果南「風邪っぴきの報酬」 (23)


果南「ダイヤ…風邪引いた」

ダイヤ「……」


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ダイヤ「……なんで私に?」


果南「先生にかけたけど繋がらなくて…お願い…言っておいて…」


ダイヤ「親御さんは…?」


果南「今ちょうど家空けてる……」


ダイヤ「…分かりました、伝えておきますわ」


果南「…ありがとう、ダイヤ」

果南「はぁっ……」



携帯電話を近くのクッションへと投げつける


仮病でもなんでもなく、正真正銘の風邪


普段ならなんでもないありふれた病気でも、身寄りがいないと連絡さえ一苦労だ


ダイヤには申し訳ないけど、彼女にさえ伝えておけばきっと然るべき所に連絡を回してくれるだろう



とにかく、今はこの熱と気だるさをなんとかしてしまいたい

そんな…熱に当てられてぼんやりした頭のまま布団に潜り、私は意識を落とした

ガタガタ、ガタガタ



立て付けの悪い扉をこじ開ける音で私は目を覚ました


自室入り口に現れた黒い人影を寝ぼけ眼が捉え、一瞬緊張し…身構える


けれど、それがいつも見慣れた艶がかった黒髪であることがハッキリと分かり…私は安堵した




果南「ダイヤ……」

ダイヤ「……離島だからって鍵をしておかないのは無用心ですわよ」


果南「あはは…ちょっとそこまで気力がなくて……」


ダイヤ「起き上がらなくていいです…病人なら寝ておきなさい」


果南「今起きた所だから…寝られないよ、…ダイヤが来てくれてよかった」


ダイヤ「……親御さんは暫く家を?」


果南「うん、今ちょっとね…よりによってのタイミングで風邪引いちゃった…へへ…」


ダイヤ「体の調子はどうですの…?」


果南「体の節々が痛いのと…熱が少しあるくらいかな…」


ダイヤ「そうですか…」


果南「咳とかくしゃみが無くて良かったよ…あれ、体力持ってかれて嫌なんだよね…」


ダイヤ「おでこ冷やすタオル用意しましょうか…?」


果南「うーん……寝たら微熱くらいにはなったから、大丈夫だよ」

ダイヤ「……わかりましたわ」


ダイヤ「ご飯は大丈夫なんですか?」


果南「ポカリスエットとカロリーメイト」


ダイヤ「…あまり大丈夫じゃなさそうですが」


果南「あはは……どうしてもね……」


ダイヤ「………何か作って行きましょうか」


果南「そこまでして貰うのは…悪いよ」


ダイヤ「ちゃんとしたもの食べないと…治るものも治りませんわ」


果南「……」


ダイヤ「…台所、お借りしますわ」


果南「…うん」

果南「鞠莉は?」


ダイヤ「飛び出して来そうなのを理事長室に縛り付けておきましたわ」カチャカチャ



果南「あはは…なにそれ」


ダイヤ「千歌さん達も行くと言ってましたが…何人も来られても迷惑でしょう…?」トントン


果南「…そんなことないよ」


ダイヤ「ま、部内で流行ったら目も当てられないので…私だけ来た次第です」


果南「……そっか」

果南「何作ってるの?」


ダイヤ「山菜のお浸しですわ」


果南「あぁ…そういえばまだ残ってたっけ…」


ダイヤ「…苦いの嫌いでしたっけ?」


果南「うーん…そんなに好き好んで食べないというか…なんというか…」


ダイヤ「あく抜きすればマシになると思うので…挑戦なさいな」


果南「…はーい」

ダイヤ「とりあえず…消化に良さそうなもの作って冷蔵庫に入れておきました」


果南「うん、ありがと」


ダイヤ「そんなに日持ちするものでないですから、早めに食べてしまいなさい」


果南「ダイヤ…料理上手だよね?」


ダイヤ「特に変わったものは作れません…普通のものを普通に作れるだけです」


果南「ふーん……?」

果南「なんだか、懐かしいよ」


ダイヤ「……?」


果南「私が風邪を引いた時…大体鞠莉が騒いで看病するって聞かなくて」


果南「そんな鞠莉をひっぺがして、プリン一個置いてダイヤは出て行くの…覚えてる?」



ダイヤ「…………」

果南「鞠莉の心配はもちろん嬉しいけどうつしちゃうか心配だし…ちょっぴり、疲れちゃうから…」



ダイヤ「……」


果南「なんだろ……心配性の母親を嗜める父親の気持ち…?」


ダイヤ「……こんな大きくて可愛げのない娘を持った覚えはありません」


果南「あはは、だろうね」

果南「だからね…ダイヤの心遣いが嬉しかった」


ダイヤ「……いくら褒めても」






コトッ






ダイヤ「プリンしか出ませんわよ」


果南「ふふっ…流石ダイヤ…!」

ダイヤ「さて…」


果南「…?」


ダイヤ「安否も確認して…長居するのも何ですし、そろそろ帰りますわ」


果南「そう…?もっと居てくれてもいいんだよ」


ダイヤ「……いいからさっさと寝て治して学校に来なさい」


果南「あはは…流石ダイヤ、手厳しいや」

ダイヤ「また何かあったら今度は…鞠莉さんに電話なさいな、きっとすっ飛んできますわ」


果南「ふふっ……うん、そうするよ」


ダイヤ「プリンで食事を済ませずにちゃんと食後に食べるんですよ?」


果南「えー…今でもいいじゃん…折角のプリンなんだしさ」


ダイヤ「大体あなたは病人なんですから…ちゃんと栄養とりなさいな」


果南「はーい……」

ダイヤ「じゃあ、お大事に……また学校で会いましょう」


果南「うん、バイバイ…ダイヤ」
















果南「……はぁ」


再び、退屈な時間を一人持て余してベッドへと潜る

人一人去った後の部屋はほんのりと、空気が冷えて感じられる

携帯をふと見ると、みんなからのメールが届いていた


もう、たかが微熱だ


ぐっすり寝て、きっと明日の朝には学校に行ける


心配性なダイヤのことだ、大事をとって練習は休まされるだろうけど…それも明日まで


すぐに、みんなのいる…ダイヤや鞠莉のいる日常に戻れるはず


この胸を通る冷たい風も…きっと止むはずだ

果南「あ、そうだ…プリン、プリンっと」


ダイヤには食後に食べろって言われたけど……


やっぱり、どうも風邪引くと体が糖分を求めるんだよね









果南「うん…甘くておいしい…」








ポタッ

果南「……へ…?」



果南「あれ……私…泣いて……」



果南「なん……で………」




泣くなんて道理に合わない


悲しいことも、さして感動することも無かったのだから


でも、この胸をつく甘みに、心抱きとめられた私は


ほろりほろりと寝巻きに滲みを作ってしまう

全部、風邪っぴきのせいだ


体が弱ってるから、心細くなってしまうんだ


また明日、きっと元通り


私は残りのプリンを胃に収めると


空の容器を脇へと追いやり、目を背ける様に布団を被ってしまったのでした

おわり

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