怯えたとび色の瞳が部屋の隅から俺を見る。
遮光カーテンの隙間から潜り込んだ日光に照らされたブロンドヘアは
かつては収穫前の小麦畑を彷彿とさせる輝きをもっていたが、
手入れを怠ってすっかりくすんでしまっていた。
(腹が減ったな……)
腹が減ったので冷蔵庫の中を確認しようと立ち上がると、
女の子が反射的にびくりと体を震わせた。
寝食を共にしはじめてから早一ヶ月。
そろそろ俺のいる生活に馴染んできてもらいたいのだが、
日に日に深みが増す関係というのは創作という枠内に限った話しらしい。
ある意味でこれも強情のうちに入るのではないか、と考えながら
一番上の棚で冷やしていたチーズを手に取る。
女の子供は予想以上に食が細いので、育てている俺はそれだけで心配事が増える。
無理して胃に詰め込めたくなるが、それで吐かれてしまったら
掃除の手間が余計に生まれてしまうだけでなにもいいことはない。
6ピースのうちの1つを取り出し、そのまま与えようとして手を止めた。
俺の無愛想に恐怖をしていたならば、中途半端な親切心は仇になる。
銀紙を剥いて出てきた乳白色を小皿に乗せる。
そして食べやすくなるように上から同色のジェルをかけてやる。
ここまで手間をかけて、ようやく親切が視認できるようになった。
「これで食えるだろ?」
それを女児の目の前に置いてやると、
唇を噛み締めて双眸から涙を流した。
食べ物を渡しただけで泣かれるのは気分が悪い。
感謝を言葉で表すのが不得手な子は、
ときにそういう風にして表現するとは聞くが、
俺にはそのよさがいまいち理解できなかった。
緊張させないように俺は女児から距離を置いて読みかけの本を開く。
ときおりに聞こえてくる嗚咽を耳にしながらページを進めていると、
「ごちそうさまでした」
完食の合図は蚊が鳴いたかと誤解してしまう程の小声だった。
「美味しかったか?」
「ご、ご主人……さまの子種ごはん……とてもおいしか、んんっ」
女児の口元に付着していたほんの僅かな白濁の汁を指で掬い、咥内にねじ込む。
食べ残しは許さないので、頬壁や舌の裏、歯茎を指でなぞり
最後に舌の上に飲み込めなかった小さな欠片を乗せてそれを飲み込ませた。
それでようやくに全てを食べ終えた女児にご褒美として頭を撫でてやると、
これにもまたうれし泣きをするのだった。
しきりに嗚咽をあげて泣いてしまうのは幼さのせいだ。
些細な気遣いにも感謝の言葉を口にできるように俺が大切に育てる必要がある。
親と離れて長いこの子を正しく躾けられるのは、
他の誰でもなく俺だけにしかできないことなのだ。
書き溜め疲れたからゆっくりやる
女の子虐めるとか良心の呵責に苛まれて夜は眠れないわ
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