鞠莉「空も飛べるはず」 (21)
千歌「鞠莉ちゃん! ねぇ、鞠莉ちゃん!?」
それは突然起こった。
鞠莉ちゃんが練習中に高熱を出して急に倒れたのだ。
果南「えっ…鞠莉!?」
鞠莉「か…なん…?」
果南「鞠莉は最近無理し過ぎだよ!理事長の仕事で忙しいんだからしっかり帰って休んで!」
ダイヤ「梨子さんが電話してお母さんにお迎えに来てもらいましたわよ!」
鞠莉母「鞠莉! 帰るわよ!」
果南「39度8分って…心配だね」
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梨子「遅れてごめんなさい! 大変なの!」
7人「梨子(ちゃん)どうしたの!?」
梨子「鞠莉ちゃんが…! 鞠莉ちゃんが!」
千歌「一回落ち着こ? 深呼吸して!」
梨子「すぅ〜、はぁ〜。鞠莉ちゃんが入院しました」
時が一瞬止まった気がした。
鞠莉ちゃんが、入院した。
そんな、高熱が相当深刻なものだったなんて…。
千歌「今日、練習は中止ね。みんなでお見舞いに行こう!」
梨子「病院の場所はここね」
千歌「鞠莉ちゃん…すごく心配だよ」
今日は練習を中止にして病院にお見舞いに来た。
鞠莉「あら、みんな?ごほっ、げほっ」
千歌「鞠莉ちゃん!無理しちゃダメだよ!お見舞いに来たよ」
鞠莉「まぁ!ありがとね!シャイニー☆ マリーは明後日帰るわよ!」
曜「ねぇ!入院って、そんなに深刻なの!?」
鞠莉「いいえ、大丈夫よ!小原家の財政状況から察して!」
果南「金持ちめ…」
鞠莉「あと病人がホテルのお客さんとひとつ屋根の下で寝るわけにはいかないじゃない!」
梨子「なるほど!だから自宅じゃなくて病院なんだね!心配したよ…」
鞠莉「ちなみにただの熱よ!」
ダイヤ「明後日帰れるんですのね!よかったですわ!」
花丸「私たちも今日は帰るずらね!お大事にずら!」
鞠莉「ありがとっ、ごほっ」
どうやら鞠莉ちゃんは普通の熱だったらしい。
39℃も出していながら「シャイニー☆」とは、なんて楽観的な人なのだろう。
~2日後~
鞠莉「シャイニー☆ マリーがいない間も練習サボらなかったでしょうねぇ?」
ダイヤ「当たり前ですわ!」
千歌「おかえり!鞠莉ちゃん!」
鞠莉「もう大丈夫よ!さぁ!練習しましょ!」
果南「そんなのダメ!」
鞠莉「果南?」
果南「昨日まで寝込んでた人が治っていきなり練習に参加なんて絶対認めないよ!今日は見学してなさい!」
鞠莉「果南…そうね! 参加したかったけど、今日は休んでるわ!」
善子「早く復帰できるといいわね!」
鞠莉ちゃんが退院して部活に帰ってきた。
さすがに病み上がりで練習する訳にはいかず、大事をとって今日明日は見学している。
鞠莉「チャオ〜☆ 今日から練習に参加するわよ!もぉ〜、楽しみで仕方なかったんだから!ビシバシ指導していくわよ!」
千歌「鞠莉ちゃん完全復帰だよ!」
果南「鞠莉!おかえりのハグ!」
鞠莉「もぉ! たった5日離れてただけでしょ?」
果南「あ!私とハグしたくないんだ!じゃあしなーい!」
鞠莉「あぁ果南!ハグ!」
果南「えへへ…あれ?」
鞠莉「えぇ〜いっ!胸もみもみ攻撃!」
果南「こら!鞠莉どこ触ってるの!練習やるよ!」
鞠莉「あら?練習に参加させなかったの誰だっけ?」
果南「もう元気でしょ!いつまでも甘えないの!」
ダイヤ「ふふっ」
ルビィ「お姉ちゃぁ?」
ダイヤ「もう鞠莉さん完全復活ですわね!」
それから8日後のお昼休み。
惨劇はまたやって来た。
曜「あれ?何で救急車がいるんだろう?」
千歌「また病人かな?多いね最近」
そのとき、教室のドアを勢いよく開けて梨子ちゃんが入ってきた。
梨子「はぁ、はぁ…」
千歌「梨子ちゃん!?」
曜「どうしたの!?」
梨子「あの救急車はルビィちゃんが呼んだの」
お昼は、いつも梨子ちゃんとルビィちゃんと鞠莉ちゃんの3人は部室で仲良く一緒に食べている。
梨子ちゃんと、ルビィちゃんと……
曜「……え」
千歌「……っ!! 嘘…やだ。信じたくないよ」
梨子「残念だけど、2人が察した通りよ」
千歌「鞠莉ちゃんに何があったの!?」
梨子「3人でいつも通りお昼食べてたら、急に心臓抑えて、大量に血を吐いて倒れたのよ!」
―――――――――――――――
ルビィ「梨子さん!今作ってる曲はどんな感じ?」
梨子「曲?どこぞのリーダーが歌詞をなかなかくれないから、作りようがないわ」
鞠莉「げほっ、げほっ」
梨子「!?鞠莉さん大丈夫ですか?」
鞠莉「がぁっ、う゛ぅぇっっっ」
ルビィ「鞠莉ちゃぁ!?」
鞠莉「お゛ぇぇぇぇぇっっっっ!!!」
梨子「えっ……えぇぇっ!?」
ルビィ「ピギャァァァァァァァ!!」
梨子「鞠莉さん!?」
ルビィ「ル、ルルルルビィきゅっきゅ救急車呼びます!!」
梨子「ルビィちゃんお願い!」
―――――――――――――――
果南「うわっ!ダイヤ窓の外!救急車だ…」
ダイヤ「…まさかね」
果南「ごちそうさま。もう私食欲無くなったよ」
ダイヤ「一口しか食べてないじゃありませんか。まだそうと決まった訳ではありませんし…」
果南「そう…だよね。そうだと信じたい」
ルビィ「大変!大変だよぉ!!」
ダイヤ「なんですのルビィ!まさか…」
ルビィ「果南さん!お姉ちゃぁ!鞠莉ちゃんが!!」
果南「もう…やだよ…」
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普通、宿泊客との隔離、小原家の事情だけでオハラグループではない病院に泊めてもらえるだろうか。
そんな違和感をうすうす感じていた。
梨子ちゃんの話を聞いて違和感の正体がわかった。
あのときの鞠莉ちゃんは、ただの高熱ではなかったのだ。
千歌「この間は随分と変な理由で入院してたよね」
果南「小原家の金とか、お客様に伝染さないようにとかね」
千歌「多分…いや絶対あれは嘘だよ」
果南「…うぅっ」
千歌「果南ちゃん?」
果南「…もうっ!鞠莉のバカ!あんの大馬鹿者!何でそんな大事なこと言わなかったの!あぁイライラする!!」
ダイヤ「まったくですわ!」
千歌「こんな状況で練習なんて出来ない。してる場合じゃないよ!またみんなでお見舞い行くよ!」
――――――――――
鞠莉「あら?ごめんなさいね!」
果南「…鞠莉」
鞠莉「ん?果南?もぉ〜何泣いてるんですか!うりゃうりゃ!」
果南「いい加減にしてよ」
鞠莉「えっ…果南?」
果南「うぅっ…何で、こんな大事なこと、ぐすっ、黙ってたの!」
鞠莉「…ごめんなさい」
千歌「ねぇ、鞠莉ちゃん。小原家の財産だとか、お客様に伝染さないようにとか、あれ嘘だよね」
鞠莉「…そうね。そんな訳ないじゃない。いつかみんなに言わなきゃいけないと思ってたの」
果南「やっぱり、何か隠してることあったんだね」
鞠莉「そうね。みんなには真剣に聞いてほしい。私、もう長くないの。」
鞠莉「もってあと1週間ってところかしら」
8人「えぇっ!?」
鞠莉ちゃんの病気が、まさかここまで重いものだとは誰も思わなかった。
残された寿命が、たった1週間しかないなんて…。
鞠莉「この間の高熱も、普通の熱じゃないわ。相当重い病気だったの」
千歌「…嘘でしょ?ねぇ!嘘って言ってよ!鞠莉ちゃん!嫌だよ!」
果南「うぅ…」
耳を疑うような鞠莉ちゃんの急な衝撃的な告白に、8人は言葉を失った。
鞠莉ちゃんが生きているうちに何かしてあげたい。
千歌「ねぇ、鞠莉ちゃん」
鞠莉「ん?」
千歌「何か、やりたいことある?」
鞠莉「私も参加して、最後に9人でステージをやりたい!」
千歌「そっか…みんなでやろう!鞠莉ちゃんのためのステージ」
果南「ダメだよ!危険な運動はしちゃダメ!」
鞠莉「最後の1曲だけでも?」
曜「お願い果南ちゃん!みんなでやろうよ!」
果南「…そうだよ。これは鞠莉の最後のステージになるかも知れない。鞠莉のために、やろうよ!」
鞠莉「みんな!ありがとう!」
病院は鞠莉ちゃんを外出させることを認めてくれなかったが、千歌の説得で一時的に認めてくれた。
千歌「これが最後のステージだなんて、信じられないよ」
梨子「千歌ちゃん…鞠莉ちゃん…」
鞠莉「みんな、私のためにステージを開いてくれてありがとね!」
千歌「最後に鞠莉ちゃんが楽しんでくれれば、私たちは嬉しいよ!…いくよ!Aqours!」
9人「サーン!シャイーン!!」
2日後、鞠莉の容態が急変した。
梨子「大変!鞠莉ちゃんが…!」
曜「鞠莉ちゃんに何かあったの!?」
梨子「鞠莉ちゃんの容態が急変したって、病院から連絡があって…」
果南「嘘…」
千歌「今日はお見舞いはみんなで行こう!」
ダイヤ「鞠莉さん!待っててくださいな!」
果南「鞠莉…!」
――――――――――
千歌「嘘…鞠莉ちゃん!?」
そこには、様々な機械に繋がれて、ガリガリに痩せ細った鞠莉ちゃんが横たわっていた。
鞠莉「み、んな…」
千歌「私、みんなと出会えてよかった。鞠莉ちゃんと出会えてよかった。これって奇跡だよ!」
鞠莉ちゃんと、Aqoursのみんなと出会った奇跡が、私のこの胸に溢れてる。
鞠莉「さいご…ずっ、と…わらって、いて、ほしい…」
千歌たちには笑顔でいて欲しい、悲しい顔はして欲しくない。と鞠莉はかすれた声で言った。
千歌「うん、わかった!今も、これからも、辛いことがあっても、悲しいことがあっても、私たちは笑顔でい続けるよ!」
鞠莉「きっ…と、今は、自由に、空も…飛べる、はず…」
梨子「…君と出会〜った奇跡は〜、この胸に溢れてる〜♪」
曜「梨子ちゃん?」
梨子ちゃんが急に歌を歌い始めた。
この曲は私たちも知っている。
8人「きっとい〜まは〜、自由に、空も飛べ〜るはず〜♪」
みんなも便乗して、やがて8人で合唱していた。
そのとき、鞠莉の目から涙が一粒ツーっと垂れた。
千歌「鞠莉ちゃん!?」
千歌が驚いて声を上げると同時に、鞠莉に繋がれた機械から音が鳴り響いた。
梨子「嘘でしょ…?ぐすっ」
花丸「鞠莉さん!?ねぇ!」
果南「鞠莉!?しっかりして!うぅぅ…」
ルビィ「うわああぁぁぁぁぁぁん!」
鞠莉ちゃんは、とても頑張った。
8人に見守られながら、安らかに、息を引き取った。
最期の鞠莉ちゃんの顔は、今までに無いくらいに幸せそうだった。
8人は、全員が泣いていた。
ごめんなさい。ずっとそばで笑っていて欲しいって言ってたのに、無理だったよ。
翌日、8人が浦の星女学院の部室に集まっている。集まったはいいが活動がままならないので、本日はお開きにすることにした。
千歌「さぁ、私たちも今日は帰ろっか!」
梨子「…待って!」
曜「梨子ちゃん?どうしたの?」
梨子「これ、鞠莉ちゃんのお母さんから!」
果南「何これ…お手紙だ!」
ダイヤ「私読みますわね!えっと…」
『シャイニー☆ みんな、ちゃんと練習してる?サボってないでしょうねぇ?みんながこれを読んでいるときには、マリーはもうこの世にいないかも知れません。きっと自由に空を飛んでいることでしょう。みんなにお願いがあります。私がいなくても絶対にAqoursは解散しないでください。8人でもAqoursはAqoursです。これを読んで泣いたら、涙が内浦のキレイな海に流れたら、今度は笑顔でいてください。きっとみんなも自由に空も飛べるはず。』
ダイヤ「うぅぅぅ…」
私たちは、何回泣いただろうか。
鞠莉ちゃんは今ごろ天国から私たちを見守っているだろうか。
千歌「…ねぇ!みんな!8人でもAqoursは解散しないよ!あれやろうよ!Aqours!集合!番号!1!」
曜「2!」
梨子「3!」
花丸「4!」
ルビィ「5!」
善子「6!」
ダイヤ「7!」
果南「8!」
鞠莉『9!』
千歌「Aqours!」
8人「サーン!シャイーン!」
…果南ちゃんの後の「9!」というコールが、確かに聞こえた。
ここに、Aqoursに、8人の心の中に鞠莉ちゃんは存在しているのだ。
ダイヤ「私、鞠莉さんの9が聞こえた気がしますわ!」
曜「私も!」
千歌「やっぱり、鞠莉ちゃんは私たちの心の中にいるんだよ!」
善子「私たちは、9人でAqoursだもんね!」
千歌「そうだね!鞠莉ちゃん!私たちのことを天国から見守っていてください!!」
花丸「きっと見守ってくれてるずら」
千歌「そうだね!さぁ、今日はこれで解散!じっくり休んで明日から練習始めるよ!いつまでも泣いてないよ!」
7人が家に帰ったあと、千歌家の前の海に寄った。
私たちの涙はここに流れていった。
さぁ、もういつまでも悲しんでないぞ!
鞠莉ちゃんに言われたんだ、ずっと笑っていて欲しいってね。
千歌は悲しみを押し殺し、笑顔で自分の家に帰った。
おわり。
鞠莉ちゃん、天国から私たちを見守っていてくれているかな。
私たち、鞠莉ちゃんの分まで精いっぱいがんばるよ。
サンシャイン2期が始まりましたね!
千歌ちゃんの最後の「いつまでも悲しんでないぞ!」というセリフ、似たような言葉が2期1話で出てきたときには鳥肌が立ちました。
【過去作】
果南「善子ちゃんがハグしてくれない」
果南「善子ちゃんとお泊まりパーティ!」
鞠莉「クイズ!マリオネア!」
こちらもぜひ読んでみて下さい。
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