大石泉の少しだけ色々あった日 (14)


※キャラ崩れ注意。



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 大石泉は聡明な少女だ。年齢の割に、という枕詞は必要ではないし、大人顔負けに賢い。貴女は天才です、と言われると恐らくはそんなことはないと否定をするのだろうが、間違いなく大石泉という少女は、天才に分類されるだろう。
 なので、クールにどんな状況だって乗り切れる。だって天才なのだから。

 ──さくらとありすちゃんが両隣りで牽制しあっているこの謎の状況を乗り切れたら、私は天才かもしれない。

 普段ならば天才なんかではないと謙遜をするであろう彼女をして、乗り越えることができればきっと私は天才に違いない、と自認するような状況だった。
 泉の左腕にぎゅっと抱き付いて、ありすに睨みきれていないのでまったく怖くない目線を送るさくらと、それに対抗するまでもなく当然ですと言わんばかりに泉の右側にそっと、しかし確実に密着をして寄り添うありす。

 ……いや本当、なにこの状況?


 泉はわけもわからず、頭の中では疑問符が大量に浮かんでいた。
 いや、けっして本気でわけがわからないわけではない──というか、こうなった原因自体は知っている。何故なら経過があって、現在となっているわけで、その経過を体験してきているからだ。
 さて、現状を整理するべく、実際にあった出来事を思い出すことにしよう。

 ほわほわいずいずみみ~ん。

 …………いや、この頭の悪い導入は無しで。
 静かに頬を赤らめる泉だった。




『今日はイズミンの誕生日、プレゼントはわたしだよぉ♪』

『は? かわいい(もう、さくらはまた何を変な冗談を言ってるの)』

『いずみ、逆なっとる』

『えへへぇ、アコちゃん、アコちゃん、イズミンがかわいいだってぇ♪』

『あーはいはい、さくらはかわいいなー。それより、渡すもんあるやろ?』

『そうでしたぁ! イズミン、イズミン。プレゼントがあるんだぁ』

『プレゼントはさくらでしょ?』

『違うわ、ちょっとは煩悩を隠そ?』

『えへへぇ、それはそれでいいと思うけど今日は違いまぁす!』

『いいんかい』

『ちょっと待ってください、横から失礼します。さくらさんよりも私のほうがプレゼントとしてもらって有用だと思います』

『どこから現れてんありすちゃん!?』

『むぅ、ありすちゃん、どういうことかなぁ?』

『さくらさんは、なるほど確かに可愛らしいでしょう。子犬を彷彿させる人懐こさ、嬉しそうに尻尾を振っているのが見えてしまいそうです。……しかし、可愛いだけではプレゼント足り得ません。その点、私であれば泉さんに余りあるメリットを提供することができます!』

『ありすちゃんはどうしてこうなったん?』


 確か、こんな感じだったはずだ。この後さらに、さくらとありすは如何に自分が泉に相応しいか意見をぶつけ合っていった結果、いつまでも続きそうだったので面倒くさくなった亜子により、

『もうそれなら二人ともプレゼントってことでええやろ……悪いけど、仕事があるから先行くな』

 という、極めて平和的な解決方法に導かれたのだった。ぶっちゃけ丸投げだ。
 誕生日に女の子二人をもらうなんて、聞く人が聞けば大変羨ましいことかもしれない。プロデューサーあたりが話を聞いていれば泣きながら変わって欲しいと嘆願されることは目に浮かぶようだ。

 なんちゃって、それは冗談だ。

 プロデューサーがすごいすけべだと言っても、そんなことをする人ではないと知っている。むっつりだもんね、と自分の胸元についつい視線を行かせてしまっては髪の毛をかきむしって炭酸水を飲んでむせる人の姿を思い出して笑う。
 そんな泉の笑顔を見て、さくらとありすは同時にはてなマークを頭の上に浮かべるが、真相は泉のみが知る。


 それはともかく、二人をどうしたものだろう、と思考を巡らせる。主に、二人のその場の勢いのまま飛んでしまった思考回路について。勢いとは恐ろしい。

 そもそもさくらは本来のプレゼントを持ってきていたのだろうし、ありすにしても、ポシェットからはみ出ている、可愛らしいリボンをあしらった小さな包み紙を見るに、ありがたいことに何かしら用意してきてくれているのだろう。
 本来の目的(とても嬉しいものだ)を忘れてしまっている二人をどうにか起動修正させるべきなのだろうけど。
 しかし、さて。

(もう少しだけ、このままでもいいかなぁ。なんて思ってたりするのよね)

 戸惑いがないわけではないが、しかしこの状況が困る訳ではないし、懐かれること自体は、けっして悪い気持ちではない。向けられた好意的な感情に対して、どうしたって否定的にはなれない。
 まして大切な友人や、可愛く思っている年下の少女の好意であれば尚更だ。
 まだまだ時間も余裕があるし。

(だから、うん。ちょっとだけ、このままでもいいかな?)

 もう少しだけ、この幸せを堪能することにしよう。


   ☆


「あはは、泉たちはずいぶんと楽しそうなことをしていたんだな」

 事務所から現場へと向かう車中で、なんとなく今日のことを喋ってみると、プロデューサーはおかしそうに笑った。
 楽しそうか。確かに、と泉は思う。少しあたふたしてしまったところもあったけれど、あの時間はけっして不快なものではなくて、楽しいものだった。

「ん、まあ楽しかったよ。さくらはだんだんなんで怒ってたのか忘れてるし、ありすちゃんは我に帰って真っ赤になるし、少し面白かったかも」

「年下に懐かれてあたふたしている泉を見たかったよ」

「なにそれ、趣味が悪いよ」

「だってさ、普段クールな泉の慌てている姿なんて珍しいじゃないか」

「やっぱりプロデューサーって変態」

「変態って、ひどいな。色々な姿の泉を見たいと思うのは普通のことだよ」

「からかわないでよ、もう……」


 唐突に恥ずかしいことを、恥ずかしげなく言えるのがこの人の悪いところだ。
 心臓がいくつあっても足りやしない。
 頬を薄い赤色に染めて、泉は窓に視線を逸らした。流れる街並みはいつも通りに過ぎているのに、窓に反射する自分の顔はわかりやすいくらいにやけていて、窓越しに見えた自分の表情を誤魔化すように、泉はぶんぶんとかぶりを振った。
 自分の顔がそんなことになっているなんて彼に気が付かれなかっただろうか、なんて思った。車を運転するという性質上、脇見をしているとは考えがたいので大丈夫だとは思うけど、気になってしまう。乙女心とはそういうものである。

 気恥ずかしくなって、無言で外を見つめ続ける。相変わらず反射する顔はどこか赤さを感じさせるが、先ほどよりはさすがに幾分かマシになっていた。


 街のスーパーに張り出してある広告の紙がふと目に入った。棒状のサクサクとしたチョコレートのお菓子、プッキーは有名であるが、特に一が四つ並ぶ今日は、有名お菓子の日だとも言われており、その宣伝であるようだった。
 ふと、そのお菓子に準えたゲームを思い出す。……とはいっても、普段の日常であれば高校生の悪ふざけ、或いは大学生の合コンぐらいでしか見掛けないようなものだけど、そんなものが今日に限って言えば仲の良いもの同士では軽いノリで行われてしまう。
 そう、とても軽いノリで。

 ………………………………………。


 そう、これは特に深い意味はない、軽いノリの話だ。仲の良いもの同士が、遊びとして行うこと。そういうことだ。
 ありすやさくらだって、甘えてくっついてきたのだ。そのくらいのスキンシップと、大差ないレベルのものでしかないし、だから何も問題はない。
 ……そう考えると、二人の今日の行動には感謝できるのかも。
 こんなことは些細なこと、そう思わせてくれるのだから──なんて、ずるい口実を思い付いて、少し自己嫌悪して。だけど自分に、ほんのちょっとだけ素直になってみて。
 言ってみる。

「えっと、プロデューサー。誕生日プレゼント、もしもまだ何も用意していないなら、その、プッキーでも大丈夫だよ」


 ─────────。
 泉の言葉を聞いて少し悩んでから、プロデューサーは曖昧な笑顔で、

「ああ、美味いよな、プッキー」

 と、それだけをなんとか返した。
 カバンに入れたプレゼントは、さて出すべきかどうか──何故だかとてもプッキーに期待していそうな泉の目を見て、現場へ到着するまで考えていた。



    ☆


「イズミン、イズミン! そのマフラーすっごく可愛いねぇ」

「さくらが一番可愛いよ」

「えへへぇ、アコちゃん、イズミンが可愛いだってぇ♪」

「あーはいはい、可愛い可愛い。こないだもこんなことしたなぁ」

「さくらは可愛いからね」

「まあ、確かにさくらは可愛いけど。ところでいずみ、そのマフラー見たことないけどどうしたん? 買った?」

「ん、そんなところ」

「へえ、似合ってていいと思うで。普段胸を開けてるいずみが、それも屋内でまでマフラー巻いてるなんて珍しいし」

「ありがとう、亜子」

「っと、マフラーになんかついてるで。粉っぽい……お菓子の食べかす?」

「あ、こないだつけたままプッキーを食べたから、その時にかな」

「いずみ、意外とそういう抜けてるところあるなぁ」

「ふふっ、今度から気を付けるよ」






おわり

当SSに登場する架空のお菓子プッキーは某社のお菓子とは一切関係ありません。

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