【ガルパン】桂利奈ちゃんがラーメン屋を潰す話。 (25)

お世話になっております

また投下させて頂きます

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【とんかつ屋編】

座敷童子。

横浜の、とあるとんかつ屋。
その座敷席で、無愛想な少女は、そう呟いた。
少女は名を冷泉麻子という。
黒髪を腰まで伸ばした、どこか猫を彷彿とさせる眼をした少女である。

無愛想ではあるが、特段、機嫌が悪いという事もない。
彼女が無愛想な原因は大抵の場合、眠気のせいである。
不規則な生活のせいで朝が弱く、酷い日は昼も弱い。

しかし現在は既に夕刻。
流石に眠いという事は無さそうだが、目が覚めたからといって愛想を振り撒く訳でもない。
自然、普段通りの顔付きに落ち着いてしまう。
眠い顔が癖になってしまっているのだ。

麻子の対面に座った少女が自分の事を揶揄されたと思ったか、何ですって、と声を上げる。
こちらは園みどり子、略してそど子と呼ばれている。

麻子とは対照的に、髪をおかっぱに切り揃えた、毅然とした顔付きの少女。
今日はその髪を後ろでひとつに束ねている。

彼女は風紀委員で、遅刻魔である麻子を叱る立場にある。
しかし、仲が悪い訳ではないのだ。
彼女ら二人の言い争いは日常茶飯事で、それによって雰囲気が悪くなる事は殆ど無い。
同席の後藤モヨ子と金春希美も心得たもので、二人の声を気に留めるでもなく小鉢に盛られた煮付けの評論などに花を咲かせている。

違う違うと麻子が手を振り否定した。

「座敷童子って何だか分かるか、そど子」

言われてそど子は考え、着物を着ていておかっぱ頭で、と思い付く特徴を並べた。
それを聞いて麻子はまた、違うなと否定した。

「それが座敷童子の特徴なら、着物を着たおかっぱ頭の子供はみんな座敷童子になってしまうじゃないか。座敷童子を決定付けるのは性質だよ、そど子」

性質。
つまり、家に居着けばその家は栄え、離れればその家は没落するという座敷童子の性質。
それを聞いてそど子は思い至った。

「ああ、さっき店員さんがしていた話の事かしら」

先日オープンしたばかりの隣のラーメン屋が急遽、夕方からの営業を取り止め、尚且つ店を閉める事を決めた旨の貼り紙を出したという。
大洗の学園艦の横浜への寄港に備え、宣伝に力を入れていた店である。
学園艦の居住区にも、チラシが配られた。

学園艦の寄港は、陸から見れば街ひとつが向こうからやって来るようなもので、商売人にとっては大きな好機になる。
宣伝に力を入れるような店が、寄港日の晩に店を閉めるというのは確かに妙である。

「だからと言って、座敷童子がその店から出て行ったとでも言うの」

憶測だがそう外れてもいないだろうと、麻子は曖昧に答えた。
麻子から見える範囲にも、手掛かりはそこかしこにあったと言う。

座敷童子。
一説には、家主が怠けると家を離れるという。
だから真面目に働くべしという教訓めいた側面も持っているのだ。

では、件のラーメン屋はどうなのか。
宣伝に力を入れていたのだから、怠けた事にはならないのではないか。

「好みに合わなかったんだろう。座敷童子の、ただ好みに」

不思議な話ねと、相槌のように後藤が口を挟む。
確かに、まるで実際に座敷童子が存在しているかのような口振りである。
金春も頷いて同意を示す。

座敷童子は居なくとも、座敷童子の性質は存在すると、麻子は言った。
座敷童子を決定付ける性質が存在しているという意味では座敷童子は存在する、と。

「この世には不思議なことなど何もないぞ」

麻子はそう結び、冷めた茶の残りを不味そうに飲み干した。

【とんかつ屋編終了】

【ラーメン屋編】

横浜の、とあるラーメン屋。
そこの店主には、忘れられないラーメンがあった。

彼は苦心してそのラーメンの味の完全再現に成功し、横浜に店を開いた。
安くない金を払って宣伝し、テレビ番組を呼び芸能人にラーメンを褒めさせた。
宣伝の効果は絶大で、オープンから早一週間、行列が途絶える事は無い。

そして今日は正念場。
ここ、横浜に大洗女子学園の学園艦が寄港する。

学園艦からの客はとにかく数が多く、一攫千金の好機となる。

大洗女子学園。
店主は詳しくは知らなかったが、それでも急に有名になった学校である事ぐらいは知っている。
戦車道に興味が無くとも、テレビを点けていれば耳に入る名前なのだ。
そこから口コミが広がれば、更なる集客が見込めると店主は踏んだ。

ここ横浜にも、横浜港を母港にしている聖グロリアーナ女学院の学園艦があるにはある。
しかし、聖グロの生徒はラーメンなどには縁の無いお嬢様ばかりだ。
対して大洗女子学園の生徒というのは、テレビで見る限りでもお嬢様学校という事は無さそうである。
大方の予想通り、昼の客は珍しく若い娘でごった返した。

そして現在、店主は昼の営業が終わり準備中の札を提げた店内で、昼に来た女学生二人組と話していた。

片方はツチヤ、もう片方の小さい方はサカグチと名乗った。
どちらもラーメン好きで、彼女らが行列に参加した事が生徒達の間に広まった結果というのが昼の盛況の理由らしかった。
店主は他の女学生達にも話を聞き、二人に声を掛け、こうして話す席を設けるに至る。

二人の女学生に小金を握らせ、このラーメン屋の評判を広めて貰おうという目論見であった。

しかし二人は苦い顔をしている。
それも無理からぬ事で、金を受け取り宣伝に加担するという行為に抵抗を感じているのだろうと店主は思った。
だがそれは些細な問題で、これは立派な商談であるという事を店主は熱心に説明した。
宣伝という行為は何も悪い事ではなく、商売の成功には必要不可欠なのだと。

しかし彼女達は苦い顔をしたままである。
痺れを切らした様にサカグチの方が口を開いた。

ここのラーメンは美味しくありませんでした、と。

金を受け取ろうとも、美味しくないラーメンを宣伝する事は無理であるという事らしかった。
ツチヤの方も、言っちゃったよという表情である。
瞬間、怒りが沸いたが、店主はそれを抑えて理由を訊いた。

サカグチはぽつりぽつりと理由を挙げて語り出す。
彼女の挙げた理由は全て、店主がこのラーメンの長所と捉えている箇所だった。
それはつまり、見方こそ違えどサカグチの舌の正確さを表している。

そして、店主が、あのラーメンを完璧に再現できていた事も。

ツチヤも歯切れは悪いが、似たような感想を持ったらしい。
言葉を選んでいる間にサカグチが直球を放ってしまった事に責任を感じている様だ。

不安はあった。
その不安を全て言い当てられたような錯覚を、店主は覚えた。

彼のラーメンは、所謂お袋の味である。
広義のお袋の味ではない。
お袋の味というものは、何も味噌汁や肉じゃがばかりではなく、家庭の数だけお袋が居て、お袋の数だけお袋の味があるのだ。
彼の家ではそれがラーメンだった。

母の作るラーメンを人生の節目節目に食べていた彼にとって、母のラーメンは世界一美味い食べ物となった。
その完全再現、それを宣伝文句とした。
しかし、不安もあった。

サカグチは、気に触ったらごめんなさいと前置きして、言った。
店主が考えまいとしていた事を、瞭然と。

「あなたのお母さんがあなたに作った時だけ、このラーメンは世界一美味しいラーメンになるんだと思います」

馬鹿正直である。

しかしサカグチの馬鹿正直に感謝しなくてはならない。
こんなに早く、ラーメンに対する馬鹿正直な感想を貰えたことを。

思えば宣伝を鵜呑みにした客や、出演料を受け取る芸能人が正当な評価をする訳もない。
宣伝効果が薄れた後は、恐らく客が遠のき、潰れるだけである。
このラーメンに、そんな末路を辿らせたくはないと店主は思う。

彼は非礼を詫び、オープンから一週間で店を畳む決意をする羽目になった。

【ラーメン屋編終了】

【ダージリン編】

ねえペコ、今度の寄港日に行ってみたいラーメン屋さんがあるのだけれど、一緒にどうかしら。

【ダージリン編終了】

おまけ

【河嶋桃編】

ヒンドゥー教の女神、カーリー。
手足が何本もあり、肌が青く、生首で作った首飾りをして、手にも生首を持った姿をしている。
腰に巻いている簑のようなものも、よく見ると一本一本が人の腕だ。
そのカーリーが、夫のシヴァの腹の上で踊る場面を描いた絵がある。
見たことがある人も居るかも知れない。
カーリーの絵だと知らなくとも、酷く記憶に残る絵だ。

あの絵は、戦いに勝利したカーリーの喜びの舞踏のせいで大地が割れそうになったため、シヴァがその舞踏を腹で支えたという恐ろしいんだか面白いんだかよく分からない場面を描いたものだ。
まあ、そういった背景を知らなくともカーリーの姿のせいで恐ろしさばかりが先に立つ。
カーリーは、殺戮と破壊の象徴なのだ。

しかし、今回の話の主役はカーリーではない。

その絵の隅に描かれている狼のような獣、ジャッカル。
ジャッカルは、屍肉を喰らう獣として描かれる。
小動物などを捕らえて食べたりもするが、猛獣の食べ残しを漁る姿の方が人間の印象には残る。
殺戮と破壊の女神と共に描かれているのには、そうした理由がある。

ジャッカル。
漢字で書くと野干。
ジャッカルが生息していない中国では狐と混同され、日本には狐そのものとして伝わってしまった。

ジャッカルを指す野干という文字は、日本に伝わり狐となった。
やかん、と読む。

それで終わりではない。
今度は、荼枳尼天という神が野干の化身であるという解釈が生まれる。
これは荼枳尼天が狐を連れているためだが、この辺を詳しく話すとどんどんややこしくなるので割愛するぞ。

ともあれ荼枳尼天と野干という組合せは、やがて稲荷信仰と結び付く。

ご存知、お稲荷さん。
神の遣いの狐の像が鎮座し、油揚げを供えるあれだ。
厳密には稲荷神と狐は別物だが、現在では神社も狐も纏めてお稲荷さんと呼ぶのが普通になっているな。
狐の好物が油揚げというイメージはここから来ているし、いなり寿司の名前ももちろんここから来ている。

屍肉を喰らう獣から、お狐様への大出世だ。

私もな、昔はジャッカルと呼ばれていた。
不良だったんだ。

私は、荼枳尼天ならぬ会長の遣いとなった自分に野干を重ね合わせている。
ジャッカルから狐になれたんだ。
入学当初は生徒会の役員になるなんて思いもしなかったしな。
私の好物がいなり寿司なのはそのためだ。

という話を生徒会新聞に載せようとしたら柚子ちゃんに九割カットされた。
嘘は駄目だよ桃ちゃん、と言われました。

だから私の好きな食べ物はいなり寿司で、理由はおいしいからです。

【河嶋桃編】

以上です
お付き合いありがとうございました

乙です
ダー様w

ヴェルタースオリジナルな理由

乙ー

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