神谷奈緒「萌え萌えきゅんっ」ドア「ガチャ」 (14)

P「……」

奈緒「……」

P「……」

奈緒「……」

P「……失礼しましたー」

奈緒「ちょっ! 待って! 待ってって! Pさん! 今のは違うんだって!」


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P「まあ、うん、その……かわいかったぞ!」

奈緒「あ、ありがと……って、だから違うんだって!」

P「何が違うんだよ……」

奈緒「えーと、だから、だな……い、今のは、練習というか」

P「練習? そんな仕事、予定にないが……」

奈緒「し、仕事じゃなくて」

P「仕事じゃなく? ってことは……趣味?」

奈緒「しゅっ……み、と言えば、趣味……かも」

P「そうか。いい趣味だと思うぞ」

奈緒「その言い方、なんかむかつくな……趣味って言っても、アニメの方な。比奈さんトコで久しぶりに見て、それで」

P「やりたくなった、ってことか。……いや、やりたくなるか?」

奈緒「なったんだからしょうがないだろ。こんな感じだったよなー、とか、あと……」

P「あと?」

奈緒「あっ。……い、言いたくない」

P「どうしても?」

奈緒「……わ、笑わないなら」

P「笑わない」

奈緒「じゃ、じゃあ、言うぞ? その……か、かわいいかな、って」

P「かわいい! かわいいぞ! 奈緒! 最高! かわいい!」 

奈緒「だーっ! うーるーさーいーっ! だから言いたくなかったんだよー!」

P「『だから』って……つまり、俺が奈緒のことをかわいいと言うとわかっていた、ということか。うん、いい傾向だと思うぞ!」

奈緒「あー、もー! そういうのいいからー!」

P「そういうところもかわいい」

奈緒「だーかーらー! ……そ、それで、あのアニメを見て思ったんだけど、やっぱり楽器っていいよなーって」

P「話題の変え方が強引過ぎる」

奈緒「楽器っていいよなーって!」

P「はい」

奈緒「でも、実際やろうってなると難しそうだよな」

P「奈緒は……さっきのだと、ベースか?」

奈緒「ベース……ベースもかっこいいよなー。なんか、かっこいい」

P「かっこいいしか言ってないな」

奈緒「うるさい。で、ベースだけど、CDの時に凛も持ってたよな? アレもやっぱり似合ってたもんなー。ちょっと似てるし」

P「似てるとしても髪の長さくらいだろ……。あと、ウチにはもう未央がいるからな」

奈緒「未央も『萌え萌えきゅん』を……いや、未央なら普通にやりそうだな」

P「凛はやらないだろうな」

奈緒「うん。あたしもそう思う。ベースはなんか弾けてもおかしくなさそうだけど」

P「ちょこちょこ練習してるっぽいから弾けるかもな」

奈緒「練習してるの?」

P「撮影の時に『今は』フリだけみたいなこと言ってたからな。凛ならどうすると思う?」

奈緒「あー……凛なら練習してそう。というかしてる。うん、してるな、絶対」

P「だろ? 俺もよくは知らないが……また聞いてみてもいいかもしれない」

奈緒「でも、凛に教わるのはなー」

P「そりゃまたどうして? 普段のレッスンとかだと教え合ったりしてるだろ?」

奈緒「それはそうなんだけど……ほら、一応年上だし」

P「そんなこと気にしてるのか……」

奈緒「頼りっきりってのもさぁ……色々とお世話になってることもあるし」

P「頼りっきりってことはないと思うけどな。凛も奈緒に頼っていることは多いと思うよ」

奈緒「そうかー? 凛に頼られたことなんか全然ないと思うけど……」

P「それは奈緒が気付いていないだけだよ。俺だって奈緒にめちゃくちゃ頼ってるし」

奈緒「それは知ってる」

P「……そこは否定するところじゃないか? 格好がつかないんだが」

奈緒「いやー、だってPさん、結構あたしに頼ってくるし。情けないところもいっぱい見たからなー」

P「……否定できない」

奈緒「そのぶん、あたしもPさんのことは頼りにしてるけどね」

P「な、奈緒……俺も奈緒のこと、頼りにしてるぞ!」

奈緒「う、うん。……まっすぐ来られると、照れるな」

P「恥じらいの太眉乙女だしな!」

奈緒「な! ……その呼び方、Pさんにはあんまりされたくないんだけど」

P「奈緒って呼んでほしいって?」

奈緒「うん」

P「……このやり取り、なんかいいな」

奈緒「は?」

P「いや、そんな冷たい返ししないで……ほら、アニメとかマンガとかでもあるだろ? こういう感じの」

奈緒「こういう感じ……名前で読んでほしい、みたいなやつか?」

P「それそれ。ヒロインが主人公によく言う感じの」

奈緒「あー、確かに――って、だ、誰がヒロインだ!」

P「いや、ときめいたよ。名前で呼んでほしいって言われるの、嬉しいな……うん。これはかなりの萌えシチュエーションだ」

奈緒「も、萌えって……そ、そもそも、あたしは『うん』としか言ってないだろ? だから、そのシチュエーションとはちょっと違うんじゃないか?」

P「じゃあ『名前で呼んで』って言ってくれ」

奈緒「ああ、わかっ――どうしてそうなるんだよ!」

P「ダメか」

奈緒「ダメ。……もー、Pさんって、なんであたしのことをいじるかな」

P「……そこまで嫌なんだったら、もうしないよ」

奈緒「……そこまでじゃないけど」

P「ってことは、嫌は嫌、か?」

奈緒「……じゃない」

P「え?」

奈緒「……嫌じゃないって言ったんだよ。Pさんは、あたしが本当に嫌がるようなこと、しないだろ。確かに、恥ずかしいことには恥ずかしいけど……」

P「奈緒……」

奈緒「だから、Pさんはいつも通りでいてくれ。そっちの方が……あたしも、嬉しいし」

P「……」

奈緒「な、何か言えよ」

P「……奈緒、ありがとう」

奈緒「ど、どういたしまして」

P「それで早速お願いなんだが、俺が入ってきた時にやってた『萌え萌えきゅん』、今度はきちんとメイド服着てやってみないか? 大丈夫。衣装は俺が用意する。撮影機材もだ。最高の『萌え萌えきゅん』、期待してるぞ!」

奈緒「Pさんのバカ! そんなのやるか!」

P「え……でも、嫌じゃないって」

奈緒「限度がある! ……いや、まあ、これはどっちかって言うと、大丈夫な方だけど」

P「大丈夫なのか! よし!」

奈緒「いや! そういう意味じゃなく……あーっ、もーっ! 誰か助けてー!」






――

奈緒「萌え萌えきゅんっ♪」

P「最高」

カメラ「カシャ」

ドア「ガチャ」

加蓮「……」

P「あ」

奈緒「……か、加蓮、えっと、これは、だな」

スマホ「カシャ」

加蓮「あ、もしもし凛? めちゃくちゃかわいい写真が撮れたんだけど――」

奈緒「待てえええええええええええええ!」





終わりです。ありがとうございました。

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