梨沙「もっちゃもっちゃ」
P「どうしたんだ梨沙。口いっぱいにガムを入れて」
梨沙「もっちゃもちゃちゃ」
P「なに言ってるのかわからない」
梨沙「………」←ちょっと待ちなさい、のハンドサイン
P「うん」
梨沙「………」モキュモキュ
梨沙「よし、これでしゃべれるわ」
P「ガムの処理が終わったみたいだ」
梨沙「噛むのに疲れた」
P「それはそうだろうね。あれだけの量を口に入れていたんだから」
梨沙「でもこれは必要なことなのよ」
P「必要? 何に」
梨沙「決まってるでしょ! パパとキスする準備よ」
P「何がどう決まってるのかわからないけど、そうなのか」
梨沙「もうすぐアタシの誕生日でしょ? 今年はちょうど日曜日だし、パパが一日デートしてくれるって約束してるの! 買い物して、映画を観て、いろんなところをまわって」
梨沙「そしてデートといえば、別れ際に愛のキスをするのが定番! 今からちゃーんとブレスケアをしておかないと」
P「でも梨沙とお父さんの場合、帰る家が同じだから『別れ際』は存在しないんじゃないか?」
梨沙「………」
梨沙「これは由々しき事態ね……!!」
P「今気づいたのか」
梨沙「どうしよう。じゃあその日だけアタシは晴の家か女子寮の誰かの部屋に泊まることにして……でもでも、そうすると誕生日の夜にパパと一緒に眠れなくなっちゃうし……」
P「はは、悩んでるなぁ」
梨沙「トーゼンでしょ! プロデューサーは恋人いないからわからないかもしれないけど」
P「グサッとくる一言だ」
梨沙「アタシがこの事務所に来てから今まで、ずっといないわよね。そういう人」
P「まあ、今はプロデューサーとしての仕事がたくさんあるからね。恋人うんぬんより、梨沙達のほうが大切っていうのもある」
梨沙「プロデューサー……」
梨沙「仕事を言い訳にしてると、いろいろタイミングを逃すってこの前読んだ雑誌に書いてあったわよ」
P「普段どんな雑誌を読んでるのか気になるな……」
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梨沙「でも、そっか。もうすぐ誕生日が来るってことは……そろそろ、ここに来てから一年経つことになるのよね」
P「そうだね。梨沙がここに押しかけてきたのが、ちょうど12歳になりたてのころだったから」
梨沙「押しかけてきたってなによー。アイドルの金の卵が自分から来てあげたっていうのに」
P「ははは……確かに、掘り出し物だったのは事実かな。文句は多かったけど、センスもあったから」
梨沙「そうそう♪ ダンスはキレキレで、ビジュアルはファンを虜にしちゃうくらいで、歌は………まあ、成長中だし?」
P「はじめの頃はなかなか声が出なかったよな。普段はすごく大きな声が出ているのに」
梨沙「それ、アタシがうるさいってこと?」
P「元気ってこと」
梨沙「じゃあ許す」
P「けど、今は歌声もかなり張りが出てきて、ライブの音響や歓声に負けないくらいになった。毎日レッスンを頑張ってくれたおかげだ」
梨沙「まあね! でも、まだまだうまくなれるわ! アイドルリサは成長途中なんだから」
P「頼もしいよ」
梨沙「ふふん♪」
P「しかし、一年か。そうか……時間が経つのは早いな」
P「いつの間にか、中学の制服を着た梨沙の姿も見慣れたものになった」
梨沙「中学にあがってもう半年以上になるのよね。セーラー服って、かわいいけどやっぱりちょっと窮屈よね」
P「梨沙は結構着崩してないか?」
梨沙「これでもまだ足りないくらいよ。肩とか出したいし」
P「この時期に肩出しは寒いだろう」
梨沙「寒いわよ? でもいつも言ってるでしょ?」
P「オシャレには我慢が必要」
梨沙「そ♪」
P「はは……まあ、ファッションにこだわりがあるのはいいことだ。体調管理にさえ気をつけてくれれば、俺は何も言わないよ」
梨沙「身体を冷やして風邪ひくなってことでしょ? もちろんわかってるわよ。最近はちゃんと、身体を温める方法とかいろいろ教えてもらってるんだから」
P「へえ。誰に?」
梨沙「ハートさん」
P「ああ、なるほど。あの人も季節を問わずに肌を露出していくスタイルか」
梨沙「『若さに頼っていられる時代はとうの昔に終わっちゃった~☆』って」
P「元気に言っていそうだけど、哀愁が漂うな」
梨沙「オシャレに本気なのは伝わってくるけどね。素直にすごいと思う」
梨沙「そういうところは、やっぱりオトナよね。あの人」
P「学校の勉強はどう? ついていけてる?」
梨沙「当たり前よ。テストの成績もいいからパパに褒めてもらえるし♪」
P「学業に響いてしまうと、俺としても親御さんに申し訳ないからなぁ。よかったよかった」
梨沙「次の期末テストもいい感じだったら、パパにぬいぐるみを買ってもらえるのよ。だから頑張るわ!」
P「うん」
梨沙「………じー」
P「……なに?」
梨沙「プロデューサーは、なにもご褒美くれないのかしらー。もしなにか用意してくれるなら、もっともっと勉強頑張れるんだけどー」チラッチラッ
P「………」
P「駅前に新しくできたケーキ屋のケーキ」
梨沙「やたっ♪」
P「ちゃっかりしてるなあ」
梨沙「欲張りなのもいいオンナのヒケツよ」
P「まあ、ケーキで学業とアイドルを両立してくれるなら安いものか」
梨沙「プロデューサーの懐が寂しくならない程度におねだりしてるつもりだから、安心していいわよ」
P「満面の笑顔で言われても反応に困るなぁ」
梨沙「昔はそのへん考えてなかったから、アタシも日々成長してるってことよ」
P「確かに、昔オーストラリアに行ったときは俺の財布で勝手に買い物するくらいだったもんな」
梨沙「あれは……うん。ごめんなさい」
P「飛鳥が早めに気づいて俺に伝えてくれたからよかったけど、あのままだと財布が空になっていたかも」
梨沙「さすがにそこまでは使わないわよ。いくら去年のアタシでもね」
P「冗談だよ」
梨沙「もう……ああ、そういえば。飛鳥だけどさ」
P「飛鳥がどうかした?」
梨沙「最近、前にもまして屋上にいる時間が増えてる気がするんだけど」
P「受験が近づいているからな……ひとりで考えたいこともたくさんあるんだろう」
梨沙「あー、そっか。もう中三だもんね、飛鳥は」
P「今は、そっとしておいてあげよう」
梨沙「飛鳥のこと、心配?」
P「そりゃあ、心配なのは心配だよ。でも、信頼もしている」
P「必要なときには、相談してくれると思っているよ」
梨沙「ふーん……そっか。通じ合ってるってカンジ?」
P「俺は梨沙にもそういう心構えでプロデュースしているよ」
梨沙「なっ……調子に乗りすぎ! アタシはべつにアンタと通じ合ってるつもりはないわよっ」
P「はは、ごめんごめん」
梨沙「……まあ、頼りにはしてるけどね」
梨沙「とにかく! 飛鳥に関しては、アタシもまだ大丈夫だと思ってるわ」
P「そうなのか」
梨沙「さっきなんとなく屋上に行ったら飛鳥がいたんだけど。アタシが隣に行ったら、あの子なんて言ったと思う?」
P「うーん……なんだろう。『コーヒー飲むかい』とか?」
梨沙「ぶー、ハズレ!」
梨沙「正解は『梨沙。最近、何か欲しいものはあるかい』でした」
P「飛鳥の真似上手だな」
梨沙「でしょ~」
P「しかし、隠す気があるのかどうかわからないくらい直球な質問だな」
梨沙「そうよね。でも、アタシへの誕生日プレゼントで悩むくらいの余裕はあるってことでしょ、これ」
P「なるほど。だから、まだ大丈夫って言えるわけか」
梨沙「そういうこと」
P「ちなみに、何が欲しいって答えたんだ?」
梨沙「ブランド物のバッグ」
P「飛鳥の返答は?」
梨沙「『……コーヒー、飲むかい』」
P「結局言ってるじゃないか」
梨沙「ちなみに、プロデューサーはアタシの誕生日プレゼント用意してるの?」
P「もちろん」
梨沙「中身は?」
P「当日のお楽しみ」
梨沙「むー……そう言われると強く迫れないわね。アタシも友達にあげるプレゼントは基本サプライズにするし」
P「そうだ。梨沙、俺にもひとつだけガムもらえないかな」
梨沙「え? 別に、いっぱいあるからいいけど……はっ! まさかアンタ、アタシとのキスを狙って」
P「違う違う! 普通にガムが欲しいだけ」
梨沙「なんだ……アタシもますます魅力的に成長してるし、いよいよヘンタイの本気を見せるつもりなのかと思ったわ」
P「俺はヘンタイじゃなくて紳士なほうだと思うけど……」
梨沙「本当に? じゃあ、アタシのセクシーな誘惑に耐えきれるかしら? ほら、オトナっぽい雅な流し目~」
P「そういう表情作るのも上手になったな。演技の仕事も幅が広がりそうだ」
梨沙「む。誘惑されないわね」
P「どうだ、強いだろう」
梨沙「やっぱりロリコンだから子供っぽいほうがいいのかしら」
P「違う違う。俺は普通に大人が好き」
梨沙「ふーん」
梨沙「ねえ、プロデューサー」
P「ん?」
梨沙「アタシ……この一年で、オトナっぽくなった? パパの相手にふさわしいオトナに近づけたと思う?」
P「……そうだな。たくさんのお仕事やレッスンを通して、梨沙はたくさんの可能性を見せてくれた。セクシー系はもちろん、動物とのふれあいや、怪盗役としての演技、フリフリのロリータファッション、そしてクールでかっこいい系の衣装もバッチリ着こなした。経験を積んで、能力を伸ばしてくれた」
P「それは、間違いなく立派な大人に近づいたと言えることだと思う。この前も、黒の衣装を着てセクシー路線をさらに開拓してくれたしね」
梨沙「………そっか♪」
P「うれしそうだね」
梨沙「アイドルとしてのアタシを一番知っているのは、プロデューサーだから。パパでも知らないアタシを知っているアンタだから……褒めてもらえると、うれしいの」
P「……そうか。それは俺もうれしい」
梨沙「もちろん、パパに褒めてもらえるのが一番だけどね! パパはアンタの知らないアタシをたーくさん知ってるんだから!」
P「そりゃそうだ」
梨沙「でも、特別に肩揉んであげる!」
P「ありがとう」
梨沙「パパの疲れを癒すために鍛えたマッサージのテクニック、ちょっとだけ見せてあげる♪」
梨沙「プロデューサー」
P「なに?」
梨沙「プロデューサーは、ずーっとヘンタイのロリコンのままでいなさいよね」
梨沙「アタシはそのうち子供じゃなくなって、ロリコンプロデューサーの好みの見た目じゃなくなるだろうけど……」
梨沙「その時には、アタシ自身の魅力だけでアンタをメロメロにしちゃうんだから!」
P「………うん。楽しみにしているよ、梨沙の成長を」
梨沙「ふふっ。トーゼンよ、アンタはアタシのプロデューサーなんだから」
梨沙「トーゼンだけど………ありがと」
P「ああ、そうだ。気持ちよく肩を揉んでもらっているついでに、次の仕事のことを少しだけ話しておこう」
梨沙「お仕事? へえー、次はどんなことをやるの?」
P「『ナマイキなロリっ娘に罵られて夜も眠れないCD』の収録」
梨沙「やっぱりアンタキモいヘンタイのロリコンね」ジトーー
P「誤解だ」
おしまい
おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
梨沙誕生日おめでとう。セーラー服着てるところも見てみたい
シリーズ前作:的場梨沙「オトナの女は黒で決めるの!」
などもよろしくお願いします
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