櫻井桃華とラーメンを食べに行くだけ (23)

処女作です。短いですが、よしなに。

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ラーメンとは。



目前に置かれたその瞬間、美味なる匂いがただよい、スープをひとさじ口に含めば食欲を滾らせ、麺をすすれば味らいを愉しませる。

海苔にスープを含ませ、麺と頂いてもよし、ほうれん草を噛み、楽しむもよし、チャーシューをご馳走してもよし。

極めつけは半熟玉子。噛めば最後、スープが染み付いた白身と、とろけるような黄身が交わって、広がり、至高の時間をもたらす。

ラーメンは地上に降り立った天からの贈りものと言っても過言ではないだろう。

なのだが――



「食べたことありませんわ」

「嘘だろ!?」

この、上流階級のお嬢様は口にしたことがないとのたまう。信じられん。

「この櫻井桃華、人に嘘はつきませんのよ?」

嘘じゃないらしい。


「えぇ~~~~っ……きみ人生の半分ぐらい損してる自覚はあるかい?」

「いいえ。わたくし、今の生活はとっても充実してますわ! だって、Pちゃまとアイドルをする日々がとっても楽しいですもの!」

なんと眩しきことか、担当アイドル。だが、その輝きは本物ではないと断言しよう。

なぜなら、ラーメンを食べたことがないからである!


「よしわかった。今日の昼空いてるか?」


――
――――


\イラッシャーセー/


「すんなり入れましたわね」

早めの時間に来た。よく通っている店だから、すぐ入れる時間を熟知している。

ここの店は、あっさりとした味のしょうゆラーメンが売りだ。好きなのも、あっさり派だ。

「それで、席に着きませんの?」

「まだだよ。券買ってから」

「券が必要なんですの? メニューとかは……」

「あー、そうだね、ラーメン屋さんとかは券売機のお店は多いかも」

「へぇ……わたくし、またひとつ学びましたわ」


「えと……桃華は普通のラーメンでいいか?」

「そうですわね、まずは基本から」

適当に紙幣を入れると、桃華が興味深そうに見ているのに気づいた。

【しょうゆラーメン】の券が出てくると、会得したような顔をし、次の動作を待ち構えていた。


「やってみる?」

「あっ、ぜひ! Pちゃまは何をお召しになって?」

「俺はしょうゆラーメンと半熟玉子の追加で」

「あら? Pちゃまは半熟玉子を加えるのかしら?」

「まあね。ラーメンと一緒に食べる半熟玉子は格別なんだ」

「じゃあ……わたくしも!」

そういって桃華は、ややぎこちない操作だが、【しょうゆラーメン】を一枚、【半熟玉子】を二枚買った。

買うたびに、彼女は満足げな表情を浮かべた。

俺達は店員さんに券を渡して、テーブル席に着いた。店内にはラーメンの香りが立ち込める。

「水取ってくる」

「あら? セルフサービスですのね」

コップ二人分に水を注ぎ、席に戻る。

「セルフサービスは知ってるんだ?」

「ええ。前にセルフサービスのお店に行ったことが。バイキングかしら?」

「あぁなるほど」


「どんなお味なのかしら……?」

桃華は、わくわくしているのか、少し落ち着かない様子を見せた。

「もし桃華が食べられなかったら、桃華の分も俺が食べるよ」

「あら、それは安心ですけれど、Pちゃまは大丈夫なのかしら?」

「大丈夫! なんてったって俺は桃華のプロデューサーだからな!」

「ふふっ、それは理由にはならないのではなくて?」

出任せの強がりが指摘され、少し照れくさい。が、桃華はそれ以上追及しなかった。




程なくして、やってきた。至高の食物が。

「はい、お箸」

「ありがとうございます」


「「いただきます!」」

まずはスープを掬い、頂く。程よくしょうゆの染み込んだスープが利いている。香る湯気が鼻孔を通り、幸福をもたらした。

桃華のほうに目をやると、俺と同じようにスープを嗜んでいた。割りとあっさりめなお店だから、桃華の口にも合うはず……



「まぁ! フカヒレスープのようなお味ですのね! 美味しいです!」


よかった……うっかり口に合わなければどうしようかと内心不安だったが、やはりラーメンは凄い。

それにしてもフカヒレスープか。それも凄いな。

「ではこのまま麺も……」

桃華は、麺を箸で掴み、可愛らしい口でふーふーしてからすすった。

「……! おいしい! やはり、スープが美味しいと麺も美味しくなりますわ! するする~っとお口に幸せが……♪」

綺麗な目が輝き始めた。頬に手を当てうっとりしている。

「お次は、お肉! ……うふっ、おいしい!」

「次は……おそろいの玉子! ……う~んおいひい!」

見てるこっちまで幸せになる。今こうして、桃華は真の輝きを得たのだ。


「スープが染み込んだ白身のさきに、黄身がとろけて……ハーモニーを奏でますわ♪」

「あ~桃華もわかるか~……!」

「うふっ、当然でしてよ? アナタの担当アイドルですもの」

さっきの出任せがそのままそっくり返されて、思わずむせそうになる。

「そっ、それは関係ないんじゃないか?」

「ふふっ、そうかしら? 実は、Pちゃまが食べているものと同じものを後でこっそり買って頂くこともあるんですのよ?」

「えっ、それって、もしかしてコンビニの唐揚げ一個分けたときからか?」

「ええ、そうですわ」

「マジか……桃華の前で食べるものには気をつけよう」

「あら、心配は不要ですわ。いつも美味しく頂いてますから♪」


――
――――


\アリヤトーゴザイアシター!/


「いや~美味しかった!」

「ええ、ご馳走でしたわね!」

「それにしても、いつにもまして饒舌だったな」

いつもならマナーを優先して大人しく食べるのが桃華の流儀だ。

「あら、はしたなかったかしら? うふっ、Pちゃまとだから、いいのです」

ここまで気の置けない間柄になれたことが、いちプロデューサーとして嬉しい。

「……そっか!」

「それに、ラーメンも、わたくしの想像以上でしたし! Pちゃま、また連れてってくれるかしら?」

「おっ、ハマったか! よっしゃ行こう! そのためにもまずは次のライブを成功させないとな!」

「当然ですわ。この櫻井桃華にお任せなさい!」

おしまいです!読んでくださった方、ありがとうございました!
櫻井桃華がかわいい。

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