上条「キチガイ」 (20)

上条「......」

上条「......」

上条「(あれ、どうして俺はこんなところに)」

上条「(おっかしいなー。コンクリートに鉄格子、そんな物騒なものに囲まれるようなことしたっけか)」

上条「(いや、そんな記憶はない。きっと他の誰かと勘違いされて...)」

上条「ん、他の誰か? 俺からすればそいつはそいつで、そいつからしたら俺は...」

上条「......」

上条「一体誰になるんだろう? 」

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上条「そいつは俺のことを適当に呼ぶわけで」

上条「俺も、おはようって返すんだよな。こんにちわでもいいし、よっと手を挙げるのもありかも」

上条「そうすることで、俺という存在が確かにそこにいることに繋がるわけか」

上条「......」

上条「じゃあ、俺ってなんなんだ? 俺、私、僕、自分、おいら、ウチ...」

上条「そう、名前だ。名前だよ名前」

上条「......」

上条「誰か、俺の名前を教えてくれ」

上条「おーい、誰かー」

「......」

上条「聞こえてるかー? 俺の名前をー」

「......」

上条「私の名前をおしえてください。僕の名前はなんていうの? 」

「...ねぇ、起きたのかな。わたしの声、聞こえてる? 」

上条「んん、勿論! 聞こえてるぞ! 」

「......」

上条「教えてくれるんだよな、俺の名前を」

「...グスッ、良かった、ようやく聞いてもらえるんだね」

上条「ようやく? おかしいな、尋ねたのは初めてじゃないんだが」

「×××はね、私のヒーローなの。暗くて苦しい地獄の底にいた筈なのに、いつの間にか手を握ってくれる人がいてね」

「このままじゃ同じ所に引きずり込むことになると思って、必死に振り解こうとしたけど...」

「×××は放してくれなかった。むしろ、私を引っ張る力は強くなったのかも。ちょっぴり痛かったけど、それ以上に嬉しかったかな」

「けど...」

上条「...なあ、それは俺のことについて話しているんだよな? だったら、もっと」

上条「はっきりと、大きな声で」

上条「名前を呼んでくれ」

「......」

「だけど、やっぱり二人共助かるっていうのは虫のいい話だったのかな。地獄の門から戻る為には対価が必要だったみたい」

「×××はね、記憶を失っちゃったの。生まれてからこれまでの全部。すっからかんのカラッポなんだよ」

「...もちろん、私のこともすっかり。でも、家族のことも忘れてちゃった×××がたった一週間一緒にいただけの私のことを覚えている方がおかしいよね」

上条「...なあ、あんた」

上条「あんたの名前はなんて言うんだ? 」

「......」

「結局、ありがとうって言えなかった。自分だけ助かっておいて、全てを失った×××に対してありがとう? そんなの、絶対におかしいかも! 」

「言えない、言えない! そんなことをしたら、絶対に自分を許せなくなる! 死ぬしかなくなるの! 」

上条「お、おい! 落ち着けよ! 」

「でも、×××がいるから死ねない! ×××が命を授けてくれたのに、私が死ぬ? そんなの、絶対に許されないんだよ! 」

「だから...だから...」

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