「たとえ何気ない生活だとしても」 (12)



この物語はフィクションです。

実在の人物、団体などとは一切関係ありません。



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私の手から滴る液体が、絨毯に染みを作る。

辺りに人の気配は無く、部屋は真っ暗だった。


……気分が悪い。

なぜ、私はこんな気持ちになっているのか。

第三者が聞いても、恐らく理解を得られないだろうと思う。

家族の「笑顔」を見てこうなったと言っても。



私は家族と生計を同一にしている。

……家族と顔を合わせると、私は何時も心の中で毒を吐いた。

家族は「金が無い」と言う割に、ギャンブルや嗜好品に対して躊躇いなく金を使うのだ。

今も私の目の前で煙草を吹かしていて、煙が部屋に充満している。


………。

昔はよく会話をして笑っていた筈なのに。

今は彼等が生きている事を疎ましく思っている。



家が貧しくなった切っ掛けは、父が勤めていた会社のリストラだった。

それだけなら何も不味い事は無かった。それだけならば。

父はその日を境に、博打と酒に明け暮れる様になったのだ。

……大分減ったが、その時に作った借金は今も残っている。



……何時だったろうか。

だらしなく生活する父を揶揄した時があった。

怒った父に「お前にそんな事を言われる筋合いなんか無い!」と言われた。

私はそれ以降、父と会話を長く交わす事は二度と無かった。

何を喋っても無駄だと思ったからだろう。

現に私は今もそう思っている。



荒れた父とは異なり、母は何時も通りだった。

父の衣類と食事を用意し終えると、自分の趣味に没頭する毎日。

元々他人に対して興味が無かったのか、私が話しかけても素っ気ない返事ばかりだった。

家族以外には良い顔を見せていたが……アレは何だったのだろう。

……私の中にある母の記憶はそんなものばかりだ。



そういえば、兄弟について思う事もあった。


兄は若い頃、祖母の家に居た。

「身体が弱かったからだ」と誰かから聞いたのを覚えている。

……兄は私が大きくなってから、私達の元へ戻って来た。


まだ学生だった兄は、学校へ行かず、髪を金色に染めたりと不良の真似事ばかりをしていた。

かなりの年月が経った今でも、それは変わっていない。

兄は父が荒んだ時には好き放題。かなりの金を父と共に浪費した。

そして今も金を食い潰すばかりで、働いてなどいない。

借金取りの催促が家にかかってくる事に煩わしさも感じる。



……。

家族は何故居るんだろう。

どうして私の家族は普通では無いのだろう。

疲れた。

私はもう何も考えたくない。



――次のニュースです。

○×県警捜査1課とマツバ署は19日、家族を殺害したとして会社員の男(27)を逮捕しました。

逮捕容疑は17日、午前3時頃の○×市内にある自宅で鋭利な刃物を使い、両親と兄の首や腹を刺して殺害したとされています。

県警によると男は18日の夕方、○×県警に「人を殺した」と自首。その後、連絡を受けて現場に駆け付けたマツバ署員が遺体を発見しました

男には精神疾患があるといい、県警は刑事責任能力の有無を含めて、現在詳しい経緯を調べています。

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