憤怒「ちょっと話があるんだけどよ」
傲慢「なんだ?」
憤怒「オレたちっていわゆる“七つの大罪”じゃん?」
傲慢「うむ」
憤怒「オレたちの中で、罪として一番ヤバイのはどれだろうな……とふと思ってよ」
傲慢「それはもちろんワシだ!」
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憤怒「あ? なんでだよ?」
傲慢「傲慢というのは、ようするに自分が偉い、凄いと思うことだ」
憤怒「まぁ、そうだな」
傲慢「これがいきすぎて、自分は世界一偉いなんて思うようになったらどうなると思う?」
傲慢「それこそ世界を破滅させかねない凶行にだって平気で行うだろう……」
傲慢「ゆえに、“傲慢”こそ! ワシこそが七つの大罪で一番恐ろしい存在なのだ!!!」
憤怒「……」
憤怒「だがよぉ」
傲慢「む?」
憤怒「自分に自信を持つっつうのはなにも悪いことばかりじゃねえし」
憤怒「実力が伴ってなきゃ、怖くもなんともなくねえか?」
傲慢「どういうことだ……」
憤怒「たとえばさ、腕力も財力も権力もない奴がいくら傲慢になったところで」
憤怒「怖いどころか悲しいだけじゃん? 笑えないピエロみたいなもんだ」
憤怒「そう考えると、傲慢って一番ヤバイとはいえねえんじゃねえかなって」
傲慢「ならば、キサマは七つのうち、どれが一番危険だと思うのだ?」
憤怒「そりゃもちろん――」ニヤッ
強欲「強欲っしょ!」
憤怒「強欲……いつの間に!」
傲慢「聞き捨てならんな。なぜ、強欲などが一番恐ろしいと?」
強欲「だってさ、欲って際限ないじゃん?」
強欲「千円で十分だった奴が五千円欲しくなり、一万円欲しくなり……って具合に」
強欲「ひとたび欲望が暴走すりゃ、人は強盗したり不正したり悪い手段に平気で手を出すし~」
強欲「こんなにヤバイ大罪は他にないっしょ!」
傲慢「ぐぬぬ……」
憤怒「……」
憤怒「だけど、傲慢にもいったことだが、欲望ってそう悪いことばかりでもねえだろ」
強欲「なんでさ?」
憤怒「たとえば、速く走りたいという欲があったから、人間は自動車を作れた」
憤怒「空を飛びたいという欲があったから、人間は飛行機を作れた」
憤怒「どっちも強すぎる欲がなきゃ、成し遂げられなかったことだ」
憤怒「強欲にゃいい面だってある。つまり、一番ヤバイとはいえねえってこった」
強欲「だったら、アンタはどの大罪が一番だと?」
憤怒「決まってんだろ! このオレ、憤怒よ!」
傲慢「説明してもらおうか」
憤怒「おう、してやるとも! 耳かっぽじって聞きやがれ!」
憤怒「いいか、憤怒――分かりやすくいうと怒りのエネルギーってのは恐ろしいんだ」
憤怒「プチンってなったら、一気に噴火みてえにドカーンとなる」
憤怒「世の中、怒りにまかせて人を殺しちまったなんて事件は珍しくねえ!」
憤怒「憤怒こそ、一番ヤバイ大罪ってことなんだあああああ!!!」
嫉妬「それはどうでしょうかねえ?」
憤怒「嫉妬!?」
嫉妬「怒りのエネルギーはたしかに最大風速はすごいかもしれませんが」
嫉妬「すぐ冷めてしまうケースがほとんどじゃないですか」
傲慢「うむ、その通り。『臥薪嘗胆』という言葉がある」
傲慢「これは薪に臥したり肝を舐めたりして、怒りを忘れないようにしたという言葉だ」
傲慢「怒りをずっと保つということはそれほど難しいということだ」
強欲「それにさ、時には怒ることだって必要じゃん? とても一番とはいえないよぉ!」
憤怒「なんだとォ!? やんのか、コラ!」
嫉妬「まあまあ、ここは怒らず私の話を聞いて下さい」
憤怒「どんな話だよ!?」
嫉妬「もちろん……この私“嫉妬”こそが七つの大罪の中で一番危険だという話ですよ」
憤怒「ハァ!? 嫉妬なんてチンケな感情がなんでヤバいんだよ!?」
嫉妬「おやおや、見くびられたものですね」
嫉妬「ねたみ・そねみといった感情の恐ろしさをご存じないとは……」
強欲「どこらへんが恐ろしいのさ?」
嫉妬「まず、嫉妬というのは非常に粘着質です。憤怒のように簡単に冷めたりしません」
嫉妬「しかも、一度この感情に芽生えたものはさまざまな手段で対象の足を引っ張ろうとします」
嫉妬「これほど恐ろしい大罪が他にあるでしょうか?」
色欲「あら、嫉妬なんて全然大したことないじゃない」
嫉妬「あなたは……色欲!」
色欲「いくら嫉妬したって、人間どうやっても敵わない相手には屈服してしまうものよ」
色欲「粘着質でしつこいことだけは認めるけど、とてもトップに立てる器じゃないわ」
嫉妬「いってくれますね……では、あなたはどの大罪が一番恐ろしいと?」
色欲「決まってるでしょ? アタシよ!」
色欲「色欲の暴走による悲惨な事例はいくらでもあるわ」
色欲「不倫で家庭が崩壊したり、痴情のもつれで殺人事件が起きたり」
色欲「挙げ句の果てに、色欲に溺れた君主が国を滅ぼすことになったことすらある!」
色欲「フフフ、アタシほど身近かつ逃れようがない大罪は他にないわ!」
暴食「いやいや、そんなことないんだなぁ~」
暴食「大罪の中で一番ヤバイのはオイラなんだなぁ~」
色欲「いきなり出てきて、なにを言い出すのよこのデブ!」
憤怒「説明しろい!」
暴食「人間食わなくちゃ生きていけないんだなぁ~」
暴食「だからみんな、“暴食”に目覚める可能性は持ってるんだなぁ~」
暴食「そして、暴食がいきすぎて食料がなくなったら、人類は滅亡なんだなぁ~」
傲慢「下らぬ! キサマの説はいくらなんでも極端すぎるわ!」
強欲「そうそう! だいたい、色欲も暴食も、しょせんオレの一部って感じだしさぁ」
色欲「なんですって!? 強欲如きと美しいアタシを一緒にしないでくれる!?」
暴食「そうなんだなぁ~。食欲は強欲よりすごいんだなぁ~」
強欲「いってくれるじゃんか!」
嫉妬「やはり、一番恐ろしい大罪は、粘着質で長期保存がきくこの私……」
憤怒「いーや、爆発力のあるオレだ!」
強欲「際限のないオレっしょ!」
傲慢「ワシに決まっておる! 傲慢こそ最も偉大で危険なのだ!」
色欲「国だって滅ぼしかねないアタシよ!」
暴食「人類を餓えさせかねないオイラなんだなぁ~」
憤怒「へっ、どうやらみんな譲るつもりはないようだな……」
憤怒「だったらぁ……戦って生き残った奴が、七つの大罪で一番ヤバイ奴だ!!!」
ワアァァァァァ……!
ドカッ! バキッ! ガッ! ドガッ! ズガッ!
暴食「かじってやるんだなぁ~」ガブガブ
憤怒「いだだだだだ! やめろ! ――ええいっ!」バキッ
傲慢「世界一であるワシの顔に傷をつけおったな!」
色欲「ぱふぱふしてあげるわ~ん」パフパフ
強欲「ああ~……もっとやって! もっとお願いしますぅ!」
嫉妬「うぐぐ、羨ましい……!」
ワアァァァァァ……!
ギャーギャーッ! ワーワーッ! ドカッ! バキッ!
憤怒「ハァ……ハァ……みんな……引く気はねえのか……」
傲慢「ぜぇ、ぜぇ、あるわけがない。ワシが一番なのだからな」
強欲「こうなったらとことんやるっしょ! ……ふぅふぅ」
嫉妬「ハァ、ハァ……しかし、このままじゃいつまでも決着はつきそうにありませんねえ」
色欲「ええ……グダグダになってきてるのがよく分かるわ……」
暴食「お腹すいたんだなぁ~」グギュルルルルル…
憤怒(どうすんだよ……。どうやったらまとまるんだよ、この状況……)
『あの~』
憤怒「ん?」
『私、この話の作者……いわば“神様”なんですけど』
憤怒「神様!?」
傲慢「ワシの次に偉い者ではないか。なんの用だ?」
『はい、私、なんとかして“七つの大罪”をモチーフにして』
『面白おかしい物語を作ろうと頑張ってきたんですけど……』
『収拾つかなくなってきちゃったんで、面倒になったし、もう書くのやめます!』
憤怒「は!?」
『だから、あとは皆さんで勝手にやってて下さい! さいなら!』プツッ…
憤怒「ハァ!? もしもし!? もしも~し!」
強欲「話をまとめる役の神様が面倒になったって……どうやってこの争い収めるのさ!?」
傲慢「そうだそうだ! 何とかしろ、憤怒!」
憤怒「オレに聞くんじゃねえ!」
色欲「なにいきなり投げ出してるのよ! 最低の神様ね!」
嫉妬「まったくですよ……妬む気すら失せてくる。どうしたらいいのやら……」
暴食「お腹すいたんだなぁ~」グゴギュルルルルルル…
憤怒「と、とにかく……これで分かったことがある……!」
六つの大罪「怠惰が一番やべえええええええええええええ!!!!!」
― 完 ―
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