いたりすると思う? 話が根本的にズレているんだよ」


ボス「お前は、俺たちを悪だと言うのか?」

穂乃果「悪? まさか、思うわけないじゃん。吸血鬼が生きる為に人を殺さなければいけないのなら好きにやればいい。私がそっちの立場ならそうするし」

千歌「!?」

穂乃果「顔も名前も知らない人がどうなろうが関係ない。目の前の全ての人を救うなんて考えは“とっくの昔”に捨てたよ。どんなに力を付けた所で私が救えるのは自分自身と、身近にいる人だけで精一杯だからね」


穂乃果「……だから、私の守ろうとしている人達を傷つける輩は徹底的にぶっ潰す。相手がどんな組織でも関係ない」

穂乃果「吸血鬼だろうが秘密結社だろうが潰す。全部壊すし、全員殺す―――!!!」

千歌(ほ、本気で言ってるよこの人……)




ボス「ふふ、あははははははははは!!! こんなイカれた奴がリーダーなのか。仲間はさぞかし大変だな。そうだろ?」

千歌「……まあ、そうなの……かな?」


ボス「コウサカ ホノカ、だったな?」

穂乃果「うん」

ボス「こんな立場で出会わなければ、いい関係になったかもな」

穂乃果「いや、それは無い。お前なんかとは仲良くなれないし、仲良くしたくもない」

ボス「辛辣だな……仕方ないか!!」カチャッ



吸血鬼の手にはいつの間にかサブマシンガン二丁が握られていた。
二人のスーツを破壊すべく、マガジンが空になるまで撃ち尽くす。

千歌と穂乃果は別々の方向に走り出し、銃撃を回避。
撃ち尽くしたタイミングでガンツソードを展開させて斬りかかる。



―――ピピピッ



穂乃果「ッ!!? 危ない!!!」

千歌「ぐわっ!!!!?」ドスドスドスッ



奇妙な機械音の後、千歌の足元が爆発し、無数の小さな鉄球が飛び散る。



穂乃果「……まあ、トラップくらいは仕掛けてるよね―――!!」

ボス「クレイモア地雷だ。仕掛けたのはあれ一つだから安心しな」

穂乃果「よく言うよ!!!」



刀と刀がぶつかり合う。
爆風と鉄球で吹き飛ばされた千歌も遅れて参加した。



千歌「こ、この!!」ガキンッキンッ!!

ボス「……ッッッ!!」



激しく打ち合う両者。
千歌は足払いやパリィ等で穂乃果のサポートに徹するも、ことごとく防がれる。

お互い、決定打に欠ける場面が続く。



穂乃果(そんな……こっちは二人がかりなのに攻めきれない!?)

ボス「オラァ!!!」ズドンッ

千歌「ごほっ!!?」



銃声と同時に後方へ吹き飛ばされる。



穂乃果「千歌ちゃん!!」

ボス「遅い」カチャッ

穂乃果(うッ、ショットガン!!?)ギョッ



顔面に向けられたショットガン。
これを上体を後ろに反らして回避する。



ボス「オラァ!!!!」

穂乃果「があッ!!?」



無謀になった胴体に強烈な蹴りが炸裂し吹き飛ばされる。
発射された弾丸で後方にあったガラスがヒビだらけになった為、展望台のガラスを突き破り落下していく。




穂乃果「う、うわあああああああ!?」

ボス「空中なら避けらないよな?」カチャッ



落下する穂乃果を追随する吸血鬼。
その手にはサブマシンガンが握られている。



穂乃果「―――うりやぁあああ!!!!!」ビュン!!!!

ボス「!!?」ガキンッ



穂乃果は持っていたガンツソードを投げ飛ばし、吸血鬼の銃を弾き飛ばす。



穂乃果「ぐはっ!?」ドサッ

ボス「チッ、空中でスーツを壊して落下死させるつもりだったんだがな」ストッ



第一展望台の上部に落下した二人。
背中から落下した穂乃果だが、スーツの機能により無傷で済んだ。
だが、先の攻防で武器を失ったことにより丸腰になってしまった。
このチャンスを吸血鬼が逃さない。
畳みかけるように攻め込む。



穂乃果「く、危なッ!?」

ボス「よく躱すな!」ビュン!!!!

穂乃果「うらぁああ!!!」ドゴッ

ボス「軽い!!! パンチはこうやってやるんだよ!!!」バキッ!!

穂乃果「ッッッ!!!!?」グラッ



カウンターパンチをお見舞いするも、大したダメージにならない。
鋼のように鍛え抜かれた身体を持つ吸血鬼には並大抵の攻撃ではビクともしない。




千歌「おおおおおおおおおおお!!!!!」ビュン!!!!

ボス「チッ、思ったより早く来たな」



展望台から飛び降りた来た千歌。
千歌が戦っている内にガンツソードを拾いに走る。



千歌「せい、せいやあああ!!!!」キンッ!!ガキンッ!!


ボス(動きは悪くない。剣の腕もいい。一流の師匠に教わっているのだろう)

ボス「―――だが、まだまだ発展途上だな!!!」ズドンッ!!

千歌「ぐっ!?」

千歌(この敵、凄く戦い慣れてる! 対人戦にここまで特化してると……今の私じゃ勝て、ない……!!)ギリッ



―――キュウゥゥン……



千歌「んな!? スーツが!?」ドロッ…

ボス「ふ、終わるときは呆気ないものだな」ニタッ

千歌「ッう……!!!?」バッ



―――ゴキャッ!!!!



スーツが壊れた千歌の頭を蹴り飛ばそうとする。
千歌は咄嗟に左腕を上げ、何とか直撃を防ぐ。

スーツと互角に戦えるだけのパワーを兼ね備えた吸血鬼の蹴りだ。
勢いよく吹き飛ばされ、一回、二回とバウンドした後、足場から外に飛び出す。



千歌「―――あッ」ゾッ



第一展望台の高さは約350メートル。
その高さから放り出されたのだ。
助かる可能性は万に一つもない、数秒後には確実な死が待っている。



千歌「う、うあああああああああああああああ!!!!!!?」

穂乃果「千歌ちゃん……千歌あああああ!!!!!」






千歌「うああああ、あああ、あああああぁぁぁ……はぁ、はぁ…!!」

穂乃果「声が……聞こえる……?」

ボス「ほう、ギリギリで何かを掴んだか」

穂乃果「千歌ちゃん聞こえる!? 大丈夫なの!?」

千歌「な、何とか! 今は片手で出っ張りに掴まってる状態です!!」

千歌「ただ……もう片方の腕が動きません!! 掴まってる手の小指も力が入らない……自力で登るのは、む、無理……です!!」

穂乃果(その様子じゃ、ぶら下がっていられる時間も余りなさそう……マズイ、本当にマズイ!!)

ボス「こりゃ、より一層急いで決着をつけなきゃいけなくなったな」

穂乃果「言われなくても分かってる……!!!」ダッ



走り出す穂乃果。
千歌が落としたガンツソードを拾い、二刀流で斬り込む。



ボス「安直な……二刀で戦った経験は少ないだろ」

穂乃果「どうかな?」



―――ガキンッ!! ガキンッ!! ガキンッ!!



ボス(むッ、これは……)

穂乃果「資料には無かったでしょ? 最近海未ちゃんに教わったんだよ!!」

ボス「みたいだな。だが、習いたての技で勝てる程甘くはない!」ドゴッ

穂乃果「く、そぉ!!!」ビュン!!!!



距離を取りつつ、一刀を投擲。
これを易々と弾き落とす。




穂乃果「ふぅ……ふぅ…」

ボス「正直ガッカリだな。もう少し強いと思っていた」

穂乃果「それは申し訳ないね。多分、今は定期的に訓練している海未ちゃんや凛ちゃんの方が強いと思うよ」

ボス「いや、それは無いな。どんなに訓練をしたところで、一年間たった一人で戦い続けた経験値には敵わない」

穂乃果「そりゃどうも。でも……そんな事まで調べたの?」



―――プルルルルル



ボス「来たか」

穂乃果「何の連絡?」

ボス「ああ、撃退連絡だよ。俺の仲間が貴様の仲間の誰かを仕留めたって連絡がな」

穂乃果「……」

ボス「信じられないか?」

穂乃果「当たり前じゃん。私の仲間が負けるなんてあり得ない」

ボス「確かに貴様のメンバーは強敵揃いだ。こちらもそれなりの戦力を整えていったさ」

ボス「俺の直属の部下が倒せればベストだが……質でダメなら量、こっちの戦闘員を総動員したんだ。百戦錬磨の貴様らも、一人30人以上と戦えば体力、スーツ共に持たないだろう?」

穂乃果「……まさか!?」ゾワッ

ボス「この電話が証拠だ。聞けばわかる」ピッ


ボス「もしもし、俺だ。誰を殺した?」











『―――にっこにっこにーー♪ こちら、宇宙ナンバーワンアイドルでぇ~~~す☆彡』










ボス「……はぁ?」イラッ

穂乃果「……プッ」




にこ『あれ? 聞こえて無いのかしら……にっこにっこ―――』

ボス「うるせぇ、ぶっ殺すぞ」

にこ『何よ、聞こえてるじゃない。連絡先に“ボス”ってあったから電話したけど、合ってる?』

ボス「……だったら何だ」

にこ『この……よくも家族団らんの時間を奪ってくれたわね!! この日の為に毎日頑張って来たってのに……この、ええっと、バーカ、バーカ!!!』

穂乃果(語彙力……)

にこ『あと、差し向けてきた刺客よ!! 数だけ多いだけで雑魚ばかりじゃない。私の事馬鹿にしてるの!?』

ボス「……ッ!?」

真姫『はぁ、よく言うわよ……私が居なければ瞬殺だったくせに』

にこ『ちょっ、余計なこと言わなくていいの!』

穂乃果「ま、真姫ちゃん……!」

真姫『他のメンバーも無事よ。海未達はちょっと数が多かったみたいだけど、何とかなったみたい』

にこ『こっちは大丈夫だから、さっさとケリを付けちゃいなさい、穂乃果』

真姫『何なら、今から向かいましょうか?』

穂乃果「……いや、大丈夫だよ。みんなには家に帰って休んでって伝えて」

真姫『そっ、分かったわ。じゃあ、また明日ね』ピッ





ボス「チッ、勝手に切りやがった……」

穂乃果「総動員したって言っていたね。なら、あなた以外は全滅したみたいだけど……まだやる?」

ボス「……愚問だな」カチャッ

穂乃果「だよね」



両者、刀を構え直す。

打ち合っても埒が明かないのはお互いに分かった。
雪穂の怪我の具合、片手でぶら下がっている千歌の様子が不明な以上
これ以上戦いを長引かせるわけにはいかない。

防御を捨て、最速の一太刀で斬り伏せる。
リスクは極めて高いが、これが早期に決着をつける最善策だと判断した。



穂乃果(にこちゃんのおかげで心の余裕が出来た……今の私なら出来る)

穂乃果(―――試してみよう……!)ギリッ





――

――――

――――――



穂乃果『―――ま、負けたーーー!! 海未ちゃん強すぎだよ!?』

海未『よく言いますよ……こっちは定期的に訓練しているのに、全力で戦ってギリギリだなんて』

穂乃果『私だって密かに鍛えているのだ♪』

海未『良い心掛けです』


穂乃果『園田流の剣術は一通り覚えたけれど……なんかしっくりこないなぁ』

海未『穂乃果は型にはめるよりも自由にやった方が性に合うタイプでしょう』

穂乃果『ねえねえ、園田流奥義みたいな技とか無いの? “天翔龍閃”みたいなやつ』

海未『まぁ……無い事も無いですが』

穂乃果『えぇ!? あるの!!?』

海未『明確な“技”としての奥義はありませんが、“境地”としての奥義ならあります』

穂乃果『境地?』

海未『……いいですか? 人間の五感というのはどこかが劣れば、別のどこかがそこを補うべく鋭くなるものなのです』

穂乃果『え、じゃあ、目が見えない人は見えている人より強いって言うの? 嘘だー』

海未『この話止めますか?』

穂乃果『ごめんなさい続けてください』

海未『ゴホン……この奥義は自らの五感全てを意図的に消失させることにより、極限まで研ぎ澄まされた感覚で見出した数秒先の未来を元に脊髄反射のみで最速の斬撃を繰り出せるのです』

穂乃果『ん? んん??』

海未『私の流派ではそれを「先読みの境地」と呼んでいます』

穂乃果『「先読みの境地」ねぇ……海未ちゃんは出来るの?』

海未『出来るわけ無いでしょ』

穂乃果『え、出来ないの!?』

海未『そもそも五感を意図的に消失させるなんて不可能です。物理的に消失させるなら話は別ですが、修行や発動の度に大怪我を負う羽目になります』

穂乃果『確かに』

海未『簡単に習得できないからこそ、これは奥義なのですよ』

穂乃果『海未ちゃんに出来ないなら私にも無理だよね……ガッカリだよ』

海未『いえ、不完全な状態なら私でも出来ますよ』

穂乃果『えぇ!?』

海未『消失まで至らなくとも、機能を低下させればいいのです。私は長年の修行でなんとかその術を身につけました』

穂乃果『長年って……すぐには身に付かないじゃん!!』

海未『さあ? もしかしたら穂乃果なら実践で使えるレベルまで直ぐに身につくかもしれませんよ?』

穂乃果『本当に!? ねえねえ、どうすればいいの!?』ワクワク

海未『そうですね……穂乃果だったら“凄く集中すれば”案外出来るんじゃないですかね。多分』

穂乃果『随分と適当だね!!!?』ガーン

海未『そうと決まれば早速修行です! 準備してください、穂乃果!』

穂乃果『う、うそぉー……』




――――――

――――

――



穂乃果「―――すぅーーー、ふうぅぅ……」


穂乃果(思い出せ……何度も練習したじゃん。実践でだって使える)

穂乃果(私なら……使える………!!!!)



―――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ



目を瞑り、全身の力を抜き、自然体となる。




穂乃果「すぅ、すぅ………すぅ…」



―――ドクンッ、ドクンッ……



鉄骨から漂っていた鉄の匂いが感じなくなった。



―――ドクンッ、ドク……、……



耳障りだった心音、顔に当たる風圧が消えた。





穂乃果「………」パチッ



ゆっくりと、目を開ける。
目の前には吸血鬼。
そのほかの景色や色はハッキリと認識できない。


視界内にショットガンの引き金を引こうとする指を確認。



穂乃果「………ぅ」ダンッ!!!



いや、“確認したと脳が判断するより前”に体は既に動き出していた。


吸血鬼はギョッとした。

無理もない
発砲で一瞬だけまばたきをした刹那、敵はすぐ目の前まで接近されていたのだから。



ボス「何故、近―――!!?」

穂乃果「おおおおおおおおおおお!!!!!」



―――ズバッッッ!!!!!



ガラ空きとなった上半身は穂乃果によって一刀両断されたのだった。



ボス「がッ……なに、が……」ドサッ

穂乃果「……かはッ!? ごほっ、ごほっ!!? こ、これ滅茶苦茶しんど……流石は奥義だな、ね」

ボス「か、あ、はは、あはははは……お、俺は…斬られた、のか……」

穂乃果「……そうだよ」

ボス「はは、凄げぇな……全く反応、出来なかった……やっぱ、強いな……お前」

ボス「はぁ……やっと、死ねるのか………やっと…解放……され、るのか」

穂乃果「……名前は?」

ボス「……あ?」

穂乃果「あなたの言う奪う側の覚悟ってやつだよ。だからあなたの名前が知りたい」

ボス「……ふ、なる……ほど、な」

ボス「……クロノ、だ。ク、ロノ アキラ……だ。覚、えて……お………け…………」

ボス「」



穂乃果「………」

穂乃果「……ああ、なるほど。これが“奪う”ってことなんだ。今まで意識してなかったけど、思った以上にキツイなあ」


穂乃果(――でも、私は自分の考えは曲げない。これからも私が正しいと思った道を突き進む。それが私の覚悟だから)





千歌「あ、あの!! 終わったんですか!? なら大至急来てくれませんか!!? そ、そろそろ限界……ですうううう!!!!」

穂乃果「あ、ごめんごめん。……って、あれ? その位置じゃ手が届かないじゃん」

千歌「だ、だから、どこかからロープを……」

穂乃果「今から探すのも面倒だから、一緒に飛び降りようか」

千歌「―――はい?」

穂乃果「上手く空中でキャッチして、華麗に着地してみせるよ! だから、安心してその手を放してねー」

千歌「い、いや、……でも、え? この高さですよ???」

穂乃果「じゃあ行くよー。……それ!!」ピョン

千歌「うそ!? 待っ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!?」



~~~~~~~~~~~~~



~翌日~



絵里「―――ケガ人が増えたわね」

ことり「暫くお世話になりまーす」ニコニコ

絵里「暫くって言ってもたった一週間でしょ? 軽傷でいいわね……私は肩の肉をロースにされたってのに」

ことり「千歌ちゃんは大丈夫なの?」

千歌「はい。左腕の骨にヒビと小指の脱臼で済んだので入院はしないです」

絵里「スカイツリーから飛び降りたんでしょ? スーツが壊れた状態だったのによくもまあ死ななかったわね」

千歌「あ、あははは……今までで一番怖かったかも…」


ことり「雪穂ちゃんは?」

千歌「それが全くの無傷だったんですよ。薬で眠らされただけだったみたいで、部屋にあった血痕も別人のもので……どういう事なんですかね?」

ことり「うーん……別に深く考える必要はないんじゃないかな。雪穂ちゃんが無事ならそれでいいもん」

千歌「それはそうですけれど……何かモヤモヤしちゃうんだよなぁ」



―――ガラガラ



希「あ、千歌っち! ここにいたんやね」

千歌「どうかしたんですか?」

希「穂乃果ちゃんが探してたよー。ロビーで待ってるって」

千歌「分かりました」

ことり「またね、ちかちゃん♪」

千歌「また来ますね。二人ともお大事に!」






穂乃果「来た来た、おーい千歌ちゃーん!」フリフリ

伊波「ほ、穂乃果ちゃん、ここ病院だよ!?」

穂乃果「あ、しまった……」

千歌「あれ、伊波さんも一緒だったんですね」

穂乃果「うん。これから地元に帰るんだけど、最後に千歌ちゃんと会いたかったんだって」

千歌「私に……ですか?」

穂乃果「折角だから駅まで送ってあげてよ。あ、もしかしてこの後予定とかあった?」

千歌「何も無いですよ」

穂乃果「良かった」ホッ

伊波「いきなりごめんね? 千歌ちゃんとはあんまり話せる機会が無かったからさ」

千歌「いえいえ、じゃあ行きましょうか!」



~~~~~~~~~~~~~



千歌「……」

伊波「……」

千歌「………」

伊波「………」


千歌(あ、あれ……歩き始めて結構過ぎたけど、会話が始まらない。話があるんじゃなかったの!?)アセアセ

伊波「いやー、事前に内容は考えてきたんだけれど、何て言えばいいのか……」

千歌「は、はい……?」



伊波「……曜ちゃんは元気だよ」

千歌「へ?」

伊波「以前に亡くなったメンバーも全員復活して、カタストロフィに向けて着々と準備を進めている」

千歌「な、何を言って……」

伊波「千歌ちゃんの話は穂乃果ちゃんから聞いている。だからあなたが何者なのか、どんな経緯でここにいるのかも“全部”知ってる」

千歌「……あなたは何者なんですか?」

伊波「あ、言ってなかったっけ? 私はホテルオハラの従業員なんだよ。正確には小原家で執事をやってるんだ」

千歌「ホテルオハラ……淡島にあるあのホテル?」

伊波「ゴホン……シャイニー♪」

千歌「? しゃ、しゃいにー???」

伊波「……そうだった、この千歌ちゃんはお嬢を知らないんだったね」


千歌「みんなにはその……私の事は話したの?」

伊波「話してないよ。私が言うべきことじゃないもん」

千歌「そっか……よかった」ホッ

伊波「いつか戻ってくるつもりなの?」

千歌「えっ、それは……」

伊波「ああ、無理して答えなくていいよ。すぐに答えられる問題じゃないからね」

伊波「ただ、気が向いた時に帰っておいでよ。内浦だって千歌ちゃんの帰る場所なんだからさ」

千歌「……はい」

伊波「うん、待ってるよ♪」ニコッ



―――~~~~~♪ ~~♪ ~~~♪



伊波「―――あっ」

千歌「ん? ビルのスクリーンで何か上映してる??」



―――『ホンキをぶつけ合って 手に入れよう未来を~~♪』



「Aqoursだ! この前のライブ映像が流れているよ!」

「もうすぐブルーレイの発売だもんね。予約した?」

「当然でしょう? なんてったって―――」



千歌(おぉ、これが例のAqoursかぁ……凄くキラキラしているし、みんな楽しそうに歌って踊ってる)



―――『未来をどうしようかな!? みんな夢のカタチを~~♪』



千歌(初めて見たけれど、こころちゃんが好きになる理由が分かった気がするな)

千歌「私もスクールアイドルを始めれば、この人達みたいに輝けるかな……?」ボソッ

千歌「……ふふ、なんてね」

千歌(本当だったら存在してはいけない私だよ? そんな私が輝くなんて……)


千歌「行きましょう、伊波さん」

伊波「………」ジッ

千歌「……伊波さん?」


伊波「―――みんな頑張ってるなぁ……“私も”頑張らないとね」フフ

千歌「?? 何かいいことでもあったんですか? 凄く幸せそうに笑ってますけど」

伊波「ん? 何でもないよ」ニコッ




伊波「送ってくれてありがとう。ここまででいいよ」

千歌「あれ? 駅までもう少しなのに……」

伊波「ちょっと人と会う約束があるからさ」

千歌「分かりました。では、またどこかで会いましょう!」

伊波「うん! じゃあ……またね」




千歌「―――行っちゃった。さてと、これからどうしようかな……?」



凛「あっ、千歌ちゃん! おーい!!」フリフリ

花陽「り、凛ちゃん待ってよぉ~」アセアセ

千歌「凛さん、花陽さん!」

凛「怪我の具合は大丈夫?」

千歌「んー……見ての通りって感じかな。入院中の二人よりは大したことないよ」

凛「そっか、良かった」ホッ

花陽「これからその二人のお見舞いに行くんだけれど、千歌ちゃんもどう?」

千歌(さっき行ったんだけどな……)

千歌「―――ま、いっか。いいですよ、一緒に行きましょう」

凛「じゃあ、フルーツバスケット買って行こうよ!」

花陽「いいけど、凛ちゃんお金あるの?」

凛「……にゃ??」

千歌「あ、あははは……」


~~~~~~~~~~~~~



伊波「―――またどこかで、か」


「伊波~!こんな所に居たのね!」


伊波「お待たせしました、お嬢」


鞠莉「もう! 業務中以外は鞠莉って呼びなさいって言ってるでしょう!!」プンプン

伊波「わざわざ迎えに来てくれたの?」

鞠莉「まあね。ついでに東京の方にも行きたかったところだったし」


鞠莉「それで、長期休暇は満喫できた?」

伊波「そうだね……まあまあ有意義な時間を過ごせたと思う」

鞠莉「なら良かった。あ、そうそう……」

伊波「?」

鞠莉「私と合流する前に誰かと一緒だったみたいだけれど、誰だったの?」

伊波「あの子? 東京に住んでる友人の妹さんだよ。ここまで送ってもらったんだ」

鞠莉「ふーん……なんかあの後ろ姿に見覚えがあったんだけれど、私も会った事ある子かしら?」

伊波「お、よく分かったね! 鞠莉ちゃんもよく知る子だよ」

鞠莉「やっぱり! でも誰か分からないのよ……教えてくれる?」

伊波「んー、内緒~~♪」

鞠莉「ええー、どうしてよ!?」

伊波「そのうち向こうから会いに来てくれるから、それまでのお楽しみ」ニコッ

鞠莉「むぅ……じゃあヒント! ちょっとくらいいでしょ?」

伊波「ヒントねぇ……強いて言うならば―――」

鞠莉「……ごくり」


伊波「―――“今、みんなが一番会いたい子”かな?」






End.

ここまで読んで頂きありがとうございます。
最後に別の過去作と最初のリンクが上手く貼れなかったのでもう一度

前作
千歌「カタストロフィ…か」
千歌「カタストロフィ…か」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497714031/)

過去作
ダイヤ「今夜も」花丸「鬼退治ずら!」
ダイヤ「今夜も」花丸「鬼退治ずら!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1505737141/)

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