南条光「今日はツインテールの日!」 (16)
「という事で、やってみた! どう? 似合う?」
そう言って、くるりと回ってみせる南条光。その名の通りの二対のふさが、ふわりと踊る。
似合う。
最高。
完璧。
それらの言葉を一旦飲み込む。
「……とても、よく似合ってるよ」
「ありがとう! 」
ぺかー! という擬音が見えそうな笑顔で朗らかに答える。めっちゃいい子やなこの子。
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「あ、そうだ、麗奈は?」
「小関さんならこれからお仕事。そろそろくると思うよ。何か用事かい?」
「用事ってわけじゃないんだけど……ほら、お揃いだからさ」
そう呟き、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
なるほど、たしかに小関さんがステージに立つ時は、大体ツインテールだ。
「アタシ、髪長いけど、あんまり髪型いじったりとかしなかったからさ。今日がツインテールの日って聞いて、お母さんにやってもらったんだ!」
「そうかそうか、お母様にも今度お礼言っとくよ」
「? ……なんでプロデューサーが?」
「いやいやいやいや、こう、深い意味は無くてね、いつもお世話になっています的なね、あれですよ」
そんな他愛も無いをしていると
「おはようございまーす」
やって来ましたレイナサマ
「あ、麗奈! おはよう!」
「あん? 誰よアンタ……ウチの子? 新人? いきなり呼び捨てとはいい度胸だけど、アタシのことはレイナサマと呼んで崇め奉りなさい」
チラと見てそう返すレイナサマ。……え、マジ? 気付いてない? あ、南条さんも固まってる。
「と言うか小さいわねー、アンタ。小学生? ちょっとプロデューサー、紹介くらいしなさいよ。……なに笑ってんのよ。よく見ろって……ん? え、アンタ、光? どうしたのその頭」
気付き、矢継ぎ早に質問を浴びせる小関さん
「なんでわかんないんだよー! そんなに変か!?」
顔を赤くして小関さんに詰め寄る南条さん
「いや、変って言うか……その、髪とか、ちょっととかして基本そのままじゃない、アンタ。いや……ゴメンって、そんな怒んないでよ」
「まあまあまあまあ、南条さん、落ち着いて。ほら、小関さんはお仕事の準備しないといけないからね。ほれ小関さん、メイクさん待ってるから行っといで」
「むー……」
「そんなムクれないでよ、ゴメンって言ってるじゃない。このレイナサマが謝ってんのよ? むしろお礼を言って欲しいくらいだわ」
なんだその理論。
「……可愛い?」
「は?」
「似合ってる? これ」
はあ、と大きくため息をつく小関さん。
「カワイイカワイイ、似合ってるわよ。これでいい? もう行くからね」
そう言って部屋を後にする
「うあー……麗奈ひどい……」
うなだれるなって、髪ボサボサになるぞ
「でもさ、気付かないってある? 服装も……まあ、いつもと違うけどさ」
たしかに、今日はツインテールに合わせたのか、なんとなーくふんわりとした、気持ち女の子のような格好である。
「まあ、いいじゃないか。今日はこれから何人か来るし、見てもらえれば」
「そうだけどさ……」
ううむ、どうしたものか。
思案していると、メイク室から足音が聞こえてくる。
「あ、麗奈戻って来たかな?」
「いやいやいや、早すぎるだろ。まだ10分も経ってないぞ」
などと言っているうちに、ノックがされ、ドアが開く。
「失礼します」
そう言って入って来たのは、まさに絵本から出て来たような、可愛らしい少女だった。
「あの……こちらで挨拶するように伺って来たんですけど……プロデューサーさん、ですよね? それと、南条光さん」
しずしずと、私と南条さんを順に見やる。
……は? え、誰!? 南条さんも固まっている。本日二度目。
「私、今日からこちらに配属になりまして……その、よろしくお願いします」
頭を深々とさげるその子の振る舞いは、まさにお嬢様と呼んで差し支えないものだった
「えーと……初めまして? よろしくね! アタシは南条光!」
流石の南条さん、もうリカバリーして握手を求めに行っている。
「いえ、初めてじゃありませんよ。わかりませんか?」
「え? えっと、そうだっけ? どこかで会ったっけ……」
うんうんと頭を捻る南条さん。どうやら以前に会ったことがあるらしい
少女はその様を見て、笑いを堪えるように震えている。
……あ、わかった。
「ごめん、わかんない!」
「ね? わかんないでしょ?」
そう言って、口の端をニヤリと吊り上げる。レイナサマだ。
「麗奈?……え、麗奈だったの!?」
「うるっさいわね、耳元で大声出さないでよ。これでわかったでしょ? 髪型とか雰囲気とかで、いくらでも別人になれるのよ。
特にアタシたちはアイドルなんだから、それくらいできないでどうすんのよ」
ぐうの音も出ない。
「ま、結局はどんなカッコしててもアタシはアタシだけどね。ただ、それをプロデューサーが見抜けないってのはどうなの?」
イタズラっぽく笑うレイナサマ。ごもっともであるが、しかし……
「化けたなあ。こういう格好の仕事、してみる?」
「絶対イヤ!」
チッ
「舌打ちすんな! ……光」
「え? あ、はい!」
「その、本当に、普段と違ってて気付かなかったってだけだから」
「はい」
「……似合ってるから、自信持ちなさい」
「はい、ありがとうございます」
「何で敬語?」
「なんか、いつもの麗奈って感じがしないなーって、別人みたいでさ」
「今まさにその話してたでしょ!? 聞いてた!? カッコが違ってもアタシはアタシなの!」
「そうなんだけどさ……でも、やっぱりいつもの麗奈の方が好きだな、アタシは」
「ねえ、こいつ引っ叩いていい?」
「やーめろって。と言うか、後ろ見てみろ」
「麗奈ちゃーん、そろそろいいかな? もう準備しないと……」
メイクさんが様子を見に来ていた。どうにも押しているようで、申し訳ない
「あ、ごめんなさい! すぐ行きます」
そう言って、小走りにかけて行く。
「凄いなあ、麗奈」
「凄いねえ」
「アタシもあれくらいできるようにならなきゃなあ」
「できてるでしょ」
「え?」
「だって、南条さんの今のカッコを見て、小関さんはわからなかったし、対抗してあの格好をしたわけでしょ?
なら、少なくとも小関さんからしたら、あれくらい可愛く見えたって事なんじゃないかな」
「そうかなあ……へへ、そっか。可愛いかあ、アタシ」
恥ずかしげに微笑む。最高かよ。
程なくして、小関さんが戻ってきた。いつもの舞台衣装と、おなじみのツインテールだ
「何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」
「ふふふ、お揃いだな、麗奈!」
「そうね、アタシの方が似合ってるけど」
「アタシ、ツインテール似合わないかな?」
「そうじゃないけど、やっぱり年季の違いよ、こういうのは。見慣れないから、違和感の方が強いもの。あんたもステージではこっちにしてみれば?」
「ツインテールのヒーロー……うーん、どうだろう」
「どっちかって言ったら魔法少女ね」
「魔法少女でヒーローでアイドル! ……いけそう!」
「盛りすぎじゃない? それ」
「お話もいいけど、小関さんはそろそろお仕事だからね。ほら、行くよ。送ってから」
「はーい、じゃ、後でね、光」
「うん! プロデューサーも、行ってらっしゃーい!」
そう言ってブンブンと手を振る南条さんを背に、小関さんとお仕事へ向かう。
――
「ねえ」
「はい?」
「光、可愛すぎない?」
「それな」
「データ」
「こちらに」
「ん、見返りは?」
「先ほどの格好を、改めて披露する場を」
「……一回だけよ」
「御意に」
後に三好紗南を巻き込み、三人でツインテール部に殴り込みをかけるのは、また別のお話。
おわり
ニューヨークはまだツインテールの日だから(震え声)
南条さんのSSRください
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