【荒木宅】


比奈「最近事務所で流れてるウワサ、友紀ちゃんは知ってるっスか」ﾎﾟﾘ

友紀「ウワサ？」

比奈「ヒントはアタシら２人のことっスね」

友紀「あたしら？ あたしと、比奈ちゃん？」

比奈「っス」

友紀「うーん……」



友紀「…あ、」

比奈「？」

友紀「ビール切れちゃった…」

比奈「はいはい」ｽｯ

友紀「さんきゅー♪」ｶｼｭ

友紀「ウワサねえ、ウワサうわさ…」

比奈「どしたのわさわさ」

友紀「ウサ？」

比奈「うさぎっスか」

友紀「ぴょんぴょーんってねー♪」

比奈「うさぎっスね」

友紀「ウサコちゃんの気持ちになるですよー」

比奈「ははは、仁奈ちゃんのマネっスか」

友紀「そうそう」

比奈「友紀ちゃんキャッツ推しだったような…。ねこっぴーくんじゃなくて良いの？」

友紀「だーいじょぶだって！ 本家は兎なんだし、ご先祖様みたいなもんだから！」

比奈「本家？」

友紀「こっちの話だよーん♪」

比奈「はぁ」

友紀「で、ウワサでしょ？ んーとね、うーんと……、」

友紀「自由契約、とか」ﾎﾟﾂﾘ

比奈「テンションの落差えげつなっ！」

友紀「そう、落差…。いいかい比奈ちゃん、人生ってのはね、フォークボールと同じなんだ」

比奈「なんか始まっちゃった」

友紀「消えるように急に落ちて、人生空振り三振バッターアウト。誰も拾ってくれなきゃ後は転がってくだけの転落生活…」

比奈「重い重い！ そんな重い話じゃないっスから！」

友紀「そうなの…？」

比奈「そうっスよ」

友紀「大魔神が登板した時並みの絶望がこの先…」

比奈「無いから安心してほしいっス」

友紀「よかったー…。 この先どうしようかと思ったよ」

比奈「真っ先にクビの話題出てくる友紀ちゃんの方がよっぽど心配っスね…」

友紀「いやほら、最近そういう話題ばっかりでさ。暗くもなるよねぇ」

比奈「…え？ ちょ、ガチで身の周りにあるんスかそういう話」

友紀「ううん、球界全体で」

比奈「あ、そっち」

友紀「突然クビだーとか、所属先決まらないよーとか。日本だけじゃなくて、海外の選手も全体的にそんな感じ」

比奈「大変なのはどこも一緒なんスねぇ」

友紀「貴重なベテランだってのに……サードどうするんだよ全く…」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

比奈「何の話っスかそれ」

友紀「ﾊｧ…」

比奈「……食うかい？」

友紀「焼き鳥っ！ 食べる！」

友紀「……クビじゃないなら、球団が買収されちゃうとか」ﾓｷｭ

比奈「ウチ球団じゃないっスから」

友紀「なら、怪我人かな。荒木選手、右肘靭帯損傷で来季絶望……」

比奈「負傷者アタシか」

友紀「大丈夫だよ比奈ちゃん……手術すれば、きっと治る！ 君はまだ若いんだから…！」

比奈「いや同い年でしょアタシら……一旦マイナスな発想から離れてみるのをオススメするっス」

友紀「じゃあ、年棒アップの話とか！？」

比奈「あー、良いっスねそれ。昇給、夢のあるワードっス」

友紀「やっぱり、誠意ってのは言葉じゃなく金額が大事なんだよねぇ」

比奈「なんつーこと言い出すんスか突然」

友紀「偉大なプロ野球選手様のお言葉を借りてるだけだよ、あたしは」

比奈「うん、野球からも離れてみよう？」

友紀「無理っ」

比奈「ですよねー」

友紀「あたしから野球取っちゃったら、一体何が残るっていうのさ…」

比奈「や、色々残るとは思いますけど」

友紀「野球のないあたしなんて……あたしなんて…、」

比奈（もしかしたら、今日はネガティブな気分の日なんスかね）


友紀「人よりちょっと元気で…」

比奈「ん？」

友紀「明るくてお茶目で…」

比奈「…えっと」

友紀「笑顔が眩しいハツラツおねえさんじゃん！」

比奈「良かったー そんなことなかったー」

友紀「運動神経良し！」ﾊﾞｼ

比奈「いてえ」

友紀「面倒見も良し！」ﾊﾞｼﾊﾞｼ

比奈「痛い痛い」

友紀「おまけにスタイルも良い！ 歌って踊れる完璧アイドルじゃんあたし！ ヤッバー！！」ﾊﾞｼﾊﾞｼﾊﾞｼﾊﾞｼ

比奈「だから痛い、いたっ 力強いなこの酔っ払い！？」

友紀「お酒の付き合いもできるし？ ちょーっと家事に自信がないのも、それはそれでアイドルとして大正解っていうかさぁ？」ﾊﾞｼﾊﾞｼﾊﾞ

比奈「はいストップっス」ｶﾞｰﾄﾞ

友紀「うん？」

比奈「そう、そこなんスよ姫川さん」

友紀「そこってどこさ荒木さん」

比奈「今家事がどうこうって言いましたよね」

友紀「言った」

比奈「いつまでも出てきそうに無いんで、もう答え合わせしちゃうっスけど。ウワサってのがそれに関係してるんです」

友紀「んー…？」

比奈「事務所のだらしない大人２大巨頭として周りから認知されてるみたいなんスよね、アタシら」

友紀「な、なんだってぇーー」

友紀「…って、なんか今さらじゃない？」

比奈「まぁそっスよね」

友紀「自慢じゃないけどさー、あたしらのだらしないエピソードなんて無限に出てくるでしょ」

比奈「ねー。……いやほんと、全然自慢にならないっスけど」

友紀「マシンガンだよマシンガン。どこからでも点取れちゃう」

比奈「挙げたらキリないっスよね、多分」

友紀「やってみる？」

比奈「っス」

友紀「こないだ仕事の時間勘違いして寝坊してたでしょ」

比奈「いやーアレはマジうっかりしてました」

友紀「まず１失点だ」

比奈「迎えに来てくれたプロデューサーにも、しこたま怒られたっスもん」

友紀「寝坊するなって？」

比奈「えっと、それもあるっスけど…」

友紀「？」

比奈「『そんなだらしない格好で女の子が玄関から出るんじゃないよバカタレ！』って…」

友紀「ははーん…」

比奈「服着て出てきただけマシだって言い訳は一応したんスけど」

友紀「んなこと言ったら、余計怒られたでしょ」

比奈「そりゃーもう。ていうか……寝起きで頭回ってなかったし、服着てたのも単に運が良かっただけなんスよね」

友紀「これ２点で良くない？」

比奈「っス…」

比奈「…そう言う友紀ちゃんだって、部屋着は薄っぺらなんでしょどうせ」

友紀「あ、バレてる？」

比奈「同じ穴のムジナってやつっスよ。３点目ってことで」

友紀「でもあたし、流石に玄関出る時はちゃんとした格好するもーん♪」

比奈「げへへ。薄着で部屋をうろつく悪い子はどこっスかぁ」

友紀「やーんえっちー」

比奈「ぐひひ」


比奈「まぁとにかく、寝坊だけはもう絶対しません。神に誓うっス」

友紀「ちゃんと起きてええええええ！」

比奈「うるさいっスよ」

友紀「へへ」

比奈「あ そうだ。寝坊つながりでアレっスけど、こないだ遊びに行く待ち合わせの時間に寝坊したらしいっスね」

友紀「……や、あれはプライベートだからセーフじゃない？」

比奈「ちゃんと起きなきゃダメっすよ」

友紀「どの口が…」

比奈「部屋もすごく散らかってたって乃々ちゃんから聞いてるっス」

友紀「うげ、あの時かぁ…」

比奈「４……いや、５点目っスね」

友紀「ちぇー」




友紀「……乃々ちゃんから聞いた話って、それだけ？」

比奈「？ そっスけど」

友紀「うん、なら良いや。おっけーおっけー」

比奈「？？」

友紀「そういえば比奈ちゃん、ロッカールーム使うの下手だよねぇ」

比奈「あー… 脱いだ服ポイしちゃうんすよね、自覚はしてるっス」

友紀「ダメだよ？ みんなで使う場所なんだから」

比奈「っス……つい癖で…」

友紀「６点」

比奈「さすが、その辺はきっちりしてるんスよね…」

友紀「まーね♪ 元マネージャー舐めないでよっ」

比奈「でも部屋は汚い、と」

友紀「うぐっ」

比奈「ついでに事務所の掃除も下手っぴっス」

友紀「嘘ぉ？！」

比奈「『友紀さんが掃除当番の日は、いつも隅に埃が残っているんです！ 四角い部屋を丸く掃くとはまさにこのことですね』……これは、幸子ちゃんからの証言っス」

友紀「そ、そんなぁ」

比奈「はい７点目」

友紀「しゅーん…」

比奈「まぁまぁ、掃除に関してはアタシも人のこと言えないっスから。こっちも仲良く８点ってことにしときましょ」

比奈「……ついでに幸子ちゃんからは、『撫で方が雑』なんてクレームも届いてたりしてますけど。９コ目にカウントしときます？」

友紀「それ今関係なくない！？」

比奈「っス、んじゃこれはノーカンで」

友紀「うぅぅ、みんなしてあたしをいじめる」

比奈「まだまだいけそうっスね。台所事情とかどうっスか」

友紀「もういいよぉ…」

比奈「ここらで終わっとく？」

友紀「どーせあたしはだらしないダメ女ですよーだ」ｸﾞｽ

比奈「ほらメソメソしないの」

比奈「いやはや、２人であっさり８失点……大したもんっスよ」

友紀「初回から８点も取られるピッチャーなんてクビだよクビ」

比奈「残念っス」

友紀「あーあ、あたしも明日からフリーかぁ」

比奈「おおっと、この話戻ってきちゃった」

友紀「どこかから声かかったりするかな。辛くても、一緒に頑張っていこうね比奈ちゃん」

比奈「ちょ、巻き込まないで」

友紀「では荒木選手、今のお気持ちをどうぞ」

比奈「嫌だ……アタシは……、辞めたくないいぃぃぃ」

友紀「はいありがとうございましたー！ では続きまして、突撃となりの夕ご飯のコーナー。奥さん、今日のご飯は何ですか」

比奈「これっス！」

友紀「やったー！ 柿ピーだ！ もーらいっ」ぱく

比奈「それ以上食うなぁ」

友紀「あはは！ うまーい！」ぱくぱく

比奈「やめろー」

友紀「あはははは！」

友紀「…はいっ」

比奈「話戻しましょうか」

友紀「うん」

比奈「こんな感じでね、アタシらの堕落っぷりが自他共に認められつつあるっちゅー話なんスよ」

友紀「なるほどねぇ」

比奈「まぁそれ自体は別に気にならないんスけど」

比奈「……いや、気にした方が良いのも分かっちゃいるっスけどね？」

友紀「うん、わかるわかる」

比奈「大事なのはここからなんス」

比奈「"荒木比奈はだらしない"…これは良いっスか」

友紀「良くはないけどね」

比奈「で、"姫川友紀はだらしない"。これも良いっス」

友紀「…良くはないけど」




比奈「ちなみに岸辺露伴は動かないっス」

友紀「何の話？」

比奈「失礼、気にしないで良いっスよ」

比奈「単品ずつだとまぁそんなもんだよねで済むんですけど。なんか混ざっちゃったみたいなんスよ」

友紀「混ざった…」

比奈「これらが融合を果たした結果、生まれた概念は何だと思いますか」

友紀「…普通にあたしと比奈ちゃんがだらしない、って話じゃないの？」

比奈「それで済んだら良かったんスけどね…」



比奈「『ダラシナイ・トゥエンティ』って呼ばれてるらしいっスよ、アタシら」

友紀「はぁー？！」

友紀「どういうことだよ！」

比奈「読んで字の如く……だらしないハタチってとこっスかねぇ」

友紀「あたしそんなの聞いたことないんだけど！？」

比奈「アタシだって耳にするまで信じられなかったっスよ…」

友紀「…実際言われたの？ それ」

比奈「いや、直接聞いたんじゃないっスけど。プロデューサーからポロっと聞いちゃったのが最初っスね」

友紀「ハハァ…」

比奈「その時は『冗談だ』って話流されちゃったんス。アタシも、まぁそんなところかなと思うことにしたんだけど」

友紀「…」

――
―

「……あら。プロデューサーさん、最近机の上掃除してませんね？」

「書類もファイルも、出しっぱなしでさっき出かけちゃったんですね……やらないといけないお仕事がたくさんあるのも確かに分かるんですけど」

「…まだ、書類使うんでしょうか。勝手に触らない方がいいですかね」

「全くもう。帰ったら注意しないとっ」

「あんまり"だらしなく"してると、アイドルの子たちに示しがつきませんよ？」




比奈「…」ﾋﾟｸ

――
―

「……じゃあ、明日のスケジュールはこんな感じ。オッケー？」

「はい！」

「入りの時間が早くて大変だろうけど、頑張って起きるんだぞ？ 朝は、直接家まで迎えに行くから」

「だいじょーぶでごぜーます！ いつも起きてるのとおなじ時間だから起こしてあげれるねって、昨日ママが言ってくれたのでごぜーますよ！」

「…大変そうだなぁ、仁奈ママさんも」

「明日は、ママと一緒に"ちゃんと起きる"んだー♪」

「よーし、えらいえらい」




比奈「……」ﾋﾟｸﾋﾟｸ

――
―

「…あらぁ？ 幸子はん、レッスンでもないのに運動着なんて珍しいどすなあ」

「うっ……これには、その、ちょっとやむを得ない事情があってですね…」

「プールに飛び込んだ、とかでっしゃろか」

「違いますよ！ そんなことしません！」

「うふふ、冗談どす♪」

「ドリンクを持って走ってた陸上部の方と、たまたまぶつかってしまっただけです！！」

「あらあら、それは災難でしたなぁ…」

「全くですよ……ボクのカワイイカワイイ制服姿が台無しです…」

「うち、今日の幸子はんはてっきりじゃぁじの気分なのかと思うたんよ」

「どんな気分ですかそれ…」

「せやなぁ……"着替えるのが面倒"やわぁ、とか」

「仕方なく着替えた結果がこれなんですけど！？」




比奈「………」

比奈「あの日以来……なんかこう、なんでもないハズの会話の内容が、頭をチラついて離れないというか…ッ！」

友紀「あぁ～、あるある。妙に耳に入ってきちゃう時あるよね」

比奈「みんなアタシのこと言ってんじゃないかって疑心暗鬼になっちゃって…」

友紀「うーん……被害妄想なだけのような気もするけどなぁ」

比奈「でもでも、実際みんながどう思ってるかなんて分かんないじゃないっスか！ 人の心の中なんて見えないことばっかっスよ？！」

友紀「そりゃまぁ…」

比奈「もしかしたら、ホントのホントにそう呼ばれてるのかもしれんっス……陰ではみんなそうやって、アタシのことせせら笑ってるんス…」

友紀「ちょ、落ち着きなよ比奈ちゃん」

比奈「大体っスよ？ プロデューサーは冗談だなんて言うっスけど……ダラシナイ・トゥエンティだなんてワード、フツー咄嗟に出てきますか！？」

友紀「それは…、」

比奈「絶対あり得ないっス！ こんな妙ちきりんな単語の組み合わせ、日頃から口にしてなきゃ出てくるハズないんスよ！」

友紀「んー…」

比奈「あの自然すぎる発音・発声……アレはもう、既に脳にインプットされてる文字列を出力のしかたっス！ ぶっちゃけよく分からん友紀ちゃんの野球ネタみたいに！」

友紀「またちょっとバカにしなかった？」

比奈「バカにしてんのはプロデューサーの方っス！ きっと今もどこかで『はぁ全く仕方ないなあのだらしない２人組は全くもう』とかってバカにしてるに違いない！」ﾀﾞﾝｯ

友紀「あ、荒れてきたなぁ…」

比奈「…ちょっと。なに関係ないみたいな顔してんスか、友紀ちゃんも被害者なんスよ」

友紀「ひ、被害者……いやぁ、あたしは別にそこまで気にしないっていうか…」

比奈「そうやってアタシだけ見捨てて置いてけぼりっスか。自分は傍観者の野次馬気分っスか。さすがヤジが得意なだけあるっスね」

友紀「ひどいとばっちりだよ」

比奈「見損なったっス。友紀ちゃんのばか」ｼﾞﾄ

友紀「…いやほら。そういうの、プロデューサーが勝手に言ったり思ってるだけかもしれないじゃん？」

比奈「口に出してたんなら多分もう手遅れっスよ？ ウワサ好きな女子でどれだけの比率占めてると思ってるんスか」

友紀「うぐ……じゃ、じゃあ、思ってるだけ！ 脳内で勝手に呼んでるだけ、とか…」

比奈「そっちの方が尚のこと嫌っス。あの人の頭ん中のカテゴライズが裏でそう固定されちゃってるなら、アタシらのイメージ的にもうアウトなんスよ」

比奈「何かにつけてだらしない女２人ってレッテルがチラついてることになるっス、ソースはアタシ。友紀ちゃんはそれでも良いんスか」

友紀「…あんまし、良くないかも」

比奈「でしょ？」

比奈「そして、想定しうる中で１番ヤバい結末が……そのままユニットか何かにされちまうことっス！」

友紀「おぅふ」

比奈「あんな名前でユニットデビューなんかさせられた日にゃ、死んでも死にきれんっスよアタシは」

友紀「い、いくらなんでもそこまで公私混同するかなぁ…？」

比奈「分からんっスよ？ 世の中にはバレンタイン反省会とかいう、やらかした女性の後悔と怨念の塊みたいな名前のユニットもあるぐらいっスから」

友紀「うん、一旦あの３人にも謝った方がいいかもね」

比奈「だがアタシは謝らないっ」

比奈「良いっスか友紀ちゃん！」

友紀「は、はいっ」

比奈「反省会はともかく、アタシら２人だらしない大人がコンセプトのデュエットだなんて言われることだけは……絶！対！ 絶対に避けなきゃならない事案なんスよ！！」

友紀「まぁ……それは確かに、そうだね…」

比奈「分かってくれたっスか。由々しき事態と言ったその理由を」

友紀「うん…」

比奈「うむ。苦しゅうないっス」

友紀（今日の比奈ちゃんがめんどくさいってことも分かっちゃったなぁ）

比奈「と、いう訳で。今日はこのまま対策会議っスから」

友紀「うぇえ！？」

比奈「このままで良いんスか？ もちろん良い訳ないっスよね」ﾆｺﾘ

友紀「目がマジなんですけど」

比奈「マジもマジ、大マジのマジカルテットっスよ。目標は１つ、『脱・ダラシナイ』っス！」

友紀「ひえぇ…」

比奈「全速前進だーっ」

比奈「…って言っても、大したことなんかできないんスけど」

友紀「ありゃ？」

比奈「突然ハイどうぞで変わるモンでもないっスからねぇ」

友紀「拍子抜けだなー…」

比奈「や、結局はアタシらのだらしなさを払拭できるかどうかの話なんで」

友紀「まあね」

比奈「そもそも、日頃からコツコツと几帳面に生活できてりゃこんなことで悩まなくて済むんスよ」

友紀「ぶっちゃけた！」

比奈「こんな発想しちゃう時点で、時既に遅しって感じですし」

友紀「たまたまポカしちゃったって感じでもないもんね、あたしら」

比奈「ねー」

友紀「どうにかしようって言ったってさぁ…」

友紀「…うーん」

比奈「…ダメっスねぇ」

友紀「だってさ、ホントにだらしなく思われたくない人は、お酒飲み散らかしながらこんな話しないもん」

比奈「それ」

友紀「言われなくてもやってるっていうか？ やってるから言われないっていうか？」

比奈「そうそう」

友紀「急に生活態度変えるなんてムリな話なんだよ」

比奈「っス！」

友紀「あたしらの都合もちょっとは考えろってんだ！」

比奈「そうだそうだー！」

友紀「キャッツが負けた日にビール飲んで何が悪いんだー！」

比奈「異議あり！ 友紀ちゃんは勝っても負けても飲んでるっス！」

友紀「だよねー！」

比奈「解散！」

友紀「お疲れ様でした！」

友紀「…まぁ、今からでもちょっとずつ治してくことならできるんじゃない？」

比奈「と言うと」

友紀「例えば、これ終わったらちゃんと片付けて寝る、とか」

比奈「あー……いっつも、机の缶とかそのまんまでオヤスミしちゃうっスからね」

友紀「明日少しでも早起きするために、今日はもう切り上げちゃうとか」

比奈「お酒飲んだら、次の日毎朝グースカしてますもんね」

友紀「うんうん。そういう日々の積み重ねが大事なんだよ、野球でも何でも」

比奈「なるほど」

友紀「少しずつできることからやっていけば、それなりに何となく結果もついてくるんじゃないかな」

友紀「あたしも比奈ちゃんも、小さいところから意識改革が必要な時期だってこと」

比奈「意識改革、やれることから、っスか……ふむ」

友紀「うん！ てことで、机の周りちょっと片してみよっか」

比奈「そっスね。部屋が綺麗になれば、見える景色も意識も変わるかもしれんっス」

友紀「あ、ついでに模様替えとかどう？」

比奈「うへ、今からっスかぁ？ それはさすがに明日からでも…」



prrr...

prrrrr....


友紀「っとと、電話？」

比奈「んー？ 誰っスかこんな時間に」

友紀「お、美世ちゃんだ。もしもーし」



友紀「はいはい。うん、元気だけど……なに？ おはよーって。いまは夜……うん、おはよ」

友紀「もしかして、酔ってる？ 珍しいね…」

友紀「え！ うっそ、今みんなと居酒屋？！ 今日歩き！？ マジで珍しいじゃん！」

友紀「２件目？ 行く行く！ あたし今、比奈ちゃんと一緒なんだ！ だから…」

友紀「……うん、うん！ オッケー了解！ 今から行く！ じゃーねっ」ﾋﾟｯ



比奈「何の話っスか？」

友紀「飲み会！」

比奈「なんか勝手に行くことになってた気がするんスけど」

友紀「うん！ 今、美世ちゃん達も飲んでるんだって！」

比奈「ほー、珍しい」

友紀「ね。運転あるからって、普段は飲まないもん」

比奈「そんな美世ちゃんが今日はお酒を……確かにこれは、行かなきゃ損っスね」ﾆﾔﾘ

友紀「今から２件目行くんだってさ！ それ知っちゃったら、もう行くっきゃないよね！」

比奈「いつ出発する？ アタシも同行するっス」

友紀「もちろん今からでしょ！ 乗り込むぞー♪」

比奈「おー！」

友紀「えーと、コートどこやったっけ」

比奈「そこっス」

友紀「おっ、ありがと」

比奈「…ところでさ」

友紀「ん」

比奈「机綺麗にする話のことなんスけど」

友紀「…あっ」

ぐっちゃー



友紀「あー…」

比奈「いつも通り、空き缶とか色々散乱してるっスね」

友紀「でも…」

比奈「分かってるっス。皆まで言うな」

友紀「…ほら、だってさ」

比奈「うん」

友紀「ねっ？」

比奈「っス」

友紀「こんな日もあるって」

比奈「そっスよ。今日はもうしかたないっス」

友紀「仕方ない仕方ない」



比奈・友紀「「…明日から頑張ろう！」」