透明人間「私は無色で無職です!」面接官「……」 (25)

面接官「あれ……? 声はしたのに、姿がどこにもないな……」

面接官「次の人は欠席か……」

透明人間「いえ、ここにおります!」

面接官「え?」

透明人間「履歴書にも書いた通り、私は透明人間なんです!」

面接官「なにかの比喩表現かと思ったら、まさか本当に透明人間だったとは……」

面接官「まぁいいでしょう。まずは自己紹介をお願いします」

透明人間「私は無色で無職です!」

面接官「……」シーン…

透明人間(あ、あれ? 渾身の自己紹介のつもりだったのに)

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透明人間「……以上が志望動機です!」

面接官「えぇと……ではなにか特技はありますか?」

透明人間「通信教育や通信講座で色んなことを習ったので、大抵のことはできます!」

透明人間「英語を話せますし、コンピュータも得意ですし、護身術もマスターしてます」

透明人間「料理の腕前には特に自信が……」

面接官「ほう、それは素晴らしい」

透明人間「で、では……雇っていただけますか!?」

面接官「……しかしねえ」

面接官「やはり、透明人間ではウチの社の業務は務まりませんよ」

透明人間「え……」

面接官「他の従業員とコミュニケーションを取りにくいし、お客にもいちいち説明しなきゃならないし」

面接官「なにより、どこにいるか分からないんじゃ、危なっかしくてしょうがない」

面接官「申し訳ありませんが、あなたを雇うことはできません」

面接官「お引き取り下さい」

透明人間「!」ガーン

透明人間「ハァ~……またダメだったか」

透明人間(これで何十社落ちたんだろう)

透明人間(透明人間を雇ってくれるところなんて、ないよなぁ)

透明人間(今入れてもらってるアパートからも、そろそろ出てってくれっていわれてるし……)

透明人間(どうすればいいんだ……)

透明人間(見えるようになればマシになるかもしれないけど)

透明人間(衣類はぼくが身に付けたとたんに透明になっちゃうし)

透明人間(ボディペインティングは透明人間としてのプライドが許さないんだよなぁ)

透明人間(だけど、もうそんなこといってる場合じゃない!)

透明人間「よぉ~し、絵の具で自分の体に色を塗ろう!」

透明人間「有色になって、有職になるんだ!」

ペタペタ… ヌリヌリ…

ベタベタ… ヌリヌリ…

透明人間「……これでよし、と」

透明人間「これで町を歩けば、ぼくも普通の人として扱ってもらえるはずだ!」

透明人間(どうだろ……?)ドキドキ…

通行人「うわーっ! なんだあれ!?」

通行女「変な化け物が歩いてるわ!」

透明人間「え」

子供「うわぁ~~~~~ん! 怖いよ~~~~~!」

透明人間「な、泣かないで……」

警察官「ちょっと署まで来て頂きましょうか」

透明人間(うう……ぼくのペイントセンスの無さが災いしたか……)

透明人間(芸術方面だけは、通信教育を習ってもパッとしなかったからなぁ)

透明人間「ふぅ……やっと解放された」ヨロヨロ…

ザァァァ…

透明人間(雨が降ってきた……)

透明人間(お腹すいたよぉ……もう歩けない……)クラクラ…

ドサッ…

透明人間(いや……もう……動けない……)

透明人間(体に塗ってたペイントも水ではげてきたし、このまま誰にも気づかれずぼくは死ぬのか……)

ザァァァ…

透明人間「……」

ザァァァァ…

女主人「!?」

女主人(この大雨の中、あそこの地面だけ人の形に濡れてない……)

女主人(よく分かんないけど、あそこにいるのはもしかして透明人間ってやつじゃないのかい!?)

女主人「ちょいと! しっかりしな!」

女主人「今、助けてあげるからね!」

透明人間「うぅ……」

……

…………



透明人間「う……ここは……?」

女主人「目が覚めたかい?」

女主人「あんた、雨の中ずぶ濡れで倒れてたんだよ。雨のおかげで透明なあんたに気づけたんだ」

透明人間「あなたが助けてくれたんですか……ありがとうございます」

女主人「いいんだよ。困った時はお互いさまさ」

女主人「とりあえず、スープでも飲むかい?」

透明人間「いただきます」

透明人間「……」ジュル…

透明人間(うっ……!? こ、これは……!?)

女主人「あ、やっぱりまずい?」

透明人間「いえ、そんなことないです! おいしい……です!」

女主人「ふふっ、無理しなくていいんだよ」

女主人「実はあたし、昼はパート、夜は夜だけ夕ご飯専用料理店なんてのをやってるんだけど」

女主人「あたしのキャラクターや喋りで来てくれる常連さんは多いんだけどさ」

女主人「料理だけはどうしても苦手でねえ。今一つ繁盛しないのさ」

透明人間「……」

透明人間「だったらぼくに料理を作らせてもらえませんか?」

女主人「え?」

女主人「あんた、料理できるの?」

透明人間「できます!」

透明人間「こう見えて……って見えないでしょうけど、料理には自信があるんです!」

女主人「へぇ~、だったらやってもらおうかい」

透明人間「はい!」

透明人間「よっ、ほっ、よっ」サッサッサッ

ジャッジャッ… ジュワァ… テキパキテキパキ…



女主人(あたしの目には調理器具や材料が空中で動いてるように見えちゃうけど)

女主人(それでも分かる! この透明人間の料理の腕は本物だって!)

透明人間「食べてみて下さい!」

女主人「……」モグッ

女主人「うん、おいしい!」

透明人間「ありがとうございます!」

女主人「いうだけのことだけはある! いや、それ以上だ! 店を出せるくらいの腕前だよ!」

透明人間「あの、でしたら……」

透明人間「ぼくをお店で雇っていただけませんか? 一生懸命働きます!」

女主人「こっちからお願いしたいくらいさ。これからよろしく頼むよ」

透明人間「はいっ!」

女主人「はい、お待ちどお!」

客A「お、来た来た!」

客A「うん、うまい! 女主人さんは可愛いし、メシはうまいし、この店は最高だ!」

客B「ああ、近頃は夜ここに通うのがますます楽しみになったよ」

客C「仕事で疲れた体にはたまんねえや!」

女主人「みんな、ありがとう! これも新しい従業員のおかげだよ」



透明人間(よかった、みんなぼくの料理で喜んでくれてる……)

客A「そうだ、新しい従業員の透明人間君も一緒に飲まないか?」

客B「おお、そうだそうだ」

客C「へへっ、透明人間といっぺん飲みたかったんだ!」

女主人「こらこら、彼はあんたらのオモチャじゃないんだよ」

透明人間「いいんですよ。女主人さんさえよければ、お付き合いさせて下さい!」

ワイワイ… ガヤガヤ…

やがて――

女主人「今日もお疲れ様。おかげさまで大盛況だったよ」

女主人「特に、あんたが考案してくれたところてんや寒天が並んだ“透明定食”が好評だったね」

透明人間「ありがとうございます!」

透明人間「ところで、女主人さん……」

女主人「ん?」

透明人間「女主人さん、これからもぼく、この店でずっと夕ご飯を作りたい!」

透明人間「ぼくと一緒になってくれませんか!」

女主人「……」

透明人間「……」

女主人「待ってたよ、その言葉を」

透明人間「え……」

女主人「あんたさえよければ、あたしもあんたと一緒になりたかった……」

透明人間「女主人さん……!」

ガシッ…

……

…………



記者「なるほど、これがあなたと奥様の馴れ初めだったわけですね」

透明人間「そうです」

透明人間「妻がいなければ、私はあの雨の中、きっと野垂れ死んでいたでしょう」

透明人間「本当に感謝しています」

記者「そして、あなたというパートナーを得たことで奥様の料理店も大繁盛に至ったと」

透明人間「ええ、食品会社からうちのメニューを商品化していただいたりもして」

透明人間「これからもおいしい料理を皆さまに提供したいと思っています」

記者「では最後に、透明人間さんから一言お願いします」

透明人間「分かりました」

透明人間「私は無色ですが夕食を作るのは得意です! ぜひ店にいらして下さい!」









― 完 ―

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