エミリースチュアート「大和撫子のお願い」 (14)

「まったくあの方は...」

仕事終わりで事務所へ帰るタクシーに乗りながら愚痴をこぼします。

「まあまあ、私のためですからね」

「分かっていますよ。プロデューサーはそういう人ですから」

隣の席に座っているエミリーさんにそう言われてしぶしぶ納得しました。

「事務所で開く私の誕生日会の準備をしてくださっていると聞きました!。ふふっ♪」

「あのプロデューサーのことです。きっとサプライズでも用意しているのでしょう」

「Wow!それは楽しみですね!」

喜ぶエミリーさんを見るとつい私まで嬉しくなってしまうのはなぜでしょう。

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「少しお聞きしたいのですが...エミリーさんは故郷に帰りたいと思うことはありますか?」

「帰りたい...ですか」

こんなタイミングで言うことではないと思いましたが、つい気になったので仕方ありません。

「思ったことが無い...と言ったら嘘になりますね」

「やはりそうですか...」

年上の私でも何度か思ったことがあるのです。

ましてや海外から来た13歳の女の子がそう思わないことなんてないでしょう

「すみません、突然こんなこと...」

「いえ、気にしないでください。それに家族とはよく電話で話しているので大丈夫ですよ!」

にっこりと微笑むエミリーさんは嘘をついている様子ではありませんでした。

「エミリーさんはお強いのですね」

「そんなことないですよ。紬さんに比べたらまだまだです」

「...前の私のソロ公演の時もでしたが、エミリーさんは私を過大評価しすぎではありませんか?」

「いえ、紬さんは私の憧れている大和撫子そのものです!」

面と向かって言われるとなんだか恥ずかしくなってしまいます。

「そう...なのでしょうか...?」

「はいっ!紬さんの所作や言葉遣いの奥ゆかしさからは和の心を感じます!」

「そ、そこまで言われると照れてしまいます...」

「はっ、す、すみません。つい舞い上がってしまって...はしたないですよね」

しゅん...と小さくなるエミリーさんは年相応のかわいさがありました。

「はしたなくなんてないですよ」

思ったことを素直に口にできるのは私にはできないことですから...。

「それこそ前に私はエミリーさんたちの前で泣いてしまったことがあったじゃないですか」

「はい...。紬さんのソロ公演の時ですよね」

「あの時は見苦しいところをお見せしてしまいましたね。ですが私はあれでよかったのだと思います」

かつての私を思い出しながら強く口にします。

「あの時の私は自分の実力が回りに追いついていないのに一人で乗り越えようとしてましたからね」

最近のことなのになぜか懐かしむように語りかけます。

「私の弱さを皆に見られたからこそ、私は少しは強くなれたと思いますよ」

私も少しは素直になれたのでしょうか。

「ですがもう二度とプロデューサーの前では泣いたりしたくないですね。」

...やはり素直になるにはまだ時間が必要なようです。

「弱さを...ですか」

何かを考え込むようにエミリーさんが唸りました。

「でしたら私も紬さんだけに弱さを見せても構いませんか?」

「私だけに...ですか。どうぞ、遠慮せず言ってください」

「はいっ!え。えぇっとですね...」

いったいどんな言葉が飛び出すのかと思いましたが、当の本人はどこか恥ずかしそうにしています。

「エミリーさん、私はあなたに泣き顔を見られているのですから大丈夫ですよ。それにお互いに支えあうのが和の心だと前に言っていたではありませんか」

「紬さん...!」

ぱぁっと明るい表情になった彼女が口を開きます。

「ではっ!明日の私の誕生日が終わるまで、紬お姉ちゃんとお呼びしても構いませんか?」

「お、お姉ちゃんですか...」

予想をしてなかったことは言われてつい動転してしまいました。

「それはまた...どうしてでしょう?」

恐る恐る聞いてみます。

「あ、いえっ変な意味じゃなくてですね、前に星梨花さん達が紬さんは私たちのお姉さんみたいだなーっと言ってたので...」

「お姉さん...ですか」

「やっぱり駄目ですよね...」

珍しく顔を赤くして上目遣いをしているエミリーさんの頼みを断るわけにはいきません。

「いえ、明日はエミリーさんの誕生日なのですから、思いっきりどうぞ」

「本当ですか!ありがとうございしゅ♪...では遠慮なく...」


「紬お姉ちゃん!これからも、どうかよろしくお願い致しますね♪」



その姿はとても可愛らしいもので思わず頬が緩んでしまいました。

「ふふっどうでしょうか?」

「そうですね...たまにはこういうのも悪くないかもしれませんね」

「そう言ってもらえると読んでみた甲斐があったというものです」

なんだか不思議な気分ですがエミリーさんがぴょんぴょんしながら喜んでいるので気にしないことにしました。

「もうっ!あんまりはしゃいでははしたないですよ!」

「はい!これが紬さんからの誕生日プレゼントと思うと嬉しくて嬉しくて...」

そう言って微笑んだ彼女は間違いなく高貴な英国の淑女でした。

「私だってたまには誰かに甘えてみたいことだってあるんですから、ね♪」


それは果たして彼女の弱さなのか、それとも本心なのか。

その表情は誰にでも見せるものなのか、それとも私にだけ見せてくれるのか。

「もうすぐ着きますからね。その呼び方は皆の前では禁止ですよ!分かりましたか?」

「はーい♪」

楽しそうに浮かれているエミリーさんを見るとやっぱりまだ13歳の可愛らしい子なんだなぁと改めて思いました。

「ほらっ、着きましたよ!紬お姉ちゃん」

もしこの会話をあの方が聞いたらどう思うでしょうか。

そんなことを考えながら降りようとすると運転手の方が話しかけてきました。

「仲のいい姉妹ですね」

「...違いますよ。話聞いてましたよね」

「まあまあ、いいじゃないですか。ほら先に行っちゃってますよ」

そう言われて気づくとエミリーさんはもう事務所の前までたどり着いていました。

「まったくもう...」

「そのセリフ、お姉ちゃんらしくていいと思いますよ」

「何言ってるんですか。それでは失礼します」

一礼をして彼女の方へ向かいます。

「お姉ちゃん、早くしないと先に行っちゃいますよ」

まったくもう、仕方のない子ですね。

そう思った私の顔がどこか嬉しそうな表情をしているのですが、どうやらその時の私は気が付いていなかったようです。

おしまいです。


エミリー誕生日おめでとー!
エミつむと一緒に抹茶飲みに行きたいですね。

エミリーのお姉ちゃんか、お姉様じゃない距離感がいいね
乙です

エミリー(13)Da/Pr
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白石紬(17)Fa
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