【ガルパン】ダージリン「温泉旅行」 (68)

書けました

※まほ「温泉旅行」【ガルパン】まほ「温泉旅行」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509769779/) の続きです

※大学生編妄想。各校の隊長達が揃って温泉旅行する話の後編です

※お気に召さない表現があるかも知れません

良ければまたお付き合い願います

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【全力疾走の西絹代】

バイクは良いぞ。

裏野巣と名付けたバイクの手入れが日課だ。
この裏野巣で走る事が好きでたまらない。
だが、学園艦の上ではその趣味を存分に楽しむ事が出来ない。
所詮は艦上をぐるぐる回るだけだ。

それに、騒音の問題もある。
大きな音を出せば、居住区の皆様のご迷惑となってしまう。

だから私は寄港日が待ち遠しい。

騒音の問題が解消される訳ではないが、艦上よりは思い切り走れる。
目的地を定めずに全力疾走するのが何よりの楽しみだ。

一人になりたい時は、バイクの遠乗りに限る。
どこまでも続く高速道路をひたすらに走るのは、実に気分が良い。

私にだって、一人になりたい時ぐらいある。
別段、何かあったという訳ではない。
ごくごく自然に、集団生活に定期的に疲れるというだけの事。

思えば贅沢な悩みだ。
高校を卒業すれば、この集団生活はあっさりと終わる。
そうなれば今度はきっと、集団生活が恋しくなるのだ。
そしてその時、一人で遠乗りなんぞに出掛けた事を後悔するかも知れない。
戦車道の皆とは疎遠にならないと思っているが、実際どうなるかは分からない。

だからこそ現在の一日一日を大切にしなければならないのだが、まあそう言ってもな。
疲れるのだから仕方ない。

めりはりが肝要なのだと思う。
集団生活に疲れたら一人の時間を取る。
一人になると集団生活に戻りたくなる。
今は集団生活に戻るための、一人の時間だ。
存分に楽しむとしよう。

何度でも言うが、バイクは良い。

空気が体に直に伝わってくる。
この感覚は戦車では味わえないものだ。
何物にも守られず、生身で走る二輪だからこそ体感できる空気がある。

トンネルを抜け、視界が開けた瞬間など思わず声が漏れる。
何故だかな、トンネルの先にある景色というものは例外なく美しい。

休息所での時間も好きだが、裏野巣が些か珍しい型であるために目立ってしまうのが難点だ。
落ち着いて休息を取ろうと思ったら、高速道路を降りねばならない。

まあ、降りたくなったら降りる。
こういう自由が利くのが一人旅の良い所だ。

見渡す限りの山、山、山。
学園艦では決して見ることの出来ない光景に胸が躍る。
生身でこんな所まで来たのだという達成感も、二輪ならではのものだと思う。

しかしまあ、随分遠くまで来たものだ。
引き返すには遅いし、燃料も心許ない。
ぼちぼち降りるとしよう。

給油のついでに宿泊できる場所も探さなくては。

温泉旅館でもあると嬉しいなあ。

【絹代編終了】

【午前二時の安斎千代美】

女が三人寄れば姦しいと言うが、じゃあ七人寄ったらどうなるかと言えば、こうなる。

西住、ダージリン、カチューシャ、ミカ、ケイ、角谷、そして私。
大学生になってから、同じ元隊長同士という事もあって自然と仲良くなった私達七人。

今回は、とある温泉旅館に宿泊している。

旅の名目としては、ダージリンが自動車の運転免許を取ったことのお祝い。
だけどまあ、実際には皆で集まって騒ぐことが目的みたいなもんだ。

ダージリンの合気道教室が始まった辺りからどんどんうるさくなり、終いには旅館の人がやんわり注意しに来る始末。
だから今は、布団に寝転がって静かにお喋りをしている。

よくよく考えてみると、これまで私達には対等に話せる友達というものが少なかった。
皆がその事に気付いているのかは分からないが、このメンバーでの会話はとても弾む。
対等な会話の経験が薄いせいで、どうでもいいような話題がすごく刺激になるみたいだ。

普段は寡黙な西住でさえ、この中に入ると自然に口を開く。

「ダージリンは紅茶だが、カチューシャとはどんな意味なのだろう」
「カチューシャっていうのはエカチェリーナの愛称形なのよね」
「へえ。エカチェリーナちゃん、みたいな意味なんだね」
「身長が伸びた今は、確かにエカチェリーナって感じだよねー」
「エカチェリーナって呼んであげましょっか」
「やーめーて」

今は名前の話で盛り上がっている。

でもちょっと、うとうとして来た。
みんなの話し声って、眠くなるんだよなあ。
何故だろう、安心するのかな。

実は、早めに済ましたい用があるんだけど、なかなか言い出せずにいる。

こっくりこっくり舟を漕ぐ私を見てクスクス笑う声が聞こえる。

この声はダージリンかな、それともカチューシャかな。

遠慮なんかせずに、早めに言い出せば良かったなあ。

だけどもう本当に眠くてさ、限界なんだよ。

でも代わりに行ってくれとも頼めない。

どうしても私が探さなきゃいけない。

その付き添いが欲しいんだ。

どこにも無いんだよ。

私の大切な。

大切な。

私の。

目を開けると、午前二時だった。
や、やっちまったなあ。

当然、みんなはとっくに寝静まっている。

これじゃ、一人で探しに行くしか無いじゃないか。
遠慮してないでさっさと言えばよかった。

私の本が見当たらない。
まあ、どこにあるかは大体見当が付いている。

私達が元々泊まる予定だった部屋。
一度はそこに落ち着いたし、西住や角谷なんかそこで一眠りしている。
だけどその後、その部屋が曰く付きであることをケイが他のお客さんから聞いてしまい、部屋を換えて貰った。

私は、角谷が眠りに来るまで西住の脇で本を読んでいた。
置き忘れたとしたら、そこだ。

幽霊なんか信じちゃいない。
信じちゃいないが、真夜中に一人で曰く付きの部屋に行くのは流石に嫌だ。

時刻は、何度見ても午前二時。

ど、どうしよう。

【安斎編終了】

【深夜徘徊の西住まほ】

参った、眠れん。

時刻は午前二時、皆は既に寝静まっている。
そう言えば聞こえは良いが、各々騒ぎ疲れての雑魚寝なので、寝静まっているという表現が適切かどうかは分からない。
敷かれた布団などお構いなしに、銘々に寝入っている。

私はと言えば、恥ずかしながら旅館に到着するなり、移動の疲れから暫く眠ってしまった。
そのせいで今、一人眠れずにいる。

一人落ち、二人落ち。
私もさっさと落ちてしまいたいのだが、そんな事を考えていると余計に眠れない。
明日に響いては困るし、どうにかならないものかとごろごろしている。

「な、なあ、西住」

びっくりした。
安斎、起きたのか。

何やら、どうしても気になっている事があるらしい。
早めに済ますつもりでいたのだが、うっかり寝入ってしまい、こんな時間に起きてしまったという。
声の調子からするとあまり面白い話ではなさそうだ。

「私の本が見当たらなくてさ、たぶんあの部屋に忘れたんじゃないかと思って」

ああ、そういう事か。

確かに安斎は、あちらの部屋で本を読んでいた。
探しに行きたくとも、曰く付きの部屋に一人で行くのは嫌だというのだろう。

「行こう」
「行こう」

そういう事になった。

旅館とは深夜でも明るいものかと思っていたら、そうでもない。
ここは二十二時に消灯するので館内はとっくに暗くなっている。
ただ、消灯とは言っても完全に真っ暗になる訳ではない。
トイレに起きる客や緊急時などに配慮してか、進路が確保できる程度の明るさはある。
それがまた良い具合に薄気味悪く、肝試しには最適と言える。

「西住、なんかお前、ウキウキしてないか」

気のせいだ。

さて、件の部屋の前まで来たが、肝心な事を失念していた。
当然の事ながら部屋は施錠されている。

それに、よくよく考えれば短時間とは言え客の出入りがあった部屋だ。
清掃の手が入るだろうし、忘れ物や落とし物があればその時に回収されるに決まっている。

拍子抜けだ。
恐らく、安斎の本は旅館側が保管しているものと思われる。

はーあ。

「何の溜め息だそれは」

気にするな。

仕方ない、フロントに行ってみよう。
深夜とは言え、誰かしら詰めているだろう。
急に部屋を換えたり深夜徘徊したりと、迷惑な客である。

しかし、そうなると忘れ物の持ち主である我々がまだ宿泊しているのに連絡が無いのは妙だ。
まあいい、訊けば何か分かるだろう。
そう思い踵を返すと、白い服に長い黒髪の女が真後ろに立っていた。

「私の部屋に何用か」

おおお、流石にびっくりした。
心臓が止まるかと思った。

ダッシュで逃げる安斎。
意外と脚が速い。

しかし幽霊など居る筈もなく、その上よく見れば知った顔で、向こうもその事に気が付いた。

「失敬、驚かすつもりは無かったのですが。おや、貴女は確か」

意外な場所での再会となった。
去年の大学選抜戦の時に手を貸してくれた、知波単学園の西絹代。
彼女はみほ達と同学年だから、今は三年生か。

白い長襦袢が妙に艶かしい。
トイレにでも行ってきた所だろうか。
せめて何か羽織れと言いたくなる。

暫しの立ち話。

「私、バイクの遠乗りが趣味でありまして。目的地を定めずに疾走する癖のお陰で此度はこの旅館に辿り着いてしまいました」

成程。
予約無し、しかも遅い到着だったために空き部屋がここしか無かったそうだ。
私達の後にこの部屋に入ったという事か。
一人で大部屋に宿泊とは、なかなか面白い事をしている。

さて。

こちらの用はただの探し物なのだが、部屋を移った経緯が説明しづらい。
彼女はこれからここで寝るのだ。
上手い説明は無いものかと考えていると、西が先回りして答えてくれた。

「ははあ、もしや探し物ではありませんか」

何故分かったと訊けば、部屋に入った時、忘れ物と思しき小説が座卓の上にあった事を思い出したのだという。

「この部屋が曰く付きであることは番頭から聞き及んでおります」

だが彼女は、幽霊など居ると思うから見えるのですと豪語して部屋に入ったそうだ。
まあ、それ以上に他の宿を探すのが面倒だったのもあるだろう。

そんな経緯があるから、私が説明の仕方で迷っていることも察しが付いた。
それによって、忘れ物の主、つまり先にこの部屋に入った客が私達であることまで導き出せたという。
聡明だ。

なのに何故戦車道では、いや、何も言うまい。

取って参りますので暫しお待ちを、と言って西は部屋の中に消え、少しの後、まさしく探し物の本を持ってきてくれた。
話が早くて実に助かる。

夜分に押し掛けた詫びと、本の礼を言い、私達は部屋に戻った。
何だかんだで面白い肝試しになった。
遠巻きに眺めていた安斎からは私が幽霊と立ち話をしているように見えたらしく、相手が西だと知って随分安心していた。

「じゃあ、二人の脇をうろうろしてた子供みたいなのは知波単の生徒だったんだな。福田って言ったっけか」

んんっ。

【まほ編終了】

面白い

【色即是空のミカ】

瞼を開くと、見慣れない天井。
周囲に漂う穏やかな違和感に少し戸惑って、ぼんやりと思い出す。

ああ、ここは旅館か。

そうそう、皆で泊まりに来たんだった。
それにしても快適な布団だ。
持って帰っちゃ駄目なのかな。

私の朝は早い。
まあ、特に理由は無いけれどね。
癖というか習慣というか。

障子から差し込む光はまだ夜の暗さを引き摺っていて、まるで、まだ眠っていても良いんだよと言っているみたいだ。

雀の声が聞こえる。
ふと、彼らの声が朝を思わせるのは何故だろうと考える。
雀色時という言葉もあるけれど、あれは夕方を指す言葉だ。
何より彼らは朝も夕もなく一日中鳴いている。

少し考えて、雀の声と言うよりも、雀の声が聞こえるほどの静けさが朝を思わせるのだと勝手に納得した。

時計を見ると午前五時。
当然というか何というか、起きているのは私一人。
皆のあられもない寝姿をぼうっと眺める。
早起きは三文の得と言うけれど、この光景は三文では安いね。

>>20
ありがとうございます!

昨日も思ったけれど、杏は眠る時、体を丸める癖がある。
なんだか猫みたいだ。
カチューシャの寝相が最悪なのは想像通りかな。
ダージリンはその下敷きになっている。
ケイは凄い。

まほと千代美は抱き合っ、んんんー。

待て待て待て。
何を待てば良いのか分からないけれど、待て。
あの、えっと。
ええー。

二人は、その、そういうあれなのか。

いや、たまたまかも知れないぞ。
偶然二人の寝相が、こう、互いにがっちりと、うん、無理がある。

まずは落ち着け、落ち着こう、私。
驚きのあまりボキャブラリーが一瞬壊滅した。

精神集中。
色即是空だ。

幸いにも目撃者は私一人。
他の誰かが目を覚ます前に何とかしないと。

しかし、どうするのが正解なんだろう、これ。

やんわり起こして離れさせるか。
それは野暮だろうか。
いや、野暮とか言っている場合ではないかも知れないが。

しかし起こすなら起こすで、どうやって起こそうか。
出来れば二人が自然に起きるよう仕向けて、私が目撃者である事は胸に仕舞っておいてあげたい。

うーん。

うーーーん。

「ん」

まずい、千代美が起きそうだ。

咄嗟に寝た振りをする。
全くもう、こんなのばっかりだな。
正直、熊の時よりドキドキしてるよ。

目を覚ました千代美が寝惚けながらも状況を確認している。
私は薄目を開けてその様子を窺う。

「うわ。ゆうべ、あのまま寝ちゃったのか」

待て待て待て、待ってくれよう。

あのままって何だ。
ゆうべ何をしたんだ君達は。

「ったく、いくらなんでも抱き付いて来るなんてなあ」

あっ、そうかあ。
まほがあっちで、千代美がそっちかあ。

やがて千代美は煩わしそうにまほの腕を解いて、再び眠りについた。

後には、ひどく脈打つ私の心音ばかりが響く。
雀の声はもう、聞こえなかった。

ふ、二人は進んでるなあ。

【ミカ編終了】

【孤立無援の角谷杏】

午前八時。
この旅館の朝ご飯は八時から九時までだよ。

皆の寝起きは概ね良好だね。
梃子でも起きない様子のカチューシャと、何故か落ち込んでいて、起きたくないというミカを部屋に残して食堂へ。

食堂には意外な先客が居た。

「やあ、これは皆様お揃いで」

去年の大学選抜戦で手を貸してくれた、知波単学園の西絹代ちゃん。
西住ちゃん達と同級生だから、今は三年生だね。

彼女はバイクが趣味で、学園艦の寄港日には必ずツーリングに出掛けるのだという。
知波単の性分なのか、ついつい走りすぎて帰れなくなり、現地で宿を探すこともしばしばあるらしい。

今回は偶然にもこの旅館に白羽の矢が立ったって訳だ。

姉住ちゃんとチョビはいつの間にか彼女に会っていたらしく、ゆうべはどうもなんて言葉を交わしている。
心なし、二人の顔が強張っているのは気のせいかなあ。

まあ、ともあれ朝ご飯。
ここはバイキング形式だ。
朝だから軽いものばかりが並ぶ。

私達も朝っぱらから冒険する気にもなれず、普段通りのものばかりを選んだ。

おケイ
・ご飯
・味噌汁
・納豆
・目玉焼き

ダージリン
・トースト(バター)
・目玉焼き
・サラダ
・コーヒー

姉住ちゃん
・ご飯
・味噌汁
・焼き鮭

チョビ
・トースト(ジャム)
・牛乳


・ご飯
・味噌汁
・沢庵
・目玉焼き

>>19 ん?うろうろしていた子供みたいなの?

たしか西隊長一人だったよなあ……

チョビがお茶を汲んできてくれた。
おケイと姉住ちゃんの分も。
細かいところに気が付くなあ。
良妻賢母を育む武道であるところの戦車道の元隊長ともなれば当然なのかね。

いや、でも、他の隊長達は、うん、考えるのやめよっか。

「ダージリン、コーヒー飲めるのか」
「よく言われるわ」

私もそう思ったけど、言われてみりゃ、紅茶しか飲めない訳が無いか。

おケイにソースを取って貰いながら会話を聞くともなしに聞いている。
すると、ダージリンがこちらを見てにやりと笑った。

「ふぅん、角谷さんはソース派なのね」

しまった、と思ったが遅い。

油断したよ。
ダージリンの悪い癖だ。

彼女は、意見が対立しやすい食べ物にやたら目ざとい。
始末の悪いことに、彼女はその対立を楽しんでいて、わざと仕向けるような事を言う。
喧嘩した方が面白いからという理由で、きのこ派にもたけのこ派にもなる女だ。

今回は目玉焼きに目をつけたらしい。

>>32
曰く付きのお部屋ですからね…

「私はね、塩コショウ派なの」
「What、二人とも、目玉焼きには醤油でしょう」

簡単にイギリスの策に乗っかるアメリカ。

なんとなくだけど、塩コショウと醤油が相手じゃソース派は分が悪い。
堪らずドイツとイタリアに救援を求めた。

「私はプレーン派だ」
「私も」

絶対嘘だ。

早々に中立を宣言されちゃった。
仕方ないなあ、ここは孤立無援だが何とか、あ、そうだ。
日本、日本が居るじゃん。

目を遣ると西ちゃんが何か言いたそうにこちらを見ている。
彼女も目玉焼きを取っていた。
おケイとダージリンもその事に気が付いて、同盟の交渉に乗り出す。

「あ、ああ」
「Oh」

しかし交渉するまでもなく同盟は無理と判断。
彼女の目玉焼きを見て、私達三人はあっさりと停戦を決めた。
あれは戦っちゃ駄目な相手だと本能で察する。

彼女の目玉焼きは、タバスコで真っ赤だった。

【角谷編終了】

【天網恢恢のカチューシャ】

旅館での朝。
まだまだ寝ていたいけど、旅行の時くらい早く起きようかしらね。
そう思ってもぞもぞと起き出す。

午前九時。
他の皆は全員起きたのかなと思ったら、隅の方でミカが横になっていた。
まだ寝てるのかと思ったら、一応起きている。
だけど何故か気が滅入ってるらしく、起きたくないとか言って、あ、ミカ、もしかしてアンタ。

「違うよ」

違ったか。

じゃあ、ただ滅入ってるだけなら、お風呂にでも入ってサッパリしましょうと言って起こしてやった。
と言うわけで、今は二人で露天風呂。

何かあったなら言ってみなさいよ。
カチューシャが聞いてあげるわ。

「何かあったと言うか、ううん」

歯切れが悪いわね。
要するに、何かあったんだわ。
だけどハッキリとは言いづらくて言い回しを探してるって所かしら。

こういう時、普段のミカなら上手に誤魔化すんだけど。
余程の事があったのね、きっと。

ま、言いたくないなら無理には訊かないわ。

「すまないね、カチューシャ。この事は出来れば胸の内に仕舞っておきたいんだ」

仕方ないわね、見逃してあげる。
でも、なるべく隠し事はしないことよ。
友達なんだから。

その後、ミカはまだしばらく考え事をしたいと言うのでお風呂に置いてきた。
部屋に戻るとお客さんが来ていて、皆揃ってお客さんを交えての歓談に興じている所。

そのお客さんとは、知波単学園の西絹代。
たまたま同じ旅館に泊まってたのね。

今は三年生で隊長、つまり去年までの私達と一緒って事。
皆、話の合う後輩が可愛くてしょうがないって感じだわ。

「初めまして、西絹代と申します」
「絹代さん、そちらはエカチェリーナよ」

ダージリンがわざと分かりにくい紹介をする。
全く、性格悪いんだから。

「ややこしい事を言うな、ダージリン。西、そちらはカチューシャだ」
「はっ、カチュ、えっ、あの、ええっ」
「そうなるよねー」

その反応には慣れっこだわ。
身長が伸びてから会う人、みんな反応が同じなのよね。
ニーナにすら、誰だか分からないと言われたわよ。

「それはそうとカチューシャ、私に何か謝る事があるんじゃないかしら」

ダージリンに言われて考える。
あれっ、もしかして、もうバレたのかしら。

「西さんと車の話をしてたらね、彼女、私達の車を駐車場で見掛けたって言うのよ」
「キヌヨはね、ダージリンの車を、独特な塗装の車って言ったのよ」

笑いを堪えながらケイが補足する。
ああ、バレた。
傷だらけのラングラーの隣にある車なら間違えようも無い。

「不思議に思って見に行ったらね、確かに見覚えの無いファイアパターンが助手席側にだけあったわ」

堪えきれずケイがアハハハハと笑い出した。
天網恢恢ってやつね、これだから隠し事はするべきじゃないのよ。

「助手席の窓の辺りから放射状にな」
「カチューシャ、あなた昨日のお昼、何か赤いものでも食べたかしら」

あっ、はい。
ボルシチというか、そういったものを少々、はい。

すみませんでした。

【カチューシャ編終了】

【思考停止の西絹代】

珍妙な光景だ。

「カチューシャ、あなたいつの間に吐いたのよ」
「アンタが吐いた時に貰ったのよ。何よ、中に吐くより良いでしょ」

ダージリン殿とカチューシャ殿の口論が始まってしまった。
しかし周りの方々は笑うばかりで止める気配も無く、私だけが狼狽している。

「気にすること無いぞ。あれは、ああいう戯れ合いなんだ」

アンチョビ殿が解説をしてくれた。
聞けば彼女らは、対等に話せる友人が少なく、ああやって言い合う事を楽しんでいるのだと言う。

「あの二人だけではないさ。我々は皆、多かれ少なかれ似たような悩みを抱えていたんだ」

君にも心当たりは無いかとまほ殿に問われ、はたと気付く。
隊長という立場の人間にとって、対等な人間関係を築く事は、確かに難しい。
隊長が対等な人間関係を求めるならば、他校の隊長と仲良くなるのが最も理に適っているのかも知れない。
ならばこれは、成るべくして成った関係という事なのか。

「ほら、もう終わったわ」

ケイ殿の示す通り、口論にしか見えないやり取りをしていた二人は、もう笑いながら互いを小突き合っていた。
威厳や矜持、或いは見栄などと無縁ではいられない隊長ではこうはいかないな。
そこから解放された元隊長だからこそ築ける関係というものがあるようだ。

「私は会長だけどねー」
「そっちの方が凄いわよ、アンジー」

何だろう、羨ましいと感じてしまう。
私もいずれはこんな関係が築けるのだろうか。

「きっと来年は、君達の学年でもこういう事が起きるだろうさ。その時は妹をよろしく頼むぞ」

言われ、こちらこそ宜しくお願いしますと、よく分からない返事をした。

しかし、かの妹御は隊長でありながら学内で対等な人間関係を築き上げている稀有な例であるように思う。
やはり、宜しくお願いするのはこちらの方だなと感じた。

ある程度の歓談を終え、礼を述べてその場を辞去。
帰る前に今一度、風呂に浸かろうと思い露天へ行くとミカ殿が居た。

「妙な所で会うね。お久し振り」

もしやと思い訊ねてみると、やはりミカ殿も先程の集まりの一員だった。

「では私達の部屋からここに来たという事か。どこへ行っても先輩に会うのじゃ気が休まらないだろうね」

いえそんな事は、とは言ったが正直な所は確かに少々気疲れをしている。
目上の人の前で気を抜くという事が出来ない性分なのだ。

しかし、ミカ殿は私以上に疲れているようにも見える。

わざわざ御友人達と離れての一人風呂と言うことは、何事かお悩みなのだろう。
そして、そのお悩みは、恐らくあの集まりの中で吐露する事が憚られる内容か。
然もなくば、より簡単に、お悩みの原因があの集まりの中にあるか。

「まるで八卦見だね。その辺で勘弁してくれるかな」

あ痛、声に出ていましたか。

ミカ殿は笑って、駄々漏れだったよ、と言った。

「まあ、私一人が悩んでも仕方ない話さ」

今は事の真偽すら確かめようが無いんだからね、と、難解な補足をしてミカ殿は湯に首まで浸かった。
お悩みを抱えることも人生には必要なんですなあ、と言って私も首まで浸かる。

「さてと、私はそろそろ行こうかな。そちらはごゆっくり、おっと」

湯から出ようと立ち上がったミカ殿が苔でも踏んだか、体勢を崩した。

あ、危な、んちゅ。

「む、んんっ」

ん、ちゅ、んむ。

んん、ぷは。

互いの思考停止による気まずい沈黙が流れる。

暫しの後、ミカ殿が口を開いた。

「えっと、こ、コーヒー、飲むんだね」

よ、よく言われます。

からからぴしゃりと、脱衣場の戸が小さく閉まる音がして、その向こうから不自然に大きな声が聞こえてきた。

「西住ー、お風呂は清掃中だってよー、卓球やろう卓球ー」

こ、こちらに聞こえるように言っている。
つまり見られて、勘違いされて、気を遣われている。

「追うぞ」

かしこまりで御座います。

【絹代編終了】

【一時停止のケイ】

お土産を買って、旅館をチェックアウトして、キヌヨと別れた。
災難も多かったけど、なんだかんだで楽しい旅行だったよね。

今は帰りの車内。
結局、編成は行きと変わらず。
助手席にはアンジー、後部座席にはミカが乗っている。

カチューシャはゆうべ、こっちに乗るって騒いでた記憶があるんだけど、結局ダージリンの方に乗ったのよね。
やっぱりあの二人は仲が良い。

そうそう、仲が良いと言えば。

「姉住ちゃんとチョビってほんと仲良いよなあ」

付き合ってたりして、とアンジーが冗談めかして言う。
まあ、このメンバーじゃないと話せない事だよね。
当の二人は元より、カチューシャやダージリンが居たら絶対ややこしくなるし。

「違うって言ってたよ。馬が合うからよく一緒に居るのは確かだけど、そういう関係ではないそうだ」

ミカが答える。
えーっ、訊いたんだ。

「まあ、色々あってね」

キン、と短い金属音がした。
缶コーヒーを開けた音だ。
こぼさないでよ、と声を掛ける。

「うん。さて、どこから話そうかな」

それからミカは、ゆうべから今朝にかけてあった出来事を、順を追ってゆるゆると話し始めた。

当初泊まる予定だった部屋が曰く付きだった事を後から知り、別の部屋に換えて貰ったのが発端であること。

部屋を移る時、チヨミが元の部屋に小説を置いてきちゃったこと。

それに気が付いて、たまたま起きていたマホと一緒に本を探しに行ったらキヌヨが居たこと。

チヨミがそこで幽霊らしきものを見たこと。

意外にもマホの方が怯えちゃって、チヨミに抱き付いたまま眠っちゃったこと。

その状態の二人を、早めに起きたミカが見てしまったこと。

「まあそんな経緯があってね。さっき訊けそうだったから訊いてみたのさ」

丁度一緒に居た絹代からも証言が取れたよ、と言ってミカは缶コーヒーを一口飲んだ。
うーん、辻褄は合ってるけど、抱き合って寝てた理由が幽霊ってのは、ちょっとどうなのかしら。

「そういう事なら私は信じるよ。今だから言うけど、あの部屋、居たぞ」

妙に青褪めた顔をしてアンジーが言う。
えー、うっそだあ。

「ほんとだって。あの部屋で昼寝した時に、あっ」

喋りながら何かに気が付いたのか、アンジーが尚も青褪めた。
何だろう、ものすごく嫌な予感がする。

「おケイ、ごめん。話に夢中で気が付かなかった」

これから良くない事が起こるから身構えてね、とアンジーは言った。
ミカもその事に気が付いたらしく、気まずそうに声を出した。

「と、とりあえず、ミラーで後ろを見てみるといい」

言われてミラーを見たのとほぼ同時。
後続車の拡声器から声が聞こえた。

『そこのラングラー、停まってくださーい』

う、うっそだあ。
一時停止なんてどこにあったのよ。

【ケイ編終了】

【大盛天丼のダージリン】

失敗して落ち込んだ
元気だせ気にしないっ
小さい×乗り越えて
進化ですよみんなでね

「良い歌ね」

カーラジオから流れる曲を、カチューシャが珍しく誉める。
帰りの車内で聴くにはぴったりの曲よね。
特に、今回の旅は失敗も多かったものだから歌詞が沁みるわ。

さて。
果たしてあと何回、こんな旅行が出来るかしら。
柄にもなくしんみりする。

まあ、出来る間は存分に楽しみましょう。
こんな事が思い切り出来るのは大学生がピークだと聞いたことがある。
ならばこれが最後ではないのよ。

恐らく、きっと。

「ああ、分かった、ダージリンにも伝えるよ。ありがとう」

角谷さんからの電話を受けていたまほさんが何か言伝てを頼まれている様子ね。
声のトーンから、あまり良いニュースではないことが伺える。

「この先でネズミ取りをやっているから気を付けろ、だそうだ。ケイ達が捕まったらしい」
「何やってるんだか。ご愁傷さまね」

ふぅん。

「ちなみにダージリン、念のため訊くが、ネズミ取りって何の事か知ってるだろうな」

えっ、ネズミを取る事じゃないのかしら。
他に何か意味があるのかしらと考える事、暫し。

「アンタ、嘘でしょ」

カチューシャに叱られながら、まほさんからネズミ取りについての簡単な説明を受ける。
なるほど、要は交通取り締まりの俗称なのね。

「まあ、予め知ることが出来たのは良かった」
「知らずに捕まる所だったわね。もう天丼は懲り懲りよ」

ボルシチもね。

それはそうと、お昼は何処にしましょうね。
帰りすがら、寄れる所がいいわね。

嫌味ったらしく大盛天丼でも頼んでやろうかしら。

「CoCo弐がいい」
「カレーだって見たくもないわよ。小童寿司にしましょうよ」
「カチューシャ、新幹線が見たいのか」
「ち、違うわよ」
「あの、みん、な、ごめっ」

あら安斎さん、どうしたのかしら。

「あ、安斎、静かだとは思ってたがそういう事か。ダージリン、どこか近くに停められるか」

えっ、あっ、まさか。
嘘でしょ、ちょっと。

「んんっ、ぐ」
「安斎、堪えろ、もう少し辛抱しろ」
「窓開けなさいよ、窓」
「ご、ごめっ、え、」

カチューシャがピギャアアと叫ぶ。

『そこのライフ、停まってくださーい』

ああっ、あああーーっ。

【ダージリン編終了】

以上です
ここまでお付き合いありがとうございました

ネズミ取り?なんだいそれは
ボコな車とボルシチな車を見て止められたのさ…きっと(メソラシ)
乙でした


文章がうまい、地の文があるけどだるくならない

つまり……

いいぞ、もっと書け!

>>63
ありがとうございます
オチどうしようかなって悩んでたら捕まりまして…

>>64
ありがとうございます
次は何を書こうか、ぼんやりとした構想はあるんですがまだ決まってません

何か新しいものが書けたらまたお付き合いをお願いに参ります

シキソリストのミカ

>>66
ドゥエドゥエはしませんが、前半では木の枝を鞭っぽく使って熊倒してますね…

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