白菊ほたると不思議体験その2 (28)
・白菊ほたる、安部菜々のコミュ1以前の話として書いています
・その名の通り白菊ほたるが奇妙な体験をする内容です。
・事務所が潰れて路頭に迷ったほたると地下アイドル時代の菜々さんが同居しています
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その1・おはようからお休みまで
菜々「えー、不審者さん不審者さん」
???「はい」
菜々「すごい痩せててボロボロの服を着た不審者さん」
???「……はい」
菜々「目の下すごいクマの不審者さん」
???「不審者不審者言わないでください。先ほども説明しましたが私は不審なものでは…」
菜々「ナナがバイトから戻ってきたら勝手にナナたちの部屋にいたのに?」
???「うぐぐ」
菜々「しかも冷蔵庫勝手に漁ろうとしてたのに?」
???「お恥ずかしい」
菜々「その上冷蔵庫開けたところで力尽きててナナに取り押さえられたのに、不審ではないと」
???「すみません確かに不審者です(土下座)」
菜々「不審だけど見た目と状況があまりに不憫で、ついご飯作ってあげてしまいました・・・」
???「菜々殿の優しさとご飯のおかげで、文字通り生き返りました」
菜々「まあでもそれはそれ。このあと警察に来てもらいます。ほたるちゃんが学校から帰る前でほんとによかった」
???「私には使命があるのです! 何卒そこはご勘弁を」
菜々「ナナも事情によっては見逃してあげようと思ったんですが」
???「是非、是非」
菜々「でもあなた、ナナの問いに全然真面目に答えてくれないんだもん」
???「私は至極真面目ですよ!?」
菜々「じゃあここでもう一度自己紹介をどうぞ」
???「どうも、白菊ほたるさんに憑いている福の神です……いや本当なんです! だからその古びたガラケーを置いてください!」
菜々「福の神を名乗って家の中にまで入り込んでくるストーカーが居るなんて知ったらほたるちゃんがどう思うか!!」
自称福の神「いや本当、本当なんです!!ほら見てください!!(シュバババ)」
菜々「なんか分身した!?」
自称神「次はこう!」
菜々「消えた! 大きくなった! 元に戻った!!」
自称神「どうです、貴女のご飯で復活したこの力。信じて貰えましたか(ぜいぜい)」
菜々「でもどう見ても福の神って感じじゃないですよ。 痩せてボロボロで」
自称神「恰幅よくて身綺麗にしてる福の神なんてフィクションですよ」
菜々「福の神がフィクションとか言ってる」
自称神「人間が幸せになるのと不幸になるのと、どっちが簡単だと思いますか。 不幸になりたいと言う者と不幸になりたい者、どっちが多いと思いますか。 福の神は皆加重労働でヘロヘロです!」
菜々「夢のない話聞いちゃったなあ」
福の神「信じていただけますか」
菜々「うーん、信じないでもないですが」
福の神「ありがとうございます!」
菜々「待って待って。その福の神がなぜ冷蔵庫の前に倒れていたんですか」
福の神「私は白菊ほたるさんに取り憑いているのですが」
菜々「言ってましたね」
福の神「あの子はあんな調子だ。私は彼女から片時も離れず福を呼ぶべく奮闘していたのですが……ついに力尽き姿を隠すこともこの部屋からでることもできず腹が減って死にそうで」
菜々「それでうちの冷蔵庫漁ろうと……っていうか、ほたるちゃんて福の神がついててあんな感じんなんですか!?」
福の神「残念ながら」
菜々「福の神さん職務怠慢じゃないですかね」
福の神「いやいや、あなたは不幸というものの力を甘く見ている。先ほども言いましたが、世の中は不運の力の方が強く、その中でも彼女の不運は並外れて強い」
菜々「うわあ」
福の神「それでまあシャレにならない不幸が彼女に降りかからないよう私が色々抑制したりしているわけです」
菜々「抑制って…ほたるちゃんの話を聞く限り大概シャレにならない話ばっかりでしたが」
福の神「えーと『アイドルを目指す女の子』系でシャレにならない不幸というと(めくりめくり)」
菜々「えええ何そのノート」
福の神「ありました『第十位。無事努力が実り、アイドルになるけれど』」
菜々「あれ?」
福の神「『そのせいで持ち慣れない大金を手にした両親の人が変わってしまって』」
菜々「ち、ちょっと待ってちょっと待って」
福の神「『喧嘩ばかりするようになりついには離婚、その後も次々に事件を起こしたり変わり果てた姿で金を無心』」
菜々「やめてー!そういうのやめてー!!」
福の神「ね。シャレにならないでしょう」
菜々「ならないにも程があります!!」
福の神「『上げて落とす』は基本ですからね……彼女の不幸はとても大きい。私が守っていなければきっと早々に不幸に食いつぶされてしまったでしょう」
菜々「なるほど―――あれ」
福の神「どうしました?」
菜々「そんな重要な福の神さんが、今はほたるちゃんの側に居ない?」
福の神「そうなります。だから食べて力を取り戻したらすぐ彼女の元に戻るつもりで……」
電話『ジリリリリーン!!!』
菜々「うひゃい、も、もしもし、安部でございます……え、事故!?ほたるちゃんが!?」
福の神「しまった、遅かったか!」
菜々「はい……はい」
福の神「今彼女には私の加護が無い。 死亡、いや一生全身に麻痺が」
菜々「福の神さん黙ってて!」
福の神「はい」
菜々「はい……はい……解りました、ありがとうございます。 向かいますね(電話切る)」
福の神「ど、どうでしたかあの子は」
菜々「……かすり傷だそうです」
福の神「えっ」
菜々「信号無視の車が突っ込んで来たんですが、一緒にいた友達が素早く見つけてくれたので無事だったって」
福の神「 」
菜々「避けるとき慌てて転んじゃっただけだって。 車は電柱にぶつかったけど、ほたるちゃんが手早く救急車とか警察を呼んだから運転手さんも大したことなかったって……よかったー!! よかったとか言っちゃいけないけどよかった!」
福の神「……」
菜々「もう、福の神さんが脅かすから、ほんとどうなることかと……一応、検査のために市民病院に行ったそうです。福の神さんも一緒に行きましょう」
福の神「……」
菜々「福の神さん、どうしたんですか。元気ないですよ?」
福の神「……私は行きません」
菜々「えっ、でも」
福の神「―――私は先ほど、菜々殿は不幸を甘く見ていると言いました。私が守っていなくては彼女は早晩不幸につぶされただろうとも」
菜々「は、はい」
福の神「私は、私が守っているから彼女はやっていけているのだと思っていた。だから、事故が起きたと聞いたとき、私は彼女はもうだめだろうと思った」
菜々「……」
福の神「だが、そうではなかった。甘く見ていたのは、自惚れていたのは、私の方だったのかもしれない」
菜々「甘く?」
福の神「彼女自身が不幸に負けず、たくましくなろうとする。そういう彼女の周りに、彼女を好いて、助けようとする者も現れる。 そういうものの力を、です」
菜々「……」
福の神「本当に私は、あの子はもう駄目だ、と思ったのです…だけど、そうではなかった。近くで見ているつもりで、私はあの子の中で、その周りで育ちつつあるものを見ていなかったのだ」
菜々「福の神さん」
福の神「私は一度、消えます―――そして遠くからあの子を見て、彼女に本当に自分が必要なのかどうか考えたいと思います」
菜々「福の神さん―――」
福の神「菜々殿、食事、本当にありがとうございました。では」
菜々「あ、あの!!」
福の神「?」
菜々「どうなるにしても、忙しいのは変わらないでしょう? ナナ、ときどきお供え物作っておきますから!」
福の神「菜々殿」
菜々「本当に貴方が必要なとき、倒れたりしないように、ね!」
菜々(ありがとう、って小さく言って、福の神さんは消えました)
菜々(その後、福の神さんがほたるちゃんから離れたのか。今も側にいるのか、ナナには解りません)
菜々(解らないと言えば、本当にあの人が福の神だったかも、確かめようがないことです)
菜々(だけど、あの人がほたるちゃんを心から案じていたのは本当だったと、ナナは思います)
菜々(だからナナは、あの福の神さんへのお供え物を、今日も欠かさないのです…)
(おしまい)
その2・ふくしきこきゅう
●夕暮れの安アパート
ほたる「た、大変です菜々さん!(大慌てでアパートに帰ってくる)」
菜々「あ、お帰りなさいほたるちゃん……どうしたんですかそんなに慌てて」
ほたる「出たんです!」
菜々「出たってなにが」
ほたるのお腹『世の中思うにまかせない~♪』
ほたる「お腹から声が!!」
菜々「いや『お腹から声を出す』ってそういうのじゃないですからね!?」
【回想】
白菊ほたる「うーん……」
安部菜々「あらほたるちゃん、何か悩み事ですか?」
ほたる「実は思うように声が出なくて」
菜々「以前一緒にレッスンしたときも思いましたが、じゅうぶんお腹から声が出てないのではないでしょうか」
ほたる「お腹、ですか」
菜々「お腹から声を出す、なんて言いますね。今度一緒にレッスン行くときにコツを教えてあげましょう」
ほたる「お願いします。私も、練習してみますね」
【回想おわり】
菜々「先日確かにそんなやり取りをしましたが、まさかこんなことになろうとは」
お腹『なんだかとっても不安なの~♪』
菜々「いい声で辛気臭いこと言ってますねえ……」
ほたる「私、私どうしたらいいんでしょう」
菜々「うーんちょっとお腹拝見」
ほたる「きゃっ」
菜々「うわー白くてすべすべ」
ほたる「そ、そういうのはいいですから」
菜々『見られるのって恥ずかしい~♪』
菜々「別に口がついてたりするわけでもないですねえ」
ほたる「そんな妖怪みたいな」
菜々「でもそうすると、どうして声が出ているんでしょう。もしもしお腹さーん?」
お腹「……」
菜々「お腹が自分の意思で話してるってものでもないんでしょうか……一体何がきっかけでこんなことに?」
ほたる「実は……」
【再び回想/放課後の音楽室】
ほたる「らー、らー……」
ほたる「やっぱり声が伸びない……」
ほたる(まだちゃんとレッスンも出来ていないし、手探りで結果も出ない……こんなことで、本当にアイドルになんて……)
級友「あら、まだ残ってたの白菊さん」
ほたる「あ、こ、こんにちは……」
級友「相変わらず辛気臭い顔ねえ……」
ほたる「ご、ごめんなさい」
級友「このごろいつも練習してるよね。何かうまくいかないの?」
ほたる「あ、その……」
級友「アタシ小学校から合唱部だから、歌の事なら少し教えられると思うけど」
ほたる「……いいえ大丈夫です」
お腹『そう言ってくれるのは嬉しいけど、あなたに不幸で迷惑かけないか不安なの~♪』
ほたる「!?」
級友「!?」
お腹『突然なんなのこの声は~♪』
級友「知らないわよ!ていうかやたらいい声ね!?」
ほたる「え、あのあの」
級友「でも水臭いじゃない。そういうの気にしないで頼ってよ。みんな気にかけてるんだから」
ほたる「え……」
級友「いつも辛そうだし、アタシたちにも何かできないかなって……ね、今日からほたるちゃんて呼んでいい?」
お腹『う~れ~し~い~♪』
級友「なんて綺麗なビブラート」
【ふたたび回想終わり】
ほたる「ということがあって……!」
菜々「反応に困りますねえ……」
ほたる「どうしたらいいんでしょう」
菜々「菜々に聞かれてもわかんないですよ!?」
ほたる「そう、そうですよね……」
菜々「流石にちょっと唐突すぎて何がどうなってるのか」
ほたる「はい……ごめんなさい、急にこんなことで、驚かせて」
お腹『私どうなっちゃうんだろう~恐いよ~♪』
ほたる「あ……」
菜々「ほたるちゃん……」
ほたる「あ、あの、これは違うんです」
菜々「うーん?(おなかしげしげ)」
ほたる「あの、菜々さん……?」
菜々「ほたるちゃん。 今から私が言うことに全部『大丈夫』って答えてください」
ほたる「え?突然何を……」
菜々「いいから」
ほたる「は、はい……」
お腹『わけが解らないいけど菜々さんが言うことならきっとわけが~♪』
菜々「早起きは平気ですか?」
ほたる「大丈夫です」
菜々「アパートでの暮らしには慣れましたか?」
ほたる「大丈夫です」
菜々「ご実家が恋しくないですか?」
ほたる「……大丈夫です」
お腹『おかあさん~♪ 恋しい~♪』
ほたる「あうう(////)」
菜々「ピーマンは嫌いですか?」
ほたる「大丈夫です」
お腹『臭いがすこしだけ苦手~♪』
菜々「アイドルに絶対なれると思いますか?」
ほたる「……大丈夫です」
お腹『不安です~♪ 恐い~♪ 本当は~♪』
ほたる「あ、あっ」
お腹『ダメなんじゃないかって~♪何かあるたびに~♪』
ほたる「違います、違います!」
お腹「ち~が~わ~な~い~♪」
菜々「高音の伸びが凄い……!!」
ほたる「いえそうじゃなくて……!!」
菜々「でも、何をどうすればいいか解りました!!」
ほたる「えっ!?」
菜々「ほたるちゃん、カラオケに行きますよ! カラオケ!!」
ほたる「えええええ」
●30分後/近所のカラオケ屋
店員「はいご注文の飲み物とスナックでーす」
菜々「ありがとうございまーす」
店員「確認です。三時間のご利用、終了15分前に一度内線でご連絡します」
菜々「はい、よろしくお願いしまーす」
ほたる(ぽかーん)
菜々「さあ、準備できましたよ」
ほたる「あ、あの……」
菜々「今から色々曲を入れて、うんと大きな音を出します」
ほたる「は、はい」
菜々「そしたらここで何を叫んでも、絶対外には聞こえなくなります」
ほたる「……」
菜々「だからほたるちゃんは叫んでください」
ほたる「叫ぶって、何を……」
菜々「そうですね、まずはお母さんに会いたいって」
ほたる「え、ええっ」
菜々「お母さんにして欲しいこととか、こうだったらいいのにとか。それから、今不安に思ってることを。出来るだけ。叫べるだけ」
ほたる「そ、そんな事になんの意味が」
菜々「お腹の声を消すためです」
ほたる「消えるんですか、そんなことで」
菜々「保障しますよ」
ほたる「じ、じゃあ……お、おかあさんにあいたーい!」
菜々「もっとお腹から声を出して!」
ほたる「会いたいー!!」
菜々「子供のころ泣いたことを思い出して。お腹いっぱい空気を吸って!!」
ほたる「会いたいーーー!! ぎゅってしてほしいーーーー!!」
菜々「はい、もっともっと! 今不安に思ってることは?」
ほたる「―――」
菜々「ほら、思ってることは!? 一生、お腹から声が出るビックリ人間大集合として生きるんですか!」
ほたる「……そんなのいやーー!!」
ほたる「―――本当に、私、アイドルになっていいんですか!!」
ほたる「私が、私が―――人を不幸にする私がアイドルを目指して、いいんですかーーーーっ!!」
ほたる(何か堰が切れたように、私はいっぱい叫びました)
ほたる(いつも不安に思ってること、隠してること。大丈夫ですと言い続けてきたこと)
ほたる(ずっとずっと口にしなかった色々なことを、叫びました)
ほたる(いつの間にか、涙を流していました)
ほたる(子供が泣くみたいに、遠慮なくわあわあ声を出して泣きました)
ほたる(そして沢山の事を叫んで叫んで、へとへとになって全てを吐き出して、そして)
ほたる(いつの間にか、私のお腹は何も言わなくなっていました―――)
●帰り道
菜々「はいテストです。ピーマンは嫌いですか?」
ほたる「大丈夫です」
お腹「……」
ほたる「もう、何も言わないですね」
菜々「よかったよかった」
ほたる「……」
菜々「ほたるちゃん?」
ほたる「あの声は、どうして出たんでしょう」
菜々「おぼしきこと言はぬは、腹ふくるるわざなり」
ほたる「えっ?」
菜々「兼好法師さんでしたかねえ。言いたい事を言わないと、そのうちお腹がふくらんじゃうよって―――言いたいこと言うのも大事だよって意味の言葉です」
ほたる「……」
菜々「ほたるちゃんはいろんなことを堪えて生きてきたんじゃないかな。言いたいことを沢山こらえて、弱音を吐かずに、いい子で―――」
ほたる「そんな……」
菜々「だけど、言うことも大事なんですよ。ほたるちゃんは何も言わなすぎるから―――きっとそれでお腹に、ほんとは言いたかった言葉が溜まりすぎて、ふきだして来ちゃったんじゃないかなあ」
ほたる「菜々さん……」
菜々「たまに弱音を吐くといいんですよ。なんにも弱音言わない人間なんて不健康です―――あのね、よければ菜々に聞かせてくれたら、嬉しいです」
ほたる「―――はい」
菜々「さ、スーパーに寄って、帰りましょう。今日はほたるちゃんの好物いっぱい作ってあげますよ。遠慮なしで言ってくださいね」
ほたる(菜々さんはそう言って、私の前に立って歩き出しました)
ほたる(夕陽に染まる、小さな背中)
ほたる(―――黙って私の叫びを聞いてくれた菜々さんの背中)
ほたる(私にはああ言ってくれたのに、弱音なんて言ったことのない菜々さんの背中)
ほたる(おぼしきこと言はぬは、腹ふくるるわざなり)
ほたる(菜々さんのお腹は、膨らまないのでしょうか。それが大人なのでしょうか)
ほたる(私もいつか、菜々さんの弱音を聞いて、お腹をへこませてあげられる日が来るのでしょうか)
ほたる(そんなことを考えながら見詰める菜々さんの背中は、私に色々なことを語ってくれているようにも思えるのでした―――)
おしまい
●おまけ
菜々さんの背中『このごろ肩こりひどいんです~♪』
ほたる「菜々さん……」
菜々「いや『背中で語る』ってこういうことじゃないですからね!?」
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