in 学園艦、朝。押田の部屋
<コンコン
押田「入れ。鍵は空いてる」
<ガチャ
安藤「おう、来たぞ」
押田「『おはようございます』、の挨拶くらいできないのか」
安藤「挨拶をする相手は選ぶ」
押田「小さい人間だな。お前の器が知れる」
安藤「そうかそうか、そういう解釈をすればお前の自尊心は傷つかずにすむんだな。ふん、涙ぐましい努力だ」
押田「…………」
安藤「…………」
……ちゅんちゅん……ちゅん……ちちちち……
押田「……突っ立ってないで、さっさと化粧台の前に座れ。学校に遅刻してしまう」
安藤「へいへい」
——————。
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……しゃっ……しゃっ……しゃっ……
押田「今朝は一段と寝癖がひどいな」
安藤「んー……——痛つぁっ!? こら、櫛に髪が絡まってる! 乱暴だぞ! もっと優しくとげ!」
押田「お前の髪の毛はクセッ毛がひどいんだ」
安藤「しかたないだろう」
押田「それにしたってこれは……湯あみの後ちゃんと髪を乾かしてから寝ているんだろうな?」
安藤「あたりまえだ。……ただ、昨日は帰りが遅かったんだ」
押田「まったく」
ブチッ、ブチっ
安藤「だーっ! だから痛いっってば!」
押田「あーもー、鬱陶しい。いったん手櫛でほぐすか」
……シュッ……シュッ……シュッ
押田「……」
安藤「……」
押田「……君の髪の毛の感触が指先に伝わってきて最高に気持ち悪いな」
安藤「やかましい。こっちだってお前の指先の感触が頭皮にゾワゾワする」
押田「あ、しまった、すまない」
安藤「へ?」
押田「さっきトイレにいって、手を洗ってないんだった」
安藤「ふっざけんなぁ!」
押田「ふん、冗談だ。私はお前と違ってトイレした後はちゃんと手を綺麗に洗うからな」
安藤「私が洗ってないみたいに言うな!」
押田「なんだ、貴様もちゃんと洗うのか、意外だな」
安藤「こっの……!」
押田「動くなっ、髪をすけないだろ」
安藤「っち……あーあ、髪の毛、やっぱ切ってしまおうかな。中学の頃みたいなショートヘアーに戻したい」
押田「……。そんなの駄目だ」
安藤「これだけ長いと、手間がかかる。面倒でたまらん。そうだな、次の休みに髪切ってこようかなぁ?」
押田「っ……だから、ちゃんと毎朝こうやって私が髪を研いでやっているし、風呂のタイミングが合えば私が髪を洗ってやってるだろう」
安藤「よしお前も一緒に切りにいくか。お互いに小学校の頃みたいなショートに戻して——」
押田「っ!!」
……ぐしゃぐしゃぐしゃ!!
安藤「あっ、ああーっ、何すんだバカ! 髪がぼさぼさになるっ」
押田「これ以上くだらんことをいうのなら、もう知らん! そのまま学校へ行けっ!」
安藤「もーっ、マジになるやつがあるか!」
押田「一緒に髪を伸ばそうって貴様、私と約束しただろうが!」
安藤「約束したんだから本当に切るわけないだろうが!」
押田「いーやお前なら裏切りかねん! お前はそーいうやつだからな!」
安藤「バカにするな! ……あーもー……ほら、いいから、さっさととげ。本当に遅刻しちゃうだろ」
押田「……。」
安藤「おいってば」
押田「……本当に、切らないな?」
安藤「だから、切らないってば……」
押田「ならいい」
安藤「ったく」
……しゅ……しゅ……しゅ……
押田「——はい、終わったぞ。交代」
安藤「ん」
……しゅ、しゅっ……しゅ、しゅっ……
安藤「こうやって、手首のスナップで一度遊びを利かすんだ。そうすると引っかかりにくい。お前は一気にとごうとするから痛いんだ」
押田「ふん……技術はあるようだが、豚に真珠だな」
安藤「うるせぇ。ま、お前の髪の毛は細くて柔らかいからな。……すべすべしてて……だからとぎやすいというのもあるか……」
押田「……ん……」
安藤「持ち主と同じで、ひ弱で根性の足りない髪の毛」
押田「黙れ」
安藤「というか」
押田「ん?」
安藤「結局お前の髪を私がといでるじゃん。手間変わらないじゃん」
押田「髪は女の命なんだぞ。光栄に思え」
安藤「召使じゃないんだぞ。あぁ面倒くさい」
押田「……。……やはり切るつもりなのか、髪」
安藤「だから、切らんって……」
……しゅしゅっ……しゅしゅっ……
安藤「そういやさ」
押田「ん?」
安藤「隊長とお台場に行ってきたんだろう」
押田「うん」
安藤「どうだった」
押田「楽しかったぞ」
安藤「そうか」
押田「それにな、東京はすごい、天井から噴水が降ってくるんだ」
安藤「??」
押田「まぁお前には想像もつかないだろうな」
安藤「お前の説明が下手なんだ」
押田「いや貴様も見たら絶対に驚く。……今度、貴様も見に行くか」
安藤「……ま、気が向いたらな」
押田「うん」
安藤「で、オフの日の隊長はどうなんだ?」
押田「マリー様はいつだってマリー様にきまって……、…………」
安藤「ん?」
押田「……」
ジトーっ……
安藤「……なんだそのジト目は」
押田「お前の真似」
安藤「バカにしてんのかっ」
押田「ふんっ……まぁ、おそばにいないと分からない事もあるということだ」
安藤「あぁ?」
押田「ふふ、秘密だ。私とマリー様の、な」
安藤「ふん……ま、どうだっていいけど。私は隊長と、そんなに付き合い長くないし」
押田「お前は受験組だからな」
安藤「……。」
押田「自分だけ中学受験に失敗するからだ」
安藤「ッッ……うるせー! 自分だけ合格しやがって! しかもそのまま入学するし!」
ぐしゃぐしゃぐしゃ!!……
押田「ぬがっ、髪がっ! ていうか親に無理言って受験させてもらったんだから、合格しといて辞退するわけにはいかないだろ!」
安藤「む、むぅ」
押田「だいたい受験失敗は貴様の自業自得だ! 一緒に勉強してたのになんでお前だけ落ちるんだ! 私だってびっくりしたわっ!」
安藤「ぐ、ぐ……だ、だから、高校受験では頑張って合格しただろうがっ」
押田「中学に入ったら一緒にイメチェンして戦車道やろうと約束をしていたのに……お前のせいでスタートが三年も遅れてしまった」
安藤「……」
押田「とにかく、マリー様は指揮官としてちゃんと実力のある方だ。だから貴様も信じろ。次の無限軌道祭、絶対に一回戦では終わらない。……終わらせない……」
安藤「……わかっている。私だって副隊長なのだからな」
押田「そうだ。私たちは、副隊長なんだからな」
安藤「あぁ……お前と私が、だ」
押田「……。わかったらさっさと髪。もう、ぐちゃぐちゃじゃないか」
安藤「へいへい」
……しゅ、しゅっ……しゅ、しゅっ……しゅ、しゅっ……
安藤「…………あ」
押田「?」
ぶもぺーっ
押田「まったく君は……」
安藤「お互い様だろ」
押田「ふん」
ふわっ
押田「いつも思うが、貴様のオナラはガスボンベみたいな匂いがする」
安藤「あぁ、はめ込みミスってガスが漏れた時の」
押田「うん」
安藤「……火事になっちゃうかな?」
押田「ぶぷっ」
安藤「こら、笑うな貴様。……くくっ、つられるだろ……んふ」
押田「貴様こそ笑うな……んふっ、んふふっ、っ——」
——ぼべーっ
押田「あひっ!?」
安藤「はい大爆発ー」
押田「ぶほっ! ……っ、このっ、馬鹿っ」
安藤「あははは」
……ちゅんちゅん……ちちちち……
……ほーほー、ほっほー……
……ちゅんちゅん……
——学園に今、自由フランスの陽が昇る——
~完~
ありがとうございました。
二人ともお互いに髪型が少し似ています。なので、そこから妄想を膨らませてみました。
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