(デレマスのアイドルを登場人物に使っているだけでデレマス要素は)ないです
(独自設定、残酷な描写が)ありますあります
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晩秋の朝のやわらかな陽光が、監察医の白坂小梅の青白く生気のない肌をじんわりとあたためていく。
仄暗い現代社会を生きる人間にとって
日光浴は大切である。一日一時間の日光浴で、セロトニンの分泌量を増やすことができ、うつ病の防止に大いに効果がある。研修生の龍崎薫が日々取り組んでいる「白坂小梅健康促進キャンペーン」の一環で、朝の日光浴タイムが設けられデスクのブラインドは上げられていた。
ぽかぽかとした血液が頭に上ってきて、かたかたと検案書を作成する小梅の集中力をじわじわと奪っていく。これはいけないとキーボードの横にある煙草とライターを取ろうとすると、薫の手がむんずと煙草とライターをつかんでいった。
「い、一本ぐらい吸わせてよ…」
「ダメです。お仕事中は禁煙って決めたじゃないですか」
「あのね、お、お仕事が多くてストレスが溜まってるの…これじゃお仕事にならないよ…ね、一本だけお願い…」
容赦なく小梅の嘆願を切り捨てる薫になおも縋りつく小梅。
「ダメです。煙草吸う方がストレス溜まるって科学的に証明されてるじゃないですか。これで我慢してください」
そう言って薫が小梅に手渡したのはココアシガレット。
「…わかった」
震える手でココアシガレットを一本つまみ、バリボリとかじる小梅。数か月前に受けた健康診断は残酷にも小梅の不健康を立証し、薫を医者としての使命感に燃え上がらせてしまった。お前は監察医を目指しているんじゃないのかと突っ込んでやりたいのはナイショだ。
甘ったるくなった口の中をコーヒーで洗い、二本目のココアシガレットをかじろうとした時、デスクの上にある電話が鳴った。
「は、はい…白坂です…」
『白坂先生、ヒゲクマさんからお電話です』
受付の服部瞳子の柔らかい声が告げるのは、気だるげな気分を吹き飛ばす名前。ヒゲクマは新宿区警察署所属の刑事、熊田浩一のニックネームだ。
「あ、つ、繋いでください…」
『おう、先生かい?朝っぱらからすまねぇんだけどよ。今日、検案頼めるかい?死体は一体で、損壊ありだ』
「ちょ、ちょっと待ってね…。か、薫ちゃん…今日は台って空いてるかな…?」
「はーい!ちょっと待ってくださいねー!」
薫がパソコンの予約システムを起動して解剖台の予約を調べる。
「先生!1台が16時から空いてまー!」
「あ、ありがと…。ヒゲクマさん、16時からできるよ…」
『おお、そうか!16時だな!ありがとうよ!』
電話のスピーカーが音割れするほどの大声でヒゲクマは礼を言って電話を切った。
「か、薫ちゃん…今日の16時から持込検案ね…」
「あーあ、今日もですか。新宿署からの持込、今月だけでもう10件ですよねぇ」
「しょ、しょうがないよ…新宿署の署長さんがウチを頼りにしてくれてるんだもん…」
平成25年に施行された死因・身元調査法により新法解剖が運用されるようになってから、捜査のスピードを速めるために監察医務院が解剖を行うケースが増えている。
裁判所が命じる司法解剖は被害者遺族の了承を得ないと行えないが、新法解剖は警察署長の権限で行うことができ、被害者遺族の了承も不要なため、死因の特定が速やかにできて初動捜査の方針を固めることができる。警察からしたらいいことずくめの制度だ。監察医からしたら死ぬほど忙しくなるので糞以下の制度だというのに。ファッキュー内閣府。
「そ、それに持込班の私たちはまだマシだよ…市原先生は現場班だから昼でも夜でも現場に駆り出されて、今月は奥さんとお子さんに会っていないって嘆いてたよ…」
「とりあえず、残ってる検案書大急ぎで仕上げないと…先生、なんですかその手は?」
小梅は薫に向かって無言で手を差し出している。
「先生、ダメですよ。お仕事中は禁煙だって決めたじゃないですか」
「じゃあ今日は深夜残業コース、だね…ふふふ…知ってる?ここって深夜にお仕事してると、誰かにじーっと見られているような気がしたり、誰もいないはずの廊下から、足音がしたりするんだよ…」
「そ、そんなのただのウワサです!」
「じゃあ…今夜は、そのウワサが本当か確かめようね…」
「………煙草吸って、気合入れてきてください」
怖がりの薫は小梅に煙草を明け渡す選択肢を選ぶしかなかった。
「あ、ありがと…」
「あっ!一本だけですよ!一本だけ!」
「わ、わかってるよ…じゃ吸ってくるね…」
薫はウキウキと喫煙所に小走りで向かう小梅を見送りながらため息を吐いた。そして薫も解剖の準備をするためにパタパタと部屋を出て行った。
「おーっす。今日もよろしく頼むぜ」
きっかり15時にヒゲクマはやってきた。新宿警察署の警部補である熊田浩一は恰幅のいい体と髭の生えたふてぶてしい面構えとクマのようにつぶらな可愛い瞳から、ヒゲクマの愛称で呼ばれている。
「こ、こんにちは…準備できてるよ…」
「お疲れ様です!」
「いつもすまねえなぁ。ほい、これ差し入れな」
「叙々苑の焼肉弁当だー!ありがとうございます!」
「わぁ…♪ありがとうございます…」
焼肉は小梅と薫の大好物だ。人におごってもらう焼肉に勝る食べ物はないとは小梅の持論だ。
「ここんとこ連続で検案頼んじまったからな。肉でも食ってお馬力つけてちょうだいよ」
「じゃ、解剖が終わったら食べましょうね先生!」
「そ、そうだね…」
「あれ?薫ちゃん、解剖の後は何も食べられないんじゃなかったか」
薫は監察医を目指しているが、死体に対して耐性がない。解剖の途中でバケツにげえげえと吐くのがいつものお約束だ。
「最近、吐いた後でもちゃんと食べられるようになりました。成長ですよ!成長!」
どうだと言わんばかりと誇らしげに報告する薫。
「薫ちゃん、それ成長したって言えねえ」
「ちゃんとご飯食べられるからいーんですー。それよりも最近、新宿からの持込が多くないですか?先週もやりましたよ」
「あー…一ノ瀬先生がウチの署長に信用されてねえからなぁ…」
「一ノ瀬先生?」
「ウチの管轄にある東京女子医科大学の法医学教室にいるスゴ腕、いやスゴ鼻の先生だ」
「い、一ノ瀬さんは確かにスゴ鼻だね…」
「スゴ鼻って言葉、初めて聞きますよ…どんな人なんですか?」
「一ノ瀬先生はそりゃあもうすげえ鼻の持ち主でよ。何と死体の匂いを嗅いで死亡時刻から死因までビタリと当てちまう」
「匂いで?!」
信じられないと訝しげにヒゲクマを見つめる薫。薫が持ち合わせている監察医の常識と知識ではとても信じられないのも無理はない。
「頭を鈍器で殴られた死体が来れば殴った凶器の匂いを嗅ぎとって言い当てちまうし、毒殺された死体の肌の匂いを嗅いで薬品を言い当てちまう。ありゃ人間じゃねえな。うん、妖怪だ妖怪」
「よ、妖怪ですか…」
「ま、そんなスゴ鼻の妖怪も東京地検の二宮検察官とタッグを組んで、難事件の数々を解決してるんだぜ。去年あった赤い洗面器殺人事件とか」
「えっ!あの事件、スゴ鼻の妖怪が解決したんですか?!」
「そ、そうだよ…い、一ノ瀬先生は変わった事件を解決してるよね…」
「しかも、あの先生気まぐれでよ。興味が湧いた死体しか解剖しねえ。しかも失踪癖持ちで、二宮検察官じゃなきゃ居場所が見つけらんねえから、ウチが解剖を頼もうにも連絡がつきゃしねえ。おかげでウチの署長からは嫌われてるって訳だな」
「い、一ノ瀬先生はメスいらずだから…死体をキレイにお返しできてうらやましいよね…」
「確かにそれはうらやましいですね。この間もご遺族の方からクレーム来ちゃいましたもんね…」
「ま、それでも俺は白坂先生がいいけどな!人間味があるからよ!」
ヒゲクマがバシリと小梅の背中を叩く。
「も、もう痛いでしょ…」
「ウハハ!イテエってことは生きてる証拠だよ!」
「あはは!確かに!」
ヒゲクマと薫の笑い声に交じってドアがノックされる音が聞こえ、ガチャリとドアが開きパンツスーツの女が入ってきた。
「ちわーっす。ヒゲクマさん、死体の搬入できたっすよ」
「おう、向井。ありがとうな」
部屋に入ってきた乱暴な口調の女の名前は向井拓海という。ヒゲクマと同じく、新宿警察署に所属する刑事だ。
「…あれ?」
拓海は部屋に入るなり、鼻をひくつかせて小梅に近づいていく。
「おい、薫。白坂センセから煙草の匂いがすんぞ」
「………ここにもスゴ鼻がいましたね」
「向井は鼻が利くからな」
「あの妖怪と一緒にすんじゃねー!アタシは立派な人間だ!」
ガルル!と吠えるように叫ぶ拓海は人間というより、犬だなと小梅は思った。☆
「薫!白坂センセを禁煙させるんじゃなかったのかよ!」
「ご、ごめんなさい!今日は仕事がたくさんあるからどうしてもって先生が」
「あのなあ、ウチの署長から言われてんだぞ?『白坂先生は体が細く、食も細く、声もか細い!白坂先生に倒れられたら新宿警察署の一大事!熊田君と向井君で先生の健康面をサポートするように!』…ってよ」
「ウハハハハ!おい今のモノマネ、今年の忘年会でやれよ!絶対にウケるぜ!」
「嫌っすよ!給料減らされちまいます!」
「拓海さん、新宿警察署のために先生をもっと健康にしなきゃいけませんね!」
「そうだなー………お、次はあれだ!スムージーで健康になってもらうか!」
「も、もう…!私の健康より、もっと大事なことあるでしょ…!」
盛り上がる薫と拓海を見て、今度はどんな苦行を課せられるのかと小梅はゲンナリとする。話題をそらさなければ何をされるかわかったもんじゃない。
「お、そうだな。先生、今日の死体はちょっとハードだ。顔面をぐちゃぐちゃに潰された女で、右腕が切断されてる。これが現場写真な」
「ふうん…あ、こ、ここってお風呂屋さん…?」
「正解。借り手がつかなくて空きテナントになってた元ソープランドだ。発見者は近所のホームレスのジイサンで、あんまりに寒かったから中で寝ようと侵入したら見つけちまったらしい。しかも、現場から逃げる犯人の足音まで聞いてるってんだからお手柄だ。音がしたって所からしっかりとゲソ痕も取れたしよ」
「えーと、じゃあ犯人はもう見つかってるんですか?」
薫は現場写真を見まいと窓の方を見ながら質問をする。
「いいや、見つかってねえ。あの辺はスキマって呼ばれててな、雑居ビルの隙間に監視カメラのない道、上海小吃の辺りみたいな感じの道がうじゃうじゃとある。あの辺を知ってる奴は監視カメラに映らずに逃げちまう」
「目撃情報もジイサン以外にねえし、身元もわかんねえ。歯もほとんどペンチで抜かれて砕かれてたンすよ。ったく、歯型の照合もできやしねえ!」
「は、歯をペンチで…うぇー…」
薫は自分の歯がそうされたような感覚がしておぞ気がしたのか、口に手をあてて顔をしかめた。
「って訳だから、しっかりと解剖頼むぜ先生。向井、お前は解剖の間に現場で聞き込みしてきてくれ」
「う、うん…任せて…!」
「うっす、了解です」
この板グロ禁止だよ
「先生!準備できましたよ!」
解剖室の薄暗く、どこか湿っぽい空気に薫の元気な声が響き渡る。死が充満しているこの部屋で、薫だけが生きている。そんな風に小梅は思った。
「う、うん…ありがとう…」
「薫ちゃん、吐きたかったら素直に言ってくれよな。バケツは俺が持っておくから」
「ヒゲクマさん、今日はお昼も少なめにしたし、おやつも食べていないから我慢できるので大丈夫です!それに…うん、嫌な感じの臭いはしないので大丈夫です。…たぶん」
鼻をすんすんとして、臭いを確認する薫。薫曰く、見た目のグロさは慣れれば大丈夫だが、臭いのきつい死体だと本能的に吐き気がくるらしい。
「うーん…おじさん、とっても心配だなぁ…薫ちゃん、見た目のきっつい死体でも吐くからなぁ…」
ヒゲクマはバケツを抱えて、心配そうに薫を見つめる。薫は死体を見るのが吐くほど嫌なのに、監察医を目指そうとする意志が人一倍強い。
「か、薫ちゃん…無理はしないでね…」
「もう!大丈夫ですってば!」
「じゃ、じゃあやろっか………始めます」
小梅の凛とした声が解剖の始まりを告げた。
小梅が合掌し、薫とヒゲクマも続いて合掌する。
数十秒の合掌が終わり、薫が死体袋のマジックテープを開けると、潰れた顔がでろりと現れた。薫の手がびくりと一瞬止まるが、ぎゅっと手に力を込めて死体を袋から出していく。死後硬直が始まっている死体を袋から出すのはちょっと大変だ。
死体の右腕は肘から先が切断されていて、別の袋に分けられていた。全身に暴行されたのか痣がいくつかあるが、死にたてで腐っていない。死体愛好家の小梅が好きな状態の死体だ。腐った死体は映画の中だけで十分だ。
「身長は172cm…女性…か、顔の全体に損壊…右前腕部が切断されてるね…全身に拳大の痣あり…首に索条痕があるから直接的な死因はこれかな…痕の形は…電気コードかな…生活反応はなし…硬直の具合からして…死後20時間だね…」
「はい」
「20時間てぇと、死亡推定時刻は昨日の夜の10時前後か。んで、死因は首を絞められたことによる絞殺だな」
「そ、そうだね…それと歯は…中切歯から第一小臼歯まで抜かれているね…第二小臼歯から第二大臼歯はペンチみたいな物で砕かれてるね…」
「…はい」
黙々と記録をしていく薫だが、やはり歯の部分になると辛いのか反応が鈍る。
「か、薫ちゃん…この人が受けた傷を想像するよりも、記録をきちんと取らないとこの人がどうやって殺されたのかどうか判らないでしょ…身元だって分からないし、ちゃんと私たちで調べないと、この人は家に帰ることもできないんだよ…」
「す、すみません!」
小梅は死体愛好家である前に監察医だ。被害者の利益を第一に解剖を行うのが信条である。被害者の死因を明らかにし、身元を割り出す手がかりを見つけ、犯人を追い詰める証拠を探し出し、被害者の無念を晴らさなければならない。
「じゃ、じゃあ続けよっか…か、顔の損壊だけど…うーんと…潰したって、感じじゃないね…削り取った感じ…こ、これって電動のグラインダーでやったのかな…」
「電動グラインダー?…成程、確かに合理的だな。肉も骨ごと削れるし、身元を手早く分からなくしちまおうってんなら悪くない選択だな」
「傷の表面に、ディスクの粉がたくさん付いてるね…科捜研で鑑定してもらおうね…」
>>10
ごめんなさい。間違えました
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