【バンドリ】今井リサ「友希那離れ」 (34)
※ 友希那「私と付き合ってくれないかしら」紗夜「……え?」 の設定を引きずってます。
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――ファーストフード店――
氷川紗夜「……珍しいですね、湊さんからここへ行こうと言うなんて」
湊友希那「ええ、ちょっと相談したいことがあって」
紗夜「相談、ですか」
友希那「そうなのよ。ちょっとリサのことなんだけど……」
紗夜「今井さんのことで? それだと私で力になれるかどうか分かりませんが……」
友希那「大丈夫よ。話を聞いて、意見をくれるだけでも助かるわ」
紗夜「……分かりました。では、まず話を聞きましょう。それで、今井さんがどうかしたんですか?」
友希那「ありがとう、紗夜。それでリサなんだけど、なんだか最近そっけない気がするの」
紗夜「そっけない?」
友希那「ええ。紗夜はそんな感じがしない?」
紗夜「……いえ、特には」
友希那「そう……。じゃあやっぱり私にだけそっけないのね、リサは……」
紗夜(そっけない……とは違うけれど、最近今井さんの行動で不可解だったのは「紗夜のために作ったんだー☆」と意地悪な笑顔でキャロットクッキーを手渡されて感想を求められたことくらいかしら……)
友希那「うーん……」
紗夜「例えばですが、どんな風に今井さんはそっけなかったんですか?」
友希那「そうね、それを説明した方が早いわね。まず、この前リサと一緒に登校した時なんだけど――」
――2週間前、通学路――
友希那「おはよう、リサ」
今井リサ「あ、う、うん、おはよう……」
友希那「……? どうしたの、なにか元気がなさそうだけど」
リサ「えっ!? う、ううん、そんなことない、そんなことないよー」
友希那「そうかしら? なんだかいつもより顔が赤いし……熱とかない?」
リサ「ちょ、ちょっとストップ! 顔、顔近いから!」
友希那「え、そう……?」
リサ「う、うん、ごめん、本当に大丈夫だから気にしないで! ちょっと昨日遅くまで作詞してたからさ~多分寝不足なんだと思うよ!」
友希那(……昨日23時からのご当地ネコ歩きのテレビ番組を見ていた時、もうリサの部屋は暗かったと思うけど……デスクライトの明かりだけでやっていたのかしら)
友希那「リサ、目が悪くなるから、それはちゃんと部屋の明かりをつけてやった方がいいわ」
リサ「あっ――ああうんっ、ごめんごめん、気を付けるよ」
友希那「それと、ロゼリアのために頑張ってくれるのは嬉しいけど、あまり無理をしないことね。リサがいないロゼリアがどんな惨状だったか、みんなから何度も聞いたでしょう?」
友希那「それに私個人としてもリサがいないと困るわ」
リサ「う……うん、そう、そうだね……」
友希那「……リサ? ボーっとしてるけど本当に大丈夫? やっぱり熱があるんじゃない?」
リサ「う、うわっ!?」
友希那「え……」
友希那(リサのおでこに手を当てようとしたら大げさに身を引かれた……)
リサ「あ、ご、ごめん友希那っ! や、やっぱりちょっと調子悪いみたいだから今日はちょっと気を付けるねっ!」
友希那「そ、そう。ならいいわ。今日の練習も無理そうなら早く帰るか、欠席でも大丈夫だから」
リサ「う、うん、ごめんね、友希那……」
友希那「ええ……無理はしないようにね」
リサ「うん……」
友希那「…………」
リサ「…………」
――――――――――
―――――――
――――
……
友希那「――というようなことがあったわ」
友希那「普段なら私がおでこに手を当てたくらい何ともないのにその日は大げさに身を引くし、そのあともどこかうわの空で、まともな会話がなかったわ」
紗夜「その日はもしかして、今井さんが練習を早上がりした日ですか?」
友希那「ええ、そうよ」
紗夜「確かにあの日は今井さんの様子が変でしたね」
紗夜(それにやけに私の事を恨めしそうな目で見ていたような……)
友希那「二、三日後にはほとんどいつものリサに戻ったけど……私、知らないうちにリサに何かしてたかしら」
紗夜「……今井さんが湊さんに何か気に障ることをされたとしたら、すぐにそれを指摘しそうですけど」
友希那「そうかしらね……」
紗夜「ええ、普段の今井さんと湊さんを見ていればそういう印象を抱きます」
友希那「そう……」
紗夜(というより、今井さんが湊さんにされて気に障るようなことが思いつきません。湊さんに意図的に無視されても「何か心配事でもあるのかな、大丈夫かな」とフォローすることを考えそうですね)
紗夜「他にもそっけないと感じたことがあるんですよね?」
友希那「ええ。紗夜は来れなかったけど、先週ロゼリアでカラオケに行った時にも同じようなことがあったわ」
紗夜「カラオケ……ああ、練習がない日に日菜と出かける約束をしていた……」
紗夜(それとキャロットクッキーの感想を強要された日の翌日ですね……)
友希那「ええ、その日ね。みんなの歌唱力を鍛える、という名目でリサが発案した。それで、その時のことなんだけど――」
――1週間前、カラオケルーム――
白金燐子「君が出てくならそれでいいよ 借りたものは返すから」
宇田川あこ「うーん、コーラスで聞いてて思ってたけどやっぱりりんりんって歌上手だよね!」
リサ「あはは、普段からあれくらいしっかり声出せばいいのにって思うけど、やっぱり恥ずかしいのかな」
友希那「そうね、それを克服するために、今度作る曲に燐子のソロ歌唱パートでもいれようかしら」
燐子「変わらないと思ってた そんなものある訳なかった」フルフル
リサ「『絶対無理です……!』みたいな感じに首振ってるね」
あこ「えー、ロゼリアでもりんりん歌ってほしいなぁー」
燐子「でも君はそう思わせたんだ」
燐子「まるで詐欺師か魔法使いみたい ねぇリタ」
リサ「ねー。すっごくいい声してるのに」
あこ「りんりーん、ロゼリアでも一緒に歌おうよー」
燐子「忘れた過去に泣いたりしない 過ぎない時間に泣いたりしない」フルフルフル
リサ「『無理なものは無理なんです……!』って感じだね」
燐子「君と笑った 季節が終わる 時は流れる たったそれだけ」
燐子「……お、終わり、です……」
あこ「おー!」パチパチ
友希那「いい声だったわ。今度本当にライブでも歌ってみない?」
燐子「……む、無理です……! う、歌うのは……カラオケだけでも精いっぱいです……!」
リサ「もったいないなー。あ、そろそろ何か注文する?」
友希那「そうね。なにか軽いものでも……」
あこ「あ、じゃああこ、この超ジャンボ盛りフライドポテト食べたい!」
リサ「ええ、これ本当に食べきれるの?」
燐子「すごい……ポテトだけで900グラムも……」
リサ「今日は紗夜もいないし、残しちゃうんじゃない?」
あこ「だからこそだよリサ姉っ! 紗夜さんがいるといつも気付いたらポテト無くなってるんだもん!」
燐子「う、うん……」
友希那「……確かに」
リサ「アタシもそう思うけどさ……んーでも、まぁいっか。最悪みんなで食べればなんとかなるか」
あこ「やったー! じゃあ、あこはこれでー♪」
燐子「わたしは……この抹茶パフェを……」
リサ「オッケー」
友希那「じゃあ私は……」
リサ「はい、メニュー」
友希那「あ……ありがとう、リサ。私は……」チラ
リサ「うん? どうかした、友希那?」
友希那「……なんでもないわ。私はこのスープでいいわ」
リサ「ん、了解。アタシも軽いものでいいや」
あこ「みんな決まったー? じゃああこ頼んじゃうねっ!」
リサ「おねがーい。じゃあアタシ、ドリンクバー行ってくるね。みんなも何か飲む?」
燐子「私は……大丈夫です……」
あこ「あこも平気だよー」
友希那「私の分もお願いしていいかしら」
リサ「いいよー。何飲む?」
友希那「……ウーロン茶をお願いするわ」
リサ「オッケー。じゃ、ちょっと行ってくるね」
友希那「…………」
――――――――――
―――――――
――――
……
友希那「ということがあったのよ」
紗夜「…………」
友希那「紗夜? どうかした?」
紗夜「いえ、色々と尋ねたいことがあったので、どれから聞けばいいのかと……」
友希那「? リサのそっけなさ以外に気になるところでもあったの?」
紗夜「いえ、まずそこです。今の話を聞いて、どういう風に捉えたら今井さんがそっけないと感じるんですか」
友希那「……いつものリサだったら、『軽いもの』と言えば大抵私が食べたいものを当てるの」
紗夜「え?」
友希那「メニューを渡されたときの違和感がすごかったわ」
紗夜「えぇ……?」
友希那「それとドリンクバーも同じように、いつもなら「友希那は今はウーロン茶でいいよね?」くらいは言ってくれるわ。なのに、その時はそれがなかった」
紗夜(私が思っていた『そっけない』との次元が違いすぎる……)
友希那「……いまいちピンと来てないみたいね。でも紗夜だって双子の妹さんと同じようなことがない? 考えてることがすぐに分かるとか」
紗夜「いえ……日菜は近くにいればいるほど何を考えてるのか分からないタイプの人間ですので」
友希那「そうなの? リサから聞いた話だと四六時中紗夜のことばっかり考えてるみたいだったけど」
紗夜「……それはなんとなく分かりますけど、流石にその時食べたいものや飲みたいものが些細な一言で分かるなんてことはありませんね」
友希那「そう……じゃあこの話はあまり参考にならなかったわね……」
紗夜「…………」
紗夜(意外と熱唱していた白金さんとフライドポテト=私になってるロゼリアのことについて聞きたいけれど、それを切り出せる空気じゃないわね……)
友希那「それじゃあ次の話なんだけど、あれは三日前のことだったわ」
紗夜「三日前というと……確か湊さんのご両親が泊まりで仕事があったという……」
友希那「ええ、その日ね。いつものようにリサが来てくれたんだけど――」
――3日前 湊家――
リサ「はい、じゃあカレー作っといたから、食べる前にはちゃんと温めてね」
友希那「……いつも悪いわね、リサ」
リサ「いいっていいって、困ったときはお互い様だよ」
友希那「いえ、私が料理に興味がないばっかりに、毎回こういう時にはウチまで来て晩御飯を作ってもらって……本当に感謝しているわ」
リサ「まーお隣だしね。それにカレーなんてそんな手のかかるものでもないし、気にしない気にしない」
リサ「あ、温める時はちゃんと鍋を見てなきゃだめだよ。火をかけたままだとカレーも焦げちゃうから、ちゃんとお玉でかき混ぜながら様子を見てね」
友希那「流石にそれくらいは大丈夫よ」
リサ「うーん、そうだとは思うけど友希那だからなー。ちょっと不安かなぁ」
友希那「それはどういう意味よ、まったく」
リサ「あはは、ごめんごめん。火を使うのが面倒だったら、ラップしてレンジでチンでも平気だからね。ラップしないとカレーがはねてレンジの掃除が大変だから忘れずにね」
友希那「そんなに不安なら夕食までウチで済ませばいいじゃない」
リサ「そう、したいんだけどねぇ……ちょっと今日はやらなきゃいけないことがあるんだ」
友希那「……そう。大丈夫よ。私もそこまで子供じゃないわ。何かあったらリサに電話するもの」
リサ「うん、ごめんね友希那。それじゃあまた明日」
友希那「ええ。また明日」
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――――
……
友希那「――ということがあったのよ」
紗夜(……今気付いたけれど、もしかしてこれってただの惚気話では……?)
友希那「紗夜?」
紗夜「あ、ええと、すみません、少し考え事をしていました。それで、この話のそっけないポイントは今井さんがすぐに帰ったというところですか?」
友希那「いいえ、それは少し寂しかっただけでそっけないとは思わなかったわ」
紗夜(そっけないと思ったから寂しいと感じるんじゃ……いえ、話が複雑になりそうだからここは聞き手に専念しましょう)
紗夜「ではどこがそっけなかったんですか?」
友希那「リサが帰る理由を少し言い淀んだところよ」
紗夜「はぁ……?」
友希那「今までだったら普通に「ごめん今日やらないといけないことがあるんだ~」と言うのに、その時は少し後ろめたさがあったのか、スッと言葉が出てこなかったみたいなの」
友希那「何か隠し事をされてる気持ちになってモヤモヤしたわ……」
紗夜「なるほど……」
紗夜(今のではっきりと分かりましたが、これは痴話喧嘩とかそういったものに分類される惚気話ですね)
友希那「幼馴染としてお互いに隠し事なんて――あっ、そういえば私、ロゼリア結成の時に隠し事をしてたわね……」
友希那「……そう。きっとリサもあの時こんな気持ちだったのね……今さらになってしまうけど、ものすごく申し訳ないことをしたわ……」
紗夜(隠し事……ああ、あのスカウトの話……)
友希那「確かにこれだけでもリサを怒らせるには十分だわ……しかもそれにまったく気付かないなんて……。それによく考えてみるともっと昔にも……」
紗夜(こんなに肩を落として落ち込む湊さんを初めて見ました……。話の内容はどうあれ重症みたいですね……)
紗夜「……湊さん、そう落ち込まないでください」
友希那「私、きっと知らず知らずのうちにリサを傷付けていたわ……」
紗夜「優しい今井さんのことですから、もうそんな昔のことなんて気にしていないですよ」
友希那「そうかもしれないけど……でも今になってそっけない態度を取られているし……」
紗夜「なにか心境の変化があったんでしょう。とにかく、その件に関しては今井さんは気にしていないと思いますよ。でなければ、ロゼリアに対してこんなに真摯に向き合ってくれるはずもありませんし」
友希那「そう……かしら」
紗夜「そうです。それに、気になるならば直接今井さんと話をすればいいじゃないですか」
友希那「…………」
紗夜「今の今井さんと向き合うのは怖い……ですか、湊さん。でも、この間だって、私に言ってくれたじゃないですか。苦しみと逃げずに向き合うことが何よりも大切で尊いことだと」
紗夜「あの言葉のおかげで、私はもう一度日菜と向き合うことができました。だから、今度は私から湊さんにその言葉を送ります」
紗夜「今井さんと向き合いましょう。そして納得が行くまで話をしましょう」
紗夜「明日の練習の時、私が白金さんと宇田川さんを途中で外に連れていきますから、スタジオで、二人で話してみてください」
友希那「……リサは怒っていないかしら」
紗夜「それは今井さんのみが知ることです。ですが、湊さんが今井さんに本気で怒られたことはありますか? その時、今井さんは、こちらが謝っても怒り続けるような人ですか?」
友希那「リサはそんな人間じゃない……わ」
紗夜「ならきっと大丈夫です。私が背中を押しますから、あとは湊さんが向き合う勇気を持つだけです」
友希那「そう……そうよね。私が気付かないうちに何かをしてしまったのなら、それを謝らないと。仮に私が何もしていないのなら、どうしてそっけないかをちゃんと聞かないと」
紗夜(最初の話はともかく後の二つは『そっけない』といえない代物に見えますけどね)
友希那「……ありがとう、紗夜。やっぱりあなたに相談して正解だったわ」
紗夜「これくらい同じバンドのメンバーとして――いえ、友人として当然です」
友希那「本当にありがとう……お礼と言ってはなんだけど、ここのポテトをごちそうするわ」
紗夜「ちょっと待ってください、そのポテトに関して私からも話があります」
友希那「遠慮なんかしなくていいのよ。とりあえずLサイズを三つくらいでいいかしら?」
紗夜「いえ遠慮ではなくてですね、そもそも何故、私=ポテトだとロゼリアでの共通認識があるのかと――湊さん、話の途中です! 勝手にカウンターへ向かわないでください!」
――――――――――
―――――――
――――
……
――翌日 CiRCLE・スタジオ内――
ジャーン……
紗夜(練習開始から一時間……そろそろ休憩を提案するのにはちょうどいい頃合いね)
紗夜(昨日のうちに、休憩中は宇田川さんを外へ連れ出すよう、事情を話した白金さんに根回し済みです。あとは私から話を切り出せば……)
友希那「……ふぅ」
紗夜「湊さん、少し疲れているようですね。そろそろ時間も経ちますし、一度休憩を挟みませんか」
リサ「そうだね~、なんだか今日は友希那の調子がちょっと良くないみたいだし、ここら辺で少し休んだ方がいいかもね」
あこ「あこもさんせーい!」
燐子「私も……少し喉が渇いて……」
友希那「……そうね。じゃあ三十分、休憩しましょう」
あこ「はーい!」
燐子「あこちゃん……一緒に飲み物を買いに行かない……?」
あこ「うん、いいよー!」
燐子「ありがとう……。良かったら……みなさんの分も買ってきますけど……どうですか……?」
リサ「ん、ありがとー。でもアタシは大丈夫だよ」
友希那「私も持ち合わせがあるから平気よ」
紗夜「では、私の分をお願いしていいでしょうか。日菜に電話で確認しなければいけないことがあって、そちらに時間を使いたいので」
あこ「了解しました! それじゃあ紗夜さんの分も買ってきますね~!」
紗夜「よろしくお願いします」
燐子「そ、それじゃあ……ちょっと行ってきますね……」
あこ「りんりん、早く早くー!」
燐子「うん、今行くね……」
紗夜(白金さんは上手く宇田川さんを連れ出してくれましたね……)
紗夜「では、私もちょっと日菜に電話をしてきますので」
今井「はいはーい、じゃあ友希那とお留守番してるねーっ」
紗夜「ええ、頼みます」
紗夜(私の仕事はここまでです、湊さん。健闘を祈ります)
友希那(ありがとう、紗夜。やれるだけやってみるわ)
友希那「……ふぅ」
友希那(とはいったものの、どう切り出せばいいかしら……)
友希那「うーん……」
友希那(……悩んでいても仕方ないわね。単刀直入に聞いてみましょう)
友希那「ねぇ、リサ」
リサ「ん? どったの、友希那?」
友希那「ちょっと尋ねたいことがあるんだけど……」
リサ「尋ねたいこと?」
友希那「ええ。……その、もしかしてなんだけど、私……なにかリサの気に障るようなことをやっていないかしら……?」
リサ「え? いきなりどうしたの?」
友希那「いえ、最近なんだかリサが……その、そっけない気がして」
リサ「えっ、あー……あー、うん……」
友希那「その反応……やっぱり私、知らないうちにあなたに何かしてしまっていたのね……」
友希那「心当たりがそこそこ多いのがまた申し訳ないんだけど……本当にごめんなさい、リサ」
リサ「ち、違うよ友希那っ、謝んないでっ! 友希那に嫌なことされたなんて、そんなの今まで一度もないってば!」
友希那「でも……最近のリサはそっけないし、今だって何か含みのありそうな反応だったし……」
リサ「だ、だからこれは違うんだって! その……これはアタシ自身の問題というか……ああでも友希那にも関係することなんだけど……」
友希那「やっぱり私が何か嫌なことを……」
リサ「ああ違う違う! だからそんなに落ち込まないでって!」
友希那「じゃあ一体どうして……?」
リサ「あー、あーうん、あんまり人に言う理由じゃないんだけど……その、ね? 笑わないでくれる?」
友希那「あなたのことを笑う訳がないわ」
リサ「……うん、それじゃあ言うけど……アタシね、この前さ、変な夢を見たんだ」
友希那「……夢?」
リサ「そう、夢。ちょっと詳しい内容は話せないんだけどさ。簡単に言うと、アタシが友希那に迷惑をかけちゃう夢を見たんだ」
リサ「ほらっ、二週間前だったかな? アタシがちょっと調子悪くて練習を早上がりした日あったじゃん? ちょうどあの日にその夢を見ちゃったんだ」
友希那「……朝からリサの様子がおかしかった日ね」
リサ「そうそう、あの時のことはあんまり思い出したくないけどその日っ」
友希那「それとリサがそっけなくなるのにどういう関係があったの?」
リサ「あーうん……その、過保護って言うとオカシイと思うけどさ、ほら、アタシたちって小さいころからずっと一緒だったじゃん? だからさ、今は当たり前になってるこの距離感とか、友希那に近すぎて迷惑になってないかなって……そう思ったんだ」
友希那「…………」
リサ「アタシの中では友希那はいつまでも子供のころの友希那のイメージのままでさ、色々と心配になるしお節介を焼きたくなっちゃうんだけど、やっぱいつまでもこのままっていうのはダメかなって……」
リサ「だから、さ。私もそろそろ『友希那離れ』しなくちゃいけないなー、なんて。……寂しいけど、ちょっとずつ距離感……っていうのかな? それを考えなきゃいけないんじゃないかと思ったんだ」
リサ「でも気付かれないようにちょっとずつやってって、『そういえば最近あんまりお節介焼かれないな』って友希那に思ってもらえるのがベストだったんだけどね……まさかたったの二週間ですぐに気付かれるとは思ってなかったよ」
友希那「そう……そうだったの……」
リサ「うん。……ごめんね、友希那」
友希那「なんでリサが謝るのよ」
リサ「だってこれって、アタシが勝手に変な夢を見て勝手な思い込みでやったことだし……それにすぐに気付かれちゃってさ、本当……ダメダメだなぁ、アタシ」
友希那「……ダメダメなんかじゃないわ」
リサ「えっ……?」
友希那「リサはダメダメなんかじゃないわ。こんなにも人のことを思いやれるあなたより素晴らしい人間になんて、私は出会ったことなんてない」
友希那「思い返してみたの。リサにそっけなくされて、私がなにか、あなたの気に障るようなことをしていなかったかって」
友希那「そうしたら、思い当たることがいくつもあった。……リサ、あなたはいつも私のことを見守ってくれていた。ロゼリアを結成した時も、父の歌を歌う資格があるのか悩んでいる時も、子供のころからもずっと」
友希那「私はいつも一人で悩んで、リサにも隠し事をして、時には強く当たることだってあった。なのにあなたはいつも、何があっても絶対に私の味方でいてくれた」
リサ「友希那……」
友希那「今回の件だってそうよ。リサは私のことを考えて距離を置こうとしてくれたのに、私はただそっけなくされて寂しいって理由だけで、あなたを問い詰めるようなことをしてしまった」
友希那「……土下座くらいしなきゃいけないのは私の方よ。ごめんなさい、リサ」
リサ「ちょっ、ちょっと! 友希那が謝ることなんて一つもないってば! 今までのことだってアタシが好きでやってたことだしっ!」
友希那「それでもリサに私が何度も救われていたのは確かな事実よ。なのに、今までそれを蔑ろにしていた。だから……ごめんなさい」
リサ「そ、そんな風に畏まって謝られるのは……ちょっと……」
友希那「そう……そうよね。言うのなら、お礼の方がいいわね」
友希那「リサ、いつも私を見守ってくれて、傍にいてくれて、本当にありがとう。あなたがいなければ、今の充実した私なんて存在しなかった」
友希那「あなたのことをお節介だなんてと思ったことは一度もないわ。リサと出会わなかった人生なんて想像もしたくないくらい、あなたは大切な……私の一番の親友よ」
友希那「だから、これからも今まで通りのリサで私と接してほしいの。あなたのことを迷惑だなんて、微塵も思わないから」
リサ「友希那……」
友希那「……やっぱりダメかしら」
リサ「……ずるいよ、そんな風に、言われたら……っ、頷くしかないじゃん……」
リサ「アタ、シだって……友希那は一番の……ッ、大親友なんだから……、今まで通りでいたいもん……」
友希那「なら……また今まで通りで……ね?」
リサ「グス、っうん……!」
友希那「……なにも泣くことなんてないじゃない」
リサ「だって、ッグス、だって、友希那がそう思っててくれたのが嬉しくて……」
友希那「はいはい。この辺りに関しては私の方が大人ね。ふふっ」
リサ「グスッ、友希那ぁ……!」
友希那「リサは泣き虫さんね。はい、ティッシュ。もうすぐ休憩時間も終わるから、早く顔を拭きなさい」
リサ「うん……っ、ありがとうっ……友希那……!」
友希那「……こちらこそ。いつもありがとう、リサ」
――――――――――
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――――
……
友希那「そろそろスタジオの時間も終わるわね」
リサ「ん、もうそんなに経ってたんだ……気付かなかったー」
紗夜「それだけ集中して練習が出来たということね」
あこ「なんだか今日の演奏、いつもよりすっごくしっくり来ませんかっ!?」
燐子「そうだね……。なんだかいつもより……息が合ってるみたいな感じがするね……特に友希那さんと今井さんが……」
あこ「りんりんもやっぱりそう感じた!? 二人で闇の秘密特訓でもしたんですか、友希那さんっ、リサ姉っ!」
リサ「や、闇の秘密特訓?」
あこ「そう! 静かなる氷輪の歌姫≪ディーヴァ≫と黎明の紅鏡を司る奏者によって魔界との扉は繋がれた……かの世界より舞い来たる深き漆黒により二人の間には強き闇の契約が結ばれたのであった!! ……みたいな!」
リサ「う、うーん、それはないかなぁ……」
友希那「そうね。言うなれば日頃の練習の賜物じゃないかしらね」
紗夜「そうですね、湊さんの言う通りかと」
あこ「えー、そっかー、闇の契約じゃなかったかぁ……残念」
紗夜(……湊さん、上手く今井さんと話せたみたいですね)
友希那(ええ。これも紗夜のおかげよ。ありがとう)
紗夜(気にしないでください。湊さんには借りがありますから)
リサ「さて、それじゃあ次が今日の最後の曲になりそうだね」
燐子「そうですね……どうしましょうか……」
あこ「今ならあこはなんでもドーンと来いっ! って感じだよ!」
友希那「……じゃあ、今度のライブで最後にやる曲にしましょうか。イメージも湧きやすいでしょう」
紗夜「最後の曲ですか?」
友希那「ええ」
あこ「あ、いいですね! 最後もビシッと決めますよっ!」
燐子「はい……わたしも大丈夫です……」
紗夜「分かりました。私もそれで大丈夫です」
友希那「リサもそれでいいかしら?」
リサ「ん、オッケーだよ! アタシ、この曲好きだしね~」
友希那「それじゃあ決まりね。……練習は本番のつもりで、前口上から行くわよ」
友希那「……傍にいる人ほど、その大切さには気付けない」
友希那「当たり前のように思えることでも、それはずっと尊くて得難いもの」
友希那「いつも隣にいてくれる人へ、伝えられない、伝えきれない感謝の言葉を歌に込めて送るわ」
友希那「ロゼリアで、最後の曲よ。……あなたの大事な人へ」
「陽だまりロードナイト」
おわりです。
ちょっとシリアスなのを書きたかったんですごめんなさい。
お目汚し誠に申し訳ございませんでした。
HTML化依頼出してきます。
このSSまとめへのコメント
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