伊織「裏原神」 (16)




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伊織「えー空席以外は見事! 満員御礼と言う事で、心から御礼申し上げます」

伊織「どうか1万字程の落語、御辛抱頂きお聞き下さいませ」

伊織「偽りのある世なりけり神無月 貧乏神は身をも離れず、と言う狂歌がございまして」

伊織「だからなんだと言うわけではないですが、こうして唄なぞ並べると落語も少し恰好もつくってな物です」

伊織「この一説が流れますと落語に精通されている方ですと「お、死神だね?」とお思いでしょうが」

伊織「まだまだマクラでございます、枕元の死神は縁起が悪うございますから、どうか本題まではもう暫く御辛抱をお願い申し上げます」


伊織「いやいや、寝てくださいと言っているわけじゃあありませんよ?」

伊織「釈迦に説法になるかもしれませんが、落語で言うマクラと言うのは落語本題に入るまでの導入の事をさしまして」

伊織「落語本題に負けず様々なマクラが存在しております、中には寄席にはマクラが楽しみで来てるんだよ、なんて方もいるようです」

伊織「寄席に枕持ち出して寝るなんて方はいらっしゃらないですが、寄席の座椅子は実に堅くてそりたってございます」

伊織「それはそれは、マクラ高くして眠れる事でしょう」


伊織「…………」


伊織「まぁまぁ、無駄話はこのへんにしまして、出来れば起きているうちに落語なんてものは聞いて頂きたいものですな」


伊織「さて、日本には八百万の神といいまして、実に様々な神様がいらっしゃいます」

伊織「最近ですと、何か偉業を達成した物事に対し「神」と呼ぶ風潮があるようでして」

伊織「いやぁ、今日のあの人のパフォーマンスは神ってたよ~」

伊織「などと、どこを見ても神様だらけ、最早ありがたがるようなものではないのかもしれませんな」

伊織「方々にある神社仏閣と言うのの有名所だけ知られるようになり」

伊織「若い方々、特に上京し、故郷を遠くに残してきた方々にとっては「お参り」なんて言う行事は行わなくなって久しいのかもしれません」

伊織「ですので、もしかしたらですが、祈る対象を自分の近くに作っているのかもしれませんな」





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伊織「祈る、と言えばこの前、私共の仲間である春香がこんな事を言ってましたね」

伊織「いやぁ、久々に神様に祈ったよ」

伊織「へぇアンタにしては感心な事だね、しかし、そんな信心深い性質だったかい?」

伊織「朝から何か悪い物食べちゃったみたいでね」

伊織「ほうほうそれで」

伊織「もうトイレの中で「神様許して下さい! 許して下さい!!」って祈りっぱなし」

伊織「何だい、都合の良い神様があったものだね、腹痛を抑える神様なんているもんかね?」

伊織「コレが本当のトイレの神様だね!」

伊織「だなんてね、煩いのよ! って一括してやりましたよ私は」

伊織「トイレ~には~黄色い箱に入った~ラッパのマークの神様が~いるん~やで~~♪ なんて歌ってましてね」

伊織「ハリセンがあったならば首の骨折れる勢いでぶっ叩く所ですよ、本当調子の良いものです全く」


伊織「さておき、世の中には人、と言う存在でありながら神様扱いされる人もいますね」

伊織「現人神と呼ばれるほど大したものではありませんが」

伊織「何か、その道で大きな成功を収めた人の事を職業の名前を冠につけて○○神と呼ぶそうです」

伊織「え~~例えば、アイドル神なんてね、私の事なんですけども」

伊織「あっはっはっはっはっは」




伊織「いや、笑う所じゃあありませんよ?」







伊織「さて今回のお話はこんな神様のお話です」

伊織「その前に、話の中に【→】【←】と書いてありますが、これはまぁ私の首の動きと思ってくださいな」

伊織「会話を解り易くするための工夫ってやつですな」

伊織「えー……ある所に、壊滅的にファッションのセンスの悪い真と言う者がおりまして」

伊織「この真のファッションの事で今日も連れ合いの雪歩と口論になっておりました」



伊織『もう! 何度いったらその恰好やめてくれるの!!??』→

伊織『いや、そんな事言ったって好きなんだものこの恰好が』←

伊織『そんな! フリフリピンクのワンピースなんて着ちゃって! 女の子みたいじゃない!』→

伊織『いや、ボクは女の子のつもりなんだけどね!? 生まれてこの方一分一秒違わずね!?』←

伊織『そんな事はいいから、ほら、早く、この細身のチノパンとボタンシャツにベストに着替えて!!』→

伊織『イヤだよ、ボクは今日はこのフリフリのワンピースだって決めたんだっ!』←

伊織『あのね・・・・・・言っとくけどね』→

伊織『何だいたっぷりの溜めまで作って』←


伊織『ひとっつも似合ってないからね!!!!』→


伊織『っっっっ』←

伊織『人にはその人に似あった格好って言うのが』→

伊織『何だよ! そんなにやいのやいのやいの責め立てなくても良いじゃないか! ボクはね! こういう格好が好きなんだよ!』←

伊織『それだったらね! まだ豆腐着てた方が似合うよ!!』→

伊織『豆腐ぅ!? 豆腐を着る!? 物を言うんだってもうちょっとありそうじゃあないか!』←

伊織『頭にかつぶし! 肩にネギでも乗っけて出掛けた方がよっぽどいい!!』→

伊織『言ったね!!?? もう嫌だ!! こんな家出てってやる!!!!』←


伊織「ピシャリッ! と言った具合に飛び出してしまいました」

伊織「当ても無く街を彷徨っておりますと、見たことも無い路地を見つけます」



伊織『…………こんな所に路地があったかね? くさくさした気持ちを晴らしてくれる出店でもあるかもしれない、どれ入ってみようか』←






伊織「路地をどんどんと進んでいきますと寂びれた服飾店が並んでいます」

伊織『うぅ……気味悪い所に入っちゃったなぁ……』←

伊織「かつては活気があったのでしょうが、空き店舗が目立つ路地は人気もまばら、活気なんてものは一つもありゃしません」

伊織「落ち込んでいた気分の時にこんな路地に入り込んじゃったもんだから、先ほどの事も思い浮かびます」


伊織『それにしても……』 ←

伊織『……この恰好、そんなにダメかね』 ←

伊織『……何もあんなに言わなくてもいいじゃないか』 ←

伊織『いっそもう、ロリータとか……むしろドレスとか着て街中歩いちゃおうかしら』 ←

伊織『そうだよ……』 ←

伊織『開き直っちゃった方がむしろ楽かもしれないね!!』 ←

伊織『そうだよそうだよ! 周りがなんて言ったっていいじゃないか!!』 ←

伊織『服が変われば顔も変わるって言うし! よしよし、やってやろう!!』 ←


伊織『およしな』 →


伊織『!?』 ←

伊織『よしなって言ってんだよ』 →

伊織『だ、誰だい!?』 ←

伊織『コッチだよコッチ、俺だよ』 →

伊織『き、聞いてたのかい!? 今のボクの』 ←

伊織『聞いてたよ、ロリータファッション何てよしな、オメェには似合わねぇ』 →

伊織『……っっ、しょ、初対面の人に失礼じゃあないか! 誰だいアナタは!!』 ←

伊織『俺かい? まぁ若いオメェだ、分からないのも無理はねぇ』 →

伊織『それでも、今からそうだな……十四、五年前だったら俺の顔を知らねぇ者はいねぇとまで言われたもんだ』 →

伊織『い、いや、それで、アナタは一体誰なんだい?』 ←


伊織『俺はな? 裏原神だよ』 →


伊織『うらはらがみ?』 ←






伊織「そう言った齢は四十前と言った風貌の男、迷彩のゴリラがプリントされたダボッとしたトレーナーにこれまた腰まで下げたダボッとしたカーゴパンツにキャップといった出で立ち」


伊織『そ、その裏原神がボクに何の用事さ』 ←

伊織『オメェね、恰好はみっともねぇが、素材は光る物がある』 →

伊織『はぁ?』 ←

伊織『オメェ、この裏路地から天下をとらねぇか?』 →

伊織『突然出てきて何を言ってるのか、ボクにはさっぱりわからないんだがね』 ←

伊織『オメェを現代のファッションリーダーにしてやろうって言うんだよ』 →

伊織『……知ってて言ってるのかわからないけど、ボクは今まで一度だって自分のファッションで褒められた事は無いんだ』 ←

伊織『そりゃあオメェが考えて、オメェが着る物を選んでるからだ』 →

伊織『いや!! そりゃあ……そう……かもしれないけど……さ』 ←

伊織『いいか? 一度しか言わねェぞ? 今から俺が呪文を教えてやる』 →

伊織『呪文?』 ←

伊織『この呪文を唱えるとオメェはオメェがそりゃあ似合う格好になれる、それで少しここで待っててみろ、すぐに声がかかるぞ』 →

伊織『そんな事……あるわけが……』 ←

伊織『ああ、それとな、一つ約束をしろ』 →

伊織『何も起っちゃあいないのに約束しろったって……』 ←

伊織『簡単な事だ、今後、オメェはココを通る時は今から言う呪文を言ってから通る事、コレを違えちゃならねぇよ』 →

伊織『呪文によってオメェは恰好が変わる、この裏原宿を通る時は絶対にその恰好じゃなきゃいけない』 →

伊織『簡単な約束だ、守れるな?』 →

伊織『具合次第っていった所かね……で? その呪文ってのは』 ←

伊織『慌てるな慌てるな、いいか? 一度しか言わねぇぞ? 聞き逃すなよ?』 →

伊織『わかったから、与太話に付き合うのも大概にしたいんだよこっちは』 ←


伊織『エイプリボルバーバウンティーハンターガルニソフネットドゥアラット!! これで手を二回叩く』 →


伊織『何だいそりゃあ』 ←

伊織『いいからやってみな』 →

伊織『え? え? えっと、エイプリボルバーバウンティーハンターガルニソフネットドゥアラット!! ポンポン』 ←

伊織『と、コレでいいの? ってアレ!? 裏原神!? …………なんだい消えちゃったよ』 ←

伊織『…………気の迷いが生んだ亡霊か何かだったのかね……ってうわ!? 何だこの恰好!!??』 ←






伊織「気づいてみると真の恰好が先ほどのフリフリワンピースから一転、所謂ストリート系と呼ばれるダボッとした一式に変えられておりました」


伊織『うわ、なんて言うか一昔前の恰好と言うか……』 ←

伊織『君! 良いね!!』 →

伊織『へ? は? ボク? 何ですかアナタ』 ←

伊織『いや、この時代! あえての外しのファッション! 凄いよ! 凄く似合ってるよキミぃ!!』 →

伊織『え? ボクの? このファッションが?』 ←

伊織『こういう雑誌の者なんだけど、良ければ何枚か良いかな?』 →


伊織「突然現れたこの男、聞けばファッション雑誌のスカウトの人間との事」

伊織「普段ファッションの事で散々の真だったので、この声かけには効果覿面」


伊織『いいねぇ、目線こっちにくれる?』 →

伊織『こ、こうですか?』 ←

伊織『いやいいねぇ! 素材が良いから服も輝いて見えるよ!』 →

伊織『え、ええ~? そ、そうですかぁ?』 ←


伊織「満更でもない所の話じゃあないですよ、何せそんな事言われるのは、真としては生まれて初めての経験ですから」


伊織『もう一枚良い?』 →

伊織『何枚でも』 ←


伊織「終いには「この角度の方が良いですかね?」なんて自らポーズをとる始末、大変良い心持になっておりました」






伊織『じゃあ、来週号には載せるから楽しみにしといてよ』 →

伊織『は、はい、よろしくお願いします』 ←

伊織『…………』 ←

伊織『……いや驚いたねぇ、どうも』 ←

伊織『ボク生まれてこの方、格好の事でこんなにもちやほやされた事あったかしら』 ←

伊織『裏原神、本物だよこりゃあ、とんでもない事だね……』 ←


伊織「さて、翌週になるってーとそこそこ名の売れている雑誌の片隅に真に姿があるってなもんで」

伊織「これには真も連れ合いの雪歩も大喜び、雪歩にいたっては「やっと自分のフィールドをわかってくれた」とさめざめと泣きだす始末」

伊織「裏原神の御見立通り、元は眉目秀麗容姿端麗の真でありますから?」

伊織「どんどんと人気が出てまいります」

伊織「普段の恰好は相変わらずですが、いざ裏原宿に入ったら例の呪文」

伊織「エイプリボルバーバウンティーハンターガルニソフネットドゥアラット!! とパンパンと手を叩くと」

伊織「そこには世紀のファッションリーダーのお出ましときたもんだ」

伊織「魚の青いのとファッションはとにかく足が速い」

伊織「1ページの4人の内の1人だったのが2人の内の1人、はてはまるまる1ページ自分のページとトントントーンと人気は急上昇」

伊織「自分のファッションのマネをするモノは出てくる、真が着ているメーカーの復刻版が売れに売れる大流行!」

伊織「真が雑誌の表紙を飾る頃には町中はどこを見ても真と同じ格好をするモノだらけ」

伊織「今や真、裏原神の再来だと言われるまでになりました」






伊織「人気が出るともてはやす人間が集まってまいります」

伊織『真ちゃん! 今度家の服も来てよ!』 →

伊織『真ちゃん! 今度のファッションショーの洋服なんだけど是非家のキャップをさ』 →

伊織『うんうん考えておくよ』 ←


伊織「何ていいましても、何せ真、洋服を買う必要が無い」

伊織「メイク室に入りまして「エイプリボルバーバウンティーハンターガルニソフネットドゥアラット!!」でポンポン!」

伊織「それだけでバッチリと真にピッタリの恰好になってしまいます」

伊織「それに裏原神との「この呪文以外の服を着るな」との決まりもございますから?」

伊織『ちょっとどこで買ったのさその服ぅ』 →

伊織「何て言われましても、馴染みの店で買ったなどと誤魔化しまして」

伊織「まぁまぁ上手い事やっておりました」


伊織「さてその頃になると、ひとたび真が裏原宿に入り例の呪文と柏手二つで現れりゃあ」

伊織「ヤンヤヤンヤの大喝采、黙っていてもチヤホヤはされるもてはやされる担ぎ上げられる!」

伊織「キャーこっち向いてーー!! キャーー握手してーー! キャーー抱きしめてーー!!」

伊織「まぁまぁ大変な騒ぎ」

伊織「こうなってくるってぇと、人間、勘違い、うぬぼれの一つ二つしてしまう物」

伊織「いままでさんざファッションのアドバイスをくれた雪歩に対しても」

伊織『雪歩にさファッションの何がわかるの?』 ←

伊織「この口ぶりです、これはいけない」






伊織「だんだんと自分の人気がテメェ自身の内から出てるもんだと勘違いしてきまして」

伊織「今の自分だったらどんな格好でも良いんじゃないだろうか? なんて考えてしまう」

伊織「少しくらいは良いかしらと、いつもの恰好に少し少女趣味なアクセサリを付け始めたりしまして」

伊織「最初の内はドキドキとしておりましたが、それもあえての「外し」と思われたのか評判は良かった」


伊織『なんだい……』 ←

伊織『言いつけを守らなくてもイケるじゃないかい、ええ?』 ←

伊織『そりゃあね、最初はあの裏原神のお陰だったかもしれないがね』 ←

伊織『こうなってくるとボクも捨てたもんじゃないって事じゃあないかい?』 ←

伊織『そうだよ、今までがむしろおかしかったのさ』 ←

伊織『もっと自分に自信を持って良かったんだよ、ボクって奴はさ』 ←


伊織「この考えが、いけなかった」

伊織「勘違いが助長されてしまい、止せば良いのに裏原神の言いつけをだんだんと破り始める」

伊織「最初はおとなしめのスカートを穿き始め、デニムのミニ、ついにはレースのついたスカートなんて穿き始めた日には」

伊織「周りからもだんだんと「外し過ぎ」なんて言われるようになりまして」

伊織「御承知の通り、青魚とファッションは足は速い物。だんだんだんだんと落ち目になっていきました」

伊織「雑誌の表紙を飾る程の人気も、同じような恰好をマネをし始めた人間に奪われて」

伊織「1人で1ページだったものが2人で1ページ、4人で1ページと言った具合に」

伊織「まるで巻き戻しのように人気はストーンと落ち込んでしまいました」


伊織「人間過ちを犯してしまっても、その過ちを自分の責にするのはなかなか難しい物で」

伊織「こんなはずでは無いと、何度も何度も自分の信じるファッションで街へ繰り出しますが」

伊織「まぁ上手くいくはずも無く、やがては見向きもされなくなります」






伊織「内心分かっていても、なかなか反省出来ないのが人間てぇもんですが」


伊織『真ちゃん、やっぱりその恰好は……』 →

伊織『雪歩、ボクはね? 一度は頂点に立った人間だよ、口は出さないで欲しいな』 ←

伊織『でも真ちゃんの人気は一昔前の裏原宿ファッションで培ったもので、今の真ちゃんの恰好は、その』 →

伊織『可愛いでしょ?』← 

伊織『……そうだね、でも、人にはその人の似合った格好が』 →

伊織『まだ言うのかい?』 ←

伊織『可愛い格好だって! もっと真ちゃんにあった可愛い格好があるって私は思うんだよ!!』 →

伊織『……大丈夫、今度のイベントは……次こそは自身があるんだ』 ←

伊織『……そうなの?』 →

伊織『大丈夫、大丈夫だよ……きっと、うん』 ←


伊織「そう言って出かけましたは、裏原宿のメイン通りをそのままファッションステージにしたと言う一大イベント」

伊織「この路地を復活した立役者と言う事もあり、真も呼ばれてはおりましたが、御承知も通り誰も期待はしておりませんでした」

伊織「ですが真、ここはグッと反省と我慢、メイク室に入ると例の呪文と柏手二つ」

伊織「エイプリボルバーバウンティーハンターガルニソフネットドゥアラット!! パンパーン!!」

伊織「気づけばこの恰好で出れば人気の復活間違いなしと言う格好になっておりました」







伊織『やっぱり、こういう格好が一番ボクに似合っているのかな』 ←


伊織『そうだよ、やっと気づいたかい』 →


伊織『っっ!? だ、誰!?』 ←

伊織『俺だよ、久しぶり』 →

伊織『アンタは! 裏原神!』 ←

伊織『まったくとんでもねぇ事をしてくれたもんだ』 →

伊織『とんでもねぇ事って御挨拶だな。いったいボクが何をしたって言うんだい』 ←

伊織『俺はな? オメェが盛り立てるこの街を見たかった、オメェだったら俺らの目指してきたあの裏原宿を復活させてくれると思ったからだ』 →

伊織『だから言われた通りにしたじゃあないか!』 ←

伊織『いいや、オメェは余計な欲をかいた、勝手な恰好をし始めたじゃあねぇか、隠しても無駄だよ全部見てたよ。だからこうなった。まがい物だよ、結局今のココは、俺達の頃の裏原宿じゃあねぇ』 →

伊織『おい、俺はな? オメェになら出来ると思ったんだ、オメェにはその可能性があった、だがダメだった、もう終わりだよ、オメェもあの頃の裏原もな』 →

伊織『い、いや、待っておくれよ、見てくれこの恰好! 今日のこの一台イベント、これにこの恰好で出ればさ』 ←

伊織『そうだな、またオメェは人気が出るのかもしれねぇ、そこでだ、ちょっとソコを見てみろよ』 →

伊織『ソコって……このハンガーラック?』 ←

伊織『そうだよ、そのハンガーラックを見ろってんだよ』 →

伊織『いや、もうボクは着替える必要は』 ←

伊織『いいから見てみろ、一つ試してぇ事があるんだよ、いいから、ほれ、ほれ、見てみろって』 →

伊織『わ、分かったよ! そう押さないでおくれよ! 分かったから!』 ←






伊織『今更ここにかかってる服を選んだところで、アンタの望む格好じゃあないんだろう? ボクはこの恰好でまたこの街のファッションリーダーに』 ←

伊織『そうじゃあねぇんだ、良く見てみろそのハンガーにかかってる服をよ』 →

伊織『…………おいおい驚いたね……なんだいこりゃあ?』 ←

伊織『いいだろ? オメェの目には一層キラキラに見えるだろ?』 →

伊織『かわいい……こんな……お姫様みたいな……』 ←

伊織『コレがオメェの本当にしたい恰好だろ?』 →

伊織『いや……そりゃあね? ボクはこういう格好は好きだよ? だけどもさ、だけでもさ……』 ←

伊織『もちろんこのままの恰好でも良い、その方がウケは良いだろう、だがな? 言ったろ? 試してぇって、どっちを選ぶんだい?』 →

伊織『い、いや、でもさ』 ←

伊織『出番の時間まであとちょっとだな?』 →


伊織『……』ゴクリッ ←


伊織『ほら、今なら着替えだって間に合うぞ? どうする?』 →

伊織『どうするったって……』 ←

伊織『ほら、今ならこのキラキラの御姫様ドレス、着れるよ』 →

伊織『……』 ←

伊織『ほら、間に合わなくなるぞ? 今だけだぞ? ほら?』 →

伊織『ボクが……お姫様に』 ←

伊織『ほら、着れる、着れるぞ? 今なら間に合う、着れる、着れるぞぉ?』 →

伊織『でも……』 ←

伊織『ほら早くしろ、着れる、着れる、着れるぞ? 今スグ着れる、着れるぞぉ? ほら間に合わなくなる』 →

伊織『そ、そんな煽らないでおくれよ、だってこの恰好で出たら』 ←

伊織『着れる、今だけだ? 最後のチャンスだぞ? 着れる、着れるぞ? ほら、着れる、着れるぞぉ?』 →


伊織『…………っっっっ!!』ガバッ ←


伊織『へっへっへ…………ほら着れたぁ~』 →






伊織『俺達のファッションリーダーに復活はあるのか!?』 →

伊織『登場して頂きましょう!』 →

伊織『真の登場だーー!!!!』 →



伊織『ワーーーーーーーーー!!!!』 →





伊織『はぁい! 真ちゃんなりよぉ~! キャピピピピピーーーーン!!!!』 ←





伊織『へっへっへ……どうやら【キレた】のは客の方だったようだな』 →


伊織『でもまぁ…………好きな服着てる方が、客の反応とは【うらはら】に良い顔してらぁな』 →





伊織「古典落語『死神』を現代版アレンジしました「裏原神」でございました、お聞きいただき、まことにありがとうございました」




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何だこれ。



落語でした。しかしどう考えても

改変し過ぎたぁ……っっ。

元の死神の要素が殆ど残っていません。
もし興味をもたれてしかも「死神」を知らないって方がいらっしゃったら是非見て下さい。
ブラックユーモアあふれる良い落語ですので。

あとどれだけ原作からズレてるかもわかりますので……。

ともあれ、書いてて凄く楽しかったです。

見て頂けた皆々様、厚く御礼申し上げます。



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