【モバマスSS】春風に舞う桜吹雪 (8)
モバマスSSです。
和久井留美と福山舞の話です。
ゆるゆると書いていきます。
それはそうと、和久井さんお誕生日おめでとう!!
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あたたかな風がふわりと顔をなでる。
触れたら気が抜けてしまいそうなそれは次々と街を色付かせていった。
熟れた薄紅の満開が人々を酔わせる。
始まりの季節、出会いの季節。
新たな話に花を咲かせれば、未来の種は芽吹きだす。
「……思ったより早かったわね」
駅前のモニュメントで待ち合わせをしていた妙齢の女性、和久井留美は呆れ顔で立っていた。
待ち合わせの相手、細身のスーツを着た男性が頭をぺこぺこさせながら向かっていく。
その後ろには小柄な少女もいた。
「ごめん、道に迷ってしまって」
「プロデューサーさんったら、ちゃんと標識があるのに『こっちのほうがいい』と言って聞かないんですよ」
小柄な少女は福山舞。
そしてプロデューサーはこのアイドル二人の担当だ。
つい先ほどまで舞の仕事があり、プロデューサーはそれに付き添っていたため、留美とはここで合流という話だった。
まだまだ時間に余裕はあるので問題ないが、待ち合わせの時間から三十分もモニュメントの前で立ちっぱなしだった疲労はため息に表れた。
「あなた方向音痴なんだから下手なことしないの……」
「はい……」
ここから電車に乗って明日のロケ地へ移動する。
前日入りにしたのは、ロケ前に少しでも現地の様子を掴んでおこうと観光するためだ。
三十分に一本は電車が来るくらいのところなので距離の割に都会との差はさほどあるわけではないが、現地に到着してすぐロケ、というのもなかなかしんどい話だろう。
それにとても真面目な二人なので、下見をしてしっかりとしたレポをしたいという申し出もあった。
彼女らを知る世間の人々は真面目で優秀というイメージを二人に対して持っているが、それはおそらく二人をしっかり写したものだと言えよう。
「さて、どのあたりを見て回ろうかしらね……」
「あっ、あそこはどうでしょう、桜がきれいですよっ!」
明日のロケの打ち合わせに入ったプロデューサーを残して、留美と舞は散策に出た。
このあたりでは今がちょうど桜の見頃で、平日だが観光に訪れた人がちらほら見受けられる。
二人もまずはちょっとした花見をと、河川敷へ足を運んだ。
「わぁ……すごい……」
所狭しとばかりに広がる真っ盛りの桜が川面に輝いていた。
踏み入れば、快晴の群青、満開の薄紅、息吹の若草、それぞれが際立ちつつ調和する、見事なコントラストに染められていく。
さほど離れたところではないとはいえ、都心でこのような風景を見ることがなかった二人は、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
日もまだそれなりに高い時間のはずなのに肌寒く感じるのは、標高のせいだけではないのだろう。
この風景が少し話題になったことがかつてあったらしい。
それ以来、写真家をはじめとしてこの場所はちょっとした隠れ名所となっている。
なるほどちらほら見られた観光客と思しき人たちがみな高価そうなカメラを持ち歩いていたわけだ。
ソーシャルメディアの発達した今ならここの写真がアップロードされれば話題になるはずだとも思われたが、都心から三時間ほどの旅程を、それも三十分に一本しか電車が来ないようなところにまではソーシャルメディアに夢中な人たちがわざわざ来ることもないのだろう。
もっとも、そうやって人が殺到しないおかげでこの穏やかな風景は食いちぎられずに済んでいる。
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