機獣幻想記 (39)

かつてこの世界には強大なモンスターが存在した。
そのモンスターは他のモンスターを貪り、人々が住む街を都市を国を蹂躙し続けた。
名のある戦士達がそのモンスターを討伐する為立ち上がったが、強大なモンスターの前に皆散っていった。

そこに1人の男が現れた。
その男は異世界の人間であった。男は『日本人』と名乗った。男の住む異世界の国の名前だったそうだ。
その男の世界で稀に起こる、『神隠し』によってこの世界に訪れたのだ。
そしてその5年後、その男と仲間達によって強大なモンスターはついに討ち取られた。

モンスターを討った男の前に、この世界の神が姿を現した。

神は言った。
『偉業を成し遂げた褒美に、貴方の願いを叶えよう』

男は言った。
『この世界で得た力を持って、元の世界に帰りたい』

神は答えた。
『その願いを叶えよう。1つだけ、元の世界でも力を使えるようにしよう』

男はこの世界で得た力を1つ選び、元の世界へと帰っていった。
世界中で男の英雄譚が広まり、男は『異世界の勇者』と長く讃えられるようになった。


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皆さん、こんにちわ。
私、ごく普通の男子高校3年生でございます。
自身の都合上、『男』と今は名乗らせていただきます。
何故かというと、何故か自分の名前がわからないからでございます。
理由は後ほど。

そんなこんなですが、ただいま私、多分大ピンチです。

兵士「なんだ貴様ァ!!一体何処から現れた!?」

兵士長「どうした!?何があった!?」

兵士「わかりません!この少年がいきなり奇妙な乗り物と共に我々の列に突っ込んできまして」

兵士長「被害は!?」

兵士「4名が軽傷!!この少年の乗り物に衝突されたようです!!これは『機械』で作られているのでは?」

男「えっと……とりあえず降参……です……」アハハ……

高校3年生の夏。

学校が夏休みになった俺は、バイトで貯めたお金で原チャリと免許を取得したので、1人でツーリングを楽しんでいた。

田舎道だから何も考えずに走っていたら、いきなり光が目の前を覆って、次の瞬間には中世の鎧みたいなのを着た兵士のような人達の列に突っ込んでいた。

そして今、その兵士達に囲まれて正座で両手を上げている。
どう見てもアメリカやらヨーロッパやら辺りの外人顔の人達の言葉がわかるのは、今は気にしている場合じゃない。

兵士長「ふむ。この奇妙な『機械』の乗り物……少年、名前は?」

男「は、はい!!えっと……あれ?」

何故だろうか。自分の名前がわからない。
自分の学校や家族、友達の名前とかは思い出せるのに、自分の名前だけはわからない。

兵士長「どうした?言えないのか?」

男「い、いえ!!えっと、なんて言うか……わからなくて……」

ヤバイ。殺される。

兵士長「そうか……おい!この少年は異世界人だ!!おそらく敵対勢力ではない!!」

へ?異世界人?

兵士「ですが兵士長!!敵勢力が異世界人を騙って我が隊列に突撃してきたとは考えられませんでしょうか!?」

兵士長「だとすれば、あの機械が爆発するなりもっと被害を与えるようにするハズだ!!おい!君の国はどこだ!?」

男「え!?えっと……日本ですけど……わかりますか?」

兵士「ニホンジン!?英雄の国か!!」

わかるのかよ!!しかも英雄の国って何!?

兵士長「そうか!!よし、ひとまず私達に着いてこい!!その乗り物も一緒にな!!」

男「は、はい!!」

そう言われて俺は、倒れていた原チャリを起こし、それを押しながら数十人からなる兵士達の列に着いていった。
そして周囲をじっくりと見て理解した。

映画でしか見たことのない鎧を着た兵士達。
どこまでも続いていそうな草原。
行き交う荷馬車。
澄み渡る綺麗な青空に、それを横切る巨大な鷹のような鳥。
ここは自分のいた国、時代。
いや、そもそも世界が違う。

異世界ってヤツだ。

1日目
夕方頃

リザードマン討伐隊 キャンプ地


「おい聞いたか?警邏隊が異世界人拾って来たんだってよ!!」

「おぉ聞いた聞いた!!しかもニホンジンだってよ!!」

「マジかよ英雄の国か!!こりゃあ縁起がいいなーおい!!」

兵士達に拾われた草原地帯にて、大きな岩山で囲まれた広い場所に簡易的に設置されたキャンプ拠点。
いくつも建てられた大きなテントの内の1つに、俺は入れられ、ポツンと椅子に座っていた。
中には、先程話した兵士長と呼ばれている男が共にいる。

兵士長「まぁ、気を楽にしてくれ。といっても突然全く知らない土地に来たんじゃ気も休まらんだろうが」

男「は、はぁ……」

兵士長「さて、何から話そうか……まず、この世界はお前の住んでいた世界ではない」

あ、やっぱり?

兵士長「お前のように別の世界から来た者達を、我々は異世界人と呼んでいる。
統計では月に9~10人ほどこの世界のどこかに現れるんだそうだ」

そんなに!?……まぁ世界中の行方不明になった人の割合から見たらごく僅かだろうけど。

兵士長「お前達の世界を『地球』と呼ぶようだが、我々はこの世界を『バース』と呼ぶ。
あとお前達の世界から来た地理に詳しい者によると、この世界とお前達の世界の広さはほぼ同じくらいだそうだ」

マジか!!広いなこっちの世界も!!

男「あの……さっき言ってた日本が英雄の国って言うのは……」

兵士長「あぁ、それはな」

…………

兵士長「てな事が、昔この世界であった訳だ」

男「へぇー、そんな日本人がいたんですねー」

兵士長「それから、ニホンからやって来た人間が街に来ると縁起がいいって言う話が伝わってな。大体異世界から来る人間の30人に1人くらいが日本人だって話だ」

男「異世界に来る人間が月に10人くらいだから……日本人は3ヶ月に1人くらい来るんですね」

兵士長「まぁ大体だがな」




男「それで……俺はこれからどうなるんでしょうか?」

未知の異世界での自分のこれから行く末を考える。
恐らく簡単には元の世界に帰る事は出来ないだろう。
話を聞くに自分が酷い扱いを受ける事はなさそうだが。


兵士長「とりあえず、異世界の人間にはまず、街の教会で名前をいただくことになっている。今、お前は自分の名前がわからない状態だろ?」

男「えぇ、そうですけど。ていうか教会で名前を?」

兵士長「あぁ。異世界の人間は何故か皆、自分の名前を忘れているんだ。それでこの世界で生まれた者と同様に教会で神様から名前を教えてもらう。
忘れる原因としては恐らくこの世界の『スキル』が関係あるんだが」

男「スキル?」

兵士長「あぁ。この世界では自身のあらゆる技術や能力をスキルという形で現しているんだ。
スキルは神からいただいた、その者の名前に宿るというから、異世界人はこの世界のスキルを得る為に元の名を一度消されるのだろう。
お前も今はわからないだけで、元の世界の能力がスキルとして現れているハズだ。言葉が通じているのもそのお陰だろう」


兵士長が言うにはこの世界のスキルというものはこういう事だ。



・ゲームでいう、戦闘用の魔法や特技だけでは無く、生活におけるあらゆる技術にもスキルというものがある。
(建築スキル、調理スキルなどなど事細かに存在する)

・スキルはあらゆる経験を積む事でレベルが上がる。
(戦闘用のスキルでも必ずしも戦闘による経験が必要という訳ではない。逆もしかり。ありとあらゆる経験が成長に繋がる)

・教会や専用の道具を用いて、複数のスキルを組み合わせ、新しいスキルを覚える事が出来る
(勝手に覚える事もある。自分で考えついて覚える事もある)

・モンスターから得た素材や専用の魔道具からスキルを覚える事が出来る

男「なるほど。要はその人間の才能の可視化みたいなもんか。便利だなー。
……ん?組み合わせ?モンスターの素材?魔道具!?」

兵士長「まぁその辺は実際に試す時に覚えればいい」

男「はぁ……ちなみに兵士長さんはどんなスキルを?」

兵士長「俺か?俺は料理やら木工工作やらがそれなりにレベルが高いが……戦闘面で言えば

身体能力 レベル25
指揮能力 レベル20
片手剣 レベル20

といったところか。細かく言えばまだまだあるが大まかこんなもんだ」

予想を遥かに上回る程にスキルというのは細かく分けられているようだ。

ゲームで言えば、上記のスキルの平均値が兵士長のレベルと言ったところだろう。大体20ちょい。
最大値がわからないので何とも言えないが、レベル100が最大値とするならゲームでは中盤辺りの強さ。個人で言えば中々の実力者ということだ。

男「なんかこう……魔法みたいなモノは使えるんですか?」

兵士長「ハッハッハ!!異世界人は皆、スキルの事を聞くとそう言うらしいな!!」

やはり皆、気になるのはそこのようだ。
魔法。超能力。
陳腐な言葉だが使えるのならば使いたい。
そういったモノが存在する世界に来たのならなおさらである。

兵士長「残念ながら俺は魔法の才能はからきしでな。任務でモンスターを倒して覚える事もあったがレベルが殆ど上がらないのだ。
どれ……『ファイア』!!」ボゥッ!!

兵士長がそう唱えた瞬間、兵士長の手に、握り拳より小さいくらいの炎が生まれた。

男「オオオオオオオ!!!!」

兵士長「これは火を生み出すという簡単な魔法なんだが、これではせいぜい焚き火の火種ぐらいにしかならんのでな。戦闘には全く使えまい」

男「いや、それでも凄いっすよ!!うわぁ本物だ、本物の魔法だよスゲェ!!」

兵士長「そう言われると悪い気はしないな。どれ、魔法は使いものにならないが、俺がファイアを覚えた事によって生まれたスキルを見せてやろう」

そう言いながら、俺と兵士長はテントから出て、外に設置してある丸太人形のようなモノの側に移動した。
ここは簡易的な訓練場のようだ。

兵士長「俺はこのロングソードが主な武器でな。コイツを使い続ける事で片手剣スキルのレベルが上がっていったんだが、ファイアを覚えたらそれと組み合わされてこんな技が使えるようになった」スッ……

兵士長がロングソードを構える。
どうやら目の前の丸太人形に斬りかかるつもりのようだ。

兵士長「ハァッ!!」ブンッ!!

ザシュッ!!

丸太に剣の斬り傷が残る。
漫画のように一刀両断すると思ったが、ロングソードと言うものはそこまで斬れ味があるモノではないようだ。
まぁ丸太の太さも中々だしそう易々両断出来るものでもないのだろう。

ボゥッ!!ボワァァァアアアアッ!!!

男「うわっ!?丸太がいきなり燃え出した!!」

兵士「ちょっと兵士長!!それ使ったら人形が一個駄目になっちゃうじゃないですか!!」

兵士長「スマンスマン。とまぁ、これが俺の覚えた剣技スキル『発火斬』ってヤツだ。斬り口から発火するんだ」

燃え出した丸太人形は、瞬く間に全体に燃え広がっていき、1~2分も経つ頃には完全に炭になっていた。
かなりの火力である。

男「いや、これ魔法じゃないんすか?」

兵士長「何言ってんだ、どう見ても剣技だろう」ハハハ

違いがわからないが、どうやらそういうモノだそうだ。
こんなモノを人間が喰らったら惨い事になるだろう。

兵士長「丸太相手だからあんだけ派手に燃えた訳で、実際は相手の装備によるものや、スキルでの炎への耐性によってはちょっとした火傷で済む程度だがな」

それでも傷口が焼けるなぞ味わいたくもない痛みである。

このように、魔法が苦手な人間が魔法を覚えても、無駄にはならず他のスキルと結びついて新スキルとなる事が多々あるそうだ。

男「ちなみに今の技使うのに、魔力とかMP的なモノは使うんですか?」

兵士長「MP?なんだそりゃ」

とりあえず元の世界のゲームなどを元に、技や魔法の発動と引き換えに消費するモノ、という事を話してみる。

兵士長「んーどうなんだろうなー。魔法を主力に使うヤツらはデカイのを何発も撃つと凄い疲れてるし、俺も剣技を何十回と使えば腕が上がらなって動けなくなるし」

要するにMPのような数値的なモノはない。
単純に撃てば撃つほど体力や精神力を消費するという事だ。
まぁ、実際そんなもんだろう。

兵士長「ま、スキルについての簡単な説明はこんなとこだ。明日の朝には討伐隊が戻って、共に俺らの街に帰れるだろう。
一度街で領主に会い、それから教会で名前をつけてもらうといい。特に問題無ければ補助金が出るし、仕事や勉学先を紹介してもらえる」

男「やけに異世界人に対して充実してますね」

兵士長「まぁ英雄の世界からの客だからな。一通りの生活基盤は整えてやるのが礼儀ってもんだ。
中にはいきなり襲いかかってきたり盗みを働いたりするヤツらもいるようだが、そういう輩に対しては容赦はいらないという事になっているしな」

男「アハハ……」

絶対に悪さはしないようにしよう。
元からする気もないが。

夕暮れ
キャンプ地から北へ3km
リザードマンの巣窟


部隊長「ふぅ……ようやく片付いたか」

草原地帯から森林地帯へと差し変わる境界線付近にある湿地帯。
そこには、街と街を行き交う商人達を襲い、食料や武器などを奪うモンスター、リザードマンの巣があった。

二足歩行で人間大の大きさのトカゲのような風貌のリザードマンは、剣や槍などの武器を扱う知能があり、集団で襲いかかる様は1つの軍隊のような脅威がある。

各地の街にはギルドといったフリーの戦士達がこういった人に害なすモンスター退治を生業とする施設が存在するが
街の流通に関わる事かつ緊急性があった為、今回近くの街に勤める兵士達がこのリザードマンの群れ討伐の任に当たったというわけである。

現在兵士長達20名がいるキャンプ地と、実際に討伐に当たった部隊30名。
合わせて50名というそれなりに規模の大きな任務であったが、兵士長に匹敵する実力者である部隊長の元、無事討伐部隊は損耗も軽微に任務を果たしたようだ。

部隊長「斥候の報告では60体ほどのリザードマンが巣を作っていると聞いたが、実際にいたのは半分がいいところだったな。お陰で一度の襲撃で片付いたが」

「残りは狩りにでも出ているのでしょうか?」

部隊長「日も暮れてきている。商人達の話によると襲われるのは日中が多いという話だ。だからこそ全員が揃い、武装を解除し警戒の薄くなりそうな夕暮れを狙っていたのだが……」

リザードマンは暖かい日中に活動が活発になる。
かといって夜はこちらの目も利かず、向こうも夜襲に備えて警戒を強めるだろう。
そう考えての夕暮れ時の襲撃だ。

「報告します!!巣から更に北に離れた場所に、リザードマンの死体が多数!!恐らく今回襲撃した巣のモノ達かと」

「何?なぜそんなところに奴等の死体が」

「そしてもう1つ!!死体の側には、複数の『機械』の残骸が!!」

その言葉を聞いた瞬間、その場にいた兵士達の顔が強張る。

部隊長「まさか……『魔物』か!?」

「リザードマンに機械を使う知恵がない限り、恐らくは……大破しておりましたが、大きさからして『ヤマイヌ』かと」

部隊長「……ッ!?全員退避!!一刻も早くキャンプへと戻れ!!デカイのが来るぞ!!」

討伐部隊長が声を荒げて、部隊の兵士達へと声を張る。

部隊長「『ヤマイヌ』は言うなれば奴等の斥候だ。それが破壊され、万が一生きている間に奴等に位置情報を流したとしたら……」


ピキッ……
ピキピキィッ……

「報告!!北の空に亀裂が発生!!」

「『魔物』だ!!『魔物』が来るぞ!!」

まもなく日が落ちようとする湿地帯の空に、ガラスにヒビを入れたような亀裂が走る。

部隊長「最悪の展開だ……おい!!1番移動力に長けている奴は誰だ!!」

「新入りですが、高レベルの速度強化スキル持ちのパンサーがいます!!」

部隊長「おいパンサー!!!」

パンサー「ひ、ひゃい!!」

状況を理解しきれていないまま部隊長に名指しで呼ばれ、若い兵士が変な声で返事をする。

部隊長「重い装備を全部捨てて全力でキャンプまで戻れ!!南へ真っ直ぐ走れば、お前ならすぐに着く!!そして兵士長に援軍を……いや……」

ピキピキピキッ!!!!
パキィッ!!!

空の亀裂が一気に広がり、遂には穴が開く。
穴の奥は完全な闇であった。

バチバチッ……
バチバチバチッ……

その穴から、青白い雷光を纏い、巨大な翼を広げた3本脚の1体の巨鳥が現れる。

いや。
巨大な鳥のような『機械』が。


「ヤ……『ヤタガラス』……」ガタガタッ……


部隊長「……兵士長へ伝えろ。今すぐ全隊街へと帰還せよと。ランクSの魔物の襲撃に備え、街を対魔物迎撃体勢に整えよと!!」

パンサー「わ、わかりましたぁ!!」ガチャガチャッ!!

パンサーと呼ばれた兵士はすぐさま鎧を脱ぎ捨て、全力で南のキャンプ地へと走っていった。
時速50kmは出ているだろう。人の脚とは思えない速さである。




『クァァァァァアアアアアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!』

バチバチバチッ!!!




巨大な鳥の機械は既に、完全に次元の穴から這い出ており、周囲の全ての空気が震えるほどの咆哮を繰り出した。

まるで、その赤く発光する目に映る全てのモノが憎悪の対象のように。


部隊長「あぁ……死んだな……クソ」



数秒後、湿地帯は青白い雷光に包まれた。
















八咫烏(ヤタガラス)

神話において、天皇の道案内をしたと言われる三本足のカラス。
導きの神。または、太陽の化身と言われている。














投下終了です。
オリジナルとなっております。特にグロい事やエロい事にはならないと思います。
拙い文章ですが、おヒマな時にでもお読みください。

次の投下は土曜の予定です。

スレタイで6月に復活するゾイドかと思ったけど違った

>>22
あーゾイドがありましたか。紛らわしタイトルになり申し訳ないです。

ゆっくりですが投下します。

キャンプ地


男「俺にもあんな技が使えるようになるんですかね?」

兵士長「どうだろうなぁ。こればっかりは個人の才能と努力がモノを言うからな」

兵士「教会で名前を教えてもらえれば、一緒にスキルも確認できるので、自分のスキルに合った道に進むのが一番いいですよ」

キャンプ地にいる兵士達とはある程度話が出来るようになった。
この世界の人達は自分が異世界人だからと差別するような事もなく、むしろ珍しいと興味を持って話しかけてくれる。

更に、自分が日本人という事で、この世界の英雄の国出身という縁起がいいものとして扱ってくれているようだ。
正直居心地がいい。

兵士長「そういえばお前は元の世界に帰りたいとか言わないんだな。大抵はそう言うそうだし、いきなり別の世界に来たんだから無理もないが」

男「あぁー……俺もよくわからなくて……」

元の世界に帰りたくないという事は無い。
しかし、今すぐ帰りたいというわけでも無いのだ。
原因は自分が高校3年生。進路について悩む時期だからだろう。

これといってなりたいものがあるわけではない。
しかし、時間は待ってくれない。
俺らの世界は夏休み。卒業までもう半年ほどしか残ってないのだ。

男「今自分がどんな仕事に就くのかっていうのを決める時期なんですけど、自分が将来何になりたいっていうモノが無くて……ちょっと現実逃避したい気分なんですよね」

現実逃避に異世界。凄まじいスケールだ。

兵士長「あー、俺もそんな若い頃があったな」ハハハ

男「兵士長さんはどうしてこの仕事に?」

兵士長「俺か?俺は色々悩んだが、昔から腕っぷしは強かったからなぁ。何だかんだでギルドに所属する冒険者か兵士になるんだろうなと思ってたよ」

男「どうやって決めたんですか?」

兵士長「そりゃあまぁ……コレだよコレ」

兵士長がニヤケながら小指を立てて見せる。
女か。
いや、女なのか?こちらの世界でもそのジェスチャーは通用するのか?

兵士長「結婚しようって思った女がいてな。あ、それが今の嫁さんなんだが」

あ、女か。

兵士長「冒険者は一山当てりゃあデカイが安定しねぇし危険も多いからな。それなら兵士として安定した給金を得ようと思ったんだ」

公務員ですねわかります。

兵士長「将来に悩むなら年長者に聞くのも手だ。親父さんとかには相談したのか?」

男「父親は……自分が一歳くらいの頃に仕事中に死んだそうです。こちらでいう兵士みたいなもので。家族は母親と妹だけです」

兵士長「そうか……悪いな」

男「いえ、顔も覚えてないので」

父親は自衛官だったそうだ。
大きな災害の時に、人々を助け、最後には巻き込まれたと。
生活はその時の保険金で不自由なく暮らしていけている。
世間的には立派な父親なのだろう。
しかし会った記憶もないからその実感がない。

自分の名前も父親がつけてくれたらしいが、今はその名前も忘れている。父親との繋がりが切れている状態だ。

兵士長「まぁよ、どんな父親だったか知らんが兵士としての仕事を全うして死んだんだ。お前はそいつの子供なんだろ?胸張っていいんじゃないか?」

男「兵士の仕事って……何ですか?」

兵士長「そりゃあお前、人々を守るってのが俺達の仕事だよ。悪人やモンスター、それに魔物からな」

男「守る……か……」

自分の命さえ守れないのに。他人を助けても自分が死んだら意味がないじゃないか。

兵士長「お前も嫁さんや子供を持てばわかるさ。兵士だけじゃない。男ってのは守るもんがあった方がいいってな」

男「兵士長さんにはお子さんが?」

兵士長「いるぞ。いや、まだ会ってないがもうすぐ生まれる。いや、もう産まれたのかな?
今にも産まれそうって時にこの討伐任務だからな。嫁さんの大事な時に側にいられねぇのは恥ずかしい」

男「え?大丈夫なんですかそれ」

兵士長「俺も辞退しようかと思ったんだがよ。嫁さんが言うんだわ。
『産むのはアタシなんだからアンタは食い扶持稼いでこい!!』ってな。思いきりケツ蹴っ飛ばされちまった」ハッハッハ

男「プッ!アッハッハッ!!!」

兵士長「まぁ、お陰で縁起物と言われる日本人の異世界人に出会ったんだ。子供の名前、男の子だったらお前の名前を貰おうかな」

男「いや、そんなんでいいんですか!?ていうか名前は神様からもらうんじゃ」

兵士長「アレはスキルに結びつく真名ってヤツだよ。熱心な信者はそのまま使ってるけど別に呼び名は親がつけていい」

男「そんなもんですか……ていうか俺自分の名前をまだ思い出してないんですよ?DQNネームとかだったらどうするんですか!?」

兵士長「DQN?まぁ大丈夫だろ。仕事を全うできる兵士が親なんだ。きっと立派な名前さ」

そんな感じで時間はあっという間に経っていき、日はあっという間に沈んでいく。
もうすぐ夜だ。
寝て起きたら、街に行って名前を思い出さなければ。
……あまり自分の名前に何かを思う事はなかったけど、無くしたら気になるもんだな。名前の由来とかも。

そして日暮れ時


ドォォォオオオオオン……


「雷か?雨が降りそうな空には見えないが」

見張りの兵士が北の空に稲光を見つける。同時に雷鳴が。
しかしもうすぐ日が落ちようとする空には雷雲のようなモノは見えない。

兵士長「どうした。今の音はなんだ?」

「はっ!北の空に稲光が見えた為、恐らく雷が落ちたモノと思われますが」

兵士長「雷?この空でか?」

兵士長が空を見上げる。
やはりとても雷が落ちるような空には見えない。

雷を操るモンスターや魔法は存在するが、ここまで雷鳴を轟かすほどの使い手はそういない。

兵士長「……何か嫌な予感がするな。総員、いつでもここから動けるように準備しておけ!」


「「「はっ!!!」」」


兵士長の頭に1つの存在が思い浮かぶ。

『魔物』

この世界には存在しないハズの機械の獣達。
空間の亀裂から現れる、文字通り別次元の存在。

数十年前から現れだした魔物達は、当時のこの世界の人間には未知の技術、『機械』によって作られた生命無き存在である。

魔物達が装備している『銃火器』は凄まじい殺傷能力を持っており、魔物達の斥候の役割を持つと言われている、この世界のモンスターであるウルフ種に形状が似た魔物『ヤマイヌ』によって当時の幾人もの戦士達や人々が犠牲になった。

その後も次々と新しい魔物が次元の向こう側から現れたが、その都度この世界の人々は打ち勝ってきた。
現在、魔物達の残骸から得られる機械や銃火器は、職人達やドワーフ族と呼ばれる高い製作技術を持った者達によって、世界の発展に活用されている。
街の防衛兵器にも、次々に機械による兵器が設置されている程だ。
魔物達は災害であると共に、貴重な資源でもある。

しかし、世界を脅かす災害である事には間違いない。

モンスター討伐を請け負うギルドの危険度ランク付けにて、FからSSSランクまで設定されているが、現在確認されている中で最も危険度の低い魔物である『ヤマイヌ』でさえCランク。

これは、洗練された兵士の一個小隊によって達成可能なレベルということ。

Sランクにもなれば大都市の防衛兵器も含めて、全兵士総がかりの戦争となるレベル。

最高位手前のSSランクは大国単位の戦争に匹敵。もしくはそれ以上の世界の危機である。

歴史上、SSランクはかつて異世界からきた英雄が倒したモンスターしか認定されていない。
万が一、それを超える最高位のSSSランクの魔物、あるいはモンスターが出現した場合、今度こそ世界は滅びるだろう。

兵士長「あの雷が魔物によるものだとすれば……」

モンスターは基本、テリトリーに入った人間や危害を加えない限り襲ってくる事はない。
あるいは食料の為。食物連鎖という言葉通り、生物の世界は循環している。
モンスターの襲撃には理由というものがあるのだ。


しかし、魔物は問答無用で目の前の生物を無差別に攻撃してくる。
いなくなれば場所を変え、更に攻撃する。
生きる為では無く、ただ殺戮を繰り返す。
まるでこの世界の生物を根こそぎ狩り尽くそうとするかのように。


兵士「報告!!討伐隊の兵士が1人戻りました!!パルド族のパンサーです!!」

兵士長「亜人の新兵か!?通せ!!」

パンサー「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

息を切らした1人の兵士が入ってくる。

亜人。

人と獣が混じり合ったような姿をした者達。
遥か昔には亜人への差別などがあったらしいが、今はほぼそんな意識は無くなっている。
もっとも極一部の人間や地域には強く根付いているようだが。


パンサーという新兵は、パルド族と呼ばれる瞬発力に非常に優れた亜人だ。

その並外れた瞬発力で一瞬で獲物を仕留めると言われている。

代わりに体力にはあまり自信がないようだ。パンサーも息を酷く切らしている。

パルド族は本来まだら模様の毛並みなのだが、パンサーは全身が真っ黒である。これが理由で少年期は同族にからかわれたとか。


兵士長「他の奴等はどうした!?」

兵士「それが部隊長から伝言を預かっているようで。ほら、話せるか?」

パンサー「は……はい……部隊長は兵士長に今すぐ街に帰還し、ランクSの魔物の襲撃に備えろと……」ゼェッ……ゼェッ……

パンサーの言葉を聞いたその場の兵士達が凍り付く。

ランクS。

討伐するには大都市の防衛兵器と大量の人員を用いる必要があるとされるモンスター、魔物。

兵士長「……敵は……魔物の種類は何だ?」

パンサー「えっと……『ヤタガラス』と言っていたような……」

『ヤタガラス』

過去に2度出現が確認され、いずれも出現地域の街や村を多く壊滅させたとされる、雷を操る巨大な鳥の魔物。

兵士「バカな……そんなモノが我々の街にやってくればひとたまりもないぞ!!」

魔物は一度出現すれば、自身が破壊されるまで眼に映る全ての生き物を蹂躙する。
ここから一番近い、兵士達の住む街に向かってくるのも時間の問題だろう。

兵士長「だが今すぐ街に戻れば迎撃の準備は出来る。勝てる見込みは少ないが、それでも魔物の存在に気付かず急襲されるよりかは遥かに可能性がある」

パンサーを伝令に出した討伐部隊は全滅だろう。
先程の北に見えた雷は恐らくヤタガラスのもの。
部隊長の自身を犠牲にした判断は、街を救う希望を紡いだのだ。
奴らもまた、己の兵士としての役割を全うした。



兵士長「全員このキャンプ地を放棄!!直ちに街へと帰還し、ヤタガラスの襲撃に備える!!」


「「「はっ!!!」」」


今から全速力で街に戻っても到着は深夜になるだろう。
駿足を誇る兵士、パンサーでも長距離では体力的にそこまでのスピードがでない。
果たしてそれから準備に取り掛かって完全な迎撃態勢をとれるかどうか。






男「あれ?皆さんどうしたんですか?」





兵士長達の前に、異世界からやってきたニホンの少年が現れる。
こちらに来て早々に魔物の襲撃に出くわすかもしれないとは運の無い事だ。
……いや、この少年には確か……

兵士長「少年……もしかしたらお前が街を救う鍵となるかもしれん!!」

男「……え?」

この少年と共にやってきたあの機械の乗り物ならば間に合うかも知れない。

投下終了です。
次回は水曜か木曜に投下予定です。

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