異世界トーチカ (35)

昭和20年 満蒙国境付近

「し、申告!!します!は、春原開拓団義勇軍!竹原二等兵!以下五名のものは昭和20年!8月より
第三国境警備隊に配属を命ぜられました!!っけ、敬礼!!」
付近の開拓団からきた青少年たちは、教え込まれたバラバラな”敬礼モドキ”を行い、無事配属となった
警備隊長「休ませ」
「や、休め!!」
ッザ ッザ

警備隊長「諸君、遠路はるばるここ第三国境警備隊へきてくれてありがとう、全隊員を代表し、君たちの郷土愛精神から来る
屈強な精神力は我が警備隊を大いに盛り上げてくれるだろう」

「ッハ!!竹原二等兵、以下五名の者は警備隊長のご期待に添えられるよう粉骨砕身努力いたします!!」

警備隊長「うむ」
日本は先の日中戦争からアジアを巻き込んだ太平洋戦争に突入、初期こそ優秀な指揮官と将兵によって行われた
作戦は次々成功、イギリスやオランダを降参せしめ、アメリカの所有する領土にも侵攻を始めた。
しかし海軍のミッドウェー海戦大敗、陸軍のガダルカナル島からの撤退により日本の領土は日に日に狭められた
そして日本軍が守備する島々は奮戦むなしく次々と陥落、ついに昭和20年4月、沖縄へ米軍が侵攻し同年6月、陥落した。

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日本軍の大敗に次ぐ大敗、その噂はここ第三国境警備隊にも伝わり、ソヴィエト侵攻の噂も流れ、一時期は張り詰めた空気が各トーチカ内に広まった
しかし日ソ不可侵条約がまだ有効だという情報を聞き、気休めではあるが警備隊に安堵の空気が流れた。

第三国境警備線は、他の警備隊とは異なり独立臼砲隊3個小隊 重砲隊2個小隊 野戦砲兵隊5個小隊 機関砲隊4個小隊 機関銃隊10個小隊
歩兵隊2個大隊を擁する国境警備隊としては重火力であった、広さは後楽園スタジアム一個分の広さを誇り、各壕は綿密な設計により、
各壕は有効に連携され、一要塞の如く壮大であった。

日本兵「お、補充兵ですかね」

「あーあー、あんな若造共なんぞ補充にもならん、無駄飯食らいだよ」
「ごくろうなこったねえ、こんな何も来やしない国境なんぞに」
ほぼ毎日、付近の開拓団から青少年義勇軍の配属が行われ、警備隊の人数は優に4千を超えた。
「しかし...あんなに補充がきても武器の補充がなけりゃ...」
「一番ひどかった義勇軍の装備で...鉈鎌...」

日本兵「...」
彼は一昨年に国境に配属され兵隊生活のほぼ全てをここ第三国境警備隊ですごしている、彼の両親はすでに病気で他界しており、ずっと一緒に働いていた苦力も
疫病で他界、独り身でここ満州の地で生きていた。

「しかしやつらも幸運だぜ?他の警備隊ならいざ知らず、我が第三国境警備隊に配属されたんだ」

「小銃ならまだ腐るほどあるさ」
第三国境警備隊には付近の警備小隊を支援するための施設も備わっており、武器庫には1個大隊並みの武器弾薬を保有していた。
日本兵「...幸運ねえ」ボソッ

「ん?何かいったか?」

日本兵「あ、いえ...何でもないです」

「っま、どうでもいいや...お、日本兵よぉ、そろそろ監視交代だぜ」

日本兵「あ、本当だ、行ってきます」

日本兵(本当に幸運なら...幸運なら本土に帰れただろうに...)

昭和20年 8月の満蒙国境はまだ平和である
_
__

_
??
ッザッザッザッザッザッザ...
人、人、その中に人ならざる異形な者も混じっていた、しかしそれらも一糸乱れぬ行軍により、その屈強さを見せ付けていた。
その中間を歩く美麗な鎧に覆われた一団がいた。
「団長、霧も濃くなって着ました、どうでしょうそろそろ休息をとっては」
「そうだね...そろそろ日も暮れるし、全軍停止!!」

「ぜんぐーん!!!ていしぃ!!!!」
「ップギャ!!ップギュア!!!!」
命令が人語や異形な者の声が竜の如く行進していた中から次々と伝達され、全軍は恙無く停止した。

団長「何名か出して、少し先を偵察させてこよう」
補佐「ッハ、手配いたします、傭兵団長!!」

傭兵団長「へいへーい、傭兵団が長、ただいまーっと」

団長「君たちの兵を何名か選び、少し先の丘陵から先を偵察させてくれないか?」

傭兵団長「了解、男装の麗人」

団長「はいはい、何とでも言ってくれ...敵がいても攻撃を加える必要はない、いた場合は人数を確実に掌握し報告してくれ、以上」

傭兵団長「ッハ、斥候任務、敵の人数の掌握、了解」
傭兵団長は百戦錬磨の隻眼の男で、傭兵の両親から生まれ根っからの傭兵である、今作戦では3千人の傭兵を見事な統率の元、引き連れている。

補佐「まったく、食えぬ男ですな」

団長「メリハリがあっていいじゃないか」
団長、王家の直系にあたり、時期王女候補である、自身は周りからの女性扱いにすこし不満を抱いており、騎士団長を上番した日から
男装をするようになった。

「団長さんよぉ、今回の作戦...どおも気がのらねえんだよなァ...」

傭兵団長「あァ?俺が今までやる気満々な戦争があったかってんだ...」

「っへっへ、部下思いの傭兵なんて聴いたことがねえですぜ」

傭兵団長「ったりめえよぉ盾は多いほうがいいしなぁ!」

「なにいってんです、御自ら切り込んでる癖して」

傭兵団長「う、うるせえ...ん?霧が晴れてきた...?」

「...あ、ありゃぁ...城下町ですかい...?」
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__

__
_
少し前...
日本兵「交代」

「申し送り事項なし...っと、あいも変わらず平和だったよ」

日本兵「了解、また補充兵が来たよ」

「あーそうなの、あ、そういえば霧が出そうだぜ?蒙古側から霧が流れてきている、目ん玉見開けよ~」

日本兵「了解、おつかれ」

日本兵「本当だ霧が...うわぁ霧の中暗そうだなぁ...」

第三国境警備線は濃霧の名所であり、このような霧は珍しくなかった、この霧では敵も何も見えないため、監視兵の休憩の時間でもあった

日本兵「今日の監視は当たりだな...ん?霧が晴れてきたな…」

日本兵「あちゃー...今日は楽できると思ったのになぁ」

日本兵「ん...?うわ...」ッサ

日本兵(あ、あれ...も、モンゴル兵か...?)

日本兵「本部、こちら第一歩哨壕」

『こちら本部、送れ』

日本兵「蒙古側より識別不明の人間がこちらをみている、送れ」

『了解、兵をそちらに送る、攻撃はするな終わり』

日本兵「...つ、ついに...ソヴィエトが...?」

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__

____
__

団長「...」

傭兵団長「団長さんよ...ありゃぁ城か...?」

補佐「見たことのない様式ですね...穴から見える筒は...鉄砲でしょうか?」

団長「...誰かが、こちらを見ている」

傭兵団長「マジ?あホントだ」



日本兵「...」ジー

日本兵(モンゴル兵にしては...変な甲冑だな...)

「おい...おい」

日本兵「あそこです、丘陵の向こう」

「双眼鏡貸せ」

日本兵「はい」

団長「皇国軍では無さそうだな...」

傭兵団長「攻め込むか?」

補佐「危険だ、だいいち敵の数がわからん」

傭兵団長「だが時間がねえだろ!皇国軍に奇襲を仕掛けるには...!」

補佐「分かっている!だが!」

団長「...」

そう、僕たちには時間がない。
昨年の春先、隣国イーパイア皇国が各国と結んだ同盟は一方的に破棄された、僕たちの共和国には攻め込まなかったものの、近隣諸国は
イーパイアの侵攻を受け、次々と国が滅亡した。わが国と深い親交がある国も滅亡し、亡命者がわが国に救済を求めにきた。そして矛先はわが国にも...

団長「ダメだ、迂回しよう」

傭兵団長「迂回だぁ?!てめえ!!」ガシッ

団長「っ...!」

傭兵団長「俺は...俺は皇国をぶっ[ピーーー]為にお前の下についた...!金の為なんかじゃねえ!!あいつらに殺された部下の親兄弟の仇を討つためになぁ!!」

傭兵団長は共和国出身ではない、一昨年、傭兵団長の生まれ故郷に皇国軍が侵攻し、村は焼き払われた、女子供も殺され傭兵団長の両親も敵に殺され
引き連れている部下の家族も殺された。

補佐「お、落ち着け!!」

団長「今は無駄な犠牲を払えない!敵の戦力が分からない以上迂回は避けられない!」

傭兵団長「...くっそがぁ!!!」

団長「今は引こう、今は無駄な犠牲は避け、最大の戦力で...」

傭兵団長「ッチ...」

補佐「おい!...ったく、困った男ですね...」

団長「いや...気持ちも分かる...」

補佐「そうですが...」

日本兵「退いていきますよ」

「何じゃあ...根性ないのう」

「日本兵、本部へ連絡せぇ『敵撤退なるも要監視』

日本兵「了解」

_
__

__
_
傭兵団長「...てめぇら、分かっているな」

「「「「「「「「へい」」」」」」」」」」

もう、俺らは止められねぇ...復讐の炎はいつまでも消えることはない...あの
城の人間共が皇国軍かどうかはしらねえが...俺らの行く手を阻むものは容赦しない...

傭兵団長「よし...行くぞ」
三千人の復讐者は怒りの炎を眼に宿らせ、進んだ



「っっだ、団長!!傭兵団が!!!!!」

団長「な?!馬を!!」

「っはい!!」
ヒヒーンッ
団長「ッハア!!!」
団長(傭兵団長...!死に急ぐな...!!)
_
__

__
_
ッカンッカンッカンッカンッカン

「敵襲ー!!!モンゴル軍だぁ!!」

『こちら監視所、砲撃支援を要請する、距離1500 座標イー2-5 繰り返す...』

『機関砲装填完了!!第一小隊射撃準備よし!!』

「おい!弾もっとよこせ!」

「兄貴行くぞ!!」ッタッタッタ

「俺はもう脚が動かん!!」ッタッタッタ

日本兵「...」

『こちらマルキの壕、敵が射程距離に入った』

警備隊長「マルキの壕了解、敵はおおよそ3千...しかし全員帯剣している...どういうことだ...」

「今日日モンゴル軍でも小銃くらいはもってます...」

警備隊長「まぁいい...攻めてくる以上は誰であろうと叩く、各員砲兵隊の砲撃をもって攻撃開始とする」
『了解!』

『了解!!』

傭兵団長「てめぇらぁ!!!!声上げろぉ!!!」

ウオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!


団長「傭兵団長ー!!!!」



警備隊長「砲撃開始!!」

ッドン!! ッドン!! ッドン!! ッドン!!

「ウオオオオ...?」

「ほ、砲撃だぁ!!」

傭兵団長「構うことはねぇ!!突撃しろぉ!!!」

「えい!!」

っドンッドンッドンッドンッドンッドン

「ア...」ブシャア

「うおア」ドシャア...

ッドーン ッドーン ッドンッ!!!

「うああああああ!!う、腕がぁ?!」

「ぎゃあああああああ!!!足が!!足がぁああああ!!!!!!」

傭兵団長「っち、近づけ!!」

「うおおおおお!!!」
ッターン
「うぎゃっ!」
ッダダダダダダダダダダン!!!

「ウゲぇ!」

傭兵団長「....」

「っ助けてくれ!!死にたくね ッタン!!

傭兵団長「...あ、し、指揮とらねえと...」

日本兵「右に敵散兵!!!」ッタン

「オウ!!」ッダダダダダダダダダダダダン!!

「あ...し、指揮とらねえと...」

日本兵「ん?あれが指揮官か...?」

傭兵団長「あぁ...」
何が起きたのか、理解ができない...爆薬詰めた樽が爆発したのか、とにかくいつも俺らを苦しめる大砲の威力じゃない、鉄砲も桁外れだ
目の前で家族同然の部下が死にまくっている、何もできずに...あの日のように...

傭兵団長「あ...アアアアアアア!!!!」ッタッタッタッタッタ

「うお!こっちにきやがったぜ!!」ッダダダダダダダン!!

日本兵「...」チャキン...

傭兵団長「うおあああああ!!!!!」

日本兵「ふっ… 」ザシュッ!!

傭兵団長「?っ…あぁ…んなんだよ…てめ…えら…」バタッ

日本兵「てめえこそ...何しに入ってきたんだ?」ザシュ

傭兵団長「ウ...」

ッパカラ ッパカラ...ブルルッ...
団長「ッハッハッハ...」
あの身なり、皇国軍ではない...皇国軍ではないが、傭兵団長を殺した...

「だ、団長が死んじまった...」

「もうお仕舞だ...傭兵団長が死んじまった...」

団長「ッハア...ッハア...」

日本兵「...女の子」

団長「ッハア...彼の...亡骸を渡してほしい...」

日本兵「ここはどこ?」

団長「え?」

日本兵「ここは...満州じゃないのか?」

こいつが何を言っているのか、最初は分からなかったが、彼の目は本気で訴えていた、ここは俺達の世界じゃないのか...と

団長「...満州とやらでは...ない、ここはわが国と皇国の国境地帯だ」

「おーい!日本兵!!」

「あぶねえって!戻って来い!!」

日本兵「君たちは僕らを殺しにきたのか?モンゴルの人間なのか?それともソヴィエトなのか?」

団長「え?いや...スタンレー共和国の...」

日本兵「いいか?僕らに敵意が無いのなら、今すぐここから立ち去れ、僕たちも君たちに敵意はない、攻撃してこなければだけど」

「アホなこと言うないこの蛸!!」

「傭兵団長の敵だ!!!」

「殺せ!!!」

団長「お、お前ら落ち着け!!」

日本兵(こいつらどうしても退かないみたいだな...ならば)

日本兵「ごめん」シュッ

団長「え」ドスッ

「うわ」

「あ、おい...」

日本兵「動くなよ、貴様らがここから退く確証がない限り、この子は預からせてもらう、君たちの軍の代表をこちらまで呼び、撤退するといえば
この子は返す」

「あ...」

「やばくね...これ」


日本兵(やっちまった~...しがない上等兵なんぞが敵軍全体に喧嘩売っちゃった~...)ガクブル

「お、おい日本兵、その男...」

日本兵「男?」

日本兵(あー男の格好してるしなぁ...変にばらしたら可哀想か...)

日本兵「敵の偉いさんかと思います、やつら引く気配が無かったんで捕虜にして...」

「ったっく...底知れねえ奴だぜ...」

「警備隊長に掛け合ってみろよ」

日本兵「はい、やってみます」

__
__
さい...きなさい...おきなさい...

ん...母上...?

「よく眠れた?」

母上...夢でも見ているのか...母上はとっくに...

「お仕事、頑張っているのね?偉いわ...」

でも...失敗続きで...兵達も僕のこと...

「大丈夫よ、あなたが真剣に取り組めば...おのずとみんな着いて来てくれるわ?」

ほんとかな...みんなの大切な人...死なせちゃった...

「彼のことは残念だわ...復讐心が先走っちゃって...彼自身はおろか、多くの部下が死んじゃったものね...」

あの人...彼を殺した人...

「憎い?殺したいの?」

分からない...何か違った...完全に悪い人には見えない...

「なら、あなたなら自分自身の気持ちにケリをつけるべきね...?さぁおきなさい...私のかわいい愛娘... サアアアアアアア...
_
__

__
_
第三国境警備隊 簡易営倉

団長「ッハ...」ムクリ

団長「...檻?」

日本兵「おはよう、随分うなされてたけど大丈夫?」

団長「あ...君...」

日本兵「君の軍の代表が来るまで、ここで大人しくしててくれるとありがたい」

茶色の服...革製のベルトにいくつかの箱...腰に細い剣...見たことの無い服だ、わが国を含め
近隣諸国の軍は、鎧がもっぱら主流で、戦場ではこのような軽装ではまず行かない

石造りの城にしては石の繋ぎ目は見えない、高度な技術で積んでいるのか...檻はわが国と同じ鉄製だ

団長「ここは...」

日本兵「あぁ、警備隊の簡易営倉だよ、司令部の地下にある、ここなら榴弾も徹甲弾も防げるよ」

団長「徹甲...」

聞きなれない単語...大砲に積む玉のことだろうか...

団長「こんな城...いつの間に作ったんだ?」

この城は外から見てもかなり大きく、一日二日では到底できるものではない、だが付近の住民に気づかれず...
ということは意味は...

団長「住人でさえも...僕を...」

日本兵「ん?大丈夫?」

団長「ふふふ...僕が何をしたんだ...」

日本兵「...」

団長「もういい、煮るなり焼くなり、好きにしてくれ...僕はもう疲れた...」

日本兵「ひ、悲観的になるのはまだ早いんじゃない?」

団長「悲観的?いや、違うね...悟ったんだ...僕は、やはり器ではない...」

家臣からの冷笑、騎士団長のからの蔑みの目、メイドたちの根も葉の無い噂

団長「共和国は...スタンレー共和国はもう終わりだ...」

日本兵「...疲れてんだな、あんた」

団長「あぁ...とても...」

日本兵「...すぐに戻る」

団長「...」


警備隊長「つまり...ここは満蒙の国境ではないのだな?」

日本兵「はい、彼の話を軽く聴いていたのですが、イーパイア皇国なる国と、スタンレー共和国との国境付近であると...」

「あのなぁ、そんな事言われてはいそうですかって信用できるとおもうか?どうせソヴィエトが送り込んできた芝居人たちだろう」

警備隊長「ふうむ...どのみち、付近に偵察にでてみるべきか...」

「危険です、この警備線の周りは空白地帯です、何があるか...」

警備隊長「ソヴィエトの芝居人であった場合は大事だ、それに自分も...ここが本当に満蒙の国境なのか、自信がなくなってきたよ」

「...では何人か斥候を出しましょう」

警備隊長「そうしよう...日本兵」

日本兵「っは」

警備隊長「君が斥候隊の長とし、何人かを引きつれこの周りを偵察してきてくれ、出発は本日正午から準備が整い次第、復唱」

日本兵「っは、自分が斥候隊の長とし、正午以降何名かを選びこの警備線付近を偵察してまいります」

警備隊長「うん、いってよろしい」

日本兵「はっ」ッタッタッタ

「で、捕虜は...」

警備隊長「代表が来るまでまとう、それまでは彼に見させる」

日本兵「戻ったよ、昼飯だ」

団長「...」

日本兵「僕はこれから付近の偵察に行ってくる...それで...」

団長「...なんだよ」

日本兵「君の仲間のとこへ行ってくる」

団長「何をしに行くんだ」

日本兵「付近の情報...それと僕が殺したあの男の話をね」

団長「な!なぜそんな話を聞きに行く!?」

日本兵「なんか慕われてそうだったし、どんな人かなって思って」

こいつ、本格的に追い詰めてきたな...いつまで僕の心を弄べば気が済むんだ...

日本兵「君のことも聞きに行くぞ」

団長「っはあ?!何でだ?!何なんだお前は!」

素性も知らない者たちに捕まり、この上生き恥まで晒されるとは思いもしなかった
こいつは一番危険だ。

日本兵「じゃあまた」

団長「ック...」

死にたくなったのに...死にたくない、そんな複雑な心境が彼女の心を揺り動かし続けた。

日本兵「第三国境警備線の異常に皆も薄々感づいていたり、風の噂で聞いた人もいると思います。自分以下2名で付近の状況を視察する、質問」

竹原「あ、あの…」

日本兵「どうした?」

竹原「自分が持ってるこの筒が付いている小銃って…」

日本兵「それは狙撃銃、竹原二等兵はマタギの生まれだろ?射撃の勝手がわかると思ってね」
竹原二等兵、生まれも育ちも開拓団育ちで、入隊前はマタギの仕事をしていた、父は満州の部隊にも少し知られてる射撃の名手で、日中戦争時には狙撃兵として活躍した。
竹原「し、しかし自分なんかにこんな立派な…」

日本兵「生き抜く為には何でも使うことさ、今は黙って使ってくれ、他に質問は」

一等兵「今回は威力偵察では無いんですかい?」
内林一等兵、擲弾筒の名手、古参の一等兵で僕よりも兵隊生活は長い、しかし豪胆な性格が災いし上官の逆鱗に触れることも多々あり、各部隊を転々としていた。
日本兵「あぁ、攻撃はされるまでは避けてくれ、
僕に少し考えがあってね」

一等兵「かぁ~っ!あのやろー共を擲弾の錆に出来ると思ったんですがねぇ」

日本兵「やる気があるだけ十分だ、よし、準備はいいな?行こうか」

「「はっ」」

共和国軍 司令天幕
補佐「団長はあの城に捕らえられている…と」

「はい…自分らが前に出てきた兵隊を…殺そうとしたら戦闘を止めに来た団長が…」

補佐「…」

「面目ねぇです…傭兵団長も死なせちまって…」

補佐「彼も急ぎすぎたんだな…これも神の思し召しか何かだ…君たちの気持ちもわかる、今は休め」

「すいやせん…すいやせん…」
編成史上過去最大の傭兵団が一時間も満たずに壊滅した情報は、全部隊に知れ渡り、皇国との戦闘の前に現れた正体不明の敵に皆、浮き足立っていた。

補佐「士気は最悪だな…」

「伝令!!補佐官殿!!」

補佐「なんだ」

「あの城から…使者が…」

補佐「何?!どこにいる」

「もう、そこに…」

日本兵「どうも」

補佐「…立ち話もなんです、おかけください」


補佐「積もる話もない、単刀直入に聞く。団長は無事か?」

日本兵「はい、貴方方が私たちの警備隊を攻撃しないと確約して下されば、そちらにお返しします」

補佐「攻撃しない?私たちの国にいきなり出て来て…」
ッダン!!
補佐「あの様な要塞を勝手に我が国で作り!!我が傭兵団を壊滅に追いやった貴様たちが何を命令するか!!!」

日本兵「先に攻撃して来たのはそちらです、私たちは取るべき処置を取った…それだけでは?」


一等兵「うへぇおっそろしい」

竹原「うわぁ…煽ったらマズイですよ…」


日本兵「まぁ戦闘中からあなた方の団長の様子を見るに…不測の事態が起き…あの戦闘に至った…そうですね?」

補佐「…傭兵団が、貴殿らを皇国軍か何かと…」

日本兵「先に言っておきますが、我々は皇国軍でもありませんし、あなた方の敵でもありません、まずは私たちの話を聞いていただけませんか?」
そう言うと、共和国軍の幹部は落ち着きを取り戻し、話を聞く態勢に入った。
補佐「取り乱してしまい申し訳ない、ではあなた方の話を聞きましょう」

それから、私はにわかには信じがたい話を延々と聞いた、こいつらは国境警備隊で、満州国とやらに駐屯していたらしい、あの堅牢な建造物も城ではなく、一つの陣地らしい。

補佐(こいつ…一体何を言っているんだ…)

日本兵「信じがたいかも知れませんが、我々はこの国の戦争などとは無関係で、あなた方とも敵対するつまりは隊長のお考えでは毛頭ありません」

補佐「…わかった、その言葉を信頼しよう…」

信用できない、一つの会戦で凄まじい戦力を発揮した者たちをどう信頼しようと言うのか、だがこいつらとは敵対しないのが一番だ。

日本兵「では我々と戦闘する気は無い、と言うのが全軍一致の考えでよろしいですね?」

補佐「あぁ、もう手は出さない…約束しよう」


日本兵「では、私から隊長に伝えます、捕虜は今日にでも送還しますので」ツカツカ...

補佐「…」

「補佐官殿…団長は無事でしょうか」

補佐「あれだけの態度を取ったのだ、無事でなければこちらも対処するまでだ…」



竹原「敵の幹部に何やってんですか…」

一等兵「ったく、ヒヤヒヤしたぜ」

日本兵「あぁ、僕もちびるかと思ったよ…」


___
_____

___
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警備隊長「では、貴殿の軍隊とは二度と合間見えないことを願います」

団長「こちらも心から願います…」


「うへぇ、精神やられましたって顔だぜ…」

「噂によりゃあ、俺らがぶっ潰した奴ら、敵さんの主力とか聞いたぜ?傭兵団が主力とか敵ながら大丈夫かよ…」


日本兵「僕らだって似たようなものじゃないのかな…」

一等兵「仕方ないでさぁ、上の人間からにゃ自分らのこともよう知らされてねぇんですから」


竹原「日本兵さん、自分達は一体どこにいるんですか?」

日本兵「どこ...どこだろうなぁ、ここ...」

一等兵「っへ、どこに行っちまったって、俺らがいるとこなんて元よりわかりゃしねえよ」

日本兵「まあまあ」


「気をつけ!!」

ッザ

「ささあげー!! っつつ!!」

ッサ

団長「世話になった」



日本兵「...」

一等兵「...しっかし、女みてえに華奢でさあね」

日本兵「弱そうなのにがんばるなよ...」ボソッ

竹原「?」




団長「...」チラッ



日本兵「竹原、監視行くぞ」

竹原「はい」


_
__

__
_
団長「席をあけてしまって申し訳...

補佐「申し訳ありません!!」

団長「...っ?」

補佐「補佐官という立場にいながら...団長をお守りできず...」

「申し訳ありません!!」

団長「あ、謝るな...傭兵団は?」

補佐「百名しか残っていません...」

団長「...引き続き進軍を開始する、全兵には...」

団長「あの城のことは気にするなと、伝えよ」

「っは...」

_
__

__
_
ッザッザッザッザ

「んな...何だあの姿?」

「着ぐるみか?」


「グルルルルル...」

「ップギッ!ップギッ!!」


警備隊長「知能があるようには見えないがなぁ...よく統制できたものだ」

「人数は多いですが、士気が高そうには見えませんね」

警備隊長(奴らの一部隊丸ごとをぶっ潰したもんなぁ...あの戦闘が我に吉とでるか...)

団長「…」

補佐(士気は…低い…なんとしても帝国軍と会敵する前に士気を高めねば…)



「チンドン屋みてぇだな、ありゃあ」

「内林さん、聞こえますよ」

「…」


団長「…」チラッ


日本兵「…ご武運を」ッサ


団長「…」コクッ 



一等兵「誰に敬礼してんですかい?」

日本兵「いや、なんでもない」


団長「…よし」

補佐「?」

迷いは消えた、もう行くしかない。

___
______

____
___
「兵の間でも不安が広がってるな」

「しかし我々もなんと説明たらいいのかね」

「我が陣地丸ごとが…別の世界にでも飛んだ…」

「そんなバカな…」


一等兵「徐州 徐州と人馬は進むっとくらぁ…」

竹原「あの捕虜の人が引き連れてた軍隊が通過してからもう4日経ちますが、
なんの伝令も通りませんね」

一等兵「あー玉砕よ玉砕、誰1人として退くことなくな」

竹原「はぁ…」

一等兵「元の場所に帰りゃ俺らも玉砕よ、ソヴィエトの津波に飲み込まれてな」

日本兵「…」

一等兵「日本兵さん、あの団長とやらになんの思入れがあったか知りませんがねぇ、諦めましょうやもう

日本兵「いや…思入れは無いけど…」

一等兵「でなければ、あの戦闘で死んだってぇ言うどっかの偉いさんの事ですかい?」

日本兵「まぁ…」

一等兵「日本兵さん自分はね、支那各地の戦場を転々としましたよ、その先々で人が死んで行くのを見てきて…
まぁ慣れってこたぁないですが…段々と耐性が着くモンなんですよ」

日本兵「そりゃ…僕はここ以外に出たことは無いけど…」

一等兵「分かりますよ、殺された奴を好いてたかどうかはさて置いて…
そいつが死んだことにとてつもなく悲しいって感情出した奴をそいつを殺した自分が間近で見ちまったから」

日本兵「僕は…あの時なんて声かけりゃ良かったのかな」

一等兵「なーんにも言わない事ですな、なーんにも…慰めも挑発もせずただの一兵卒として
黙っとけばよかったんすよ」

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