【Aqours】果南のお話【怖い話】 (15)

・短編
・少しホラー要素あり
・作者及び友達の実体験が元なので怖くないかも

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果南「あれは、まだ私が中学3年生だった頃の話」

果南「その日、私は家の人におつかいを頼まれてさ。最寄りのスーパーまで買い物に出かけたんだ」

果南「天候は生憎の雨。海で濡れるのは嫌いじゃない私だけど、雨はやっぱり鬱陶しいからさ。当然だけど傘をさして出かけた」

果南「まだ日中...もう少しで夕方に差し掛かるかなって時間だったけど、雨のせいか人通りはほとんどなかった」

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果南「暫く海岸沿いを歩いていると、少し前の方に黄色い傘が見えた。背の高さから、多分男の人だなって思った」

果南「その人は立ち止まって、ただじーっとしてるだけ。雨の中で何してるんだろう、とは思ったけど何の気なしにその人の横を通り過ぎようとした時だった」

『すみません』

果南「そう話しかけられた。無視もできないし、その人の方を向いたけど、見かけは特におかしいところのない、少しくたびれた服を着てるだけのおじさんだった」

果南『なんですか?』

果南「そう尋ねた私に、おじさんはこう言ったんだ」

『タバコ、分けてくれませんか?』

果南『えっ? タバコ?』

果南「正直ちょっとおかしい人なのかなって思ったけど、もしかしたら私って不良に見えるのかな?なんて考えちゃって」

果南『タバコなんて持ってないです!』

果南「ってムッとして答えた。でも、おじさんは」

『そうですか』

果南「とだけ言って黙り込んで、やっぱり立ち尽くしたまま動かない。埒があかないから、私はスーパーに向かってまた歩き始めた」

果南「少しして振り返ってみたけど、そこには小さくまだ黄色い傘が見えた」

果南「スーパーに着いて、頼まれていた品物を買って、帰り道。当然同じ道を歩いて帰るわけだけど、前に見覚えがある黄色い傘が見える」

果南「あのおじさんだった」

果南「さすがにちょっと不気味だったね。スーパーで買い物をして帰ってくるまでに小一時間は掛かってたと思うし、その間ずっと同じ場所に立ってたのかなって」

果南「でもおじさんの近くを通らないと、家には帰れない。仕方なく、私はそのまま進んで、おじさんとすれ違おうとした」

『すみません』

果南「また話しかけられた。本当は立ち止まるつもりなんてなかったんだけど、恥ずかしい話、緊張で足が強張っちゃって、歩けなくなったんだ。そんな私に、おじさんはさらに言葉を重ねてくる」

『タバコ、分けてくれませんか?』

果南「さっきと全く同じ質問。もうね、泣き出しそうだった。...こら! 曜、笑うな! 私だって怖くて泣き出しそうになることもあるよ!」

果南「...ごめん、それで話の続きだけど。私はなんて答えようか迷った。実はね、私、その時はタバコ持ってたんだよ」

果南「別に行きから持ってたのに隠してたって訳じゃないよ? スーパーで家の人に頼まれてたタバコを買ったから、持ってたんだ」

果南「え? 中学生でなんでタバコが買えるのか?」

果南「まあ、あまり大きな声じゃ言えないけど、内浦は互いに顔見知りの人の方が多いし、おつかいってことなら売ってくれる店が多いんだ。梨子ちゃんの前に住んでた東京とかでは考えられないかもしれないけど」

果南「また話が横道にそれちゃったね。それで、私はタバコを持ってるし、得体の知れない相手だったから嘘をつくのも怖かったから」

果南『持ってますけど...』

果南「正直に、そう答えたんだ」

『1本、いや3本だけタバコを分けてくれませんか?』

果南「間髪入れずにおじさんはそう言ってきた。最初は1本って言ったのに3本って言い直すあたり、ちょっと欲張りに感じて、それがおかしくって、少し気持ちが楽になったのを覚えてる」

果南「おじさんの言葉を聞いて、私は買い物袋からカートンで買ってたタバコのうち、1箱を取り出して、ビニールと中の銀紙を取って渡した」

果南「おじさんは少し顔を綻ばせて私からタバコの箱を受け取ると、そこからきっちりタバコ3本だけ抜き取って、私に返してくれたんだ」

『ありがとう』

果南「タバコを受け取ったおじさんは少し嬉しそうに言った。もうこの時は、不思議と怖さは感じてなかったかな。ちょっと良いことしたかなって、逆に嬉しさすらあったかも。そんな私に」

『これは、タバコのお礼です』

果南「って、おじさんはおもむろにグーに握った手を差し出してきた。ほとんど無意識で私はおじさんの手の下へ、自分の手を差し出した。それを確認すると、おじさんはゆっくり握ってた手の平を広げた」

果南「おじさんの手から落ちてきたのは、お金だった。だいたいが5円とか10円だったけど、ちらほらと100円とか500円とかも混ざってるのが見えた」

果南「どう考えても、そのお金でタバコ1箱くらいなら軽く買えちゃう金額だったよ」

果南『こ、こんなに受け取れないです!』

果南「手の平に落ちてきた小銭から顔を上げて、私は前を向いてそう言ったんだけど」

果南「もうそこにおじさんはいなかった」

果南「うん、どう考えてもおかしいんだよね。あの海岸沿いの道って結構見通しが利くの、みんなも知ってるでしょ? なのに、手の平のお金に少し気を取られてる間に、おじさんは跡形もなく、いなくなっちゃった」

果南「今思えば、路面が濡れてるのに足跡もしなかったね」

果南「暫く呆気に取られてたけど、少しして『ああ、あの人は幽霊だったのかな』なんて思った」

果南「けど手の中にはあのおじさんから受け取ったお金が、確かに残ってる。幽霊にしたらちょっとおかしいのかなって思った」

果南「それに幽霊だったにしては、あんまり怖さを感じない体験だよね?」

果南「だから結局、あのおじさんはタバコの妖精だったんじゃないかなって、思ってるんだ」

果南「今でもね、雨の日に黄色い傘を見ると思い出すんだ。あのおじさんのこと」

果南「今でも、ひとつだけ気になってることがあってさ。おじさん、ライター持ってたのかなって。まあ、持ってたのかもしれないけど」

果南「だから次に会った時のために、雨の日はライターをポケットに忍ばせたりしてる」

果南「最後に。あの時におじさんにもらったお金はなんだけど、なんだか使う気になれなくて、まだ持ったままなんだ」

果南「私のお話は、これでおしまい」

果南のお話、終わりです。
このシリーズはAqours全員分続く予定です。


以前書いた作品

ルビィ「私、本当は『悪い子』なんです」
千歌「Aqoursのみんなにドッキリをするよ!」
ダイヤ「夕暮れ、千歌さんとふたり」
千歌「果南ちゃん、私たち、別れよっか」
曜「梨子ちゃんの制服...」
梨子「寝取られた!!」

ありがとうございました。

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