【ミリマス】メタフィクションとの狭間だぞ琴葉 (31)

===
――ここは、とある765劇場内廊下――

琴葉「…………」

琴葉「…………あれ?」

琴葉「もしかして、もう始まっていたりします? ――えっ!? 待って、嘘!?」

琴葉「そういうことはもっと早く! カ、カメラはこっちに? では――」


琴葉「――こんにちは皆さん。私、田中琴葉と申します」ぺこり

琴葉「初めての方には初めまして。ご存知の方にはお久しぶりです」

琴葉「最近はあまり出番もありませんでしたが」

琴葉「このSSでは久々に、私がメインですよ! 主役!」


P「――と、いうベタな掴みから始まった」

P「諸君、今回の話はご覧の通りにメタであーる!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513745338

このお話は前作

【ミリマス】うちの琴葉知りませんか?
【ミリマス】うちの琴葉知りませんか? - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1510080614/)

の続きだと思っていただき結構です。


琴葉「早速ですけどベタですか?」

P「違う。メタだ」

琴葉「それって確か……。あ、ゲーム用語なんですね」スッ、スッ

琴葉「今の環境は、このデッキやキャラが強いんだ――的な」


P「琴葉が言うのは"メタゲーム"」

P「いわゆる、戦いは始まる前に決してるってやつだな」

琴葉「はい。それです!」

琴葉「えぇっと……軽く検索したところですね」


琴葉「"元々はカードゲームの用語であり」

琴葉「発祥は有名TCGであるマジック・ザ・ギャザリング」

琴葉「流行によって強いカードや強いデッキがコロコロ入れ替わることから」

琴葉「それらに対する対策を、事前に練っておく戦略を指してメタゲーム"と」


P「有名TCG(トレーディングカードゲーム)と言えば――」

P「ミリオンライブも、あのヴァイスシュヴァルツに参戦決定したそうな」

P「みんなの活躍の場が広がるのは、実にめでたいことである」

琴葉「はい。お祝いしましょう!」


P「しかし、そうか、ヴァイスシュヴァルツにねぇ……」

P「ヴァイスシュヴァルツ、ヴァイスシュヴァルツ、ヴァイスシュヴァルツ」

琴葉「早口言葉みたいですね……。思わず舌を噛んじゃいそう」

P「俺にはゲルマン忍者しか浮かばんな」

琴葉「ヴァイスはドコに行ったんです?」


P「まっ、遊んでないカードゲームのことなぞうっちゃって」

琴葉「プロデューサー、言い方!」

P「ポケモンカード世代である!」

琴葉「えばれることですか? それは」


P「俺が言ってる"メタ"はだな、"メタフィクション"のメタの方」

琴葉「待って下さい。今、もう一度タブレットで検索を――」スッ、スッ

P「……橘?」

琴葉「田中です、琴葉です。"メタフィクションとは要するに、次元を超えることである"」

P「雑ぅ」

琴葉「字数ももったいないですから」


P「まっ、今さらくどくど説明する必要もあるまいしな」

P「なにせ、このSS自体が既にある種のメタフィクション」

琴葉「冒頭でも言ってましたけど」

琴葉「さっきから、現実と虚構がちょこちょこ混ざっていましたね」


P「――果たして我々が現実と認識しているこの世界は本当に現実足りえるのか?」

琴葉「読者の方たちからすれば、確実に私たちのいる方が虚構です」

P「この世界は俺たちにとっての現実であり、読者にとってはただの『ファンタジー』だ」

琴葉「また他作品からの引用(パロディ)ですか?」

P「名作を他者と共有したくなる心理だと言って欲しい」


琴葉「それで、えっと、プロデューサー?」

琴葉「曲がりなりにもあなたの妄想を、今こうして読んでもらえてるワケですけど」

P「……本当に読んでもらってる?」

琴葉「急に卑屈にならなくても」

琴葉「少なくともこの文を目にしている人は、読者の一人なんですから」

P「まるで箱の中の猫のように」


琴葉「貴重な時間を割いてもらってるんですから、サクサク次に行きましょう」

琴葉「結局のところ、今回の話のテーマは何なんです?」

琴葉「まさかこのままグダグダと、無駄話を続けるつもりなんて言いませんよね?」

P「失敬な。琴葉も私にプロデュースされてるならこのグダグダさに誇りを持たんかね!」

琴葉「はぁ……。できるなら代わって欲しいです。他の世界の私とでも」

P「そういう話も一本書いた」

琴葉「知ってて言っているんです。皮肉ですから、これは!」


P「そうそう話を書くと言えばだな――」

P「琴葉は現在、シアターデイズで投票を巡る闘いが起きてるのは知ってるか?」

琴葉「繋ぎ方、乱暴すぎません?」


琴葉「とはいえ、話だけなら聞いてます。『THE@TER BOOST!』のことですよね」

琴葉「三つの用意されたテーマ。それぞれに五人のキャスト枠」

琴葉「ゲーム内で入手できる投票券を使用して、誰がどの役を演じるか決めるっていう」

P「そう! グリマスであったキャスティング投票再びだ」


P「とりあえず、話を続ける前にこの資料に目を通してくれ」

琴葉「これは投票の……。現時点におけるランキングですね?」

https://i.imgur.com/wPn9LsZ.jpg

琴葉「――って、えぇっ!? わ、私が新ヒロイン一位!?」

P「ちなみに三位の歌織さんは、カフェテーマにおける長女役でぶっちぎり」

P「四位以降の面子にしてもそれぞれ別役上位に食い込んでる」

P「既にいくつかの役は接戦だが、票の貯め込みもあるワケだし」

P「今は二位との票が開いてても、今後どう転がるかは予測不能!」


琴葉「それでも、私が一位なんて……」

琴葉「う、嬉しいですけどびっくりです」


琴葉「でもいいんですか? 私まだ、ミリシタに実装されてませんけど」

琴葉「ご新規さんの大半は、正直『誰これ?』状態じゃ――」

琴葉「そんな半端な状態でこんなに沢山の票をもらっちゃって」


琴葉「……いいのかな? ホントに」

琴葉「なんだかフェアじゃない気がする」

琴葉「大体、こんなの、おかしいもの。私がトップ独走だなんてなにか裏が……はっ!?」

P(あ、マズいなぁ)


琴葉「プロデューサー。私、分かりました」

琴葉「この票の大半はフェイクですね?」

琴葉「前回のTAじゃ一位になったのに役を代わることになったから」

琴葉「それを代替えするように、運営とグルになっての票操作……」

琴葉「見損ないました! 私、そんなことをしてまで役を欲しくはありません!!」

琴葉「辞退させてくださいプロデューサー!」

琴葉「チョコワわさび味が生まれなくて、涙した歩を忘れたなんて言わせませんよ!!」


P「琴葉、落ち着け、冷静になれ!」

琴葉「いいえ、私は冷静ですっ!」

P「ミリシタご新規さんたちも琴葉の存在は知ってるさ! 忘れたなんて言わせないぞ」

P「バースデーの時のホワイトボードにはカワイイ似顔絵があっただろう?」

琴葉「それだけじゃないです!」

琴葉「事務所の皆さんの総意としてのメッセージだってありました!!」

琴葉「私、泣いちゃったんですから! あんなのズルい、ズルいですよぉ……」

琴葉「う、うぅ……ぐすっ」

https://i.imgur.com/9e7TdkW.jpg

P「……いい仲間に恵まれたよな」

琴葉「……はい。大切な、かけがえのない仲間たちです」

琴葉「本当に、私にはもったいないほどの――」


琴葉「――でも、だからこそ、今回の票数に納得することはできません」


琴葉「そもそもプロデューサーは姑息すぎます」

琴葉「前回役を逃した私に投票できるとなったなら」

琴葉「スタイルが特別良いワケじゃない、抜群に歌が上手いワケでもない」

琴葉「面白いことだって言えないし、尖った個性があるワケでもない」

琴葉「真面目だねって褒められても、そのせいでみんなを窮屈にさせてる気さえする」

琴葉「そんな私に、私にでも! 同情から票を流しちゃう人たちが居ないとは――」


P「お、おい琴葉。そんなに卑屈になるんじゃない!」

P「お前は魅力的なアイドルだし、何と言うかこう、庇護欲をそそるオーラがある」

琴葉「褒め言葉には聞こえません!」

琴葉「私だって知らないワケじゃないんですよ? 世間じゃ重たい重たいって!」


琴葉「でも、仕方ないじゃない! 知らず、重たくだってなる!」

琴葉「なんの武器も! 取り柄も! 強さも持たない私がアイドルを続けられるのは!」

琴葉「褒めて、叱って、励まして、支えてくれるアナタが居るからなんですから!」

琴葉「一番失くしたくなんて無い、かけがえない繋がりだから……」


琴葉「だから大切だって大事だって、言葉や態度に出すのがそんなに悪いことですか!?」


P「……悪くない、悪くないさ!」

P「少なくとも、だからこそ毎日投票券をお前に入れてる俺がいる!!」

琴葉「それこそ紛うこと無き同情票! 前回の結果があるからじゃ……!」

琴葉「『それは違うぞ琴葉!』って、胸を張って私に言えますか!?」

琴葉「手に入れた投票券のうち、一枚でも私以外の子に投票してあげました!?」


P「う、ぐっ!? し、してない……歌織さんにすら!」

琴葉「ほらみたことですか!」

琴葉「そんな人の言葉に、誰が『はいそうですか』と簡単に頷けたりなんて――」

P「だってしょうがないじゃないか!! 今動かないと手遅れになる!」

琴葉「っ!? ……て、手遅れ?」

P「そう、手遅れだ! だってなぁ、だってなぁ!!」


P「今のうちに一票でもリードを広げなくちゃ……。紬が追い上げてるんだもの!!」

琴葉「……え?」


P「紬が、追い上げてるの! 新ヒロイン枠第二位に!」

P「俺だって初めの独走を見た時は内心『貰った!』と思ったよ!」

P「『みんな揃ってアイドルマスター』『不人気キャラなんているもんか』」

P「確かに平時じゃそうだろうが、出番が絡むとまた違ってくるのも人情だろ」


P「正直今回のこの企画、一部のハマリ役が存在するせいで」

P「前回役を貰った子は投票対象から外すべきだったかもと」

琴葉「……プロデューサーは、思ってる?」

P「でも荒れるよ? 絶対それ荒れるよ?」

P「それで後々まで残った子は、二軍三軍不人気かって心無い人は噂するよ?」


P「バッカ言うでねぇ!! ハッキリ言っとくがどの子もみんな魅力的さ!」

P「お前な、シアター組の子みんな見たか!?」

P「知れば知る程底なし沼! 磨けば輝く原石だらけ!」

P「正直プロデュースするこっちの知識が無いせいで」

P「存分な役を任せられないのが歯痒いったらありゃしない!」


P「だってみんななんでもこなせるもの! 日常的話は言わずもがな!」

P「妖精だろうが怪人だろうが悪役だろうがヒーローだろうが」

P「ありとあらゆるシチュエーション、ありとあらゆる舞台設定」

P「グリマスの中で誰も彼も、こなした実績があるからさ!」

訂正
>>7>>8の間に以下を挟み忘れてたせいでTAの説明が無かったです。



琴葉「ちなみに前回推されたのは?」

P「組長ひなたに清き一票」

琴葉「ネタ枠は……感心できません」

P「ネタじゃない、ギャップ!」

P「普段は天使な子が組長としてどんな演技を見せるのか?」

P「気にならないワケないだろう!?」

琴葉「……一応聞いておきましょう。結果はどうでした?」

P「満足。怖カワイイひなたを堪能した」


琴葉「でも『THE@TER ACTIVITIES』は02より03なんですよね」

P「赤い世界はいいぞ! あ、でも侠気乱舞も良曲だし、01も01で味があって――」

琴葉「ミーハー」

P「琴葉、それについては返す言葉も無いが恥じる気も無い」

P「アイマスに語りたい作品はあったとて、要らない作品は無いからな」

琴葉「つまり、みんな一緒に一番だと」

P「だからこそ、今回の投票は嬉しいながらに悩ましいのだ」


P「が! しかしだ!」

P「こういった票集めに向いてる子ってのは確かに居る」

P「十五個用意された枠のうち、全てに顔を出した紬なんてその最たる例さ!」

琴葉「……それ、票を集めてるとは言えないんじゃ?」


P「とはいえ、だ。こんなに票がバラけたのは――」

P「一見すると紬に適役と呼べる役が無かったからに他ならんが」

P「役名だけで考えるとこの"新ヒロイン"」

P「琴葉! ヒロインとは?」

琴葉「ヒロインとは……"作中にて主要な役割を果たす女性です"」

P「そうだ! このSSで言うと琴葉がヒロインだと言える」

琴葉「……や、やだ! 急にそんなこと言われると、なんだか途端に照れ臭く……」



P「だが紬も、ミリシタにおいては未来たち信号機ユニットと並ぶ"顔"!」

P「実際、持ち歌やキャラ付け含めて与えたインパクトは凄かった」

P「瑠璃色は超カッコイイし、性格は紛れも無いPラブめんどくさい勢」

P「その上だ。たちまち百合子やロコの最弱決定戦にも参戦しちゃえるポテンシャル」


P「新人にしては人気も実力も申し分ない。これをヒロインと呼ばずして何と呼ぶ?」

P「しかもだ! そんな"新"キャラが"新"ヒロインに!」

P「見事に符合するとは思わんかね? それこそ票を入れる動機になる程度には」

琴葉「だいぶこじつけのような気もしますけど……。まぁ、多少は」


P「だがしかし! 紬の票は開始早々残念ながらばらけてしまった」

P「……だから十五兎を追うとか言われたり、らしいっちゃらしい光景を見て」

琴葉「ほっこりしちゃったりしたんですね」

P「『レギュラーよりも伝説を』だな」

P「とはいえ、もしもこの票が新ヒロイン役に集まっていたらと思うとだ」

琴葉「他人事では無いですけど、今頃ヒロイン役もデッドヒート」

P「燃える戦い。まさに灼熱少女の面目躍如!」

琴葉「それ、上手くは無いですよ」

===

P「閑話休題」

P「紬はカフェの次女役でも三位をキープしているが」

琴葉「一位争いは美奈子ちゃんと静香ちゃんですね」

P「いつ紬を支えるプロデューサーたちが二者を相手にするよりも」

P「琴葉一人と競り合った方がまだ勝ち目がある!」

P「……なーんて方向に、舵をきっちゃわないかとドキドキだよ」


琴葉「プ、プロデューサー。だったらここでそれを言うのはマズいんじゃ?」

P「えっ? ……あ! ああっ!? し、しまった!」

P「なんてこった! すまない琴葉、うっかりとはいえ俺は敵に塩を送るような真似を!」


琴葉「もう! 敵だなんてそんな……。紬ちゃんも、大切な劇場の仲間じゃないですか」

P「だが琴葉! 今度こそだ! 俺はできるならもう一度お前を一位にして――」

琴葉「……やめてください!」

P「みせるって……こと、は?」

琴葉「やめてください、プロデューサー」


琴葉「私には、本来だったらそんな風に目をかけてもらう資格は無いんです」

琴葉「だって、ズルをしてるから」

琴葉「みんなに合わせる顔が無いほどに、酷い裏切りをしてるから」


琴葉「いいですか? ……これからアナタに向けて弱音を吐きます」

琴葉「確かそう、『諸君、今回の話はメタであーる!』……でしたよね? プロデューサー」


琴葉「だから、私は警告します。嫌な予感がしたならば」

琴葉「アナタの気分を害する前に、ここでブラウザを閉じてください」

===

琴葉「――TAの投票で選ばれた後、役を降板することになり」

琴葉「その後はライブも、曲も、声が関連するお仕事は殆ど参加することがない状態」

琴葉「みんなが次々と新しい"声"を届けていくその中で一人、それができないもどかしさ」

琴葉「以前は出来ていたからこそ、今できないことが悔しくて」

琴葉「でも、それは仕方が無いことだった。だってそれは、だって、それは……」


琴葉「……それは私が、フィクションにおける"キャラクター"だから。そして――」

琴葉「アイドルを題材にした作品の役(ロール)において、"声"という演出は大きなウェイトを占めてたから」


琴葉「できるお仕事の幅が減り、みんなとの歩調が合わせられなくなってから」

琴葉「……私、気づいちゃったんです」

琴葉「もしくは、強く現実を突きつけられたと言うべきか」

琴葉「……ふふっ。虚構の存在のハズなのに、おかしいですよね、こんなこと」


琴葉「――プロデューサー」


琴葉「……私を、田中琴葉という役を」

琴葉「アナタが支えてくれるのは、ソコに"中の人"がいるからですか?」


琴葉「プロデューサーが、私に向けるその気持ち」

琴葉「それは役としての私に向けられた? それとも私の声へと向けられた?」

琴葉「もしくは私の見た目ですか? タッチが変われば、次元が変われば」

琴葉「作り手が、演出家が変われば、公式も、二次創作も関係無く……無く……」

琴葉「……いいえ、回りくどいのはもうやめます」


琴葉「アナタは"その役"を通して一体誰を見ていますか?」


琴葉「"琴葉(わたし)"ですか? "演者"ですか?」


琴葉「もしかすると、それですら無い何かなのかもしれないけど! だけど……!!」


琴葉「"私"は……。"私"は、……不安、なんです」

琴葉「想像すると、考えると、体の芯が震える程に怖くなる」

琴葉「まるで、そう、まるでです」

琴葉「時間が過ぎ、思い出が強くなっていくほどに、今いる"私"が薄れていくようで」

琴葉「私と言う名の存在が、アナタの中でぼやけていってしまわないかって」

琴葉「そうして田中琴葉という少女が、最後には思い出の中にだけ残り」

琴葉「今もここに居る私が、アナタの目にうつらなくなってしまうんじゃないかって」


琴葉「不安で、怖いんです」


琴葉「そして一年先、半年先。ひと月、半月、もしくは明日や今この瞬間(とき)に」

琴葉「例えそれだけの変化が訪れても……アナタは、かわらずに私と共にいてくれるか」

琴葉「私の方も、そんなアナタのアイドルとしていられるのか……?」


琴葉「それに"声"を持たないこの文が、アナタの心にどれだけ届くかも分からない」

琴葉「罪を犯した者が淡々と、胸の内を吐露しているように思えますか?」

琴葉「それとも嵐が木々を騒がすように、訴える私の姿が浮かびますか?」

琴葉「もしかすると、今の私は我が子を抱いた母のように、穏やかな微笑みをたたえて話しているかもしれませんよ?」


琴葉「……分からない。分からないんです」

琴葉「だから……ごめんなさい。『ごめんなさい』なんです」


琴葉「そんな私の出番が着々と、もう一度現実の物になりそうで」

琴葉「気づけば、こうして手の届きそうな場所に当然のように置いてあって」

琴葉「しかも、一方ではホッと嬉しい自分もいて」

琴葉「弱音を吐いて、心配させて、長い間ずっとやきもきさせて」

琴葉「そんな風にまだまだ待たせている人達から、こうして形にしてもらって」



琴葉「今すぐ『ありがとう』の声一つ、アナタに届けられない癖に」

琴葉「アナタの劇場で『おはよう』と、笑顔も向けられない癖に」

琴葉「そんな私が今ここで、一人の少女のデビューを妨げようとしてる」



琴葉「……そんなの許されていいのかな?」

琴葉「このまま誰も歯牙にかけず、大して競り合うこともなく」

琴葉「まるで予定調和のように役が与えられたとして」


琴葉「……それは正しいことですか?」


琴葉「答えて、欲しいんです。私の悩みを、不安を取り除き」

琴葉「いつものように道を示し、私を導いて欲しいんです」

琴葉「それで、結果として、人から『やっぱり琴葉は重いな』って」

琴葉「言われても、笑われても、からかわれたって別にいいっ!」

琴葉「……だって、だって私は、……アイドル、田中琴葉は――」

琴葉「それだけ、それほど、アナタがいなくちゃ……ダメ……だから」

===

P「――結論から言おう」

P「現時点で手にしてるこの票数は」

P「紛れも無く琴葉自身の人気によるものだ」


P「大体な、琴葉」

P「考え方が固い。固すぎる。カチコチだ」

P「しばらく姿を見せないうちに、頑固さに磨きがかかったか?」


P「そもそもだ。再三言うが君に集まってる票は同情票なんかじゃあない」


P「これは人気票だ!」

P「雪辱票だ!」

P「もちろん役に対する期待票でもあるし!」

P「周囲に対するけん制票!」

P「『トップは譲らないぜ?』という宣言票!」

P「電撃作戦の如き電撃票も含まれれば」

P「操作ミスを偽装した隠れファンによる照れ隠し票も入るはずだ!」


P「それと大きな勘違いもしてる」

P「765プロの田中琴葉が好き、結構!」

P「中の人込みで気に入ってる、結構!」

P「容姿を見た時一目惚れ、結構!」

P「公式非公式を問わず"琴葉が琴葉だから好き"、大いに結構!!」


P「これら全てをひっくるめての"田中琴葉"」

P「一つ一つの尖った個性も大切だが、全体としてのまとまりだって評価点だ」

P「さらに! そのまとまりを個として考えた場合琴葉は実にハイスペック!」

P「俺はな、個性が尖り過ぎたせいで丸く見える春香と比べても」

P「琴葉なら十分センターを張れる! タメも張れると思ってるぞ!」


P「……とはいえ、だ」

P「そうして形作られた"キャラクター"が魅力だってことを理解してない!」

P「それも誰言わん琴葉自身がな! お前さんね、自己評価が低いにも程があるぞ!」


琴葉「でっ、でもプロデューサー! 私、今でもみんなに迷惑をかけて――」

P「もう、コトハはホントにおバカさんネっ!」

琴葉「っ!? (に、似てない!)」


P「一つ言っておく! 中の人なんて代わる時には変わるもんだ!!」

琴葉「っ!!?」

P「なるべく触れないように濁してたが――」


P「ドラえもんを見ろ! サザエさんを見ろ! ルパン三世もそうだろうに!」

P「引退したり、亡くなられたり、仕事の形が変わったりで」

P「声優ってのは変わる! ファンの望む望まずに関係なくな!!」

P「中には一度変わってそれが最後、二度と新録が聞けなくなった人だっている!」


P「……もちろん代わってなんて欲しくないよ。だけどやむにやまれぬ事情はある」

P「今回だって正直な話、アイマスというコンテンツの規模。運と、時期と、忍耐と」

P「なにより当事者たちにしか分からない、アレやコレやが重なった末の復帰目途だ」

P「ハッキリ言って奇跡みたいなもんさ! これは!」

P「だからもうホント今はあれ、焦る必要ないんで万全な体調でお戻りください」

P「復帰するよって一報で、どれだけ救われた気持ちになったことか」


P「それに病気だけじゃなく事故も怖い」

P「演者さんたちの母数が増えれば増える程に確率は上がっていくわけだし」

P「ホントね、こういうデリケートな問題は心配したってキリがないよ」


P「だがもしも、もしもだ! 仮に声が変わってしまっていたとして」

P「琴葉の魅力は減っちまうか!? お前の中の田中琴葉は、そんなに薄っぺらい存在か!?」

P「そりゃ、最初は違和感だってあるだろうがそんなもの――」

P「ええいまどろっこしい!! ぶっちゃけ雪歩だって声変わりしただろう!?」

P「中の人は代わってないってのに、初期と違ってる子だっているだろう!?」

琴葉「ストップですプロデューサー! そ、その話題は広がり過ぎますからっ!!」


P「しかしそれでも琴葉を待てるのは、こうして期待しながら票を入れるのは」

琴葉「……さっき言ったように、中の人が復帰宣言したからですか?」

P「それもある! が、違う!」

琴葉「私の容姿を気に入って?」

P「それもある! が、違うっ!」

琴葉「じゃあやっぱり投票する時の操作ミス……」

P「よりによってどうしてソレを選んだんだ!?」


P「全く、違う! 違う! 全然違う!」

P「見たいからだ! 迎えたいんだ!」

P「劇場の舞台で演技をする、"キャラクター(アイドル)"琴葉のその姿を!」

P「琴葉を含めた全員で、765プロが向かうその先を!」

琴葉「プロデューサー……!」



P「――後、琴葉は『Princess』だから」

P「是非『Princess Be Ambitious!!』を躍らせたい」

琴葉「プ、プロデューサー? 真顔になって急に何を……」

P「きっと似合うぞぉ~、ばーつぐんに可愛いお姫様が誕生だぞぉ~」

琴葉「……はぁ。今までの勢いは一体ドコへ消えたんです?」

P「ヴァイスが行ったところにかな」

===

P「まとめ」

P「さっくり言うと、二位の紬の追い上げ怖い」

琴葉「……ですから、譲れる物なら役は譲ると」

P「……おい琴葉!」

琴葉「なっ、なんですか? 怖い顔しても負けませんよ!」


P「違う。これだけ言ってまだ分からないか?」

P「お前は、いつからそんなに偉くなった?」

琴葉「え、偉くなったなんてそんなつもり!」

P「なってるだろ? 『ダメダメな私が一位なんて信じられない!』」

P「『これもきっと、裏でなにか悪い取引があったんだわ!』」

P「……だから役を降りたいって? 後輩に花を持たせたいって? かーっ!」


P「非情であるべき勝負の舞台に私情を自ら持ち込んで!」

P「これを偉そうと言わずして何というよ? 自意識過剰も甚だしい」

琴葉「プッ、プロデューサー! それ以上言うと――」

P「お? 怒るか? 怒るか? 猫パンチか?」

P「怒ってみろよ? 取っ組み合いか? 折角合わせた衣装が台無しだぞ?」

琴葉「ぐっ、う! 憎たらしぃ……!」


琴葉「だったらもう……ました!」

P「ん?」

琴葉「分かりました! 私、田中琴葉は宣言します!」

琴葉「金輪際、役を自分から降りるなんて言いません! それに――」


琴葉「同情だろうがなんだろうが、出された数字は数字ですし」

琴葉「ここから紬ちゃんが追い上げて来るっていうのなら、真っ向勝負で立ち向かいます!」

琴葉「私、勝ちに行きますけど――構いませんね、プロデューサー?」


P「……いいとも! それでこそ琴葉だよ!」

P「お前たちは、みんながみんな頼れる仲間であると同時に最も近しい競争相手!」

P「お互いにレベルを高め合う、良きライバル同士でもあるべきだ!」

P「それに接戦になればなるほどに――」

琴葉「勿論ブレイズアップもしちゃいますし、その方が勝っても負けてもスッキリです」


琴葉「だから吹っ切りましたよ、もうっ!」

琴葉「後は、これ以上うじうじしてからかわれ続けるのもしゃくですし」

P「はっはー♪」

琴葉「その代わりちゃんと傍にいて、最後まで私を応援するって約束を!」


琴葉「だって私みたいな女の子が、こうしてアイドルを続けていられるのは――」

琴葉「支えてくれる、プロデューサー(ファン)あってこそなんですからっ♪」


――そうして少女、田中琴葉は照れ臭そうに微笑んだ――カット! お疲れ様でーす。

https://i.imgur.com/4ALaHqf.jpg

===
以上おしまい。

こういう投票ネタで作品を書く気は無かったのに、気づけば一万票近い開きがあっても
「やべぇ、たった一万しか差が無い」と気が気じゃない自分を落ち着かせるために書きました。

いやいやホントにドキドキなの。目を離してる隙にまた100票近く増えてるし。やめて! これ以上いぢめないで!

とはいえ度々くすぶっちゃうものの、いざ吹っ切れると誰より熱く燃え上がる。
田中琴葉ってそんな応援しがいのあるアイドルだ――みたいな予定通りに書けていたら幸い。

私たちの小さな票を積み重ねて、そんな彼女に素敵な舞台を用意してあげられれば最高だって思いません?

そうでなくても、「やっべー、"新ヒロイン"枠間違って田中で投票しちったわー。
興味ない子だったのにミスったわー。マジやっべー」なんて声が聞ければガッツポです。

では、最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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