女の子「僕はサンタクロースを信じている!」~建設的なサンタクロース存在論~ (16)

約6000文字

ジャンル……雑学多めのほっこり系?

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クリスマス前

男の子「お前、小学生にもなってサンタ信じてるのかよ!」

女の子「?」

小学校の帰り道、同じクラスの男の子が変なことを言って話しかけてきた。

男の子「学校でサンタに何を頼むか話してたけどさ、サンタなんていないんだぜ!」 

どうやら友達とクリスマスプレゼントの話をしていたのを、聞かれていたみたいだった。

女の子「サンタさんいるよ? 毎年プレゼントもらってるよ?」

男の子「バカだな。サンタのふりして親がプレゼントを用意してるんだよ!」

女の子「信じてない子はプレゼントもらえないから、男の子君の所には来てないだけなんじゃ?」

男の子「あっそ、じゃあサンタがいるって証明しろよ! 証拠をだせ! 証拠!」

女の子「……」

わたしは黙ってしまった。証拠なんてない。

男の子「ほら一生懸命考えてみろよ。どうせないけどね!」

女の子「……そうだ! 証拠ならある!」

わたしは去年のクリスマスを思い出した。

男の子「へえ、言っとくけど、町でサンタの恰好してる人を見たってのは無しだぜ!」

男の子「あれも普通のおっさんが、白髭つけて赤い服着ているだけなんだからな!」

女の子「違うよ、ビックリするんだから!」

男の子「ほ~ん」

女の子「わたし! 外国のサンタからもらった手紙を持ってる!」

わたしは自慢げに言った。

男の子「ぷはは、そんなもん証拠になるかよ!」

女の子「なんで?! ちゃんと英語だったよ?」

男の子「英語なんて大人なら書ける人いるだろ!」

女の子「ちゃ、ちゃんと、こーにん?のサンタクロース協会から来てて、外国の郵便局のハンコもついてた!」

男の子「だ~か~ら、そんなの外国に手紙を出して、外国の大人が英語で手紙を返せばいいだけだろ!」

女の子「!?」

男の子「公認だか協会だか言ってるのだって、本当はサンタのフリだけで、空飛ぶソリも赤い鼻のトナカイもいないんだよ!」

女の子「……」

男の子「終わりか? やっぱりサンタがいる証拠はないんだろ。サンタなんていないんだよ!」

確かにそうかもしれない。証拠なんてない。

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女の子「で、でもお母さんは──」

男の子「お前の母ちゃんは嘘ついてるんだよ!」

女の子「っ!?」

女の子「……」

お母さんが嘘つくなんて考えたこともなかった。

お母さんはいつも言ってた。

嘘をつくのはいけないことだって。

お母さんはいつも言ってた。

良い子にしていればサンタさんが来てくれるって。

お母さんは──

男の子「!?」

男の子「お前、泣いてるのかよ!?」

いつの間にかわたしの瞳からは涙が溢れていた。

女の子「……おっお母さんは……うっ嘘つきなんかじゃないぃ……」

男の子「」

男の子「な、泣いたって何も変わらないぞ!」

男の子「サンタがいる証拠はない。サンタなんていないんだ」

女の子「……うぅ……」

男の子「と、とにかく、そういうことなんだからな!」

男の子「じゃあ、俺こっちだから」

男の子はそう言うと逃げる様に、さっさと帰っていった。

女の子「……」

女の子「……」

女の子「……帰ろ」

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男の子と別れてから、ずっと考えながら歩いていた。

やっぱりサンタさんはいないのかな。

サンタさんがいる証拠なんてない。

あの手紙も誰かがサンタさんのフリして書いたものなのかな。

じゃあやっぱりお母さんも嘘をついていたのかな。

世の中の大人はみんな嘘をついているのかな。

だとしたら、わたしは──

女の子「!」

わたしはいつの間にか信号のない交差点を、左右も見ずに渡りだしていた。

?「危ない!」

誰かの腕がランドセルを背負っている肩を掴み、歩道に引き戻された。

そしてわたしが歩こうとしていた場所を車が通り抜けた。

危なかった。

わたしは顔をあげて、助けてくれた誰かの顔を見上げた。

女「ちゃんと見て渡らないと危ないよ」

10代後半ぐらいのきれいなお姉さんだった。

女の子「……」

女「?」

この人だ。わたしの悩みの答えをくれる人は。

大人は嘘をついてるのかもしれない。

子供では答えが分からない。

大人でも子供でもないこの人なら、きっとわたしに答えをくれる。

女の子「……」

女「どうしたの?」

そう思ったらお礼を言うのも忘れて、たずねていた。

女の子「……サンタさん……」

女「ん?」

女の子「サンタクロースはいるんですか!?」

女「えぇ!?」

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女「どうして急にサンタクロースがいるのか、なんて聞いたのかな?」

わたしはお姉さんに連れられて、近く公園のベンチに座っていた。

女の子「さっき──」

わたしはお姉さんに全部を話した。

男の子にサンタさんがいないって言われたこと。

わたしはいると思っていたこと。サンタさんがいる証拠がないこと。

大人は嘘をついているのかもしれないこと。

大人でも子供でもない人なら答えを教えてくれると思ったこと。

女「なるほど、それで僕なんだね」

僕? 女の人なのに???

女の子「はい。いきなりごめんなさいです」

女「いいさ、初対面でこんな面白い質問されたのは初めてだ」

女の子「それでサンタさんはいるんですか?」

私は早く答えが欲しかった。

女「そう焦らないで、僕の答えを聞く前に答えてほしい」

女「これは僕なりの答えで、君の答えにはならないかもしれない。それでもいい?」

女の子「お姉さんの答えが、わたしの答えにはならない???」

女「僕の答えで君は納得してくれるかもしれない。でもその男の子は納得しないかもしれない」

女「かもしれないばかりで申し訳ないけど、世界には答えが一つだけの問題は少ないんだ」

初めは男の子に言い負かされて、悔しかった気持ちが大きかった。

でも今は少し違う。

見ず知らずの子供の話を、真剣に聞いてくれる優しいお姉さん。

このお姉さんが、いったいどんな答えをもっているのかすごく気になった。

女の子「それでも、お姉さんの答えが聞きたい」

女「わかった」

女「結論から言おう。僕はサンタクロースがいるって証明できない」

女の子「! それじゃサンタさんはいないの?」

女「そうじゃない。同様にサンタクロースがいないっていう証明もできない」

女の子「どういうことなの?」

女「勘違いしやすいのだけどね」

女「君は言っていたね。サンタさんがいる証拠が無いと、でもだからと言ってそれがいない証拠にはならないんだ」

女「同様にいない証拠がないことが、いる証拠にはならないんだ」

女「だから結論は、サンタクロースはいるかもしれないし、いないかもしれない」

女の子「えっと?」

なんだかふわっとした答えだった。

本音を言うとサンタクロースがいるという、しっかりとした証拠が欲しかった。

女「なんだか期待外れって感じだね」

女の子「え!? その……はい、ちょっぴり」

女「じゃあこれはどうかな?」

女の子「?」

女「僕はサンタクロースがいたっていう証拠を知っている」

女の子「え!?」

いる証拠はないけど、いた証拠はある!?

女「君は最も有名なサンタクロースの起源」

女「言い換えると最初のサンタクロースじゃないか、と言われている人が居たことは知っているかな?」

女の子「しらないです」

女「彼は聖ニコラウスと呼ばれた神父さんだったんだ。お墓も残ってる」

女の子「セントニコラウスさん? サンタクロースさんじゃないの?」

女「聖ニコラウスは大雑把に西暦300年くらいの人だからね」

女の子「今は西暦2017年だから1700年前の人?」

女「そうだね。そんなに昔だから当然、テレビもカメラも印刷機もない」

女の子「じゃあどうしていたってわかるの?」

女「口から口の口頭で伝える。本に書いたものを書き写す」

女「そうして人から人へ伝えられているうちに、訛っていったんだろうね」

女の子「……セントニコラウスさんがサンタクロースさんになった」

すごい。

すごい。

すごい。

サンタさんは本当にいたんだ。

女「そうだね。さてこの人が何故サンタクロースになったのかというと」

女の子「うんうん!」

女「貧しい家の煙突にコインを投げ入れたんだ」

女の子「煙突!」

女「そしてたまたま干してあった靴下にコインが入った」

女の子「靴下!」

女「彼はそれを何回も誰にも気づかれることなく、コッソリと行っていたみたいなんだ」

女の子「物語のサンタさんと同じだね!」

女「最初のサンタクロースだからね」

女の子「あれ……でも待って……その人はもう死んじゃってるんだよね」

女「そうだね」

女の子「……じゃあ今のサンタさんは? それに空飛ぶソリとか、赤い鼻のトナカイもやっぱり嘘なの?」

女「彼のお話にはまだ続きがある。彼は奇跡を起こしたという伝説があるんだ」

女の子「奇跡?」

女「船に乗っているときに嵐にあって、船が沈んじゃいそうになったとき」

女「天気を操って船を守ったんだ」

女「そして溺れて死んでしまった人も、蘇らせたという伝説がある」

女の子「……」

女「いくら何でも信じられないって顔してるね」

女「でもこれも証明の話と同じなんだよ。奇跡が起きたっていう証拠はないけど、起きなかった証拠もない」

女の子「うーん?」

女「もし、もしもだよ。奇跡が本当に起こっていたとする。すると天気を操ったり死者を蘇らせたりしたんだから」

女の子「!」

女の子「空を飛べたかもしれないし! 赤い鼻のトナカイと友達だったかもしれない!」

女「ふふ、そうだね」

女「彼は生きている間は、誰かの笑顔のために働いていたんだ」

女「なら死んでしまってからも、もしかしたら子供たちの笑顔のために、またコッソリ働いているのかも」

女「空飛ぶソリで赤い鼻のトナカイも連れてね」

女の子「……」

そうかもしれない。

人を蘇らせることができるのなら、クリスマスの夜だけ自分が蘇って働いているのかもしれない。

でも。

女の子「……それは奇跡を信じたらっていう話だよね?」

女「そうだね。君は奇跡を信じる? いや正確にはどちらを信じたい?」

女の子「……どっちを信じたいか???」

女「そう。人間はみんなきっと、信じたい方を信じているんだ」

女「神の子が死んでから蘇ったっていう奇跡。預言者が神の声を聴いたという奇跡とかね」

女「本当かどうかはわからない。でもみんな信じたいことを信じているんだ」

女の子「……信じたいことを信じる」

女「誰かを傷つけたり、困らせたりしない限り、それはみんなもってる権利なんだよ」

女「日本の一番大切な法律にもそのことは書かれているしね」

女の子「……そうなんだ」

わたしは何を信じるのか?

じゃなくて、何を信じたいのか?

女の子「……わたしサンタさん信じる!」

女「そう」

女の子「だってサンタさんいたほうが楽しいし、面白いから!」

女「そうだね。きっとそうだ。それに世界には君と同じ考えの人がたくさんいたのだろう」

女の子「どうして?」

女「だって、そうでしょ。つまらない話を、人から人に何回もすると思う?」

女の子「あ!」

女「サンタクロースがいたらいいな」

女「サンタクロースみたいに、誰かを笑顔にしたいなってみんな思っているんだ」

女「最初のサンタクロースが死んじゃった後ずっとね」

女「だからクリスマスになると赤い服を着たり、プレゼントを配ったりする人がいるんだよ」

女「仮に奇跡が起きてなくて、サンタクロースも空飛ぶソリも赤鼻トナカイも嘘だったとしても」

女「サンタクロースがいたらいいなって、思っている人がたくさんいることは事実だよ」

女「きっと君のお母さんもね」

女の子「うん! ありがとうお姉さん!」

そうだ。

お母さん。

私はベンチから立ち上がった。

公園でかなり時間を使ってしまった。

早く帰らないと、きっと心配してる。

女の子「ごめんなさい。お姉さん。わたし帰らなくちゃ」

女「そう。送っていこうか?」

女の子「大丈夫」

私は公園の出口に向かって歩き出そうとする。

女「待って! 最後に必殺技を教えてあげよう」

女の子「必殺技?」

女「また男の子にサンタクロースはいないって言われた時の必殺技だよ」

そういってお姉さんは、子供のようにニヤリと笑った。

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クリスマス当日 女の子の家

わたしの枕元には、綺麗なリボンの巻かれたクリスマスプレゼントがあった。

ベットから飛び起きて、プレゼント箱を抱えて母のいる台所へ走った。

女の子「お母さん! サンタさんが来てくれた!」

母「あら良かったわね。でも朝は、まず最初におはようでしょ」

女の子「おはよう。お母さん」

母「はい。おはようございます」

母「あら、プレゼントまだ明けてないの? いつも朝一番に開けてたのに?」

女の子「う、うん。お母さんと一緒に開けたくて」

母「そう。ちょっと待ってそっちに行くから」

お母さんが台所から料理を中断して、こちらにくる。

そして二人でプレゼント箱のリボンを丁寧にほどいていく。

女の子「……お母さん」

母「な~に?」

女の子「ありがとう」

母「?」

母「リボンをほどいてるだけなのにどうしたの?」

女の子「なんとなく言いたくなったの」

母「???」

お母さんは私の「ありがとう」の意味をよくわかってないみたいだった。

そしてわたしもなんで「ありがとう」って言いたくなったのか良く分からなかった。

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一方その頃 男の子の家

男の子「母ちゃん! 俺のクリスマスプレゼント無いのだけど!?」

母ちゃん「はぁ? アンタ貰えると思ってたの?」

男の子「なんで!?」

母ちゃん「母ちゃん聞いたんだよ」

男の子「?」

母ちゃん「アンタが女の子を泣かしてたのを、ベランダから見たって近所の人にね」

男の子「」

母ちゃん「はぁ~、情けない。情けない。女の子は泣かす。サンタは信じてない。いらないでしょアンタには」

男の子「そんな母ちゃん!?」

男の子「俺、サンタ超信じてる。信じてるから」

母ちゃん「……いまので確信した。アンタ何もわかってない」

男の子「?」

母ちゃん「サンタ信じてないのは問題じゃないの。女の子を泣かしたことが問題なの!」

男の子「!」

母ちゃん「きちんと反省するまでプレゼントはおあずけだよ!」

男の子「そんな~、母ちゃん」

母ちゃん「黙らっしゃい!!!」

母ちゃん(自分で女の子に謝るまでお預けだよ!)

母ちゃん(あまり時間がかかる様なら、拳骨して無理矢理にでも謝らせるからね!)

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クリスマス後 学校の教室

「プレゼント何だった?」「アタシはテディベア」

教室の中はクリスマスプレゼントの話題で持ちきりだ。

わたしも教室の椅子に座り、話に加わる。

男の子「だっせー、サンタなんてまだ信じてるのかよ」

来た。

場の空気が一気に悪くなる。

男の子「サンタがいるって証拠を出せよ。証拠は出せないだろ。サンタなんていないんだよ」

わたしは立ち上がって、男の子に向き合う。

今だ。

必殺技だ。

勇気を出すんだ。

お姉さんはなんて言ってた。

女の子「君はサンタのいる証拠を出せ出せっていうけど、なら君はサンタのいない証拠は出せるのかい?」

男の子「うっ」

周りのサンタを信じてる子たちも、一斉に声を挙げる。

「そうだよ!」「いないっていうなら証拠だしなさいよ!」「証拠!」「証拠!」

なんだかお姉さんみたいな話し方になってしまったが、なんとか言えた。

男の子「うぅっ」

ここでさらに畳み掛ける。

女の子「サンタのいない証拠の出し方、教えてあげようか?」

男の子「あるのか!」

食いついた。お姉さんすごい。

女の子「まずこのクラスでクリスマスプレゼントを全員分、誰からもらったか正確に調べる」

男の子「ふむふむ」

女の子「次はこの学校全体を調べる」

男の子「え!?」

女の子「さらに次は日本中のクリスマスプレゼントを調べる」

男の子「ええ!?」

女の子「さらにさらに次は世界中の──」

男の子「無理に決まってるだろ! そんなの!」

女の子「そうだね。まず無理だね」

男の子「ぐぬぬぬ」

お姉さんが言ってた。これは悪魔の証明だと。

女の子「いる証拠はない。でもいない証拠もない」

女の子「だから結論はサンタクロースはいるかもしれないし、いないかもしれないだよ」

男の子「ぐぬぬぬぬ」

男の子「なんだよ、お前ら、何ムキになってんだ」

女の子「……」

周り「……」

そうだね。ムキになっているね。

だって

わたしは

いや

僕は


女の子「僕はサンタクロースを信じている!」~建設的なサンタクロース存在論~

終わり

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読んで頂き本当にありがとうございました。

タイトル詐欺しました。すみません。

存在論は存在とは何かを考えるものであり、特定の事物が存在するかどうかは含まれません。

正確な意味よりタイトルのインパクトをとりました。

また神の子、預言者、ニコラウス、日本国憲法、悪魔の証明なども適当に書いてます。

間違いがあれば申し訳ありません。特定の宗教を侮辱する意図もありません。


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ちなみに小説は思う様に書けてません。

読んで頂き、重ねてありがとうございました。

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