生物災害~発生~ (9)
『先日、原発事故によって多くの市民が犠牲となったアメリカの都市、ラクーンシティに関するとんでもない映像が当局のアメリカ支部に送られてきました。撮影者はラクーンシティの記者である……』
『この映像に対し、アメリカの大手製薬会社アンブレラ社は次の様な声明を……』
『またもやあの映像に虚偽に関する証拠が提出されました。多くの市民が犠牲となった事件を利用した悪質なやらせ映像として、アンブレラ社は映像の製作者と思われるジル・バレンタイン容疑者とカルロス……』
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1511069314
日本のニュースでも一時期話題になった、アメリカ、ラクーンシティの『やらせ映像』。
内容は凄惨の一言で、とても現実のものとは思えなかった。
当時はインターネットの掲示板でも様々な説や噂が飛び交っていたが、時間の流れと共に誰も話題にしなくなっていった。
そう、不自然な程に。
世界中に流れたであろうあの映像を気に留める者はもういない。
あの映像が、世界が崩壊する事を止められたかもしれないたった一筋の光であった事を、誰も想像する事はできなかった。
CH.1
発生(OUT BREAK)
相沢「なぁ……」
優里「……何?」ポチポチ
相沢「早く食べないと冷めるぞ?せっかくお前が好きなうどんが」
優里「別に好きじゃないし!!こんなダッサいもん誰が食べんのよ!!」
相沢「そう、か……悪いな、父さん最近の子が好きそうな店知らなくてさ」
優里「ウザっ!!父親面しないでくれる?『あ・い・ざ・わ・さん』!!」ガタッ!!
相沢「お、おい何処に行くんだ?」
優里「いちいちうっさいわね!!トイレよトイレ!!」
ショッピングモールのうどん屋で自分の目の前で最新機種のスマートフォンを弄りながらイライラしている少女は、自分の娘、優里である。
いや、娘だったと言うべきか。
若かった自分は18の頃に駆け落ち同然で当時16歳だった彼女と結婚。
彼女は地元の。いや、県でも有数の名家のお嬢様だった。
親に自分との交際を認められず、その結果駆け落ち。
遠く離れた田舎町で、自分は工場に勤めながら彼女と幸せな日々を暮らしていた。
一年後、優里を産んだ彼女はそのまま帰らぬ人に。
特別体が弱かった訳ではない。ないがやはり、出産とはそれほどの危険を伴うのだと、その時嫌という程思い知った。
好きな人と一緒ならどんな事も全て上手くいく。
そんな幻想はたった一年で砕け散ってしまった。
残されたのは娘の優里。この子だけは死んでも守るとこの時誓った。
しかし、娘は彼女の家に引き取られた。
そして自分は彼女とまだ籍を入れていない。
彼女の家はあらゆる法律を利用し、自分は娘の父親として認めてもらうことができなかった。
それでも土下座し続けて、年に1回だけ優里に会う事が許された。
あれから13年。
優里は中学生に。年頃の女の子になっていた。
相沢「はぁ……やっぱ父親面する資格なんて俺にはないのかな……」
優里「はぁ……何でおばあちゃんも毎年あの人に会わせようとするんだか……おじいちゃんは毎回反対してるっていうのに」
物心ついた時から、私にはお父さんもお母さんもいなかった。
いたのはおじいちゃんとおばあちゃん。それとおじいちゃん達の息子のおじさんとお手伝いの人。
皆優しくしてくれた。おじさんも私が妹に似ていると優しくしてくれた。お母さんの事だろう。
あの人に初めて会ったのは7歳の誕生日。
おばあちゃんがあの人がお父さんだと教えてくれた。
おじいちゃんはずっと怒った顔をしていた。
それからあの人は1年に1回私と会っている。
私は正直、どう接したらいいかわからなかった。
ただ、この初めて会った時にこのショッピングモールであの人と一緒に食べたうどんは、とても美味しかった事を覚えている。
とても温かく、とても美味しかった。
優里「……今更お父さんだなんて思えるわけないじゃん……」
ピローン♪
不意に携帯に通知が届く。
Y○hooのニュース速報だ。
『~で、暴動発生。この数時間で各地でも同様の事件が多発。同時多発テロか?』
優里「はぁ……物騒だから今日はもう帰るって事にしよっかな……」
父親との付き合い方がわからない、向こうも娘との付き合い方がわからないだろう。
無理に会わせる事も無い。
自分は自分、あの人はあの人。
それぞれの道を歩いていった方がお互いにとってもいいと思う。
少なくとも自分はあの人に対して父親という感情を持つ事はないのだろうだから。
投下終了です。
映画バイオハザード2の終わりから、日本に感染が拡大していくところをアウトブレイク風にゆっくりと進めていく感じです。
ゲームの敵は出てきても恐らく主人公側のキャラは出ません。
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