十時愛梨「寒いです……」 (9)
「……」
「……」
「…………」
「…………えっと、愛梨」
「ん……あっ、プロデューサーさんっ。上がったんですね!」
「うん。いい湯だったよ」
「シャンプーとボディーソープ、どうでした?」
「どっちも良かったよ。髪にも肌にも馴染んで。ああいう甘い香りのするものはあまり買ったりしないんだけど、あれはなかなかハマりそう。流石は愛梨のおすすめだね」
「えへへ……喜んでもらえてよかったです!」
「愛梨が嬉しそうで何より。……なんだけど、えっと」
「? なんですか?」
「それ。愛梨のその格好は……その、なんなのかな」
「私の格好、ですか?」
「そう」
「格好……私の、どんな?」
「どんなって……その、見たままというか」
「見たまま?」
「見たまま」
「……」
「……」
「…………プロデューサーさん」
「ん?」
「目、逸らしちゃ嫌です。私のこと、ちゃんと見てください」
「……いや、それはちょっと」
「むー」
「唸られても。……ほら、やり場に困るというか」
「何も困ることありません。まっすぐ全部、私のこと見てくださいっ」
「えー……」
「……」
「……」
「……ぶぅ」
「もう、そんな膨れないで」
「プロデューサーさんが私のこと見てくれないんですもん……」
「見てくれない、というか……だって」
「……だって?」
「愛梨、裸だし」
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「……」
「……」
「……裸じゃないですもんっ」
「いや」
「ちゃんとほら、こうしてタオル着けてますっ!」
「それは確かにそうだけど……巻くわけでもなく掛けてるだけというか。引っ掛かって落ちずにいるだけ、というか」
「しっかり隠してるじゃないですかー」
「隠れてないよ……。それじゃあほとんど裸と一緒だよ……」
「むー……」
「……ううん……脱ぎたがりも最近は改善してきてたと思ったんだけどな……」
「直さなくちゃ、って頑張ってますから。……でも」
「でも?」
「プロデューサーさんと二人きりの時なら、脱いじゃってもいいかなーって」
「良くないと思うなぁ」
「駄目なんですか?」
「駄目なの。危ないでしょ」
「危ない、んですか?」
「危ないの」
「そっかぁ……えへへ……危ない、んですね……」
「……ごめん、今のは失言。嘘だから。だからほら脱がないで」
「大丈夫ですよぉ、脱いだりなんてしてませんー」
「いや嘘だよね? 何か落ちた音したし。脱いだというか取っちゃったよね?」
「脱いでませんー。……ほーら、直接見て確かめてみてくださいよー」
「……」
「……」
「……むぅ。そっぽ向いてだんまりは酷いですよー」
「いや、そう言われても……」
「むー……仕方ないですねー……。プロデューサーさん」
「うん?」
「ちょっと待ってくださいね。……ん」
「……」
「……と。……はい、どうぞー」
「……どうぞ、って?」
「こっち、見てください。もうちゃんとタオル巻いてますから。大丈夫です」
「本当?」
「本当ですー!」
「なら……と」
「えへへ、やっと見てもらえました……。ほら、ちゃーんと巻いてます!」
「うん、そうだね。……これはこれで大分よろしくないんだけども」
「駄目です?」
「というかそもそも僕が目を逸らしたのはその格好からな訳で」
「……」
「うん、もういいから。逸らしたりしないから。だからほら、無言で膨れるのはやめて」
「……もうそっぽ向きませんか?」
「向かないよ」
「えへへ……はい、それなら大丈夫ですっ。膨れた愛梨は終わりにしますっ」
「ありがとう。……とまあ、それじゃあそれはいいとして。愛梨」
「?」
「それは?」
「それ?」
「それ。……ほら、両手を広げて何をしてるのかなって」
「何って……ハグ、ですよ?」
「いや、そんな疑問顔で首を傾げられても」
「ハグ……駄目なんですか……?」
「駄目というか……今は格好もそんなだし、僕もお風呂上がりで薄着だし……」
「いいじゃないですかぁ」
「良くないかなぁ」
「む、ぶーぶー」
「膨れた愛梨は終わったんじゃなかったの?」
「プロデューサーさんが意地悪なのがいけないんですもんー……」
「意地悪って」
「むーうー」
「もう……」
「……でも、してくれないと……私……」
「?」
「プロデューサーさんがハグしてくれないと、私、死んじゃいます……」
「いやいや」
「死んじゃうんですっ。寒くて、駄目になっちゃうんですっ!」
「寒くて……まあうん、お風呂上がってからずっとその格好ならそうなるよね」
「です!」
「服着ようか」
「嫌です!」
「暖房点けるね」
「駄目です!」
「布団なら敷いてあるよ?」
「違いますっ! はぐっ! プロデューサーさんとぎゅーってするんですっ! そのためにずっと、このままの格好で待ってたんですから!」
「そのため?」
「です! ……ほら、お風呂上がりは暑いじゃないですか。だから脱いで過ごすじゃないですか」
「んー……うん。まあ、うん」
「でもずっとそのままでいるとだんだん身体が冷えちゃうじゃないですか」
「うん」
「そろそろ寒いなぁ、ってなった頃にプロデューサーさんがお風呂を上がって。そのときプロデューサーさんは温かくてぽかぽかになってるじゃないですか」
「そうだね」
「私がプロデューサーさんをぎゅーってすればぽかぽかで気持ちよくなれて、プロデューサーさんが私をぎゅーってしてくれればひんやりして気持ちよくなってもらえて。二人ともとーっても気持ちなって、すっごくすっごく幸せになれるじゃないですか。ハグするしかないじゃないですかっ」
「そうかなぁ」
「そうなんですっ!」
「そっか」
「はい! ……なので、ほらっ」
「ハグ?」
「ですっ」
「んー……」
「……」
「……」
「……」
「…………」
「…………むーうー!」
「っと、ごめんごめん。待っててくれてるのが可愛くて」
「酷いですー」
「謝るから許してよ、ね?」
「うー……悲しかったし寂しかったし、とってもとっても寒かったです……」
「ほーら、そんな泣きそうな顔しないで」
「はーぐー……プロデューサーさんとぎゅー……ちゅー……」
「何か増えたね」
「ほっぺにでいいですからー……」
「ううん……まあ、ん。……じゃあ」
「んっ」
「これでいい?」
「……えへへ。はいー……」
「風邪引いちゃうから、少ししたらちゃんと暖まってね。服着て、布団入って」
「……服、着させてくれますか?」
「えー」
「うー」
「僕がしてあげないと駄目?」
「プロデューサーさんにしてもらえないと嫌です……」
「愛梨は甘えん坊だなぁ」
「甘えん坊な愛梨は嫌いですか?」
「嫌いじゃないし、嫌いになったりもしないけどさ」
「えへへ……」
「ん」
「……プロデューサーさん」
「?」
「プロデューサーさんは意地悪です。とっても酷くてとってもずるくて、とっても意地悪。でも」
「でも?」
「大好きです。嫌いじゃありません。嫌いになんてなれません。プロデューサーさんのこと、とってもとーっても大好きですっ!」
「……ん、ありがとう」
「はいっ。……だから」
「うん?」
「いっぱい暖めてくださいね。いっぱいぎゅーって抱き締めて……服を着せて、お布団にも一緒に入って……いっぱい、私のこと……」
「……本当、甘えん坊になっちゃって」
「えへへ……これがプロデューサーさんが育ててくれた愛梨、ですからっ」
「僕のせいかぁ」
「はいっ。プロデューサーさんのおかげ、です」
「なら責任は取らないと、かな」
「取ってくれるんですか?」
「愛梨が嫌じゃないのなら」
「……嫌なわけないじゃないですかぁ」
「そう?」
「です」
「そっか」
「はいっ。……えへへ、だから」
「ん」
「責任、取ってくださいね。ずっとずうっと私の傍にいて……もっともーっといつまでも……私のこと、大好きでいてほしいです……」
以上になります。
十時愛梨「脱ぎたくないです……」
十時愛梨「脱ぎたくないです……」 - SSまとめ速報
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前に書いたものなど。よろしければ。
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