棟方愛海の見えざる手 (29)
愛海「透明人間になったら何をするか」
愛海「誰もが一度は、人によっては週に一度は考えるこの問いに、あたしはこう答えよう」
愛海「お山に登る!」
愛海「姿さえ見えなければこっちのもの。あんなお山もこんなお山も自由に登り放題パラダイス。最高だよね」
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愛海「さて、何を言いたいかといいますと」
愛海「ピンクの液体が入った瓶が今あたしの手の中にありまして。そう、これこそが」
愛海「念願の透明になる薬!やったー!ドンドン!ぱふぱふ!」
愛海「いやあ、志希さんに冗談でお願いしてた透明人間になる薬。まさか本当に作ってくれるとは」
愛海「報酬にいっぱい嗅がれたけど。うん、まあ必要経費だよね」
愛海「ともかく人類の夢が今ここに!もちろん今すぐ飲みますとも」
愛海「それでは腰に手をあてて、いただきまーす」ゴクリッ
愛海「まあ、いただくのはこれからなんだけどね。うひひ」
愛海「おおっ、身体がどんどん薄くなって……消えた!なにこれすごい!」
愛海「正直、志希さんの冗談だと思ってたのに。頼んだ時に「何味がいいー?」って聞かれたし」
愛海「注文通りにリンゴ味だったし」
愛海「でも、現実なんだ。今アタシは透明人間になったんだ!!」
愛海「うわー、すごい!鏡に服だけ映ってる!服が宙に浮いてる!歩いたら服だけが移動してる!」
愛海「これは一人の人間にとっては見えない一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だよ」
愛海「志希さんすごすぎるよ。ちょっと怖いぐらい」
愛海「でもそれはそれ。これはこれ。大切なのは今あたしは透明だという事実」
愛海「よーし、ではさっそく登山しに行くよ。っと、その前に服を脱がないと。流石に服は消えないから」
愛海「……見えないとはいえ、全裸徘徊。抵抗あるなぁ。いや、脱ぐけどさぁ。ねえ?」
愛海「…………すごい恥ずかしい。これ本当に他の人からも見えてないんだよね?信じてるよ志希さん」
愛海(うう、廊下を裸で歩いちゃってるよ。越えちゃいけないライン越えちゃったよ)
愛海(あと少し寒いなあ。風邪をひかないためにも、急いで暖をとらないとね)
愛海(あたしに温もりをくれる人はどこかなー……いたっ!)
卯月「凛ちゃんも未央ちゃんもオフだから今日は一人で頑張ります!ぶいっ!」
愛海(第一村人が説明口調で現れた!)
愛海(ともかくファーストステージは卯月さん。チュートリアル感漂うけど彼女のお山も侮れない)
愛海(いつものあたしなら頑張ってる卯月さんを労うついでに、っていうのが基本パターンなんだけど)
愛海(不可視の力を手に入れたあたしに、もはやそんな小細工は不要!)
愛海(正々堂々、正面からまっすぐお山に登らせてもらうよ!)
愛海(え?どの口が正々堂々なんて言うのか、って?この口だよ。見えないの?)
愛海(とかなんとかやってるうちに、卯月さんのお山は目の前!いざ!)
もにゅん
卯月「ひゃあっ!?」
愛海(いやったあああ!!)
愛海(うう、女の子達と仲良くなってお山に登りたい一心で入ったアイドル事務所)
愛海(なのに何故かあたしの山登りはことごとく阻止されてきた)
愛海(でも、今この手は確かにアイドルのお山に登っている)
卯月「ひゃあ!?な、なんですかこれ?」
もにゅんもにゅん
愛海(あたし、アイドルになって良かった!)
愛海(この世のすべてのお山に感謝を込めて)
愛海(ありがとう……)
卯月「いやっ!!」
ドンッ
愛海「ぐえっ」
愛海(ぐ、卯月さんに押されて変な声出ちゃった。み、鳩尾が痛い)
卯月「な、何ですか今の声!?ううん、とにかく逃げないと!」
愛海(あ、お山が遠ざかっていく)
卯月「プロデューサーさあん!」
愛海(ああ、行っちゃった)
愛海「うん。長く堪能は出来なかったとはいえ、なかなか上手くいったんじゃないかな」
愛海「卯月さんのお山、素晴らしかった。お山に貴賤はないけれど、それでもあたしの山登りにおいて忘れがたき感触だったよ」
愛海「この手に残る感触だけで今日はもう満足」
愛海「なーんてならないのが愛海ちゃん!せっかく透明人間になったんだもの、行けるところまで行くよ!」
愛海(っていうか貰った薬の効果時間聞いてないんだけど大丈夫かな。登ってる途中で戻るとかやめてよね。今のあたし全裸なんだから)
愛海(後で志希さん見かけたら聞いておこう)
愛海「さあて、次のお山は……ん?この声は」
真奈美「262、263、264」
愛海(真奈美さんがすごい勢いでスクワットしてる)
愛海(同時にお山がすごい躍動感溢れる動きをしている。ずっと見ていても飽きないね)
愛海(でも、今のあたしは狩人。見ているだけとはいかないんだ)
愛海(たとえ相手があの真奈美さんだったとしても!攻める!)
愛海(真奈美さん。素敵な山を持ちながら、あたしの壁となる人よ)
真奈美「299、300、301」
愛海(今こそあたしは貴女を登る!いざ!)
もみ
愛海(勝った!……はっ!?)
愛海(それは一瞬の判断だった)
愛海(勝利を確信して、真奈美さんのお山に両手の指で触れた瞬間)
愛海(ゾクリと今まで感じたことがない何かが、生物として備わっていた警鐘を大音量で鳴らした)
愛海(危機を感じたあたしの体は咄嗟に真奈美さんから手を離し、全力で距離を取るように動いてくれた。ダンスレッスンの賜物だね)
愛海(流れる視界の中、あたしは見たものは)
愛海(真奈美さんの左手があたしの腕を掴もうとして空を切り。もう一方、右手が拳となってあたしの頭上を貫く光景だった)
愛海(あたしの身長があと5センチ高かったら確実にやられていたに違いない)
愛海「……っ!?」
真奈美「外したか。確かに触れられた感触がしたんだが」
愛海(えええっ!?なんでこの人、見えない何かに触れられて即座に対応できてるの!?)
真奈美「透明人間、いやまだ人間とは限らないな。ともかくこの事務所のアイドルに害をなすものならば」
愛海(害じゃないよ!触れ合いだよ!)
真奈美「他のアイドルに被害が出る前に仕止めなくては。どこにいる!出てこい!」
愛海(ムリムリムリ!!)
真奈美「そこか!」
愛海(ひっ!?)
愛海(怒号とともに真奈美さんの拳が鋭く打たれる。あくまで威嚇だったようで、場所は全然見当違いだったのだが、それでもあたしは恐怖で溢れそうになる叫びを抑えるのに必死だった)
真奈美「くっ、すでに逃げられたか?急いでプロデューサーに伝えなくては!」
愛海「…………」
愛海(真奈美さんが走り去る音を聞きながら、あたしは静かに鼓動を抑える)
愛海(……漏らすかと思った)
愛海「怖かったよぉ」
愛海(今まで山登りで怒られたことはあっても生命の危機を感じたことはないし)
愛海(それ以上に、誰かから本気の敵意を向けられたのは初めてかもしれない)
愛海(そんな強い敵意をよりにもよって真奈美さんから向けられるなんて)
愛海「……透明人間やめようかな」
愛海「っと、違う今のナシ!せっかく透明になったんだもん。もっと自由に楽しまなきゃ!」
愛海「それが志希さんから薬をもらったあたしの使命!なんてね」
愛海「あ、また新たなお山の気配が!」
幸子「輝子さんは今日オフでしたっけ?」
小梅「うん……でも後でキノコの世話しに事務所くるって……」
愛海(今度のターゲットは二人。うひひ、手が足りなくなっちゃうね。でもそれがいい!)
愛海(二人同時にいただきます!!)
もみもみんっ
幸子「へっ!?」
小梅「……っ!?」
愛海(うひひひひ)
もみもみもみもみ
幸子「……」
小梅「…………」
愛海(うひ……あれ?なんか反応薄い?)
幸子「もー、またあの子の悪戯ですか?小梅さん、やめるように言ってください」
愛海(馴れてらっしゃる!?というかあの子もお山登ったりするの!?)
小梅「…………」
愛海(小梅ちゃんは無反応だし。うーん、ここまでドライだと少し寂しいな。山登りって心の触れ合いあってこそだから)
もみもみもみもみ
小梅「ち、違う……」
幸子「小梅さん?」
小梅「あの子じゃ……ない……」
幸子「え?じゃあ、さっきから胸を揉んでいるのは?」
小梅「誰……?」
幸子「ふぎゃああああ!!」
スカッ
愛海(甘いっ!さっき卯月さんに突き飛ばされたあたしに同じ攻撃が当たると思ったか!軽くかわして、小梅ちゃんのお山に突撃!!)
小梅「あなたは、誰……?見えない、みんなとも違う……何……?」
愛海(うひひひひ)
小梅「……来ないでっ」
幸子「小梅さんに近づかないでください!!」
ゴスッ
愛海「がふっ!?」
愛海(わ、脇腹に幸子ちゃんの膝がヒット!咄嗟に膝蹴りがでるアイドルってどうよ!?)
幸子「い、今のうちに逃げますよ小梅さん。ボクの手を掴んで」
小梅「う、うん……」
愛海(ああ、行っちゃった……)
愛海(幸子ちゃん、予想外の出来事への対応力ありすぎじゃないかな。場数踏んでるだけのことはあるよ)
愛海(脇腹めっちゃ痛い)
愛海「ふう、どうにか痛みも引いて動けるようになってきたよ」
愛海「色々アクシデントはあったけど、でも山登り自体は順風満帆」
愛海「大漁大漁!山登りだけど!あはは」
『いやっ!?』
『出てこい!』
愛海「ははは……」
『ふぎゃああああ!!』
『……来ないでっ』
愛海「……」
愛海「あたしがやりたかった登山って、こんなのだったっけ?」
卯月「本当に出たんですよ!」
幸子「カワイイボクも見たんです!見てないですけど!」
モバP「にわかには信じられないが、もし透明人間が実在するなら対策を取らないとだな」
真奈美「まずは周知だな。単独行動はとらせないようにして、後は大人組で捜索をするとしよう」
モバP「そうですね。ではさっそく皆に伝えて」
愛海「ごめんなさい!」
モバP「……ん?今の声は?」
小梅「ぷ、プロデューサーさん。あ、あれ……!」
モバP「うおっ!?服が浮いてる!?」
幸子「で、出たー!」
卯月「あれ?でもこの服、愛海ちゃん?」
愛海「そうだよ!あたし、棟方愛海だよ!」
真奈美「……確かに愛海の声だな。つまり透明人間は愛海だったのか?」
愛海「そうです。全部あたしがやりました!本当にごめんなさい!」
モバP「すげえ、本当に服しか見えない。愛海、いったいどうして透明になったんだ?」
愛海「それは……」
モバP「なんて物を作ってるんだあの面白アルケミストは」
愛海「あの、頼んだのはあたしだから志希さんは怒らないで」
真奈美「どう考えても悪用する相手に道具を与えるのはそれだけでダメだと思うが」
モバP「ともかく志希を探してきます」
卯月「でも愛海ちゃんでよかったです。怖い人かと思いました」
幸子「いや、よくないですよ!とても怖かったんですから!あ、ボクじゃなくて小梅さんがですよ」
小梅「う、うん……。でも幸子ちゃんの膝当たったとこ大丈夫だった?ケガしてない?」
幸子「う……。す、少しやり過ぎましたね。すみません」
愛海「ううん。あたしが悪いんだから、こっちこそ」
モバP(浮いてる服と喋ってるのシュールな光景だな)
真奈美(……拳が当たらなくてよかった)
モバP「志希いるか?」
志希「あれ、どうしたのキミ?あ、愛海ちゃんもいるね。薬の効果はどうかにゃ」
愛海「効果はバッチリだったよ。でももう透明人間はこりごり」
志希「ふんふむ。後で簡単なアンケートに答えてね。今後に役立てるから」
モバP「研究続ける気満々かよ。まあ、その話は後でいいや。とりあえず愛海を元に戻す薬を出してくれ」
志希「ないよ」
モバP「…………」
愛海「…………え?」
モバP「……えーっと、それは今手元にないという意味か?」
志希「んー、そういえば元に戻る方法は考えてなかった」
愛海「あ、あの、時間がたてば元に戻るなんてことは」
志希「ないんだなこれが」
モバP「う、嘘だよな?」
志希「志希ちゃんは冗談は言うけどウソはつかないのだ。たぶん」
愛海「じゃあ、あたしは一生……このまま……?」
モバP「愛海!しっかりしろ愛海!志希、なんとかならないのか!?」
志希「あー、その、元に戻す薬ね。作れなくはない、と思う。ちょっとすぐにってわけにはいかないけど……」
モバP「どのくらいかかる!?」
志希「えっと、そのー、少なくとも年単位でかかる、かも」
愛海「そんなに……」
モバP「……わかった。元に戻す薬を頼む」
志希「う、うん。さすがに志希ちゃんも今回はうっかりしてました。はい。急いで薬つくるね」
モバP「ああ、頼む。……さて」
愛海「ぐすっ、こんなのってないよお」
モバP「愛海」
愛海「プロデューサー……あたしどうしよう……」
モバP「愛海。こうなったら覚悟を決めるしかない」
愛海「……?」
司会「みなさんお待ちかね!今日のゲストは今人気急上昇中の透明アイドル、棟方愛海さんです!」
「愛海ちゃーん!」「あつみん、俺だー!姿見せてくれー!」
司会「……あれ?出てきませんね?愛海さん?……きゃあ!」
愛海「いるよー!」
「愛海ちゃんだ!ホントに透明だ!」「すげえ、まったく見えない」「てか今服着てないの!?」
司会「あ、あの!胸を揉むのやめてください!」
愛海「えー、そんなことしないよー。見てよこの純粋な目を」
「見えないよー」「アハハハ」
愛海「なんてね。スキンシップはこの辺にして、みんな今日はよろしく」
司会「はい。愛海さんはもともとアイドルとして活動していましたが、とある事故で透明人間に」
司会「普通ならアイドル活動を続けられない事態ですが、なんと前代未聞の透明アイドルとして活動続行」
司会「見えそうで見えない、どころか見えるはずなのに見えない」
司会「そんな14歳とは思えない魅力が大ヒットしています」
「愛海ちゃん可愛い!見えないけど」「愛海ちゃん今日も可愛いよ!見えないけど」
愛海「ありがとう。こうしてアイドルを続けられるのは応援してくれるみんなのおかげだよ!服を着たら今度発売の新曲歌うから、テレビの前のあなたも絶対に見逃さないでね」
愛海(ねえ、プロデューサー。あたし、透明になったことを後悔してないとか、逆にプラスになったなんて思ってないよ)
愛海(でも、透明になってもあたしを認めてくれる人達がいることは喜んでいいよね)
愛海(ありがとうプロデューサー。透明になったあたしを見放さないでいてくれて)
愛海(約束するよ。いつかあたしが元に戻った時は、最高のアイドルの姿を見せてあげる。だから)
愛海「あたしの成長、見守っててね。プロデューサー!」
おしまい!
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